(コウサイド)
「あーあァ、全く・・・」
夜。電灯に照らされる教室で、呆れが口を突いて出る。目の前に居るのは、しゃがみ込んでグスグスと啜り泣くコハル。
何故こうなったかと言えば、コハルが参考書と間違えて取り出したR-18本・・・所謂
そして本人曰く、正義実現委員会で押収品管理をしており、そこからうっかり間違えて持って来てしまったとの事。
そんな事あるか?とも思ったが、まぁ飛び出したのがガイアメモリでも無かったので俺は黙っておく事とする。
「・・・あんまり好みじゃありませんわね。返しますわコハルさん」
「えっ」
「お前は何シレッと読んでんだよ」
「あいたっ!?」
涼しい顔をして堂々と猥本を読んでいたリエの頭にチョップを落とし、反撃は軽く受け流す。
「取り敢えず・・・押収品と言う事なら、早く返しに行かないと良く無いんじゃないでしょうか。そう言うものは必ず帳簿を付けるものですし、紛失物があれば大事になる可能性も・・・」
「今の内にこっそり行って、バレないように管理室に戻してしまえば大丈夫じゃないですか?」
「えっ、今から?」
”ほほ~う?そう言う事なら、一緒に行ってあげよっか?”
「先生が・・・?大丈夫なの?」
”見損なっちゃいけませんヨ♪私にだって言い具合に誤魔化す手札はあるんだからサ!・・・3枚ぐらいは・・・”
「心許ねぇなオイ」
弱気になった先生にツッコミつつ、取り敢えずコハルにバッグを渡してやる。
「確かに。先生がついていれば、ハスミさん辺りにバレたとしても余り怒られなさそうですね。所でコハルちゃん。それはそれとして・・・もし他にもお勧めがあれば、是非♡」
「うっ、うるさいっバカっ!!」
━━━
━━
━
「さて・・・コハルちゃんと先生が戻って来るまで、少し休憩にしませんか?」
「そうですね。あんまり無理に詰め込んでも、頭に入りませんし。ちょっとお休みしましょうか」
ハナコの提案をヒフミが呑み、一時小休止となった。
それを眼の端に捉えながら机に腰掛け、取り出したるはペミカンのタッパーとミックスナッツのプラボトル。机の骨を軋ませながら、ナッツをザラザラと口に流し込む。
「・・・それは?」
「ペミカンとミックスナッツ。蛋白質、脂質、ビタミンに塩分、色々手軽に摂れるオヤツさ。食うか?」
「うん、頂く」
興味を示したアズサに掌を出させ、そこにペミカンを1切れとナッツを少々出す。
「これは・・・干し肉?」
「を、ドライフルーツと砕き混ぜて、ラードで固めたモノだな。結構美味いが、カロリーが高い」
「・・・うん、悪くない。けど、確かに脂っこい・・・」
「登山の行動食なんかにもピッタリだぜ」
「あら、こんな時間に間食ですか?」
脂の多さに、若干眉を潜めるアズサ。そこに、横からハナコが入って来る。
「おう。俺はちっと、特殊体質でな。燃費が悪すぎて、こうやってちょくちょく補充せにゃならんのよ。お前も食うかい?」
「うふふ、お気持ちはありがたいですが、お腹が空いていませんので」
「そうか。まぁ、普通はそうだろうな」
「そう言えば、冷凍庫にあったフルーツも?」
「おぉ、良く見てんな。そうだ。たま~に無性に食いたくなるからな。シャーベットにするのが好きなんだ」
「ふふ、確かにそうですね。瑞々しく甘い果実を、口に含んで、舌先で転がして、体温でゆっくりと融かすように・・・」
「ハイハイ、そう言う言動にゃ美味しいリアクションは出来ねぇから、他当たってくれや」
「あら、つれないですねぇ」
頬に手を当て、困ったように笑うハナコ。その思わせ振りな言動を受け流し、またペミカンを口に。
そんな中、ハナコがあからさまに何かを思い付いた顔をした。
「そうです!退屈しのぎに、ゲームをしませんか?」
「ゲーム、ですか?でも、私達はあんまり娯楽物は・・・」
「心配しないで下さい、ヒフミちゃん。ここにあるもので、十分出来ますから♪」
その端麗な笑顔は、悪戯を思い付いた悪餓鬼としか言い様の無い雰囲気を纏っていた。
(NOサイド)
「ど、どうしたの?これ・・・」
「あ、あはは・・・」
教室に戻り困惑するコハルと、苦笑するヒフミ。その視線の先に居るのは、明らかに上の空となり真っ赤な顔で虚空を見上げるハナコ。
「何でもねぇよ。撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけ・・・それを教えてやっただけさ」
「な、何したって言うの!?エッチなのは駄目!死刑!」
「それは俺に言われても困るなァ」
「良く言いますわ、あんな大人げない事をしておいて」
冷却コートに冷媒を詰めながら肩を竦めるコウを、呆れたように指でつつくリエ。そんな中で尚、ハナコは相変わらずボンヤリと明後日の方向を見詰めている。
「ハナコ?いい加減シャキッとしなさいよ?」
「えぇ?あぁ、はい・・・」
「ホントに何があったっていうのよ・・・?」
「王様ゲームと言うものをやったんだ」
「はぁ!?」
アズサからの報告に、コハルは絶叫。瞬時に顔がボンッと紅潮し、猫のような針眼になった。
「お、王様ゲームって、あの!?王様の命令は絶対の!?こ、コウ!あんたハナコに何したのよっ!!」
「ほぉう・・・?」
真っ赤な顔は変わらずも、ハナコの前に立って庇うようにコウを睨み付けるコハル。その勇猛さに、コウは唆られたように舌舐りをする。
「な、何よ!あんた、ハナコが気に入らないからって苛めて良い理由にはならないのよ!?そんなの、私が許さないんだからっ!!」
「クククッ、あぁ、何と眩しい事か・・・友人の為に、絶大な力を前にして尚毅然と立ち向かう・・・あぁ、美しきかな、ヒーローの器だ・・・」
「ボス、有望な原石を見付けたからってそんなにうっとりしないで下さい。誤解を解くのが先ですわ、よっ」
「あたっ」
リエから振り下ろされる教科書チョップ。悪い自覚があったのか、コウはそれを甘んじて受ける。
「はぁ、全く・・・コハルちゃん、ご心配無く。ハナコさんは盛大に自爆しただけです。正確に言うならば、見えている地雷を好奇心で踏み抜いた、と言うべきでしょうか」
「え、何?どう言う事?」
「ハナコが、私とコウに命令を下したんだ。口の中でサクランボの茎を結べ、と」
「そ、それって・・・!?」
「えぇ。その点については、コハルちゃんの想像通りですわ。命令対象がアズサちゃんとボスだと理解して、一泡吹かせようとしたんです。ボスに結ばせる茎は、サクランボに繋がったまま、しかもその実を唇に咥えた状態で・・・」
「あはは・・・ハナコちゃん、初対面の時にちょっとトラブルがありましたからね。多分、ハナコちゃんなりに距離を縮めようとしたんだと思いますが・・・」
「モノの見事に狙いが外れました。ハナコさんの攻勢に対し、ボスは一切怯まず距離を詰め、逃げられないように後頭部と腰にまで手を回してキッチリと茎を結んでしまい・・・それ以降、あの様ですわ」
「前言撤回。全部自業自得じゃないの」
猫目から一転、蔑むような眼でハナコを見るコハル。自ら仕掛けた攻撃を完全に受けきられ、諸に反撃を喰らう。理合いの有無の衝突の結果である。言うまでも無く、有がコウ、無がハナコだ。
「ったく、あれしきで俺がたじろぐとでも思ったのか・・・何とも可愛らしい事じゃあ無いか。あんな言動してて、その実おぼこい生娘だ。扱い方が分かっちまえば、適切に調理してやるだけよ。おいハナコ、いい加減戻って来い」
━パンッ━
「ひゃっ・・・あ、あら?私・・・」
コウの柏手一拍。ハナコの意識は覚醒し、何とか状況を理解しようと回転し始める。
「マジでフリーズのしてやがったな・・・ほら、そろそろ良い時間だ。ひとっ風呂浴びて来い」
「・・・気になったんだが、コウは一緒に浴びないのか?」
「あ、アズサちゃん、それは・・・」
アズサの疑問に、事情を知るヒフミがチラリとコウを見遣る。その視線に気付き、コウは肩を竦めて笑った。
「ハッ。お生憎様、俺の身体は
「・・・そうか、分かった」
「・・・」
アズサの返答前に顔に出た、微妙な反応。それはコウと、そして再起動したばかりのハナコの頭にも引っ掛かるものだった。
「ハイハイ、それじゃあ皆さん?お風呂道具を取りに行きますわよ~」
「そうだな。さぁコハル、一緒に入ろう。私と同じぐらい体育で頑張っていたから、しっかり洗い流さないと」
「はぁ!?なっ、何よ!私が汗臭いって言いたい訳!?」
「まぁまぁ、早くさっぱりした方が良いのはその通りですし、手早く済ませましょう?ほら、ハナコちゃんも!」
「あら、お誘いしてくれないのかと思ってました。うふふ、一緒に生まれたままの姿を晒して、敏感な所を・・・」
「だ~か~らっ!エッチなのは駄目!死刑!」
「・・・」
”・・・”
「台風かよ」
”台風は備えようがあるじゃん?”
「確かに」
少女らを見送り、先生とコウは乾いた笑いを溢して肩を竦めた。そして1つ息を深く吐き、コウは表情を引き締める。
「取り敢えず、今日俺が得た情報を共有しとく。この情報をどう扱うかは、そっちに任せるがな」
他のメンバーが退出したのを確認し、情報共有を実施するコウ。伝達内容は、ナギサが既に裏切り者からの攻撃を受けている可能性が極めて高い事。そして、それにより最低1人、行動不能状態に陥っている可能性が同じく高い事。
”成る程ねぇ・・・根拠ある?”
「俺の知り合いの医療者が、黙って潜伏してる。頭張ってる救護騎士団にも顔を出してねぇ・・・傷病者の救護を至上命題にする、根っからの医療馬鹿が、だ。なら、それなりの理由があると考えるのが、アイツを知る人間の自然。同時に、死人が出た場合には絶対に黙ってねぇアイツが潜伏に徹してるなら・・・少なくとも、被害者の命だけは無事、と考えるのもまた自然。まぁ、こんなとこかね。俺から見ても一級品の耐久力を持ってるアイツが、そうそうくたばるとも思えねぇし」
”成る程、流石は万事蝗屋。特有の人脈だねェ”
「但し、誰に何があったか、細かい所は分からんままだ。俺としちゃ、もう少し出汁を引きたいと思ってる。この情報は、まだ上手い事しらばっくれといてくれないか?」
”りょ~かい。んじゃ、お互い気を付けてネ”
「おう」
共有を終えて、コウは周囲に感覚を向ける。間も無く、周囲に人の気配は無い事を確認し、肩の力を抜いた。
「んじゃ、ちっと暇潰しして来るわい。女の風呂は、髪の長さに比例して延びる。あの調子も加味して、40分は掛かるだろ」
”あぁ、確かに5人中3人長いね・・・行ってらっしゃい”
コートを着込んで、コウは教室を出る。その背中を見送り、先生は額に手を当てた。
”ハァ・・・どうしたもんかね・・・”
その呟きを聞く者も、応える者も居はしなかった。
(コウサイド)
「フッ、ハッ!ぬおっ!?」
捌き切れなかった一撃が、背中に鈍い衝撃を伝える。つんのめりそうになった俺の顔面に、別の一撃が叩き付けられた。
「ゴハァっ!?」
最初とは逆、海老反りになるように打ち上げられる。だが、これで良い。これで、丁度良い位置に来た。
「ッづォりゃッ!」
『っ!?』
衝撃に身を任せ、跳んでバク宙。丁度背後に居た相手の頭部を両脚で挟み、肩車のような形で上に乗る。そこから曲げた膝を解放し、爪先を背中に叩き付けた。
━バギャベギョッ━
『■■■■■~!?』
体幹を叩き折られて逆くの字にへし曲がり、2つ折りになって崩れ落ちる敵。しかし、着地の後隙を狙った残り2体が左右から飛び込んで来る。
「甘いわい」
右から迫る敵手。それを右手で掴み、握り砕く。
左から来る敵手。それに左肘を合わせ、打ち砕く。
左を下に、右を上に。横からの運動エネルギーを上下に逸らし、腰を切り回転を加えて右手で握り締めた敵を左の脳天に叩き付けた。
『■■■■ッ!?』『■■■■■■・・・!?』
「さぁお片付けだ。ホッパージャンプ」
地面を跳ね、ゴロゴロと転がり倒れ伏す標的を見据え、上空に跳躍。地面の標的を見据え、メモリを叩いた。
「陸式、ホッパーキック!」
エネルギーを左脚に集め、落下。敵に着弾した瞬間に炸裂させ、その反動で再び跳躍する。
同じ事をまた2発、都合3度のキックを打ち込んだ。標的としていたコックローチ・ミメシスは、ダメージ超過により踏み砕かれ、内側から破裂するように消滅する。
「フゥ~、やっぱこれぐらいヒリヒリしねぇとな。勘が鈍っちまうぜ。自動操縦様々だわ」
ドーパントのミメシスと、その特性を活かす自動操縦の実験は無事成功だ。寧ろ性能をしっかり活かす動きをするから、生半可なユーザーより強いまである。
「さてと。最近構想してた新技も試すかね」
【MIMESIS!MAXIMUM DRIVE!】【QUEEN!】
自分を複製し、そのドライバーにクイーンを装填。変質した左腕を構え、クイーンエスクードを設置するよう指示。それに従ったのを確認し、此方も検証対象のメモリを取り出した。
【ARMS!】
「レイズ」
アームズをスロットに装填。左腕が赤黒く変色し、前腕のガントレットが銀色の液体金属に変化する。
上腕部にはライフル弾を刺したカートリッジベルトが出現。
肩からは厳ついスパイクが生え、まるで世紀末ヒャッハーの鋲着き肩パッドだ。
「ヨシヨシ。じゃあ手始めに・・・
声に出して、武器の姿をイメージする。それに従って液体金属、フレキシブルアームズが変形し、鋭く伸びた。
「ふむ、悪く無いか」
ガントレットから前方に鋭く伸びた刃を軽く振るい、呟く。かなり軽く、ヒュンヒュンと軽快に風を切る音が響いた。
「じゃ、試し斬りをっと。フンッ!」
━バキィンッ!━
「げっ!折れた!」
エスクードとグラディウス、ぶつかった結果は見るも無残。エスクードに傷こそ入ったものの、グラディウスはものの見事にへし折れてしまった。
「ん~、これなら蝗丸使った方が良いな。次だ次。そうだな・・・よし!
折れた刀身をくっ付けて戻し、次のイメージ。今度はよりコンパクトになり、三日月のように鋭く湾曲したフッククローとなった。
「フッ!ハッ!う~ん、これもな・・・このままなら素の爪で斬り裂いた方が速いし便利・・・そうだ!」
1つ思い出した。それをイメージしながら、腕を大きく振ってみる。
「ィよいしょォ!」
━ギュイィィィ ガキンッ━
「おっ!こりゃ良いな!」
クロー部分が射出され、ワイヤーを伴ってエスクードを飛び越える。そこからグイッと引き戻せば、狙い通りにガッチリと引っ掛かった。
「捕縛なんかには使えるかもな。よっと」
ワイヤーを撓ませて波を送り、クローを回収。バチンと装着し、形状をニュートラルに戻す。
「ほんじゃお次は・・・
続きましては、ニードルガン。細長い銃身を構え、引き金を引いた。カチリと小気味良い音と共に、針状の弾丸をガス圧で撃ち出す。
━パシュッ!━
「ん~、やっぱ駄目かこれは」
結果、何時も通り滅茶苦茶な所に弾が飛んだ。火薬を使わなければ或いは、と思っていたが、どうやら銃器に嫌われる呪縛は思ったよりも強いらしい。
「じゃあ、コイツはどうかな?
イメージの大元はペガサスボウガン。ガントレットからフレームを拳の延長線上に形成し、バタコンと音を立ててスキー板と見紛う程の巨大なリムを展開。大型の錨にも似た、異形の大弓を作り上げる。
カートリッジベルトから弾丸を1発抜き取り、手首をスナップ。するとその弾が細長く延び、150cm程の大矢となった。
「よい・・・しょっと!ん、んぎぎ・・・!」
腕からリムまでのフレームが長くて普通には引けず、2号の変身シーンのような動作で矢をつがえて、引く。
「んぐっ、ぐぅっ・・・!」
何てこった、とんでもない固さだ。五人張り、100kgなんて可愛らしいもんじゃ無い。少なくとも張力3tはありやがる。
「ぐっ・・・駄目だ、腕だけで引くな・・・広背筋、僧帽筋、三角筋、それらを骨で支えてフルに使え・・・ふんぬぅッ!」
━ギココココッ━
上半身全ての力を込めて、一気に引き絞る。リムが唸るような軋みを発しながら、大きくしなる。そしてエスクードと、その後ろで手持ち盾を出現させ待ち構えるミメシスを照準。締めていた指を、離した。
━ドッキャォウッ!!━
「どぉわッ!?」
発射の凄まじい反動と衝撃に、流石によろめく。姿勢を立て直して標的を見れば、ミメシスの胸から上は抉り抜かれたように円く消し飛んでいた。
「うっわ、やっべぇなこれ・・・」
パリパリと砕け散るミメシスだったものを見送ってクイーンメモリを回収し、ボソリと呟く。
強度をある程度犠牲にしたエスクードとガードシールドとは言え、クイーンのバリアを2枚貫通して尚胸から上を消し飛ばす威力とは・・・衝撃波出てたし、音速突破してたなアレ。
「・・・しかし、実証は成功か。弓なら、俺でも使えるらしい・・・滅茶苦茶痛ェけど」
弓弦を引き絞った右手を見る。表面に出血こそしていないものの、指には内出血で赤黒い斑紋が。確り慣らさにゃ、とてもじゃ無ぇが使えねぇな。
「チッ、イッテェ」
指先を小さく噛み切り、グリグリと扱いて血を抜いてから心臓より上に手を上げる。数秒もすれば傷が塞がり、内出血は影も形も無く元通りだ。気門から蒸気を噴き出し、ドライバーからメモリを引き抜く。全身の強化皮膚が剥がれ落ち、髪を撫でる風をこそばゆく感じた。
「フゥ、頭がスッキリしたな。最近変身すらして無かったし・・・」
「何があった!?」
「ん?」
叫ぶような問いに振り向くと、髪も乾かし切っていないアズサが銃を抱えて此方目掛け全力疾走していた。さっきの発射で驚かせたようだ。
「大丈夫だ、俺の実験だよ。悪かったな、驚かせちまった」
「そ、そうか・・・なら、良かった」
アズサの顔に、若干の落胆が浮かぶ。どうやら俺の技を見たかったらしい。
「さて、そろそろ俺もシャワー浴びるか。他の奴らは?もう上がったのか?」
「あ、あぁ。今頃、部屋で髪を乾かしている筈だ」
「了解。お前も早いとこ乾かせよ?風邪引くぞ」
「分かった」
ヒラヒラと手を振り、グラウンドを後にする。土埃を払い落としながら、風呂道具を回収する為に寝室を目指した。
(NOサイド)
「は~ァあ、ったく・・・」
風呂上がりの髪をタオルでガシガシと拭きながら、コウは溜め息を吐く。そのタオルを首に掛けて、左手の中に握った溜め息の小さな原因を見遣った。
「誰のだってんだよ全く・・・」
「はぁ!?何言ってるのよ!?」
「ん?」
目的地、補習授業部メンバーの寝室を前に、コウの脚が止まる。扉が閉まりきらず、光が漏れる扉の向こうから、コハルの絶叫が響いた。
「また何かやらかしてんのかあの生娘は・・・」
呆れを漏らしつつ、しかし偶にはこれも一興とばかり、コウは音を沈めて気配を殺す。そして扉の側に陣取り、傍聴の姿勢に徹した。
「最近の水着は、デザインも色も選り取り見取り。とても可愛らしくて、それこそ一目では水着と判別しきれないものも多いですよね?それに、ペイントと言う線も・・・♡」
「えっ、嘘!?って言う事は、つまり・・・」
「あら?どうしたんですか?アレがもし水着じゃ無かったとしたら・・・何か、変わってしまう事があるんでしょうか?ねぇ、コハルちゃん?」
「アイツまたコハルを小突いて遊んでやがるな」
「では、水着と下着の違いとは?防水機能?お肌の保護?デザイン?露出の範囲?
コハルちゃんは、見た目で分からなかった。そうですよね?あの時あの場で、それは《水着》だと
「盲信による扱いの変化か。本質がどうかに依らず、その表面的な振る舞いによって世界に対する性質が決定される・・・クククッ、仮面ライダー最大のテーゼだな」
ハナコの禅問答じみた発言が偶然にも自身が愛する哲学と繋がり、小さく喉を鳴らすコウ。その話題が下着か水着かと言う下らない話である事も、笑いに拍車を掛けている。
「実はアレが下着だったとして・・・その
「な、何言ってるかわかんない・・・結局どういう意味?」
「あの水着可愛かったですよね、と言うお話です♡」
「はァ!?何それ、全部冗談!?」
「あ~あ、また掌で転がされてやがるなコハルの奴」
「・・・成る程、5つ目のあれか」
「・・・ん?」
微笑ましく聞き入っていたコウの表情はしかし、アズサの言葉に一変。重要なキーワードと認識し、眼を閉じて聴覚を研ぎ澄ます。
「5つ目?アズサちゃん、一体何のお話ですか?」
「私も、聞き覚えがありませんわね」
「ただ、聞いた事があるだけの話だけど・・・キヴォトスに古くから伝わる、7つの小則・・・確か、その内の5つ目、だった筈。
『楽園に辿り着きし者の真実を、証明する事はできるのか』・・・確か、そんな感じだった気がする。残りは知らないけど。つまり、誰も証明出来ない楽園は存在し得るのか・・・そんあ禅問答みたいなものだったと記憶してる」
「その話を知っているのは・・・もしかしてアズサちゃん、セイアちゃんに会った事があるんですか・・・!?」
「っ!」
コウの耳は、キーワードを拾った。
セイアとは、ティーパーティーの三頭の1人、百合園セイア。コウとしても、知った名前ではある。
「セイアちゃんって・・・ティーパーティーのセイア様の事ですか!?」
「・・・分からない。この話はただ、どこかで聞いた記憶があるだけで・・・」
(ダウト、だな。本当に知らないなら、適切なリアクションとしては《知らない名前だから聞き返す》とか、《そうかも知れない》辺りだ。そもそも百合園を本当に知らないなら、《ここにもそう言う話が好きな人がいるのか》、とでもなるのが自然・・・つまり・・・)
コウの脳内で、情報のピースが音を発てて組み上がって行く。
「vanitas vanitatum・・・と言う事は・・・」
そしてコウが結論に至るより先に、ハナコの口から更にキーワードが出る。
(ハナコ、何か知ってるな・・・つーか、この空気に入らにゃならんのか・・・)
マークするべき相手に脳内でピンを打ちつつ、コウは頭を抱える。しかしそれでも遣るべき事は変わらない為、一呼吸置いてから扉を開いた。
「おい、これ誰のだ」
コウが入室と同時に見せた、小さな布切れ。直後、メンバーの内1人の顔が真っ赤に爆発し、悲鳴が響いた。
「ったく、湯冷めするっつーの・・・へっくしょいッ!」
To be continued・・・
~キャラクター紹介~
・叢雲コウ
頭脳が休まる暇の無い飛蝗少女。
コハルが正実に戻っている間にハナコをオーバーヒートさせた女誑し。
先生に自分が拾った情報、そしてそこから導き出した推論を共有。少なくとも人が死んでいない可能性が極めて高いので、まだ焦っていない。
風呂待ち中に久々の戦闘訓練を実施。今回の敵はコックローチ・ドーパントのミメシス3体。殺す気で攻撃しても構わない相手な為、背骨をへし折ったり拳を握り潰したりと残虐ファイトに磨きを掛ける。
その後、長らく試用を忘れていたアームズをお試し。幾つかバリエーションを作り、結果として最大の弱点である遠距離攻撃の克服に近付く手掛かりを得た。
風呂上がりに忘れ物を届けようとした所、ハナコの禅問答に遭遇。黙って聞いていれば、かなり重要なピースが転がり出て来てビックリしている。
因みに忘れ物は明日の、ならぬ今日のパn
・補習授業部
何とも姦しい部活。
どいつもこいつもおもしれー女な上に、追加された蝗屋2人もおもしれー女とイカれ女なので何とも大変。
・浦和ハナコ
華麗に弄ばれたファッション痴女。
王様ゲームでコウにアタックを掛けたものの、ガン盾で止められ高火力カウンターが炸裂。脳がオーバーヒートするに至る。
色仕掛け系に関してはコウから一笑に付される一方、知識量とその組み立ての早さについてはマークされている。
・科加部リエ
欲求不満になってきてる蝗屋社員。
コハルが持ってきたエロ本を隙を見て読んでみたが、好みじゃ無いと落胆した。
戦闘訓練の疲れもあってまだ大人しい。
~アイテム・技紹介~
・陸式ホッパーキック
ホッパーキック系の新技。
キックホッパーが使っていたライダージャンプからの急降下連続ライダーキックをそのままトレースしている。
・アームズメモリ
武装の記憶を内包したガイアメモリ。
装填すると左腕が赤黒いベースカラーに変色し、肩には如何にも世紀末なスパイクが生え、上腕部にはライフル弾が複数刺さったカートリッジベルトが巻かれる。そして前腕部にはドーパントと同じく液体金属で出来た可変型追加装甲、フレキシブルアームズが生成される。フレキシブルアームズは変身者の意思に応じて、あらゆる武器に変形する。
・グラディウス
フレキシブルアームズのバリエーション。ラテン語で《剣》の意味。
イメージ元はアマゾンネオのブレードだが、形としてはノクスウルフの剣に近い幅広の諸刃剣。
今回は角度が甘くへし折れたが、確り使い熟せば鉄板ぐらいなら簡単に切り裂ける。が、蝗丸とアームカッターがあるのであまり使い所が無い。
・タロン
バリエーションその2。英語で《(猛禽類の)鉤爪》の意味。
まんまアマゾンネオクロー。癖が強いが、それが使い道になるやも。
・バリスタ
バリエーションその3。ラテン語で《弩式攻城兵器》の意味。
バリスタと言いつつ、これもまんまアマゾンネオニードル。発射こそ出来るものの、銃器に嫌われる呪いの適用圏内の為、マトモに使えたもんじゃ無い。
・ボーゲン
バリエーションその4。ドイツ語で《弓》の意味。
イメージ元はELDEN RING NIGHTRAINの鉄の目アーツ、ワンショット。3mの大弓を展開し、超音速の大矢を放つ。現状唯一マトモに当たる遠距離攻撃だが、コウの右手を以てしても内出血を起こす程のバカ弓。