相変異 黒蝗   作:エターナルドーパント

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邂逅

(???サイド)

 

「はい!今月分の返済額、確かに受領いたしました!今後とも、カイザーローンを宜しくお願い致します!」

「はいはい。良いから、とっとと行けば?」

楕円体の顔面、そのディスプレイの眼を綻ばせる集金人を、冷たくあしらう。間も無く、そいつは車に乗り込んで出発した。

「ハァ・・・」

腹の底から、深く淀んだ溜め息を吐き出す。今月も切り詰めて切り詰めて、何とか乗り切った。でも、来月分もまたお金を集めなきゃ・・・

「・・・ハァ・・・」

止めど無く溢れる溜め息。肺の中に煙でも吸い込んだみたいに、全てが重くて、憂鬱。

「・・・パトロール、行こうかな」

沈む心を引きずりながら、私達の委員会室に向かう。私達の・・・

「って、未練がましいな。今は私しか居ないってのに・・・」

しんと静まり返った委員会室で、自嘲するように溢す。

そうだ。ユメ先輩も、()()()も、もうここには居ないじゃないか。

お金の受け渡しに使った大きめのバッグを、金庫前に放り投げる。そして窓際に置かれたソファに腰掛け、全身を沈ませるように体重を預けた。

「あ~・・・ヤバい、かも・・・」

頭が回らない。視界もボヤけて来た。最近、夜、眠れな・・・

 

━━━

━━

 

「ホシノちゃん、■■ちゃん。私、思うんだ。私達がこうやって過ごしてる日常は、実は奇跡の連続なんじゃないかって」

「ハァ、■■先輩?奇跡って言うのは、もっと特別なモノの事を言うんですよ?」

「そーそ。オツムのユルい■■ちゃん先輩が拐われたりせず、まだここに居られる事とかね」

「ひぃん!ひ、ヒドイよ■■ちゃ~ん!」

「まぁ、それに関しては確かに奇跡ですね」

「ホシノちゃんまで~!?」

 

「ねーね!これ見てホシノちゃん!リュック型の水筒だって!便利そうじゃない?」

「いや、どう考えても動くのに邪魔になるでしょ。クオリティも怪しいですし」

「そうそう。こんなでかい水筒じゃ、背負ってるだけでバテちまうっての。値段も不自然に安いし、安かろう悪かろうって言葉もあるんすよ?買うってんなら、あってペットボトルサイズのキャメルバックまででしょうや」

「うぇ~ん、2人とも辛辣すぎるよぉ~」

 

 

「いい加減にして下さい!奇跡だのなんだの、夢みたいな事ばっかり言って!」

「ちょ、おいホシノ落ち着けよ。気持ちは分かるが、そこまでキレる事ァねぇだろ?」

「落ち着く?落ち着ける訳無いでしょ!?現実を見ず、眼を瞑って、エサが落ちてくるのを待つ家畜みたいに奇跡を祈れって!?ふざけないで下さい!こんな何もない所に、人が大勢来る訳無いじゃないですか!!」

「おいホシノ!何も破かなくたって!」

「・・・ごめんね、2人とも」

 

「うそ、嘘、でしょ・・・?■■先輩、コンパスも、地図も持たずに・・・?」

「クソ!バカだバカだと思っちゃいたが、ここまでかよ■■ちゃん先輩!」

「探しにいかなきゃ!このままじゃ、■■先輩が死んじゃう!」

「えぇい待ってろ!緊急リュック引っ張り出して来る!」

 

「あぁ・・・ハァ・・・悪い、ホシノ・・・俺にゃ、無理だったか・・・」

「・・・捜索は、私に任せて。■■は、学校をお願い」

「・・・すまねぇなぁ、ホントに・・・」

 

「あぁ、ここに・・・こんな所に、居たんですね・・・■■先輩」

 

「なぁ、ホシノ。これ・・・何時まで続ける?」

「・・・何言ってるの?」

 

「・・・俺ら、ここに居る意味、あんのかな」

「ッ!■■、お前も捨てるのか!お前もアビドスを!」

「でけぇ声出すんじゃねぇよバカ!傷に響い・・・ぐっ・・・」

「っ・・・!」

 

「俺だってさ。ここには恩もある、情もある。未練だって勿論な・・・でもな、結局この借金全部・・・見も知らねぇ他人に、勝手に背負わされたもんじゃねぇかよ・・・俺は、■■ちゃん先輩が恩人だから、支えたくて背負ってたよ。けど、その要が居なくちゃ・・・背負えねぇよ」

「じゃあどうするってのさ!」

「・・・俺が、半分程減らす」

「・・・は?」

「4億、俺の身柄に出すって言ってる物好きがいる。だから・・・」

「何これ・・・退学、届?」

「お前は借金が大幅に減らせる。俺は、この学校の下らねぇ呪縛から解放される。Win-Winってヤツだろ」

「待って」

「暖簾に手押し、糠に釘・・・」

「待ってったら」

「無駄な延命処置を延々続けるのは、もううんざりなんでな」

「待てよッ!お前っ!逃げるのか!?お前もッ!?お前にとってアビドスは、■■先輩は!」

「そォだよその程度だよ!一度ポッキリの華の10代!借金漬けの高校になんざ、注ぎ込んでられるか!」

「ッ~!もう良い!そっちがそのつもりなら、もうどうでも良い!お前なんか━━━━━━!」

 

━━━

━━

 

「かはっ!?」

高所から地面に叩きつけられるような感覚に襲われて、一気に目を醒ます。バクバクと喧しく暴れまわる心臓を押さえ付けて、無理矢理に空気を吸い込み、吐いた。

「ハァ、ハァ・・・っハァ・・・っ」

喉奥に迫り上がってくる熱い酸を、胸を叩いて無理矢理押し戻す。グルグルとお腹の中で何かが暴れ回るような感覚に、思わず涙が溢れた。

「ハァ・・・ホント、寝たらこれだもんなぁ・・・何で、あんな事言っちゃったかな・・・」

身体は落ち着いても、今度は心を踏み潰すような後悔が襲って来る。胸の中が捻くれ、鳩尾が握り潰されるような、そんな重いものがのし掛かる感覚。

あの時、お互いに追い詰められて余裕が無かった。それは分かってるし、普通に考えればアイツの言ってる事は何も間違ってない。けど、アイツには・・・私と同じ時間をアビドスで過ごしたアイツにだけは、去って欲しく無かった。自分勝手な我が儘だって事は分かってるのに、後悔がずっと、心に刺さって取れない。

 

━ポコンッ━

 

「・・・今日もか」

通知音が鳴ったスマホ。確認してみれば、思った通りの内容。

「今日は、15万か・・・」

それは、何処かの誰かから送られて来たお金。今月に入ってから毎日、正体不明の入金がある。今日は15万円だが、日によっては60万とバカにならない金額が放り込まれる事もある。今日の金額は昨日と変わらないが、それでも合計すると1000万円の大台に到達していた。

「何考えて・・・アイツ、な訳無いな。無言で送る意味が無いし、そもそも嫌いな学校にお金を送る理由も無い」

モヤモヤとしたものを抱えながら、先輩の遺品、折り畳み式のシールドを担ぐ。

「・・・行ってきます」

返事は無いと分かっているのに、この挨拶は止められない。そうしないと、まるで私まで、ここに居ないみたいだから。

 

(コウサイド)

 

「よう、来たぜ」

「待っていましたよ、イナホさん」

ゲマトリアの拠点の一室。テーブルを1つのスポットライトのみが照らす暗い部屋で、黒服と、そしてマエさんが待ち構えていた。

「其方の望みの品、漸く完成と至った」

「それは何より。開けてみても?」

「心往くまで」

テーブルの上のアタッシュケース。そのロックを外し、ガパリと開く。

「ほぉ・・・これはこれは」

中にあったのは、ゴツい赤のガラケーと黄色のデジタルウォッチ、そして青のカメラ。更にそれぞれと対応するカラーリングの、電子部品そのもののような造形のメモリ・・・疑似メモリが3本。

「其方のコンセプトアートから図面に起こし、更に動力や剛性にまで気を配った。中々骨の折れる作業だったが、満足頂ける出来に仕上がった筈だ」

「マエさんが言うなら信じる他ねぇな」

3つの内、赤いガラケー、スタッグフォンを取り出し、フレーム表面の赤いボタンを長押し。ピロピロと電子音を鳴らしながら赤い光が指をスキャンし、メイン電源が起動する。

【STAG】

疑似メモリも取り出し、スタッグフォンのメモリスロットに装填。再び起動スイッチを押した。

【STAG】

スタッグフォンはみるみる内に変形し、クワガタを模したライブモードとなる。自由自在に飛び回るその動きは、俺の知識にある物と何ら変わらないハイレベルなものだ。

「対上位層生徒想定、ライダーサポートメモリガジェット01スタッグフォン。電波の送受信は勿論、妨害電波の発信や中継電波基地局としても機能する仕様だ。またSNS機能も搭載。ウイルスバスターは現行で最高峰の物をインストール済みだ。

マグネシウム合金の特殊装甲は、9mmパラベラム弾では傷1つ付かない強度を誇る。また、他のガジェットとの通信互換性も当然備えている」

「じゃあ、スパイダーショックは?」

「屋外追跡調査仕様、メモリガジェット02スパイダーショック。高精度電波時計機能は勿論、ストップウォッチやタイマー、アラームも完備。更に発信器の追跡や各種高周波、電磁波の検出も可能な高性能センサーを搭載してある。ベースバンドの生体認証によって、特定個人以外は起動不可能だ。またワイヤー射出とその巻き取りにより、300kgまでなら吊り上げられる設計となっている」

「何つう馬力だよ・・・最後は?」

「多目的撮影送受信仕様、メモリガジェット03バットショット。1500m先まで人の顔を識別可能な望遠機能、連続12時間の録画容量、更にエコーロケーションによる地形の3Dマッピングも可能。また、撮影中の映像をスタッグフォンを初めとした特定のデバイスに中継する事も可能だ」

「共通機能は?」

「相互通信とマキシマムドライブ機能」

「速度は?」

「スタッグフォンが時速50km。バットショットが135、スパイダーショックが35」

「互換性は?」

「ガジェットポートによる装着が可能。受け口付きの武器を機能拡張出来る」

「充電ポートは?TypeCか?ライトニングか?」

「其方のスマートフォンに合わせ、TypeCを採用している」

完全(パーフェクト)だマエストロ」

「感謝の極み」

恭しくお辞儀するマエさん。俺は上着の内ポケットにバットショットとスタッグフォンを収納し、腕にベースバンドごとスパイダーショックを装着した。若干の重さはあるが、まぁ許容範囲内だな。

「一応、開発には私とゴルコンダとデカルコマニーも携わっているんですが」

「あ、そう。そいつはどうも、お疲れさん」

「軽くないですか?余りにも扱いが」

「日頃の行いの差が如実に出てるだけだろうがよこの皹割れピータン頭」

「・・・」

黒服がブツクサ言い始める前に黙らせ、マエさんと握手を交わす。俺もコイツの扱いは十分分かってる。コイツはこれぐらいで丁度良い。

「そして、今回の依頼に於ける最大作。それもお目にかけよう」

握った俺の手をエスコートするように握り変え、誘うように引くマエさん。スロープを登り、導くように引かれた手は、滑らかな布の感触に触れる。

その布を掴み、勢い良く引き剥がした。同時にスポットライトがもう1つ点灯し、そこに置いてあった物を映し出す。

暗いモスグリーンをベースに、カウルの境界線を朱く縁取ったボディ。見たところ原車はハードボイルダーと同じくCBR1000RRだが、彼方と違ってフロントカウルの角はW型では無く、バッタの触覚を鋭角化したようなデザインだ。

「仮面ライダー専用、路上走行特化型高機動特殊二輪。全長208cm、重量165kg。最高時速は580kmです。因みに名称は未定となっております。どうぞお好きに」

「おぉ、コイツの解説口上はお前なのね」

「メイン設計は私ですのでね。クックックッ、いやはや苦労しましたよ」

「おう、ありがとうな」

「流石の私も凹む時は凹みますよ?」

「あぁそうなの?意外だわ」

遠い目をする黒服を徹底的にあしらい、バイクに跨がる。アクセル、ブレーキ、クラッチ、ギアペダル。其々のパーツの動かし心地を確かめ、軽く走行時を想定した入力を試した。全て硬過ぎず軽過ぎず、丁度良い塩梅の反発だ。

「良いな。ちょっくら後で乗り回させて貰うぜ、慣らしがいるからな」

「それは結構。ですが、今回はそれだけではありません」

「ほう・・・まさか」

バイクから降り、スロープを跳んで元の位置に戻る。黒服がリモコンのスイッチを押すと、左右からガコンとフレームが起き上がり、ハッチのように閉じて流線型の車体を形成した。

「・・・まさかこれも作ってたのか。前言撤回だ、よくやった黒服」

「ククク、全くどれだけ難航した事か・・・仮面ライダー専用特殊高機動二輪、補助構成用重装特殊戦車。背部に搭載したハンガーコンテナにより、悪路走破特化のパッケージ装備を装着出来ます。設計思想としては移動要塞なので、トーチカのような運用も可能です。ですが、流石に渡された資料のような換装パーツは作れませんでした。ご容赦を」

「良いさ、こんだけのもんを作ってくれたなら、文句はねぇよ」

口角が吊り上がるのを自覚しつつ、黒服を労う。スタッグフォンを開いてコマンドアプリで命令を送信すれば、装甲板が開いてバイクが露出する。

「名前、どうしたもんかな」

どうせならカッコいい名前を付けてやりたい。だがボイルダーってのはちょっと俺には似合わないかもな。うむむ、どうしたものか。神話関係から取ってみるか?

「蝗、蝗害、アバドン?はあのネットイナゴ共が既にいる。うーん、終末のラッパ?アバドンは確か第5のラッパ・・・5番、か。よし、キーワードは5にしよう」

5をネーミングの核と定め、取り敢えず多言語に変換して行く。

英語のファイブ、は在り来たりだし、何か他にも番号が無いと不自然だな。もっと日本語圏じゃ普段使いしない言語が良い。イタリア語が確かチンクェ・・・ん~、違う。こういう時に頼りになるのがドイツ語・・・フンフ、うんダメだ。気が抜ける。となると後は・・・ラテン語とか?ラテン語の5は確か・・・

「クィーンクェ・・・クウィンケ?お、カッコよくね?」

クウィンケ、クウィンケー・・・うん、何かしっくり来るな。

「じゃあ、コイツの名前はライドクウィンケーだな。ギャリーの方は・・・バイクの第2形態みたいなもんを積んでる訳だし、こっちもラテン語でドゥオルギャリーだ。ダブルから一捻りって感じで」

「悪く無い名だ。上手く使え。後はガイアメモリの複製なのだが・・・」

「・・・その様子見ると、芳しくは無さそうだな」

ギシギシと身体を軋ませ俯くマエさん。相当難儀しているらしい。

「一先ず、防御力が懸念と言うオーダーに則しクイーンとメタルを精製中だが、まだまだバグが多く・・・ゴルコンダが悪戦苦闘している」

「そっか。剰り根を詰め過ぎないでくれと伝えてくれるかい?」

「任された。さぁ、試乗をして来たまえ。黒服はこう言った方面には強い故、性能は保証出来る」

「おう。じゃあ行ってくるわ。えっと、エンジンスタートは?」

「メモリガジェットの何れかを持った状態で、アクセルグリップを逆回転させれば起動出来ます」

「おうおう、これまた妙ちきりんなギミックを」

グリップを捻ると、確かにエンジンがドルドルと音を立てて始動した。

座席をガパッと開けると、フルフェイスのヘルメットが収納されている。それを被り、ライドクウィンケーに跨がった。

「じゃ、行ってくるわ」

「ハンドル中央にスタッグフォンのマウントベースがある。ナビゲーションアプリも搭載済みだ。上手く使ってくれたまえ」

「おう!痒い所に手が届くねぇ、流石だよ!」

「それ私の発案なんですが」

「おー良くやった、褒めてやる」

「徹頭徹尾ですね貴方」

眼前のシャッターが開くと共に、スロットルを回してクラッチを繋ぐ。心地好い加速感の中で、自然と頬が緩むのを感じた。

 

(NOサイド)

 

「では、ブリーフィングを開始します」

薄暗いゲマトリア本部で、黒服が場を仕切る。円卓の中央にはアビドス砂漠の地形図がホログラムで映し出されており、コウがその映像を覗き込んでいる。

「今回のミッションは、デカグラマトンの予言者の1体、《違いを痛感する静観の理解者》、ビナーの撃退です」

「おーおー、何とも仰々しい二つ名だこと」

呆れたような顔をするコウの目の前に、攻撃目標、ビナーの映像が投影される。比較用に同じ縮尺の戦車と並べられて。

「・・・でっけぇな何だこれアペプかよ。アビドシアンデスワームってか?」

とぐろを巻いて尚、戦車の数十倍を誇るそのサイズにドン引きするコウ。そして同時に、絶望的な予測を立てて黒服に問う。

「なぁ、まさかコイツ、謎のエネルギーによる鉄壁バリアとか張ってるタイプじゃねぇだろうな?」

「ご心配なさらず。ビナーの防御は物理装甲に依存しており、エネルギーバリアの類いは観測されておりません。少なくとも、今の所は」

「あぁそう、そいつは何より。じゃ、取り敢えずレールキャノンの狙撃はいらねぇか。いや、寧ろそれが出来りゃ手っ取り早いんだが・・・」

コウは若干の安心と共に、口をへの字に曲げてぼやく。そんな様子を他所に、黒服の説明は続く。

「主な攻撃方法についての説明です。背部から撃ち出すミサイル、大道の劫火。高出力且つ中々高い誘導性能を持ちますので注意を。そして口腔内から発射する高出力の収束レーザービーム、アツィルトの光。此方は岩石さえ融解せしめる必殺級の威力となりますが、どうやら発射時にはかなりの硬直を伴うようです。側面に回り込むなり仰角下限の内側に入り込むなりすれば、逆に攻撃の好機となりましょう」

「岩融かすビームの懐に飛び込めってか?1ミスで彼の世(愉快な世界)行きだな」

「そうなる可能性を下げる為に、急いでこれ等を仕上げた次第だ」

マエストロが割り込み、ガパリとアタッシュケースを開く。そこにあったのは、精製型のガイアメモリ5本。

「クイーンにメタルは良いが、ヒートにトリガー?そんでもう1本は初見だが・・・ん?」

メモリを取り出したコウはまじまじと見つめ、直ぐ様違和感に気付く。

「フレームがスケルトンじゃねぇな。疑似メモリか?」

「然り。精製と純化が追い付かず、苦肉の策としてな。中途半端は私の望む所では無いが、完成しなければ元も子も無い。済まないが、それぞれマキシマムは3回が限度と思っておいてくれ。そして、もう1つ」

マエストロが取り出したのは、5本目のメモリ。硬質な指が音を発てて、スイッチを押し込む。

MIMESIS(ミメシス)!】

「ミメシス・・・って確か、マエさんの領分の?」

「ミメシス。それ則ち芸術的解釈の第一段階、模倣の記憶。其方ならば役立てられる筈だ」

手渡されたミメシスメモリも、同じく不透明なフレームの物。コウはそれを透かすように眺めて、他の4本と共に上着の内ポケットに入れる。

「ガイアメモリは解釈の力。故に、私からの説明は差し控えさせて頂く。其方のテクストの解釈、見せてくれたまえ」

「あいよ。まぁ、模倣ってんなら幾つか覚えがある。上手い事やって見せるさ」

ニヤリと不適に笑うコウ。既に幾度かミメシスとの戦闘を経験した彼女の中には、既にこのメモリの使用方法として適したものが浮かんでいる。

「しっかし、こんなデカいのホントにどうにかなるかねぇ?負ける気は無いが、勝てる気もぶっちゃけしねぇ・・・」

「因みに予測進行ルート上にはアビドス高校及び近隣のエリアが重なっていますね」

「ハァイいよいよ負けられないわねぇ!」

自棄を起こしたように腕を振り上げる。コウにとって、行動指針の上位には《叢雲コウの願い》が組み込まれている。故に、アビドスが絡むならば守らぬと言う選択肢は無い。

「まぁ本気でやるっちゃやるけどさ。しっかり報酬弾めよ?」

「勿論です。戦闘報酬は250万、生還報酬で更に250万。撃退が成功すれば、追加で500万となります」

「生きてれば500万、撃退すれば1000万ねぇ。もしも失敗したら、そん時ゃ戦闘報酬はアビドスの借金にブチ込め。あと俺の預金残高全額。死亡保険代わりだ」

「承知いたしました。そしてこれを装着して下さい。データをリアルタイムで此方に送信する発信器です」

黒服が取り出したのは、小振りな黒いチョーカー。コウはそれをまじまじと見つめ、スッと眼を細める。

「自爆装置とかキルスイッチとか着いてねぇだろうな?」

「着けていませんよそんなもの」

「なら良いさ。さーてと?お仕事開始と行きますか」

コウはチョーカーを受け取って腹部に手を翳し、ドライバーを出現。そして取り出したホッパーメモリを持った右手をスナップさせ、スイッチを押す。

【HOPPER!】

「変身ッ!」

【HOPPER!】

ドライバーに差し込まれたメモリから、回路基板にも似た模様が身体に走る。それが涙ラインのように両眼を通過し、ダークグリーンの外骨格と化した強化皮膚が全身を覆った。

眼は紅く輝き、全身から蒸気が噴き出す。

「そう言えば、その姿。仮面ライダーとしての固有名を、まだ決めていませんでしたね」

「あぁ、それならもう決まってる」

ライドクウィンケーに股がり、肩越しに振り向いたライダーが言った。

「ローザスト。蝗のローカストと、厄災のデザストルで、ローザストだ。以後、お見知り置きをってな。じゃあ、行ってくるぜ」

スロットルを捻り、エンジンを吹かす。そして回転数の上がったエンジンに、ガチンとギアを繋いだ。ギャリギャリと細い履帯(キャタピラ)が回り、前輪を跳ね上げながら発進する。

自棄もある。使命感もある。だが決して小さく無い強敵への期待も、仮面の下には浮かんでいた。

 

(コウサイド)

 

「おーおー、ホントにでっけぇな」

午後3時、アビドス砂漠。走破ユニットでゴツくなったライドクウィンケーの上に立ち、作戦目標を見遣る。

巨大な蛇に鯨のような背鰭を着けたような機動兵器、黒服曰くデカグラマトンの預言者ビナー。身体の厚みだけで15mはありそうなそいつは、時速40km前後で進行している。

「ロボットにしちゃヘイローがあるのが気になるが・・・にしても、作った奴ァ良いセンスしてやがるな。ミラーモンスターにも似たものを感じるぜ。全く、どうしてこうかっこいいロボットとは味方同士になれねぇかな」

ドスンとシートに落下するように座り、スロットルを回した。悲観してもしょうがない。あれを止めなきゃ、アビドスが御陀仏だ。

「じゃ、お仕事開始と行きますかね!」

震えそうになる手を抑え、チョーカーを装着。腹から声を出し、気合いを入れる。砂塵を巻き上げて発進したクウィンケーは、みるみる内にビナーとの距離を縮めた。

「あーあー、ビナーくん!ビナーくん!ちょーっと止まって下さーい!」

取り敢えずビナーの右隣に並走しながら、物は試しと声を掛けてみる。結果、梨の礫。当然だろう。

「そりゃあの根っから研究者な黒服が撃退しろって言う時点で、対話は出来ねぇんだろうな。まぁ良いや!じゃあ、ボコボコにぶっ叩くのプランB!」

TRIGGER(トリガー)!】

トリガーメモリを起動し、ドライバーの左スロットに装填。すると左腕が青色に変色し、前腕部にトリガードーパントのそれに酷似したライフルが、左胸にはトリガーマグナムが生成される。

「おー!至れり尽くせりじゃん?じゃあ、気を取り直して、ノックしてもしも~し?」

左腕のライフルから、エネルギー弾を連射。1m以上離れているので当然弾道が凄まじい勢いでネジ曲がるが、どう曲がっても巨大なビナーの身体を外しきれず、広範囲にばら蒔くように命中する。

「お、漸くこっち向きやがったか。悪いが、このまま気持ち良く泳いで貰っちゃ困るんだ。こっから先は通行止めだぜ!トォウッ!」

トリガーを引き抜き、座席から跳躍。一跳びでビナーの顔面に肉薄し、右足を突き出した。

「どォうるァ!」

跳躍の勢いに脚力を真っ直ぐ乗せ、ビナーの下顎を撃ち抜くように蹴る。

『グルルァアッ!?』

反動で弾丸のように地面に吹っ飛びながら奴を見てみれば、もたげていた頭がグラリと揺れていた。効いてはいるらしい。しかし此方も代償はある。

「いってぇ・・・!」

脚の骨が負けた。砕けてはいないが、罅が入っている。感覚で分かる。

だが、それも数秒で治まった。ガイアメモリによる肉体変質は、再生力も向上する。生命力の強い節足動物型はそれが顕著だ。骨に走った罅は即座に接着され、より剛性に富んだ構造で補強される。

「・・・よぉーし、両者ダメージ量的に大差無し。こっからが本番だな?」

『グロロロロ・・・ゴアァァッ!』

背中から放たれるミサイル、確か大道の劫火だったか。大きさからして、当たれば只では済まない。

「タッ!ハッ!トウッ!」

全身のバネを連動させて跳躍。迫るミサイルの側面、それを足場に再び跳ぶ。

さっきは片脚で蹴って負けた。なら、次はどうするか。単純明快。

【HOPPER!MAXIMUM DRIVE!】

「肆式!ホッパー!キィック!」

両脚を揃え、踵で踏み付けて抉り抜くように奴の顔面を蹴る。更にマキシマムのエネルギーも追加でぶつかり、時間差で爆発も起こった。

「ハッハッハァ~!痛いかクソッタレ!当然だ、75tの衝撃力に耐えられるもんか!」

『グロララララ・・・!』

口腔内から光を漏らし始めるビナー。どう見てもビーム、アツィルトの光の予備動作だ。懐に飛び込めば・・・ッ!

「いや、この軌道だと市街地に飛ぶかッ!?えぇい間に合えッ!」

METAL(メタル)!】

【HOPPER!MAXIMUM DRIVE!】

「ホッパー!アハトアハトゲイザー!」

 

(NOサイド)

 

「また、振り込まれてる・・・」

口座管理アプリを確認し、重々しく呟く少女・・・小鳥遊ホシノ。

彼女の管理する、アビドス高等学校の借金返済用口座。そこに毎日振り込まれる、不定額の大金。それらは当初、彼女の頭をこれでもかと悩ますものだった。しかし、思い当たる金融機関を調べても一致する金額の変動は無く、一向に何の要求も干渉も無い状況に、取り敢えずノータッチで放置すれば問題無いだろうと言う結論を彼女は下した。

「ほんと、何を考えてるんだか。こんな所に匿名で金を送り付けるなんて、腹の黒い碌で無しか、それとも酔狂なバカか・・・っ」

ホシノの背に、ゾワリと悪寒が走る。砂漠の夜は寒いが、まだまだ日は高い。風邪も、生まれてこの方引いた事は無い。何より、物理的な要因の寒気では無いとホシノは感じた。

胸騒ぎ、虫の報せ、第六感・・・不確定なそれらが、ホシノに何かを伝えせようとしている。

「なんだ・・・何か、嫌な予感が・・・」

 

━シュバォウッ!━

 

「なっ!?」

何の気無しに見上げた空は、紅い光線で切り裂かれた。

それは2秒と経たず途切れたが、ホシノはそれが尋常でない威力を持つ破壊光線だと確信する。

「あっちは、アビドス砂漠!」

愛銃と盾をひっ掴み、ホシノは駆け出した。己に残された、最後の意義を護る為に。

 

━━━

━━

 

「ずォおおりゃァァァ!」

『ガロロロロロッ!!』

 

「・・・なに、あれ・・・」

1時間と経たず駆け付けたホシノが見たもの。それは、巨大な機械蛇(ビナー)異形の怪人(ローザスト)()()との壮絶な殺し合いだった。

殴り、蹴り、刀で斬り付け、微々たるダメージを装甲に与えながら、しかしのたうち回るビナーの身体に潰され、ミサイルに吹き飛ばされて消滅する青白い怪人達。

(インフルエンザの高熱に魘されると訳の分からない夢を見るって言うけど、こう言うのを見るのかな)

情報を処理しきれず現実逃避を始めるホシノの頭脳。そんな彼女に、ダークグリーンのローザスト、分身では無く本体から声が掛かる。

「おいそこのチビッ子!危ねぇからとっとと逃げろ!洒落にならん!」

「なっ!誰がチビだ!これでも高校生だぞ!」

「あ゛ッ!?って、良く見りゃ・・・っとう!」

本体がビナーとの戦闘から一時離脱し、ホシノのすぐ側まで跳躍。砂地に脚を取られかけながらも着地し、彼女と眼を合わせる。

「成る程、さっきのアツィルト・・・あー、レーザーを見て来たって所か。そりゃお前さんなら放っとけんわな」

「ッ!お前、私の何を知ってる訳?」

「おいおい一々殺気立たせるな。徹底的に情報統制してなきゃ、これぐらいの情報は浸透するもんだよ。アビドス高校の守護者、小鳥遊ホシノ」

「・・・その守護者ってのは止めて、バッタ人間」

「じゃあそっちもその失礼な呼び方は止めろ。俺はローザスト、仮面ライダーローザストだ」

「かめんらいだぁ?」

訝しげに首を傾げるホシノ。対して、ローザストはクツクツと喉を鳴らして笑う。

「聞き覚えが無くて当然。何せ俺以外に名乗った奴は居ないから。だが、今俺はこの名に懸けて、アビドスを護る為にここに居る」

「何で、そんな事するの?見ず知らずの自治区の為に、どうして態々・・・」

「あー、どう答えたもんかな・・・」

ガリガリと頭を掻き、必要な語彙を引っ張り出そうとするローザスト。それが何だか人間臭くて、ホシノは若干毒気が抜かれる。

「俺が、仮面ライダーだからだな」

「は?」

「俺が、俺の心が、自我が、魂が・・・仮面ライダーはそうするものだと信仰している。それに、私利私欲の為に暴れたライダーも居るには居るが・・・それでも、多くのライダーはこの状況で、同じ選択をするだろうって確信してる。

だったら、ぽっと出の新人がその看板に泥を塗っちゃいけねぇ。だから戦うのさ」

「・・・訳分かんない。何一つ・・・」

「ハハハ、それで良いさ。さて、俺のミメシスがそろそろ全滅するな。助太刀、頼んで良いかい?俺だけじゃ、どうにも決定打に乏しくてな」

「・・・まぁ良いけど。さっきの分身?あれもっかい出せる?」

「あと2回、50体ずつ。それで看板だな。さっきも50体出したんだが、いやはや1時間持たねぇとは」

脳波操作でライドクウィンケーを呼び寄せ、シートの収納から圧縮カロリーバーを取り出し噛み砕く。その鎧やプロテクターとは根本的に違う、肉体と有機的に結合した外骨格の構造に戦慄を覚えつつ、ホシノが問う。

「こんな時に食べて大丈夫なの?吐かない?」

「寧ろちょくちょく補給しなきゃ、すぐガス欠になっちまうんでね。つい最近もそうなったんだ。いやぁ四方八方からバカスカ撃たれて死ぬかと思ったぜ」

【MIMESIS!MAXIMUM DRIVE!】

カロリー補給を済ませたローザストは、再びミメシスのマキシマムを発動。青白く輝く左腕を地面に叩き付け、エネルギーを周囲に伝播させる。水面のように広がったエネルギーの力場から、複製されたローザストの群れが次々と立ち上がった。

「さぁてと、小鳥遊ホシノ・・・共に、大蛇狩りといこうじゃないか!」

メキメキと背中から生えた翅を広げ、不敵に笑うローザスト。その姿は、正に害虫の皇だった。

 

To be continued・・・




~キャラクター紹介~

・小鳥遊ホシノ/ホルス
原作より精神負荷が著しいホルス。
自分がキレたせいでユメ先輩が死に、その後暫く支えてくれた級友も心が折れ、袂を別ち自主退学。そのお陰で借金は半減したが、それでも月々の返済の義務が無くなる訳も無く、日夜駆けずり回って金を集めている。
最近は差出人不明の大金が送られて来て警戒していたが、取り敢えず使わずに貯め込む事にした。現在1000万ちょい貯まっている。
ローザストに対して、最初は猜疑心を抱いたものの、取り敢えずビナーを倒さないとアビドスが大変な事になると理解したので呑み込んだ。
シールド&ショットガンスタイル。

・叢雲コウ
新しいガジェットにウキウキな飛蝗少女。
バイクの為に大型二輪免許を取り、遂に専用バイクを乗り回す。
マエストロに対しては賛辞を惜しまない一方、黒服に対しては徹頭徹尾ドライ。仕事以上の関係には絶対にならないと腹に決めている。
仮面ライダーに対しては重く強い愛を抱いており、故にその名を背負ったからにはと、赤の他人を護る事を矜持とする。

・黒服
今回結構頑張った奴。
ガイアメモリ、メモリガジェット、マシンの全てをマエストロないしゴルコンダ&デカルコマニー、あるいは両方と協力して開発している。
しかしコウには徹底的に塩対応をされており、受け入れつつも若干悲しんでいる様子。

・マエストロ
コウとゴリゴリに仲良くなった芸術家。
ガイアメモリ製造の第一段階として、模倣の応用によってホッパーメモリをベースにメモリを複製。更にそのリバースエンジニアリングを黒服が、内部データの書き換えをゴルコンダが担当している。

・ゴルコンダ&デカルコマニー
今回影で結構頑張ってた人達。
メモリの中に封入されている事象のテクストを書き換え、別種のメモリに変換すると言う重大作業に従事していた。

~アイテム・ガジェット紹介~

・スタッグフォン
ガラケー型メモリガジェット。
高強度の通信能力に加えて、電波妨害や通信傍受、更に変形による飛行や攻撃も可能。
原作と同じく、武器に装着して攻撃を変質させたり、メモリスロットによるマキシマム発動も可能。

・スパイダーショック
腕時計型メモリガジェット。
あらゆる電磁波や高周波を感知可能。更に発信器の追跡や解析等も出来る。変形すれば凄まじい馬力のウィンチによって人やバイクを引っ張りあげる事も出来る他、攻撃や単独追跡、GPSによる座標共有もお手の物。

・バットショット
デジカメ型メモリガジェット。
超望遠レンズによる高画素写真及び映像の撮影、更にリアルタイムでの送信も可能。
変形すれば高速飛行に加えて、エコーロケーションやサーモグラフィによる地形把握と共有によって屋内戦でのサポートに秀でる他、カッターになっているウィングで敵を攻撃する事も出来る。

・ライドクウィンケー
仮面ライダーローザスト専用大型二輪。
高馬力且つ消音性抜群のエンジンを搭載し、更に後部にオフロード用パッケージを装着する事で悪路も難無く走破する。

・ドゥオルギャリー
ライドクウィンケーオフロードパッケージ脱着用高機動特殊装甲車。
リボルギャリーと違いキャタピラで走行する他、リボルバーハンガーでは無く大出力エンジンを積んでいる為、機能的にはスカルギャリーに近しい物となっている。因みにキャタピラ部分はAC6の軽量タンク。

・疑似メモリ
マエストロが複製し、黒服が解析し、ゴルコンダ&デカルコマニーが改竄したゲマトリア製メモリ。見た目はエンジンメモリに近く、クイーン、メタル、ヒート、トリガー、ミメシスの5本。
純化が足りずシステムも不完全なので出力も低く、3回マキシマムを使えば壊れてしまう。

~技紹介~

・肆式ホッパーキック
全身のバネを活かした跳躍から繰り出す、抉り抜くようなドロップキック。敵へのノックバック性能が高く、戦車であろうと軽く10mは押し飛ばす威力を誇る。

・ホッパーアハトアハトゲイザー
メタルをレイズし、金属化した左腕にホッパーのマキシマムのジャンプを合わせて放つ、強烈なアッパーカット。その性質上、自分より相手の標高が高い時にしか使えないが、ビナーの頭をカチ上げる威力を発揮する。
技名の由来は言わずもがな、8.8(アハトアハト)の愛称で広く知られるドイツの高射砲。更にそれで顎を打ち上げ、空を見上げさせる所から見上げる者(ゲイザー)も付けている。
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