相変異 黒蝗   作:エターナルドーパント

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契約

(コウサイド)

 

「ほぉ、ここが拠点ね」

車から下ろされ、金属板打ちっぱなしの廊下を歩く事数分。中央に金属の円卓を据えた、会議室のような場所に辿り着いた。

「えぇ、我らの拠点です。ようこそ、ゲマトリアへ」

「ゲマトリア、ねぇ?何だっけ、文字を数字に変換する暗号とか占いの形式だっけ?確かヘブライ?」

「おや、博識ですね」

「何処で拾ったか分からん知識が、何時の間にか脳ミソの底に引っ掛かってる。良くあるこった。多分何かの考察で出たセフィロトと抱き合わせで覚えてたんだろ」

生命の樹、セフィロト。神による天地創造の段階を図式化したものであり、無限のエネルギーが滲み出して因果の因に当たる精神世界を創り、そこから複数の過程を経て物質世界となる。早い話が、ビッグバンを神様の存在ありきで説明付けるような理論・・・だったと思う。これ以上深くは知らん。

「考察・・・その知識は何処で?」

「さぁな。意味記憶は残ってるが、エピソード記憶は丸ごと消し飛んでる。何処で知ったかも覚えてねぇサブカルの世界観考察とかの、えげつねぇ量の情報が脳内で飛び回ってやがるんだ」

「クククッ、成る程。貴方は我々と同じ、探求者向きのようですね」

「探求者?」

「えぇ。私達はこのキヴォトスに於いて、恐怖と神秘、それらを兼ね備えた《崇高》に着いての研究を行っています。観察者であり、探求者であり、研究者・・・」

「キヴォトスねぇ・・・そのキヴォトスってのは、どんな単位の名称だ?都市か?国家か?」

「便宜上は、数千の学校が集合した学園都市です。しかし、強力な学校は国家と遜色無い力を持ちますので、大まかに大陸のようなものだと解釈して頂いて問題無いでしょう」

「国家規模の学校とかちょっと該当データ無いせいで想像着かねぇ・・・まぁ、さっきのボスロボと言い合っててちょっとは想像したけどさ。それらを仕切ってるのは?」

「主に各校の生徒会です。行政だけで無く、土地の管理や治安維持等を行う組織を部活として内包している場合も多いですね」

「マジで学生が国家運営してやがるのかよ・・・頭痛くなって来るぜ」

頭を抱えて天を仰ぐ。さっき推察した貴族に当たるのが生徒会で、ホントに領地に当たるものを管理しているとは・・・

「これも言った方が良さそうですね。キヴォトス人は、実銃で撃ち合っても痛いで済みます。なので、学生は基本銃を携帯しているのです。携帯電話並みの普及率と考えていただければ」

「うっわ、凄まじいトンチキワールドだな」

「そうかも知れませんね。そしてそのトンチキを支えるのが、貴方の頭上にもあるヘイローです」

「ん、あぁこれか」

「ヘイローの加護はダメージの大半をカットし、また身体能力を大きく向上させるものです」

「大半、ねぇ?じゃ、キャパ破って防御をぶち抜く方法もある訳だ」

「ご明察です。継続的な射撃、窒息、そして斬撃。これ等がヘイローの加護を突破し得る攻撃です」

「まぁ、不死身の化物なんて居る訳ねぇしな。生きてるなら殺せるってのは世界の真理の1つよ・・・そっちから何か質問あるか?」

「おや、では遠慮無く」

質問の攻守が交代し、今度は俺が回答側に回る。

「貴方は何者ですか?」

「知らね。何処ぞで死んだ幽霊かも知れんし、この身体が現実逃避で作り出した人格かも知れん。もしかしたらホントに悪魔かもな?名前も無かったが、コイツから叢雲コウの名を貰ったよ」

「ふむ。前の叢雲コウとは対話しましたか?」

「10分満たないぐらいだがな。いきなり悪魔呼ばわりされるわ、キヴォトスを滅ぼす力をぶっつけ本番でコントロールしろだの無茶振りされるわ、散々振り回された挙げ句消えて行ったよ」

「成る程。では、貴方が作り出したそのデバイスに着いて説明頂いても?」

「あぁ、これな・・・何か着る物くれや。外したら全裸なんだろ?」

「あぁそうでしたね」

思い出したとばかりに頷き、扉の1つの奥に消える黒服。そして1分も経たず、白いタオル地の服を持って来た。

「手近にあったのがこれなんですが、問題無いでしょうか?」

「バスローブか。まぁ良いだろう」

黒服の手からバスローブを受け取り、アームカッターで袖を切り裂かないよう慎重に着込む。ちょい上で帯を絞め、ドライバーからメモリを抜き取った。変身が解除され、肉体が人間のそれに戻る。

「まず、こいつはガイアメモリ。俺の知る限りでは、この星の記憶領域に記録された事象、現象、物体、生物、概念・・・まぁ、名前が付いてるものは全部いけるな。その記憶を抽出して封入した物だ。俺のはホッパー、つまり飛蝗の記憶だな。

この封入データを身体に流し込む事で、そのデータに肉体を最適化させて怪人に変貌するって訳だ。特殊なコネクタ手術を行う事で、メモリ起動時に浮かび上がる生体コネクタを身体に刻む事が出来る。所謂直挿しと呼ばれる方法だが、これはデータと肉体が馴染むのが早い反面、データ内の不純物によって副作用が出る。基本的な毒素による肉体の破壊に加えて、物理的な暴力を持ち味とするメモリは知能の低下、独自の法則を相手に押し付けたりするトリッキーなタイプはモラルが無くなり利己的になる傾向があるな。また、麻薬に近い依存性もある。直挿しの場合はそれを諸に喰らうせいで、1度手を出すと止められなくなる場合が多い」

「ふむ・・・饒舌ですね。説明も分かりやすいです」

「そりゃどうも。多分相当好きだったんだろうな」

肩を竦めて見せつつ、次はドライバーを取り外す。すると、ドライバーは瞬く間に靄のように掻き消えてしまった。

「あれっ?外せないタイプ?・・・あ、良かった。また出て来た」

若干不安になりつつ腹に手を翳して念じてみると、また何事も無かったかのようにドライバーが出現。ガイアドライバーがベースなんだが、どっちかっつーとアークルとかオルタリングに近いな。

「あー、このベルトはガイアドライバーrex。メモリの毒素を濾過するフィルターであり、エネルギーの安定供給を行う制御装置だ」

「ふむ・・・レクス、と態々名が付いていると言う事は?」

「お察しの通り、幾つか型番がある。ま、これについては明日。契約してからだ」

「クックックッ、確かに。その方が賢明でしょうね」

円卓にセットで置かれていた椅子に腰掛け、背凭れに体重を預けた。グッと身体を伸ばしつつ、肩や首を回して感覚を擦り合わせる。

んー、何だろう。何と無く違和感があるような気がするな・・・

「黒服、で良いのかね。飲み物くれないか?喉乾いた」

「紅茶とコーヒーと水、どれが良いですか?」

「水で。カフェインは入れる気にはなれん」

差し出されるコップ。念の為臭いを嗅ぎ、少しずつ口を付ける。

「・・・流石に傷付きますよ?」

「お~う安心しろ~。元々罅だらけのアンタなら多少傷付いても変わりゃしねぇよ」

「人の心はご存知で?」

「人身売買したアンタは世界で5番以内ぐらいにそれ言っちゃいけねぇ存在だろ」

「ぐうの音も出ませんね」

1本取られたとでも言いたげに天を仰ぐ黒服。何か絶妙にコミカルな部分があるな。やってる事は鬼畜なのに。

「で?俺は何処で寝れば良いの?」

「脱退したメンバーの部屋が空いています。ベッドしかありませんが、問題ないでしょう?」

「了解。監視カメラと集音器の位置は?」

「天井の角、ベッドが見下ろせる位置に1つだけです」

「トイレに無いならまぁ良いさ」

「心外ですねぇ、クックックッ」

案内された部屋は、本当にベッド上の寝具以外何も無い部屋。まぁ空き部屋なんてこんなもんだろ。

「明日は契約と、私の仲間との顔合わせとなります。今日はお休み下さい」

「おう、融通利かせてくれた事は感謝しながら寝るとするよ」

黒服がドアを閉じ、俺は部屋に1人となる。天井を見れば、カメラが無感情にベッドを見詰めていた。

ボフッとベッドに腰掛け、倒れ込む。幸いカビ臭かったりホコリがあったりはしない。マメに掃除してるのかね。

そんな事を考えていると、ドッと疲れと眠気が押し寄せる。あんな大立ち回りを演じれば、当然の帰結か・・・泥濘の底に沈み掛ける意識の中で、ボンヤリとそう思った。

 

━━━

━━

 

『喰わせろ』

 

ギチギチ、ガチャガチャ。不快な音が鳴り続ける。バタバタと空気を叩く音も。

「ったく、堪え性の無い奴だな」

真っ黒の闇の中で、真っ赤な双眸が燃える。無数の羽音が飛び交う中で、そいつは立っていた。

黒い斑紋に覆われた、黄色い甲殻。忙しなく動く、額の触角。手足には鋭い刺を持ち、頬の変わりに強靭な大顎を持つ口からは、ボタボタと涎を垂らしている。何より腕や腹には、鱗鎧のように大量の蝗が並び、生理的嫌悪感や集合体恐怖症を煽る。

俺の変身した姿より数段凶悪な、そして醜悪な姿。俺が飛蝗怪人ならば、コイツは差し詰め蝗害怪人と言う所か。

 

『喰わせろ』

 

「何をだ。飯か?敵か?それとも世界か?」

 

『喰わせろ!』

 

「ははぁん?成る程、全部喰いたいか?悪いがそいつは通らんな。俺がなるべき仮面ライダーは、そんな事ァしねぇ」

 

『■■■■■■■■!!!!!!』

 

絶叫を上げ、掴み掛かってくる蝗害怪人。両手同士を組み合いながら、ガチンと額をかち合わせた。

「ハッ、俺の腹の虫はこんな声で鳴きやがるのか!だが、俺の飢えは俺のもの!この身体も既に俺が握ってる!テメェの出る幕はねぇんだぜッ!」

『■■■■!』

「何言ってッか聞こえねぇよォ!」

顎に飛び膝蹴りを叩き込み、離した右腕を畳んで肘を振り抜く。頬を抉るように打ち込んだそれは、蝗害怪人を半歩後退させた。

そして気付く。今し方攻撃に使った右腕と右脚が、ライダーのそれへと変わっている。

「ッはッはァ!まるでクウガみたいだなァ!じゃあ、ご覧に入れようかァ?俺の!変身ッ!」

メモリを使わず、ドライバーも介さず、俺の身体は仮面ライダーへと置き換わる。怪人の抜き手を交差した両腕で落として止め、そのままアームカッターで腕を斬り裂いた。

『■■■■!?』

「オラオラどうした!怒ったかァ!?」

ステップを踏みながら、パンチやキックで攻め立てる。攻撃の度に気が昂り、全てが鮮明になって行く。

アッパーカットで顎をカチ上げ、重心を反らせた所で腹を蹴り飛ばした。

『■ッ・・・!?』

諸に入った蹴りで吹っ飛び、喉を鳴らして唸る蝗害怪人。息を整えつつ、ぐるりと首を回して過集中していた意識をリセットする。

 

『ガァァァァァァッ!!』

 

無理矢理立ち上がり、怪人が咆哮。同時に身体中の蝗が飛び立ち、周囲を黒い嵐となって覆い尽くした。

「ぐおっ!?この、往生際の悪いっ!」

背後に殺気、ハイキックで迎撃する。

「なっ!?」

だが、手応えが無い。空を斬った蹴りに鑪を踏んだ。

 

━ザグッ━

 

「・・・え」

肉を貫く、濡れた音。発生源は、右の太股。何か、尖った円錐形のものが、俺の太股を、貫いて・・・ッッッッ!?!?!?

「がっ、ぐあぁ!?」

痛い!痛い痛い痛い痛いッ!

肉の断裂と激痛で崩れ落ちそうになる。しかし、首に掴まれる感触。そのまま一気に振り上げられた地面に顔面から叩き付けられた。

「あっ・・・がぉっ・・・」

『コロロロロロロ・・・』

アイアンクローのように頭を掴み上げ、仰向けにひっくり返す怪人。俺はダメージの蓄積で姿を保てず、変身が解除された。

そして、怪人の口が開かれる。湿った吐息が肩に掛かり、でろりと垂れた涎が肩に滴り落ちた。

「おい、テメェ、まさか・・・止めろ、止めろ!止めろ止めろ止め━━━━」

 

━ぐちゅっ━

 

「がぁぁぁぁッッッッ!?」

喰らい付く。刃のような大顎が、俺の腕に、肌を破って。筋肉、神経、果てには骨まで届かんとする程、牙を喰い込ませている。

「あぁあぁァァ!?クソッ!クソッタレがッ!喰うな!俺を喰うなァ!?」

無事な右腕で殴り付けるが、コイツは意に介さず俺の腕から肉を齧り取った。

「ぅがァ!?クソ!クソが!殺す!殺してやるッ!殺してやるッ殺してやるッ殺してやるッ殺してやるゥアァァアァァ!」

また大きく口を開く。それを見て、世界が酷く減速した。

全てがノロノロと動き、思考だけが高速で空回りを続ける。間も無く再びやってくるであろう絶望的な激痛を前に、俺は生きるか死ぬかの賭けに出る。

「このッ!クソッタレがァァァァッ!!」

馬乗りになっている怪人の股下から無理矢理下腹部に膝を差し込み、更に大きく開いた口へと拳を叩き込んだ。

『ぁごェっ!?』

「ぅりぇあぁァァァァァァッッッッ!!」

拳を無理矢理押し込み、怯んだ所で腹を蹴り飛ばす。吹っ飛んだ怪人を睨みながら、左脚だけで何とか立ち上がった。

「俺の身体も、魂も、血の一滴までも!お前に喰わせてやるモンはねぇんだよォ!そんなに喰いてぇならなァ━━━━

 

━━━━これでも、喰らってろやァ!!」

 

(NOサイド)

 

━ドゴンッ━

 

「んべっ!?」

重量物の落下が発する騒音。ベッドから転げ落ちた物体は、痛みに呻きながら眼を開けた。

「・・・夢?」

コウは呆けたように呟き、頭に手を当てる。5秒程じっくり固まった後、慌てたように身体を擦り、叩き始めた。

「ッ・・・あ、あぁ、うん。そうだよな。確り肉付いてるわ、うん」

夢で怪人に穿たれた右脚、そして喰い千切られた腕の肉。その欠損が無い事を確信し、ホッと溜め息を溢す。

「・・・って、うっわ脂汗でギットギト・・・ま、あんな夢見て寝小便垂れなかっただけ上等かな」

乾いた笑いを漏らしつつ、コウは頭を掻きながら部屋を出る。

「おや」

「おっ・・・おぉぉぉぉぉ!?」

扉を開けた先に居た人物と、バッチリとかち合ってしまうコウ。その異質な容姿に、コウは素頓狂な声を上げた。

ブラウンのトレンチコートを着て、右手にステッキを、左手に男性の背面写真を抱えた大柄な男。しかし、その頭部は無く。黒い靄が立ち上っている。

「申し訳有りません、驚かせてしまいましたか」

胸に抱えられた写真、その中から声が響く。穏和な印象を与える口調と声だ。

「お、おう・・・いやまぁ、こっちも悪かったな、急に叫んで」

「いえいえ、お気になさらないで下さい。我々は少々、奇異な容姿をしております。その様な反応をされる方が当然かと」

「そういうこったぁ!」

「ぅおうビックリしたァ」

大音量の肯定。それは身体の方から発せられたようである。一瞬「喉がないのにどうやって喋ってんだ?」と疑問に思うコウであったが、自分のような埒外の存在がいる世界で考えるだけ無駄かと早々に切り捨てた。

「えーっと、黒服の・・・ゲマトリアだっけ、のお仲間さん?」

「えぇ、その通りです。私はゴルコンダ、此方はデカルコマニー。動けない私の肉体を代行してくれています」

「そういうこったぁ!」

「あ、成る程。デカルコマニーさんはそれしか言わないのね」

「まぁそういうこったぁ!」

語彙が2種類しか無いデカルコマニーのキャラクター性を理解し、納得するコウ。しかし、直ぐに部屋を出た目的を思い出す。

「あー、悪いんだけどさ。トイレと洗面所、あと出来ればシャワーとか風呂の場所教えてくんない?ちょっと夢見が悪くてさ、汗流してサッパリしたいんだわ」

「勿論です。トイレはこの先、突き当たりを右手に。シャワー室はその扉の向かいにあります。着替えやタオル等が必要であれば、此方で見繕って持っていきますが?」

「良いのかい?悪いねぇ何から何まで。ありがとう、ゴルコンダさん」

「我々に付いては、呼び捨てでも構いませんよ。では、ごゆっくり」

「そういうこったぁ!」

奇妙な2人組と別れ、コウはシャワー室へと向かった。

 

(コウサイド)

 

「ふぃ~、サッパリした」

用意されたジャージに袖を通し、若干湿り気を残す髪を撫で上げながら、昨日の円卓の部屋に入る。そこには、黒服とさっきの2人組(?)、そしてもう1人・・・と数えれば良いか分からない風貌だが、メンバーがいる。タキシードを着こんだ、双頭のデッサン人形だ。

「お早うございます、叢雲コウさん。随分魘されていましたが、大丈夫ですか?」

「おう、腹の虫とちょいとばかし殺しあってただけさ。安心しろ、寝小便垂れなんて不名誉な渾名が付く結果にゃなってねぇ」

「それは何より。では、契約のすり合わせを・・・」

「おーっとその前に、そっちのお仲間さんも紹介した方が良いんじゃねぇの?ゴルコンダとデカルコマニーはさっき顔合わせしたが~そっちの~・・・何か、芸術分野にー一家言ありそうな彼もさ」

「ほう、其方、見所があるようだな」

ギュコギュコと身体を軋ませ、喜色を露にする人形。いやまぁ、デッサン人形って基本スケッチとかそう言うのに使うもんだし・・・

「それもそうですね。彼はマエストロ。我々ゲマトリアの一員です」

「ご紹介に預かった通り。私はマエストロだ。芸術への敬意を込めて、そう呼んでくれたまえ」

「了解。じゃあ改めて、契約の確認と行こうか。黒服は俺に何を望む?」

「そうですね。やはり、その恐怖と共存する異質な神秘の観測は外せません。定期的に戦闘を行って頂く必要がありますね」

「そいつは願ったり叶ったりだ。ただ、戦闘には報酬を用意して欲しい。自由に出来る金銭は懐に持っときたいんでね」

「構いません。報酬はモチベーションを向上させますからね。最低でも、1回の戦闘で10万円はお約束しましょう」

「強いの倒したらボーナスとか付けてくれよな。此方からは、取り敢えず衣食住の保証。あと、どうにも射撃武器と致命的に相性が悪いらしいからそれも調べたい。出来るなら近接武器も欲しいんだが、まぁ無理だとしても何とかなるかな。それから、私用と仕事用で2つは通信デバイスが欲しいんだが・・・ここら辺はどうだい?」

「衣食住はきっちりと保証させて頂きます。武器についても、出来る限り貴方のご希望に添うよう努力致しますのでご安心を。通信手段は、携帯電話で宜しいですか?」

「出来れば片方スマホ、片方ガラケーが望ましいな。じゃあ、続いて俺のメモリやドライバーの解析に付いてだ」

メモリとドライバーを出現させ、メモリは卓上に置いて見せる。

「基本、解析に付いては好きにすると良い。コピー出来るならしてくれて結構。だがその進捗を必ず俺に共有する事、作業過程で無関係の生徒、及び市民を巻き込まない事、成果物を俺の許可無しに他者に売却しない事が条件だ」

「クククッ、中々に厳重な警戒ですね。しかし、あの戦闘能力をこのサイズのガジェットで引き出せるのは破格です。当然でしょう」

「ご理解頂けて嬉しいよ。何より、使い方間違えたら麻薬だからな。只でさえ危険なのに、よりによって学園都市にばら蒔くワケにゃ行かねぇ。後は、そうだな。契約書等を作成する場合、原則白紙に黒文字、その他視認性を極力良くする事。また書面上では文字の最低サイズは4mmとし、それ未満の文字は効力を持たないものとする事。まぁこんなとこか。俺は基本的に黒服は嘘を吐かないだけの詐欺師だと思ってるからな。都合が良ければ誤解を訂正しない、ならば誤解の原因を少しでも減らす」

「黒服に対して辛辣ですね。まぁ、妥当な評価でしょうか」

「そういうこったぁ!」

デカルコマニーが差し出してくれたコップの水で唇を湿らせつつ、他には何か無いものかと考える・・・オイ黒服、何だその若干不服そうな眼は。お前とゴルデカじゃ第一印象の好感度が違うんだよ、大人しく受け入れろ。

「私からも良いだろうか。其方が拘ると言う、《仮面ライダー》とやら。その意味について、説明を要求する」

「ん、じゃあ契約についてはここまでとして、仮面ライダーについてのお話と洒落込もうか」

内心、少しばかりウキウキしてしまう。声のトーンが上がったのが、自分でも分かってしまうぐらいに。エピソード記憶が吹っ飛ぶ前は、相当なライダーファンだったんだろうな。

「あー、まず大前提として、俺は仮面ライダーの全てを網羅してるワケじゃない。特に原点は設定しか知らない所ばっかりだ。だが、それでも一貫したテーマはある。そう言うのも話して行こう」

円卓とセットに備えられた椅子に腰掛け、脚を組む。コップの水をもう一度飲むと、デカルコマニーが継ぎ足してくれた。気を利かせられる人だな。

軽く手を上げて感謝を伝えつつ、湿らせた唇を開く。

「まず、仮面ライダーとは漫画を原作とした特撮ドラマのタイトル、及び作中に登場するヒーローの総称だ」

「ほう、ヒーロー・・・英雄の称号か」

「大元の1人は、世界征服を目論む悪の秘密結社ショッカーによって、飛蝗の機能と原子炉を組み込まれた改造人間。しかし洗脳される前に脱出し、以来ショッカーが差し向けてくる怪人を倒し、自分のような悲劇の被害者を生まない為に戦う戦士だ。

飛蝗の顔をモデルにした仮面・・・まぁフルフェイスヘルメットだがな。それを被り、バイクに乗って駆け付ける。だから仮面ライダーさ」

「外形の記号をそのまま名前として定着させる・・・そう言う面では、黒服も同じ命名ですね」

「そういうこったぁ!」

「ま、根っこに子供向けってのがあるからな。覚えやすい方が良いのさ。で、こっからはそのテーマについてだな。

仮面ライダーの根底にある概念として、《同族殺し》ってのがある。既に多数の派生シリーズを持つ仮面ライダーだが、一貫して《ライダーは敵と同源同質の力で戦う》と言う設定がある。毒を以て、ってやつだ。そしてもう1つ、戦わなければならない悲しみの涙を隠す仮面。そしてその仮面には、涙を象った造形が入れられる。まぁ例外はあるっちゃあるが、大体そうだ。

仮面ライダーには、大まかに4つのシステムタイプが存在する。初代宜しくな改造人間タイプ。生体装甲で身体を覆う肉体変質タイプ。素の人間、もしくは何らかの素質を持つ人間を強化外骨格で覆う装着タイプ。そしてこれら2つ以上が混ざった複合タイプだ。俺のガイアメモリ型は、肉体変質タイプだな」

つらつらと上げていく要素に、全員が興味深そうに聞き入る。情報をそれぞれで咀嚼し、解釈しようとしているんだろう。

「ただ、仮面ライダー全員がヒーローってワケじゃ無い。中には我欲の為に他人を殺したり*1、何なら闘争と殺し合いが目的で戦うライダーなんてのも居る*2。そう言った奴らはダークライダーと大雑把に分類されるな。後は、出力を下げてシステムを簡略化させる事で数を揃える量産型ライダーなんて概念もある」

「ふむ。良くも悪くも、その力の所有者の振る舞い次第、と言う事だな」

「そうそう。環境のストレスや仲間との死別なんかが原因で闇堕ちしたり、逆に社会に敵対していたけど後々仲間になる光堕ちって現象も良くある」

「その辺りは、流動的な人間らしいですね」

「そういうこったぁ!」

理解が早くて助かるな。

「後はそうだな。1シリーズ1年で毎年新しいのが出てくるんだが、まぁモチーフと設定の凝ってる事よ。毎度毎度、そんなモチーフがあったか~と驚かされる。見た目は一見ダサくても、動けばめちゃくちゃに格好いい、なんてのもしょっちゅうだしな。

面白いものだと、不死身の怪物を封印したトランプから力を抽出して戦ったり、穢れ祓いの神楽としての演奏術を戦闘に取り込んで楽器で戦ったりな」

「音楽で戦う?それは、興味深い・・・後で良い、是非とも詳しく教えてくれたまえ」

「私としても、新たな記号と解釈を得られそうです。是非ともご教授の程を・・・!」

「そういうこったぁ!」

「ウンウン、食い付きがすごいねぇ、布教する側としても嬉しい限り」

かなり興味津々で詰め寄ってくる3人にニヤニヤしつつ、ふと黒服を見ると何やら顎に手を当ててブツブツ呟いている。何だろう、あっちもインスピレーションが湧いたかな?

「・・・そう言う事ですか、理解しました」

「何を?」

「貴方の神秘です」

「神秘?」

そう言えば何か言ってたな、神秘だの恐怖だの。結局何なんだ?

「貴方の肉体、それを維持するテクスチャは既に剥がれ、恐怖へと反転している筈の状態。しかしそこに新たなテクスチャ、即ち《仮面ライダーの仮面》が覆い被さった。話を聞く限り、仮面ライダーは恐怖から生まれ、恐怖の力を宿し、しかしながら恐怖から人々を守らんとする英雄・・・違いますか?」

「まぁ合ってるけど」

「つまり!仮面ライダーと言う神秘は、強大な恐怖、その表出と現界をテクストとして発生する、稀有なテクスチャなのです!」

「・・・あー、ちょっと待って。頭ん中で用語を整理する」

恐怖と神秘か。これはまぁ、恐怖が人々に災いをもたらすモノ、神秘は・・・守護?いや恩恵?まぁそんな所か。で、テクスチャってヤツ。字面的にも文脈的にも、本来の意味を隠して上から別のモノを表出させる蓋みたいな意味だと思えば・・・つかアレか?ガイアメモリによるドーパントへの変身そのものだと思えば良いか?テクストが生身でテクスチャがメモリと・・・あ、何か一気に腑に落ちたわ。

「えーっと、恐怖ってのは人間にマイナス効果を与える性質、神秘はその逆って感じで認識すれば良いか?」

「概ねその通りです。厳密には、その概念に付随する弊害や損害への信仰が恐怖となり、神秘とは恩恵への信仰から生まれる。少なくとも、我々の根本的な解釈はそうなっています」

「で、テクストってのがその大元その物。テクスチャってのはその信仰が生み出す追加ソフトみたいな感じで、外見や性質、挙動なんかに影響を与える、みたいな?」

「そちらもその認識で問題無いかと」

「うん、ものの見事に哲学兵装だな。ガイアメモリ筆頭に。このメモリ自体には恐怖と神秘がデータとして詰まってて、直挿しすれば恐怖が表出してドーパントに、ドライバーを噛ませば反転して仮面ライダーに、まぁそんな具合か。まぁそこまでシンプルでは無さそうだが、大まかにはこんな解釈で良いだろ」

「黒服、此奴の飲み込みは眼を見張るものがあるぞ」

「大枚を叩いた甲斐がありましたか。では、今日の予定を・・・」

 

━ぐぅ~きゅるるる━

 

「「「「・・・・・・」」」」

突然鳴り響く腹の虫。そんなものを飼っているのは、恐らくここには1人しか居ない訳で・・・

「うぐぉおっ!?」

意識を向けた途端、腹の底から沸き上がる焼け付くような飢餓感。思わず跪き、クラクラとする頭を何とか据わらせる。

「ご、ゴメン、今し方気付いた・・・尋常じゃないぐらい、腹減ってる・・・!」

「まぁ、それは見れば分かりますね。致し方在りません。朝食と致しましょうか。残念ながら、現状ここには食材がありませんので・・・レストランで宜しいですか?全額私持ちです」

「うん・・・お願い・・・します・・・」

どうにも耐え難い空腹。それに意識が若干飛びそうになりながら、黒服に肩を借りて歩き出す。

余りの情け無さに泣きそうになりながら、俺は昨日と同じ車に乗せられた。

 

To be continued・・・

*1
例:シザース等

*2
王蛇




~キャラクター紹介~

・叢雲コウ
ゲマトリア所属の実験動物兼情報提供者となった。
新しい情報と既存の情報の紐付け式理解により、概念的な話は呑み込みが早い。しかし、そう言う話に熱が入り過ぎると三大欲求を軽く蹴っ飛ばしてしまう。
夢の中で蝗害怪人に殺されかけた。恐怖心が一瞬で振り切れて殺意に転換しなければ色々とヤバかった。

・黒服
形式上、コウの保護者になる。
コウからは第一印象の影響で不信がられており、それに対して多少ショックを受けていたりする。しかし取れるデータに興味が尽きないので、契約内容に関してはゲロ甘である。

・蝗害怪人
コウの内に潜む怪物。
長いこと抑圧されていざ娑婆に出られると思えば、横から入り込んできたコウ(新)にまた押し込められて大変ご機嫌斜め。
太股を貫いたのは、産卵時に固まった地面を容易くぶち抜く固く鋭い腹部の先端。追撃の噛み付きで心を折れていた場合主導権を奪えていた。

・ゴルコンダ&デカルコマニー
ゲマトリアの中では社交的な奴ら。
ゴルコンダは紳士的かつ気配りが出来、それをデカルコマニーが代行する。
世界を視覚情報だけでなく、それらに含まれるメタファ、裏の意味やモチーフ等と紐付けて文学的に解釈すると言う世界観で生きており、ガイアメモリ筆頭に一部ライダーのシステムと相性が良い。

・マエストロ
芸術家な人形。ゲマトリアの中では気難しいタイプ。
神秘に対しては、己の独自解釈とその表現の出力を楽しむスタンスであり、またその始まりとして模写、模倣を行う。
音楽を戦闘に組み込むと言うテーマに強い興味を抱いた様子。
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