「オラ立てや。取り敢えず、これで一旦勘弁しといてやる」
「ぐふっ・・・クックッ、お心遣い、どうも・・・」
開いた指をメキッと軋ませ、黒服を見下ろすコウ。そして当の黒服はと言えば、顔面のヒビ割れ模様を若干増やしつつフラフラと立ち上がる。
”イナホ、その腕・・・”
「・・・まぁ、見せといた方が良いかと思ってな」
コウが袖を捲り、右腕を見せる。その異形の腕は変身後のそれと何ら変わらず、力を込めれば側面からは鋭利な刃が鋸のように立ち上がる。
「まぁこれに関してはどうでも良いさ。俺の身体がマトモじゃ無いってだけだからな。今はそれより大事な事あるだろ」
”・・・ま、本人が気にしてないならいっか。で、何の用かな?私に用があるから招待状なんか送ってきたんでしょ?”
「クククッ・・・えぇ、そうです。シャーレの先生。貴方の事は存じ上げております。連邦生徒会長が呼び出した、不可解な存在・・・」
殴られた顔面を擦りつつ、再びワーキングチェアに座る黒服。コウは先生の背後に下がり、腕を組んで壁に背中を預けた。
「あのオーパーツ、《シッテムの箱》の主であり、連邦捜査部シャーレと言うイレギュラーな立場・・・貴方を過小評価する者も居ますが、私達は違います。
まず、はっきりさせておくべきですね。私達は、貴方と敵対するつもりはありません。寧ろその逆・・・協力したいと考えています」
”へぇ、協力ねぇ?そんな事言う割には、ゲストに椅子の1つも出さずに立たせっぱなしじゃん。ホスト側としてその態度はどうなの?”
「これは失礼。それもそうですね、では此方にお掛けください。コウさんも」
黒服が何処からとも無く取り出したのは、2つのパイプ椅子。渡されたそれに若干呆れながら、コウは躊躇無く座った。先生も、それを見て右に倣う。
「続けましょう。我々の計画において、一番の障害になり得るもの。それは貴方だと、私は考えているのです。
アビドスのような今や死に体の学校等、大きな問題にはなり得ません。しかし、貴方は違う。些事と片付けて敵対すれば、我々の喉元が咬み切られかねない。出来るだけ、そんな事は避けたいのですよ」
”さっきから私達とか我々とか言ってるけど、そもそも何者だい?カイザーとつるんでるみたいだけど”
「あぁ、私とした事が・・・自己紹介をしていませんでしたね。私達は貴方と同じ、キヴォトスの外部の者・・・ですが、貴方とはまた違った領域の存在です。適切な名義がありましたので、今はそれを拝借して名乗っております。我々は《ゲマトリア》。以後お見知り置き下さい。また、私の事は《黒服》とでも。この呼び名が気に入っておりましてね」
”ゲマトリアに、黒服ねぇ。やっぱ胡散臭いや”
「クックックッ。視座が違えば受け入れがたく見える、世の常です。我々ゲマトリアは、観察者であり、探求者であり、研究者です。貴方と同じ、
”えぇ?私ってお前と同類なの?ねぇイナホから見てどう思う?私ってこんなのと同類?”
「イカれっぷりって意味なら似たり寄ったりじゃねぇの?手段と目標のベクトルが違うだけで」
”あ、そーなんだ・・・ま、イカれてるのが必ずしも悪い事じゃ無いしネ!ハハハハ!”
「ハァ・・・」
開き直ったように笑う先生に、コウは目元を覆って溜め息を吐く。改善する気が無い突撃癖にこれからも付き合わされる事になる。その気苦労が溢れたものだった。
「して、先生。我々ゲマトリアと、協力して頂けませんか?」
”そりゃ無理だ、申し訳無いけど。毛程も協力したいとは思わないなぁ”
「ふむ、左様ですか・・・真理と秘義を手に入れられるこの提案を蹴って、貴方はこのキヴォトスで何を追及されるおつもりですか?」
心底理解出来ないと、黒服が首を傾げる。そんな黒服に対して、先生は表情1つ変えず、淡々と答える。
”そう言うの興味無いから。俺の要求は、『ホシノを返せ』、この1つだけだよ”
「・・・クックック。先生、貴方のその行動に、何の正当性も無い事にお気付きですか?今の貴方に一体何の権利があって、そのような要求をしているのか・・・ホシノはもうアビドス高校の生徒ではありません。届け出は、既に確認されていると思っていたのですが?」
”あぁ、届け出って~・・・これの事?”
先生が懐から取り出したのは、ホシノの退部届け。持っているのなら尚更、と訝しむ黒服に、先生は肩を竦めて笑って見せた。
「いやはや、少々有利とは言え、負ければ即ドボンのそこそこハイリスクな賭けだったが・・・俺達は、既にそれに勝った」
「賭け?どういう意味です?」
”もしも、この退部届けが
だけど・・・この欄に書かれてる組織名は、
「それが何だと言うのです?対策委員会に対しては、貴方に干渉する権限があるとでも?」
”あるんだな~これが!だって俺、その部活の《顧問》だもん”
「・・・?」
未だに理解出来ないと首を捻る黒服に、先生は笑みをより深いものに変える。深く、重く、そして攻撃的なそれに。
”形骸化してたからか知らないけどサ、ホシノはこの顧問捺印欄を潰さずに提出したんだ。俺が居ない時はこれで通ったんだろうけど・・・顧問である俺が居る今、この書類を受理するかどうかは俺次第だよ”
「っ!成る程・・・」
漸く合点が行ったと、黒服は興味深そうに顔を歪める。
”ってな訳でサ。ホシノはまだ対策委員会所属だし、副生徒会長だし・・・何より、俺の生徒だ”
「・・・成る程成る程。貴方が
「楽しそうだな黒服。計画が頓挫して、折角手に入れたサンプルを取り戻されるってのに」
「えぇ。今回、新たな知見が得られましたから。研究者と言う視座にとって見れば、これは失敗ではありません。理由は、貴方ならば分かるかと」
「・・・失敗の原因が明確に分かったから、か。ケッ、吠え面の1つでも拝めるかと思ったんだが・・・詰まらんな」
「クックックッ。そんな利益にもならない事に拘る方が、貴方に言わせれば詰まらない事なのでは?」
「減らず口は相変わらずだなオイ」
良くも悪くも、気安く軽口を叩き合うコウと黒服。そんな2人の話しぶりの裏にどれだけの付き合いがあるのか、先生には分からない。だが、それとは関係無く、既に結論は出ていた。
”あ~、えっと~?結論として、アンタらは崖っぷちの子達を良いように騙して、感情も苦しみも全部利用したよネ”
「えぇ、おっしゃる通りですね。私達は他人の不幸よりも、自分達の利益を優先しました。否定はしません。善悪二元論的に言えば、私達の行いは悪に分類されるのでしょう・・・ですが、ルールの範疇です。そこばかりは、誤解なされぬよう。アビドスに降り掛かった災難も、我々のせいではありません」
”そんなの分かってるよ。砂嵐なんて制御出来るモノでも無いしネ。ただ、それに乗っかって子供から絞り上げたのが気に食わねぇっつってんの”
「気に食わない、ですか・・・我々は、砂漠で彷徨い死に行く者に、1杯の水を提供したに過ぎません。ただ、その身を奴隷に窶し一生を掛けても返済出来ない値段で・・・珍しくも何とも無い、この世にありふれた出来事の一幕。態々私達が心を痛め、全ての責任を取るべき事ではありません。
私達が初めて作った事例でも、我々が止めて根絶する事でも無い」
”だからって目の前で苦しんでる子供見棄てちゃ、
子供は、幸せを享受すべきだ。それを支え、責任を持って助ける大人が居なかったのが問題。理不尽との戦い方を、自分達の幸せを掴み、守る術を教える。それが俺の定義する、大人の権利と義務だ”
「権利と義務・・・成る程。クックックッ、では交渉は決裂と言う事で・・・しかし、成る程。権利と義務ですか。では、それを阻む存在が現れた時、貴方は一体どうしますか?戦う事の出来ない貴方が・・・」
”イヤイヤ~?確かに俺は弱っちいけどさ。追い詰められたら意外と喉笛に噛みつくかもよ?例えば・・・
「それは・・・」
先生が取り出したのは、大人のカード。コウの前でも決済用のクレジットカードとして使ったそれを、この場であたかも銃にも勝る武器であるかのように見せ付けた。その意味を、黒服は一目で理解する。
「クックックッ、成る程。ですが、それは軽々しく使うものではありませんよ。確かに、そのカードで行使出来る力は強大です。しかし、その代償は貴方の命、時間でしょう」
「おい先生、うっすらそんな気はしてたが初耳だぞ。クレカとして結構躊躇無く使ってたが大丈夫かよオイ」
「その程度なら問題無いでしょう。日々の細々とした買い物や家賃、電車の運賃・・・それらの無意味で下らない事にこそ、使うべきものです」
「・・・そういうもんか?」
釈然としないと言う態度のコウだが、何を聞いても煙に巻かれそうなので一旦呑み込む事にする。そんなコウを余所に、黒服は溜め息と共に天井を仰いだ。
「さて。今回の契約は無効、その原因は私の予測が至らなかった点。故意では無いとは言え、ルール違反をしてしまったのは私の方ですね。ですので、ペナルティとして誠意を見せましょう」
黒服が懐からスマホを取り出し、数度操作する。すると、
コウの持つスマホから通知音が鳴った。
「ん・・・これは」
送られてきたのは、カイザーPMC基地の座標と建物の配置図。その中央に、赤いマークが打たれている。
「小鳥遊ホシノは砂漠のPMC基地、その中心の実験室に拘束しています。
ミメシスによって観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを、果たして生きた生徒に適用する事が出来るのか・・・そんな実験を始めるつもりでした。コウさんと言う特異な前例もあって、果たしてどれ程の確率でそれが起こるかと言う確認も兼ねて・・・
もしもホシノで失敗すれば、次はあの狼の神を・・・そう思っていましたが、先生の眼が黒い内は出来そうにありませんね」
”何と言うか、素直だね。もうちょいゴネるもんだと思ったんだけど”
「言ったでしょう。ペナルティとして受け入れると。私は契約を破る事と、嘘を吐く事は致しません。出来ない、と言った方が正しいですが・・・そう言う事ですので、精々頑張って下さい。貴方の言う権利と義務・・・それによって生徒を救い守れたなら、それは少なくとも、世界に対して一定の効力を持つ事となる。それを観察するのもまた一興です」
「観察対象を先生に切り替えるだけじゃねぇかよ」
「クックックッ、そうとも言いますね?」
楽しそうに笑う黒服と、気色悪いと舌を出すコウ。そんな2人の様子も気にせず、先生は口を開いた。
”じゃあもう用事済んだから帰るネ”
「あぁ、少々お待ち下さい」
踵を返した先生を、黒服が呼び止める。
”何この野郎、まだあんの?”
「えぇ。先生では無く、コウさんに。これを預かっておりましてね」
そう言って、黒服はデスクの下から一振の刀を引っ張り出す。コウは差し出されたそれを受け取り、複雑な表情で鯉口を切った。
「蝗丸・・・まさか、お前から受け取る事になるとはな」
「彼は今忙しいので。私が先生に接触するつもりだと報告したら、『ならば渡しておいてくれ』と押し付けられてしまいました。『道具は一刻も早く、正しい使い手の元に帰るべきだ』とも」
「ハッ。何と言うか、
「そして、私達から最後の選別です。幸運を願う、と」
更にデスクの上に並べられたのは、2本の赤いメモリ。そのイニシャルだけをチラリと見て、コウはさっさとそれらを手の中に消す。
「メモリって言えば、お前等っつーかお前メモリとドライバーの製法漏らしたろ。どんな屁理屈だ?」
「禁止されていたのは、成果物の売却のみでしたので・・・」
「貸与や提供は違反してませんとでも?」
「えぇ、その通りです」
「もう1発ド突いた方が良いなコイツ」
”イナホ~!遊んでないでとっとと帰るよ!”
「あーハイハイ!分かったよ・・・」
先生に急かされ、袖の中に蝗丸を流し込むように収納。そのまま踵を返し、コウは拳を納めた。
「微力ながら、幸運を祈りますよ」
「どの口が言ってやがんだよ」
「この口ですね」
「減らず口がよ」
(コウサイド)
「はぁ?何言ってんの?」
ゲヘナ風紀委員本部前。先生が協力者のアテがあると言うから着いて来たは良いが、銀鏡に門前払いをされ掛かっている。コイツは何をアテにしていたと言うのだ。
”イヤイヤ~、そこを何とかさ、ネ?私とイオリちゃんの仲じゃん?”
「そんな仲良くなって無いじゃん!どうしてもって言うなら、土下座して私の足でも舐めれば」
”言ったね?じゃあ早速!”
「えっ!?ちょ、ちょっと!?」
イオリが巫山戯て言ったであろう要求に、ノータイムで跪く先生。そして異常な手際でブーツと靴下を脱がし、ご丁寧に畳んで横に置いてある。
「瞬発力すげぇなオイ」
「ま、待て!お前大人のプライドとかそう言うのは無いのかっ!?」
”知らない言葉ですねぇ!”
「っ!」
先生は即答し、一切の躊躇無く銀鏡の足を舐め・・・いやしゃぶりつき始めた。そこまでしろとは言われてねぇだろ・・・
「ひっ、ひゃぁぁ!?た、助けてローザ、あひゃひゃ!?く、くすぐったい!?」
「お前が言った事だ。潔く諦めろ」
「そんなっ!?」
”えるれるれるジュルるるるっ”
「いやお前は流石にしゃぶりすぎ」
「何だか楽しそうね」
と、そんなこんなで騒いでいると、本部からヒナちゃんが出て来た。渡りに船とはこの事かな?
「そんなに頭を下げて、何を熱心に懇願してるのかしら」
「いや委員長、コイツは・・・」
”れろれろれろ・・・あっヒナ!”
「・・・えぇ?」
あ、ヒナちゃん茹で上がって固まっちまったわ。まぁそらそうもなるか。
「じゃあ、此方は別の用があるから。そっちで話付けてくれ先生」
”おっけー牧場!気を付けてネ!”
━━━
━━
━
「お連れしました!」
「通せ」
「はっ!」
荘厳な大扉が、内側からの許しを以て開かれる。そこは、ゲヘナ学園の中枢、
「良く来たわね」
「やあ、京極。そして儀長殿も、ご機嫌麗しゅう」
歓迎の挨拶をくれた
「おや、送った手土産はお気に召さなかったかな?」
「いや、そうでもない。イブキが喜んでいたからな。だが手土産とは自分が持って来る物だろう」
流石はシュラウド。急な無茶振りだったのに良い仕事をしてくれたもんだ。
「申し訳無い。此方も立て込んでいたんだ。その無礼を働く詫びも兼ねて、それなりにグレードの高い物を送らせて貰った」
「・・・矢張り気に喰わんな」
傲慢ちきなタヌキは、まだ何か気に入らない様子だ。まぁ、態々逆撫でして旨味がある訳でも無いから黙っているが。
「全くローザストの奴め、このマコト様を相手に代理人なんぞを寄越すとは」
「・・・は?」
・・・何言ってんだコイツ。
「手土産に同封されていた手紙・・・要するに、頼みがあるから聞いて下さいと言う内容だろう?ならば頭を下げに来るべきはアイツ本人だ。そうは思わないか?」
「・・・」
・・・まぁ、俺にも非はある。コイツには一切俺の生身を見せてないし、説明もしてない。けど、けどさぁ・・・
「・・・変身。はぁぁぁ・・・」
【HOPPER!】
「・・・何ぃぃぃぃ!?」
何だろう。こんなに気分が沈む変身と言うか、正体開示があったとは知らなかった。矢車さん並に俯き加減で変身しちまった。
「き、貴様ローザストだったのか!?」
「こんな特注コート着てる奴が何人もいて堪るかよ」
「人の顔も持っていたのか・・・」
「あぁそうだよ。で、話戻して良いか?」
「あ、あぁ・・・」
「ったく・・・」
やべぇな。もしかしたらコイツ、風紀委員とアビドスのバトルログ見てねぇ可能性があるぞ?もしそうなら・・・いや、それはねぇか。
「・・・まぁシンプルに目的から行こうか。カイザーPMCにダチが拐われた。奪還の為に兵力を貸して欲しい。風紀委員会をな」
「ほう・・・で?このマコト様が兵力を貸し出して、貴様は私に何を差し出す?それなりの利益が用意出来ていなければ、話にならんぞ?」
「ソイツは当然分かってるさ。その話をこれからするんだ」
そう。コイツはこう言う話を、基本門前払いはしない。まず1度は話を聞き、咀嚼して吟味する。それさえさせれば此方のもんよ。
「まず、カイザーの好き放題具合。アンタとしても目障りなんじゃないか?」
「そうだな。奴等はこのマコト様が手にするキヴォトスの、そこら中にベタベタと手形を残している。全く腹立たしい事だ」
「だろうな」
正直コイツにキヴォトスを支配するとか手中に収めるとか無理だが、それを指摘する必要は無い。気に喰わんが、まぁ良いだろう。
「カイザーは、学生を嘗めきってる。奴等が今回の企て事・・・アビドス高校の乗っ取りを成功させれば、それを基盤として他の学区に同じ事をし始める恐れがある。ならば、それが芽の内に叩き潰すべきと思う筈なんだが・・・そこん所はどうだ?」
「学校の乗っ取り、か・・・確かにいけ好かないな。だが、叩き潰しても無駄なのではないか?」
「まぁ、言いたい事は分かる。奴等にとっちゃ、系列企業の代表なんぞ体の良い使い捨てだ。蜥蜴の尻尾切りされるだけだと懸念しているんだろう?」
「その通りだ。その口振り・・・何やら秘策でもあるようだな?」
「まぁ少なくとも、先生から見れば覚えは良くなるかもな」
「ほう?先生か・・・」
「あぁ。連邦生徒会長が直々に指名し召喚した、超法規的特権機関たるシャーレ。その本体たる先生だが・・・残念ながら、今んとこゲヘナの印象は宜しく無い。何処ぞの誰かのお陰でな。アンタとしても、それは本意じゃ無いだろう?だったら、誠意を見せてやれば良い」
「フム・・・確かにあの風紀委員会の出撃の責任をゲヘナ内で糾弾した所で、シャーレには関係無い。ならばいっその事、見えるように盛大に恩を売る事で印象を払拭してしまおうと・・・」
理解を示し始めた。更に、大義名分もくれてやろう。
「ついでに言うなら、俺が去年闇オークションから助けたゲヘナ生。アイツを拐ったのも、カイザーと繋がってたブラックマーケットのマフィアだ」
「あったか?そんな事」
「京極に調べさせろ。去年の今頃のログがアーカイブされてるだろ」
「私は覚えてるわよ?ブラックマーケットでの誘拐事件、及び人身売買現場の制圧・・・で、それを掘り返すの?」
「あぁそうとも。ほじくり返す」
京極は普段の言動からポンコツ具合が滲み出しているが、こんなんでも情報部を統括するリーダーだ。過去の出来事のログや、自治区内外問わぬ情報収集能力に関しては、コイツ等は割と洒落にならない優秀さを誇っている。
「奴等は、SRTのお狐共に手痛い仕置きを喰らわされた。なのにたった1年で、今回の類似案件が発生した。となれば・・・これはカイザー本社上層部の管理責任を問う棍棒に丁度良い。『再発防止を掲げてくれたからあの時は黙ったが、同じ事を起こしたならウチに被害が出る前に叩き潰す事も視野に入れざるを得なくなるぞ』・・・ってな具合にプレッシャーを掛けられるぜ?」
「フム、成る程な・・・」
「へぇ、えげつな~い・・・ウチに欲しいくらいだわ~?」
「そりゃどうも」
感触は悪くない。もうちっとばかし押し込もう。
「何なら、アンタは苦労する事ァねぇ。ゲヘナの生徒と統治を脅かす危険因子を排除しろと、風紀委員会に命令すれば良い。馬鹿をやった駄犬への仕置きも、外に対する誠意の顕示も、いけ好かねぇ企業への報復と牽制も、全て1手で済ませられる。コスパ的にもタイパ的にも、悪い話じゃ無いと思うんだが?」
「ふぅむ・・・そうだな。悪くは無い、かも知れんな」
ここでまだ頷かないのは想定済み。じゃあ、ラストにもう一押しだ。
「この件には、
「・・・何だと?」
そぉら、眼の色変わりやがったな?
「それは確かなのか?」
「あぁ。あっちも先生には良い面見せておきてぇからな。ただ、ゲヘナに比べて向こうは大義名分に乏しい。のらりくらりと事故みてぇな体で、飽くまで火力支援に留まるさ。だが・・・例のエデン条約が近いこの時期だ。情勢に疎いとは思われたく無いだろ?」
「確かにな。トリニティだけに旨い所をくれてやる訳にはいかん・・・良いだろう。その口車、乗ってやる」
「あぁ、感謝しよう」
これで、ここでの仕事は終わりだ。後から先生がマコトに絡まれるかも知れんが・・・まぁそれは所謂、コラテラル・ダメージって奴だ。
━ガチャンっ━
「ただいま~!あっ!」
扉に向かおうと踵を返した矢先、勢い良く開け放たれる。入って来た
「仮面ライダー!来てくれたの~?」
「おう!久し振りだなイブキ、元気そうで何よりだ!」
少し腰を落とし、「「いぇーい」」とハイタッチ。はしゃぐイブキの頭を撫でると、知らず知らずの内に強張っていた身体がスルリと弛むのを感じる。やっぱゲヘナの良心だなこの子。
「ねぇねぇ聞いて!この前の宿題、イブキ出来たんだよ!」
「そりゃスゴい!見せてくれるかな?」
「うん!こっち~!」
小さな手に引かれるまま着いて行くと、彼女専用のデスクの前に止まった。そしてイブキは引き出しに手を突っ込み、1冊の本を取り出す。
「ここから~、ここまで!出来たんだよ!」
「お~・・・おぉ・・・」
開かれたのは、何ともまぁ複雑な計算式が書かれたページ。しかも答え合わせも済ませてあり、悉くが赤丸である。
この本は、俺が伝手で取り寄せたミレニアムの高等部初級問題集。彼女が優秀と言う話を聞いて、物は試しとドリルや教科書を渡してみたら・・・2ヶ月でこの結果である。
正直、このレベルで既に俺にとっては何が書いてあるのか殆どちんぷんかんぷんだ。ミレニアムの理数系の問題は、基本的に普通よりえげつない難易度で・・・実質未就学児みたいなもんである俺には、当然ながら分かる訳も無し。だがそれを抜きにしても、この上達スピードは尋常じゃ無い事は確かだ。
「スゴい・・・マジで凄いな。今度教えてくれないか?」
「エヘヘ~、良いよ~♪」
「よぉし!頑張るぞ~!」
「オホンッ・・・」
マコトから圧が掛かる。どうやらイチャつき過ぎたらしいな。ほら見ろ凄い眼で睨んで来やがる。上級生の嫉妬は見苦しいぞ?
「あー、イブキ。もうちょっと一緒にいたい所だが、俺はそろそろ帰るとするよ」
「え?もう行っちゃうの・・・?」
「ごめんな・・・けど、実はな。俺の友達が、悪~い奴等に拐われちゃったんだ。ソイツを取り返したいが、相手が多過ぎてどうにも不安でな。マコト先輩に、助けてってお願いしに来たんだ」
「そうだったの!?」
「そうだったの。だから俺は・・・仮面ライダーは、これからヒーローに成りに行く。応援してくれるかな?」
「・・・うん!頑張ってね、仮面ライダー!」
「おうよ!・・・そうだ。イブキにも教えておこうか」
立ち上がって、ドライバーからメモリを引き抜く。異形の外殻がバラバラと剥がれ落ち、人のそれに戻る。
「わっ!」
「普通に生活する時は、こんな姿なのさ。俺のホントの名前は、叢雲コウだ」
「むらくも、コウ・・・うん、覚えたよ!頑張ってね、コウ先輩!」
「おう!・・・じゃあ議長殿、頼んだぜ」
「あぁ。約束は守るとも」
「ありがとよ」
ヒラヒラと手を振り、万魔殿の部室を後にした。
扉の前で立っていた案内役に軽く手を振り、窓を開けて飛び降りる。慌てる彼女に軽く謝って、俺は風紀委員会本部に向かった。
「よう先生。待ったか」
”うんにゃ、そんなに。そっちの用事は終わった?”
「おうとも」
”じゃあ行こっか”
「次はトリニティだな・・・にしても、まさか彼処まで躊躇無く脚を舐めるとはな」
”いやぁ、アビドスが暑かったしさ。塩分補給にも丁度良いかな~って”
「そう言う事を言うなと何度言わせる!」
”あぎゃぁぁぁ!?ギブギブギブギブ!?”
今日はバックブリーカーにした。相も変わらず良く鳴きよるわ。
(NOサイド)
「そうですね。ご説明ありがとうございます、ヒフミさん」
紅茶で唇を湿らせ、ヒフミを労う
「ヒフミさんの仰っている事は良く分かりました。先生のお言葉が本当であるなら、放置は下策でしょう。差し迫る例の条約、故に下手に動く訳には行きませんが・・・その企業、カイザーPMCの存在は、我が校の生徒に良くない影響を与える可能性が高いのも事実。少々例外的な振る舞いをしても、罰は当たらないでしょう」
「あ、ありがとうございますぅ~ナギサ様ぁ~」
ナギサの決定に、涙眼になってへたり込むヒフミ。そんな様子を見て先生は胸を撫で下ろし、コウは『ホント何者なんだろうな
「・・・まぁ良いか。この件については、ゲヘナとも話を着けてある。前線は俺達とゲヘナに任せて、お前等は後方からご自慢の砲撃で火力支援に徹してくれりゃ良い。そっちには泥の1滴も飛ばさねぇよ」
「それはそれは、心強いですね。万事蝗屋の活躍、幾度か眼にしております。サポートはお任せ下さい」
「任せたぜ。あぁそうだ。この1件で、
その宣言に、ナギサの手がピクリと震える。そしてティーカップを静かにテーブルに置き、感情を声に乗せた声で問い返した。
「それは・・・宜しいのですか?」
「あぁ。元はと言えば、パテルの先代がバカをやった負債だからな。忘れる事を赦さないと釘を刺した俺が言うのもなんだが、化物相手に借りを抱え続けるのもしんどいだろ。俺は個人的に、ナギサちゃんには好感持ってんだよ。只でさえ大変なこの時期だ。ちっとは楽させてやりてぇのよ」
「・・・承知しました。では、あの手形も処分致しましょう。ふふっ、漸く重い荷が降りました。お心遣いに感謝します」
「俺としても、エデン条約は成功して欲しいからな。お互い様よ」
━━━
━━
━
「さぁ、戦力は揃った。場所も分かった。あの馬鹿を迎えに行くとしよう」
「ん。ホシノ先輩を連れ戻して、お帰りって言う」
「わぁ~!?なにそれ、青春っぽい!ムズムズする!」
”ハハハハッ!良いじゃんソレ!よぉ~し、先生も頑張っちゃうゾ!”
「うんうん!みんなでお迎えに行きましょう~♪」
「カイザー本社からも言質を取りました。在学生徒の誘拐、及び監禁は、カイザーPMCの独断だと。この件でなるべく多く、カイザーに吹っ掛けてやりましょう!」
「ハッハッハ!結構結構、士気が高くて何よりだ!これより作戦名、
To be continued・・・
~キャラクター紹介~
・叢雲コウ/仮面ライダーローザスト
開幕パンチした飛蝗少女。
黒服から先生宛に届けられた手紙を見て、そこに書かれていた住所にバイクを飛ばしぶん殴った。契約時に譲渡や貸与を禁じていなかったのが今回悪さをしている。
蝗丸が漸く戻ってきたのでここから本調子で戦える。序でに新規メモリを2本獲得した。
外交は好きじゃない。尚、からっきし出来ないとは言っていない。ゲヘナ、と言うかマコトに対してはトリニティの元ネタの某国程じゃ無いにしても二枚舌外交になりかねない事をやっている。どちらかと言うとドリフターズの信長がサンジェルミ伯にやらせたハッタリ手紙に近いかもしれない。
マコトの事を快く思っていない反面、イブキとの関係は非常に良好。子供特有の無邪気さに加え、その善良過ぎると言って過言で無い人格からとても可愛がっている。その頭脳面の優秀さを遊ばせておくのは惜しいと、シュラウド経由でミレニアムの問題集等を与えてちょくちょく様子を見ている。学力はとっくに追い越されている模様。
ナギサに対しては、組織の長として誠実に頑張っている点で好意的。実は先代ティーパーティーとは決闘裁判に近い形で当時のパテル首脳をボコボコに完封した事で義理を貸し付けており、今回の件でそれを清算する事になる。
・黒服
ぶん殴られたブラックスーツ。
先生との問答の後、自分の落ち度を認めて情報を提供。更に今後の観察対象を先生に定める。
デカゴルとマエストロからそれぞれ新規メモリ2本と蝗丸を押し付けられた。それらは無事にコウの手に渡っている。メモリは2本とも赤系。
・先生
伝説の始まりに至った教師。
黒服に対しては1歩も退かず、常に毅然と対峙した。黒服への印象は、『相容れない主張をする大人』程度。
反面、イオリに対しては初手からダル絡みしており、脚を舐めろと言われてノータイムでしゃぶりついた。
・銀鏡イオリ
ゲヘナアシナメラレ。
予定調和の一言に尽きる。
・羽沼マコト
ゲヘナバカマコト。
生身の姿を知らなかったのはまだしも、全く同じ背格好と特注コートを羽織って特に声も加工していなかったと言うのにコウをローザストの代理人と思い込んでいた。既にバカマコトの片鱗が見える。
風紀委員会への
イブキとキャッキャウフフしているコウが気に喰わず、凄い眼で睨んだ。
・京極サツキ
万魔殿のピンク色。
情報部部長と言う肩書きは伊達では無く、昨年ブラックマーケットで発生したゲヘナ生誘拐事件の情報にも眼を通し、記憶している。言わずもがなモアとリエが拐われた事件である。
当時はゴタゴタとした繁忙期だった事もあり、カイザーへの武力制裁はSRT特殊学園に丸投げしていた。その件に関して「再発防止を誓うのなら今回は容赦してやる」と言う決定と解釈し、カイザーを殴る棒に仕立て上げたコウには感心しているのは本音。
・丹花イブキ
ゲヘナの良心。
子供心にヒロイックなローザストは的中しており、関係は非常に良好。11歳にして飛び級し万魔殿に所属する類い希な頭脳を持ち、現在既にミレニアム生の1年1学期と同等の学力がある。色々な人が褒めてくれるので、勉強が楽しくて仕方が無い。
・桐藤ナギサ
トリニティ首脳の1人。
ローザストとしてもコウとしてもそこそこ交友があり、部下のトリニティ生とゲヘナ生の関係が良好なのもあって、個人的な好感度が高い。
また上記の決闘裁判を見届けた証人の1人であり、それ故に彼女から貸し付けられた義理の重さを理解している。故に、今回の協力でそれをチャラに出来る事を喜んだ。
・対策委員会
総員戦闘準備完了。
これより厄災仕込みの暴力が、PMCに牙を剥く。