(コウサイド)
「久しいな、叢雲コウ」
「おう、良く来てくれたなマエさん」
月明かりも無い暗い夜。蝗屋の扉が開かれ、慣れ親しんだ双頭の異形、マエさんが入って来る。
「何か飲むか?」
「気遣いは結構。そう言ったものとは無縁の身体故にな」
「だろうな、言ってみたかっただけだ。で、どうだった?」
「あぁ、其方の予想通りだったとも」
聞きながらソファを指差してみるが、それも首を振って断られた。ホント、マエさんは座らないな。
「じゃあ、マエさんとデカゴルなら出来そうかい?
「フム・・・黒服も含めれば、その為の触媒は出来るだろう。しかし、どこまで行っても所詮は触媒。本人にそれを行う技量がある前提の補助具に過ぎない」
「了解だ。そこまでは俺が鍛練で持って行くさ」
「ならば、此方は任されよう。そして、もう1つ」
テーブルに置かれたのは、銀色のアタッシュケース。開かれたそれの中身を見て、俺は微かに眼を見開く。
「
「うむ。効果の程も、我が身で検証済みだ」
【
腕を捲り、起動したメモリをガキョッと突き立てるマエさん。前腕に刻まれた生体コネクタからメモリが刺さり、その人形の肉体を変質させる。
右頭に描かれた眼には前方後円墳型の鍵穴が、左頭には鍵束のシルエットが出現。暗い紺のタキシードは鮮やかな青色に染まり、回路基盤模様とキーボードのような分割線が現れる。そして指にはそれぞれ異なった形状の鍵の模様が浮かび、半透明のガラス細工にも似た質感へと変わった。
「キーメモリ、完成してたんだな。それはそうと、直挿しなんてして大丈夫なのか?」
「問題は無い。所詮仮初めの肉体、毒素の影響は無いに等しい。しかし、事前に聞いていた《失せ物を発見する》と言う能力はどうにも発動しそうに無い」
「成る程・・・毒素の影響を受けず、最低限起動と変貌は出来る。代わりに平常の適合すら出来ず、出力やパフォーマンスが極端に落ちる・・・そんな所かな?」
「恐らくは。最低限の動作確認にはなるだろうが、余り当てにはならない」
「まぁ、それでも無いより4倍はマシだな。で、他にも何かあるんだろ?」
「無論だ」
メモリを抜いてドーパント化を解除したマエさんが、懐に手を差し込む。そして取り出したのは、2つのガジェット。
「おぉ!フロッグポッドにデンデンセンサーか!これでメモリガジェットはコンプリートだな!」
【
それぞれの疑似メモリを装填し、ライブモードに変形。フロッグポッドはギュルコギュルコと鳴きながら跳び跳ね、デンデンセンサーは壁に張り付ければゆっくりと這って進み始める。
「また仕事の幅が広がりそうだ。ありがとな」
「その謝礼、謹んで受け取ろう。このメモリも使うが良い。専用の保管箱も、ガレージに搬入しておく」
「おう、有り難く」
キーメモリを受け取ると、マエさんは恭しく一礼して事務所を立ち去った。
宵闇に消える前を見送り、ソファにごろんと寝そべって脚を組む。
「キー、か・・・行けるな」
脳内で理論を組み上げ、必要な要素を洗い出す。その上では、可能。ただ、机上の空論にはイレギュラーが付き物だ。俺の理論の実証には、実験と、何より覚悟がいる。自分の本質を理解して、上っ面のテクスチャでしか無い自分自身を受け入れられるか・・・
「まっ、段階を踏むしかないな。今世界を認識してる自我も自分、その裏に眠ってる本質も自分。清濁併せ呑むじゃねぇが、結局自分に意味を見出だすのは自分であって、要は気の持ち様って事を教えれば良い。俺と
━━呼んだか?━━
「おう。そろそろ飯の時間だ」
内側から響く声に答えて、ぐいっと立ち上がる。冷蔵庫から保存食を幾つか取り出し、1つ食べながら残りをウェストポーチに投入。バチッと腰に巻き付け、ガレージに降りた。
「さぁてと、じゃあ行きますか!」
ライドクウィンケーのエンジンを掛け、ハンガーから車体を外す。シャッターを開いてライトを点け、一気に走り出した。
「破界の零式、黒蝗」
━━━━━
━━━━
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「へぇ・・・へぇ・・・うっ・・・」
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
ガレージ。大型の空調機の唸りが響く中、モアとリエはスポンジマットを敷いた床にへばり付いていた。
「ハイお疲れ。まぁ悪く無いんじゃない?ナチュラルにしては」
ブシュッと特殊冷媒をコートから噴射させながら、軽く立ち上がる。全身から蒸気を立ち上らせ、腹部にドライバーを生成。
【HOPPER!】「変身」
そしてローザストに変身し、背中に展開した羽から一気に体温を放出した。
3人で行っていたのは、基礎的なトレーニングである腹筋・背筋・腕立て・スクワット。キヴォトス人の初心者である事も加味して、それぞれ50、50、50、100と目標を割り振った。結果、エリは凡そ半分、モアは7割程でダウン。床に倒れ付し、息も絶え絶えとなっている。
一方、俺の方は10kgの冷却コートを着込んだまま熟して尚体力的にはまだまだ余裕だが、やはり放熱能力に難がある為一旦休憩とした次第だ。
「ふぃ~・・・全く、つくづく不便な身体だこと」
「・・・変身って、ホントに変わるんだ」
「ん?あぁ、そう言えば変身するのを見せたのは初めてだったな。そうだ。俺はこのドライバーと、ガイアメモリを使って変身する訳だ」
コツコツと、ドライバーに装填されたメモリを指先で叩く。そして大きく空気を吸い込み、大量の蒸気を気門から吐き出した。
「よーし、冷却完了っと」
「冷却・・・上手く、行かないんですか?」
「おう、まぁな」
ドライバーからメモリを引き抜き、変身を解除。床に置いていたペットボトルから水を飲み、隣に置いていたタッパーを開ける。中身は、蝋紙で包んだ保存食。
「ほれ、これ食え」
「あ、ありがとうございます」
「どーも~・・・これ、何?」
蝋紙を剥がし、中身をじっと見るモア。表面は白っぽく、所々赤黒く、焼き菓子とは違ったしっとりとした固さを持つそれは、モアからすると見慣れないものだったらしい。
「おう。砕いた干し肉とナッツ、あとドライベリーを混ぜて、溶かしたラードで固めた保存食だ。ペミカンっつってな。蛋白質、ビタミン、糖分、脂質、あと俺のは塩分もだな。全てを効率的にバランス良く、瞬時に補給出来る優れモンよ」
「へぇ~、便利・・・うまっ!」
「本当ですわね、でも・・・そんなに、量は食べられませんわ・・・」
「まぁ、そりゃ繋ぎが丸ごと蝋化したラードだからな。胃を慣らしとかねぇときっついぜ?だが、このお陰で乾燥さえ保てば常温で5年とか10年保存出来る。お湯で解せば即席スープにもなるしな。
最近手作りにハマっちゃって、かなり作り置きしてんだよ。タッパー1つ分あれば、俺でも半日はフルで動けるからな」
「逆に言うとそのカロリー量を半日で消費すんの?」
「燃費が悪くてな、身体をでかくするには毎日毎食チャレンジメニューじゃねぇと足りねぇぐらいなんだわ。1日絶食したら多分餓死するぜ俺」
「燃費悪いなんてレベルじゃありませんわね」
もしょもしょとペミカンを齧って水で流し込みながら、呆れたように呟くリエ。モアは既に食べ終わり、ストレッチを始めている。
「んっ!何か力が湧いてきたかも!」
「おう、吸収が早いな。じゃ、俺が教えた正しい姿勢を守ってトレーニングを続けろ。運動後の蛋白質補給を忘れるなよ」
「はーい」「分かりました」
「宜しい」
2人の返事にウンウンと頷き、満足げに笑う。そしてグビグビと水を飲み干し、ドゥオルギャリーの縁に座った。
「さてと。最終確認なんだがな?」
2枚の紙を取り出し、2人に見せる。それは、幾つかの条項を纏めた契約書だった。
「俺はお前らを強くしてやれる。だが、それは単純なトレーニングじゃない。冒涜的な知識を授け、自分の内側へのアクセスパスの開通による強化・・・いや、存在そのものの高次元昇華とも言えるかもしれない。その過程で、お前達は自分と言う存在を信じられなくなる可能性がある。この契約書にサインすれば、延々と茨の道を歩かされる事になるかも知れない・・・今なら、普通の学生生活に戻れる。どうする?只の学園生活を送り、青春を謳歌するか・・・」
「「っ・・・!?」」
「化物になる可能性を呑んで、強さを求めるか」
唸るように声のトーンを下げて右手を覆うグローブを外し、異形と化したそれを晒す。虫のように節くれ、ダークグリーンの硬い甲殻と筋繊維に覆われた手。異質なそれは、2人の恐怖を掻き立てるだろう。
「自分の【根源】が表出して、
メキリと指を鳴らし、凄んで見せる。涙模様からはドス黒いオーラが立ち昇り、本能に訴え掛ける恐怖を振り撒く。
「・・・優しいんだな、イナホさん」
「・・・ん?」
思ってもいなかったモアの言葉に、逆に困惑させられた。
「ん~と、俺今結構カッコつけて脅し掛けたんだけど・・・何でそうなる?」
「だって・・・なぁ?」
「ふふっ、そうですね」
「解せぬ」
微笑み合うリエとモア。その生暖かく優しい空気に、むず痒さにも似た絶妙な居心地の悪さを感じた。
「だってイナホさん、深く踏み込まずにここで働くって選択肢出さなかったじゃん。それってつまり、アタシ達が覚悟を決められないなら危険には近付けないって言う線引きでしょ?まぁ、そっちから誘って来といてその態度はちょっと思うとこあるけど・・・それも、今聞かされたリスクを考えたら当然かなって思うし」
「その上で、私達の答えは1つ」
目配せし、頷き合い、再びイナホに向き直る。
「アタシは、蝗屋に入るって決めた」
「私も、隣で強くなると決めました」
「「どうか、宜しくお願いします!」」
「・・・成る程な。よし分かった。お前らを強くしてやる。多少の外法を使う事になるが・・・俺基準の強さは保証しよう」
「「はい!」」
2人の強い返事を聞き、俺は呆れたように笑った。
━━━
━━
━
「では、冒涜的座学の基礎編と行こうか」
「なんかすっげぇパワーワードだな」
「しゃーねぇだろ、事実なんだから」
ガレージの脇、ホワイトボード前の椅子に座らせたモアにそう返し、俺は冷却コートを脱いでハンガーに掛ける。下のカッターシャツも、勢い良くボタンを外して脱ぎ捨てた。
「こ、これが・・・」
眼を剥くリエに、軽く腕を広げて見せる。
全身に広がる、眼につく程度の火傷痕。更に体側には気門の痕跡が痘痕のように残って並ぶ。そして、上腕半ばから先が異形と化した右腕。
「先に言っとくが、俺の場合は根源に恐怖しか無い。だから此処まで、その~・・・ヤバい見た目になってる。普通は恐怖と釣り合う神秘ってのがあって、それが普段お前らを守ってるんだ」
「神秘・・・何かスピリチュアルだな」
「おうおう、拳銃弾でも車のドア程度なら貫通出来るのに、それが当たってイテテで済んでるお前ら自身もかなりファンタジーな存在って事を認識しとけよ?」
「あ、そうか。そうだった」
「言われてみれば、どうして銃に撃たれて平気なのか気にした事もありませんでしたわ」
「まぁ、当たり前を疑うのは難しいからな。灯台下暗しってヤツか」
「続けるぞ。根源ってのは、まぁザックリ前世みたいなもんだと思えば良い。今は人の枠に収まってるが、これは概念の擬人化みたいなもんだ。その概念が持つ、人に恩恵を与える側面が神秘に、損害を与える側面が恐怖になってると思え。俺の場合は蝗害、蝗の群れによる大規模な食害だ。これは川の氾濫なんかと違って、一切の恩恵が無い災害。故に、俺には殆ど神秘が無かった。まぁ、今は後付けで仮面ライダーの変身者ってテクスチャをひっ被せて神秘を獲得したがな。飽くまで例外中の例外だ」
「おー・・・因みにどうやったかとかって?」
「知らん方が良い。あんなのやる必要ねぇし、何よりアレはお前らに俺が施すヤツより2、3本はラインすっ飛ばしたマジモンの外法だからな。アレに耐えられる生徒は居ない。絶対にな」
と言うか、まず自分のテクスチャひっぺがした所に偶々俺が入り込んだからこうなってるって言う最大級のイレギュラーだからな。自殺して臨死体験したら人格変わったってのが近い。それは本人の力とは違うだろうから何の意味も無いだろう。
「でだ。お前らは普段、神秘を最低限の防御とフィジカルブーストにしか使ってない。本来は重たい筈の銃を持って楽々駆け回れたり、バカ程反動強い銃を平然と片手撃ち出来るヤツが居るのも、全て無意識のブーストに依るものだ」
立て掛けてあった2人の銃をそれぞれ手に取り構えて見せる。モアの銃は、モーゼルM712・シュネルフォイヤーのカービンモデル。最初からウッドストックが付いていて、ロングマガジンも合わせて連射で弾丸をばら蒔くスタイルだろう。
一方、リエの銃はコルトガバメント。よく見ると全体的にパーツがカスタムされており、筋力の強くないエリでも使い熟せるよう調整が施されている。
どちらも本人に合うよう手が入っているが、しかし神秘は殆ど乗っていない。
「謂わば、蛇口から水がほんの少しずつ垂れてるような状態・・・お前らは、この蛇口から流れる水の量を自分の意思で調節出来るようにならなきゃいけない。俺の場合は、こうだ」
銃を置いて、蝗丸を抜刀。神秘を右腕に集中し、刀身に擦り付けるように塗り広げる。
「わぁ・・・!」「そんな事も、出来るようになるんですか・・・?」
「あぁ。意識的であれ無意識的であれ、これが出来るのが上位層だ」
「成る程・・・何をするにも、まず己を知らねば始まらぬ、と言う事ですわね?」
「呑み込みが早くて結構」
ニヤリと笑いながら、刀身のエネルギーを払った。そしてシャツとコートを着直し、熱を逃がす。
身体を鍛えるにしても、何よりまず肉体を正しく認知していなければどうにもならない。そして、その前提となる理論の理解も不可欠だ。
「ってな訳で、暫くは肉体認知と紐付けた神秘の感覚の擦り合わせだ。それを助ける為に、ちょっとした裏技を使う」
ドゥオルギャリーの奥、そこに置かれた特殊金庫。その表面にむき出しになった電子基板に、左手の親指を押し当てる。
【KEY!】
キーメモリを起動し、ドライバーの左スロットに装填。左手が青白く変質し、回路模様が波紋のように輝いた。
━ピピッ ガシャンッ━
音を発ててロックを解除した扉を開き、中身を取り出す。それは、丁度昨日受け取った物の1つ・・・生体コネクタ手術器。
「そ、それは?」
「コイツは生体コネクタ設置手術器。Living
Connector Setting Operation Gun、略してL.C.S.O.Gとも言う。コイツは、このガイアドライバー・・・ベルトを介さず、簡易的なコネクタによってガイアメモリを肉体に挿入し、超常の怪人・・・ドーパントに変貌させる為の装置だ。このドライバーはガイアメモリに対する安定装置であると同時に、毒素を濾過するフィルターでもある」
「毒素?」
「っていうと、じゃあそのコネクタとか言うの使ったら・・・」
「まぁ、お察しの通りだな。心身共にズタボロになる上に依存症になって無事じゃ済まない。暴れ回る分、本人だけじゃ無しに周囲にも多かれ少なかれ被害が出る最悪の危ないオクスリだと思っときな。
勿論、俺はそんな事はさせん。あくまでもコネクタのみ、変則的な活用法だ。と言う訳で、絶対にコネクタにメモリを挿そうとしないように」
「はいっ!」「分かりました!」
ビシッと返事をする2人。危険指定薬物みたいなもんだからな、危険の伝達は怠っちゃいけない。
「それじゃ、コイツを使ってやる事の説明に移るぜ。コイツはさっき言った通り、ガイアメモリを身体に挿入する為のコネクタを設置する物だ。生体コネクタとは詰まり、心身を変容させ、新しいテクスチャを肉体に被せる起点となる場所。既存のテクスチャに干渉するには最適なんだ・・・あっ」
言ってて気付いたが、現状のテクスチャで人格とか記憶とか存在を確立してるキヴォトス人がメモリを直挿ししたら、下手すりゃ重度の人格混濁を起こすんじゃないか?無理矢理新しいテクスチャで上書きするようなもんだから・・・
「・・・万が一を考えて、メモリブレイクは習得するべきだな」
「ん、どうかしたの?」
「いや、何でも無い。要するに、今の身体に根元の力を引き出す為の井戸みたいなもんになるのさ」
「うーん、何となく分かったような、分からんような・・・って言うかさ、大事な事忘れてた。それ、痛くない?」
「分からん。使った事無い」
「無いんですの!?」
「俺は下手すると周囲一帯を巻き込む盛大なアレルギー反応を起こしかねないからな、その可能性を作る訳には行かんのだよ。街1つ消滅で済めばラッキーってレベルだから」
「うわ・・・それは確かに、使っちゃダメだわ」
「まぁあってもピアッサーと同じぐらいだろ。どうする?怖いなら止めるか?」
「・・・いや!契約書にサインした以上、アタシは逃げない!」
「良いだろう。じゃ、左腕出そうか」
手術器にホッパーメモリを装填し、ガションと押し込んで銃口を伸ばす。差し出された左腕、その前腕内側に銃口を押し付け、引き金を引いた。
━バチンッ━
「ッ~・・・」
「はい終わり」
「えっ、もう?」
キョトンとしながら、前腕を見やるモア。そこには、確かにタトゥーのように生体コネクタが刻まれている。
「どうだった?」
「全然痛くなかった。何か当てられてるな~って感じだけ・・・うん、違和感も無い」
手を握ったり開いたり、グルグル回したりして加減を確かめ、モアは答える。
「消えろって念じたら消える筈だからな。さて、リエはどうする?」
「イナホさん。失礼ですが、それは愚問でしてよ?モアさん1人にやらせて自分は逃げる、なんて事はしません。そもそも、私もそれを覚悟の上で契約書にサインした身ですので」
「良い覚悟だ。じゃあ、同じく左腕な」
手術器を再び変形させ、リエの腕に当てる。そして引き金を引き、同じようにコネクタを刻印した。
「・・・本当に何も感じませんね」
「そりゃ良かった。異常が出たらすぐ報告しろよ、消すから」
メモリを引っこ抜き、手術器を金庫に戻す。キーメモリをドライバーから引き抜きながらふと振り返って2人を見れば、コネクタを出したり引っ込めたりしてはしゃいでいるのが見えた。
ズクリと胸の内が痛む。アイツらは、あれがどう言う物なのかまだ実感出来ていない。それはそうだ。俺はドーパントになると言う事がどういう事なのか、その結果どうなるのか、謂わば末路を知っている。それを知らない少女に、そこまで理解しろと言うのは酷な話だ。
「・・・座学で、少々脅しを強めに入れておかなきゃな」
教材は、俺の書いている同人漫画のW。ドーパントメモリのユーザーがどんな有り様になるか、描写を追加して生々しく描いた。多少の抑止力になってくれるだろう・・・自惚れかも知れんがな。
「さて、今日はここまでだ。トレーニングを重ねて、感覚を馴染ませろ。コネクタからの神秘の湧出がどの程度引き起こせるかのデータも必要だ」
「はーい!」「承知しました」
「そんじゃ、今日は解散としよう。気を付けて帰れよ」
「うん!じゃあまた今度!」「ごきげんよう」
「・・・はぁ」
ガレージを去る2人を見送り、重く溜め息を吐く。そしてキーメモリをドライバーに挿し、再び金庫を開けた。取り出すのは、マエさんから受け取ったガイアドライバー。原作で園崎家が使っていた、メモリを体内に挿入するタイプのドライバーだ。
「・・・」
ガシャンと音を発てて飛び出した帯が、腰に巻き付く。ずっしりと重い異物感が、やはり自分の身体と融合しているドライバーとは別物だと実感させてくれる。
【HOPPER!】
「・・・っ」
━━止めておけ━━
「・・・だよな」
ドライバーのバックルに端子が刺さる寸前、メモリの内側から止められる。同時にブワリと悪寒が走り、髪が逆立った。
「どうにも、メモリを体内に入れるタイプはマズいらしいな。そこが、俺の定義する仮面ライダーとドーパントの分水嶺か」
━━そもそも、私と言う恐怖が分離して封入されているのがこれだ。お前はベルトを使う事で、
「まぁ、無制限の黒蝗だろうなぁ。じゃあ、このドライバーは使う訳には行かねぇか。勿体無いし、いざって時の予備札は欲しかったんだが・・・」
━ジリリッ━
「ん、客か?」
ドアの開閉を知らせるセンサーアラーム。ガレージの階段を跳び上がり、事務所に戻る。丁度そのタイミングで、相手も事務所に入って来た。
「ようこそ万事蝗屋へ。ご依頼は・・・って、君は!」
「・・・お久し振り、でしょうか。仮面ライダー」
To be continued・・・
~キャラクター紹介~
・叢雲コウ/草薙イナホ
少々外法に手を染めた飛蝗少女。
ガイアメモリの性質とキヴォトスのテクスチャの合体事故を危惧し、しかし同時にメモリ由来の技術による神秘の覚醒の可能性に期待してもいる。ミュージアムのような外道にはなりたくないので、説明は出来る限りを尽くし、メモリの直接使用は禁止している。
コウにとってのホッパーメモリの本質は、まどマギのソウルジェムに近い。
・蝗の王
対話を経てかなり丸くなった蝗害の擬人化。
定期的な広域捕食によって飢えを満たしている。獲物は廃墟を彷徨くロボットだったり、ろくでも無い輩が作った施設だったり。
・マエストロ
仲良し芸術家。
ガイアドライバーと生体コネクタ設置手術器、更にキーメモリと専用の金庫を万事蝗屋に搬入した。
新開発のコネクタ手術器を自分で試したが、特殊な身体故に殆ど毒にも薬にもならないような出力になってしまった。その代わり、毒素の影響は受けない模様。
・亜門モア
心の強いゲヘナ娘。
筋力はそこそこ。ここからトレーニングで伸ばしていく。生体コネクタ手術を受け入れ、ホッパーメモリのユーザー状態となった。
・科加部リエ
モアちゃん強火なトリニティ娘。
筋力は弱め。テクニック向きなタイプ。理論的な理解力に長ける。
モアと同じくホッパーメモリの生体コネクタを刻印し、ユーザー状態になった。
~アイテム紹介~
・生体コネクタ設置手術器
ゲマトリアが開発した装置。拳銃型のデバイスであり、スロットにメモリを装填して任意の部位に撃ち込む事で生体コネクタを刻印する。しかし、コウは直挿しでメモリを使うつもりは毛頭無い。
・ガイアドライバー(初期型)
ゲマトリアが開発した、生体挿入式のガイアドライバー。コウのドライバーを参考に、コウから提供された図面ベースで作られている。
しかし、コウは《仮面ライダーの変身者》のテクスチャがひっぺがされてしまう為、これを使用出来ない。
・特殊金庫
ガレージに搬入されたゲマトリア製の金庫。ドゥオルギャリーの後ろに設置されている。
ダイヤルやプッシュキーは存在せず、剥き出しの回路基板にキーメモリの力でアクセスする事でしか開かない。主にガイアドライバーと生体コネクタ設置手術器を保管している。
・フュルスト・スパイラル
モアの固有武器。フュルストはドイツ語の侯爵。シュネルフォイヤーのカービンモデル。
ロングバレルに木製フォアグリップが付いており、手が引っ掛かりやすいよう逆三角形型に盛り上がっている。25発装填のロングマガジンを使用し、クリップによるクイックリロードも可能。
・コスモス
リエの固有武器。コルトガバメント。
スライドトップにコッキングセレーションが追加されていたり、トリガープルが軽かったりと、入念なカスタムが施されている。言ってしまえば、スネークが絶賛したあの有名な銃とほぼ同じ状態と言って良い。