相変異 黒蝗   作:エターナルドーパント

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少女は呪った。己の無力を。
少女は願った。強い力を。

神秘は恐怖に反転し、そしてそれは、彼女に応えた。



相変異

(あぁ、憎い)

断続する閃光。叩き付けられる鉛の雨。轟音と衝撃の嵐に晒され、少女の胸の内には怨嗟が募る。

(憎たらしいなぁ。結局何も出来やしねぇんだよ、俺は)

その怨嗟は他者では無く、自分自身へと向かうもの。肉体の痛みは既に遠く、酷く引き延ばされた遅く長い時間の中で、彼女は自身の無力を呪っていた。

(俺があそこで焦って無けりゃ・・・自棄を起こさなけりゃ・・・こんなに弱っちく無けりゃ・・・俺が、■■■■に拾われて無けりゃ・・・俺が、最初から居なけりゃ・・・)

募る否定の重圧が、彼女の魂を踏みにじる。

(あぁ、神様は助けてくれやしねぇ。お百度処か千度は祈っても、全部梨の礫だ。だったらもう、縋る先は一つしかねぇか)

 

ぐちゃり

 

幾つかの弾丸が、遂に彼女の眼を潰した。

黒く塗り潰された視界。光無き絶望の底で流れる暖かな涙が、頬を染める。

「どっかに、悪魔が居るならよ・・・くれてやるよ、俺の全部。だから・・・力を、寄越しやがれ」

頭上の光輪(ヘイロー)が、ひび割れる。弱々しい光は遂に翳り、砕けた所からは真っ黒な霧が溢れだした。

否、霧ではない。闇そのもののような黒は、若草色の髪を伝って零れ落ち、姿を獲た。

長い翅。逞しい後脚。黒い身体に、唯一紅く輝く双眸。

蝗。漆黒の蝗が、その群れが、密閉された部屋に溢れ出す。

「クククッ、始まりました。これが反転、恐怖の表出」

喉を鳴らすように笑う、真っ黒なスーツを着た男。その頭部は半ば黒い靄のようになっており、白いひび割れが描く表情は歓喜を湛える。

「凄まじいな。丹念に丹念に心を折ると言う過程が必要とは言え、たった1人でこれ程・・・」

一方、その隣に立つ大柄なオートマタの男は、戦くように呟いた。

 

━バキンッ━

 

「ッ!理事!大変です!室内の武器が破壊・・・いえこれは、侵食されています!?」

「何だと!?」

破砕音が響き、彼女の閉じ込められた部屋の照明が落ちる。同時に飛び込んだオペレーターからの報告に、理事と呼ばれた大柄なオートマタは強化ガラスの窓を覗き込む。

大きくひび割れたヘイローから漏れ出した、赤黒く禍々しい光。それに照らされて、竜巻のように飛び回る蝗が室内の悉くを噛み砕く様を目撃した。

「やはり彼女の本質は、神秘では無く恐怖!その表出に耐えられる生徒は居ませんでしたが、他の生徒と前提の異なる貴方はどうなるか!さぁ、見せて頂きましょう!」

黒い嵐の眼に立つ少女の手足。それらを縛る拘束具が、蝗の顎に喰い千切られる。解き放たれた少女はつんのめるように跪き、虚ろな眼窩を床へと向けた。

 

(?サイド)

 

「何処だ、ここは」

気付けば真っ暗な空間。若干の混乱を自覚しつつ、どうにか状況を理解しようと記憶を掘り起こそうとする。

「・・・あ?」

しかし、そこで思考が止まる。少し離れた場所に、女の子が座っていた。

三角座りした少女は顔を膝に埋めていて、表情は伺い知れない。だがその頭に浮かぶ、()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()のような何かは、暗くボンヤリと明滅している。

何処からどう見ても、麗しいご機嫌はしていないと分かった。

「・・・おい、あんた」

一瞬躊躇したが、それでも声を掛ける。何の情報も無いこの空間で、少なくとも俺にはそれ以外の選択肢は無かった。

「・・・ハハッ、縋ってみるもんだな」

「あ?」

渇いた笑いと、意味の分からない返答・・・返答か?まぁ反応があった。若干腰を落として警戒しながら、少し距離を詰めてみる。

「・・・何だ。悪魔って、俺らとあんま変わらねぇんだな」

少女は徐に顔を上げ、俺と眼が合う。泣き腫らして真っ赤に充血した、痛々しい眼が。

そして、聞き捨てならない文言が1つ。

「おいおい、悪魔とはご挨拶だな」

吹けば消えそうに微笑む彼女に、俺は呆れ混じりにつっこんだ。

「そうかい?まぁ、どうでも良いさ」

「いや良くはねぇだろ」

「じゃあ、契約を執り行おうか」

「いや聞けよ」

「恐らくお前が、俺の縋った悪魔だ。俺の総てをくれてやる。だから強さを寄越せ。いや獲ろ」

「待って待って話が呑み込めない。見えてこない」

訳の分からない情報の洪水で脳みそを溺れさせられる気分だ。勘弁してくれよ、これ以上混乱したくねぇ。

「端的に言おうか。俺は間も無く死ぬ。俺の身体も魂もお前にくれてやるから、弱い俺の代わりに強くなれ」

「要点纏めてくれたんだろうが余計に分からんわ。つか死ぬだ?そうは見え・・・」

見えない、と言い掛けて、止まった。良く見れば頭の上のエンブレムがひび割れ、手足は末端から赤黒く変色しつつある。

どうやら、死ぬと言うのは本当らしい。

「・・・分かってくれたか?」

「あぁ、まぁ、何となく」

「そうか・・・結局、俺は何も出来やしなかった。■■ちゃん先輩と■■■にゃ、悪い事をしちまったな・・・後は、頼んだぜ、悪魔」

「さっきから悪魔悪魔って、俺は・・・俺の、名前は・・・思い出せねぇ」

「そっか。名無しじゃ不便だろ?俺の名前もやるよ」

「・・・仕方ねぇか。ま、聞くだけ聞いとくよ」

最早選択肢など無い。コイツの言う事を受け入れると腹を決めた。

叢雲(ムラクモ)コウ。それが俺の・・・そして、お前の名前だ」

「叢雲、コウ・・・良い名前じゃねぇか、カッコ良くてよ。気に入った」

「何よりだ。そのカッコ良い名前に似合うよう、強くなってくれよ」

座っていたコウが、ごろりと寝転がる。その腕と脚は半ばまで消えかかっており、もう時間は残っていない。

すると、目の前にブワリとディスプレイのようなものが現れる。そこには、飛び回る無数の真っ黒な物体でアナログテレビの砂嵐のようになった映像が映し出された。

「うわ、何だコレ」

「外の様子さ。黒いのは俺が秘めてた恐怖・・・まぁ潜在的なオーラみたいなものだと思えば良い。その具現体の群れだ」

「え、こんなえげつねぇ状態に・・・つーかこれバッタか?」

「良く分かったな。ほぼ砂嵐だろ」

「いやまぁ、チラッと見えたシルエットと、あとお前の頭の上のそれ。明らかにバッタだし」

「・・・へぇ、ヘイローはそう見えてんのか。面白い事を知ったな」

「え、見えねぇのそれ」

「あるとは認識できるが、形はな・・・さて、そろそろ時間だ。君には今から、あの厄災、蝗の嵐を制御して貰わなきゃいけない。出来なきゃキヴォトスは滅びる」

「重いって!最初の使命重いって!推定元一般人に!」

腹から下が消失したコウに、血を吐くようにつっこむ。漫才をしてる場合じゃ無かろうに・・・

「まぁ、あれはさっき言った通りオーラみたいなもんだ。イメージの持ちようで何とでもなるだろ。精々頑張って強くなってくれ?」

「悪魔だ何だと人の事散々言っておきながらそっちのが悪魔の所業じゃねぇかオイ!笑ってんじゃねぇぞ!」

「まぁまぁ。で?イメージ出来るかい?」

「えぇい、自分は死ぬからって好き勝手を・・・えーっと?禍々しい力、バッタ、制御、封入・・・キーワードはこんなとこか?」

脳内の情報で該当するものを漁る。すると数秒と経たず、お誂え向きのイメージが掘り起こされた。

「・・・ま、何とか行けそうかな。喜べよ、上手く行ったら飛びきり強くなれる」

「そっか!そいつは楽しみだ!」

生首の状態になって尚、コウはニヤニヤと笑う。それは何処か強がりに見えて、途端に痛々しく思えて来てしまった。

「・・・言い残すこと、あれば聞くぜ。10分前後の、長い付き合いだからな」

「はは、何だよそれ・・・じゃあ・・・」

顎が消える。頭部の下半分が消える。声を発する事は、もうとても叶わないように見える。そんなコウを抱え上げ、眼を合わせてやった。

 

━━・・・ゴメン、■■■・・・■■ちゃんセンパイ・・・━━

 

最後に一粒の涙を溢して、コウは消えた。同時に、外を映すディスプレイが此方に迫って来る。

「・・・さーてと?そんじゃーまぁ手始めに━━━

 

━━━世界でも救いますか!」

 

(NOサイド)

 

「おや?」

「な、何だ!?」

蝗の嵐に掻き回される密閉室の中で、唐突に変化が起こる。竜巻のように渦巻き飛んでいた蝗達が、発生の大元、叢雲コウの元に集まり始めたのだ。

「クックックッ・・・新たな変化、実に素晴らしい」

「おい黒服、流石にマズいんじゃあないか?」

未知の現象に狼狽える理事を他所に、黒服は相も変わらず前のめりに観察を続ける。

蝗達の内の数十匹は、砕かれ裂かれ損傷したコウの肉体に溶けるように入り込み、その傷口を覆い尽くす。その黒は瞬く間に肌の色を写し、潰れた筈の両の瞳は大きく見開かれた。

 

「ハァァァァァァァァ・・・ッ!」

 

漏れ出すような唸り声と共に、コウは両手を掲げる。蝗達は導かれるように、その手の間に作られた空間へと飛び込んだ。寄り合い、溶け合い、限り無く自ら圧縮を繰り返して収束し続け、遂に部屋の中には蝗は居なくなる。

「まさか!本来テクスチャの反転により制御を失った恐怖は、周囲を巻き込み爆発的に拡散すると言うのに・・・これは、真逆・・・収束、するとは・・・ククッ、クックックッ・・・何と、何と興味深い・・・!」

興奮冷めやらぬ様子でブツブツと持論を展開する黒服に、周囲は若干引いている。しかしそんな事はお構い無しに、黒服は更にコウを食い入るように見詰めた。

 

「封印、統御、開封、闘争・・・そんなお題(テーマ)なら、これがお誂え向きだ」

 

蝗達が依り集まった、極黒の球体。コウはそれに手を突っ込み、一握り分を千切り取るように分離させる。それを腹部に押し当て、イメージを流し込んだ。

 

━ガシャッ ガチンッ━

 

恐怖の欠片は形を大きく変え、コウの腹部に帯を巻き付ける。そして正面、ベルトのバックルには、銀のフレームと金の球体が輝いていた。

「恐怖の変質!そして物質化による物理的顕現とは!?これは、何と!前例の無い、始めての事象!ククッ、ククククッ・・・何と、何と興味深い!」

残る大半の恐怖を、手で撫でるように捏ね回すコウ。エネルギーは更に圧縮され、手の中にすっぽりと収まり隠れてしまった。

 

「オォォォォォォ・・・!」

そして合掌状態で力を込め、圧力を掛けるように押し付け続ける。漏れ出していた赤黒い光すら消えた時、遂に恐怖は物質として完全に安定化させられ、手の中から現れる。

それは大柄な、USBメモリに酷似したデバイス。しかし背骨や肋骨、化石化したそれらが埋まった岩のような意匠が象られた造形。コウがそれを握れば、その表面のディスプレイに文字が浮かび上がった。

「これは、まさか・・・本来は無秩序且つエントロピーの増大にしか向かわない筈の恐怖が、逆に収束し安定した物質として結晶するとは・・・クックックッ、やはり、貴方を選んで正解でしたね、叢雲コウ・・・

理事。予備のセントリーガンを展開して下さい。安定状態の恐怖、その出力の程を・・・観測せねば」

「くっ・・・全く、見上げた研究者気質だな。えぇい、どうなっても知らんぞ。おい、予備のセントリーを全て起動しろ。全てだ」

「り、了解・・・」

命令を受けたオペレーターがコンソールを操作すると、密閉室の壁や天井のハッチが展開。ガトリングにセンサーを搭載したセントリーガンが複数出現する。

それぞれのポインターが自分に向く状況を見ても尚、コウの眼は何処までも冷たかった。

 

HOPPER(ホッパー)!】

 

スイッチを押し込み起動したそれを、腰のベルト、その右側に空いたスロットに挿し込む。すると頭上のヘイローから再び泥のような恐怖が流れ出し、無数の蝗となって旋回し始めた。

ガリガリと金切り声を上げる機関銃が吐き出した弾丸はしかし、容易く蝗達に阻まれる。そして黒い嵐はその半径を狭めた遂に濁流となってコウの身体に密着した。

 

「変身」

【HOPPER!】

 

呟かれるような宣言と共に、黒い繭━━━否、卵の外郭が弾け飛ぶ。

そして現れる、御された厄災の恐怖。

 

真っ黒の地に、青紫の構造色が輝く甲殻。大きく発達した筋肉を持つ、逞しい脚。胸部を覆う生体装甲に開いた気門から、大量の空気が吸い込まれる。

開かれた顎門(アギト)は蒸気を吐き出して噛み締められ、大きな真円の複眼は、拍動するように赤く輝いた。

それは正に、最古の害虫が人となった異形。飛蝗怪人。

「カァッ!」

冷却を終えたセントリーガンが射撃を再開する直前、飛蝗怪人の姿が掻き消える。そして1秒の後、真後ろにあった1台のセントリーガンは支柱を切断されて機能を停止した。金属パーツのけたたましい転倒音が鳴るすぐ側に、獣のように姿勢を落とした飛蝗怪人の姿がある。

「何だ!?何をした!?」

「成る程。壁への跳躍、そしてその壁を足場にした変則三角跳びですか。眼で追う事すら難しい、凄まじい身体能力ですね」

黒服が愉快そうに分析する間も、飛蝗怪人の戦闘、否、蹂躙は続く。

切断したスクラップを鷲掴み、近場にあった敵へとフルスイング。機関部同士が衝突し、共に部品が砕け、ねじ曲がる。先端が軽くなった支柱を持ち直し、離れたセントリーガンへと槍のように投擲。回転銃身の軸を撃ち抜き、瞬く間に再起不能へと落とす。

再び始まった弾幕射撃。しかし、当然ながら先程よりも制圧範囲の隙は大きい。同士討ちを避ける為の弾幕の隙間に、飛蝗怪人は容易く滑り込んだ。

そして、大股におおよそ7歩の位置にあるセントリーガンに狙いを定め、脚力を解放。弾丸にも迫る勢いで飛び出し、空中で身を翻して右足を突き出した。

 

「壱式━━━━━ホッパーキック!」

 

砲弾の如き跳び蹴りは、対象を紙細工のように打ち砕く。余りある運動エネルギーを壁に取り付いて吸収し、大きな複眼で次の獲物を探す。

白羽の矢は、前面に装甲板を備えた大型機関砲に立った。床に降り立ち、真正面から突貫する飛蝗怪人。機関砲は真っ直ぐ近付く標的を蜂の巣にせんと弾丸を撃ち出すが、当然ながら飛蝗怪人はそれを見越している。左脚を疾走のフォームから崩し、踵を突き立てるように大きく前に出す。そして踏み締めた踵を起点に、大きく右に飛び退いた。

その余りに予測外れの挙動に、センサーは容易く対象を見失った。その2秒に満たぬ隙は、再び壁に取り付いた飛蝗怪人に取っては十分。

 

「弐式━━━━━ホッパーキック!」

 

壁を用いた三角跳び。それにより死角から抉るように撃ち込まれる跳び蹴りは、ガードを掻い潜って銃器本体を打ち潰す。頸部関節がねじ切れ、激突した壁には蜘蛛の巣状のヒビが走った。

「ひえっ」

「何て威力だよ・・・」

オペレーター達が機械の顔を青ざめさせる。一方黒服は最早一言も発さず、恐らく眼であろう部分を皿のように見開いて観察を続けていた。

「後はアイツらか」

ボソリと呟く飛蝗怪人の視線の先には、3台のセントリーガン。カラカラと銃身を空転させ、弾幕が放たれるまであとコンマ5秒。

飛蝗怪人はトントンと軽くステップし、目前のそれに意識を集中。そして━━━━駆け出す。

突貫よりも速度を抑え、小回りに重きを置いた機動。

放たれる銃弾の群れ。その密集空域からは身体を外し、多少の被弾は甲殻に傾斜を付けて受け流す。

「止まって見えるな」

人間離れした知覚と回避により、礫の小雨を容易くすり抜けて間合いを詰めた。そして、先頭の銃身を下から掴み上げ銃口を跳ね上げる。

 

「参式━━━━━ホッパー、キック」

 

駆動基部を、死神の鎌めいた鋭いハイキックが薙ぎ払う。打ち砕かれた破片は鋭い散弾となり、クレイモア地雷の如く後方の同型に突き刺さって稼働不能に陥れた。

 

━ブシュゥゥゥ━

 

気門から蒸気を吐き出して、マジックミラーの窓を見遣る飛蝗怪人。冷たく輝く眼光は、鏡越しに理事を射貫いた。

 

(飛蝗怪人サイド)

 

━━━━━存外に、動けるものだな。

浮かんだ感想は、淡白なそれ1つに尽きた。

どの動きにどの筋肉を使うのか、どう地面を蹴ればどちらに跳べるのか、どのパーツがどのように武器になるのか。その全てが、自然に分かる。まるで蜘蛛が巣の張り方を、生まれながらに本能で地解しているように。

この魔性の小箱、ガイアメモリの再現品。肉体に感覚を最適化する機能でもあったのか、そもそもが自前のエネルギーだから容易く扱えるのか。

「ハァ・・・ん?」

違和感。尾骶骨の辺りから感じる、絶妙な空気の流れ。それが、急に大きく変わった。

(足元から気流が湧いて・・・いや、これはッ!)

天井を見上げれば、四隅から何やらガスが注入されている。この状況からして・・・麻酔の類いと考えるのが自然か。

「まずいか」

落ち着け、パニックを起こすな。最高効率で情報を整理しろ。

まず、麻酔ガスに押し出された空気が噴出孔の無い中央で上に逃げる対流現象を起こしている。ならば麻酔ガスは空気より重く、下に溜まる筈。

次に出入口。セントリーが出てきた所は壁そのものが閉じていて、シャッターよりもぶち抜きにくいだろう。そして、壁には内側ハンドルの無い水密扉。彼処しか無さそうだ。

「フゥゥゥゥゥゥッ!」

方法は決めた。後は実行のみ。

肺の中の空気を、気門と口から全て吐き出す。そして天井までジャンプし、天井に手足で張り付いた。ここの空気は、まだ汚染されていない筈だ。

「ギュオッ!」

気門前開、全力で吸気。肺が満タンになるまで吸い込み、再度床に飛び下りる。そして外開きの水密扉に狙いを定め、助走を付けて跳躍した。

 

━━━━━壱式、ホッパーキック

 

叩き込まれる蹴脚に悲鳴を上げ、しかし耐える扉。ならば一気に対面の壁まで跳び、その壁を足場に更に強く、垂直に跳ぶ。

 

━━━━━弐式、ホッパーキック

 

大きく歪む扉。しかし、未だに破れない。

これ以上の無呼吸運動は厳しい。賭けに出るしか無いだろう。

「シッ!」

集中し、イメージを固める。基盤が違えど、同じジャンル、同じモチーフ。ドライバーの構造も類似していると来れば、どうとでもなる筈だ。

 

━ガキンッ!━

【HOPPER!MAXIMUM DRIVE!】

 

ドライバーから僅かに露出したメモリの頭を、叩くように押し込む。

安全制限を解除し増幅されたエネルギーが体内に満ち溢れ・・・暴れまわる。

「がハァッ!?」

激痛。全身で筋肉と神経をミキサーに掛けられるような痛みが、脳を焦がさん勢いで押し寄せる。

厳しいか・・・だが、ここで行動不能は恐らく最悪・・・ 1発、何が何でも保たせる!

「ガァァァァァァ!!」

地面を踏み砕き、加減無しの脚力で地面を蹴り付ける。溢れ出すエネルギーを右脚に込め、全力で突き出した。

 

「壱式ィ━━━━━ホッパー!キック!!」

 

気門から漏れ出す余剰エネルギー。その紅い残像を引いて、俺の脚は扉をぶち抜いた。同時に、体内で暴れていたエネルギーも解放されて幾らか調子を取り戻す。

「ゲハッ、ガハァッ!ハァ、ハァッ・・・ッ!」

若干の痺れと倦怠感を残しつつ、痛みは鳴りを潜めた。しかし、尾骶骨から脊椎に直結した気流感知尾葉、エアロディテクターが気流の乱れを感知する。間も無く、ガチャガチャと武装した兵士がやって来た。

「う、動くな!」

 

「あの扉、マジでぶち抜きやがったのか・・・」「か、帰りたい・・・」「よせ、無駄口を叩くな!」

・・・何か見るからに士気がガタ落ちしてねぇか?銃口まで震えてやがる。

と言うか何だコイツら。ヘルメットにしては頭蓋骨の大きさそのままかつ起伏の無い頭部に、集光精度を上げて見れば関節部が全部機械化されてやがるな。サイボーグか何かか?

 

━グゥゥゥゥ━

 

「・・・え?」

・・・何か、すげぇ腹減ってきた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・叢雲コウ(旧)
唐突に生やされたオリキャラ。
とある学校から連れて来られた高校1年生相当の元生徒であり、黒服の実験台とされた。
自己否定の念によって自身の生徒としての面を剥がし、テラーに堕ち掛けたタイミングで主人公と接触。命も心身も全て押し付け、自分勝手に消えていった。
口調は男勝りな俺っ娘。容姿は若草色の癖の無い髪のウルフカット、細眉にツリ目。ヘイローは飛翔姿勢のバッタを上から見た図形。身長は153cmで、肉付きは余り良くない。胸はBカップ。

・叢雲コウ(新)
ふと目覚めた知らない場所で、急にヤバイもの全て押し付けられた主人公。
エピソード記憶はまるごと消えているが、サブカル知識は豊富な様子。
厄災をばら蒔くバッタの概念をどうにかしろと言われて、噴出していた恐怖をガイアメモリに封入。すると今度は銃を向けられたので、是非も無しと変身して飛蝗怪人に。
肉体の認知能力に長けており、自分の身体がどんな形で、どんな可動をするのかを正確に知覚出来る。

・黒服
えげつない実験を行った悪い大人。
しかし旧叢雲コウとは正式な契約を交わし、実験の同意を得て、対価も支払っているので質が悪い。
予想外の現象を起こした主人公に興味津々な模様。

・理事
黒服のビジネスパートナー。
知恵を借りたり出資を受けたりの関係なので、黒服の要求にも反感無く協力している。が、今回のは流石に少々ヤバイと思ったらしい。

・飛蝗怪人(ホッパードーパント ベルト怪人態)
叢雲コウが自ら生成したホッパードーパントメモリとガイアドライバーrexによって変身した姿。
直挿しのホッパードーパントとは違い、BLACK SUNの怪人態に近い造形をしている。
武装は前腕と脹ら脛に付いたノコギリ状のトゲと、鋭い爪。そして絶大な咬合力を誇るクラッシャー。
仙骨からは2本1対の尾葉が生えており、微細な気流の変化をキャッチする高感度センサーとなっている。
まだ恐怖の抑制が甘い状態であり、素の攻撃でマキシマムドライブと同等の威力を発揮する。この状態で更にマキシマムを発動すると、絶大な出力が発生する代わりにエネルギーのオーバーフローが引き起こす激痛が全身を襲う。

~アイテム紹介~

・ガイアドライバーrex
叢雲コウが使用した変身ベルト。
本来は敵勢力のドライバーだが、コウの趣味により採用された。実際、1人用のライダーベルトであるロストドライバーよりも拡張性があり、ホッパーメモリには合っている。
更にコウの趣味によってマキシマムドライブ機能を実装。ゼロワンドライバーのように、装填したメモリを叩く事でマキシマムを発動させる仕様となっている。

・ホッパードーパントメモリ
叢雲コウが自身の恐怖のエネルギーを結晶化させる事で、蝗害の概念を封入し生み出したメモリ。
原作ではランキング塗装はされず、上の下程の強さだったが、このメモリは準幹部級であるシルバーランクの1歩手前程度の出力となっている。
絶大な被害と同時に肥沃な土を運び恵みをもたらす河川の氾濫等の災害と異なり、蝗害は一切のメリット無しに飢餓のみをもたらす最古にして最悪の厄災の1つ。故に内包する恐怖は絶大であり、桁違いの出力と毒性を持つ。
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