(コウサイド)
「さぁて、どうしたもんかね」
歓喜と絶望が、おおよそ1:4程の比率で飛び交い混じり合うその場所で、ボソリと呟く。
海の波に反して不気味な程に安定した、欲望渦巻く幻夢郷。
豪華賭博客船、カダス・フィーヴァー。ここでは、ギャンブルのスコアこそが唯一絶対の正義。VIPクラスまで登り詰めれば、この船の全ては望むがまま・・・そんな秩序と言う概念に中指を立てるが如きルールによって、この賭場は回っている。
右では大穴狙いが大滑り。左ではジャックポットで大歓声。何とも姦しい空間であるが、それ故に流れや動きの大小は見分け易い。
そもそもとして賭博は完全にビギナー。まずは見学から始める事にした。
「あっちがトランプ、ルーレット・・・サイコロは丁半博打か?おっ、あっちのはムシクイーンだっけ。トレーディングカードゲームもあるのか・・・」
チラリと見たが、どうやらTCGコーナーの隅にはデッキを持っていない客用に初心者用デッキを売る売店コーナーや、カードガチャコーナーもあるようだ。と言う事はつまり、あれらが闇市の類いで無いならば、この船はムシクイーン公式とスポンサー契約してるって事になる。マジで手広くやってやがるな。
「・・・っつーかやたらと五月蝿ぇコーナーあると思ったら、あれパチンコじゃねぇか・・・よし、取り敢えずやってみるか。初心者が始めるギャンブルっつったらパチだろ」
パチンココーナーに脚を踏み入れ、音の波に四方八方から揉みくちゃにされながら台を物色する。フラフラと脚が赴くままに歩き・・・1つの台に眼が留まった。
「魔刃戦士
ライオンをモチーフにした金色の戦士の筐体・・・つ~か、もの凄く見覚えがある。どう見ても魔戒騎士じゃねぇか。
「・・・やってみるか。取り敢えず軍資金は500万ポンと投げ渡されたからな・・・ホント、各校上位層って金銭感覚どうなってんだか」
投入口に会員証を挿入。筐体が光り、パチンコ玉がジャラジャラと流れ出て、ゲームが開始された。
「えーっと・・・成る程?」
左手にスマホを持ち、リアルタイムで最低限の情報を調べながら右手でハンドルを軽く捻る。玉がこれまたジャラジャラと流れ、けたたましい音声とフラッシュの側を転がり落ち・・・大多数が、ハズレ穴に落ちる。
「まず第1目標が、この抽選穴で・・・ここに入って当たれば、今度は確率変動モードと・・・ほぉ~・・・」
取り敢えず、脳味噌は徹底的にドライな、あらゆる情報を感情抜きの0と1の羅列として処理する状態だと強く暗示を掛けておく。これをやっとかないと多分不意にドーパミンで殴られて沼に嵌まる。
「おっ、第1は入ったか・・・」
当たり穴、調べた所のヘソと言う奴に入り、演出が切り替わる。何とも焦らしの効いた、その気にさせる演出だが・・・玉が入った時点で、結果はもう決まってんだ。そこもしっかり意識して、引き摺り込まれないように・・・
「・・・まぁ駄目だわな」
抽選はハズレ。またヘソ狙い続行。チラッと玉量を見ると、どうやら消費はこれで3割程度だ。現状で回せるのはあと3回程・・・まぁ、確かパチンコって期待値的に儲け出すには40万程度は元手が要るらしいからな。どうせ当たらん前提で行こう。勉強料だ。
「おっ、また入った」
今度もまたスロットが回り始める。左が5、右も5。最後の真ん中が・・・
「えっ、当たった?おーおーおースゴいな光り方が」
何か、あから様に判断力削ぎに来てる光り方してるな・・・これあれだ。無理矢理アドレナリンを出させるギミックだ。
『Yo!com'on!』
「おーっと曲が変わったな。チャンスタイム?成る程・・・これ良い曲だな」
何か助っ人キャラと共闘して敵を滅多切りにしてる。そのアニメーションも中々凝ってて、見応えがあるな。
「まぁ、これで暫くは当たり易くなってるらしいからな。当たりが途切れるか、玉が無くなるまでやってみるか」
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「いや、可笑しい可笑しい」
玉が溢れそうになって、箱に逃がす。その回数、実に20回以上。最終的に、箱は満杯が23箱、そして24箱目が半分程となった。
「ッス~・・・取り敢えず、落ち着こうか。これは明らかに可笑しい」
努めて冷静でいようとしたが、流石にこれは難しい。と言うか、大体4000発入る箱がこの量で、しかもレートが玉1発4円だから・・・えーっと?雑に計算して、37万?そりゃのめり込む奴が後を断たない訳だわ。3万円が2時間経たずに12倍に大膨張しやがった・・・
「あぁ、そうか。このビギナーズラックに脳味噌を殴り潰されてギャンブルに嵌まり込むんだ・・・あっぶねぇ~、前もって脳内麻薬カットして無きゃ俺もジャンキーになってたかも・・・」
取り敢えず、ここは離れよう。ここにいるとクールダウンに手間取る。何とも用意の良い事に、筐体の足元に折り畳み台車が収納されていた。箱を全てその上に乗せ、台を離れる。
「えーっと、これ換金が何処だっけな・・・」
「彼方の突き当たりを左ですよ」
「あぁそりゃどあ゛?」
「クックック、相手が私だと認識してコンマ5秒で威嚇して来ましたね」
歯を剥き出し、反射的にドスを効かせた声で威圧する。しかし、眼の前の
「やっぱりお前の仕業かよ」
「はて、仕業とは?」
「お前がここにいる時点でお前の興味を引く実験材料候補がある若しくは居るってのは確定なんだよ」
「落ち着いて下さい。血圧が上がりますよ?」
「誰のせいだと思って・・・あ?」
更に興奮しそうになった所で、脳内でピースが繋がる。その上でコイツの顔を見ると・・・何か、何時もより3割増しでニヤケてやがるようにしか見えねぇ。
「・・・テメェ、俺を釣りやがったな?」
「はて、どういう意味でしょうか?」
「ドーパント絡みとおぼしき形跡を残せば、俺は動かずには居られない。離れていた間に俺がどう変動したか、その観測を行う為の釣り針・・・それが、この船のドーパント。違うか?」
「クックック、何とも高い、過ぎたる評価ですね。私に対しても、ご自分に対しても・・・喜ぶべきやら、嘆くべきやら」
「・・・ホントに俺が狙いじゃねぇっぽいな」
「えぇ、只の偶然ですよ」
左手をポケットに突っ込み、右手でネクタイを弄りながら、相変わらずニヤニヤと笑う黒服。何度見ても殴りたくなる面をしやがってからに・・・
「以前貴方が言っていた事、興味が湧きましてね」
「どれだよ、勿体ぶりやがって」
取り敢えず、右腕は奴の頸元にコンマ3秒で振り抜けるよう意識を組んだ。黒服の話を聞きながら、俺は台車を押す。
「ガイアメモリには適合率があり、更にドーパントは変身者の感情によって変質する事がある、と言うあれですよ」
「成る程。なら、激情と欲望の坩堝たるカジノは都合が良い訳だ。で、お前は自分のお眼鏡に適ったギャンブラーに言い寄って、ドーパントに仕立て上げたと」
「本当に、話が早いですね。少々詰まらない程に」
「ケッ」
どうしたもんかな、コイツの素っ首この場で叩き落とすべきかな・・・なんて事を悩みながら、換金装置に会員証を挿入。ザラザラと箱から玉を流し込み、金に替えて行く。三店方式が必要無いのが、この治外法権の旨味なのかねぇ。
「・・・そうだ」
【METAL!】
「おや、どうしました?」
「何、ちょっと気になってな」
左腕にメタルをレイズし、金属化した掌をパチンコ玉の中に突っ込んだ。そしてズルリと引き出してみれば・・・思った通り、ジャリジャリと掌にへばり付いて来る。鉄だな。コイツは使える。
「おや、取っておくのですか?」
「記念品みてぇなもんだ。気にすんな」
一掴みのパチンコ玉を懐に仕舞い、残りを全て換金した。
「さて、次はどのゲームにしますか?」
「ん~・・・つっても、俺は完全に初心者だからな。何をやれば良いのやら・・・」
「では、スロットやルーレット等は如何ですか?貴方の動体視力であれば、どちらも容易いかと」
「ほぉ~・・・お前に乗せられるみたいで癪だが、まぁやってみるとするかな」
取り敢えずパチンココーナーから近かったので、スロットコーナーへと足を運ぶ事にした。バニー服のスタッフに箱と台車を任せ、ふと会員証を見る。
「おっ、ランク外からDランカーになってるな」
「えぇ、Dランク自体は1度でもゲームで投入額以上に増やせば与えられる称号です。ここからが本番ですよ。さぁ、そちらのコイン両替機に」
「分かってるわそれぐらい」
ATMにも似たマシンに会員証を挿入。取り敢えず10万円分コインに変える。1枚100円で、丁度1000枚だ。
「えーっと、スロットの遊び方は・・・」
「まず、ここのスロットは6枚以上ベットしましょう。それにより、当たりのラインが横一列のみから斜めまで増えます」
「えっ?」
再びスマホで調べようとしたら、何かノリノリで解説し始めやがった。
「何の風の吹き回しだ?」
「私としては、このカジノの王と貴方の化学反応を是非とも観察させて頂きたいのですよ。なので、その道筋は最低限案内させて頂きます。謂わば先行投資のような物ですね」
「気ッ色悪ィな。お前には借り作りたくねぇんだが?」
「何を仰いますやら。言った筈ですよ?私は貴方と王の対決が見たいと。
貴方が勝ち上がり、そして王の座を簒奪すれば・・・負債も、禍根も、その一切が残りません。貴方が勝ちさえすれば、ね?」
「そりゃ賭場仕切ってる悪人が脳の蕩けたジャンキーを更に沈める為に使う言葉だろうがよ」
イーッと歯を剥き出しつつ、会員証とコインを投入してベット数を選択。レバーをガコンと下ろすと、3つのドラムが回り始めた。
「んーっと、何々~・・・要するに、フィーバーモードに入るまではどんなに目押ししても特定の柄しか出ないと?」
「そうですね。逆に言えば、そのチャンスさえ掴めたのならば、後は身体能力が物を言います。貴方ならば、容易い事なのでは?」
「まぁそのフィーバーが当たるまでが問題なんだろうがな。ほいほいほいっと」
適当にボタンを連続で叩く。小役すら揃わない。次。
「マックスベット、レバーっと・・・まぁこう、ガチャガチャやるのは純粋に玩具的な楽しさもあるな」
ベンベンベン。外れ。次。
「そう言った部分から馴染ませ、抵抗感を失くす・・・それもまた、これらギャンブルの戦略ですからね」
ベンベンベン。リプレイは当たった。次。
「だろうな。手慰みにカチャカチャ物を弄るのが好きな奴とか絶対ハマるわこれ」
ベンベンベン。外れ。コインを束ねるように摘み上げ、流し込むように追加投入。次。
「つーか、お前は賭けたりすんのか?」
ベンベンベン。小役当たり。10枚排出。次。
「ホンの嗜み程度ですが。実に面白いですよ?」
「だろうな。お前は多分ポーカーとか強いだろ」
ベンベンベン。外れ。次。
「そうですねぇ。ハッタリを仕掛けて相手を揺さぶったり、勝てる見込みがなければさっさと降りたり・・・そう言った駆け引きの類いが好きでしてね」
「そう言えばお前、嘘は吐けない的な事言ってなかったか?ブラフとかそう言うのは大丈夫なのかよ」
「えぇ。厳密には、明文化されたタブーを侵す事は出来ない、と理解して頂ければ。ゲーム内での駆け引きは、寧ろ奨励される行為ですので」
「成る程。ルールを守って楽しくゲーム、の範疇なら、そう言うのもセーフな訳ね」
ベンベンベン━キュリリリ~ン!━おっ?
「チャンスタイムが来ましたね。おめでとうございます」
「早くない?」
「チャンスタイムでは1ベットにしておきましょう。貴方なら余裕で777、
「ふーん、横一列だろ?まぁ余裕だわな」
ベットを1。レバーを叩き、ドラムを回す。俺の動体視力を以てすれば、これしきは何の苦労も無い。
「ポンポンポンと」
当然、ジャックポット。排出は・・・250枚?
「多くない?」
「ビッグボーナスですからね。因みに・・・Aランカー以上用の上階にある7連スロットなんかでは、ジャックポットの場合は1枚500円のメダルで1500枚排出します。その代わり、ドラムの回転速度もそれなりですがね」
「えげつねぇなオイ・・・」
口元を引き攣らせながら、機械的にボタンを叩き続ける。何度目かの試行の後、再びチャンスタイムが到来した。
「いやだから早ぇって!」
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「おめでとうございま~す!」
「ハハ・・・どうも~・・・」
ファンファーレと共に祝われ、ノンアルコールシャンパンが振る舞われる。
あれからボーナスチャンスを引き当て、ジャックポットを叩き出す事、実に13回。大雑把に30万円ちょい。また金が増えた。そして、気付けばもうランクがB目前。いや結構な勢いで駆け上がったな?
「お見事でした。まさか一晩でここまで躍進するとは・・・」
「止せよ。自分でも当たり過ぎて怖いぐらいだ。居心地悪ぃったらねぇぜ。で?何か録れたか?」
グローブ付きの指で、カチカチと
それは兎も角として、ディスプレイと睨めっこしている黒服にグインと椅子から海老反りになりながら問う。
「フム・・・神秘の質、量、密度、全て大きく上がっていますね」
「まぁバカみてぇに喰いまくったからな。対ドーパント実戦も経験したし・・・けど、それで運って良くなるのか?」
「・・・あぁ、理屈が分かりました。クククッ、成る程・・・」
「1人で納得してんじゃ無いよ気色悪い」
黒服に引きながら、メダル満載のケースを換金所へと運ぶ。最初はスコアを直接金にすれば良いんじゃないかと思ったが・・・今なら分かる。コインを弄りながら投入する所も含めて、スロットと言うゲームの一部だ。こんな事理解しなくて良かったが・・・
「クックックッ・・・残念ながら、私の口からは説明出来かねます。しかし、貴方にとって悪くは転ばないでしょう」
「そうかよ・・・まぁ良いや。次行くぞ次。スロットは飽きた」
会員証を差し込み、メダルを全て投入。残高が550万ちょっと。3時間もせず50万円増えやがった。他の仕事なら安過ぎる端金だが、ギャンブルでこの量を初日に増やしたとなれば重さは違うだろう。
「どうします?もう上の階層への参加権はあります。より大きく賭けてみますか?」
「ん~、まぁこの軍資金はどう使おうが自由って事らしいし、どうせならリターン求めて行ってみるかな。上の階層でも、ズブズブに引っ張り込む為に最初はボロ勝ちさせてくれるだろ」
黒服の誘いに乗り、階段を登る・・・何か、どうせ自分の金じゃないから良いや~なんて糞みたいな余裕が俺の中に生まれてる気がして腹立つな。イカンイカン。
「ブラックジャックにポーカー、ダイスにルーレット・・・色々ありますが、どうします?」
「そうだなぁ・・・ん?」
何やら騒がしい声が聞こえて来る。どうやらルーレットらしい。
「黒の13番!来い・・・来いっ!」
「あ~・・・ありゃダメだな。典型的な負けパターンだ」
ルーレットテーブルに縋り付くように賭ける少女。何かどうにも見覚えがある光景だな。
その祈りも虚しく、リングを周回していたボールは赤の4番のポケットに入った。
「嘘・・・そんな・・・」
「おうおう大分負けてんな」
「いかがです?お客様も1ゲーム」
「ふむ・・・」
ディーラーに誘われ、少々悩む。しかし、臆していても始まらない。踏み込んでみる事としよう。と、その前に・・・
「なぁディーラーさん。ゲーム云々じゃ無いんだが・・・そのルーレット盤、ちょっと回してみても良いかな?カッコ良くてよ、つい触ってみたくなっちまったんだ」
「えぇ、問題ありませんよ。何事も経験ですから・・・どうぞ」
「ありがとよ」
ボールを受け取り、盤を回す。さて、新たな初体験と行こう。
(NOサイド)
「やぁ。久方振りだねぇ、黒服さん」
「えぇ、お久し振りです、オーナー」
階層式の船上賭博場、その最上階。VIPエリアの最奥で、2つの異形が挨拶を交わす。痩せ型の黒服と、それとは対称的にでっぷりと腹が出た金色のドーパント。その左手は、ぐったりと倒れた少女の首を掴んでいた。
「絞りカスだが、使うかい?」
「いいえ、結構です。それよりも・・・是非、貴方に受けて頂きたい勝負があるのです」
「ほぉう?」
少女から手を離し、興味深げに顎を擦るドーパント。首を傾げる仕草と共に、頭部に付いた特徴的な
「あんたが言うんだ。此方にも相当デカいリターンがあると見た。同時に、同等のリスクもあるね?」
「それは勿論。そのような勝負でなければ、貴方は乗らないでしょう?」
「グッド!楽しませて貰おうじゃないか!」
「クックックッ・・・さぁ、叢雲コウさん。見せて下さい、貴方の突破法を・・・」
To be continued・・・
~キャラクター紹介~
・叢雲コウ
豪運飛蝗少女。
豪華賭博クルーズ、カダス・フィーヴァーに乗り込み、かなりの勢いでランクを上げている。初心者用に当たりやすい所で打ったと言うのもあるが、純粋な運も良く、更にチャンスを掴む身体能力も持っている。動体視力と反応速度で切り抜けられるゲームに於いて、コウに敗北は無い。
そしてギャンブルにハマった末路がどんな物かは知っている為、ドーパミン分泌を抑える為に常時意識的に萎えた精神状態でプレイしている。
黒服と遭遇して、この事件の筋道を確信した。
・黒服
良い空気吸ってる悪い大人。
期待した通りの材料が揃い、ワクワクしている。因みにトランプ系のゲームが得意。
・オーナー
カダス・フィーヴァーのVIP、その更に最上位に君臨するギャンブラー。同時に、ガイアメモリを使うドーパントでもある。