相変異 黒蝗   作:エターナルドーパント

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毒言

(コウサイド)

「はぁっ!」「でりゃっ!」

「甘い」

突き出された蹴り脚を掬い上げ、ひっくり返す。ライフル打撃を右の抜き手で逸らしつつそのまま顔面を掴み、地面に倒れ伏した相方の上に叩き付ける。

「がはっ!?」「げぶぅっ!? 」

 

━ガァンッ キィンッ━

 

1時方向からの狙撃。条件反射で右腕パリィ。狙ったのは頭。だが同時射は無し。焦ったな?狙撃手の癖して半端に自我出しおってからに。

「甘い、甘い」

「「「おりゃあああぁっ!」」」

気合いの声だけは一丁前の、破れかぶれの飛び掛かり。が、3人全員全員横一列。

「あごっ!?」「かぼっ!?「がっ!?」」

飛び回し蹴りで頭を横凪。文字通り一蹴。

「っ!」

その直後、背後からの奇襲。声を殺したのは及第点。しかし気配と足音、共に極めて雄弁なり。落第点。

「んげぅっ!?」

振り向きハイキックでコメカミを撃ち据え迎撃。

「甘い、甘い、甘い」

 

━ガァンッ キィンッ━

 

再びの狙撃。狙いは胸。されど目眩ましも囮も無し。迎撃は至って容易。

「甘い、甘い、甘い、甘い!」

もはや堪えきれず、吼える。苛立ちで火照った身体に、冷却コートから冷媒が噴射された。

周囲全方位、死屍累々の様相。どいつもこいつも、何と寝心地が良さそうな事か。

「おい、地べたは布団じゃねぇぞ。とっとと立て。まだ腕も脚も筋肉すら千切れてねぇだろうが。貴様らは蛞蝓か?」

余りにも酷い。余りにもあんまりだ。俺を前にして、何故コイツらはこうまで弱いままでいられるのか。

「ハァ、もう良い。おい駄犬!終わりだ終わり!興醒めも良いとこだ全く」

『誰が駄犬ですか!』

頭上のドローンに叫び、ドカッと地べたに座り込んで頬杖を付く。演習場に建てられたビルの中からパタパタと駆けて来るチナっちゃんと救急医学部を眺めながら、ハァとまた溜め息を吐いた。

「やっぱり、駄目か・・・」

「寧ろ何を見て行けると思った?おう空崎委員長さんよ」

背後からの呟きに、思いっきり顔を顰めながら応答を投げる。

「例の条約が近いってんで、依頼は受けたがよ。何だこのザマは。鍛練のタの字にすら掠らんゴミクタ共を俺に纏めて投げ寄越して、何がしたかったんだ?俺を怒らせたかったッてんなら花丸くれてやるとこだがよ」

「悪意は無いわ。ごめんなさい・・・エデン条約に向けて、気を引き締めようと思ったの」

「ハッ、お前がいる限り気を引き締めるなんざ無理だろうな、腐れたウマヅラハギの肝にも劣る軟弱さのコイツらにはよ」

『っ・・・!』

「あ?何だテメェら一丁前に噛み締めやがって。俺は過去に何度も言ったぞ。今の貴様らは弱過ぎると。己に出来る事を死ぬ気でやれと。でなければ貴様らに価値なぞ無いと!」

ギリギリと歯軋りの音が聞こえてくるが、良くもまぁそんな態度が取れたもんだ。

既に優しく言う段階も、唸り脅す段階も、殴り焚き付ける段階も過ぎた。最早これしかない。

肺の中身を全て吐き出す、重い溜め息。そして、良心のタガを外した。

 

「オイ空崎ヒナ。此を見ろ。貴様が俺に投げて寄越したこの不法投棄産業廃棄物にも劣る愚図共の恥態の骨頂を。今日は嘆かわしくも頗る快晴だ。お天道様にこんな見苦しいモノ晒して申し訳無いと思わんか。えぇ?」

 

「えっ・・・」

 

「どいつもこいつも腑抜けばかりよ。緑褐色に腐らせた猛毒の豆腐の方がまだ根性がある。プレッシャーによる行動阻害か一撃必殺のどちらかに全てを掛けねばならん狙撃手は半端に自我を出し効力を発揮出来ず、歩兵は腰が引けて連携も溶け腐れたサンマの(ハラワタ)のようにグズグズ。挙げ句当て身1つで意識を飛ばす蚊蜻蛉の如き脆弱。誰がコイツらをここまで弱くしたかと言われれば空崎ヒナ、貴様の怠惰だ」

 

「怠惰・・・?待って、それは聞き捨てならない。私は学校をサボった事も、職務を放棄した事も無いわ」

ヒナの反論に、無意識にも掌が額を叩く。この無自覚、本当に・・・

 

「空崎ヒナ。怠惰とはやるべき仕事を適切に行わない事、その努力を怠る事だ。リーダーの、年長者の仕事とは何か?それは部下を育成し、その力量を把握し、適切に運用する事だろう?なのにお前は何時も何時も全てを自分で抱え込む。自分でやった方が早い?当然だ、お前がその仕事を独占して他に経験を回さないのだから!どうせ部下がミスをした後が面倒だから、全て自分でやっているんだろう?だがその結果がこの様だ!若年者は行動し、失敗から学ぶのが仕事だ!そして年長者はその判断を信用し、ミスをフォローし、リカバリーを行わねばならん!その目先の手間を惜しみ、部下を信用せず、仕事を独占した結果がこの有り様だ!見ろこの死んで3日常温で放置された蛆集る魚の方がまだ活きが良いと言えるくたばり具合を!」

 

ヒナが顔を苦々しく顰める。

一方下っ端共は、これだけくっちゃべって時間をやってもまだ立ち上がりすらしない。飢餓の呪毒が発動してたとしても、もう治ってる頃合いだ。

 

「そして貴様らはいつまで地面さんにおんぶにだっこのつもりだ!とっとと立たねぇと貴様らの中からサッカーボール選出してドリブルするぞ!」

 

『うっ、うあぁ・・・!』

これだけ脅して漸く立ち上がった。立てるならとっとと立てよ全く。

「ハァ・・・全員、3列横隊!速やかに!」

『は、はいっ!』

声からドスを抜きつつ、号令を飛ばす。最早頭痛すら覚える情けなさに辟易しながら蝗丸を取り出し、杖のように突いて重い腰を上げた。

「貴様らに問おう。風紀委員会の職務は何だ?」

「・・・き、規則違反者を、取り締まる事・・・です」

「もっと言うと?」

「ち、治安を守ること、です!」

「おぉそうだなァ。で、それには何がいる?」

「・・・ぶ、武力・・・ですか?」

「そうだなァ!」

ガンッと蝗丸の石突きを打ち付ける。ビクッと肩を跳ねさせる奴が9割9分。

「では重ねて聞こう。貴様らは風紀委員会として、治安維持組織として成立してるか?」

「そ、れは・・・」「その・・・」

「成立してるかしてないのかって聞いてんだよ。とっとと答えろやカスが」

「し、してないです!」

「そうだよなァ?」

駄犬がスゴい形相で睨んで来るが、知ったこっちゃ無い。今コイツらに必要なのは恥。それも致死量ギリギリ、死ぬ寸前まで悔しがる羞恥。それが無ければ、絶対に変わらん。

 

「貴様らは己が無力が如何に有害かを理解しろ。己の意思でその制服に袖を通しておきながら、腑抜けて役に立たぬ自分を直視せず風紀委員長の怠惰に胡座を掻く。さながら道路にへばり付いたガムの如き愚鈍。最早居ても居なくても同じですらない、居れば居るだけザルになる穴だ。明確に毒だ。自分達が何も出来ずとも委員長が居れば何とでもなると高を括り、鍛練研鑽を蔑ろにした結果がこの有り様だ。貴様らに比べれば、自分から土に変わろうと醸す分だけケダモノの野糞の方が余程勤勉だろうよ」

 

「ば、罵倒がフルスロットル過ぎる・・・」

「何処から仕入れてくるんですかその無駄に豊かな罵倒の語彙は・・・」

見学していた銀鏡とチナっちゃんがドン引きしている。ならこれで良い。これぐらいが丁度良い。

 

「貴様らに足りない物は何か。それは己に何が足りないかを知る客観の視座であり、仲間の内にそれを見出だす観察眼であり、それを取り込もうとする貪欲さだ。自分の現状全てを憎み嫌えとまでは言わんが、己の未熟は憎め。その憎き弱さを叩き潰し捩じ伏せろ。それが出来ない腑抜け腐れたヘドロ風情に、これ以上くれてやる言葉は無いわ」

 

踵を返し、最早覚えてもいない溜め息の回数を1つ重ねる。蝗丸を袖の中に仕舞い込み、ゴキリと首を回した。

「給食部に行く。イライラしたら腹が減った」

「・・・悪かったわ」

「ハッ、そう思ってんなら本格的に育成に力入れるこった」

ヒナちゃんの謝罪も素っ気なく振り払う。また駄犬が後ろでギャンギャン騒いでいるが、全て無視してその場を去った。

全く、トリニティの正実はもっと意欲的だってのに。酷い差だ。

 

(NOサイド)

 

「旨ぇ」

ゲヘナ給食部。机の上に並べられた大量の料理を、コウは次々と平らげていく。そして平らげた端から、新しい皿が運ばれて来る。

「沢山あるから、遠慮しないでね」

「おう。何時もありがとなフウカさん」

エプロンを着けた給食部部長、愛清フウカに礼を言いながら、尚も食い続けるコウ。そして持って来た皿を置き、フウカは正面に座った。

「こっちこそ。あなたのお陰で、廃棄費用が凄く浮いて助かってるもの」

「勿体無ぇよな、こんなに旨くて量もあるってのに。俺が来たからには綺麗に全部平らげるぜ?」

「うふふ、お粗末様。こんなに食べさせ甲斐のある人は、そうそういないわ」

「俺は食うのが好きだ。愛してると言っても良い。そして、飯を作って人に施せる人間を尊敬してる。俺から見れば、フウカさんは立派なヒーローだ」

「全く、褒めても何も出ないわよ?」

コウからの惜しみ無い賛辞に、フウカは照れはにかむ。

コウの方が年上ではあるのだが、本人がフウカの方が上であると頑として譲らなかった結果がこの砕けたやり取りだ。

「きゃあっ!」

「ん?」

突如厨房から響いた悲鳴。そして、カウンターから何かが高速で飛び上がった。

毒々しい紫色をした円盤状の身体から伸びる、頭足類のそれにも似た触手。自らに向かう緑色の体液を纏ったそれに、フウカの眼が大きく見開かれ・・・

「おりゃっ」

「ぷきゅっ!?」

コウに難無くキャッチされ事なきを得る。狙撃銃の弾丸を見切りパリィする反射神経を以てすれば、当然の結果ではあるのだが。

「おぉい牛牧ィ!パンクリ飛んできたぞォ!」

「ご、ごめんなさい~!もう、パンちゃんったら!」

給食部唯一の平部員、牛牧ジュリが涙眼でパタパタと駆け付けた。

彼女は料理から怪生物パンケーキクリーチャーを産み出すと言う洒落にならない異能を持っており、コウからは「ウボ=サスラとかシュブ=ニグラスみてぇなコズミック地母神の類いなんじゃねぇの?」と疑いを掛けられている。

そしてパンケーキクリーチャー、本人曰くパンちゃんとは関係良好であるらしい。

「ったく、何で俺の居る方に跳んで来るかね。そんなに喰われたいか?」

「んきゅっきゅっ!」

「喰われたそうだな」

自律生物としてあるまじき、被食に対する歓喜の万歳ポーズ。寄生生物ならまだしも・・・と苦笑いするコウだったが、まぁショゴスとかは生まれながらに社畜根性が本能として刻まれてるって言うしな、と納得した。

「こらパンちゃん!暴れちゃダメでしょ?」

「きゅっきゅ・・・」

「牛牧が言うと比較的素直になるんだよな」

 

━バァンッ━

 

「フウカさん!本日も美食の探求に出掛けあっ」

「あ?」

開け放たれた入り口。ロングの銀髪に黒い片翼。コウと眼が合い硬直する彼女の名は、黒館ハルナ。ゲヘナの要注意テロリスト集団の1つ、美食研究会の頭目である。

「あ、あらあら、蝗屋さんじゃありませんか」

「げっ!嫌な予感がすると思ったら・・・」

「ひえ~!ついてな~い!」

部員3人、それぞれが反応する。

はんなりと微笑みつつ、額に1粒冷や汗を垂らす鰐渕アカリ。その後ろに隠れる獅子堂イズミと、更にその後ろに小柄な身を隠す赤司ジュンコ。構成員の半分が既に心折れる大惨事となり、ハルナの笑顔も少々引き攣る。

「ッスゥ~・・・ハ~ァ~・・・」

コウは天井を見上げ、2秒掛けて息を吸い、4秒掛けて大きく吐き出す。そして左脚を前に、右足を後ろに。大きく腰を落としながら、重々しく口を開いた。

 

「どうする?今すぐ尻尾巻いて逃げるか・・・この場で俺に倒されるか・・・!」

 

「ひえ~!何か怒ってるぅ~!」

「ハルナ逃げるわよ!見逃してくれるって言ってるじゃない!?」

「・・・フッ」

「「・・・あ~」」

ハルナが笑い、イズミとジュンコは天を仰ぐ。その2人の顔は、深い諦観を湛えていた。

「愚問ですわね!我が美食の道に、妥協の2文字はありません事よ!」

「うふふ、ハルナならそう言うと思ってました♪」

「やっぱりこうなった~!」

「私悪くないよね!?」

「・・・フウカさん、ごめん。少し暴れる」

「無理はしないで頂戴ね?」

「分かってる。だが今日の俺は、少々、蟲の居所が悪い・・・貴様ら、あと5手で詰ます」

 

ギラリと輝くコウの右瞳。それを合図に、美食研の面々は各々の得物を発砲。

ハルナのスナイパーライフル、ジュンコのアサルトライフルの連射。顔面狙いの狙撃を沈み込んで躱し、脚を引き込み重心を引っ張る事で加速し前進。

アカリからのグレネード投射。パンちゃんを握り締めた右腕で後方へ弾き、窓の外へ。

「1」

爆発が聞こえると同時、イズミの重機関銃による弾幕射撃。天井にジャンプして回避、右手のパンちゃんをジュンコの顔面に投擲した。

「むちょっきゅ!」「ちょっまおべっ!?」

着弾したパンちゃんは、自慢の触手でジュンコの顔面を強烈にホールド。口と鼻を瞬時に塞がれてパニックを起こし、ジュンコが周囲に滅茶苦茶に弾丸をばら蒔く。

「ジュンコさん!しっかりして下さい!」

「2」

「ハルナ!前を!」

「きゃっ!?」

ハルナに投げ付けられる椅子。銃によるガードが間一髪間に合い、直撃は免れる。

「3ッ!アサルトアビス!」

 

━バゴンッ ズガンッ!━

 

「ごっ・・・!?」

アカリの顔面を、襲撃したコウの右手が掌握。そのまま全体重を掛け、床に強かに打ち付ける。後頭部を強打し視界に星を散らすアカリを、更にもう1度叩き付けて完全に意識を刈り取った。

「4!」

「うわわぁ!?」

「5!」

 

━バカンっ!━

 

「んぎぃっ!?」

気絶したアカリをイズミに投擲。視界を塞ぎ、一気に踏み込んで顎にアッパーカットを叩き込む。全身のバネと腕の重さを掛けた下からのフルスイングに、イズミの恵体が2m近く打ち上げられた。

そしてその足首を両手で鷲掴み、最後の獲物に向けて振り下ろす。

「くっ、相変わらず非常識な・・・」

 

「レオン・クラッシュ!」

 

━ガゴンッ!━

 

「きょっ!?」「ぐるべっ!?」

バックステップで回避したハルナに、前方宙返りで肉薄。その遠心力を丸ごと乗せて、イズミの顔面をハルナの頭に振り下ろした。

頭同士の衝突は平衡感覚を容赦無く奪い取り、ハルナは冷たい床に倒れ伏す。

「チッ・・・しまった。1手甘かった」

美食研、沈黙。この間、僅か7秒。

「もがもがも~!」

「と、もう良いぞ~パンちゃん」

「きゅきゅっきゅ!」

「ぶはぁっ!ゲホッゲホッ!」

暴れたせいで酸欠を起こし朦朧としていたジュンコの顔から、パンちゃんをひっぺがす。漸く流れ込んだ空気を味わう余裕も無く、ジュンコは激しく咳き込んだ。

「うえぇ、臭いし不味いし、最悪ぅ・・・」

「で?どうする?」

「ぴゃっ!?」

「まだやるか?」

「降参っ!」

元々戦意に乏しかったジュンコは、コウの問いにアッサリとホールドアップする。ゲヘナの戦力、少なくともその中で上の下には食い込める筈の仲間達を10秒足らずで殲滅されたのならば、当然の判断と言えるだろう。

「ったく、憑いてねぇな。よりにもよって、イライラしてる俺が居る日に来るとはよ」

「ホントよ全く・・・」

 

━ぐぅ~━

 

「あっ」

ペタンとへたり込んだジュンコの腹の虫が、声高に叫んだ。コウはパンちゃんをジュリに受け渡し、しゃがんで目線を合わせる。

「相変わらず食えてねぇのか?ハードラック欠食児童」

「うぅっ・・・新作のラーメン、食べようとしたら迫撃砲が撃ち込まれて・・・」

「相変わらずハードラック過ぎだろ。ほら食え食え」

「う~・・・ありがと・・・」

差し出されたカレーライスを受け取り、口に運ぶ。そんな彼女を自分の席の隣に座らせ、コウも食事を再開した。

「・・・前から思ってたけど、イナホさんって私には優しいわよね」

「ひもじい思いしてる奴見るのが嫌いなんだよ。腹減らしてる奴には食わせてやりてぇ。鶏ガラみたく痩せ細ってるなら尚更な」

「悪かったわね鶏ガラで!」

ぼすっと拳を受け止めつつ、コウはピッチャーから水を注いで渡す。

「何より、お前は結構アッサリ降伏するだろ。ならそれ以上敵対する理由は無ぇよ。手加減してやれる程度には、実力差も開いてるしな」

「喜ぶべきか悔しがるべきか反応に困るんだけど・・・」

「喜んどけ喜んどけ。手加減しなくて良いとか、出来る相手じゃねぇって俺に認識されてみろ。悲惨だぞォ?」

「あ~、それはまぁ・・・前に改造ドーザーを素手で解体してたわよね。あれが人に向く可能性がある訳か・・・ひぇっ」

ブルリと身震いしつつ、ジュンコは完食したカレーの皿に手を合わせる。

「ごちそうさまでした。久し振りにまともにご飯にありつけたわ」

「お粗末様。お腹が空いてるだけなら、普通にいらっしゃい。幾らでも食べさせてあげるから」

「えぇ、また来るわ・・・ってイナホさん、どんだけ食べるの早いの!?」

「満漢全席も1時間掛からんな」

「ウチのアカリと良い勝負・・・」

「何せ満腹と言う物が無いからな。御馳走様でした。ありがとよフウカさん」

「こっちこそ、助かったわ。また来てね、コウさん」

「おう」

手を振り立ち去ろうとするコウを見て、ジュンコが首を傾げる。

「・・・あれ?イナホさん・・・イナホさんじゃないの?コウって・・・?」

「あぁ、言ってなかったな。叢雲コウが本名、草薙イナホは偽名なんだ」

「あぁそうだったんだ!じゃあコウさんって呼ぼ!」

「おう、そうしてくれると間違えて殴らずに済みそうだ。あ、いざって時は銃口の向きで判断するからな?」

「降参じゃ無いっての!いや降参はするかもだけど!撫でないで!」

軽口を叩き、ジュンコの頭を撫でてカラカラと笑う。腹に食い物を落とし、庇護対象と認識する相手と会話して、彼女のストレスは多少落ち着いた。

「あ、ジュンコ。起きたら言っとけ。俺の眼に着く場所でフウカさん拐ったら潰すってな」

「あ~・・・うん、伝えとく。またね、コウさん!」

「おーう」

今度こそ、コウは食堂を後にした。

 

「もがもがもがもがっ!?」

「あっ!パンちゃんダメですぅ!」

「ハルナァ!?大丈夫!?」

若干1名笑い事で済まなくなり掛けた事を、コウは知らない。

 

(コウサイド)

 

「・・・またこれか」

幾つもの紅い球体。これは夢だと確信する。

何度目かの滅びの悪夢。夢の内容を書き留め強く意識する習慣を着けた結果、この悪夢を見た際には反射的に明晰夢にする事が出来るようになった。とは言っても、自分の好きに出来るのは自分の身体だけなんだが・・・

「アビドス、ミレニアム、トリニティと続いた。次の悪夢は・・・」

眼の前に、球体が留まる。その中に映し出されるのは、腹から血を流し倒れるヒナちゃんの姿。続いて慟哭する天雨アコ、頭を抱えて泣き叫ぶイブキ・・・成る程、ゲヘナの悪夢か。

『お前、面白い悪夢観てるな』

「ッ!?」

反射的に右手を振り抜く。すぐ耳元で聞こえた、知らない声。その主は、俺の背後に居た。

ピンぼけしたような全体像。辛うじて髪と瞳の金色、服の灰色、そして頭に生えた猫のような耳だけは認識出来る。

『オイオイ、せっかちだな。急に殴ること無いだろ~?』

フルスイングした筈の俺の拳も意に介さず、コロコロと笑う人影。ソイツに対する警戒度は青天井だ。

「ここに干渉出来るのはロクスだけの筈。お前は何者だ?」

『あ~?アタシは~・・・誰だっけ?忘れちった!ハハハハ!』

「巫山戯やがって・・・」

一気に踏み込み、右のミドルキック。脇腹に食い込む筈の一蹴はしかし、霧に突き刺さるように手応え無く通り抜ける。

『ハハハ!ムリムリ!お前が自由に出来るのは、自分の身体だけだ。アタシにゃ当たんないよ!なぁ、ちょっと話しようぜ?』

「・・・」

構えは解かず、しかし1歩引いて考える。

この得体の知れない推定敵は、一体何が目的なのか・・・

『ったーく、そんな怖い顔すんなよぉ。一緒に悪夢を楽しもうぜ?』

フワフワと浮かぶ人影。その拍子に、身体の後ろから尻尾のような金色のシルエットが現れる。

「悪夢・・・この滅亡の夢は、お前の仕業か?」

『まさか!こ~んな壮絶で最悪で最高な悪夢、手を加えるまでも無いじゃないか!今まで覗いて来た悪夢の中でも、指折りで最高だぜ?』

「・・・つまり、他者の夢に干渉し、より強烈な悪夢を見せる事も出来る訳か」

『ま~ネ!けど、アタシは素材の味が好きなタイプだから、そんなにやらないよ。何回か試したけど、アタシの頭が乏しいせいか、どれもこれも駄作になっちゃったし』

変幻自在に現れては消えながら、人影は笑う。耳や尻尾も相まって、まるでチェシャ猫だ。

『にしても、アンタの悪夢は別格だな。とんでもなく()()()()やがる』

「何?おい、どう言う事だ!」

気になるキーワード。詰まっている・・・それを聞き出そうと突き出した手が、ボワリと解けるように消える。

「なっ!?」

『あーあ、時間切れかぁ。またお喋りしよーぜ♪』

ブンブンと手を振る人影に見送られ、俺の視界は真っ白に染まった。

 

To be continued・・・




~キャラクター紹介~

・叢雲コウ
劇毒飛蝗少女。
ゲヘナ風紀委員大隊相手に稽古を付けたが、余りの弱さに愛想を尽かし、某デス仙人並みの毒舌で罵り倒した。
そのイライラを解消する為に給食部へ行くと、今度は美食研が乱入。アンガーマネジメントしつつガヴ問答からの蹂躙。
そして悪夢の中でも新たな厄ネタとおぼしきモノと接触する羽目に。何とも気苦労多い状態。
フウカに対しては敬愛を込めてさん付けしており、対等以上の相手として認定。たまに昼飯時終わりの給食部を訪れて余り物を全て平らげる。
ジュリとの関係は悪くは無いが、やりたい事と才能の食い違いに同情している。
夢で会った謎の人影には、警戒と興味を1:1で抱いている。

・風紀委員会
正直ネームド以外は毒にも薬にもならない。

・愛清フウカ
ゲヘナのお母さん。
食べたい人には食べさせると言う強い信念を持ち、その有言実行性を含めてコウに尊敬されている。
業務処理能力が規格外な上に勘定までほぼ1人でやっている、影に隠れがちな超人。

・牛牧ジュリ
ゲヘナのコズミック地母神。
料理が好きなのだが只でさえレシピに従わず、その上何故か生命創造までする規格外の神秘の持ち主。
因みにコウならパンちゃんを食べられる。しかし不味いので進んで食べようとはしない。

・パンちゃん
給食部のゲテモノマスコット。
それなりの頻度で産み出される上に、少しばかり知能がある。
誰かに食べて貰う事を本能レベルで望んでいる。

・美食研究会
ゲヘナのテロ組織。
実力自体は上澄みでこそあるが、今回は余りにも相手が悪く10秒掛からず蹂躙された。

・赤司ジュンコ
ハードラック欠食児童。
美食研メンバーの中で例外的に食事にありつけない事が多い。その不運具合と空腹さ、そして他者への攻撃に対する積極性の無さから、コウからも例外的に優しく扱われている。
それはそれとして仕置きを受ける時は受ける。

・???
悪夢に現れた謎の人影。
他者の悪夢をショーのように観覧し楽しむ言動を見せる。

~技紹介~

・アサルトアビス
素手で繰り出す技。
飛び上がって前方宙返りし、敵の頭部を右手で掴んで地面に叩き付ける技。1度で意識が飛ばなかった場合、追加でもう1度叩き付けて地面にめり込ませる。
元ネタは名前の通り某深淵歩きの拘束攻撃。

・レオン・クラッシュ
本来は棒状の武器を用いる技。
上段から武器を振り下ろし、その勢いに任せて前宙する事で遠心力を乗せて叩き付ける技。今回は武器が無かったのでイズミで代用。
元ネタはELDEN RINGの獅子斬り。
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