相変異 黒蝗   作:エターナルドーパント

19 / 32
呵責

(コウサイド)

 

「何なのよこれ!?」

バンッと机を叩く黒見。

メモリユーザーをおやっさん達に預けた後、俺はドゥオルギャリーに全員を収容。そのままアビドスまで帰って来て、現在戦利品の確認をしていた。見ているのは、カイザーローンの集金車の集金票。

結果は、当然真っ黒。アビドスで金を回収し、その金の一部をヘルメット団に《任務補助金》として流していた。つまり、何度も不良集団をアビドスにけしかけているのは、カイザーだったと言う訳だ。

「い、意味が分かりません!アビドスが破産すれば、貸し付けたお金も回収出来ない筈!なのに何で・・・」

「・・・」

「・・・どうにも、銀行の独断とは考えにくいね。カイザーコーポレーション本社から命令されてると見て間違い無さそう」

「そう、見るのが妥当ですね・・・」

シロコの推測に、トリニティ生が同調し唸る。重い空気が流れる中・・・俺は口を開く。

「・・・で、君は誰?」

「あっ」

 

━━━

━━

 

「あーらら、そいつはまた災難なこったよ」

「あ、あはは~・・・」

事のあらましを聞き、俺は彼女、阿慈谷ヒフミに同情の視線を向ける。

いやはや、まさかコレクターとしてグッズ収集の為に来たら銀行強盗に巻き込まれるって・・・

しかし、あの辺りでは人攫いビジネスやってた奴らはほぼ活動してない筈・・・新興勢力か、はたまたバカな不良共が足りん脳を搾って捻り出した案か。取り敢えずこれも持ち帰るとしよう。

「と言うか蝗屋さん!さっきの怪物は何なのよ!何か知ってるなら教えて!」

「ん、私も気になってた。アイツの弾、普通じゃない。たかが拳銃弾1発なのに、まだ治らない・・・」

”先生としても、そこら辺の説明は必須カナ~。と言う訳で、教えてくれる?”

「・・・そうだな。必要だ」

ドーパントの実例が遂に出ちまった、ならば、周知しておかなければ大変な事になるだろう。全く、面倒な事になった。

「あの怪人は、ドーパント。本来は半導体に混ぜ込む不純物って意味だが、まぁそれは置いとくとしようか。

ドーパントってのは、こんなアイテムを使って変貌した奴だ」

懐からメモリを取り出し、卓上に並べる。ホッパー、サイクロン、ヒート、クイーン、ユニコーン・・・こんなもんで良いだろ。

「コイツは、ガイアメモリ。この星の内側、記憶領域に保存された概念を封入したものだ」

「が、概念を封入・・・?」

「・・・ゲームであるだろ?武器に装着したら属性効果をプラス出来る装備品の類い。あんな感じと思ってくれれば良い」

「あ~!」

首を傾げていた黒見も、例え話は通じたようだ。

「俺が普段使ってるのはホッパー、飛蝗の記憶だ。そして、校庭で便利屋にブッぱなしたのがサイクロン。コイツらは俺と特に相性が良くてな。あんな規模の技でも、もう少し練習すればちょっとした強攻撃程度の意識で撃てるようになるかも知れん」

”・・・相性が良ければ、か。じゃあ、相性が悪い事もある訳ね?”

「察しが良いな先生。ガイアメモリには、適合率って概念がある。本人の気質だったり、体質だったりな」

「体質、と言うと?」

「ん~・・・もしも酒をペロッと舐めただけで真っ赤になってベロッベロに酔っ払うような奴が、アルコールメモリなんて使ったらどうなると思う?」

”・・・下手すりゃ急性アル中で即死とか?”

「相性が極端に悪いとそうなるんだよ。どんなメモリでもな」

全員の顔がサッと青ざめる。中でも、アームズドーパントの攻撃に曝されたシロコとノノミは顕著だ。

「但し、適合率が極端に高ければ、逆にデメリットを踏み倒したり新しい能力が開花したりもする。俺の場合は、飢餓の呪毒がその1つだな」

「えっ、じゃあそのガイアメモリってのを使えば、いろんな人が蝗屋さんみたいに強くなれるの?」

「・・・そうだな。まぁ、理論上はな」

「だったら「だが!」っ!?」

パッと明るくなり掛けた黒見を、俺は声にドスを効かせて遮る。

「そんな美味しい話は無い。そう言う話に飛び付いちまうから、詐偽にカモられるんだぞ黒見」

「なっ!?」

「いいか?メモリには毒素があるんだ」

”毒素・・・?”

先生の眼が鋭く、ギラリと光る。まぁ、俺が何食わぬ顔で使ってる物が毒物だと言った訳だ。どう言う事だとなるのも当然だろう。

「安心しろ先生。俺のメモリは全て、限界まで毒素を排除し純化したものだ。更に、ドライバーと言うフィルターも通して徹底的に無害化してある。早々副作用は出ねぇよ」

”・・・逆に言うと、未精製でフィルターも無しに使うと危ないって事か・・・どうなる?”

「簡単に言うと、危ない()()()()だ」

”ッ!”

先生がすげェ顔してる。まぁ、このお人好しにとっちゃ地雷も良いとこだろうからな。

「ま、麻薬って事ですか!?」

「何ならもっとタチ悪いぜ。銀行でアームズが暴れてるの見たろ。ヒフミちゃん、あれ見てどう思った?」

「正義実現委員会の委員長みたいだな、と」

”は?”

「待って、違う、そうじゃない」

反射的に頭を抱える。

あぁそうか、トリニティの子にとってバーサーカー=ツルギちゃんなのか。まぁ日頃の行いとはいえ流石に可哀想だな。まぁ端からだとあんま見分けが付かないのは事実なんだけども・・・

「先生、大丈夫だから。正実のトップ個人が素でバーサーカー気質ってだけだから。戦闘員が変なもんキメてラリラリハッピーで戦う組織じゃないから」

”・・・”

「続けても?」

”うん”

一応落ち着いてはくれたが、相変わらずスゴい顔してる・・・ツルギちゃん紹介する時は、出来るだけフォローしてあげよう・・・

「えーっと何処まで話したっけ・・・そうそう、直挿しの危険性だな。まぁ、使用時の圧倒的全能感と高揚感、そしてそれに比例する強さの離脱症状がまず大きいな。そして、使えば使う程にその症状は酷くなり、苦痛から逃げる為にまたメモリを・・・ってな具合さ」

”うっわ、完全にシャブ中じゃん”

「なので、呉々も使わないように。落ちてるのを見付けたりしたら、俺か先生に渡す事」

”そう言う事なら喜んで”

「・・・あの、1つ良いですか?」

「おう、何だヒフミちゃん」

「あの・・・貴方は、そのガイアメモリを何処で手に入れたんですか?」

「・・・」

まぁ、気になるわな。当然だ。俺はメモリを使い熟してる。何時から持ってて、何処から調達したかは気になって当然だろう。

「・・・ホッパーに関しては、俺が自分で作ったもんだ。そしてそれ以外・・・コイツらは、外部協力者にホッパーを解析させ、コピー品を改造して作らせた」

「その方々以外、製法を知っている人は?」

「いない筈だ。だから、この協力者共が漏らしたのかも知れん。なればこそ、ドーパントに対する落とし前は俺が付けなきゃいけない。間接とはいえ、俺のせいかもしれないからな」

「・・・何で、そんなもの作っちゃったの?」

「・・・」

重く、黒見が問う。それもまた、当然。今上げた特性を踏まえて、ガイアメモリがある方が良いか無い方が良いかなら、無い方が良い。間違い無い。だがそれは、只の兵器ならばの話だ。

「そうしなきゃ、キヴォトスが滅んでたからだ」

「滅ぶって、そんな・・・」

「さっき言ったサイクロン。あれだって、周りに被害を出さないよう制御してあの威力だぞ。あれ以上の出力で、全て意に介さず解き放てば・・・キヴォトスは、1週間保たず蝕まれる。それを防ぐには、メモリとして封入するしか無かったんだ」

「・・・それにさ。イナホが幾つかメモリ持ってたお陰で、おじさんは命を助けられた事もあるんだよね。だから、間違いでは無いと思うよ?色々作ったのもさ」

「えっ、ホシノ先輩が命を!?」

「ホントだよ。全く、夏の虫処か猛禽が火に飛び込んで来やがって」

「え~?でも私が来なかったらあの時のイナホ危なかったんじゃな~い?」

「いーや!長期戦にはなってただろうがあれしきにゃ遅れは取らん!」

「え~?ホント~?」

「あ~?何だ~?」

”はいそこ~、イチャイチャしないの真っ昼間から”

「・・・それもそうだね。皆の眼もあるし」

「喧嘩の決着はベッドに持ち越しか」

「ちょ、何言ってるのよ2人とも!?」

顔を真っ赤にして黒見が怒鳴るのを見て、ホシノと目配せし笑い合った。一応、重い空気のリセットには成功したな。

「・・・所で、ベッドでどうやって決着を付けるの?」

「ヤバい、要らん事教えちまった」

 

━━━━━

━━━━

━━━

━━

 

「待たせたか」

「まぁな。来い」

「あいよ」

夕日も地平線に隠れる頃。俺はショウのおやっさんと共に、ビルの地下に向かっていた。

表向きは歓楽街を管理する元締め会社。その裏の顔は、その土地の荒事を暴力と恐怖と金で支配するヤクザ。となれば当然、相応の()調()()もある訳で。

「どうよ、具合は」

「ウンともスンともじゃ。まるでべろべろに酔っ払ったようで、呻きはすれど言葉は喋らん。何なら、儂等が自分に何をしているのかすら、認識しておるかどうか」

「あーあ、微妙な適合率のメモリを引いちまったんだな」

がチャリと扉を開け、中に入る。そこに居たのは、椅子にギチギチに縛られボンヤリと虚空を見つめるメモリユーザーだった。

「オジキ、蝗のアネさん、お疲れ様です!」

「あぁ、そっちもお疲れ。ちょっとコイツがマトモに喋れるようにするから、下がっててくれ」

相当手酷くやられたようで、手の指をベキベキにされているオートマタ。その頭を左手でひっ掴み、レイズスロットにメモリを装填した。

UNICORN(ユニコーン)!】

左腕に青白いエネルギーが集まり、そのまま掴んでいる頭に流れ込んだ。ユニコーンの持つ解毒作用により、体内の残留毒素を分解。ぐちゃぐちゃになっていた顔面のディスプレイが、漸く戻り始める。

「う、ん・・・ぁえ、何・・・ッッッ~!?!?がっ、ぎっ!?い、痛ェ!?指っ指がっあっ!?」

「おーおー、元気になったな。じゃ質問だ」

「うぎゃっ!?」

右脚を上げ、コイツの肩にドカッと下ろす。そのまま顔を寄せ、俺の眼を覗き込ませた。

「お前、あのメモリを何処から手に入れた?」

「ひっ!?め、メモリ!?何の事ォがぁ!?」

「寝惚けた事を言ってんじゃねぇよ」

踵を肩関節に捩じ込み、ゴリゴリと圧迫する。そのまま圧を掛けつつ、懐からジップロックを取り出した。中身は、破損したアームズメモリ。

「あっ・・・!」

「思い出したか?貴様が持ってたこのアームズメモリ、どっから仕入れたかって聞いてんだよ。誰かから譲渡されたか、売られたかって具合だろ?オラ、キリキリ吐けや」

「ぐあぁっ!?」

涙眼になって呻くオートマタ。と言うか、コイツ無駄に良い声してるのが余計腹立つな。勝率をガッツと勇気で補ったり、青春スイッチONしそうな声の癖して、何でメモリなんぞに手を出しちまったのか・・・悲しいねぇ。

「わっ、分かった!言う!言うから止めてくれェ!?」

「最初からそうしてりゃ良いんだよ」

脚を下ろせば、既に息も絶え絶えだ。大方、残留毒素で麻痺してたぶり返しで痛覚感度が跳ね上がってるんだろう。麻酔系の薬物にはありがちな症状だ。

「せ、先週だ。仕事を終わらせて、安酒をしこたま飲んだ帰り道で・・・売って貰ったんだ」

「どんなヤツにだ?」

「分からない・・・ま、待ってくれ本当だ!覚えてないんだ!すごく酔ってたから・・・」

「チッ、使えんな」

その後少々絞ったが、有用な情報はほぼ出なかった。辛うじて、おやっさん達が掴んだ情報である写真がメモリを買った時の試し撃ちの痕跡である事、そして売人が複数のメモリを詰めたアタッシュケースを持っている事が辛うじて分かった。

「糞ッタレめ、キッチリとセールスマンが練り歩いてやがる・・・」

「売人共か・・・この縄張りに付いては、儂等が眼を光らせておこう。ヤクを売る外道共の動く所は、嫌と言う程知っておるからな」

「あと、マーケットガードを幾らかド底辺の阿片窟(ネスト)を回らせてくれ。そう言う奴らは変な物への抵抗が無い。格好の餌場だ」

「フム、分かった。コイツはどうする?」

「理想は監視を付けて泳がせる感じかね。多分セールスマンから再度接触がある。まぁ、そう上手く行くかは分からんが・・・」

「分かった。任せておけ」

「頼んだわ・・・じゃ、俺は此処らで」

「おう。気を付けて帰れ」

「ちょ、俺は!?」

絶望的なジャンキー野郎の声を華麗に聞き流し、俺は尋問室を出る。見送りしてくれた組員に手を振り、俺は懐からスタッグフォン・・・では無く、()()()()()()()()()()()()()()()()を取り出した。

「・・・よぉ、今良いか?・・・済まん済まん。で、昨日話した件だが・・・あぁ、今夜持って行く。解析を・・・ありがとよ。じゃあ頼むわ」

手早く通信を終わらせ、ブラックマーケット郊外のドゥオルギャリーを目指して走る。全く、やる事が多くて適わんぜよ。

 

(NOサイド)

 

「はぁ~、染みるわ~・・・」

「おや、お疲れかい?」

柴関にて、特大どんぶりから麺を啜るイナホ。その草臥れた様子に、柴大将が声を掛ける。

「あぁ、ちょっと厄介な事になっちまってね。その対処の為に、ちっと遅くまで駆け回っててさ」

「大変だなぁ」

「ホントだよ・・・あ~。やっぱ、飯食ってる時が1番生を実感するわ」

「イナホちゃんは食い意地張ってるからな」

「当たり前だろ?俺は食い意地なら誰にも負けねぇぜ。あ、胃袋の方もな♪・・・店に入る前に、ちっと()()()()も喰っちまったしな。口直しにも丁度良い」

「おいおい、三郎より野暮って何食ったんだい?」

「ん?内緒さ」

「・・・そっか」

落ち込んだようなイナホの眼を見て、柴大将は何も言わずに眼を外す。そんな時、ガラリと店の戸が開いた。

「やっほー大将♪また来たよ♪」

「おーいらっしゃい!」

「取り敢えず、前と同じのを人数分ね」

「あいよ!」

入って来たのは、便利屋68。カヨコの注文を拾う柴大将に対し、イナホは唇に指を当てて見せた。

彼女が座っているのは、何時ものカウンターでは無い。少々奥まって、仕切りの影に隠れる位置の席。厨房からは見えるが、入り口近くの席からは見えない場所だ。

柴大将はチラリと横目にそれを確認して、黙って厨房で作業に移った。

「アルちゃん、元気出しなって!」

「お金の心配しなくて良くなったんだから、次こそ上手くやろう」

(金が入った?コイツ等そんな依頼掛け持ちしてサパッと金を作れる状態には見えなかったが・・・)

「へいお待ち!」

「わー!来た来た!」

「早っ・・・全然待ってないよ」

「ひ、1人1杯なんて贅沢、良いんでしょうか?」

「いーのいーの!これぐらいバチは当たらないって!頂きまーす!」

イナホが首を傾げている事も知らず、便利屋の面々はラーメンを啜る。その味に皆一様に唸り、箸は益々良く進む。

「・・・にしても、こんなに美味しいのに客が居ないなんて・・・」

「やっぱ立地じゃない?廃校寸前の自治区じゃ、そりゃ人も来ないよ」

「ハハハ、耳が痛ぇな。だがだからこそ、来てくれるお客には丁寧に接したいもんなのさ。アビドスさんとこの()()()なら余計にな。替え玉欲しければ言ってくれよ」

「・・・じゃない、わよ・・・」

柴大将の出した1単語に、アルの手がワナワナと震え出す。その様子を気配で察知したイナホは眼を鋭く細め、スープと背脂まで飲み干したどんぶりを静かに置いた。

「友達なんかじゃ、無いわよぉ!」

ダンッと机を叩き、立ち上がるアル。動きを察して反射的にどんぶりをどけたムツキにも構わず、アルは半狂乱で叫ぶ。

「分かったわ、何が引っ掛かってたのか!問題はこの店!この店よ!」

「あ、アルちゃん!?」「アル様!?」

「え、ど、どうしたの急に?」

困惑する部下達の様子に気付いているのか否か、アルの感情の爆発は留まる事を知らない。

「私達はこの辺りに、仕事の為に来てるの!ハードボイルドに!アウトローっぽく!!なのに何なのよこの店は!?お腹いっぱい食べられるし、あったかくて親切で!話し掛けてくれて和気あいあいで、ほんわかした雰囲気!!ここにいると!皆仲良しになっちゃう気がするのよっ!!」

「え~?それ何か問題?」

「大問題よ!もう何もかもメチャクチャでグダグダ!私が一人前の悪党になるためには、こんな店は要らないのよっ!」

「いやいや、流石に考えすぎなんじゃ・・・?」

さしものムツキですら引く程のヒステリック。カヨコと2人で宥めようとする中、ハルカがバッグを漁りつつ呟いた。

「それって・・・こんなお店はぶっ壊してしまおう、って事ですよね、アル様?」

「・・・へ?」

「は、ハルカ、ちょっ、待っ」

 

━カチッ━

 

バッグから取り出した起爆装置を、小気味良い音を鳴らして握り込むハルカ。顔面蒼白で慌てるカヨコとムツキ。そして理解が追い付いていないアル。そんな微妙な空気が、4秒間続いた。

「あ、あれ?あれっ!?」

一向に起こらない爆発。起爆装置を何度も動かしながら混乱するハルカの様子に、カヨコ達はお互いの顔を見合わせる。

「は、ハルカ?起爆装置なんて━━━」

 

「やっぱりお前等だったか、アレを仕掛けてたのは」

 

「「「「っ!?」」」」

地獄の底から響くような、灼熱と酷寒を同時に内包した声。席から立ち、仕切りに手を掛け、イナホがぬるりと顔を出す。

「蝗屋・・・!」

「な、何で・・・」

「お前等の仕掛けた爆弾は、俺が呑み込んだ」

「・・・ほえ?」

血のように真っ赤な眼で睨まれ、未だ呆けているアルの額にも冷や汗が滲む。しかしその瞳は、すぐに隣のハルカに移った。未だ忙しなく起爆装置を操作し続ける、ハルカの手に。

「お前それ・・・まだ、爆破しようとしてんのか?」

「へうっ!?」

「俺が目の前まで出て来て、更に爆弾はもう無いと言われて尚・・・お前の指はいつまでも、カッチャカチャカッチャカチャと・・・それ、渡せ」

「え、いや・・・」

「渡せ、3度は言わんぞ」

「ひっ・・・は、はいっ・・・」

震えるハルカの手から取り上げたそれを、イナホは軽く眺め・・・

 

━ガリっ バリッ ボリッゴリッ━

 

「は?」

「う、嘘でしょ!?」

食べた。プラスチックと金属で出来たそれを、当たり前のように噛み砕き、嚥下する。その様子に、便利屋の面々はぞわりと鳥肌が立つのを感じた。

「・・・流石にこれはいらねぇや。さてと・・・」

そう言ってバッテリーだけを残し、それ以外のパーツを全て平らげたイナホは、再びギロリとアルを睨む。

「その様子からして、ここに爆薬仕掛けたのはソイツの独断か。だとしても、失望したぜ・・・そんな、みっともねぇ奴だったとはな」

「な、何ですって!?」

「みっともねェだろうがよッ!!」

「ッ!」

アルが反射的に食って掛かるものの、イナホの激怒に瞬時に押し潰され、口を噤まざるを得なくなった。それ程に、イナホが発するプレッシャーは強く、熱く、そして冷たい。

「作戦が失敗した?メチャクチャ?グダグダ?結局、全部お前の詰めが甘かったってだけじゃねぇかよ。あ?それをグチグチと弱音吐いて、現実も受け止めず癇癪起こして、部下の暴走にも気付かず、挙げ句この店に責任転嫁だァ?冗談じゃねぇ。笑えねぇよ、何1つ。

全てはお前の責任だ。他の誰でも無い、お前の責任なんだ。こんな商売やってんなら、全ては自己責任なんだよ。勝とうが負けようが、自分達以外のせいになんざ出来ねぇ。それ込みで、お前はこの仕事やってんじゃねぇのかよ、あ?」

「そ、それは・・・それは・・・っ」

丸く見開かれた猛禽のような眼で詰められ、アルの目元には涙が浮かぶ。しかしイナホにとっては、相手が泣こうが叱責を中断する理由にはならない。

「お前が誰に憧れてハードボイルド気取ってるか、俺ァ知ったこっちゃねぇ。だがな、お前が憧れたその誰かサンは、自分の失敗に癇癪起こして堅気の店に当たり散らすような、ダセェ小物なのか?」

「っ!そ、それは違うわ!」

「だったらテメェもそんなダセェ事してんじゃねぇよ。憧れて名乗ったなら、そこにはその大元サンへの風評って責任が生まれンだよ。人様の面に泥塗ってんじゃねぇぞ小娘」

「うっ・・・うぅ・・・」

「・・・はァ、もういい。もう会話に意味は無い」

重く溜め息を吐いて、イナホはレジに向かう。そして財布から5万円取り出し、レジカウンターに置く。

「悪ィな大将、空気悪くしちまった。迷惑料だ、取っときな」

「あぁ、良いんだよ。また来てくれよイナホちゃん」

「邪魔したな・・・ったく、昨日ドーパント相手に啖呵切ったお前は、惚れちまいそうな程に眩しかったが・・・見込み違いだったか」

失望を隠さず垂れ流しながら、イナホは柴関を去った。残ったのは、どんよりと重く沈んだ便利屋の面々。そんな様子を見て、柴大将は口を開く。

「・・・ったく、これじゃ伝わってねぇぜイナホちゃんよ。いや、もしかしたら自覚すら無かったのかもな・・・なぁお嬢ちゃん達、ありゃあの子なりの激励みたいなもんさ」

「・・・え?」

本日何度目か、眼を丸く見開くアル。激励、と言う言葉を脳内で咀嚼し、反芻し、理解し・・・眼を伏せる。

「そう、とは思えないのだけど・・・」

「いいや、多分間違い無いと思うぜ?」

「どうして、そう言えるの?」

「だってあの子・・・ホントに失望したら、割とノータイムで手や脚が出るタイプだからな」

「・・・あっ」

説得力があった。アルの記憶に残っている、闇オークションでのローザストの動き。人質を取られた際、対話の余地も無く、反応も許さない早さで攻撃を仕掛けた。

そして、気が付く。それと同じ事が、此処でも出来た筈だと。

「やろうと思えば、その子がスイッチを押した時点で全員叩きのめす事も出来たんだよ。それをせずに、説教で済ませた。説教ってのはな、悪い所を直せると見込んでる相手にしかしねぇもんなのさ」

「・・・でも、もう会話に意味は無いって・・・」

「不言実行ってヤツさ。直す気があるなら、行動で示せってな」

「・・・どうして、そんなに良くしてくれるの?私達、未遂とは言えこのお店を爆破しようとしたんだけど・・・」

深く考え込むアルと交代するように、カヨコが問う。明確な敵対行為が発覚した相手に、此処まで世話を焼く理由が思い付かないからだ。

「そりゃあ、それが━━━━━」

 

その言葉が続く前に、柴関ラーメンは爆炎に包まれた。

 

To be continued・・・




~キャラクター紹介~

・対策委員会
何とか無事生還したアビドス生。
ガイアメモリの危険性を知り、その脅威度を認識した。特にノノミとシロコはドーパントの攻撃で直接負傷した事もあり、警戒心が強まっている。
少々ギスり掛けたが、ホシノと先生の機転でなんとか突破。その代わりにシロコにエライ概念を教えてしまった。

・阿慈谷ヒフミ
逸般トリニティ2年生。
アビドス組と一緒に居たからと、ドゥオルギャリーで拾われ学校まで運ばれた。アームズドーパントの印象を聞かれ、ツルギみたいと凄まじく失礼な、しかし本人を見た事があれば妥当な回答をぶちかましコウをガチ焦りさせた。

・叢雲コウ/草薙イナホ/仮面ライダーローザスト
忙しなく動き回る飛蝗少女。
アームズのユーザーから情報を引き出しはしたが、結局セールスマンがいると言う事しか分からなかった。ショウと協力し、セールスマンの捜査を開始。同時に何処かに連絡を入れ、何かを依託している。
そんな激動明けの1杯を楽しみに柴関に向かうと、店に仕掛けられた爆弾を複数発見。それらを全て補食する事で処理し、便利屋が来る可能性に賭けて待ち伏せ。その結果見事に来店した便利屋に対し、怒りを表出して凄まじい圧で説教をした。本人が借り物の名前で戦っているからこその怒りである。まぁお気に入りの飲食店を破壊されそうだったと言うのも大きいが。
実は黒蝗を展開せずとも、割とどんなものでも貪食出来る。但し高温だったり薬品だったりで火傷したりは普通にするので、食品以外を自分の口で貪食する事は殆ど無い。

・先生
凄い顔をした先生。
ガイアメモリの性質を教えられ、そんなものがキヴォトスに存在している事にショックを受ける。
アームズの暴れっぷりが正実トップと良く似ていると言われぎょっとしたが、イナホの説明に一応は納得した。

・魔猫のショウ
危機感抱く猫ヤクザ。
イナホを待ってる間に取り敢えずユーザーを尋問してみたが、結局何も聞き出せずお手上げに。結局イナホの治療を待つ他無い状態となっていた。
情報を得てからは自分の縄張りを巡回するマーケットガードを増やし、イナホからの進言でドラッグジャンキーの巣窟にも見回りを出す事に決定した。

・アームズのメモリユーザー
CV.勇者王なジャンキー。
1週間前、仕事帰りにしこたま飲みまくって酔っ払っていた所でセールスマンに声を掛けられ、メモリを購入。しかし適合率が高くなかったせいで、メモリブレイク後も毒素の分解が上手く行かずずっと酩酊状態だった。
手の指はベキベキにへし折られ、全身打撃傷まみれ。ショウの元で首輪を着けられ、こき使われる事となる。

・柴大将
男前な大将。
イナホのジェスチャーから要求を読み取り、何も言わずに汲んだ。そしてイナホからアルへの説教にも割り込まず、後からアルを立ち直らせる為に励ますと言う出来た大人ムーヴを熟す。
爆弾を仕掛けた事に関しては、起爆が失敗した事もあってそこまで怒ってはいない。

・陸八魔アル
ハーフボイルド便利屋社長。
今回は少々見苦しい所を晒したが、まぁ原作よりはマシやろ・・・
一応、柴大将のお陰でイナホの気持ちは理解はした模様。

・伊草ハルカ
今回の元凶。正直原作はあんまりなのでちょっとお灸を据える事に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。