相変異 黒蝗   作:エターナルドーパント

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開幕

「私のミスでした」

輝く朝日が貫く電車の中、少女は懺悔するように呟く。

「私の選択・・・それによって招かれた、この全ての状況・・・」

太陽を背にした少女の顔は、逆光に塗り潰され正面からは伺えない。しかしその胸からは紅い雫が垂れ、彼女が重傷を負っている事を如実に示している。

「結局、この結果に辿り着いて、貴方の方が正しかった事を悟るだなんて・・・今更図々しいですが、お願いします━━━━━先生」

自嘲も込めて、彼女は向かいに座っている大人に懇願した。

「きっと私の話も忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、恐らく貴方は同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから・・・

ですから・・・大事なのは経験では無く、選択。貴方にしか出来ない選択の数々」

下がっていた少女の視線が、向かい側の大人、先生のそれと交わる。白むような逆光の中で、それでも先生は、その眼を見つめた。

「責任を負うものについて、話した事がありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが・・・今なら、理解出来ます。大人としての、責任と義務。そしてその延長線上にあった貴方の選択。それが意味する心延えも・・・ですから、先生」

スッと、熱を抜くように微笑む。どこまでも優しく、希望を託すように。

「私が信じられる大人である、貴方になら━━━━この捻じれて歪んだ終着点とは、また別の結果を・・・そこへ繋がる選択肢は、きっと見つかる筈です。だから先生、どうか・・・

この絆を・・・私達との思い出、過ごして来た、全ての日々を・・・どうか・・・覚えていて下さい」

白い輝きが、強さを増して行く。少女の輪郭を呑み込むように。全てを祝福し、または焼き尽くすように。

「大切なものは、決して消える事はありません。大丈夫です、ですから━━━━」

 

━━━

━━

 

「━━━せい・・・せんせい!起きて下さい、先生!」

”んっ?ん~、あぁごめんごめん”

連邦生徒会本部。深い藍色の長髪と尖った耳が特徴の、眼鏡を掛けた少女に呼び掛けられ、その大人━━━━━《先生》の意識は、微睡みから浮上した。

”いやぁ悪いね、グッスリ寝痩けちゃって”

「・・・いえ、お待たせしたのは此方ですし、先生も長旅でお疲れでしょうから・・・致し方無い事かと」

”そっか、それはどうも”

「ですが、しっかりと目を覚まして、集中して下さい。

改めまして、私は七神(なながみ)リン。この学園都市《キヴォトス》の連邦生徒会の幹部です。そして貴方が恐らく、私達がここに呼び出した先生・・・のようですが・・・」

”そうだね、その通り・・・で、何か問題が?”

「あぁ、いえ。推測形で言ったのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです。

ひとまず、着いて来て下さい。先生にやって貰わねばいけない事、その簡単な説明を行いますので」

リンの背中を追いながら、先生は粗方の説明を聞いた。

キヴォトスが数千の学校の依り集まった、超巨大学園都市である事。自分がその統括行政機関である連邦生徒会の1部門、連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)の顧問として召喚された事。シャーレは超法規的機関であり、あらゆる生徒の所属を許し、更には各自治区の法に縛られない自由な行き来が可能である事。

”何ともまぁ、とんでもない特権機関だねこれは”

乗り込んだエレベーターの中で、先生は小さくボヤく。

「はい。その特権を活用し、各学園の救援やサポート等をお願いしたいのです」

”それはまた責任重大だ。ま、出来る限りはやるさ”

チンと小気味良い音が鳴り、エレベーターの扉が開く。扉から脚を踏み出して間も無く、凄まじい剣幕の怒声が降りかかった。

「ちょっと待って代行!見付けた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んで来て!

・・・ん?隣の大人の方は?」

リンに対してズンズンと詰め寄る、濃紺の髪をおさげにした少女。しかし彼女はリンの後ろの先生に気付き、つり上がっていた眉を下げる。

「首席行政官、お待ちしておりました」

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、現状に納得の行く回答を要求されています」

更に続いて長身黒髪の少女と、眼鏡を掛けた尖り耳の少女もリンの前に立ち塞がった。

「・・・ハァ、面倒な人達に捕まってしまいましたね。

こんにちは。各学園から態々ここまで訪問して下さった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ・・・大事な方々がここを訪ねて来た理由は、よく分かっています。今、この学園都市に起こっている混乱の責任を問う為、でしょう?」

”何で態々そんな敵作る言い方しちゃうかな”

「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!その為の連邦生徒会でしょ!?」

”(あー、こりゃ下手に口出ししない方が良いかな)”

先生は門外漢である事を自覚し、ひとまず静観の姿勢を取る。

そうして聞こえて来るのは、やれ風力発電所がシャットダウンしただの、矯正局から脱走者が出ただの、不良に生徒が襲われて治安が悪化しているだの、出所不明のゴーストタンクやゴーストヘリの違法流通量が2000%以上増加しただの、中々に物騒なワードの数々。

”(ん~・・・意識のアプデ間に合うかなぁ?)”

「こんな状況で、何故連邦生徒会長は姿を見せないの?それも何週間もよ!?会わせて!今すぐ!」

「・・・連邦生徒会長は現在、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

”(おーっと、さては思った以上に宜しく無いな?)”

「えぇ!?」

「やはり、あの噂は・・・」

「結論から言うと・・・《サンクトゥムタワー》最終管理者が居なくなった為、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回出来る方法を探していましたが・・・つい先程まで、そのような方法は見付かっていませんでした」

「先程まで、と言う事は、現在は方法があると言う事で宜しいですか?」

「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれる筈です」

”・・・え、ここで私?”

突然の指名に、虚を突かれてポカンとする先生。情報のインプットに集中していた分、アウトプットに転じるまで一瞬のラグが生まれてしまった。

「ちょっと待って、そう言えばこの先生は一体どなた?どうしてここにいる訳?」

「キヴォトスではない所から来た方のようですが・・・先生だったのですね」

「先生は、連邦生徒会長の特別指名によって着任したお方です。これから、キヴォトス各所で働いていただく事になります」

「行方不明になった連邦生徒会長が指名って・・・あーもう!ますますこんがらがって来たじゃない!」

”まぁ、そういう事みたいだから、宜しくね”

「あ、はい。私はミレニアムサイエンススクールの・・・いやいや、今は挨拶とかどうでも良くて!」

「そちらの喧しい方は放置して問題ありません。続けますと・・・」

”だから何でリンちゃんは一々攻撃しちゃうかなぁ!?”

「先生の言う通りよ代行!喧しいだの面倒臭いだの人の事を好き放題言って、貴方は一々グチグチネチネチと・・・あ、先生!私は早瀬(はやせ)ユウカですので、覚えておいて下さい!」

”ユウカね、了解。これから宜しく”

「私はトリニティ総合学園所属、羽川(はねかわ)ハスミです」

「同じくトリニティから来ました、守月(もりづき)スズミと申します」

「私はゲヘナ学園の火宮(ひのみや)チナツと言います。宜しくお願いします」

”ハスミ、スズミ、チナツか。覚えておくよ、皆宜しくね”

ギスギスしかけた空気に揉まれながら、先生は集まった生徒達の名前を覚える。その空気感を何とか拭おうと、努めて明るい声色で話す。

「・・・先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げたとある部活の担当顧問として此方に来る事になりました。

連邦捜査部《シャーレ》・・・先生には、先程説明しましたね」

”キヴォトスの生徒なら誰でも所属可能、どこの自治区でも文字通り好きに動ける特権機関ってね”

「その通り。何故、連邦生徒会長がここまでの権限を持つ機関を立ち上げたか・・・それはここにいる誰にも分かりませんが・・・

ひとまず、部室です。シャーレの部室は、ここから約30km離れた外郭地区にあります。今は何も無い建物ですが、連邦生徒会長の命令で、地下に()()()()を搬入してあります。先生を、そこにお連れせねばなりません」

”さ、30km・・・ちょっとした行軍じゃないか。脚じゃキツいな”

「ご安心下さい。此方でヘリを用意出来ますので」

顔を青くする先生にそう言って、リンはスマホを取り出す。そして連絡先を素早くスクロールし、通話相手を数秒呼び出した。

『はーい、もしもし~?』

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なのですが・・・」

『シャーレの部室?あぁ、外郭地区の?あそこ今大騒ぎになってるよ?』

「お、大騒ぎ?」

”おっとぉ?”

空を睨むように見開かれるリンの眼。どうやらまたしても問題が発生したようだと、先生の口元までもが引き攣る。

『矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしててさ、ドンパチ賑やかにやってるよ。連邦生徒会憎しで不良達を纏め上げて、どっかから巡航戦車まで拾って来たみたい。ヘリなんて飛ばしたら、すぐ撃ち落とされちゃうんじゃない?

で、な~んか連邦生徒会所有のシャーレの建物を丸ごと占拠しようとしてるっぽいよ?何かしら大事なものがあるみたいな動きだけど?』

”う、うわぁ悲惨・・・”

「・・・」

『まぁ、もうとっくにメチャクチャな場所なんだから、これ以上何があっても・・・あっ、ご飯のデリバリー来たからまた連絡するね、じゃあね~先輩』

「・・・~ッ!!」

ブツッと容赦無く切られる通話。手の中の端末を握り潰さんばかりの形相で睨むリンに、若干同情的な視線が集まる。

”・・・取り敢えず、深呼吸でもして落ち着こうか”

「・・・大丈夫です。少々問題が発生しこそしましたが、大した事ではありません。えぇ、大した事ではありませんとも」

”(自分に言い聞かせてる・・・)”

青筋を立て、今にも爆発しそうなリンに戦々恐々とする先生。地獄のような空気の中で、誰か助けてくれないかと切に願った。

「おや、ここに居たか」

その願いは、聞き届けられた。尤も、それが神か悪魔かは定かではないが。

「いやぁ済まんな、遅くなっちまった。道が混みに混んでてな、片付けながら来た次第だ」

黒いコートを羽織った、長身の人物。しかして、その顔面は異形そのもの。真っ赤な吊り眼と鋭い顎を備えた、バッタに似た凶悪な面構えである。

”うおっと!?き、君は・・・”

「イナホさん、何故ここに?」

「蝗屋じゃない!こんな所で会うなんて」

その様相に対して驚く事も無く、ハスミとユウカが話し掛ける。知らぬ顔では無い様子だ。

”えっと、お知り合い?”

「えぇ、この方は・・・」

「あぁっと、ハスミちゃん。自己紹介は自分でさせてくれよ。大事なお仕事相手だからな」

”お仕事?”

「あぁ、そうだ。始めましてだな、先生」

胸元に手を添え、イナホと呼ばれた怪人が恭しく頭を下げる。

万事(よろず)蝗屋(イナゴや)社長、草薙(くさなぎ)イナホ・・・またの名を、仮面ライダーローザスト。連邦生徒会長からの直々のご依頼により、たった今からアンタの指揮下に入る」

「連邦生徒会長から!?」

「あぁ。これ、依頼書な」

トランプマジックのように取り出されたのは、白い便箋。リンが中の依頼書を取り出すと、そこにははっきりと連邦生徒会長の捺印が。

「要約すれば、『これからキヴォトスに来る《先生》の指揮下に入り、出来る限り守って下さい』って依頼だな。本来、こう言う無茶な依頼は受けないんだが・・・俺の口座に、1億ポンと突っ込まれてた」

”いっ、1億!?”

「そう、1億」

ローザストの口から飛び出した凄まじい巨額。その場の全員が顔を驚愕に染め、先生に至っては手がガタガタと震えている。

「でもおかしいよな。だって連邦生徒会なんて、キヴォトス最大の公的機関だぜ?俺みたいな外様に態々依頼するより、内側なり下部組織なりから人員見繕った方が早いし安上がりだ。ってな訳で、何度か連邦生徒会長に話聞こうと問い合わせたんだが、『現在お繋ぎできません』の一点張りさ。で、結局キャンセルも出来ず、依頼当日が迫るに比例して急降下して行く治安。舞い込む依頼の中には、本来公的機関がやるべきであろう仕事が複数。

おぉっとすまん、回りくどかったな。さて単刀直入に・・・連邦生徒会長、何処行ったよ」

「・・・ハァ。まさか前提として、そこまで理解していたとは」

頭痛を堪えるように頭を押さえるリン。そして、今さっき先生達に伝えた情報を簡潔に回答した。

「あーあ、遂にこうなったか。天才1人頼りの組織はこれだから・・・」

「遂に、とは?」

「掛け替えの無い一騎当千1人よりも、代替可能な1000人の凡人を使い熟してる組織の方が柔軟で強いってんだよ。おうチナっちゃん、そっちの風紀委員長殿にも確り言っとけよ?この前の訓練もほっとんど全員骨の無い腑抜けだったからな」

「うっ・・・耳が痛いですね・・・」

辛辣な物言いをするローザストに、小さく呻くチナツ。しかし、全て事実なのでぐうの音も出ない。

「で、だ。そのシャーレってとこまで護衛すれば良いんだろ?なら、そっちから車でも出せ。俺は愛車で行く」

「そうですね・・・ですが、1人で先生を護りきるのは、流石の貴方でも厳しいのでは?」

「・・・まぁ、俺の戦法は基本的に強襲突撃だからな。防衛しながら進行、ってのには向かねぇか」

「そして、偶然にもここには暇を持て余した方々がいらっしゃいます。連れて行って頂ければ、先生を護るぐらいは出来るかと」

「ねぇ代行、それってもしかしなくても私達の事よね?」

「周りから人居なくなるぞアンタ。政治屋として致命的だろそれ・・・まぁ、言ってる事は間違ってねぇか」

溜め息を吐きつつ、リンを睨み付けるユウカを抑えるローザスト。そして周囲のメンバーを見遣り、肩を竦めた。

「ってな訳だ。忙しい立場んとこ悪いが、ちょっくら手助けしてくれねぇか?なぁに、俺が突っ込んで露払いは済ませる。お前らはビビって腰の引けた奴らを、もう一度蹴散らしてくれりゃ良い」

「・・・分かりました。どのみち、先生を放置して帰ったとなれば、正義実現委員会の名前に関わります」

「ありがとなハスミちゃん。前線で1人じゃ無理があるから、俺の隙を狙撃でカバーしてくれると助かる」

「自警団としても、見逃せる案件ではありません。何より、噂に名高い仮面ライダーの戦い、是非ともこの眼で見させて頂きたいです」

「ほぉ、じゃあ期待には答えないとな。失望はさせないぜ?」

「私としても、ゲヘナ風紀委員会と先生の覚えを良くする機会と捉えましょう」

「おぉ、強かだねぇチナっちゃんは。俺は良いから、他のメンバーが怪我した時は頼むぜ」

「っ~!あーもう!この状況で私だけ帰ったら、怖がって逃げ帰ったみたいじゃない!私も協力するわ!」

「そう来なくっちゃ!早瀬は守りが硬い。先生を側で護っとけよ!」

「言われなくても!」

”す、凄い・・・皆一気に纏まった!”

「まぁ、日頃の付き合いあってこそだがね。おう七神代行、これが人望ってモンだぞ、覚えとけよ」

「チッ・・・では早く出発して下さい。此方も仕事が立て込んでいますので」

「お前さてはマジでデスクワークしか出来ないタチだな?カルシウム摂れよ全くもう」

遂に舌打ちすら隠さなくなったリンにすら軽口を叩き、ローザストは踵を返す。肩をグリグリと回して解し、バシッと叩き付けた。

「よっし!そんじゃあ万事蝗屋、お仕事開始だ!」

 

━━━

━━

 

「トウッ!どりゃァッ!シレァッ!」

最前線の更に先、敵陣に食い込んで大暴れするローザスト。拳銃持ちは受けきって距離を詰め殴り落とし、アサルトライフル相手ならコートで防ぎながら蹴り飛ばす。スナイパーライフルは腕で迎撃(パリィ)し、ハスミの狙撃かもぎ取った車のドア等の投擲で対処。最早相手方にとって大災害と称して差し支えないローザストの活躍によって、後方から追い掛ける先生達に振り掛かる敵弾も多少はマシにはなっている。しかし、烏合の衆とて数倍の物量差がある。即席のチームでは連携などあったものでは無く、段々と追い込まれていた。

「えぇい!違法指定のJHP弾なんて使って、アザになっちゃうじゃないのよ!」

「伏せて下さいユウカ。それと、ホローポイント弾は適法範囲の筈ですが?」

「ミレニアムじゃこれから違法になるのよ!傷跡が残っちゃうでしょ!」

”あーもう!テーマパークみたいに賑やかだなぁドンパチドンパチと!”

生徒達と違って、先生は1発でも当たろうものなら文字通りの致命傷。故に、瓦礫を遮蔽物として戦場の観察に徹している。

”にしても、この配置なら・・・チナツ!ユウカの応急処置は終わったかい!”

「はい、今し方!」

”よし!じゃあ皆!ここから私の指揮にしたがってくれるかな!”

「えっ!?ん~、まぁ先生って言うくらいだし、分かりました!」

「俯瞰視点は必要ですからね、上手く動かして下さい」

”任せて!じゃあユウカ!彼処の赤い車の前で、敵を惹き付けて!ハスミはその隙に、後方にいるスナイパーとガトリングを優先して攻撃!スズミはユウカに火力が集中し過ぎないよう、右左の歩道に交互に閃光弾投擲!”

「「「了解!」」」

先生は隠れながら、それぞれに指示を飛ばした。窓ガラスやカーブミラーの反射も含めて周囲を把握し、適切なポジションを構築。それぞれに明確な指示を与え、ポテンシャルを発揮出来るように指揮する。

「な、何だか、戦いやすい!?」

「確かに、面白いように敵が倒れていきますね」

「これが先生の・・・大人の力、なのでしょうか・・・?」

”へへっ、まぁ悪くないんじゃない?キヴォトス初心者にしてはさ!”

4人は先生の指揮センスに驚きつつ、ローザストの背中を目指す。そして当のローザストはと言うと・・・

 

━バキョッ メリメリメリッ バカンッ━

 

開け胡麻(オープン・セサミ)ィ♪」

 

「ひ、ひ、ひえぇぇぇ!?」「化物ォ!?」

 

戦車の砲塔に取り付き、ハッチを素手でひっぺがしていた。

「う、うわぁ・・・」

「こっわ、トラウマになるでしょあれ」

”あ、良かった。流石にアレは規格外なんだ。アレすら平常運転って言われたらどうしようかと思った”

「流石に誰でも出来る訳ではありません。あんな事が出来るのは、両手の指が埋まるかどうかといった所です」

”え、逆にそんなにいるの?”

ドン引きする先生達。そんな事は露知らず、全員が竦み上がり縮こまった戦車内に、ローザストは数個の手榴弾を落とした。

こんにちは(ごきげんよう)諸君。そして、さようなら(ごきげんよう)♪」

連鎖的な爆音が轟き、車内からは阿鼻叫喚の断末魔が響く。爆炎と爆圧は鋼鉄の装甲に阻まれ閉じ籠り、破片の跳弾によってミキサーと化す戦車。そんなインスタント地獄を背に、ローザストは優雅に地面に降り立った。

「まぁ、こんなもんか。お、アイツらも来てるな、意外と早いじゃないか」

先生率いる即席部隊が駆けて来るのを見て、ローザストは軽く手を振った。対して、先生含む5人は顔をひきつらせている。

「どうよ、俺の実力は」

「相変わらず、情けも容赦も人の心もありませんね」

「ハスミちゃん言い過ぎじゃない?」

「取り敢えず、参考にならないと言う事は分かりました」

「あらま、ご期待に添えなかったかな?残念無念。にしても・・・」

肩を竦めるローザストは、ふと散らかり放題の道路を見遣った。

「あーあ、見事にぐっちゃぐちゃ。これならいっそ最初からドゥオルギャリーで蹴散らした方が速かったかな」

「絶対止めて!あれ操縦席無いじゃない!貴方と同じ感覚で先生を上に乗せたら吹っ飛んじゃうわよ!」

「あぁ確かに、それもそうか」

”ねぇ、今何かすっごい怖い会話してない?”

「しゃあないしゃあない。どうしても肉体強度の前提認識は食い違っちまうもんさ。と、それはさておきだ。もうちょいだぜ、シャーレの部室」

『皆さん、聞こえますか?今回騒ぎを起こした生徒の特定が完了しました』

”お~リンちゃん!良いタイミングじゃないの!”

『誰がリンちゃんですか全く・・・犯人は、狐坂(こさか)ワカモ。百鬼夜行連合学園で停学処分となり、矯正局に収容されていましたが、今回の騒ぎに乗じて脱獄した生徒です』

「あぁワカモか、道理で」

納得が行ったと手を打つローザスト。対して他のメンバー達は、皆一様に顔を強張らせている。

”知り合い?”

「喧嘩友達兼、腐れ縁と言うか?有象無象を纏め上げて大暴れするのが、アイツのよくやる手口でね。何度か正面からぶつかったが、アイツ程骨のある奴とはそうそうヤり合えるモンじゃない・・・そっか、アイツがいるのか。ククッ、これは何とも・・・」

”仲良し、なのかな?”

「うんにゃ、アイツは此方をそこまで好いちゃいない筈だぜ。まぁ積極的に嫌いって訳じゃ無いだろうけど・・・暴れたくてどうしようも無くなったら、暴力衝動の発散に何度か付き合ったりしたから・・・まぁ、最低限裏切らないとは思って貰えちゃいるのかな?」

”あ~、ライバル的な?”

「ま、そんな理解で十分かな」

『兎に角、複数の類似する前科のある危険人物です。呉々も、注意して下さい』

”ハイハ~イ、リンちゃんも頑張ってね”

『だから、リンちゃんと呼ばないで下さい!』

ブツッと切られる通信。スマホから顔を上げ、先生はメンバーそれぞれを見遣る。

”じゃあ、もう一踏ん張り!やってくれるかな!”

「ここまで来たんですから、付き合いますよ!」

「流石にここで切り捨てて帰りはしません。お供します、先生」

”うん、頼もしいね!それじゃ、シャーレを取り戻そうか!”

 

━━━

━━

 

「着いた!」

「存外、早く片が付きましたね」

シャーレ近傍の不良生徒達は、アッサリと鎮圧された。ローザストが暴れて戦かせ、その隙を先生の戦術が突く。見事な連携は烏合の衆を打ち崩し、悉くを瓦解させたのだ。

『シャーレ部室、奪還完了。私も間も無く到着します。先生、建物の地下で会いましょう』

”ハイ了解。あ、他の皆は連れて来ても大丈夫かな?”

『・・・連邦生徒会長が直々に依頼した、草薙イナホさんは問題無いでしょう。しかし、他の方々は少々・・・』

「成る程、分かったよ・・・じゃあ、ここまでだ。皆ありがとう、良く頑張ってくれたね」

「弾薬費は連邦に請求してやれ。普通に出るだろ」

「はぁ、全くもう。今日は踏んだり蹴ったりよ!」

「お疲れ様でした。先生、お気を付けて」

「また何かあれば、ご連絡下さい。失礼します」

「私も、これで。今回の件は、風紀委員長に報告しますので」

「おーう、気ィ付けて帰れよ~」

その場で解散する面々に手を振って別れ、さてとローザストは振り返る。

「地下だったな、とっとと行こう」

”そうだね、急ごうか”

建物の扉を開き、ローザストが突入。その後ろを追う形で先生も続いた。

「・・・よし、爆薬やその他の危険物の臭いもしない。行ける・・・っ!」

曲がり角前で立ち止まり、手で先生を制止するローザスト。その気流感知能力は、角の先に居る人物の気配を敏感に察知していた。

”何かあった?”

「居た。ここでちょっと待ってろ、危ないから」

”居たって、ちょっ・・・!?”

簡潔に伝え、角から歩み出る。そこに居たのは、白いタブレットを片手に、脇差しにも似たバヨネット付きのボルトアクション小銃を肩に担いで小首を傾げているミニ丈和装に狐面の少女。

「よう久し振り!まだ中に居たとはな、ワカ~モ?」

「あら、イナゴじゃありませんか」

彼女、ワカモから返ってくる返答は、少々気安い。即時敵対、とはならないだけの認識ではあるようだ。

「生憎と、無駄話に興じる気分ではありませんの。連邦生徒会の重要物品と目される()()がどうにも破壊出来ず、落胆の溜め息が止められない心境でして」

声色を沈ませながら、手の上でタブレットをクルクルと弄ぶワカモ。その口振りから、起動はおろか物理的破壊すら出来なかったのだろうとローザストは当たりを付ける。

「じゃあ、とっととそれ渡して逃げてくれねぇかな。俺は今、連邦生徒会からの依頼でここに居るんだ。ありがちな言い方だが、お前にはここから消えて貰わなきゃいけない。何より、もうすぐあの()()()も来るぜ?お前面倒嫌いだろ。俺と違ってさ」

「・・・嘘ですわね」

ローザストの脅し混じりの停戦勧告を、ワカモは虚偽であると一蹴した。そして今度は銃を曲芸のように回しながら、口を開く。

「外様の貴方を態々ここに駆り出すぐらいなら、最初からあの小娘共を投入する筈。それにあの愚鈍な連邦生徒会の動きから察するに、貴方が受けた依頼はそもそもこの建物の奪還では無いのでしょう?」

「おーおー、相変わらず頭のキレる事で・・・そうさ、俺がここを奪還するのは、主任務を熟す過程で必要だからだ。依頼自体は、先月受託した。俺とお前が今ここに居るってのも、天運が特大の衝突事故を起こしたってだけだ」

「そんな事だろうと思いました。そしてSRTを即時投入出来ないと言う事は詰まり、連邦生徒会の指揮系統は致命傷を負っていると言う事。超人におんぶにだっことは言え、それでもここ最近のシステムの立て直しが異常な程に難航している辺り・・・連邦生徒会長が指揮を取れない状況、もしくは・・・不在?」

「(なーんでこの結論に辿り着いちゃうかな・・・)さぁな。俺はお仕事を熟すだけさ。金は受け取った。だから働く。ただそれだけ」

「そうだとしても、この状況こそ不自然なのでは無くて?」

「不自然?」

「貴方、何時もは嬉々として戦おうとする癖に、今日はやけに消極的・・・寧ろ、戦闘を避けようとしているように見えます。そして先程の話・・・施設の奪還そのものが依頼では無い。しかし、依頼の達成には奪還が不可欠。そう踏まえるのならば、貴方が戦いを避ける理由は・・・!」

 

━ガオンッ!ギャキンッ!━

 

「ぐおっ!?」

「差し詰め、貴重品または重要人物の護衛!」

タブレットを投げ捨て、胴体を狙った射撃。咄嗟に半身になって傾斜で受け流した隙を、突撃からの斬り払いで追撃するワカモ。

首元に迫る刃を、辛うじてローザストは腕で防ぐ。防刃繊維で作られている故に切り裂かれこそしないが、そこから続く前蹴りで大きく後退させられる。

「ケッ!ったぁく、100点満点ハナマルだよこん畜生!つーか鈍ってねぇんだな、長い事矯正局生活だったろうに」

「そちらこそ、何時も持っている愛刀はどうしたのです?私を相手に、まさか抜かずに居られるとでも?」

「お生憎様、蝗丸はメンテ中だよ!」

至近距離での打撃、刺突、斬り払い、射撃・・・それらの嵐の如き連撃を、ローザストはその身1つで受け止め、流し、弾き、逸らしまたは躱す。

「それはそれは。ならば、今回は私の勝ち筋も濃いと言う事!」

「ハッ!武器無しじゃ戦えねぇ軟弱者と一緒にされちゃ堪らねぇぜ!」

苛烈な攻めを繰り出すワカモ。ローザストはその悉くを捌き、カウンターを打ち込む。それをまたワカモが防ぎ、一瞬にして反撃に転じる。この攻防の暴風雨に対応出来る生徒はそうは居ない。

「隙が無い・・・ならば、作るまで!」

「ぐおっ!」

 

━ドグォッ━

 

「がはぁっ!?」

フラッシュライトによる目眩まし。その隙に打ち込まれる後ろ蹴り。ヘイローが無い人間でも、鍛え上げればトラックの正面衝突と変わらぬ衝撃を放てるその攻撃は、ワカモの類い稀な身体能力によって戦車砲と遜色無い威力まで引き上げられている。

目眩ましもあって、ローザストは堪える事すら出来ず吹き飛び壁に叩き付けられた。

「あぁ、貴方との因縁もここまでですわね。さぁ、()くお亡くなりになりなさい!」

ローザストの首元に狙いを定め、ライフルを引き絞るように構えるワカモ。そしてそのバヨネットの鋒が、命を貫かんと迫る。

”そりゃダメだ!申し訳無いけど!”

その一突は、先生から横槍として伸ばされた手に逸らされ、壁に甲高い音と共にぶつかった。

「先生!?何やってんだ!?」

”この子は私をサポートしてくれる予定でね、死なれたら困るんだ。何より・・・先生として、生徒(こども)が血で手を汚すのを、指咥えて傍観するつもりは無ぇ”

殺気に当てられてか、口調が荒く崩れる先生。ギラリと研ぎ澄ませた眼光が、仮面越しにワカモの眼を射貫いた。

「あ・・・あ、あぁ・・・」

力が抜け、フラフラと後退するワカモ。そんな彼女からローザストを庇うように、先生は間に入り込む。

「おい止せ、止めろ先生!聞いてんのか!?死にてェのかオイ!」

”・・・”

ローザストの制止も聞かず、庇う姿勢を崩さない先生。その姿を目にして、ワカモは己の胸元を強く握り締める。

 

「お強い、方・・・!」

 

再び数歩後退ったワカモは、くるりと踵を返した。そして肩越しにチラリとローザストを覗き、大きく息を吐く。

「・・・失礼、致します」

次の瞬間、黒い背中は遥か彼方に消えていた。それを見て、先生は詰まっていた息を吐き出しながら膝を突く。

”い、生きた心地がしなかった・・・”

「当たり前だこのッ、馬鹿ッ!ゲホッ!?がほッ!?」

”ちょっ、大丈夫!?無理しちゃダメだよ!?”

無理矢理立ち上がり、先生に掴み掛かったローザストはしかし、未だ残留する内臓へのダメージによろめく。だが、それでも膝を突くまいと堪え、先生を睨み付けた。

「良いか、先生!俺がアンタの為に命張るのは当然だ、それが仕事だからな!常人なら一生遊んで暮らせる金を積まれた、だから命を掛けて戦う!それが当然なんだ!だが、アンタは俺の為に命を張る義理も、必要も、意味もねぇ!そのせいでアンタに攻撃が向けば、1発で文字通りの致命傷なんだぞ!?アンタその意味が分かってんのか!?」

”あ、その・・・ごめんなさい”

蒸気と共に怒気を迸らせながら激昂するローザスト。その紅く輝く双眸に貫かれ、先程の覇気は何処へやら、先生は小さく縮こまる。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・だァ~クソッ、あっちィな」

冷却コートから噴射された冷媒が、ブシュッと音を発てて瞬時に蒸発する。そして背中からズルリと翅を露出し、体内の熱を放射するべくコートの外に広げた。

「・・・ハァ、もう良い。その歳になってそれなら、外野がヤイヤイ言った所で焼け石に水だな。ホラこれだろ、重要物品とやら。とっとと行くぞ」

諦めを隠そうともしない深い溜め息を吐き出しながら、ローザストはワカモが投げ捨てたタブレットを拾い上げ、先生に渡す。相当頑丈な造りなのか、画面に罅割れはおろか傷すら着いていない。

”うん・・・ありがとう”

「・・・」

先生の礼には応答せず、ローザストは地下室へと向かう道を進んだ。

 

 

━━━”我々は望む、七つの嘆きを。我々は覚えている、ジェリコの古則を”━━━

 

 

(コウサイド)

 

「ハァ~、ドッと疲れたァ~」

【STAG】【SPIDER】【BAT】【BEETLE】

夕暮れの事務所。携帯していたメモリガジェット達を放ち、止まり木型の充電ポートに止まるのを見ながら、ソファに身体を沈める。

「ったく、正気じゃねぇやあの先生。生存欲求を反射的に蹴り捨ててまで他人を助ける英雄的精神性・・・いや、何処か()()()()()にも似たものを感じるな。自分と言う命に関心が無いのか?分からん・・・」

あれを護衛しろってなら、成る程あの大金も納得がいく。

「・・・にしても、シッテムの箱か・・・」

シッテムの箱。それが、あの時ワカモから取り返した・・・取り返した?まぁ奪還したタブレットの名前。先生以外には起動すら出来ず、しかし先生がパスワードとおぼしき言葉を呟いて起動すれば、数分もせずサンクトゥムタワーの機能を復旧。更に全操作権限を掌握すると言う化物染みた作業を達成して見せた。

先生はその権限をほぼ全て連邦生徒会に返還したが、あれで先生が野心家だったらかなり拙かっただろう。そうしない人物だからこそ、かの連邦生徒会長に見出だされたと言える訳だが。

「さて、これからどうなる事やら・・・ん?」

ピロピロと鳴る通知音。飛んできたスタッグフォンをキャッチして開けば、メールが1件。

「・・・ハッ、相変わらず可愛げのねぇお誘いだ事」

何時もの場所に。それだけが書かれたメール。情報量0に等しいそれはしかし、俺にならば通じる。俺にだけは通じる。

「昼間の決着かねぇ?まぁ行くけどさ」

15分待てと返信し、スタッグフォンを閉じる。重い身体を溜め息と共に脚の振りで起こし、事務所の鍵を掛けてガレージに向かった。

 

━━━

━━

 

「ふぃ~、ここも久し振りだな」

ライドクウィンケーで飛ばして十数分。辿り着いたのは、だだっ広い空き地。

ここは嘗て録でも無い輩が工場をおっ建て、違法物品を作りまくっていた場所だ。俺が蝗の王(ロクス)の餌として喰わせ、序でに二束三文で買い上げて運動場として使っている。

ここが、アイツとの何時もの待ち合わせ場所だ。

「よぉ、待たせちまったか?」

「いいえ。返信頂いた時間の通りです」

薄暗い空き地に響く、凛とした返答。紅色のヘイローに照らされて、白い狐面が振り返る。

「・・・どうした、今日はやけに穏やかじゃねぇか」

「・・・相談の前に、1つ、聞かせて下さい」

「お前が俺に相談?・・・おう、どうした?」

「私とて、貴方にこんな事を相談するのは本意ではありませんわ!でも、貴方以外に話せる相手が居ない事も事実・・・故にどうか、笑わず聞いて頂きたいのです」

「ほぉ・・・まぁ、一概には言えねぇな。だが、お前さんの難儀な性分も、理解してるとは言えんが、知ってはいる仲だ。馬鹿にしたりはしないと思うぜ?」

「・・・フゥ」

俺の返答にワカモは暫くもじもじと身を捩らせ、軈て意を決したように面を取り、沈黙を破った。

 

「私、恋をしてしまいましたの」

 

「何だって!?それは本当かい!?」

 

驚いた。驚き過ぎて反射的に声が出た。

恋?恋慕の情?あの厄災の狐と呼ばれたワカモが?

すげェ、脳内で情報が完結しねぇ。

「・・・やはり、可笑しいと言うのですか」

「あ、あぁ~いやいやいや、驚きこそしたが否定はしねぇよ?ただまぁ、あのワカモがなぁ~とちょっと感慨深かったりはするが」

「そんな感慨を抱かれる筋合いはありませんわ!」

ぶんぶんと尻尾を荒ぶらせるワカモ。おぉ、これは、マジだ。間違い無く、これは恋に悩む乙女だ。そういう動きだ。

「・・・で、お相手は?まぁほぼ決まってるようなもんだが」

「その・・・先生、です」

「あ~やっぱり。で、決め手は?」

「・・・一目惚れ、でしょうか。強いて言うなら、あの強い眼差しに・・・」

「ほほぉ~う・・・」

まぁ、確かに・・・あの台詞と覚悟は、脳髄に焦げ付いても仕方ねぇわな。それにしても・・・

「ククッ、恋は乙女を何より飾る、とは良く言ったものだな」

あのワカモが。暴動を起こし、破壊をばら蒔き、誰かを害さずには居られない性を抱えたあのワカモが、今はどうだ。頬を赤らめ、目線を泳がせ、まるで初な生娘みたいに・・・いや。ような、じゃ無い。事実、コイツはこんな感情は初めての経験なのだ。

その様は何とも・・・何とも・・・

「得難い旨味・・・!」

「き、気持ち悪いですわね!」

「いや済まん。重ね重ね、こんな話題をお前と交わせるとは思えなかったからついな。許せ。で?相談ってのは?」

「・・・その、先生に、どうやってアプローチをすれば良いか、とか・・・」

「ふむふむ・・・」

まぁ、人の中に生きられなかったワカモにとっては至上の命題と言えるだろう。圧倒的な経験不足が、自分に牙を剥く。その恐怖は、コイツにとっては極めて稀な筈だ。

「そうさな・・・前提として、お前は先生に何をしたい?」

「何を、とは?」

「じゃあ具体的に聞こう。お前の精神に普段からこびり付いている破壊衝動は、先生には向いているか?」

「まさか!そんな事は有り得ませんわ!寧ろ、お側に居たいとか、尽くして差し上げたいとか、そんな感情がむくむくと・・・」

「そうか、それは良かった」

コイツは過去を頑なに明かさないが、言動の節々から人間関係に対する強いトラウマが見える。発作的な破壊衝動も、その経験から来る防衛反応であると言う線が濃厚だが・・・それは詰まり、自分に攻撃を仕掛けてくる可能性を予め潰さずには居られないと言う、潔癖症にも似た心理的アレルギー反応だろう。そのセンサーが、先生を攻撃対象と認識していない。則ち、敵では無いと判断している・・・もしかしたら、戦闘能力皆無な先生を戦力外認定した故かも知れんが、兎に角、先生を敵では無く、馴れ合いを赦せる同族に近しいものと認定したと考えられる訳だ。

「まぁ、お前は対人経験の不足が課題だ。面と向かって会えるなら話が早いが・・・」

「それは、ちょっと・・・恥ずかしくて・・・」

「だよな、お前の態度からそんな気はしてた。じゃあ、こっそり世話を焼くとかどうだ?」

「こっそり、ですか?」

「そうそう」

思い出すのは、サンクトゥムタワーの権限を返還した後の先生の様子。引き継ぎ直後、稼業開始時点で、既に凄まじい量の書類に押し潰されそうになっていた。あれでは自分の世話など焼ける筈も無かろう。

「そうだな。手始めに、こそっと朝食を拵えて置いておくとかどうだ?お前、料理は出来るっけ?」

「お料理でしたら、基本的な事は一通りは・・・」

「そうかそうか。仕事に追われる1日の初め、暖かい味噌汁とご飯があれば、さぞかし仕事も捗るだろうよ。警戒するようなら、俺が毒味して安全を保証してやる。どうだ?良いんじゃないか?」

「・・・確かに、それならば私も滞りなく熟せそうですわ」

ワカモの眼がキラキラと輝く。おうおう可愛らしくなっちゃって。色恋は俺の好物だ。

「あーっと、それとだ。呉々も、先生がしんどそうだからって、仕事の書類でボンファイアとかしないようにな。逆に先生困るから。あと管理とか修理とかで入って来る業者に暴行を働いたり、備品ぶっ壊すのもダメ」

「うっ・・・ど、努力しますわ」

「危ねぇ危ねぇ」

先生に向かわないとは言え、破壊衝動の発作が消えた訳じゃ無ぇ。取り敢えず、釘は刺しとかないとな。

「まぁ、色々口煩く言ったけどな。俺はお前の恋慕は応援するぜ。お前が罪を数え、償える人になる・・・お前の感情は、その足掛かりになる。罪は憎んでも、人はあんまり憎みたく無ぇんだ俺は」

「・・・また、時々相談しても?」

「おうおう!あ、ただ此方も予定あったりするから、そう言う所は勘弁な?」

「・・・まぁ、譲歩しない事もありませんわ・・・今日の事は、感謝致します」

「!・・・おう!あんまり問題起こすなよ?」

「・・・ごきげんよう」

ワカモは鋭く風を切って跳躍し、建物の屋根を伝って夕闇に消えた。

先生・・・あの大人を中心に、色々と大きく変わるかもしれないな。

 

To be continued・・・




~キャラクター紹介~

・先生
キヴォトスにやって来た大人。原作主人公、つまりプレイヤーキャラ。
今作では飽くまで一個人なので、普通に自我を出す。また生徒の特色を短時間で見抜き、適切な配置と戦略を瞬時に構築するセンスを持つ。
火野映司並みに自分を顧みない行動を、ローザストにフルスロットルで激怒された。

・七神リン
連邦生徒会首席行政官。
次から次へと舞い込む仕事に忙殺され、ストレスからか非常に態度が悪くなっている。政治をやる立場としては致命的。

・早瀬ユウカ
ミレニアムサイエンススクールの生徒会、セミナーの会計担当。
少々神経質な方であり、今回のリンとは致命的に相性が悪かった。ローザストと面識があり、協調性には問題は無いタイプ。
シャーレ奪還戦ではヘイトタンクを担当し、ハスミの狙撃が通る隙を作った。

・羽川ハスミ
正実の副委員長。
ローザストとはそこそこ交友が深く、そもそもとして前線に突っ込むバーサーカーを狙撃で後方支援するポジションなので戦場でも相性が良かったりする。

・守月スズミ
トリニティ自警団筆頭。
自治区内のパトロールにより増大する異常に気付き、ハスミと共に連邦生徒会本部へ。シャーレ奪還戦ではユウカに火力が集中し過ぎないよう、定期的にスタングレネードで目眩ましを行っていた。
ローザストの噂は聞いていたが、戦闘は初見。見て学んだ結果、あれは参考にしてはいけないと言う結論に至る。

・火宮チナツ
ゲヘナ風紀委員会衛生兵。
元々治安と言う概念が死にかけているゲヘナが更に混沌とした惨状と化し、風紀委員長の使いとして連邦生徒会本部へ。
ローザストとは、訓練終わりに参加者の手当てを行うタイミングで少々交流がある。

・叢雲コウ/草薙イナホ/仮面ライダーローザスト
えげつない戦いを披露した飛蝗少女。死に設定となり掛けていた洞察力の鋭さを久々に描写出来た。
シャーレ奪還戦に於ける味方ユニット。基本的に先生率いる奪還チームの更に先を突っ走り、徒手空拳の暴風雨で不良生徒の群れを蹂躙していた。ゲーム的な演出で言うと、戦闘フェーズが進んだタイミングで戦車をオープンセサミして見る者全てをドン引きさせている。
ワカモとは偶然知り合った後に交流を繰り返し、一定の信頼は得ている模様。その成長性を個人的に好ましく思う反面、精神性の不安定さを危ぶんでいた。先生を守る為に戦闘を避けようとブラフを張ったが、瞬時に見抜かれた上に裏まで読まれて結局戦闘に。
先生の躊躇いの無い自己犠牲には瞬時にブチギレて説教しているが、これは先生の死の可能性がダイレクトに膨れ上がったからである。
ワカモからの恋愛相談にはノリノリで応じ、彼女が人との繋がりを作る最初の一歩になるかもしれないと大いに祝福した。
EXスキル:ホッパーアーツ・・・地形により効果が変化。市街地では敵の密集地点に飛び蹴りを放ち、円形範囲内の敵に大ダメージを与える壱式ホッパーキック。屋外では壁を使った三角飛びによる死角強襲により着撃地点を中心に円形範囲内のシールドを破壊する弐式ホッパーキック。屋内では指定位置に移動してその先の扇状範囲に大ダメージを与える参式ホッパーキック。
更に5回毎にマキシマムドライブとなり、攻撃範囲が倍増。
ノーマルスキル:細胞増殖・・・25秒毎に体力を大幅回復。更に20秒間攻撃速度40%上昇。
パッシブスキル:仮面ライダーと言う名の仮面・・・防御力40%上昇、及び状態異常耐性35%上昇。
サブスキル:飢餓の呪毒・・・EX発動時、命中した敵に35%の確率で命中率40%ダウン、攻撃力40%ダウン、防御力40%ダウンの何れかを付与。

・狐坂ワカモ
見事に先生に惚れた純情狐。
ローザストとは何度か戦った間柄であり、最低限信じられる相手と認識している。
破壊衝動のままに暴れたり、不良生徒を纏め上げて暴動を起こしたりと、破壊を振り撒く事に関しては天賦の才がある。一応、先生の周辺に被害が発生しないようコウが釘を刺したが・・・?
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