(コウサイド)
こうして、アビドスを取り巻く一連の事件は、一先ずの終結を迎えた。
ホシノの奴は無事に救出され、対策委員会に揉みくちゃにされて悲鳴を上げていたが、まぁ、当然の結果って奴だろう。しかし、俺としてはそのままなあなあで終わらせる気にもならず、自分の立場を自覚しろと一喝してゲンコツを叩き込んで置いた。先生にも対策委員会にも、鞭は期待出来ないからな。飴を向こうに任せて、俺は痛みで教訓をくれてやるってのが、適材適所だ。
カイザー理事に関しては、現在行方不明だ。しかし、学校に在籍している生徒、しかも生徒会メンバーを誘拐したと言う悪行は瞬く間に広がり、即刻ヴァルキューレのバウンティボードに張り出された。とは言ったものの、連邦生徒会も未だにゴチャついてる。逮捕出来るのはそこそこ先になるだろう。
しかし、カイザー側に非があった事も事実。その点から、法外に吊り上げられていた利息は即座に以前の半分以下まで引き下げられたらしい。借金そのものはまだまだあるが、それでも活力は高まった筈だ。
柴大将は、ラーメン屋台として営業を再開した。顔を出してみれば、以前と何ら変わらない味だった。弘法は筆を選ばず、とはこの事だな。
流石に三郎を提供出来るのはまだ先だと頭を下げられたが、俺としてはあの味が途絶えないだけで十分だ。何も急かす事は無い。
黒見も、忙しなくはあれど楽しそうにバイトに励んでいる。これからもあの調子で頑張って欲しいものだ。
今回かなり頼もしい味方になってくれた便利屋68の方は、アビドスから退却したらしい。俺がくれてやった200万で、また何処かに拠点を置くだろう。あの社長の半熟卵具合から見て、見栄の為の飾り付けやハードボイルド作風の小説なんかを買い込んで火の車を回しかねないのが心配だが・・・それ込みで今まで生き残って来たのだろう。心配はするだけ野暮と言う奴かも知れないな。次は敵として鉢合わせる可能性もある。何とも楽しみだ。
風紀委員会の方からは、ヒナちゃんをカタパルト射出した事について駄犬がキャンキャン噛み付いて来やがったが、横から当のヒナちゃんが割り込んで抑え込んでいた。何でも、あれに近いスクランブルカタパルトを、風紀委員会本部に増設する事を検討してるんだとか。まぁ、十中八九あの議長から予算は却下されるだろう。眼の下の隈の酷さから見て徹夜明けだっただろうから、深夜テンションの世迷い言だろうな。俺からは一言、「さっさと寝ろ」とだけ言って電話を切った。
もし実現しようものなら、ゲヘナの問題児は上空からの絨毯爆撃染みた制圧射撃を喰らう訳だ。何とも愉快な悪夢だが、どうせそれしきで彼処に静寂は訪れないのだろうと言う嫌な信頼がある。曲がりなりにもあんな場所を最低限纏め、頭を張ってると言う点で、あの議長にも評価すべき点があると言う物か。
事後のゴタゴタが多そうなトリニティは、俺から出来る事はほぼ無い。だが、事務所に保管していた誓約の書類を持って行き、ナギサちゃんの目の前で破り棄てた。「頭の悪い先代の負債が無くなって清々した」と良い放ったミカの奴を嗜めつつ、笑いながら茶菓子を摘まんでいた。前よりも幾分か顔色は良くなったように見えたし、これからも頑張って欲しい所だ。
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「さて、こんなもんかね」
タブレットに書き上げた、今回の事件の備忘録。それを保存し、ガレージのコピー機に送信した。
タイプライターでガシャガシャと打てば格好も付くかもしれんが、整備や補充、書き直しが効かない等の多過ぎる手間を考えると、恐らく半月も立たず置物と化すだろう。インテリアと割り切るのもアリなのだろうが、俺としては道具は使ってこそだ。使えない道具を置いとく趣味は無い。
「そう・・・道具ってのは、使ってこそなのさ、ホシノ」
椅子を限界まで倒し、ポツリと呟く。ホシノをアビドスに取り戻したあの日、俺は自分の・・・否、
叢雲コウが、俺になる前に使っていた愛銃・・・俺には使えない、無用の長物。ならば、使えるように使ってしまった方が良い。
眼を丸く見開いたホシノの表情が、脳裏に甦る。あの表情を見るに、多少は効果があるだろう。あれは楔であり、錨だ。嘗てのホシノを知る者の遺品とも呼べるそれは、思い出させる筈だ。問答無用で置いて行かれる寂しさを。身内が自分の価値を過小評価し、それを売り払おうとする恐ろしさを。そして、それを後輩に強いた自分の愚かさを。
アイツはもう、言葉だけじゃ絶対に変われない。物理的に残る釘が必須だ。だから、釘を刺して来た。もう消えるなと。
「ったく、難儀なこったよ」
「お疲れね、社長」
「あぁ、まぁな。けど、お前程じゃ無いだろ、
グッと伸びをしながら、ガレージから上がって来た
「手続きはどうだ?」
「恙無く。提出すれば、確実に通るわ」
「そりゃそうだ。何せズルい手を使ってる」
皮肉っぽく笑って、肩を竦めた。真面目にやってる奴からは糾弾されるかもしれんが、まぁそこは仕方無い。キヴォトスを守る為の、
「取り敢えず、会長には予定を開けて貰ってる。1週間後よ」
「了解。中継どうも」
「それともう1つ・・・依頼よ。ついさっき」
「ほぉ?」
シュラウドがスマホの画面を見せて来る。依頼人は・・・早瀬?
「発信元は間違い無く
「お前に直接依頼を送ったって事は、多分そう言う事だからな。受けるさ」
「そう・・・出発は直ぐかしら?」
「・・・いや、その前に別口の一仕事だな。ほら、こっち来い」
「・・・えぇ」
椅子に座り直し、右手を差し出す。シュラウドは躊躇いがちにその手を取り、俺の膝の上に座った。
「・・・そんなに、沈んでいたかしら?」
「しんどそうではあった」
ツンと自分の鼻先をつついて笑い、肩に手を回す。抵抗せず倒れ込んでくるシュラウドを、しっかりと胸の中に受け止めた。
「はぁ・・・まだ、慣れないわね」
「そりゃまだ3回目だからな。ゆっくり慣れていけば良い」
ぽんぽんと背中を叩きながら、ゆっくりと呼吸を合わせる。すると、シュラウドの全身を覆っていた無意識の強張りが解けた。どうやら、リラックス出来たようだ。
「・・・中々直らねぇよな、自分を追い詰める癖ってのはさ」
「そうね。ごめんなさい・・・じゃ、無かったわね?」
「あぁ、そうだ。じゃあ、どう言うんだっけな?」
「・・・ありがとう」
「よぉしそれで良い!」
「んっ・・・」
頭を撫でてやると、何か言いたげに眼を逸らすシュラウド。どうにも恥ずかしそうだな。
「良いか?俺はお前を頼りにしてる。だがそれでも、飽くまでお前はまだ子供なんだ。年長者に甘えたってバチは当たらんのだよ」
「・・・1つしか違わない癖に・・・」
「そのたった1つで充分なのさ」
若干訝しげな眼を向けてくるシュラウドに笑い掛け、また頭にポンと手を置いた。
「実際、成績は少しずつでも上がってんだろ?なら、無駄な焦燥こそが敵だ。落ち着いて1歩ずつ進み続けてる。それで良い」
「・・・」
可愛い部下を膝から下ろし、スクッと立ち上がる。そして少々傷み気味の髪を掬い、顔に寄せた。
「仕事に勉強、随分と疲れてる。この後、14時頃まで昼寝しとけ。寝不足は女の敵だ」
「・・・ふふっ、まるで自分は女じゃないみたいに」
「んっ?あーいや~ホラ、俺はそう言うキャラじゃないから。な?」
「キャラとかそう言う話でも無いでしょう?全く・・・でも、そうね。少し寝るわ。その前に、少々軽食を済ませて来るけど」
「おう、行って来い」
フッと微笑み、シュラウドは事務所の玄関へと降りて行った。その背中を見送り、俺はガレージに降りる。カンカンと固い靴底で階段のステップを叩き、壁のフックに掛かっているヘルメットを回収。そのまま頭に被り、ライドクウィンケーのスロットルを捻った。
「さぁてと、久し振りに行くとしますか!」
ドルドルと唸るクウィンケーのヘッドライトを点灯させ、ハンドルにスタッグフォンを装着。アプリを操作し、正面の水密シャッターを解放。ギアを繋ぎ、車体を発進させた。
(NOサイド)
「依頼の内容・・・その前に、前提から伝達するわ」
監視カメラも排され、遮蔽も徹底された電波暗室。そこでセミナーの会計、早瀬ユウカが、ローザストへと情報を伝達する。
中央に設置されたホログラム装置にUSBメモリを差し込み、データを解凍。複数のウィンドウが空中に投影された。
「4日前、5人のミレニアム生が立て続けに体調不良を訴えたの」
表示される生徒のデータ。ローザストはそれらを選択、拡大し、基本的な内容を読み込む。
「・・・纏まりが無いな。所属する部活、学年、どちらも偏りが無い。一応、3年生がいないが・・・まぁ、サンプルが5つだけなら、まだ誤差の範疇だな。
で、体調不良ってのは?こんな密閉空間じゃないとやべぇ話なんだろ?」
「えぇ・・・少々、ショッキングなのだけど・・・」
顔を青くしながら、ユウカはウィンドウを操作する。そしてその中の1つを、震える指先で弾き、開いた。
「っ・・・これはまた・・・」
「・・・っ」
表示されたのは、複数の写真。腕や脚、更に顔。部位に取り留めは無く、しかしそれ以上に鮮烈な共通点があった。
「こりゃ・・・弾丸か?こっちは破片手榴弾かねぇ?」
それは、写真のどれもが、痛々しい傷を写している事。貫通こそしていないものの、何かで捻り刺したような穴の空いた腕。鋭い何かにズタズタにされた顔面。破片が深く食い込んだ脚。どれもキヴォトス人にとって尋常では無く、また同時に不可解な傷だった。
「・・・見たとこ、損傷のサンプルは3人分か。残り2人はどうした?」
「この3人が大怪我を負ったすぐ後に、セミナーに飛び込んで来たわ・・・っ・・・最初は酷いパニック状態で・・・今は反省室を貸して、その中で生活して貰ってるの」
写真をチラリと視認し身体を震わせながら、質問に答えるユウカ。生々しい傷口に免疫が薄いからだろう。
「反省室ねぇ・・・で?俺に態々依頼するのは何でだ?違法改造された武器の調査ってんなら、どっちかと言えばC&Cの領分だと思うんだが」
「・・・改造武器じゃ、ないわ」
「何?」
声のトーンが下がるローザスト。そして、顎に手を当てたまま硬直する。
違法改造していない武器で、キヴォトス人の肉体がここまで損傷すると言う事はまず考えられない。ならば他に何が・・・そこまで来て、まだ触れていないキーワードがある事を思い出した。
「体調不良が原因か?」
「恐らく・・・」
「症状は?」
「強い虚脱感と、身体の痛み。そして、著しい身体能力と防御力の低下ね。でも、精密検査をしても異常は全く無し。もうお手上げよ」
「成る程な、前提は分かった。で、依頼の方は?」
「それは、こっち」
スルスルと空中を滑るように入れ換えられるウィンドウ。新たに表示されたのは、巨大な船の見取図だった。
「今回の被害者の共通点・・・オデュッセイア海洋高等学校管轄のクルーズ船、カダス・フィーヴァー号。この船に乗ったらしいわ。ここは生徒会からの命令を無視して、大規模な賭博場を経営してる」
「カジノ・・・あぁ・・・」
「どうかしたの?」
「いやァ、何も・・・ハァ」
若干の引き攣り笑いが混じった、ローザストの溜め息。彼女の中で、既にキーワードが揃ってしまった。
「・・・続けるわね。そのVIPの最上位を犯人と推定。これを討伐し、この事件を可及的速やかに終息させる・・・それが、
「リオが直々に、か・・・まぁ当然だわな。どう考えても俺案件だ」
肩を竦め、苦笑を漏らす。このような現象を起こせるのは、コウの知る限りドーパントとゲマトリア。そしてそのどちらも関係者であり、ドーパントに至っては仮面ライダーで無ければ対処は出来ない。妥当な、そして不可避の人選だ。
「取り敢えず、これが前金代わり。会長から、渡しておけと言われたわ」
「おぉ・・・!」
ユウカから渡された、小さな包み。その包装を開き、ローザストは中身を取り出す。
漆黒の、ゴツゴツとしたメモリスロット。表面には透明な窓と小さな無印のボタンがあり、裏にはジョイントが付いている。
それは紛れも無く、マキシマムスロットであった。
「あと、それとは別で前金も振り込まれるわ・・・達成報酬は4000万円。リオ会長は証拠品の提出を義務付けてるけど・・・その証拠品って言うのが何なのか・・・」
「大丈夫だ早瀬。俺なら分かる」
「そ、そう・・・」
軽く断りながら、ローザストは見取図を眺める。地形を図面から読んで脳内で組み立て、最低限の動線をシミュレーションするのは、屋内外問わず地図を持っている戦場での生存法だからだ。
「・・・やっぱり、教えてくれないのね、貴方も」
「ん?」
目線を附せながら、暗く呟くユウカ。その沈んだ表情を複眼の視野の端に捉えながらも、ローザストの視線の中央には変わらず図面がある。
「会長も言っていたの。何の対応も出来ない私達には、説明しても無駄だって・・・だから、私にはただ一言、
「ハァ、ま~たいつもの合理節か。もうちょいオブラートに包む事を覚えるべきだな、あの
腹の底からの呆れ。ローザストは頭を掻きながら、ユウカに顔を向ける。
「多分、混乱を避ける為だろうな。だって考えても見ろ。もし学園に人狼が、吸血鬼が、そんな化物が潜んでいたら?もし、対抗策の確立もまだな状態で、情報だけ公開したら?その先にあるのは、疑心暗鬼の蔓延る魔女狩り異端狩り。
アイツは最近どこかおかしい。きっと化物に違いない。狩られたアイツは変だった。きっと化物だったに違いない・・・人の常さ」
「・・・最近噂になってる、怪物の事?」
「まぁな。その怪物・・・ドーパントに対して、俺とリオにはそれぞれ明確に出来る事がある。そして、脅威に対した時・・・リオの気質は知ってるな?どうなる?」
「・・・対処せずには、居られなくなる」
「そう言う事」
グリグリと首を回しながら、ローザストは肯定する。ユウカはリオに対して、ある程度自分と同じ印象を持っている。その確認を済ませ、ユウカの肩に手を置いた。
「アイツの悪癖ってのもあるな。なまじっか自分で何でも出来るから、他人を頼ると言う発想が欠如しやすい。だがそれを抜きにしても、今回は対応する人間を限っておかなきゃいけない段階なんだ。俺からも、そう言う所は改善出来るように助言はしてる。アイツも子供なりに頑張ってんだ、もう少し待ってやってくれ」
「・・・」
「・・・何だよ」
じっとりとした眼で睨むように見て来るユウカに、ローザストは疑問符を浮かべる。そのような眼を向けられるような覚えは無いと。
「・・・何なのかしら、この感情。怒りじゃないし、憎い訳でも無い・・・」
「おや、会長の秘密のビジネスパートナーに妬いちゃったか?」
「・・・腹立たしいわね。貴方にそれを言われるのも、嫉妬と言う感情がしっくり来るのも・・・!」
「おいおい、そうむくれるな。さて、依頼は了解した。すぐに取り掛かるぜ」
「子供扱いして・・・ハァ・・・万事蝗屋、ローザスト。確実な遂行を期待するわ」
「ウィ、お任せを」
全てのホログラムが消え、密封室の扉が開く。ポケットに手を突っ込みながら、ローザストはその部屋を後にした。
To be continued・・・
~キャラクター紹介~
・叢雲コウ
理解者面飛蝗少女。
アビドスの1件を片付けたと思ったら、すぐに仕事が舞い込んだ。
部下のメンタルヘルスチェックとケアを軽く行った後にミレニアムに直行。依頼を受諾する。既に排除目標については見当がついている模様。
尚、生徒会長との関係に悩むユウカに対しても少しばかり口を出した。リオとはそこそこ深い仲ではある。
前金として、新開発されたマキシマムスロットを受領した。
・
薄幸系裏方社員。
印象としては、エヴァの綾波とTeachingFeelingのオーレリアを足して2で割ったイメージ。
万事蝗屋の3人目の社員。社内唯一の頭脳労働担当。主に依頼の確認や帳簿の管理、更に特定の
因みに、シュラウドと言う渾名は下の名前がそうだからコウが勝手に呼び始めただけ。しかし本人は気に入っている。
・早瀬ユウカ
モヤモヤセミナー会計。
直属の上司であるリオから依頼の伝達を任された。
上司からの余りにもあんまりな物言いに無力感と寂しさを、そしてそのリオの理解者面をしているコウに少しばかりのジェラシーを覚えている。
~アイテム紹介~
・ルインローカスト
アビドス生時代の叢雲コウが愛用していた拳銃。
そこまで手が入っている訳でも無い、ほぼ純正品のベレッタ。コウは置いて行かれた側の気持ちを忘れさせない為に、ホシノに押し付けた。たった一言、「もう忘れるな」とだけ伝えて。
・マキシマムスロット
ミレニアムで開発された、ガイアメモリ専用強化アタッチメントパーツ。
要するにベルトに着脱可能な単品のマキシマムスロット。