相変異 黒蝗   作:エターナルドーパント

18 / 32
強盗

「全て現金でお支払い頂きました。以上となります。カイザーローンとお取引頂き、毎度ありがとうございます。来月も宜しくお願い致します」

「「・・・」」

「ふぃ~、今月も何とか乗り切ったな~」

午前10時。アビドス校門前にて、大きなトラックに大量の現金が乗せられる。

カイザーローン。それはアビドスの借金相手に他ならず、今日この日は、その月の返済日だった。

「完済まで、あとどれぐらい?」

「160年返済なので、今までの分を入れると・・・」

「あーもう!言わなくて良いわよそんなの!細かい数字で言われても寧ろストレス・・・どうせ死ぬまで完済なんて出来ないんだし、計算しても意味無いわよ!」

”まぁまぁ、あんまカッカしなさんなセリカちゃん。牛乳飲む?”

ギリギリと奥歯を噛み締めながら、セリカが苛立ちを沸騰させる。先生は宥めようとパック牛乳を差し出すが、飲み掛けはいらないと突っぱねられてしまった。けんもほろろに拒絶され、先生は冗談じゃん・・・といじける。

「所で、何故カイザーローンは現金でしか受け取らないのでしょうか?態々輸送車まで手配して・・・」

「・・・!」

”シロコ、ステイ”

「襲っちゃダメよシロコ先輩」

「分かってる・・・」

「計画も立てちゃダメだから!」

”セリカってシロコ扱い慣れてるよね”

「生憎と短い付き合いじゃないからね」

ウズウズしていたシロコは、耳をぺしゃんと倒ししょげてしまった。彼女の現金に対する単細胞的な執着は、既に後輩処か先生にも読みきられてしまっている。

「まぁ、どうにもならない事より目の前の問題だね。早く部室に戻ろうよ~」

ホシノの欠伸混じりの求めに各々が頷き、足早に部室へと戻る。そして全員が自分の席に着き、何時もの光景となる。

「イナホさんが居ませんが、これより2つの事案についてお話ししたいと思います」

取り仕切るのは、矢張り真面目なアヤネ。彼女はタブレットPCを操作しながら、纏めた情報を読み上げる。

「まず、昨日の襲撃事件について。今回の実行犯は、便利屋68と言う部活です。ゲヘナではかなり素行が悪く、危険な生徒達として多少知られているようです。便利屋とは、金銭と引き換えにどんな依頼も請け負うサービス業で・・・手っ取り早く言えば、イナホさんの万事蝗屋と同業です」

「何か、ローザスト本人もアイツ等と面識あったみたいだね」

「まぁな、ちょっと仕事でよ」

「あ、お帰り~」

シロコの呟きに、部室の扉を開けながら答えるイナホ。壁際のソファに身体を放り、脚を組んで寝転がる。

「家庭科室に、寸胴カレーとバゲット16本置いといた。あと、先生には弁当もな」

”お弁当!良いねぇ~”

「うへぇ~、助かるよ~。悪いねぇ?」

「気にすんな。腹減るのは嫌だろうよ。で、あの便利屋の話だろ?続けろ奥空」

「は、はい!」

自分の登場で脱線した話の流れを軌道修正し、進行を促すイナホ。それに従い、アヤネは便利屋の情報を読み上げる。

「リーダーは陸八魔アルさん。社長を自称してるみたいですね。そして部下3人はそれぞれ室長、課長、平社員の肩書きがある・・・と、ホームページに書いてあります」

「ホームページなんて作ってんの!?」

「そりゃそうだ。宣伝無くして顧客無し。俺だって公式ホームページぐらい持ってる」

素頓狂に叫ぶセリカに、肩を竦めながらイナホが説明する。同じ立場として、思考や行動パターン、セオリー等はある程度トレース出来る。

「いや~、にしてもまぁ、随分と本格的だね」

「社長さんだったんですね☆凄いです!」

「いえ、さっき行った通り自称ですから・・・それで、今はアビドスの何処かに居着いているようです。今朝も会いましたし」

「ふーん・・・ゲヘナでは、起業って許可されてるの?」

「どうでしょう・・・まぁ、勝手に起業した可能性もありますね」

「そこんとこどうなのさ、ゲヘナ生を部下に持つイナホとしては」

”え、そうなの?”

「流石にワンマンコーポじゃねぇよ。人数も丁度、便利屋と同じだ。俺含め4人」

意外な繋がりの出現に驚く先生。そして最低限情報を修正しつつ、イナホは説明に移る。

「で、そうさなぁ。ゲヘナのモットーは《自由と渾沌》だからな。例え禁止されていようが何されていようが、やりたくなったらやる・・・それが、基本的なゲヘナ生の行動指針だ。獣の方がまだ御しやすいわ」

”急に刺すじゃん。その部下の子の苦労?”

「んにゃ、アイツはゲヘナ生じゃ珍しく優しく真面目で誠実だ。身体的特徴を除けば、何でゲヘナにいるのか分からん。そんな奴が他に一切いないでも無いが、まぁ多く見積もっても全体の2%未満だろうな」

”う~ん・・・ねぇイナホ。キヴォトス基準でその評価って事は、ゲヘナって人外魔境か何かなの?”

「《爆破倒壊SANチェック》と書いて《ゲヘナの日常茶飯事》と読む程度には」

”常人が行ったら駄目じゃん!って言うかSANチェックって何が出るのさ!?”

余りにもあんまりな説明に先生は頭を抱えた。

「そんなヤバい学校の中で、更に危険人物扱いかぁ・・・可愛い顔に見合わず、えげつない事してるみたいだねぇ。次は取っ捕まえて、取り調べでもしよっか」

「機会があれば是非お願いします・・・」

「・・・何かあったの?並々ならぬ怨念を感じるけど」

「・・・いえ、何も。続きまして、セリカちゃんを襲ったヘルメット団の黒幕についてです!」

「んっ、あの数しか取り柄が無いチンピラ共の事、何か分かったの?」

しれっと辛辣な物言いをするシロコをスルーし、アヤネは大きな弾頭を机の上に置いた。

「コイツぁ・・・旧型の戦車砲徹甲弾だな」

”旧型?”

眼を細めるイナホに、先生が聞き返す。武器の新旧については、先生は疎い。

「その通り。現在は生産中止された、旧式弾頭です。正規市場からは既に無くなっており、こんなものを入手出来る場所は・・・ブラックマーケットの他にありません」

「まぁ、そりゃそうだろうな。彼処にゃ割かし何でもある。金さえ積めば、大抵のモノは手に入るぜ。合法非合法問わず、な」

”あれ、イナホ結構詳しい感じ?”

「そりゃそうだ。割と最近まで、俺の収入源の半分前後は、ブラックマーケットでの傭兵稼業だったからな。昨日の敵は今日の依頼人、なんてザラだった。高級傭兵として、それなりに名が売れたもんだぜ。尤も、傭兵業は現在休止中だがな」

”あぁ、傭兵バイトにやたらと辛辣だった理由ってそう言う・・・”

イナホの苛烈とも言える傭兵バイトへの批判的な態度に、そうなって当然かと頷く先生。自分がその分野で高給取りになった経験がある故に、どうしても視点は厳しいものになるのだろう、と。

「では、イナホさんはブラックマーケットの歩き方を熟知している、と言う事ですか?」

「ま、大まかにはな。流石に隅々までって訳じゃ無いが、多少はまともに練り歩けるさ。

休学、退学、中退・・・その他諸々、碌で無し共の巣窟。非公式な部活もある。あの便利屋みてぇなのもな」

「実際、彼女達もブラックマーケットで騒ぎを起こした事があるようです」

「じゃ、決まりだな。ブラックマーケットを調べてみようか」

方針は決定された。アビドス一行は準備を整え、ブラックマーケットへと出発する━━━ドゥオルギャリーに乗って。

 

”またこれ乗るのォ!?”

 

(イナホサイド)

 

「ここが、ブラックマーケット・・・」

呆然と呟き、日を遮るビルの群れを見上げる黒見。

違法も適法も無いこの場所では、日照権だのごちゃごちゃしたものは犬すら喰わない。鬱蒼とした森を思わせる程の影の中で、俺達は歩く。

「わぁ~☆何か、すっごい賑わってますね!」

「ホントに。名前からして小さな市場ぐらいかと思ったけど、都市まるごと1つがそうだなんて・・・凄い規模だ。この全域が、連邦生徒会の手が及んでないエリアだなんて・・・」

色々な場所を見回しながら、シロコが溢す。寧ろ、俺としてはこんなキヴォトスを仮にだろうと纏められてる方が凄いと思う所だがな。

「うへ~・・・普段私達は、アビドスから出ないからね~。自治区外には、結構変な場所が多いんだよ~」

「ん。ゲヘナではトマトを機関銃で撃ち合う祭りがあるって聞いた」

”カオス過ぎる・・・”

「でっかい水族館もあるんだってさ~。アクアリウムって言うんだって!行ってみたいな~・・・うへ、お魚、お刺身・・・」

「お前が行きてぇの漁港の朝市じゃねぇか」

ボケるホシノにツッコミを入れつつ、ふと路地裏に眼を向ける。そこから出て来た奴らには、見覚えがあった。

『油断しないで下さい。ここでは違法な武器の密売なども行われているんです。何があってもおかしくはありません』

「そうそう。こんな鬱蒼としたコンクリートジャングルだ。油断してると、狼男に連れ去られちまうかも━━━」

「おい、バッタ野郎」

「━━━ほぉら、噂をすれば」

声を掛けてきたのは、俺よりもゴツくガラの悪いアンドロイド。アーマーとライオットシールドに狼のペイントを入れ、真っ赤なアイカメラがギロリと此方を睨んでいる。

「はてさて、何かご用かな?生憎と、傭兵業はお休み中なんだが・・・」

「テメェ、俺の顔を忘れやがったか?」

「どっかで会ったっけ?」

「この野郎・・・」

「俺ァ女だよ?」

ギリッと胸ぐらを掴んでくる狼。即座に得物を構える対策委員会を、俺は手で制する。

「・・・いやぁ悪い悪い、ショウさんとこの兄ちゃんよ」

「・・・ハァ。ったく、茶番に付き合わされるこっちの身にもなれってんだ」

俺の胸ぐらを掴んでいた手が離れ、溜め息を溢すお相手。その毒気の抜けた空気に、他の皆は少々混乱しているようだ。

「・・・イナホ、知り合い?」

「まぁな。ここじゃちょっと有名な人等さ」

「・・・ヘルメット団よりガラが悪い」

「当たり前だ。堅気にはそう見られるようにしてるからな」

”堅気・・・って事は・・・”

「餅は餅屋、蛇の道は蛇だからさ。俺なりに付き合う蛇は選んでるから、まぁ心配なさんな。さて・・・」

先生からは凄い眼で見られているが、それはそれとして。コイツらが呼び止めた。なら、俺にゃ用事があると言う事だ。

「表じゃ無理なんだろ?」

「相変わらずだな」

「そりゃあ分かるさ。で、誰からだい?」

「オジキさ。まぁ厳密にはちっと違うが」

「分かった・・・済まん皆、ちょっと急用が出来たわ。俺は離れる」

『えっ!?だ、大丈夫なんですか!?』

通信越しに、アヤネが叫ぶ。他の皆も、一様に心配そうな・・・いや心配とは違うな。そう言うのよりもっと不信感が強いような、微妙な眼を向けて来ている。

「大丈夫だ、暴れたりしねぇよ。先生、そんなに時間掛けず合流するから、これ持っといてくれ」

”おっと?”

先生に、スパイダーショックの発振器をコイントスの要領で渡した。

”これは・・・発信器?”

「おう。用事が済んだら、それを目印に勝手に追い掛けるわ。砕くなよ?じゃあな」

「あ、ちょっと!」

焦るセリカを置いて、俺は路地裏に入る。ドンパチ賑やかな騒ぎが聞こえて来たが、まぁあいつ等なら大丈夫だろ。

 

━━━

━━

 

「オジキ、蝗屋を連れて来ました」

「おう、入れ」

久し振りに聞く低く響く声に招かれ、開かれた扉を潜る。立ち並ぶビルの1つ、その中の、来客を迎える一室。

革張りのソファと、杉のテーブル。壁際の棚には酒瓶が飾られ、照明でキラキラと輝いている。その他細かな飾りがされた部屋でその人は待っていた。

「よく来た。まぁ座れ」

「こりゃどうも」

スーツをキッチリと着熟し、左目を眼帯で覆った、壮年の猫獣人・・・魔猫のショウ。鋭い眼光にはしかし、その印象に反して攻撃的な感情は無い。

促されるまま、俺はソファへと腰を下ろした。

「いやぁおやっさん、済まないね急に。そっちも忙しいだろうに」

「なぁに、お前を見付けたら声を掛けろと達しておいたのは儂じゃからな。何より、儂が直接出向く用は、意外と少ないもんじゃ。寧ろお前こそ、他に用があったんじゃあ無いのか?」

「そっちはまぁ、頼れる大人がいる事なんでね。俺が居なくても多少は問題無いさ。何なら、正面からのガチンコで俺を何度か負かす奴もいる」

「カッカッカッカッ、何とも末恐ろしい事じゃわい」

牙を剥き出し、咳き込むように笑うショウのおやっさん。付き合ってて気持ちの良い人ではあるんだが、何度聞いても声と笑い方が相まって、あの紅い宇宙毒蛇(Chao~♪)が頭に過るんだよなぁ・・・

「・・・で、何かあったのかい?」

「そうじゃな。雑談はこの辺にするとしようか。見ろ」

そう言っておやっさんは、懐から数枚の写真を取り出した。渡されたそれを見て・・・俺は眉をひそめる。

「これは・・・」

コンクリートの壁に撃ち込まれた、無数の弾痕。それは良い。キヴォトスでは日常茶飯事だ。だが、別の写真が問題だった。

バックリと切り開かれた、鉄筋コンクリートの壁。厚さ7cmはある上に、格子状に鉄筋の入った頑丈なやつを、バッサリと切り裂いて・・・いや、違う。

「この感じ・・・大質量を叩き付けた衝撃でコンクリに罅を入れた後、刃物で斬りつけてる、のか・・・?」

「ほぉ。矢張り一目で、そこまで分かるか」

おやっさんの感嘆にも答えず、脳内でシミュレーションを組み立てる。

まず、断面から露出している鉄筋。これは奥側に向かってひん曲がっている。純粋な斬撃ではこうはならないだろう。ならばコンクリを叩き砕いた後、鋏系の工具で断ち切ったのか・・・それなら、鉄筋の断面は左右からの圧で変形し、中央に山型に尖る筈だ。しかし、この鉄筋は注射針の如く斜めに尖っている。この形なら、凄まじい切れ味の刃物で袈裟斬りしたと見るのが妥当だ。

「・・・これ、何時何処で見付かった?」

「ウチのシマのすぐ近く、ギリギリ外側だな。監視カメラもねぇ所だ。見付かったのは、6日前だったか」

「じゃあ俺じゃねぇ。蝗丸はメンテに出してるからな」

「分かってる。最近此処等でお前を見たって情報は上がってねぇし、何よりお前は挨拶してくれるだろ」

「作るべきは信頼だな・・・しかし、コイツは問題だ」

「矢張りか」

「あぁ。似たような事が出来る奴はダチに居るっちゃ居るが、明らかにソイツじゃねぇ。無意味にこんな示威行為染みた事はしない奴だからな。野良の強者ってんなら良いんだが、そう言う奴らは態々こんな真似をする事ァ早々ねぇ。縄張りのお頭さん共を挑発する為ならまだしも、こんな腕試しみたいな・・・」

考えれば考える程、最悪の可能性が脳内で明確なビジョンを組み上げて行く。その可能性が的中してしまった場合、()()()が言う所のテクスチャって奴がもぎ取られるなんて事になりかねない。

「お前の考え、当ててやろうか」

「・・・どうぞ?」

「お前の()()が出て来たかもしれん、と言った所じゃろう?」

「良くお分かりで」

「その眉間の皺を見れば分かるわい」

「そんなに酷い面してた?」

「あぁ。死ぬか殺すか、そんな域の顔じゃったぞ」

「そっか・・・そうかもな」

死ぬか殺すか・・・キヴォトスでは極めて遠い概念だ。だが、実際その危険があるんだからしょうがない。

「・・・取り敢えず、分かり次第仕事用の番号で連絡する。お互い気を付けよう。()()()()()()()()()等もな」

「死ぬなよ、蝗屋。お前は、子供にしては話の分かる奴じゃ」

「ハハ、そっか。まぁ、少なくとも死ぬつもりは無いさ。見送りは要らねぇぜ」

「達者でな」

ソファに沈んでいた尻を上げ、ヒラヒラと手を振って部屋を出る。

さてと、無事に終わってくれるかね。まぁ、ブラックマーケットじゃ贅沢過ぎる望みか・・・

 

(NOサイド)

 

「何で、何でこんな事に・・・」

 

1人の銀行員が、絶望の淵で頭を抱えていた。その原因は明白。彼の勤務中に突入して来た銀行強盗である。

「俺が何したってんだよ・・・」

「そこ、黙って」

 

━パンッ━

 

「いッ!?いてぇ!?」

青いマスクの強盗(シロコ)が、地面に伏せた銀行員の脚を撃つ。当たった所で死ぬ処か後遺症すら残らない故に、引き金は非常に軽い。

「テメェら・・・いい加減にしろよ・・・人の仕事、邪魔しやがって!」

「っ!動かないで!床に伏せないと撃つ!」

「どうでも良いんだよンな事ァ!!」

「っ!?」

怒りを通り越し、もはやバグったようにぐちゃぐちゃの顔面モニターを見て、思わず怯む。その隙を見計らってか否か、彼は懐に突っ込んだ手を引き抜いた。

 

ARMS(アームズ)!】

 

”ッ!?退避!総員退避!”

 

その異質な音声(ガイアウィスパー)を聞き、先生は即座に撤退指示を出す。極最近、同質の声を聞いていたから。そして何より、どんな事が出来るかも見ていたから。

しかし、間に合わない。スーツのボタンを引き千切って露出した首元に、魔性の小箱は突き立てられた。

「ハッハハハッ!クソガキ共ォ、随分と調子こいてくれたじゃねぇかよォ・・・」

ガチャガチャと金属音を発てながら、その異形はやって来る。

血に濡れたような赤いボディスーツ状の表皮に、錆と黒ずみが染み付いた鉄色のボディアーマー。腰には拳銃が大量に吊るされ、身体の各所には投げナイフ。生皮を剥がされたような顔面からは白濁した眼光がギラリと輝き、その表面を縦に引き伸ばされた髑髏のようなエアカウルが覆っている。

アームズドーパント。まだ、その名を知る者は居ない。

「テメェら全員━━━」

 

”ホシノ!盾!”

 

「ッ!みんな集まって!」

 

「皆殺しだァ!!」

 

ホシノがIron Horusを展開し、床に突き立て防御の構えを取った。その後ろに後輩達が隠れた直後、吹き荒れるガトリングのような凄まじい弾幕射撃。その余りの圧に押され、ショットガンを構えていた右腕も盾の支えに回すホシノ。その肩をセリカとシロコが押さえ、2人の背中をノノミが支える。真ん中には、紙袋を被ったトリニティ生が庇われていたが、ノノミの体格が幸いし邪魔にはなっていない。それで尚ギリギリの衝撃だったが、その有り余る反動によるマズルジャンプで弾道は上に逸れ、天井にミシン目を刻んで遂に止まった。

「ヒ~ャッハァ~ッ!気分最高だぜ!俺ァ無敵だァ!!極上のエ~クスタシィィィッ!!ヒャ~ッハッハ~!!」

しかし、更に興奮したアームズドーパントは、ガトリングに変形させた右腕を振り回して乱射。そこかしこに弾丸をばら蒔くトリガーハッピーと化した。

「な、何なのよあの怪物!?」「ひえー!何でこんな事になるんですかぁ~!?」

「チッ・・・あのバッグ、早く回収しないと・・・」

盾の縁から標的を見遣るシロコ。その先にあるのは、カウンター上のパンパンに膨れたバッグ。それは、今回の強盗の目的。回収せねば、払ったリスクは全て損で終わりとなる。

 

”やっば、何かおクスリでもやってんのか?取り敢えず、アレはヤバい。撤退撤退!”

 

「・・・んっ!」

 

”あ、ちょっとシロコ!?”

 

先生の指示を無視し、シロコはバッグを目指して突貫。幸いアームズはハイになって注意が疎かになっており、そのお陰でバッグを掴む事は出来た。

「あ?テメェ!」

 

━ダンッ!━

 

「ぐあっ!?」

しかし、その幸運も長くは続かない。シロコに気付いたアームズは腰から拳銃を引き剥がし、発砲。弾丸はシロコの上腕を掠め、()()()()

「え・・・あ、嘘・・・いッ・・・!?」

「あ?ンだよ1発ポッキリかよ!・・・ま、いいか!」

拳銃をカチカチと撃とうとし、弾切れに気付いて投げ捨てるアームズ。そして右腕を巨大なブレードに変形させ、シロコにジリジリと詰め寄る。対するシロコは、低火力の筈の拳銃弾に引き裂かれた腕の痛みが生み出す恐怖に支配され、ガタガタと震える事しか出来なくなっていた。

「シロコちゃん!」

「うるッせぇんだよ!」

「ぎっ・・・!?あぁっ!?」

駆け出そうとしたノノミの手に、棒手裏剣が突き刺さる。その痛みでガトリングを取り落とし、脚も止まってしまった。

 

”これは、ダメだ!シロコ!撤退しろ!走れッ!シロコッ!!”

 

「あ、あっ・・・」

逃げ出そうと足掻くシロコだが、足が地面を掴めない。生まれて初めて感じた、濃密な死の気配・・・余りの混乱に、力を掛けられないのだ。

「キレイに捌いてやるよ、真っ二つになァ!」

 

━ガオンッ!━

 

「いって!?誰だ!?」

シロコを切り裂こうと振り上げられた刃はしかし、1発の狙撃弾に撃ち抜かれる。苛立たしげに振り向いたアームズに相対するは、左手でスナイパーライフルを構えた少女・・・陸八魔アル。

右手で押さえた帽子の縁から琥珀色の眼を光らせ、彼女はギロリとアームズを睨んだ。

「あなた、それ以上は見過ごせないわ。強盗に怒るのも、人の当然の権利。だけど、今のあなたは人じゃ無いわ。まるでケダモノじゃない。

逃げなさい覆面水着団。私が相手よ」

「で、でも・・・」

「あら、ご存じない?狩猟は淑女の嗜みよ?・・・良いから行きなさい!」

「っ!・・・ん!」

震える脚を叩いて活を入れ、シロコはバッグを持って走り出した。その背中を見送り、アルはニヒルに笑う。

(・・・やっちゃったぁ~!?思わず助けちゃったけど、これヤバいかしら!?ヤバいわよね!?こんな怖くて強そうな奴相手にどう戦えば良いのよ~!?)

尚、その脳内は阿鼻叫喚であった。勝算も何も無く、ただ衝動の赴くままに立ち上がり、構え、引き金を絞った。そして、口から出任せに格好を付けた。その結果がこれである。もはや彼女の拍動はエンジンにも近しく、しかしそれでも尚ポーカーフェイスを崩さないのは、彼女の驚異的な才能の1つと言えるだろう。

「・・・お優しいのね、見逃してくれるなんて」

「あぁ、そりゃムカッ腹は立ったぜ。けどよぉ・・・」

背中から、半ばでへし折れたような大剣を引っ張り出し、アームズはニタリと笑った。

「大口叩いたガキをカッ捌く方が、気持ち良さそうだと思ってよォ?」

「っ!」

「あ、アル様は私がお守りします!死んでも、お守りします!その間に逃げて下さい!」

「・・・はぁ、今日が命日かもね。ま、仕方無いか」

「こういう事もあるよね!最期は派手に!私達らしくやっちゃおっか!」

便利屋の部下達が、アルの前に立ち並ぶ。全員、虚勢だ。恐怖で折れそうな心を奮い起たせ、意地で無理矢理に立ち上がった。

「皆・・・今日は、死ぬには良い日ね!」

「それがテメェの遺言かァ!!」

最前列、ハルカに向かって突撃するアームズ。その振り上げられた大刃を見据え、便利屋68は各々の武器を構えた。

 

━ギャキィンッ!━

 

(コウサイド)

 

「・・・ほぇ?」

ギリギリと、火花が散る。俺の右腕、そのアームカッターと、それにぶち当たったシールドソードの間でだ。

「随分とデカくぶちかましたもんだな、便利屋68」

「ぐあっ!?」

目の前の敵、アームズドーパントに脚払いを仕掛け、腕を捻り上げて拘束。そして、便利屋を見遣った。陸八魔の眼には涙が浮かんでおり、相当無理をして啖呵を切った事が分かる。

「そのお陰で、間に合った。良い女になったじゃねぇか・・・帽子、良く似合ってたぜ」

「い、蝗屋・・・!」

「さて、バトンタッチだ。後は任せな」

「は、はいっ!逃げるわよ貴方達!」

「うぎゃっ!?」

撤退する便利屋を見送りながら、腹部にドライバーを出現。アームズを蹴って転がす。まさか、本当にドーパントが居たとはな・・・

「クソが!次から次へと、もう許さねぇ!」

ブチ切れてブレードを振り回して来るアームズ。その攻撃を右腕で弾き受け流しながら、問い掛けた。

「さぁ、どうする?今すぐそのメモリを捨てるか、痛い目見て取り上げられるか・・・」

「バカが!奪えるもんなら奪って見やがれ!ミンチになる前になァ!!」

「チッ・・・しょうがねぇか」

狂乱状態のアームズに、問答は無駄と分かった。ならば、腹を括ろう。

【HOPPER!】

「ッ!何だ、テメェも持ってるじゃねぇか!テメェのメモリじゃ足りねぇから、俺から奪おうってかァ!?欲張りな野郎だなァオイ!」

「ジャンキーと一緒にしてんじゃねぇよ」

ドライバーにメモリを装填。右肩狙いの袈裟斬りをクルリと回って受け流し、左手を右上にビシッと伸ばす。

「変ン~・・・身ッ!」

その動作は、最初の男。彼が戦いに立つ、その合図。

ヘイローから黒い煙が漏れ出し、俺の身体を覆った。

【HOPPER!】

「はぁァァァァ・・・!」

口から、そして気門から蒸気を吹き出し、纏わり着く煙幕を払い去った。

「な、何だテメェは!」

「知らないのか。仮面ライダー、ローザスト・・・さぁ、お前の罪を数えろ!」

フィンガースナップし、アームズを指差す。

儀式を借りた。名前も借りた。台詞まで借りた。もう下がれない。ならば、下がる必要は無い。故に、不退転。これより、俺に後退の文字は無い。

「虫ケラ風情が!良い気になってんじゃねぇぞコラァ!!」

「どっちがだよッ!」

「あぎゃぁっ!?」

叩き付けて来たシールドソードを、左腕でパリィ。その隙に、胸を目掛けて薪を割る斧の如くエルボーを叩き込む。そのまま振り抜けば、アームカッターが装甲に食い込み、切り裂いた。

「い、いてぇ!?何でこんな・・・ぐあっ!?」

「ここじゃやりづれェ、表出な。フンッ!」

「どわぁあッ!?」

ガラス窓を突き破り、道路に放り出す。指をメキメキと鳴らし、蒸気を吐き出した。

「これが最後の警告だ。とっとと降参しろ。お前じゃ俺には勝てん」

「ふざ、けるな!どいつもこいつも!俺をバカにしやがってェ!うわぁァァァ!!」

「だからだろ」

破れかぶれになったのか突っ込んで来るアームズに、小さく吐き捨てる。こんな無法市場(ブラックマーケット)で、マトモに扱われる訳も無いだろうに。

「うりゃぁぁ!」

「トウッ!」

「ぁっ!えっ?」

雑に横振りして来たブレードを、ジャンプで回避。10m程離れた場所に着地し、右手をドライバーに、メモリに添える。

【HOPPER!MAXIMUM DLIVE!】

「ひ、ヒィッ!?嫌だ、嫌だァァァ!?」

全身から溢れ出すオーラを見てか、へっぴり腰で逃げ出すアームズ。みっともなく、そして憐れな事だ。だからその恥、俺が終わらせよう。

フラフラと走る背中を追い、右脚で地面を蹴り抜く。腐ってもドーパントの身体能力で逃げられ、倍程にまで開いていた距離。それを1歩で容易く、半分詰める。

 

「壱式━━━━━」

 

そして、頭を落とす勢いで前傾。左脚を蹴り出して跳躍し、空中で反転。右脚にエネルギーを集中し、思いっ切り突き出した。

 

━━━ホッパーキック!━━━

 

「ば、バカなぁァァァァ!!!?」

必殺技を受け、アームズは耐えられず爆散。余剰エネルギーは全て燃焼し、その中からユーザーだったであろうオートマタが倒れ伏す。

 

━パキンッ━

 

そして、排出されたメモリが音を発てて砕けた。ユーザーを見てみれば、呻き声をあげている。どうやら、ぶっつけ本番だが成功はしたようだ。

「・・・さて、コイツはショウのおやっさんに引き渡すとして、メモリは解析に回す必要があるな・・・マーケットガードが来る前に、とっととずらかるか」

砕けたメモリを拾い、へばっているアンドロイドを担ぎ上げる。そして報せを入れるべく、大きく跳んだ。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・叢雲コウ/草薙イナホ/仮面ライダーローザスト
遂に仮面ライダーとしての初陣を果たした飛蝗少女。
傭兵業もやっていたので、人脈はそれなりに広い。ブラックマーケットの一角を牛耳る魔猫のショウとは特に交友が深く、不定期ではあるが顔を出してたりする。
破壊痕跡から相手の攻撃手段を予測する分析力を発揮し、生徒ではこうはならないだろうと判断。その後発信器を追いかけてみると銀行で大暴れするドーパントを確認し、一気に飛び込んだ。
初のメモリブレイクの実戦使用。成功するかどうかは賭けだったものの、難無く成功した。ただ、実はドライバーを最初に生成した時点でマキシマムにはメモリブレイク機能は搭載されていたりする。

・対策委員会
ブラックマーケットに出張したアビドスご一行。
イナホが離脱した直後、原作通りにヒフミと遭遇からの銀行強盗決行。しかし銀行員の1人がドーパント化し、少々手傷を負った。

・阿慈谷ヒフミ
逸般通過トリニティ生。
キャラグッズの為に無法地帯に躊躇無く踏み入る生粋のコレクター。その執着心は最早狂気の類い。更にブラックマーケット各所の事情にも精通しており、確実に何度も来ている。普通の一般人を自認する立派な不対の逸般人。
原作通りにアビドスの銀行強盗のリーダーに祭り上げられた上、更に大暴れするドーパントの凶器に曝され掛けると言う割と笑い事にならないレベルの不幸に見舞われている。

・先生
今回はふざけなかった先生。
銀行の外からシッテムの箱越しに状況を確認してたら、何か化物が暴れ始めたから撤退指示を出した。

・ショウ
某進化蛇に良く似た声の、隻眼の猫獣人。
ブラックマーケットの一角を牛耳る、ヤクザの組長。コウとは幾度か依頼を交わした仲であり、個人的にも相性が良い。
彼の組は歓楽街的な地区を縄張りとしており、基本的には部下には店の用心棒に徹させている。しかし、マナーを欠く客相手には一切の容赦をせず、またその強気なやり方で文句を言われない程の力を持つ組織である。

・アームズドーパント
記念すべき最初のドーパント。
強盗に逢ってプッツンした銀行員が変身。その風貌に良く似合う、典型的なヒャッハーと化した。
その攻撃は生徒の神秘の守りを突き破り、より大きなダメージを与えられる。そんな武器を全身に満載した、極めて危険な怪人。
しかし、文字通り年期の違いによってローザストにボコボコに叩き潰された。

・陸八魔アル
ハーフボイルド便利屋社長。
前回、鞍替えした傭兵に前金を持ち去られた事で原作通り素寒貧に成り果てた。そして原作通り銀行で融資を受けようとするもけんもほろろに断られる。
そこに丁度、対策委員会の強盗集団、《覆面水着団》が突入。その見事な手際に惚れ惚れするが、直後にアームズドーパントが出現。周囲を見境無く破壊しまくるアームズにドン引きしていたが、その無秩序な暴れ方を見てかハードボイルドスイッチが入り喧嘩を売り啖呵を切ってしまった。
しかしそれが時間稼ぎとなり、ローザストの到着を間に合わせる事に成功。文句無しのMVPである。

・浅黄ムツキ
一蓮托生幼馴染み。
アルがヤベェ奴に喧嘩を売り、流石に恐怖を覚える。が、それでも最期まで自分達らしくあろうと戦闘姿勢に移行した。

・伊草ハルカ
肉盾志願平社員。
アルを守る為なら、真っ先に自己犠牲を選ぶ。その判断基準に例外は無い。

・鬼形カヨコ
重い女。
本能的にアームズは自分達のヘイローを破壊しかねない相手だと理解するも、アルがやる気なので従う姿勢。忠誠が重い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。