相変異 黒蝗   作:エターナルドーパント

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羂索

「おうおう、こりゃあ多いな。満漢全席って所か」

射す日も陰るブラックマーケット。ビルの屋上からデンデンセンサーを覗き、ローザストは呆れたように呟く。

見抜いた先は、大型の廃倉庫。中に大量の熱源反応があり、相当多くの人員が集められている。

「良くやった。多分ビンゴだぜ」

「そいつァ何よりでさ、姐さん」

隣にいたオートマタの方をポンと叩く。そのオートマタは、魔猫のショウ傘下の構成員。周囲を隈無く探索し、この場所を割り出したのがこの構成員である。

「じゃ、少し静かになった後に大口径の単発が聞こえたら突入って事で」

「良いんですかい姐さん。アンタの強さを疑っちゃいねぇが、流石に1人ってのは・・・」

「おや、心配してくれる訳か?まぁ、使える手駒が減るのは惜しいわな」

「いや、そんな事は・・・」

「良いんだよ。ヤクザってのはそういう生き物だからな。だが安心しな。常に切り札は3枚は持っとくのが、俺の流儀だ」

そう言って、懐から取り出したマキシマムスロットを右腰に装着する。

「結局この前は使えなかったし、試運転にゃ丁度良い」

カチカチとボタンを叩いて具合を確かめながら、ほくそ笑むローザスト。そして懐から色違いのスタッグフォンを3台取り出し、疑似メモリを装填する。

【【【STAG】】】

「さぁ、行って来い!」

赤黒のデフォルトカラーと、白ベースに青、そして朱色に白。それぞれのスタッグフォンが飛び立ち、目標の建物へと向かった。

「妨害電波発射、5秒前。さぁ、綺麗に平らげてやるとしよう」

ペミカンを口に放り込んで笑い、ローザストは屋上から飛び降りた。

 

(コウサイド)

 

「さてと、今日はどんなパーティーなのかな」

仕込みを済ませて、工場の天窓から薄暗い中を見下ろす。集まっているのは、如何にもセールスマンと言った風貌・・・スーツを纏った、オートマタ共。10台近くの車で乗り入れ、リーダーとおぼしき1人から順番にアタッシュケースを受け取っている。あの中身はほぼ確実にガイアメモリだろう。

【LUNA!MAXIMUM DRIVE!】

「よっしゃ、準備ヨシ」

バットショットにルナメモリを装填。ライブモードで滞空させ、袖から蝗丸を引き抜きつつ足元をコンコンと確かめる。うん、問題無いな。

こんな事なら、ミレニアムでEMPグレネードでも仕入れておくべきだった、なんて内心で愚痴ってみる。まぁ、無い物ねだりをしても仕方無いが。

「あんま喰い応えも無さそうだけど・・・よーし、ライダー行きまーす」

 

━バリィンッ!━

 

「はいチーズ」

鞘の石突で天窓を、落ちる。そしてコートの裾で顔を庇うと同時、バットショットがシャッターを切った。

 

━バシャシャシャシャッ━

 

「うぎゃっ!?」「目が!?」「あぎゃっ!?」

ストロボが強烈に明滅し、何事かと見上げた不届き者共の網膜を真っ白に焼く。

顔面を押さえてパニクる連中の中央に着地。そこから右脚を踏み、軽くジャンプ。その勢いのまま右脚を上げ、正面にいた標的の胸を全体重を乗せて蹴り抜いた。

「がぉっ!?」

1つ。

続いて、上がった右脚を重心を落としながら思い切り後ろに引く。慣性も頼りに、膝立ちになった状態から左の踵を半円を描くように振り抜いて後方の敵の膝を打ち抜く。更に蝗丸の石突を地面に突き立て、崩れ落ちて下がった顎に左右スイッチで右踵を押し出す事で破城槌が如く叩き付ける。

「かぶっ!?」

2つ。3つ。

吹っ飛んだ敵が後ろの1人を巻き込んで壁に激突した。さながらビリヤードだな。

「くそッ!てめぇ!」

「おっと」

「ッカぉっ!?」

掴み掛かって来た奴の腕を前ステップで潜り抜け、逆に鳩尾に肘を打ち込む。そして崩れ落ちた頭を掴み、後頭部に手を掛けて引っ張りつつ顔面に膝を叩き込んだ。4つ。

「このっ!」

 

━ダパパパッ!━

 

「甘ェって」

背後からの銃撃。無論感知済み。天井の鉄骨まで跳躍し、そこから飛び掛かって踵落とし。咄嗟に受け止めようとした銃は容易く砕け、顔面に俺の踵が突き刺さる。5つ。

「脆い。混ぜ物多い粗悪品使うからだ」

「む、無理だ!逃げろ!逃げろォ!」

恐れを為して、有象無象共が工場の出入り口に向かって逃げ出した。俺を前に逃げるか・・・納得の行動であり、無駄な悪手だな。

「ヒッ!?な、何だアイツらは!?」

「こんな奴らがいるなんて、聞いて無いぞ!?」

工場の外には、俺が事前に召喚しておいたローザストのミメシス達が人垣を作っている。あぁ、怖かろうな。恐ろしかろうな。

「逃がさんぞ」

 

━ボギャッ━

 

「「がッ!?」」

左右2人。両手で肩をポンと叩き、そのまま首をひっ掴んで頭同士をぶつけ合わせる。6、7。

「くそッ!こうなったら・・・!」

COCKROACH(コックローチ)!】

「でぇいっ!」

「コックローチか。何ともまぁ似合いだな」

取り出したメモリを腕に突き立て、売人はゴキブリ怪人へと変貌を遂げた。全身にローブのように纏った無数の羽をカサカサと擦り合わせながら、此方に突貫。しかし正面からの突進程、いなしやすい攻撃も無い。

「ぐあっ!?ギャアァッ!?」

「騒ぐな喧しい。俺の前でドーパントになるってのはそう言う事だろうが」

右腕のガントレットで受け流しながら、同時にアームカッターで背中を切り裂いた。羽が何枚か切り落とされ呻くコックローチを、呆れ混じりに見下ろす。

「クッ、クソがっ!」

傷口を粘液で接着して何とか立ち直り、倉庫内を猛スピードで駆け回る。流石はゴキブリだ。常人では眼で追う事も出来ないだろう。だが、周囲をミメシスに囲まれた状況だ。俺が入った天窓を目指しても、そちらにもしっかり残してある。それはコイツも感知しているだろう。現に、俺を中心に周回して明らかに隙を伺っている。コイツ、ここで俺を落とす気だな。

「One Two、three・・・参式・・・」

「くたばれェェェ!」

「ホッパー、キック」

 

━ドパァンッ!━

 

「ぶぐえっ!?」

背後から飛び掛かって来たが、カブト式の回し蹴りで迎撃。側頭部に直撃した衝撃で吹っ飛んだコックローチは、脳震盪を起こしたのか立ち上がれないようだ。だが、もう少し念を入れておこう。

【CYCLONE!MAXIMUM DRIVE!】

マキシマムスロットにサイクロンを装填。周囲の気流をメチャクチャに乱しながら、その風圧を俺の右手に集める。

「うおっ、ぐあっ!?な、何だこれは!?」

「ゴキブリは尻にある尾葉で空気の流れや振動を感知する。お前は使い熟せてねぇみたいだがな。

ゴキブリの特性を持ってれば、平衡感覚が麻痺しても気流で空間を把握出来れば高速で匍匐前進出来る。だからこうやって、気流の檻に閉じ込めてやるのさ」

「うっ、ぅおえぇッ・・・!」

「オイオイ汚ねぇな、ちゃんと聞いてたか?」

乱気流の情報量に酔ったのか、口から吐瀉物のように粘液を吐き出すコックローチ。あんまりにも不様で不潔だ。さっさと終わらせようか。

「ガイアメモリ特許権侵害、及びドーパントへの変身と暴行未遂。現行犯だ。排除執行する」

左腕に圧縮した風を纏い、緑色の竜巻で手刀をくるむ。右手でコックローチの頭を掴み上げ、壁に蹴り縫い付けて、マキシマムスロットを叩いた。

「サイクロン・スピニングウェーブ!」

「ぅギャァァァァァァ!?」

高速回転する圧縮空気の刃を纏った、手刀の袈裟斬り。右肩から左脇腹に振り抜いたそれは、コックローチの身体を容易く爆散に追いやった。

「・・・やべぇな、今の技・・・」

炎の中から倒れたユーザーと、パキンとブレイクしたメモリ。それらを見遣りながら、ポツリと呟く。今し方放った技の感覚を思い出し、そして爆ぜる直前のコックローチの身体が脳裏にリフレインした。

互い違いに高速回転する、円ノコのような風の刃・・・そう、互い違いにだ。それを幾つもブレスレットのように腕に纏わせて、思いッ切り斬り付けた。その刃はコアンダ効果*1を発生させ、回転同士の狭間の空気を引き千切る。直撃してから振り抜かれるまでの、約0.01秒間。コックローチの体表は、何度も超高圧と真空と言う対極の圧力差を往復させられた。生体装甲は無残にも千切れて剥離し、さながら工業用のグラインダーで抉り削ったような惨い傷跡を刻んでいた・・・

「・・・仮面ライダーが使って良い絵面じゃねぇな・・・いや、デフォのアームカッターも大概だけど・・・と言うか、ダメージ与える原理がほぼサイコなカームなんだが?」

スロットから引き抜いたメモリを見詰め、背筋が冷える。前に使った時は、威力が高い代わりに大雑把だった。戦車の砲撃を見たのと同じような印象だった。だがこの技・・・喰い荒らすような破壊性から、名付けてモンスデヴォラーレって所か。コイツは破壊力そのものも然る事ながら、何よりそのえげつなさには眼を見張る物がある。

「・・・よし。相当固い奴にしか使わねぇようにしよう。バイオレンスとか」

ブラックライダーに弾を装填しながら、この技の封印を決定する。そして撃鉄を親指で起こし、床に向けて引き金を引いた。

 

━ドパァンッ!!━

 

「・・・スタッグフォンを使いに出せば良かった」

思いの外とんでもない音が鳴り、若干後悔する。試し撃ちに丁度良かったとは言え、流石に止めとくべきだった。

そんな後の祭りの最中、周囲にミメシスが集まって来る。護衛の雑兵も全て片付けた訳だ。

「フゥ・・・森羅を覆い万象を噛み砕く━━━略奪する奈落の使者━━━叫喚せよ━━━

 

破界ノ零式、黒蝗」

 

穴だらけ、不完全な蟲喰いの詠唱。右腕からゾロゾロと黒蝗が生まれ落ち、ミメシスに喰らい付く。数千の顎に貪られ、青白い分身は忽ち消え去った。

そして残った黒蝗を口内に集め、圧縮し、球体にして、嚥下する。ミメシスはブレンチシェイドとは違って、俺の意思では消す事が出来ない。なので全個体を生命維持不可能レベルにまで潰すか、こうやって黒蝗に貪食させて取り込むしか無い訳だ。何とも面倒だが、致し方無い。

「終わり、やしたか?」

さっきの構成員が、入り口から声を掛けてくる。仲間もゾロゾロと引き連れて工場内を見渡し、この死屍累々に戦慄していた。

「おう。そこらに転がってっから、ふん縛って持って帰って好きにするが良いさ」

「・・・」

「何だよ」

「いや、ご無事で何より」

「おう。まぁ戦いにすらならなかったがな。ありゃ一方的な蹂躙っつーんだ」

割れたコックローチメモリを踏み砕きながら吐き捨て、アタッシュケースを漁る。中身はアームズやコックローチ、バイオレンスにビースト。何とも珍しくないラインナップだ。取り敢えず、サンプルとして1本ずつ鹵獲しとこう。後は全部焼却処分だ。

「ふむ・・・よし、こんなもんだろ」

【BOMB!】

目ぼしいメモリは格納し、残りは雑多に山と積み上げる。そしてその上に変質させた左腕から焼夷材を生成して被せ、首元のマフラーを1節千切り取って口に咥えた。

「火、持ってっか?」

「へい、これでも?」

「おう、十分」

受け取ったジッポでマフラー、導火線に火を着ける。バチバチと線香花火の如く燃えるそれを、黒色の砂山に指で弾いて放った。

「これは、何を・・・?」

「ん?何って・・・テルミット反応」

火柱と悲鳴が上がった。

 

(NOサイド)

 

「とまぁ、こんな具合さ。マキシマムスロットの使い心地も上々だった」

「そう、お疲れ様」

何時もの如く、リオに報告を上げるコウ。

今回潰した売人が持っていた顧客情報から、既にメモリを手にした人物を特定。虱潰しに全て回り、メモリを破壊して回った。当然抵抗にも遭ったが、どいつもこいつもお粗末な物だったと。

「で、何か進展あったか?アリスについて」

「・・・」

昨日言っていた件について聞くと、リオは黙り込み眼を逸らした。

「何だ、言い難いのか?俺相手に?」

「・・・その、実は、まだ結論が出せていないの」

「ほぉ、そりゃあ・・・良かった」

「・・・どういう意味かしら?」

「だって、お前が破壊って結論を出してねぇって事は、少なくとも現状危険因子としての根拠は薄いってこったろ?つまり平穏無事、何よりじゃねぇか」

「随分と楽観的ね」

呆れを隠さず溜め息を吐くリオに、コウは肩を竦めて笑い返す。

「あれもこれも危険かもで足踏みしてちゃ、結局何も出来なくなる。それに、俺は本人と接して善良と判断した。万が一対策が必要になれば、そん時ゃ俺は動きながら立てるさ。ま、お前の心配も否定はせんがな」

椅子に座って脚を組み、懐から取り出したペミカンを齧って笑う。そんなコウに、リオは納得出来ないと視線で訴えた。

「おいおい、そんな眼で見るな。要は得意分野が違うって事だ。お前はバックアップがメイン、対して俺は前線豚だ。一番の得意は突貫と蹂躙さ。視点が違って当然だろ?」

「・・・それもそうね。その時になったら、時間稼ぎは頼むわ」

「任せときな」

「・・・それはそうとして、その理論で言うなら私の仕事は万が一に備え続ける事。やはりアレの完成を急がねばならないわね」

「早瀬に怒られンぞ?」

「それは・・・私のポケットマネーで、分割補填するわ」

「出来るかねぇ、あの会計の鉄人の眼を盗みながら」

「・・・」

また黙って眼を逸らすリオに、コウもまた肩を竦める。

「じゃあ、今日はお開きって事で良いか?」

「えぇ。私はこの後も作業を続けるわ。油断する訳にはいかないもの」

「寝る時ゃ確り寝ろよ」

手をヒラヒラと振りながら、コウはブリーフィングルームを立ち去った。置き去られた鹵獲品のガイアメモリを見下ろし、リオは幾度目かの溜め息を吐く。

「想定以上に流通が早いわね。これも、開発を早める必要があるわ」

手に持ったタブレットを見下ろし、呟く。その画面には、新型のドライバーの図面が表示されていた。

 

(コウサイド)

 

昏い闇の中。何かが光る。赤色が漏れ出す、幾つかの小さな球体。その1つの内側に浮かぶ、恐ろしい情景。

 

灰と白に染まった世界で、巨大な宇宙ステーションのような構造物の前に浮遊するアリス。そこから無数に現れる、異形の機械兵と思わしきもの。建物は崩壊し、瓦礫が山と積み上がって・・・

 

━ババババッ━

 

突如、響く翅音。幾つも浮遊する球体たちに、黒い蝗の群れが飛び掛かる。血走ったように真っ赤な眼を爛々と輝かせながら、次々とその球体を齧り、貪り喰っていた。

「これは・・・ッ!」

漸く、呟きが漏れる。直後、全身に走る激痛。

否、危険信号だ。脊髄を貫くそれが、痛覚に作用して幻痛を引き起こした。

球体の中から俺を、(ローザスト)が見上げている。その身体は、夥しい数の黒蝗に覆われて・・・

 

━━━

━━

 

「かはっ!?」

詰まっていた息が吐き出され、飛び起きる。額には残り少ない汗腺からじっとりと汗が滲んでおり、頭がガンガンと痛む。

「何なんだ、今の・・・ロクス、おいロクス。起きてるか?」

『あぁ』

胸の内側からの応答。どうやら珍しく起きているらしい。ベッドから降り、ガレージへ。その先の事務所を目指す。

「何だ今のは。只の夢にしては、本能的な警告の強さが段違いだったぞ?」

『分からない。だが・・・世界を喰らう、と言う目的意識・・・いや、それこそ本能のようなものか。それを強く感じた』

「何だよそれ・・・結局、俺は世界を喰おうとしてるって事か?」

『肯定も否定もしかねる。欲求自体は無理無く制御出来ている筈だ』

・・・全く、訳が分からんな。ロクスが分からねぇってんなら、もうそれ以上は追求しようが無い。

「・・・取り敢えず、備忘録付けとくか。こう言う意味深な夢は忘れちゃいけねぇって相場が決まってるからな」

夢で見たキーワードを、タブレットに書き出して行く。

色の抜け落ちた世界、アリス、巨大な宇宙ステーション(?)。そして何より、黒蝗による世界の捕食・・・正しく、破界の蝗。

「・・・そう言えば・・・アレ1つじゃ無かったよな」

そうだ。夢の中には、幾つもの球体があった。その1つに、アリスの光景が広がっていた。

なら、あの球体全て・・・同じような物が、内包されている・・・?そしてその全てを、黒蝗()が喰らった・・・?

「・・・ハァ、止めだ。これ以上は材料がねぇ。この状態で考えても、結論は出ねぇ・・・何か、こんなのばっかりだな」

『情報を蓄積するしか無いだろうな』

「それしか無いわな。その為の備忘録だ」

書き留めた短い情報集に日付を入れ、《夢》と名を付けて保存。ノートアプリを閉じる。

「ハァ・・・歯ァ磨いて、朝飯にするか。兎にも角にも、喰わねば動かん。さーて、何があったっけな~っと」

「あら」

「あっ」

ガレージにワカモが居た。いつの間に入って来たんだよ・・・

「久し振り、と言う程でもありませんわね」

「そうだな。何だかんだ、元気そうで良かったよ。今から朝飯こさえるが、お前もどうだ?」

「ふむ・・・では、ご相伴に預かりましょうか」

「おう。まぁ、そこまで手の込んだものは作れねぇがな」

ガレージから更に奥、キッチンに入る。冷蔵庫を開けると、ウィンナーと卵とネギ、あと昨日炊いた冷や飯が5合。

「炒飯で良いか?」

「えぇ、構いませんわ。それと、世間の並盛で結構です」

「あいよ」

「こう言っておかねば、文字通りの山盛りにするでしょう」

「ハッ、良くお分かりで」

短く笑って、大きめのフライパンを火に掛ける。胡麻油を滴し、ウィンナーを爪で毟るように千切り投入。ヘラで転がし、ムラ無く火を通す。

「鶏ガラは~っと・・・あ~少ねぇな。買い足しとこ・・・と、そう言えばワカモ」

ブチブチと爆ぜる油にネギを落としながら、背後のワカモに声を掛ける。

「何ですか?」

「最近、俺が使ってるやつと似たような粗悪品が巷に出回ってるらしくてな。ガイアメモリってやつなんだが・・・もし売人に売られそうになっても、絶対に買うなよ?先生が悲しむぞ」

「・・・ふむ。あのお方を悲しませるのは、望む所ではありませんわね。分かりました。それはそれとして、それを買ったらどうなると?」

釘刺しは成功。そして、持って欲しい興味も狙い通り煽れた。

「まず、使ったら怪物になる。そして全能感に酔いしれ、色んなものを壊したりするんだ」

「あら、意外ですね。普段の私と余り変わらないような・・・」

「最初の内はそうかもな。それだけなら、俺も態々止めねぇよ。だが、粗悪品には強い中毒性があってな。使う事を止められず、オマケに毒性で心身共に壊れちまう副作用まで付いて来やがる。今お前が持ってる壊したくないものも・・・何とも思わなくなるかも知れんぞ?」

「っ・・・それは・・・」

卵を割り入れ、顆粒出汁を投入。続いて米をごっそりと入れ、ヘラで切り混ぜる。

息を呑む音が聞こえた。どうやら、想像したらしい。恐らく、先生を手に掛けて笑う自分の姿辺りを。

それを背中に感じながら、鍋を煽る。

その恐怖があるなら、まぁ大丈夫か。

「漸く、人になろうと思えたんだろ?なら、それを捨てるような事をしちゃダメだ。分かったな?」

「・・・えぇ、しかと」

「なら良い。ほれ、出来たぞ」

皿に炒飯をよそい、スプーンを添えてワカモに渡す。そして残りを大皿に移して、此方もスプーンを取った。

「いただき、ます・・・」

「・・・どうした、口に合わねぇか?」

若干顔を顰めたワカモ。何かおかしかったかと俺も食ってみるが、そんなに変な味はしない。

「雑と言うか、ガサツと言うか・・・品の無い味ですわね。足し算ばかりの1皿・・・」

「う、うるせぇな。俺はカロリー摂らなきゃやってられねぇからこうなるんだよ。文句あるなら残しても良いぞ?全部食うから」

「・・・ふん。まぁ、たまには悪くないかも知れませんわね。朝から食べるには、少々重たいですが」

ぶつくさと言いつつ、ワカモはしっかり食べる。投げ捨てられたりしないだけ、俺達の間に信用や情のようなものは出来ているらしい。そう思っておこう。

「尤も、先生にこんな粗末なものをお出しする事があれば容赦しませんが」

「へいへい、最後の手段にしとくよ」

俺が作ったカレーは美味そうに食ってたが、知らぬが仏って奴だな。

 

To be continued・・・

*1
噴流や流体が物体に沿って曲がる効果。これにより、流れに触れた物体はその流れの中に引っ張り込まれる。




~キャラクター紹介~

・叢雲コウ/仮面ライダーローザスト
連日連夜大暴れの飛蝗少女。
ブラックマーケットでメモリのセールスマンが屯する拠点を潰した。そしてサイクロンとの相性の良さからえげつない必殺技を獲得。その後リオとの情報共有、認識の擦り合わせを行う。
不吉な夢を見て飛び起きたが、現状何も分からない。取り敢えず夢日記を付ける事にした。
基本的に全部ブッ込んだ男飯しか作らない。

・調月リオ
大忙しのでっかい妹。
アリスへの対応の検討、それに付随して万が一の為の備え、更に新型ライダーベルトの開発を同時に進行している。

・ロクス
フレンドリーになった蝗害怪人。
ロクスにとっても、コウが見た悪夢は心当たりが無い模様。

・狐坂ワカモ
脈絡無く現れた純情狐。
コウから先生を絡めて警告され、ガイアメモリを使わないと決めた。
本人が料理上手なのもあって、コウのガサツな男飯には苦言を呈している。

~技紹介~

・サイクロン・モンスデヴォラーレ
名前の由来はモンスーン(季節風)+デヴォラーレ(ラテン語で『貪り食う』の意)。
ディスクグラインダーのように高速回転する風の刃をいくつも腕に纏い、敵を斬り付けるチョップ技。この刃が互い違いに回転する事で、刃の間に真空が発生し敵をズタズタに抉り千切る。分かりやすく言うなれば、ワムウが使う神砂嵐を片手でやっているようなもの。
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