ミリモン   作:ブルーな雛菊

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強盗調達

「強盗は万全な準備と綿密な計画によってのみ実現される・・・」

聞き覚えのない言葉に首を傾げる一同の姿を見回してトワは「まぁ、知らないのも当然よね」と続けた。

 

「マイケル・タウンリー。かつて全米最重要指名手配犯と呼ばれた強盗犯の言葉よ」

 

今から10年以上前の話だ。厳重な警備システム、防弾防爆の加工が施された現金輸送車、際限なく駆けつける警察と重武装した私兵団。

当時、『銀行強盗』という犯罪はその他のモノとは一線を画するものだった。

 

チンケな窃盗や麻薬取引・・・勿論、それらも運が悪ければ交渉決裂し殺し合いになるかもしれない。情報が洩れて警察が駆けつけてくるかもしれない。規模に応じて相応のリスクは存在する。

逆に言えば身の丈にあった商いであればある程度はリスクを管理できるとも言える。

 

だが、銀行強盗だけは違う。事が起これば確実に警察に追い回される、殺し合いになる、運よくその場から逃げ延びても警察の引いた包囲網から逃れる事は叶わず行きつく先は檻の中か棺桶か・・・

得る物は大きいが支払う代償が大きすぎる。例えるならば腹をすかせた猛獣の檻の中へ丸腰で入り込む様なものだった。

 

「それでも欲に目を眩んだ者達は強盗に挑み、そして散って逝った。マイケルが有名なのは数少ない成功者って事」

その時代、その道に居た者なら誰しもがその名を耳にしたことがあるだろう。

それほど彼の名、そして為したことは当時の世界に震撼を与えた。

 

「その強盗は今はどうしてるぺこ?」

「今は棺桶の中ね」

 

当時を知っているアキ・ロゼがペコラの問いに答えた。

 

「彼の最後の仕事はノース・ヤンクトン州ルーデンドルフの銀行。彼の立てた計画、そして当日の状況も計算通りで完璧だった」

マイケル率いる強盗団は金庫を爆破し現金を強奪、警察と交戦しながら逃走用車両に乗り込んだ。

 

「想定外だったのは臨時で雇い入れた逃走専門のドライバーが予想よりも無能だったことかしら」

雪の積もる路面をチェーンを巻いたSUVが疾走する。後方には蟻の行列のように追いすがる警察車両。前方にはバリケードとスパイクベルト。

路面状況の悪い中、急激に切られたハンドル。踏み込まれたブレーキ。車はスリップしバリケードに衝突・横転、追いついた警察と再び激しい銃撃戦の後ドライバーは射殺された。

 

「それとも彼は腕のいい潜入捜査官だったのかもね?」

銃撃戦で負傷しながらも何とか打ち勝った強盗団は警察車両を奪取して再び脱出地点をめざした。

そして辿り着いた終着地点、彼らの眼前には先回りした警官が待ち構えていた。

 

「強盗団3人の内一人は捕獲され刑務所へ、一人は追跡を振り切り未だに逃走中、そしてリーダーのマイケルは射殺され伝説となった」

 

もしも裏切りがなかったらその強盗は当然のように成功していただろう。

そして今も尚、世界を相手に狂乱を演じていたかもしれない。

 

「裏の世界では彼は今でも有名よ。彼を真似るように数多の模倣犯が生まれたわ・・・もっともマイケルのように成功したのはほんの一握りだけども」

 

 

「今回は彼の意思を引き継ぎましょう」

トワは『パチン』と手を叩き注目を集める。

ホワイトボードの上に観光用のサンアンドレアス島の全体地図を広げマグネットで止めた。

 

「私達の最終的な目標はさらに先、これから行うのは言わば前哨戦みたいなものよ。だけど気を抜かないで!本名のように綱渡りする様な危険はないけれどこの作戦の成功は次の計画の準備金に影響する」

「私達がいる地域はここ」

 

油性ペンで島の地図の下部分を丸で囲む。

「ロスサントス、島の都心部、警察は優秀、他にも複数の犯罪組織が根付いていて危険。だから手始めに手頃な場所から始めていく」

 

再び油性ペンで地図に丸を付けるトワ。

島の上部、ブレイン群。

 

「現地の状況、強盗の手順は先に偵察を済ませてくれたアキに説明してもらうわね」

「ええ、任せて」

 

トワはアキに視線を投げ掛け、アキは問題ないと頷き返した。

 

「皆には必要な機材を集める所から始めて貰わないといけないわ」

「手始めに『溶断機』。これは解体場、建設現場に行けば簡単に手に入るわね」

 

アキが強盗に必要となる機材をホワイトボードにリストアップしていく。

『ハッキング用のpc』『専用携帯端末』『銃』『無線機』『爆薬』もしもの為の『防弾チョッキ』

幸いな事にアキが例に上げた品々は既にブラックマーケットで購入し、手元にあるものばかりだった。

 

「そして最後に、この作戦の柱となる車。これを皆で集めてもらうことになるわ」

 

 

 

★★★

 

~強盗前日~

 

 

強盗に使用する車はその計画に依存する。救急車、警察車両、時には工事に使用する特殊車両を使い周囲の目を誤魔化す事もある。

「今回の計画で必要になるのは単純よ『脚の速い車』これさえあればいいわ」

 

この街には様々な人が住んでいる。家を持たぬ者、返済に追われ薬を売りさばく者、スーツを身に纏いスポーツカーを乗り回すビジネスマン、高級住宅街に住み車専用のガレージを所有する富豪。

 

「車の調達にはさほど困らないと思うわ。勿論、当然の事だけど車を盗めば盗難届が警察に出されて警戒される、監視カメラや巡回する警官の目に気を付けなければいけないし長期間に渡って盗難車を身近に保管しておくのはリスクを伴うの。だからこそ、車の調達は作戦決行日間近が好ましい」

 

 

入り組んだ道や煩雑?乱雑?に立ち並ぶ家屋のあるサウスロスサントスとは違い、綺麗に街区(ブロック)分けがされたダウンタウン。交通量も多く性能の高いスポーツカーが駐車場に無造作に駐車されている。

 

「セキュリティーアラーム、イモビライザー、スマートキー・・・昔だったならば鍵さえどうにかしてしまえば簡単に盗むことが出来たわ・・・でも今は違う。技術は進歩し目の前に車があってもエンジンを始動させるのは手間よ」

新型であればあるほど調達は困難になるが今後の事を考えるとそれらが必要になってくるとアキは話す。

 

 

「早くこのボロ車ともお別れしたいペコ~」

「もう少しの辛抱ですよ」

 

 

道を走るのは逃走車両としては貧弱、例えるならば何かの取引で物資の引き渡しに使用され乗り捨てられた様な骨董品(レジーナ)だった。

事実、人気の無い路地裏に鍵がついたまま放置されたこの車を彼女達は見つけて本命を調達するまでの脚として一時的に使用しているだけなのだから・・・

 

1960年代を思い出させるようなアメリカ製のステーションワゴン。サスペンションは抜けており少しの段差でも突き上げるような衝撃が少女達の臀部を襲い、加速しようとアクセルを踏み込めばたちまち排気口から黒煙が町中に排出される。

助手席で「こんな車、例えナンバーに手配がついてなくても環境汚染で警察に止められるぺこ」と悪態をつくのはペコラ。運転しながら(その通りだわ)と思いながらも同乗者を諫めるのはアーニャ。

 

 

 

「これがいい」「あれにするか」などと道行く車を捕食者の様な目で吟味しながら呟くペコラ。

 

「最も簡単な方法が一つあるわ。その方法ならばどんなに最先端の防犯装置が付いていても問題ない」

 

「アーニャ!あの車の前で停まって!」

黒煙を吹きながらレジーナを急発進させるアーニャ。

信号で停止したスーパーカーの進路を妨害するように自身の車を停止させ、同時に助手席から躍り出て銃口をスーパーカーの運転席に向けるペコラ。

 

突然の暴挙、下手人は紫のパーカー、顔には般若面。

向けられた銃口を見て自身が標的になった事を悟った運転手はすかさずバック(R)にギアを入れるが・・・

「オラ!余計な事するんじゃねーぞ!殺すぞ!カスがよ!!

 

放たれた銃弾がフロントガラスを貫通し、自身の顔の横を通過した。

持ち主から直接拝借すればいいだけの事よ

 

 

それともう一つ、この街ならではの調達方法があるわ

考えてみて?富裕層がこぞって高級車を買いたがるのは何故かしら?

一流のスーツ、高級腕時計、葉巻にワイン。彼らにとっては車ですら娯楽品、装飾品でしかないの。

燃料は劣化する、バッテリーも電圧が低下する。例え使用しなくても維持するだけで定期的にメンテナンスが必要となる。そんなものを複数台所有して管理するほど彼らは車好きなのかしら?

 

勿論、大切に車を扱う車好きな人もいる。だけど、皆が皆そうとは限らない

それじゃ、そういう人達はどのように車を保管してるのかしら?

 

富裕層が住まうのはロックフォードヒルズかヴァインウッドヒルズ辺り、都心から少し離れた郊外ね。だけど、その周辺は道が入り組んでいたりでガレージ用途に土地を購入するには地価が高く保管には不向き。『気が向いた時だけ乗れればいい』その様な考えならば、わざわざコレクションを手元に揃えておく必要性はない。

 

もしも私ならば、使用頻度の高い車だけ手元に残してコレクションは別の所に保管するわ。使う時は部下に取りに行って貰えば良いだけですもの

 

 

 

~ヴァインウッド~

 

夕暮れ、茜色の斜陽が紫のパーカーを着た小柄な少女の姿を照らす。

建物に背を預け携帯端末を触る姿は町中で見かける女子高生と大差なく、道行く通行人も気に留めることなくその場を過ぎ去っていく。

 

防犯カメラ、セキュリティーアラーム、金庫に通報システム・・・当然だけどガレージには防犯設備が施されている筈よ。だけど、これから銀行強盗へ挑む私達にとってその程度のセキュリティなんて有って無い様なものだと思わない?

 

カードリーダー式の入り口、連動する通報システム。もしも、正規の手順以外でアクセスされればたちまち警察が駆けつけてくることだろう。

ならば無理にこじ開ける事はせず、チンピラが行うような雑なアクセスでもない、『正規の手段』と設備が誤認するような方法を取り堂々と入場すればいいだけの事。

通行人が途切れたのを確認したアヤメは目深に被ったパーカーから覗く銀髪を揺らしながら、おもむろにカードリーダーへと近づきケーブルの付いたカードを電子ロックへと差し込み再び端末を操作し始める。

 

時間にして20秒。

アヤメがカードを引き抜くと同時に電動シャッターのモーターが駆動し始める。

 

管理は専門で雇い入れた整備士が行ってると思うわ。オーナーが所有する車のコレクション。自身の車でもないのに整備士が自宅へオーナーの車両の鍵を持ち帰る訳にもいかない

 

開き放たれた入り口から体を滑り込ませ『カツカツ』とブーツの音を響かせながら薄暗いガレージの中をアヤメは進む。

並べられたスーパーカー。ガレージ内に人がいないのは使用電力の量で把握済み、事前に行ったハッキングにより動作が一時的に停止した防犯カメラの前を堂々と横切りスタッフルームへ

 

車の鍵はスタッフルームの金庫か・・・それとも『ガレージの防犯は完璧』だと油断して車に刺しっぱなしなんて事もあるかもね

 

「・・・うん、余はこれがいいと思う」

ごく自然に電子キーで扉を開け、プッシュスタートで内燃機関に火を灯す。

 

V型10気筒エンジンの排気量は8.4リットル

最高出力は640hp、最大トルクは813N・m

バンシーGTS

『泣き女』の名を持つ大排気量のスーパーカー

 

 

 

『ア・・・ア・・・聞こえてる?此方『A』(Alfa)車確保したよ~』

『わかった。じゃあ予定通り決行は明日!』

 

無線で報告を済ませ、アヤメは上機嫌でバンシーのエンジン音(悲鳴)に耳を傾ける。

 

 




一方その頃、ペコラ達は・・・

「それじゃ、次はアーニャの車探しに行くぺこ?」
「あ、お願いしますね」
「車両強盗したばかりだけど警察は来てないし安全運転で行くぺこ」
「了解です~安全運転!」

互いの車に乗り込み次の標的を探す中、ペコラは見てしまった・・・
車のバックミラーからアーニャの運転する車が壁へ激突する姿を・・・

「アーーーニャ!?!?」
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