(コウサイド)
「おい!大将!!大丈夫か、おいッ!」
大声で叫びながら、瓦礫を掻き分ける。
風切りに継いで聞こえた、凄まじい爆音。振り返ってみれば、柴関は瓦礫の山に成り果てていた。俺は咄嗟に変身。頑丈な爪で瓦礫を掘り返しながら、何か無いかと狭まった視野を強制的に広げつつ考える。
キヴォトス人は、銃撃や爆発、崩落なんかではまず直接的には死なない。だが、瓦礫で呼吸器を圧迫されて空気が吸えなくなれば、そこには差なんて無い。無呼吸状態に長時間耐えられるクジラみたいな体質でも無い限り、死ぬ。等しく、死ぬ。
「くっ・・・そうだ、匂い!」
頭部の触角に意識を集中し、周囲に浮遊する物質を解析。火薬の燃えカス、豚骨や醤油、脂の臭いの中に、柴大将固有の体臭が必ずある筈・・・
「・・・ここか!」
見付けた。ラーメンや調味料だけで無く、複数の匂いが混ざっている地点。ここを一気に掘り返し・・・ッ!?
【QUEEN!MAXIMUM DLIVE!】
「クイーン・テンペルム!」
エアロディテクターから脊髄を貫いた悪寒に従い、クイーンのマキシマムを起動。ローブのような布を纏うように変質した左腕を掲げ、ドーム状のバリアを展開する。その直後、悪寒の元凶は降って来た。
━ドゴゴゴォンッ!!━
「ぐおぉ!?」
複数個の榴弾。炸裂する爆炎と衝撃波を、クイーンの障壁で何とか防ぐ。この程度なら、設置型のテンペルムでも受け止められる。が・・・
「クソッタレ!大将掘り出さなきゃいけねぇってのに!」
「それは、大丈夫」
後ろからの不意の応答。目線を送るより先に、気配で察する。
「鬼形カヨコか!」
「あーもう!いった~い!」
「し、死ぬかと思いました・・・」
「何なのよこれ~!?」
「おうおう、漸く起きたかセミの幼虫共!」
便利屋は全員眼を覚まし、瓦礫の下から出て来た。そして、未だ気絶している大将も引っ張り出されている。
「状況は分かるか!」
「降って来てるのは、50mm迫撃砲。狙いは私達。となれば・・・多分、ゲヘナの風紀委員会かな」
「成る程、そりゃ聞き覚えがねぇ訳だな!」
風紀委員会・・・彼処とは何度も訓練でやりあってるが、俺が担当するのは対歩兵戦だ。迫撃する距離から戦闘を開始した事は無い。
「おいお前ら!兎に角表に出ろ!ここにいたんじゃ延々迫撃されるだけだ!」
「わ、私達に囮になれって言うの!?」
「囮も何も本命がお前らなんだろうが!堅気巻き込んでんじゃねぇ!それはそれとして、俺ァ向こうも叩き潰すがな!」
「~っ!あーもう分かったわよ。カヨコ!ムツキ!ハルカ!打って出るわよ!」
「了解」「オッケー♪」「わ、分かりました!」
飛び出して行く便利屋。それを追うように、砲撃も標的を変え始めた。漸くバリアを解除しても問題無い程度に離れた所で、今度は軽やかな足音が響く。
「ローザスト!」「蝗屋さん!」
「シロコ!黒見!丁度良い、大将をシェルターに運べ!」
大将を黒見達に任せ、
”イナホ!何があった感じ!?”
「ゲヘナの風紀委員会が便利屋追っ掛けて攻めて来た!」
”え、風紀委員会ってそんな強行組織なワケ!?”
「いや、ヒナちゃん・・・風紀委員長が仕切ってるならこんな事はしねぇ。逆説的に、今部隊を動かしてんのは駄犬か・・・まぁ良い。俺はアイツ等をド突き倒してくる。邪魔はしてくれるなよ」
”えっ?いやいや、流石にヤバイんじゃない?”
「あれしきに遅れは取らん!」
心配する先生を振り切り、俺はドライバーからメモリを引き抜きながら地面を蹴った。
(NOサイド)
「ターゲット、沈黙」
「よし。歩兵、第2小隊まで突入」
部下の報告を受け、褐色肌と長い銀髪が特徴的な少女、銀鏡イオリが指示を出す。その横で、不安げな顔をしたチナツが問う。
「イオリ、あの方達はどうします?」
「ん?あぁ、あっちの生徒?何だっけ、アビドス?敵対するならぶっ飛ばせば良いでしょ。公務執行妨害、イコール敵。それだけ」
「・・・既に撃った今では後の祭ですが、事情を説明した方が良かったのでは?」
「・・・説明って、必要?」
イオリの問い返しに、チナツの顔が引き攣った。キリキリと痛む胃を押さえるチナツを余所に、イオリは前線で便利屋を相手取る歩兵隊を眺める。
━ドゴッ━
「がっ!?」
その眼に飛び込んだのは、ロングコートを着込んだ長身の人物がリーダーの頭部を掴み、顔面から地面に叩き伏せる姿だった。言うまでも無く、コウである。
「なっ!?何だアイツ!?」
イオリと同様に、狼狽える前線小隊。その隙を突き、コウは重心を落下。踵を地面に叩き付けて下半身のバネを開放し、最も近かった歩兵の鳩尾を殴り抜く。
「かぉっ!?」
内臓がパニックを起こし眼を白黒させる歩兵。その首根っこと足首を掴み、盾にしながらまた別の標的を目掛けて突撃。フレンドリーファイアを恐れて引き金を引けなかった目標は、コウの鬼の形相に怖じ気付き、反射的に自分の銃を盾にした。
「ッシャア!」
「ぎゃぺっ!?」
盾にしていた敵の顔面を、そのまま銃に叩き付ける。
自分の銃が、味方を傷付ける感触。そして、噴き出す鼻血の色。チクチクと撃つだけの雑兵の脳は、複数の巨大な想定外のストレスに殴り倒される。2秒にも満たないであろう硬直だが、致命的と評価するには十分だった。
「シレァッ!」
━ドキャッ━
「かばッ!?」
後頭部に回される左手。そのまま引き寄せると同時に跳躍。鼻っ柱を目掛けて、コウは膝を叩き込んだ。鼻血を吹き出し仰け反ったその横腹に、抉り込むようなレバーブローが突き刺さる。
「あの戦い方、まさか・・・!イオリ、撤退を!この戦い、今すぐ止めないと大変な事になります!」
「チナツ、アイツを知ってるのか?」
「知ってるも何も、彼女は蝗屋!ローザストです!」
「えっ、アイツって人の顔あったの!?」
「私も初めて見ましたが、あの残虐戦法は間違いありません!」
「確かにあんな戦い方するヤツはアイツぐらいだろうけど・・・いやあれやりすぎだろ!」
イオリが目線を戻すと、コウは両手に1人ずつ捕まえた敵の顔面を地面ですりおろすように爆走していた。そして逃げ出そうとする歩兵にブーメランのように投げつけ、ボウリングのピンの如く薙ぎ倒している。
”あーっあーっ、えっと~チナツちゃん?聞こえてるカナ~?”
「っ!先生!やっぱりいらっしゃったんですね!」
「え、チナツどうしたの?」
脳内に響いた先生の声にチナツは驚き、その様子にイオリは首を傾げる。そんなイオリの事を捨て置き、チナツは最悪の想定が現実になったと頭を抱えた。
”まぁ、忙しいと思うから用件だけね。とっとと撤退して欲しいんだけど。痛い目見るのは嫌でしょ~?無理だってんなら庇ってあげられないよ?”
「それは・・・出来るなら私もそうしたいのですが・・・」
「何?何か言われたの?」
「その・・・痛い目を見たくなければ撤退しろと」
「は?嘗めてるなソイツ。よし、ぶちのめす」
「ちょっ、イオリ!?」
「嘗めているのはお前だ、銀鏡」
青筋を立てていきり立つイオリの前に、コウが歩み出る。右手には、顔面がボコボコに腫れ上がった歩兵が鷲掴みにされていた。
「蝗屋・・・ハッ、そう言えば金次第で誰にでも着くんだったな。あの規則違反者共に小遣いでも握らされたのか?」
「馬鹿言え、俺ァそんなに安かねぇ。害獣を駆除しに来ただけだ。便利屋なんざ眼中に無い」
「は?私達が害獣って言いたいのか?」
「あぁそうさ。流石に脳ミソ猪の突撃馬鹿だと、ここまで言わなきゃ分からねぇか」
「なっ!?誰が猪だ!」
「ぎゃっ!?」
カッとなったのか、イオリはコウに向けてスナイパーライフルを放つ。しかしそれは容易く読まれ、掴んでいた歩兵が盾にされた。
「あっ!何てヤツ!」
「撃ったのはお前だろうが。被害者面してんじゃねぇ」
「悪いのは盾にしたお前だろうが!」
「根本的に悪いのは民間人が経営するラーメン屋に無警告で砲弾ぶちこんだテメェ等じゃねぇかッ!」
「あぁぁぁぁぁ!?」
怒りのままに投げ捨てられ、ドップラー効果を引きながら飛んでいく歩兵。街灯に激突してくの字に折れ曲がって呻く哀れな砲丸には一切眼を向けず、コウは熱く息を吐く。
「ら、ラーメン屋?」
「そうだ。柴関ラーメン・・・値段も手頃、味も良い。ボリューム満点で、更に俺の無茶な要望にまで答えてくれた。そんな気の良い大将が、何とか切り盛りする店だった・・・それを警告も無しに、丸ごと吹っ飛ばした。お前等がだ。どれだけの食材が無駄になったと思ってる・・・瓦礫に埋まった大将が、どれだけ苦しかったと思ってる・・・そんな害獣、駆除一択だろうが!」
髪が逆立ち、ビキビキと血管が浮き上がる。コートから吹き付けた冷媒が瞬時に蒸発し、煙のように立ち登った。そして大きく息を吸い込み、肩越しに叫ぶ。
「対策委員会!雑魚はお前等が喰っとけ!俺はこのバカを喰う!仮面ライダーでは無く、草薙イナホとしてな!」
シロコを筆頭に、対策委員会はその伝達を承諾。周囲の雑兵のみに狙いを絞り、抉り込む。
「ハッ、報告は見たぞ。お前、何時もの刀が今メンテで使えないんだろ?それに何時ものスーツすら使わずに相手する気か?吠え面かくなよ!」
「バカ言え。お前相手になら蝗丸も要らねぇ。そして仮面ライダーの仮面は、俺の私怨で穢して良い程安いもんじゃねぇんだよ」
「つくづく腹の立つ!死ね、バッタ野郎!」
「そんなだから猪だッつーんだよ!」
イオリがバックステップし、射撃。
イナホは母趾球で地面を踏み締め、左肩を大きく巻き込む事で回避する。
イオリが大股3歩分サイドステップし、第2射。
対するイナホは落ちていた重心に対する脚の反発をフルに使い、前方に飛び込む事で射線を外れる。
大きく引き、第3射。着地が出来ていない無防備な跳躍中を狙った、不可避の弾丸。
それすら、右腕の装甲でパリィ。地面に対して身体は水平。敵への投影面積の少なさから、狙いを逆算して危なげ無く迎撃した。
距離は大股1歩分。イナホの右膝が上がる。イオリは鋭い動体視力でそれを察知し、銃を縦に構えてガード。
━スパァンッ━
「がっ!?」
眼部に直撃する、左の張り手。フェイントに引っ掛かったイオリの脳が、一瞬パニックを起こす。急な衝撃で、身体は眼球を保護しようと涙を大量に放出。視界が潰れ、反射的に左手が銃から離れ顔に向かう。隙。
「シッ!」
「がおっ!?」
左脇に突き刺さる、異形の一本拳。鋭く尖った1点の衝撃は、関節を繋ぐ靭帯に燃えるようなような激痛を焼き付けた。血管と神経の集まる急所、イオリの全身に冷や汗が噴き出す。
「いっ、いった・・・!」
「どうした、そんなもんか?ほら、来いよ。楽に落として貰えると思うなよ?教えてやるぜ、もったいないお化けの恐さってのをよ」
「クッ、殺す!絶対殺してやる!」
イナホは敢えてバックステップし、クイクイと手招きして挑発。真っ赤になったイオリは即座に前傾し、左脚で地面を蹴った。そして踏み出した右脚が、何かに浚われる。
「おわっ!?」
「ほーら、足元がお留守だな」
顔面から転びそうになり、咄嗟に銃床を地面に突き立てる。そして右脚を見れば、靴の爪先に喰らい付くスタッグフォンの姿が。
「なっ!?卑怯だぞ!」
「卑怯もらっきょうもあるもんかよ」
「ぐべっ!?」
イオリの後頭部を踏み付け、銃を没収。戻って来たスタッグフォンをキャッチし、銃口を頚椎に突き付ける。
「チェックメイトだ。ったく、スナイパーが突撃してどうするよ」
「ぐっ、くそ!離せ!」
ジタバタと暴れるイオリだったが、頭を抑えられてはどうしようも無い。
「向こうも、雑魚共は全部平らげたらしいな。これ以上弱い者虐めするってのも気分悪いし、お前は大人しくへばってろ。俺が用があるのは、お前じゃ無くて駄犬だ」
「はぁ、だから言ったのに・・・」
”いやぁ、お疲れだねチナツ”
頭を抱えるチナツに、先生が歩み寄り肩を叩いた。その様子から、彼女としても本意では無かった事は察している。
「まさか、こんな形での再会になるなんて・・・そちらに蝗屋が付いている時点で、シャーレも同じ。こちらに勝ち目は無いと、早々に撤退するべきでした」
”ま、しょーがないっちゃしょーがないよね。普通この戦力差で捲られるなんて思わないって”
イレギュラーそのものである先生の言葉に、チナツは胃の辺りを押さえる。この作戦行動が始まってから、チナツのストレスの増大は止まる事を知らない。
『此方、アビドス対策委員会の奥空アヤネです。そちらの所属をお願いします』
『それは私が答えさせて頂きます』
ドローン越しのアヤネの問いに、風紀委員会側からもホログラム投射による通信で回答者が現れた。
「あ、アコちゃん?」
『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、天雨アコと申します。状況について、説明させて頂いても宜しいでしょうか?』
”説明も大事だけど、頭下げる方が先じゃないカナ~?この子達と、柴大将にもサ”
人を食ったような笑顔を浮かべるアコに、先生もまた笑顔で応じる。尤も、その笑顔の後ろには不動明王の面影が見え隠れしているが。
『柴大将・・・あぁ、あのラーメン屋ですね。作戦遂行の為の致し方無い犠牲、コラテラル・ダメージと言うものですが・・・追って賠償は行いますので、ご心配なさらぬよう・・・』
「相も変わらず、人の神経を逆撫でるのが好きだな駄犬。主人の面が泥被るぞ」
『あら、ご挨拶ですね万事蝗屋』
ビートルフォンを背後に放り投げ、歯を剥き出して嗤うイナホ。対して、アコもポーカーフェイスを崩さない。
「ローザスト、コイツも知り合い?」
「あぁ。ゲヘナ風紀委員のNo.2。風紀委員長の右腕・・・を自称する駄犬だ」
『人を苛立たせると言うのであれば、そちらも相変わらずですね蝗屋。どっち付かずのコウモリ風情なら、無礼も売りになるのでしょうか?』
飽くまで余裕綽々といった態度で、イナホを煽り返すアコ。2人の間の空気は、極めて険悪である。
「・・・成る程、この大軍を動かしてるのはその露出狂女って事か。それなら雑兵の緊張具合も頷ける」
『誰が露出狂ですか!・・・オホン、素晴らしい洞察力ですね、砂狼シロコさん。生徒会の面々のみが残っていると聞いていましたが・・・1人見当たりませんね。どちらに?』
『少々不在にしています。それと、我々は生徒会では無く対策委員会です、行政官』
『そちらは・・・奥空さんでしたね。生徒会の方がいらっしゃらないと言う事ですか?私は、生徒会の人員と話がしたいのですが・・・』
「気に食わないわね。そっちから攻撃しておいて、下っ端には用は無いとでも言うようなその態度!アビドスの生徒会はとっくのとうに解散してるのよ!私達がその代理!だから言いたい事があれば私達に言いなさいよ!」
重なるアコの不遜な態度に、対策委員会のフラストレーションもギスギスと高まっていく。
「尤も・・・銃口を下げもせずお話ししたい、な~んて失礼な人達には、同じ態度で応じるしかありませんよね?」
『・・・それもそうですね。総員、銃を下ろして下さい』
思いの外素直に銃を下ろす雑兵達の態度に、肩透かしを喰らったような気分になる対策委員会。しかしイナホは険しい表情のまま、ポケットに手を突っ込んでいる。
『先程の現場の暴走による愚行についても、私から謝罪させて頂きます』
「ちょっ、アコちゃん!?私命令通りにやっただけなんだけど!?」
『無差別発砲して無駄に喧嘩を売れ、等と言う命令は下した覚えが無いですね?』
「い、いや、状況を鑑みて火力支援から歩兵投入って、セオリー通りに・・・」
「万事蝗屋、そしてそれが付随するであろうシャーレ。イレギュラーが確認出来た時点で、私は撤退すべきだと言いましたよねイオリ?」
「うっ」
上下から両挟みに責められ、縮こまるしかないイオリ。その様子を見て、「あぁ直情型なんだな」とシロコは理解した。
『ましてや他の学校の
『・・・付近?』
アコの発言に引っ掛かりを覚えるアヤネ。その様子を横目に見て、イナホは何度目かの溜め息を吐いた。
『失礼しました。我々ゲヘナ風紀委員会は、飽くまで規則違反者、便利屋68の確保が目的です。確かに望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れない状況・・・やむを得なかったと言う事で、ご理解頂けると幸いです。治安維持組織たる風紀委員会の活動に、ご協力頂けませんか?』
『・・・返答しましょう。糞喰らえだと!』
『・・・あらっ?』
「クッ、クククッ・・・!」
通信が荒ぶる程の音圧。その怒声にアコは想定外とばかりに首を傾げ、イナホは圧し殺しきれず喉を鳴らす。
『他校の領域を侵犯し、許可無く戦闘行為を開始!何の警告も無いままに民間人が経営する柴関ラーメンを爆撃し、挙げ句何処までも此方を見下したその態度!以上諸々を鑑みて、再度返答しましょう!恥知らずのテロリスト共ッ!そちらに交渉権は無いッ!』
「ッは~っはっはっはっは!あ~っはっはっはっは!コイツぁ傑作だ!そうだ奥空!それで良い!教えた通りだな!あ~っはっはっは!」
中指を突き立てる勢いで吼えるアヤネ。愉快で愉快で堪らないと、腹の底から大笑いするイナホ。その後ろから、リロードを済ませたシロコも並んで微笑む。
「ん。嘗めた口利く奴はぶん殴る。アビドスでの身の振り方を、此方の流儀で教えてやれば良い」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ鬱陶しかったのよ。やっぱシンプルな方が良いわ!」
「うんうん!お痛をする人には、お仕置きあるのみです☆」
”アハハハハ!良い~じゃん!盛り上がってきたネ~!”
対策委員会の戦意は十分。先生もノリノリである。
『この兵力差で尚立ち向かうとは・・・只の蛮勇か、それとも本気で勝つ気なのか・・・致し方無いですね。此方も実力を行使し・・・』
「あぁそれとだ!何で俺がわざわざこんなド正面でお前のバカみてぇな戯れ言聞いてやったと思う?」
『戯れ言ッ・・・?聞いて、やった?・・・まさか!?』
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない!」
「あんぎゃぁ~!?」
「時間稼ぎだよバ~カ!」
回り込んで来たハルカのスラムファイアが、イオリの横っ面に炸裂。その様を見て、またしてもイナホは高らかに笑った。
「そもそも、しょうもない嘘は止めなよ。天雨アコ」
「おぉ、鬼形か」
「カヨコで良いよ。名字で呼ばれるの何か微妙だし」
そんな彼女の隣に、便利屋からカヨコが並び立つ。そしてパッパと埃を払い、パーカーのポケットに手を突っ込みながら、顎を引いてアコを睨み上げた。
「やっぱそっちも気付いてたか」
「そりゃね。あの子達とは、幸か不幸かそこそこ付き合い長いから。そっちこそ、よく気付けたね」
「ハッ、駄犬が狸の真似事してやがるからよ。ヒナちゃんならこんな事する訳ねぇってのは、俺達ャ良~く知ってるし」
「ヒナとも知り合いなんだ・・・」
「おうよ。一応、それなりに仲は良いつもりだぜ?何せ訓練の仮想敵を依頼されるぐらいだからな」
ビシッと襟を正し、ニヤリと笑うイナホ。眼前の風紀委員会は既に銃を構え、引き金に指を掛けている。
”狸の真似事って?”
「あぁ、説明が必要か?そんじゃ分からない奴向けに、答え合わせといこうか」
ポケットに手を突っ込み、口角を吊り上げたまま、カヨコとアイコンタクトを送るイナホ。小さく頷いて返され、自信たっぷりに口を開いた。
「まずゲヘナ風紀委員は、便利屋相手に遠路遙々と他所の自治区まで出張って来るような積極的な組織じゃねぇ。自治区内の暴動やテロを暴力で叩き潰し、数日牢屋に放り込むだけだ。
そもそも、ゲヘナの日常は正に渾沌。他の自治区にまで派兵するぐらいなら、内々の荒事に人手を回す。少なくとも風紀委員長の主義はそんなもんさ。つかそうでもしなきゃ保たねぇからな」
「そして、今回の運用はその傾向とは真逆・・・オマケに、私達相手に過剰としか言いようが無い大隊規模の戦力。それも他の集団との衝突を想定してるなら、説明は付く」
「更に、さっきアビドスの全生徒数を認識してんのは確認済みだ。となれば・・・」
「アコ、あんたの目的はシャーレの先生。この人を狙って、ここまで来たんだ」
イナホがお膳立てし、カヨコが結論を結ぶ。話が噛み合う感覚が心地良かったのか、イナホは機嫌が良い。
”あーらま、目的って私?あぁ、何て罪な教師なの!私の為に争うのは止めて!・・・って言っといた方がいい感じ?”
「止めとけ止めとけ、キャラじゃねぇから白けるぞ」
”あ、そーなんだ。やるもんじゃないネ”
イナホに窘められ、肩を竦める先生。しかし、事の流れは大方理解したらしい。
「もうちょい掘り下げるなら、昨日のアレ。
『・・・フフッ。流石はどっち付かずの野良犬ですね。えぇ、大まかにはその通りですとも。
連邦生徒会長が残した、大人が率いる謎の部活。どう考えても、特大の危険因子です。近く差し迫った、トリニティとの条約にもどう影響するか・・・なので、せめて条約締結までは、我々風紀委員会の庇護下にお迎えさせて・・・』
「オーケーオーケー、必要な言質は取れた。もう黙ってて良いぞ」
パンパンと手を打ち、会話を切り上げるイナホ。見下すような態度に、今度はアコの額に青筋が立つ。
『言質、とは?』
「なぁ先生、聞いたよな。この駄犬、アンタを無理矢理拐ってでも確保したいってさ。どう思うよ?」
”そりゃ無理だ!申し訳無いけど。此方は正式な依頼でアビドスに来てるんだから。正式な依頼も無しに拐われちゃ堪ったもんじゃ無い”
「と、言う訳で・・・これより、暴走状態の風紀委員大隊をシャーレの先生に対する脅威と認定。実力を以て、排除執行する」
【HOPPER!】
「変身!」
【HOPPER!】
頭上から吹き下ろす漆黒の煙。纏わりつくそれを引っ掻くように払い、イナホはローザストへと変身。大きく羽を広げて気門から蒸気を噴き出し、ガチンと顎を噛み合わせる。
「なっ!?お前のそれ、スーツじゃ・・・」
「ハハハ、滑稽だったぜ?意図的に変身する所は見せないようにしてたとは言え、只のキグルミだと思われていたなんてな!」
声に出して狼狽えるイオリ。そして言葉にこそしないものの、アコとチナツも同様である。
『・・・成る程、飽くまで平和的に解決する気は無いと。では此方も実力で殲滅します。多勢に無勢、お気の毒とは思いますが・・・1度決定した以上、一切の遠慮は致しません。どうぞそのつもりで』
「ハッ、確かに酷ェ多勢に無勢だな。だが勘違いしちゃいけねぇ。ここにいるのは一騎当千、仮面ライダーローザスト。更にその俺が直々に指導を施した、護校の獣4匹だ。分かるか?多勢はこっち、無勢はそっちなんだよ。
さっきチナツが良い事言ってくれたな。イレギュラー。そうさ、イレギュラーさ俺等は。そしてそれを指揮する先生もまた、その1人」
「じゃ、その頭数に4人追加して貰おうかな」
「・・・どういう風の吹き回し?」
ポケットから手を抜き、4本指を立てるカヨコ。予想外の申し出に、シロコが首を傾げ訝しむ。
「蝗屋、社長から伝言。『無様は結果で雪ぐ、背中は任せて』、だってさ。社長はもう位置に着いてる。いつでも行けるよ」
「!・・・クククッ、クハハハハ!良い!良いな陸八魔アル!最高になって見せろ!最高の女に!
よぉし!聞いたな未熟者共!愉快なビュッフェに飛び入り参加だ!自分の獲物は自分で仕留めろよ!」
━ガツンッ!━
拳を打ち合わせ、高らかに叫ぶ。
「踊れ!歌え!災禍の宴だッ!」
To be continued・・・
~キャラクター紹介~
・叢雲コウ/草薙イナホ/仮面ライダーローザスト
食べるの大好き飛蝗少女。
紫関ラーメンを吹っ飛ばされ、激怒。風紀委員会モブ達を一方的に擂り潰し、イオリに関しても煽りを交えながら完封。変身せずに戦ったのは、ライダーの名を私怨で穢したく無かったから。
平常の風紀委員会らしからぬ強行手段から、かなり早い段階でこの攻撃がアコの指示であると見抜く。そしてアコとの煽り合いの中でハルカが奇襲を仕掛けられるポジションに移動するまで時間を稼ぎつつ、溜めていた鬱憤を散々と吐き出した。
その後、風紀委員会大隊を正式にシャーレの脅威勢力と断定。蝗屋としての仕事に切り替え、変身を解禁。この時まで変身シーンを見せる相手はかなり絞っており、変身態しか知らない相手にはパワードスーツの類いと思われている。
風紀委員会を相手に仕事をした事もあるので、全体的な解像度が高い。ヒナの戦術理念とアコの駄犬具合には特に。
・鬼形カヨコ
頭のキレる便利屋課長。
起き抜けに着弾音から迫撃砲の種類を特定し、芋蔓式にアコが独断で動かしていると暫定。その後、アルからの伝言をローザストに達し、対策委員会の戦線に参入する。
話のテンポが合うローザストに対しては、少し印象が良くなっている。
・奥空アヤネ
バチギレ対策委員書記。
図々しい風紀委員会、と言うかアコの態度にブチギレて、かなり粗っぽい口調で交渉にNOを叩き付けた。これに関してはイナホの教育の賜物である。
・砂狼シロコ
アビドススナオオカミ。
爆発を感知して即座に出動。セリカと共に柴大将を保護し、シェルターに避難させた。
風紀委員の連中に対して、アビドスの流儀を叩き込もうといきり立っている。ローザスト直伝、「嘗めた口利く奴はぶん殴る」主義と非常に相性が良い。
・黒見セリカ
アビドス会計責任者。
シロコと共に柴大将を保護し、シェルターに避難させた。
風紀委員会に対してキレてこそいるが、言いたい事は全部イナホが言ってくれたので静かにしていた。
・先生
NOが言える大人。
アコ達の蛮行に、ブチ切れてこそいないものの怒ってはいる。
・銀鏡イオリ
単細胞砂凸娘。
頭が固く融通が利かず、更にカッとなりやすい。つまり、面白いように搦め手やトラップに引っ掛かる。
正面戦闘はかなり強い筈なのだが、ゴリ押し、技量戦、搦め手、全て出来るローザストとは絶望的に相性が悪かった。そして何度も地べたを舐めた挙げ句、横っ面からハルカのスラムファイアで吹っ飛ばされると言う踏んだり蹴ったり具合。今回の不憫枠と言っても良いかもしれない。まぁ全て自業自得な訳だが。
変身シーンを見た事が無かったので、ローザストの変身態をパワードスーツと勘違いしていた。基本的に、コウが明かして良いと判断した相手以外はこの認識で定着している。
・火宮チナツ
風紀委員会理性担当。
便利屋捕縛任務とだけ聞かされてアビドスに来たが、暫定ローザストがいるのを確認。【ローザストはシャーレの護衛をしている=シャーレの先生も近くにいる=敗色濃厚】と判断しイオリに撤退を勧めるが、一切聞き入れられる事無く仲間が擂り潰されるのを見る羽目に。胃薬を使おうか悩み始めている。
・天雨アコ
風紀の駄犬。
大隊規模の人員を独断で動かし、他所の土地で警告も無くドンパチし始めたアホ。
イナホの事を野良犬やコウモリと見下しており、双方共に印象は宜しく無い。本来は所謂椅子の人ポジの筈なのだが、暴走すると周りが見えなくなる悪癖がある。
因みに、現在コウ達を包囲しているつもりで良い気になっているが、既にコウの掌の上である。