「此方、にゃんにゃんカーサービス 青です」
「あ、もしもし?実は急ぎでお願いしたい事があるんだけれど・・・『おかゆ』いるかな?」
自らの名を語る事無く店長である『猫又おかゆ』に取り次ぐように促す電話。
この街ではよくある事。警察が『エンジンチューニング』で車両を持ち込むこともあれば、チンピラの様な見た目の男が自身の車を『防弾ガラス』に換装するように依頼する事もある。
政府であれ犯罪組織であれこの店に車を持ち込んだ時点で『お客様』であることは変わりなく、互いの客が鉢合わせしないようにスケジュールを管理することはあれども口出す事はしない。
厄介事の予感を感じ取った青は、心の中で(うん、世の中には知らない方がいいこともあるよね)と自身に言い聞かせながら電話を店長へと取り次いだ。
「はい、代わりました~おかゆです~」
「またまた急だね~」
店長と電話の相手とのやり取り、青からは当然ではあるがその場にいる『おかゆ』の声しか聞こえないが・・・その受け答えだけでも急な案件が飛び込んできたと察することが出来た。
電話を切った店長に「手伝いましょうか?」と申し出る青。
おかゆは暫く考えた後、煙草に火をつけながら「一人で大丈夫」と短く答えた
時刻は20:40
もうすぐこの店は本日の業務を終了するし
手伝ってしまったら警察の問い合わせがあった時に「知らぬ存ぜぬ」を通せないでしょ?と言葉を発する事もなく微笑みかける『おかゆ』
「今日は長い夜になりそうね・・・」
ため息と共に吐き出された白い煙は・・・夜の暗闇に溶けていくようだった。
~エル・ブロ・ハイツ 空き家~
木を隠すのならば森の中。複数の盗難車を駐車するのならば警察の目の届かない場所、もしくはソレがあっても不思議ではない場所へ・・・つまり監視カメラが少なく、盗難車が発見されても近辺を支配しているストリートギャング『バゴス』の犯行だと誤魔化せる場所。
一夜限りの短期間であればその他勢力の介入のリスクも少ない。その点でいうならばエル・ブロ・ハイツは最適な保管場所と言えるだろう。
家具のない閑散とした家中。町の区画が拡張され、新たに建てられた複数の住居・・・その一画。
付近には人の存在を示す様な電灯の明かりはない。
少し離れた場所から聞こえる街の喧騒を尻目に空き家に集合したメンバーは懐中電灯の明かりで照らしたボード、そしてその前に立つトワとアキの声に耳を傾けた。
「これが最後のミーティングになる・・・首尾良くいけば明日の今頃には、私達は誰一人脱落することなく大金に囲まれている筈よ」
「勿論、指名手配のおまけつきだけどね!」
トワの激励、そして成功に浮かれたメンバーが迂闊な行動を起こさないようにくぎを刺すアキ・ロゼ
フリーサ強盗は彼女達にとっては通過地点でしかなく、こんなところで躓く訳にはいかないとトワも同意の意を示した。
「ミーティングが終われば作戦決行前にこの資料は全て破棄する。だから各人、自分の役割をしっかりと把握するように!」
「この計画は過去の歴史、これまでの実績を元に立案したの。だからその経緯から話すのが筋よね・・・」
未来に何が起こるのかなんて預言者でもない限り分かりはしない。
だけど、限りなく近い未来を予測することは出来る。
『過去』があり『現在』がある。『これまでに起こった事』をベースに防犯は対策が取られている。
ならば、それらを学ぶことで警備の抜け道を探すことも出来れば、本来予測できない『人の動き』すらも把握して計画に組み込むことだって出来る。
「この島『サンアンドレアス』で過去に大規模な暴動が起こったのを知っている子はいる?」
20年前、この島は複数のギャングが各地を支配していた。
勢力間抗争、薬物売買、ショバ代・・・いつだって市民は巻き添えになり搾取される側だった。
本来、味方であるはずの警察も組織内の腐敗が進み、汚職警官が買収・犯罪の黙認・証拠隠滅をする始末。
「転機となったのはギャング間抗争に勝利し、サンアンドレアス全土を手中に収めた『グローブ・ストリート・ファミリー』が警察と真っ向から対立した事ね」
グローブが良き存在とは言えない。だけど他のギャングとは違って麻薬を嫌い、みかじめ料の対価に安全を提供していたグローブは市民からの信頼は厚かったの。
そして、対立した事によって外部へ流された汚職警官の情報は瞬く間に炎上し、暴動へと発展していったわ。
「一部の警官はグローブによって粛清。ロスサントス市警の職員も刷新されて『清く正しく、市民の味方の警察』として現在に至る・・・汚職が発覚した者は一人残らず裁かれた・・・だけど、全てではない」
証拠が見つからなかった者は?理由もなく裁く事も解雇する事も出来ない。精々『汚職を見過ごしていた』という理由で左遷させる程度・・・
「そうね・・・例えるならばブレイン郡のド田舎でぐるぐる巡回するだけの毎日を過ごさせるとか・・・ね?」
「だから、ブレイン郡の保安官は私達が警戒しているロスサントス市警とは別物と考えた方がいいかもしれないわ」
これまでの経緯を語りながら「だからこそ次の行動が予想できる」とトワは笑った。
市街地であるロスサントスから切り離すような配置換え。証拠不十分で告訴されなかった彼らが現在は心を改め真面目に仕事を行っていると思う?
「いいえ。20年の時を経て彼らは再び同じ過ちを繰り返しているでしょうね」
犯罪が起これば彼らの対処は2通りに分かれる。
「1つ目『何もしない』」
「誰だって死にたくはない。戦う理由が他人の金を守る為なら猶更でしょ?」
「きっと、少し強盗犯を追い回せば賄賂を対価に捜索を混乱させる様にコンタクトを取りに来るとでも思っているのじゃないかしら?追い回すのは別に自分自身でなくても良い」
犯罪の黙認、欺瞞・証拠隠滅による捜査の妨害を今も行っているのなら犯罪組織と彼らの繋がりは『裁くべき対象』ではなく『客先』や『顔見知り』くらいの信頼関係になっている筈。ならば・・・
「
「彼等を利用できないの?」
「いいえ、使わない。確かに格段に難易度は下がるわ・・・だけどこの手の相手は弱みを見せたら骨の髄まで吸い尽くされるのが目に見えてる」
「2つ目『強盗犯から現金を強奪する』」
「正直、この可能性は低いと思う。ロスサントス市警に比べて練度も装備も格段に劣る彼等がその身を危険に曝して駆けつけてくるとは思えないしね」
だから、最初の店舗を襲ってからの警察の初動は遅い
「猶予は最短で10分。それ以降は様子見をしていた者達が順に痺れを切らして参入してくると見ていい」
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「この作戦は3つの柱で構成されている。最初の一つ目は『スピード』よ。相手が油断している間に一気にこの街の状況をひっくり返す!」
「手始めにブレイン郡グレートオーシャン・ハイウェイ沿いにある5070番地フリーサ銀行……ここを落とす」
「此処へはアヤメちゃん、ペコラちゃん、ベーちゃん、私で強盗を行う」
「皆、準備はいい?時計の時間を合わせて・・・」
フリーサ銀行前コンビニ駐車場、そこに駐車しているのは赤の『ブレット』『マッサクロ』、黒の『バンシー』
いずれも道行くセダンやSUVと比べると性能や価格が抜きん出ており、ド田舎に停車するソレらは見る人が見れば『不吉な前触れ』の様に感じるだろう
「オッケー、合わせた余」
「この計画の成否に問わず別の班が時間差で行動し始める・・・ここからは時間との勝負よ!
「大丈夫、問題ない」
「OK、それじゃあ手筈通りに!」
各人車に乗り込みエンジンを始動させる。
「フリーサ銀行はこの島に7店舗。メイズバンクやパシフィックの様に企業向けの厳重な警備ではなく市民向けの小規模な店舗よ」
「まずはハッキングにより店内の監視カメラのlive映像を妨害。ベーちゃんはそのままコンビニで待機、その後は合流地点へ向かって」
「残りのメンバーは銀行へ。逃走車両は見られても良いから出来るだけ銀行の入り口付近に停車する」
「全員手を上げるペコ!おかしな真似するんじゃねぇそ?・・・っていったよな?ぶっ殺されたいのかこのアマ!」
ダボダボの紫色のパーカーを纏った般若面の3人組、鳴り響く警報
「正直、警報は気にする必要はない。この銀行はロスサントスだけじゃなくブレイン郡の警察署からも離れていて、警察が辿り着いた頃には私達はその場に居ない。だから私達の姿さえ記録されていなければ問題ない」
金庫内部は手前と奥、2つの部屋で構成されている。最初の扉を抉じ開けるまでの猶予は3分。今回はスクラップ場で拝借した『サーマルランス』で焼き切る
「残り2分!」
トワが秒刻みのスケジュールで管理する中、アヤメは手早く機材を取り出しバーナーに点火する。
金属の酸化反応を利用したバーナーの温度は3000~4000度にまで達し、金庫に使用している金属の融点を遥かに上回る。
更にアヤメが溶断しているのは扉の蝶番。いくら補強されているとはいえ、このバーナーを相手にするには些か役不足だったとしか言えないだろう。
「開いた!」
「
入り口、カウンター。金庫室へと繋がるコの字の廊下。
金庫室は2層構造。手前の部屋には貸金庫、台の上には山積みの札束・・・
「イケイケイケイケ!全部詰め込んじゃえ!200万ドルいけるぞコレ!」
ペコラがハイテンションで札束をバックに押し込んでいくなかアヤメは手前と奥の部屋を隔てる鉄格子の開錠を手がけた。
錠を貫通し奥の部屋へと流れ込む火花、立ち込める大量の煙。
「もうバックに入らない!」
「先に行って!計画通りに!」
『こちら5070。折り返し地点』
『了解。此方は依然として動きなし』
「ペコラちゃんの車はフロントガラスに銃痕が残っていて目立つ」
「車・・・調達しなおした方がいいペコ?」
申し訳なさそうに謝るペコラにトワは笑いかける
「大丈夫よ。どの道、通報は免れない・・・ならば分かりやすい特徴を用意してあげましょう」
一人分のバッグが満杯になった時点で警察が駆けつけるよりも早くフリーサを立ち去り、合流地点に待機していたベールズの車に乗り換えて逃走。警察は目撃情報から既に乗り捨てられたスーパーカーの捜索に手を取られてその後の行方を把握することは出来ない
「勿論、得た資金をそのまま使うことは出来ないわ。ナンバーで追跡されるから資金洗浄が必要になる」
ベールズ宛に無線で計画通りにペコラが向かった事を伝え、トワも金庫室へと向かった。
(ロスサントス警察署の前で監視していたメンバーからは動きなし・・・予想通りね)
「
「残り30秒」
溶断された錠。開け放たれた鉄格子。バッグ一杯に詰め込まれた現金の束。
ずっしりと重みを感じるバッグを車のトランクに押し込みながら耳を傾ける。
遥か彼方から近づいてくるけたたましいサイレンの音・・・
音の発生源がこの場に辿り着くころには私達は此処には居ない・・・そして、銀行職員に事情聴取を行い逃走車両を特定するのは更に先・・・
『first down. 本番はこれからよ・・・』
作戦中の個人名はNATOフォネティックコードで呼び合ってます
トワ=『T』タンゴ
アヤメ=『A』アルファ
ぺこら=『P』パパ
ベールズ=『B』ブラボー
調達車両
アヤメ=バンシーGTS(赤)
ぺこら=ブレッド(赤)
ベールズ=マッサクロ(赤)
(ホロスサントスとは別の世界という事で原作の流れから変更点があります)
銀行札束 一山500万$くらい
一店舗 3~4山くらい