(コウサイド)
「以上が、事の顛末だ」
「そう。ご苦労だったわね」
ミレニアムにて、依頼の達成を報告した。
結局、マネーとのギャンブル対決はボロカスに負けた。だが俺の恐怖とその反転相たる神秘は、小さなコイン1枚には収まり切らず破裂。狙い通りに対価を踏み倒し、俺はそのまま右手でブクブクに肥えた腹をカッ捌いてからボロ雑巾のように殴り潰した訳だ。その結果として、マネーメモリと更にもう1つ、使われる予定の無かった最高級景品はブレイクする事無く
「証拠品の提出も、期待以上の結果を達成。そこも加味して、成功報酬を振り込むわ」
「あ~、ちょっと待ってくれや
淡々とコンソールを開く
「え~っとな。実は今回、お前から貰った軍資金で丸儲け処かボロ勝ちしてな?大体1億ぐらいに膨れ上がったんだわ」
「そう。良かったじゃない。それがどうかしたの?」
「いや、うちのお財布事情を管理してんのシュラウドだろ?そのシュラウドが・・・金額見た途端、白眼剥いて倒れちまったんだよ」
「・・・?」
あ、ダメだ。理解してねぇ。寧ろ「1億程度なんてそんな珍しい額でも無いでしょう?」って本気で思ってる顔してやがる。
「あのな、リオちゃんや。ハードウェアを本格的に開発するお前さんとか、他にも例えばエンジニア部の奴等とかなら、億単位の予算を使う事もザラかも知れんがな?シュラウドはそう言う所に所属した経験無ぇんだよ。所謂フツーの金銭感覚持ってる訳。その感覚だと億単位って果てしない大金だからな?」
「そうなのね。分かったわ。それで、報酬と何の関係があるのかしら?」
「頼む、安めにしてくれ!このままじゃシュラウドが寝込む!」
全くちゃんちゃら可笑しな頼みだよ。依頼人に報酬料金を値切る下請けなんて前代未聞なんじゃねぇの?
「・・・あなたが望むなら、構わないのだけれど」
「済まんな、変なこと頼んじまって」
「貴方は依頼を完遂したわ。ならば、その報酬に要求を通す権利が貴方にはある。それだけよ」
「そりゃどうも。ただそう言う時は、どういたしましてって言っとく方が丸いぜ?頼み聞いて貰った立場で言うのは何だけど・・・その突っ慳貪な態度は、心遣いも受け取って貰えねぇよ?」
「・・・ごめんなさい。善処しているつもりなのだけど・・・」
「いやまぁ、俺の前ではそんな気を張らんでも良いっちゃ良いがね」
気まずそうに視線を逸らすリオに、ヒラヒラと手を振って見せる。
リオはどうにも愛想が悪く、相手の感情に対応するのが苦手な節があるからな。慣れが無いと反感を抱く。だが、根っこは他人を思いやれる優しい子だ。ドライブのチェイスとかエグゼイドの光医者を知っている身からすれば、割と関わり易い方だった。
「・・・話は変わるのだけれど、今回の鹵獲品。これのお陰で、メモリの複製については上手く行きそうよ。ただ、出来れば幾つか貴方のメモリのサンプルを提供して欲しいの。規格に合わせる為に・・・勿論、終了後に返却すると約束するわ」
「おう、良いぜ」
懐からメモリを取り出し、机に並べる。メタル、トリガー。今回頼んでるヤツに比較的近い性能の奴らだ。
「トリガーは兎も角、メタルは結構便利だからな。早めに済ませてくれると助かる」
「了解したわ。遅くとも明日には仕上がる筈よ」
「頼んだぜ、リオ。事が済んだら、飯食いに行こう。旨いラーメン屋、連れてってやるよ」
「食事・・・そうね。楽しみにしているわ」
「ハハ、そうやって素直に誘いに乗れるようになった分、お前も成長してるな」
「そう、なのかしら・・・そう言って貰えると、嬉しいわ」
小さく微笑むリオに笑い返して、俺はブリーフィングルームを後にした。
さてと、リオには何を勧めるかね。アイツあの成りで結構油もの食えるからな・・・
(NOサイド)
「よっ、白石」
「やぁ、良く来たね」
ミレニアムの校舎の一廓。天井が高く広い工房にて、その主がコウを歓迎する。
白石ウタハ。ロマンに生きる発明家であり、エンジニア部と言う1つの集団を束ねる長でもある。
「モアとリエも、久し振り」
「お久し振りです!」「お元気そうで何よりです」
コウの後ろに付き従っていた部下2人も、ニッコリと笑って挨拶に応じた。
「じゃあ、コイツを頼む」
「うむ。任せたまえ」
ホルスターからコンテンダーを引き抜き、ウタハに渡すコウ。今回の目的の1つは、新たな愛銃のカスタムである。
「俺の新しい愛銃、《ブラックライダー》だ。今回はコイツに手を加えて、銃身の脱着をネジ固定じゃ無くスイッチロック式に変更してくれ。それと至近距離でしか使わないから、サイトも取っ払って欲しい。どれぐらいで出来る?」
「フフフ、我々エンジニア部への最適な質問だ。そうだね、そこまで大掛かりな改造じゃ無いから、30分から遅くとも40分と言った所だろう。期待してくれたまえ」
「頼んだ。あぁ、そうそう、俺がオーダーした以外の加工はしなくて良いからな?」
「はぁ・・・あぁ、理解しているとも。何ともロマンに欠けるが・・・合金の装甲板を貫く
「おう。物分かりが宜しい」
「ご、合金の装甲板?」
「ボスあんた何したの?」
「エンジニア部と新素材開発部の合作、特殊装甲板の剛性テストを依頼されてな。ホッパーキックでぶち抜いた」
「素のパンチの時点で凹ませていただろう?」
ウタハは肩を竦めて笑って見せるが、その表情はかなり引き攣っている。余程の自信作だったのだろう。
「あれしきで凹むような腑抜けた装甲板に問題がある。たった30tだぞ?」
「流石、素手で装甲車のハッチをシールみたいにひっぺがす人は言う事が違いますわね」
「一応、対物ライフル弾でも貫通できなかった素材なんだが・・・」
「何か前にシェルターの水密扉もぶち抜いたとか言ってなかったっけ」
「ハイハイ、この話はもう良いから。訓練始めるぞ~」
虫を払うように手を振り、コウは工房奥の扉を開いた。モアとリエはお互いに顔を見合せ、肩を竦めながら扉を潜る。
その部屋は、エンジニア部が新製品の試運転を行う為の高耐久実験室。自爆機構とBluetoothとロマンとその他諸々をこよなく愛する彼女らの力作に耐えられるよう、規格外戦力が中で暴れる前提の耐久力となっている。尚、その強度検証に協力したのはミレニアムトップの単一規格外戦力、及びローザストの2人。
『じゃあ、ウォームアップからだ。白石、キューブ100投入』
「了解だ」
コウの注文に従い、ウタハはコントロールパネルを操作。すると実験室の床の一部がガシャンと競り上がり、四角い小型ロボ、スイーパーの群れが投入された。可愛らしいデザインの身体でトテトテと駆け寄って来る様は、とても脅威的には見えないだろう。
ハグをせがむように前方に伸ばした腕の間に、バチバチと放電が迸ってさえいなければ。
「じゃ、いつも通りに!」
「互いの死角は互いで埋める!」
モアとリエは背中合わせになり、それぞれ構えを取る。全方位から迫る物量の津波に、2人は躊躇い無く引き金を引いた。
━━━
━━
━
”ほえ~、ここがエンジニア部かぁ”
「先生も初めてでしょ?ここの人達に顔が利くと便利だよ~♪」
エンジニア部を訪れて呟く先生に、猫耳ヘッドホンが特徴の生徒、才羽モモイがニヒヒと笑う。その後ろに付いて、モモイの双子の妹であるミドリと、長い藍色の髪が特徴の少女、天童アリスが工房に入室した。
「おや、ゲーム開発部じゃないか。そして・・・貴方が、噂の先生だね?」
”あら、噂になってんの?いやはや何か恥ずかしいなぁ。あ、アポ無しでごめんネ?”
「構わないとも。この子達は大体そうだからね」
予期せぬ客人を、ウタハは微笑みながら迎える。先生は頭を掻きながら、差し出された握手に応じた。
「して、今日は何用かな?ボスエネミーの動きを再現するロボットは、この前改良型が出来たよ?」
「ううん、今日はそれじゃなくて・・・」
”え、何作ってンの君等?”
サラリと語られた中々にヤバい発明品に、先生は思わず眉を顰める。そんな自分を余所に何でも無いかのように笑っている2人を見て、キヴォトスでは珍しくも無いのかと何とか呑み込んだ。
「それでね先輩!新しい部員のアリスなんだけど、ちょっと訳アリでさ。自分の武器を持ってなくて・・・何か良いもの無い?」
「成る程、新たな仲間へのプレゼントか・・・ならば、此処に来たのは素晴らしい選択だね」
より深い笑みを浮かべ、ウタハが工房を案内し始める。
「そっちの方に、私達が色々と作った試作品が置いてあるよ。そこに置いてあるものであれば、自由に持って行ってくれて構わない。無論、メンテナンス等のアフターサービスも充実しているから心配はいらないよ」
「やった!ありがとう先輩!」
”おぉ~。何とも太っ腹~”
「技術とは、人に役立って初めて報われるものだ。マイスターとして、協力は惜しまないよ」
”へぇ、技術屋の鏡だねぇ”
先生が腕を組み感心している間に、エンジニア部の1年、ボーダーコリーの耳と尻尾が特徴の猫塚ヒビキが案内を引き継ぎ、武器を宛がい始めた。
渡されたのは、プラスチックフレームの拳銃。銃火器の扱いに乏しいであろうアリスへの配慮である。戦闘経験の不足については、ゲームでの経験を根底としてアリスに否定されたが・・・
「兎に角、銃を扱った経験は無さそう・・・なら、やっぱり拳銃だね。重くなくて、取り回しやすいし、反動も少なくて、弾薬費も控え目。何より・・・この拳銃には、今までのモデルには無い画期的な新機能が搭載されているんだよ」
「へぇ!凄そう・・・その機能とは!?」
興味津々な様子で問うモモイに、ヒビキは得意気に答えた。
「Bluetooth機能、だよ」
「「・・・え?」」
呆気に取られる才羽姉妹を余所に、ヒビキは搭載された機能の数々を説明し始める。
Bluetoothを通じた音楽鑑賞やデータファイルの転送、更に改札やコンビニでのキャッシュレス決済にも対応等々。
「そ、れは・・・」
口許を引き攣らせ、ミドリはモモイとアイコンタクトを交わす。この瞬間、2人の脳内で全く同じ結論が弾き出された。
((絶対銃に付けなくて良い!))
実際、Bluetoothや決済機能が付いた拳銃は前例が無いだろう。しかしそれは出来なかったからでは無く、必要が無かったから作られなかっただけである。
技術屋として、そう言った常識を打ち壊せる事は有用な才能だが・・・ヒビキの眼は、これでもかと輝いている。腹の底から、本気で「画期的でクールな組み合わせ」と信じて疑っていない。その認識のズレもまた、ミレニアムらしさではあるのだが。
「支払いはこれで、なんて言って銃向けたら強盗に・・・あれ?これは?」
思考がようやく追い付き突っ込みを入れようとした矢先、モモイの眼に大型の拳銃が留まる。言わずもがな、コウのコンテンダー・アンコール、ブラックライダーである。
「あぁ、これはお得意様からの依頼品だね。銃身をスイッチロック式で2交換出来るようにして欲しいっていうのと、照準器を外してくれって言う改造依頼だよ。完成したからそこに置いてたんだ」
「へぇ~・・・これ、いつ頃取りに来るの?」
「多分もうすぐ。と言うか、彼処にいるから」
「あそこ?」
ヒビキが指差した工房の一角、実験室。モモイとミドリは備え付けられた窓から、中を覗き込んだ。
繰り広げられる弾幕の嵐。前後から、左右から、攻撃者側は常にその立ち位置を変えながら、中央にいる目標を撃ち続ける。眼にも留まらぬ高速機動の中で、《二重のヘイロー》が2組、残像を引いていた。
「な、何あれ!?」
「速すぎて、眼で追えない・・・!」
「けど・・・真ん中の人、あれ全部・・・
モモイは重ねて絶句する。四方八方からの集中射撃。並の腕前、否、多少の実力者であろうが、そんなものに囲まれては反撃処かマトモに動く事すら出来ないだろう。しかしその挟み撃ちに曝されているローザスト本人は、抜き放った刀で、鋼鉄仕込みの鞘で、防弾コートで、自前の生体装甲で、更に左腕の大降りなガントレットで。切り落とし、弾き、受け流し、受け止め、バイタルゾーンへのダメージを最小限に留めて捌き切っている。
「な、何あれ・・・!?」
「凄い、動き・・・!」
「熱が入ってるね」
微笑みながら、ヒビキは部屋の耐久度を確認する。ダメージレベルはグリーン。問題は無い。
「あれ?」
ヒビキの困惑。原因は、ローザストの納刀。訓練終了にしては、未だに銃撃が止んでいない。その違和感が、彼女を釘付けにする。
アリスが何かを見付け、他のメンバーがまた何かを話しているが、その声も遠い。そんなヒビキの凝視を余所に、ローザストは左手をコートの裾に差し込んだ。
「あれは・・・?」
取り出されたのは、ヒビキにとって見覚えの無い物。紫色の、六角形のクリスタルのような物体。
ローザストは、それを握る手に力を込める。すると、ガントレットの隙間から赤いエネルギーが漏れ出し、拳の中へと流れ込み始めた。
「あれは、一体・・・まさか!?」
「光よ!」
━ズドガァァァンッ!!━
瞬間、重なる2つの轟音。1つは、実験室の中。もう1つは、アリスが抱えた巨大なレールガン、光の剣:スーパーノヴァが部室の天井をぶち抜いた音である。
「あ、あわわ・・・て、天井がぁ・・・!?」
コトリがワタワタと慌てふためき、ウタハは茫然とする。
スーパーノヴァは、本体の基礎重量だけで140kg。更にバッテリー等のアタッチメントを装着した上で発射すれば、瞬間的な反動は200kgを超える、正に大砲。それを小柄な少女が容易く持ち上げ、誤作動と言う不意打ちであるにも関わらずその衝撃を完全に抑え込んで見せたのだ。
埒外。少なくとも中型クレーンを使わねば扱えないそれを、容易く制御する化物。アリスと言う存在は、ウタハの技術者魂をゾクゾクと擽った。
「おい!何が・・・うわ、随分と日当たりが良く・・・」
気絶した部下2人を担いで実験室から飛び出し、絶句するローザスト。降り注ぐ日光を余す事無く取り込む、文字通りの青天井。数秒の現実逃避の後、彼女は漸く頭脳の再起動を果たした。
「おいおい白石、こりゃどういうこった?発明品が日照権寄越せって訴訟でもしてきたか?」
”やっほ~、イナホ”
「先生、居たのか」
”ヤな予感がしたから伏せてた。正解だったネ”
「おう、100点」
先生の危機感知に親指を立て、取り敢えずと担いでいた2人を下ろす。先程の攻撃・・・神名の欠片を用いた変質攻撃によって、ものの見事に気絶したのだ。しかし、その割には外傷は極めて軽微。ガイアメモリのエネルギー特有の、無慈悲な殺傷性は鳴りを潜めている。
「アリス、この武器を装備します!」
「ん?あの子は新顔だな・・・待て、持ってるのスーパーノヴァだよな?おい白石!遂に勇者が現れたってか!?」
アリスを見遣り、驚きを隠せずウタハに問い掛けるローザスト。この工房との交流はそれなりに濃い彼女は、置物と化していた規格外のレールガンがどういう代物であるかを知っている。変身した自分の膂力を以てしても射撃反動を抑えきれなかったじゃじゃ馬を平然と持ち上げ、発射後に何の問題も無く持ち続けている少女を目の当たりにして、驚くなと言う方が無理な話である。
「も、モンスターが飛び出して来ました!アリス知ってます!勇者の剣を手に入れれば、新たな試練が立ち塞がるものだと!」
「おわっちょ!?待て!待て待てて!」
”ストップストップ!この人は敵じゃないよ!”
躊躇無くスーパーノヴァを向けて来るアリスに、ローザストは慌ててホールドアップする。先生からの制止もあり、アリスはすぐに銃口を下ろした。
「ったく、清々しいまでのゲーム脳・・・何だ?あの子はゲームで義務教育修了したのか?」
”アハハ~・・・まぁ、そんなとこ”
「そんな事ある!?」
”イヤイヤ、チョット訳アリってヤツ?”
「アンタどんだけ面倒事に巻き込まれんだよ・・・」
”マっ、しょーがないよね。何せ先生デスから”
「んぎっ、あ~イッタタタ・・・ボス、何騒いでんの?」
「騒がしいですね・・・」
「おっ、起きた」
先生とローザストが漫才染みた問答をしている間に、モアとリエが眼を覚ます。2人は身体の具合を確かめつつ、呻きながら立ち上がった。
”あ、そう言えばこの前会ったね”
「あっ、先生だっけ。この前はごめんね、さっさと帰っちゃって」
「ご挨拶も出来ず、大変失礼致しました」
”あーいいのいいの。此方としては救援に来てくれただけで充分嬉しかったからサ。じゃあ改めて、君達は?”
「っと、そうだね。じゃあ名乗ろっか」
服に着いた埃を払い、モアが1歩前に出る。リエもそれに倣って横に並び、モアは紳士風の、リエはカーテシーの一礼を執った。
「万事蝗屋戦闘員、亜門モア!ゲヘナの2年生!宜しくね、先生!」
「同じく万事蝗屋戦闘員、科加部リエ。トリニティ総合学園2年生です。今後とも、宜しくお願い致します」
”此方こそ、どーぞ宜しくネ!”
「おぉ・・・パンパカパ~ン!モアとリエが、先生の仲間に加わった!」
「おぅっ、何なに!?」
”あぁ、この子はアリス。ちょっと諸事情あって、語彙がレトロゲーに偏ってるんだ”
「あ~・・・成る程、そういう感じね。じゃあ、私は踊り子とかになるのかな?私の動きってワルツベースだし」
「じゃあ俺は・・・サムライ、にしては刀に拘らねぇし・・・一番近いのは殴り
「バーサーカーじゃね?」
「うーん否定出来ない」
「私はどうなるんですの?」
「ガン=カタマスター」
「ガンスリンガー」
「えっ、RPGってもっとファンタジーな感じじゃありませんの?」
「ファンタジー系のRPGにも、ガンスリンガーはいます!口の悪いタビット族は、様々な弾丸を駆使して戦うリボルバー使いでした!」
「おっ、そのゲームの小説持ってるよ!今度読んでみる?」
「おぉ!真実の書!」
共通の話題を見付け、モアはアリスと仲良く話し始める。それを2歩程引いて眺め、リエとローザストは感嘆を漏らした。
「・・・流石はモアさん。また人誑しを発揮してますわね」
「アイツのコミュ力すげェよな」
「そう言うボスは女誑しですが」
「何を言うか!?人聞き悪いな!」
「自覚無いんですかあなた」
ヤイヤイと言い合うローザストとリエ。そんな彼女達を微笑みながら眺めていたウタハは、パチンと柏手を打つ。
「さて、勇者アリス。光の剣:スーパーノヴァを持ち上げ、撃ち放った。それは紛れも無く、君がその武器を持つに値する資格を持つ者である証明だ。だが、君はまだそれを使い熟せてはいない。故に・・・アリス。君に試練を課そう」
「おぉ・・・!して、その試練とは!?」
アリスの琴線を擽る語彙を選びその気にさせるウタハに、アリスはキラキラと眼を輝かせた。ロマンに生きる者として、こう言った尺度の調整は得意分野である。
「ズバリ、さっきまでローザスト・・・あのバッタの人だね。彼女が入っていた実験室にて、随時投入されるドローンの群れを仲間と連携して倒す事だ。と、その前にヒビキ。使いやすいようグリップを調整して、スリングも着けてあげよう」
「了解。アリスちゃん、ちょっとこっちに持ってきて」
「はい!」
元気良く返事し、ヒビキの元に駆け寄るアリス。その体幹には僅かなブレも無く、光の剣の大質量をものともしていない。
「・・・で、だ。先生よ。アレ、何者だ?」
”あ~、やっぱ気になっちゃうよネ~・・・”
「あぁ。俺も純粋な筋力で主力戦車をちゃぶ台みたくひっくり返す奴*1や、乗用車を素手で走行不能なレベルにベコベコに出来る奴*2にはアテがある」
”それ人間?”
「恐ろしい事にな。だが、前者は納得感のある筋肉量があるし、後者に関しては体格平均よりちょいデカ目だ。だが・・・天童アリス。あいつは少々、質が違うように感じる」
「そうだね・・・私としても、只の生徒と認識するのは無理があるね」
”・・・まぁ、話すサ。その前に、彼女らがクエストをどう熟すか見とこうよ。それが君らにどう写るか・・・それを聞いてから、此方も話すから”
「そうか・・・分かった。じゃあ、一旦は様子見だな」
簡単な調整を終え、楽しげに実験室に駆け込むアリスと才羽姉妹。そんな彼女達が写るモニターを見下ろし、ローザストは腕を組んだ。
(コウサイド)
「・・・どうしたもんか」
リオのブリーフィングルームで、改造が済んだブラックライダーのブレイクアクション機構を手慰みに弄る。
モアとリエは先に帰らせた。「ボスって用事無い日とか無いの?」とか失礼な事言われたが、「お前等とコミカライズに割いてる日がそれだよ」と黙らせて。
情報を整理しよう。先生は今回、ゲーム開発部の廃部を回避する為に招集された。そして《G.Bible》なる胡散臭い万能神ゲーマニュアルとやらを求めてミレニアムの廃墟地区を探索中、廃墟内の施設が稼働。先生の生体認証によって封印区画が解放され、その先でアリスことAL-1Sを発見し、回収して今に至る・・・と。
「訳分からん」
何なんだマジで。情報にノイズが多過ぎるだろ・・・ただ、確実に重要であろうポイントは・・・
「先生の生体情報が登録されていた事、だろうな」
先生はまだキヴォトスに着任したばかり。それ以前の機器には、基本的に先生の生体情報なんざ登録のしようが無い筈だ。ましてや、不明な警備ロボなんかが練り歩いてる廃墟区画。彼処は確か、リオすら外部から干渉出来ない密閉領域だった筈。まぁ、それを利用して黒服が俺の訓練に使ってた訳だが・・・
兎も角として、あの廃墟群は危険区域指定され、
「・・・いや、1人いるな。出来かねないしやりかねないのが」
先生の生体情報を予め入手可能で、廃墟に干渉する権利も技術もありそうなバケモノ・・・
「連邦生徒会長絡み、か・・・」
今俺が持ってるピースを無理無く繋げれば、一番可能性が高いのはその辺だ。で、もしそうだとした場合、アリスの・・・ウタハの眼から見て戦闘用アンドロイドと結論付けられた、AL-1Sの正体と、その鍵を先生とした理由は・・・?
「破壊出来なかった、訳では無さそうだな。人間の可動域があるし、駆動部は弱点の筈。なのに、態々先生が干渉出来る状態で封印していた・・・しかし、先生には一切伝達されていない・・・ん~、何なんだこの動きは?まるで狙いが分からんぞ?」
多分、致命的にピースが足りないんだろうな。そんな気がする。前提条件が足りてない感じの混乱具合だ。
「・・・取り敢えず備忘録付けとくか」
「あら、何に関してかしら?」
「おう、ちょっとな」
流れるように部屋に入って来たリオの質問に、適当に返す。と言うか適当にならざるを得ない。何だよこの整合性が複雑骨折したみたいな状況証拠は。頭痛くなるわ。
「疲れが溜まっているなら、手早く済ませた方が良さそうね」
「おう、頼むわ。しっかし、何とも仕事が早い事だ。頭が下がるぜ」
「・・・褒めても何も出ないわ」
「おっ、良い返しが出来るようになったじゃねぇか」
「余り揶揄わないで頂戴・・・はい、お望みの成果よ」
懐から取り出したものを俺に手渡し、デスクに着くリオ。渡されたそれを照明に透かすように見遣り、スイッチを押した。
【ARMS!】
ライダーメモリ規格に改修された、アームズメモリ。アビドスで倒したドーパントのメモリと、今回の賭場から毟り取って来た景品。その両方からデータを抽出し、リオが再現したメモリのハードに注入した物だ。
「それと、ガイアメモリの
「ありがとな、何から何まで。さて、立て続けで悪いんだが・・・コイツを、454カスール弾規格の弾頭に圧縮加工出来るか?」
懐から神名のカケラを取り出し、投げ渡す。リオは取り落としそうになるも何とかキャッチし、少々抗議的な眼を此方に向けつつも手の中の物を見下ろした。
「これは・・・キヴォトス各地で見付かる、謎の結晶構造体ね。これで弾丸を?」
「あぁ。飛距離とかそう言うのは度外視して、兎に角銃から発射出来るようにして欲しい。出来るか?」
「・・・確かな事は言えないわ。やれるだけやってみるけれど・・・」
「いつも無茶振りして済まねぇな」
「・・・自覚があるなら、もう少し遠慮して欲しいわ」
「ゴメンな。気兼ね無く頼れる宛てがお前しか無いんだよ。なっ、この通り!」
合掌して頭を下げると、リオの溜め息が聞こえて来た。
「・・・別に、そこまで気を悪くした訳では無いわ。貴方のお陰で、有用な技術が得られているのは確かだもの」
「そいつは何よりだ。サンプルはこんだけあるから、使ってくれ」
持っているだけのカケラを全て、テーブルの上に取り出す。1つ1つは掌サイズだが、数が纏まっているので体積もそれなりだ。
「そう言えば、だ。リオ、お前はゲーム開発部について把握してるか?」
「・・・えぇ。
「やっぱりか。取り敢えず、お前から見てあの子は何だと思う?」
「・・・それについては、情報を整理して推論を導く必要があるわ。今すぐに回答する事は出来ない・・・明日には、私なりの仮説を立てておくわ」
「OK。じゃあ、これから飯に行かないか?旨いラーメン屋があるんだ」
「・・・そうね。今日の業務は終了しているし、お言葉に甘えようかしら」
「決まりだな。ヘルメットはあるか?無いなら俺の使え」
「必要かしら?」
「必要なのよ」
リオを背後に連れ、部屋を出る。丁度腹が減った。夜はこれからだな。
To be continued・・・
~キャラクター紹介~
・叢雲コウ
ミッションを遂行した飛蝗少女。
マネーとのギャンブル勝負には負けたが、ドーパントとしての、そして恐怖と神秘の格が月とすっぽん程違っていたので無理矢理踏み倒す。そこから暴力権を行使し、腹の金庫を抉り取って神秘のコインを回収。更にマネーメモリと裏景品であったアームズメモリも鹵獲した。
その報告後は事務所に戻り、戦利品の1つであるコンテンダー、《ブラックライダー》を調整する為にエンジニア部へ。作業の間にモアとリエのコンビネーション戦術と試合を行った。その際、神名のカケラにガイアフォースを流し込む事で性質を変化させる攻撃を試行。結果としては成功に終わる。
アリスのスーパーノヴァ暴発の衝撃に驚き実験室から飛び出した結果、危うく撃ち抜かれそうになった。
過去、エンジニア部と新素材開発部の合作である合金製特殊装甲板をホッパーキックでぶち抜いた事がある。
・調月リオ
コウのビジネスパートナー。
ハードウェア関係の開発に重点を置いている事もあり、現状唯一ガイアメモリを複製、改修、ドライバー関連のデバイスを開発する事が可能な生徒。無愛想且つ不器用なその気質は、コウ曰く「チェイスとかスナイプにそっくり」。その前提で認識しているので、関係は良好。
・白石ウタハ
ミレニアムの浪漫バカ筆頭。
コウとはそれなりに交流があり、何を隠そうメモリガジェットを複製したのは彼女達エンジニア部である。
元々は例の如く不要な機能満載にしようとしていたのだが、装甲板をぶち抜き切り裂いたローザストからニッコリ笑顔で圧を掛けられて断念。しかし、ローザストが積極的にデータを提供する事から関係は良好。
・亜門モア
人誑しなゲヘナ生。
リエと共にローザストとのガチ試合を行った。この際、本人のヘイローの上にリエのヘイローが重なって出現している。その後、新技の実験台にされた。
ゲームやファンタジー系の書籍にも明るく、アリスと瞬く間に打ち解けた。話のネタは某駄女神シリーズ。
・科加部リエ
ガン=カタマスターのトリニティ生。
コウに連れられミレニアムへ。2v1のコンビネーション訓練の最中、2人して新技の実験台にされた。戦闘中は本人のヘイローの上にモアのヘイローが重なって出現している。
お嬢様学校故か、余り娯楽には明るくない。モアとのデートで映画を見たり、事務所で漫画を読んだりはするようになった。
コウの無自覚女誑しには呆れて物も言えない。
・先生
ゲ開部のお供で出て来た先生。
パヴァーヌ1章に突入。この後また廃墟に行く事になる。
・ゲーム開発部
居ないと詰むトラブルメーカー。
原作通り、アリス回収からTSC脳破壊を経てエンジニア部に到着。その際ローザスト達の試合を目の当たりにした。モモイに何かヤバいインスピレーションが湧いてそう。
~アイテム紹介~
・マネーメモリ
カダス・フィーヴァーでの戦利品。土手っ腹を毟り取られた上でローザストからガヴ問答を投げ掛けられ、瞬時に心が折れて平伏し差し出された。
・ブラックライダー
戦利品。バカ威力の454カスール弾を標準弾薬とする浪漫砲。名前の由来は言わずもがな、黙示録の飢餓の騎士である。
前任のルインローカスト含め、コウの銃はかなりネガティブな名前である。
・アームズメモリ
戦利品ベースの改造品。
カダス・フィーヴァーで鹵獲し、リオが改修した事で、コウの汎用戦力に加わったメモリ。アビドスのアームズメモリも解析されていたが、完全復元は出来なかった。その解析データも使っており、改修は早く済んでいる。