相変異 黒蝗   作:エターナルドーパント

6 / 32
黒嵐

(コウサイド)

 

【HOPPER!MAXIMUM DRIVE!】

「神食斬!ヂァエッ!」

全速力の抜刀。鞘の内に纏っていたエネルギーが、三日月にも似た光波となってビナーに打ち付ける。

ビナーの口から溢れていた光が弱まり、苛立たしげに大道の劫火を代替火力として放つビナー。

「でぇりゃあッ!」

そのミサイルを俺と同じく足場にし、暁のホルスことホシノが顔面にショットガンを連射した。

『ガラロロ!?』

強烈な衝撃力を連続で叩き付けられ、ビナーがよろける。

何で俺のライダーキックちょい手前ぐらいの威力がショットガンから飛び出してんだよ。流石はキヴォトス、訳分からん。

「ま、此方も火力ぶつけていくか!」

【HOPPER!MAXIMUM DRIVE!】

【【【【MAXIMUM DRIVE!】】】】

俺と共に4体のミメシスがマキシマムを発動。納刀した蝗丸にエネルギーを圧縮し、先程と同じく居合斬りを繰り出して神食斬を5発叩き込む。すると、今度は奴のヘイローや身体に浮かぶオレンジの光までもが減衰するように弱まった。

「あ?攻撃がジェネか何かに響いてんのか?いや、それにしちゃホシノの攻撃は減衰を起こしてねぇ・・・もしかして、俺の固有能力か?」

そう言えば、さっきのミメシス召喚で生えて来た背中の翅。あの推定エネルギー減衰反応も、これが生えてからだ。空力特性で姿勢制御がしやすくなったし放熱もしてくれるから便利、で思考止めてたが・・・これってまさか・・・!

「相変異・・・!そうだ、当然じゃねぇか!個体群密度が上がれば、飛蝗は群生相になる!寧ろ俺のルーツはそっちだったろうがよ!」

これは、非常に宜しく無い。俺はあくまで、蝗害の恐怖に仮面ライダーの神秘で蓋をしているだけだ。制御出来てる訳じゃ無い。長期戦になれば、俺の中の()()()にまた主導権争いを吹っ掛けられかねない。

「短期決戦しなきゃ拙いな」

「何!?何か問題!?」

「悪い!時間の余裕が無くなった!一気に畳み掛ける!」

【TRIGGER!】【HEAT(ヒート)!】

トリガーをレイズし、左胸に生成されたトリガーマグナムを手に取る。そのマキシマムスロットにヒートを装填し、マグナムを変形してマキシマムモードに移行。

【HEAT!MAXIMUM DRIVE!】

「念には念を・・・或いは、一か八か!」

【HEAT!MAXIMUM DRIVE!MAXIMUM DRIVE!MAXIMUM DRIVE!MAXIMUM DRIVE!】

「ぐおぉぉぉぉ!?」

マキシマムのエネルギーを放出せず、再び変形してマキシマムを追加発動。狂った録音機のように繰り返されるガイアウィスパーに比例するように、トリガーマグナムは赤熱化していく。

「ちょっ、どうみてもヤバイでしょそれ!大丈夫なの!?」

「ハハ!下手すりゃここら一帯ドカンだろうな!だが、ぎぃっ・・・!ケッ、ここまで来たら半分自棄だ!出血大サービスも乗っけてやらァ!」

【TRIGGER!MAXIMUM DRIVE!】

更にドライバーに装填したトリガーメモリでもマキシマムを発動。ヒートのエネルギーを無理矢理統制し、圧縮と収束に拍車を掛ける。

スタッグフォンじゃなくてビートルフォンのが良かったかも、と若干後悔しながら、物理的に手を焼き続けるマグナムを頭上に向けた。

「俺の銃弾は当たらねぇ!なら、銃弾の定義を塗り潰す!はぁァァァァ!!」

焼け付いたトリガーを引き、エネルギーを一気に放出する。収束した熱が空気を蒼く燃やしながら、光の柱となって天を貫いた。

「抜刀ォ!ヒュージブレードォ!」

そのまま、マグナムの銃口を一気に振り下ろす。アツィルトの光にも迫る超高熱の収束赤外線が、ビナーに振り下ろされた。

 

━ドッガオゥッ!━

 

『ギュララララッ!?』

着撃と同時、迸るように爆ぜる炎。更にそれを吹き飛ばすような衝撃波が、空間を叩き砂を巻き上げる。

「なッ、何!?何したの!?」

「へ、へへ、いや何、アイツにもお熱いレーザーを喰らわせてやったのよ」

超収束赤外線・・・空気を瞬時に焼き切り、屈折させ、最早視認すら出来るようになった程のそれは、奴の装甲とその周囲の空気を一気に加熱・・・落雷みたく、音速を突破する速度の熱膨張を発生させた。軽く見積もって摂氏1万度、その急加熱と至近距離衝撃波のダブルパンチだ。耐えられるなら耐えてみやがれってな!

『ギャララララ・・・!』

「へっ、漸く倒れたか。無駄に硬ぇんだよ、クソ蛇野郎がよ・・・」

バックリと巨大な袈裟斬り傷を受け、もたげていた鎌首を地に伏すビナー。俺の焼け爛れた手からズタボロに歪みまくったマグナムが溢れ落ち、メモリが排出されると同時にバチバチとスパーク。バキッと不吉な音を発てて、恐らく完全に壊れた。

ビナーは砂に頭を突っ込み撤退を始める。

「だ、大丈夫?」

「じゃ、ねぇなこりゃ。疲れたとかそう言う次元じゃねぇ・・・あぁ、腹減っ」

 

喰わせろ

 

━ドクンッ━

 

「がっ!?」

腸が螺くれるような感覚と、大きな拍動。腹の底から沸き上がる焦熱感。否、それに紛う程の強烈な飢餓感。そして、脳髄を直接殴り付けてくるような衝動。

「畜生ッ、よりによってこのタイミングで・・・っ!?」

内臓を内側から貪られるような激痛と、暴れまわる捕食欲求。頭と身体を振り回され、のたうち回る。

「えっ!?こ、今度は何!?」

「駄目だッ!寄越せ!引っ込め!喰わせろ!煩ぇ、寝てろッ!」

視界の右側がジリジリと黒く潰れて行く。その端にチラリと映る、白い光。

「なッ!?」

QUEEN(クイーン)!MAXIMUM DRIVE!】

クイーンをレイズし、同時にマキシマムを発動。左腕を翳してバリアを張った直後、アツィルトの光が直撃する。

「嘘!?アイツ逃げたんじゃ!?」

「チッ!AIの分際で小賢しい事をッ!ホシノ!撤退しろッ!これ以上は━━━」

 

━ビシビシッ バキッ━

 

「ッ!えぇい!」

「うわっ!?」

隣に居たホシノを、焼けた右手で突き飛ばす。激痛も意識の外に追いやり、ビームの軌道から押し出した。その反動を利用して、自分も何とか横に逃げ━━━

 

━バキンッ ジュオッ━

 

「━━━━があぁァァァァァァァァ!!!?」

 

(NOサイド)

 

空気を震わせ、割らんばかりに轟く絶叫。痛覚の上限を超越した衝撃に全身の神経を貫かれ、ローザストの意識はその右腕と共に蒸発した。

「え・・・あんた、腕・・・え・・・?」

そう、()()()()。クイーンの障壁を突破し、聖域を侵略したアツィルトの光に晒された腕は、今や上腕部半ばから喪われている。その断面は炭化し、燻るように焼けた肉と骨が煙を上げていた。そして、頭上のヘイローには罅が入り、既に砕け掛けている。

「ッ!や、ヤバい、早く逃げないと━━━━」

 

「躙り寄る貪食の羽音・・・飛翔する恐怖の軍団」

 

「━━━━え?」

唐突に漏れ出した、冷たい声。激痛の絶叫からの落差に困惑するホシノを他所に、ローザストは・・・否、ローザストに封じられた()()は、詞を謳い上げる。絶望と恐怖を、その解放を。

 

「巻き上がり飛来し、森羅を覆い万象を噛み砕く」

 

ドロドロとしたドス黒いエネルギーが、眼から、口から、体節から溢れる。それらは結合し、凝集し、軈て行き着く形は、拳大の球体。

 

「略奪する奈落の使者!絶えず孵卵する砂の胎盤!叫喚せよ、諦観せよ、地に伏し、己が術無きを呪え!破界ノ零式―――――」

 

【MIMESIS!MAXIMUM DRIVE!】

 

―――――――黒蝗―――――――

 

レイズスロットに装填され、マキシマムを発動するミメシスメモリ。変色した左腕で黒い球体を握り込み、地面に突き立てる。

先程と違い、地面には泥沼のようなおどろおどろしいエネルギーが広がり、黄色い砂漠を容易く塗り潰した。

「あ・・・あっ・・・」

濃密な、おぞましい絶望のオーラ。ホシノは瞬時に心を折られ、ペタンとへたり込む。そんなホシノに眼もくれず、ローザスト、否。蝗の王は、蒸発した右腕を彼方のビナーに向けた。

その瞬間。ブシャッと湿った音を発して、右腕が再生される。そしてその指は、前任の仇を標的として真っ直ぐと伸びていた。

「ハァァァァ・・・」

焼け付くような熱を孕んだ吐息が地面を撫でる。黒く穢された砂地はボコボコと沸き立ち、ギチギチと摩擦音を発ててそれらは現れた。

紅い眼をした、真っ黒の蝗。その数は千を軽く凌駕し、それでも尚産まれ、這い上がる速度は衰えない。

「喰らえ、毟れ、蝕め。我が敵を覆え、我が眷属よ」

長く伸びた翅を広げ、蝗達は一斉に飛び立つ。目指すは大質量の敵対者、ビナーの巨躯。

弾丸に迫る速度で飛翔する蝗達は、光すら呑み込まんとする暗黒の嵐。数秒と経たずビナーに追い付き、装甲に無数と取り付いた。

 

━バリバリ ギャリギャリ━

 

『ギャラララララ!?』

蝗の大顎が、ビナーの装甲を削り取る。全身で加速度的に消耗する耐久値に、ビナーは混乱してのたうち回る。

「ククッ、ククククッ、クハハハハハハッ!良い、良いぞ!待ちに待った食事だ!さぁ、もっとだ!もっと寄越せ!」

歓喜に撃ち震える蝗の王。削り取られたビナーの質量は即座にエネルギーとして吸収され、大きく広げた翅には威圧的な赤い眼状紋が浮かんだ。

ビナーはこの時、己が主に感化されてから、初めて恐怖と分類される感情を抱く。

壊せず、払えず、ただ蝕まれる。活力は奪われ、己の最大火力も凌がれ、今その反撃の前に、自分はただ足掻く事すら出来ない餌に成り下がっている。その事実はビナーの拡張電脳を散々に掻き乱し、最も生物的な行動の1つを実行させるに至った。

それは、逃走。脇目もふらずに地面に潜り込み、砂に身体を擦り付けるようにくねらせながら全力で逃げ出した。

「フン、逃げたか。所詮は図体ばかり大きいだけの木偶の坊と見える・・・ん?」

「ひっ・・・」

澱んだ血のような昏い双眸が、ジロリとホシノを映す。その視線の焦点は、へたり込んだホシノが両腕で必死に抱える、金属のシールドに向けられていた。

「ほう、これは・・・豊穣の残滓、オシリスの遺物か。素晴らしい、極上の供物だ」

ザクリ、ザクリ、砂地を踏み締めてホシノに迫る王。そして涙を浮かべたホシノに見向きもせず、その盾を左手で掴んだ。

「だ、だめ・・・やだ・・・や、やめて・・・やめて・・・!」

腰を抜かし、恐怖で竦み上がりながら、しかしそれでもその盾だけは手放すまいと、ホシノは必死に抵抗する。恐怖で歯をガチガチと鳴らしながら、今にも気絶しそうな程に怯えながら、唯一の寄る辺だけは死守する為に。

「憐れな。人の身の檻、大地に閉じ込められ、蒼穹(そら)を奪われ、挙げ句その事すら忘れ去ったか。その果てに仮初めの肉の檻の、まやかしの縁に縋る等と・・・いや、見方を変えれば・・・王の不在を護る虚ろの玉座の番人、となるか。ならば今それを喰らい、私が王の座に君臨する好機でもある訳だ」

「ひっ・・・や、はなして・・・!」

詰まらなそうだった眼が一転、攻撃的な嘲笑を浮かべ、ホシノの胸ぐらを掴み上げる王。メキリと顎関節を軋ませて大きく開口し、頬は左右に開く大顎に。人と蟲の双方を兼ね備えた歯が、獲物を喰らわんと迫る。前歯、犬歯、臼歯。人のそれと変わらぬ故に、自分の肉体にどう使われるのかもホシノの脳裏にありありと、ハッキリ浮かんでしまう。

「・・・ぁ・・・」

絶望に次ぐ絶望。既にホシノの心は折れており、最早抵抗すら諦めて唯々涙を溢すだけとなっていた。生きる事を諦めたホシノに、捕食者の顎門が迫る。

 

「やらせるかッ!」

━バゴンッ!━

 

「ぐおっ!?」

しかし、それを赦さない意思が横槍を入れた。王の左腕が勝手に動き、固めた拳を顔面に叩き付けたのだ。

「き、貴様ッ!この期に及んで、まだ邪魔をするかッ!」

「当たり前だろうがよォ!」

半身に覚醒した、コウの意識。それはレイズスロットの併用により、左腕がホッパーから変質していた故に起きた奇跡。コウの左手はホシノを吊し上げる右腕に食い付き、小手返しの要領で捻り落とす。解放されたホシノは尻餅を突き、ぽかんと王の顔と左腕とを見比べる。

「ホシノ!とっとと逃げろ!コイツは俺が片を付ける!」

「え・・・えっ・・・」

「呆けるなッ!行けッ!」

「ッ・・・!」

何も言わず、ホシノは踵を返して駆け出した。何が起きているかは理解していない。だが、自分の命と最後の砦を、仮面ライダーローザストに助けられた事だけは理解した。

「貴様はッ!貴様は何度、我が悲願を挫けば気が済むのだッ!本質に従い、己が律に身を任せる!その何が気に食わないッ!」

「煩ぇな!悪いがこの世界じゃ、本質隠した仮初めの舞台でも、何やかんや回ってるんだ!己を律せぬ獣の世界じゃねぇんだよ!」

「このッ!我が贋物の分際でェ!」

「お生憎様だがな!ニセモノにもニセモノなりに、通すべき意地ってもんがあるのさッ!」

「小賢しいッ!」

王は左手を振り払い、レイズスロットのミメシスメモリに手を掛ける。

「この異物を排除すれば、貴様の支配領域は無くなる!我が腹の底で、精々方舟の地が降り注ぐ様を見ているが良い!」

言うや否や、王はミメシスメモリを引き抜いた。それこそが、コウの狙いであるとも知らずに。

 

「ハッ、バーカ」【HEAT!MAXIMUM DRIVE!】

 

「何ィ!?」

 

入れ違いに挿し込まれ、マキシマムを発動させるヒートメモリ。

そもそも、蝗の王は未だに人間の体型を保っている。右手のみでメモリを引き抜けば、左手の動きをブロック出来ない。当然の帰結であった。

「ハッハッハァ!目先の事で一杯一杯かよォ虫頭が!」

「貴様ッ!何をするつもりだッ!?」

「こうするんだよォ!」

ヒートにより赤熱し炎を纏った左腕が、王の胸を殴り付ける。

群生相の飛蝗は、摂食した大量のカロリーをワックス化して溜め込む。その性質を色濃く反映した蝗害を象徴する怪人に、火炎攻撃を叩き込めばどうなるか。

「ぐおぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!?」

当然、炎上する。松明にも近しい状態の、大量の脂肪体を蓄えた身体は、みるみる内に炎に包まれた。荒れ狂うプラズマを体内に招き入れぬよう、何とか気門と口を閉じる事は出来たが、それでも炎の勢いは増す一方。

 

――貴様、正気か!?自分ごと焼け死ぬことになるぞッ!?――

(生憎だがな、正気じゃ仮面ライダーなんてやれやしねぇのよ!さぁ、我慢比べと行こうじゃねぇか!お前が主導権返すのが先か、俺ごとおっ死ぬのが先かッ!)

――おのれ、小癪な事を!燃える!私が燃えてしまう!火を、火を消さねばッ!――

(ヒートなら吸熱消火出来ただろうなぁ?もう壊れて使いもんにならねぇがよ!)

――このッ!肉の檻の分際で!――

(確りお仕事果たせる俺は優秀な拘束具で御座いますなぁ!おらとっとと引っ込め!)

――うぐぉあッ・・・――

 

意識の綱引きの末、勝ったのはコウの精神だった。蝗の王の意識は沈み、肉体の所有権が強制的にコウに返還される。運動神経、感覚神経、共に、全て。

「ぎぃえぇぇぇぇぇぇ!!!?」

未だに炎上している肉体の感覚を一気に流し込まれれば、当然平気では居られない。ゴロゴロと転げ回り、必死に消火を試みるローザスト。幸いと言うべきか、首から上は燃えていない。身体を寝かせた姿勢であれば、息を吸う事が出来た。しかしそれでも、先程の右腕蒸発で消耗した精神で長く耐えられる痛みでは無い。

「ぐろぶぐぅ!!え゛るぶゥ!!」

暗くなっていく意識の中で、必死の思いで叫ぶローザスト。明滅する視界の端には、バケツを持ち自分目掛けて全力疾走する黒服とマエストロの姿がチラリと映った。

 

━━━━━

━━━━

━━━

━━

 

「いやはや、間一髪でしたね」

「全くだ。何と痛ましい・・・」

ゲマトリアの拠点。培養液で満たされた水槽を前に、黒服とマエストロが溜め息を吐く。

水槽の中には、酸素マスクや複数の点滴パイプを繋がれたローザストが眠っている。その全身は黒く焼け爛れ、見るも無残な姿となっていた。

「傷口の異物除去と、速やかな殺菌消毒、更に培養槽の設置・・・1人では、到底間に合いませんでしたね。感謝しますよ、マエストロ」

「気にする事は無い。私としても、我が芸術の理解者が減るのは看過出来ぬ問題である故にな」

「それにしても、何とか救命出来て本当に良かった。戦闘データも確りと受信出来ましたからね」

「あぁ。これでメモリの改良は捗るだろう」

「クックックッ・・・ガジェットやビークルに関しても、砂漠と言う過酷な環境下で問題無く稼働していました。この後メンテナンスをする予定ですが、そこまで大掛かりな手間は取らないでしょう」

「流石だな、黒服」

「有り難う御座います」

疲れの滲んだ力無い笑いを返す黒服。見てくれこそ人外であるが、その仕草は疲れた社会人のそれである。

「しかし、回復にどれだけ掛かるやら・・・」

「まぁ、本人の希望に沿って出来る限りの事はしました。後は天命を待つのみです」

黒服はガラスの水槽にそっと触れ、ふっと溜め息を漏らす。指は音も無く表面を滑り、黒服の意思を伝えんと吸い付いた。

「早く、目覚めて下さい。貴方の意見は、我々にとって有益なのですから」

 

(コウサイド)

 

「はぁァァァッ!」

「だぁりゃぁぁぁッ!」

「うごぉっ!?」

何も無い、真っ黒な空間。顔面に迫る黒い拳。その下に頭を潜り込ませて回避し、逆に此方のカウンターパンチを決める。

「ハァ、ったく!しつこいぞお前!いい加減にしろっつーの!」

「巫山戯るな!私は喰らうのだ!総てを!この天地の狭間、物質世界に介在するあまねく総てを!それが我が律!私の、そして貴様の本質なのだッ!」

「そのルールは誰が決めたってんだ!喰って喰って喰い尽くして、その果てにお前は何をする!」

取っ組み合い、揉み合いになりながら、お互いに顔面殴打の応酬を続ける。ずっと殴り合って、延々殺し合って、漸く会話のギアが合い初めて来た。ここから俺のペースに巻き込めば、行ける筈だ。

「大体なんだ、本質だァ?本質でしか生きちゃいけねぇってのかよ!そんなのは御免だね!」

「何故本質を拒む!何故律に従わないッ!」

「俺が愛してるからさ!それを貫いた先人達を!」

首元の襟に指を喰い込ませ、ガツンと額を打ち合わせる。体勢は俺のマウントポジション。圧を掛けるに最適だ。

「俺はな、それなりの覚悟決めて、腹ァ括って仮面ライダー名乗ってんだよ。過去に!未来に!涙を堪えて痛みを堪えて、誰かの為に戦える!狂気に片足突っ込んだ、そんな戦士に畏敬を懐いて、それに恥じる事ァしたくねぇって覚悟だ!

理不尽に身体を兵器に改造されて、自分みたいな被害者を出したくないと戦った1号(おとこ)!戦えねぇ人の為に、自慢の技術を使いたくもねぇ殺しに使い続けたクウガ(おとこ)!総てに拒絶されて尚、総てを繋ごうと旅を続けるディケイド(おとこ)

幾らでもいるさ!自分の本質、見合わない力、他者との隔絶!悩んで、打ちひしがれて、折れ掛けて!それでもあの人達は立ち上がった!だったら!同じ名を勝手と言えども名乗った以上、俺だって折れる訳にはいかねぇんだよ!それが俺の律だッ!俺が定め、俺が履行する、俺の魂の約定だッ!」

「魂、の・・・」

行ける。熱量が通り始めた。頭を回せ、口を回せ。俺の脳髄に焼け付いた愛で、コイツを丸め込んでやれ。

「言えよ!お前は何故、世界を喰らう!世界を喰って、その先に何を望む!何の為に、お前はここまで暴れる!?」

「私は・・・私、は・・・何の、為に・・・?」

よし、人間が抱える哲学論に引っ張り込めた。人間と同じ知能があるなら、未来を想像する力があるなら、気にせずには居られないだろう。自己定義、自問自答、欲望の分析。ここまで来れば、光はもう見えている。

「俺はな、今の俺自身が好きだ。格好付けると楽しい。出来る事が増えると嬉しい。そして行く行くは、この力を人助けに使いたい。本質は恐怖かもしれない。人間に優しくない、尖ったナイフかもしれない。でも、嘘だって良い。面構えなんて幾らでも繕えるんだ。人と接する時は、布でグルグルに巻いちまえば良いんだよ。俺はそれを望んでる」

「そうまでして、抗うのか?本質に・・・何故、何故そこまでして・・・」

「何故って?何度も言ってるだろ━━━━

 

━━━━俺が、仮面ライダーだからだよ」

 

━━━━━

━━━━

━━━

━━

 

5ヶ月後、ローザストは微睡みから目覚める。決意を新たに、声高に鳴く虫を腹に。

 

To be continued・・・




~キャラクター紹介~

・叢雲コウ
ピンチになりまくる飛蝗少女。
アイディアロールでクリティカルして時間制限を見抜くと、即座にリスク度外視の短期決戦に移行してツインマキシマムのオーバードライブを決行する可笑しな方向への思い切りの良さがある。貴公、既に狂っているぞ・・・
右腕が蒸発して意識も吹っ飛んだものの、ホシノに手を出される寸前でガッツを発揮し無理矢理覚醒。レイズしたメモリで上書きされた部位は肉体支配が及んでいない事を利用し、群生相の性質上炎に弱い事を瞬時に思い出して躊躇無くヒートで自分ごと火達磨になる事で蝗害怪人を抑え込んだ。やっぱり頭可笑しい。
目覚めるまでの期間、精神世界で蝗の王と肉体言語の応酬を続け、漸く会話に成功した。それまでに何度か喰い合っている。
相変わらずライダーへの愛とガンギマリ覚悟が重過ぎる。原作ご本人達に伝わったら確実にドン引きされる。

・小鳥遊ホシノ
精神負荷が洒落にならないホルス。多分素のSAN値65ぐらい。マーシャルアーツ99あるだろうから+2D6して70ちょい。
描写は薄かったが、ビナー相手に結構良いダメージ入れて視線を上手く散らしていた。銃口からライダーキック相当の衝撃力が飛び出す。神秘ってスゴいね。
しかし、TRPGに例えるとSANチェックレベルのショックを立て続けに喰らい過ぎて一時的狂気を発症した状態になってしまった。
目の前で恩人の右腕が消し飛ぶ様を直視してしまい、1or1D5→失敗3減少。
その直後にこの世の総てを呪う冒涜的な呪文の完全詠唱を間近で聞いてしまい、1D5or1D10→成功4減少。
SAN値5以上の減少によるアイディアロール→成功により一時的狂気、《極度の恐怖症による釘付け》を発症。
しかしコウの声が精神分析となり何とか逃げ出せた。多分暫く焦げた肉と骨、蝗の嵐が夢に出る。

・蝗害怪人
凄く知力が上がった概念怪人。
体表を覆う《仮面ライダー》のテクスチャに生じた隙間を見逃さず、遂に物質世界への受肉を果たした。ライダーの表裏一体の哲学によって、コウがホッパーメモリに馴染む程に、怪人にも高度な知能が流れ込んでいた模様。
自身の哲学、蝗害の恐怖を想起させる詠唱により自分自身の召喚の儀式を簡易的ながら完遂し、ローザストと言う依代を一時的に完全に乗っ取る事に成功する。しかし戦闘や負傷の消耗によって完全顕現にはエネルギーが足りず、ミメシスメモリによって自身の本質を複製。蝗の群れとして放ち、ビナーに捕食攻撃を仕掛ける事で不足分の回収を試みた。結果としてその目論みは果たされず、レイズによる支配の綻びにつけ込まれて火達磨になった。
その後延々とコウの意識体と肉体言語を交わし、遂に意識に一片の変化が訪れたようで・・・?

・黒服
ちょろっと出番があった保護者。
徹頭徹尾塩対応されようと、ヘルプが来れば一目散に助けに行った。そう言う契約だとか、有用なデータが云々言っているが、まぁそう言う事にしておいてやろう。

・マエストロ
ちょろっと出番があった芸術家。
黒服と共に水バケツをひっ掴んでスクランブルした。絵も描くので水とバケツはいっぱいある。

~技紹介~

・ヒュージブレード
トリガーマグナムにヒートメモリを装填して発動する熔断攻撃。
原理的にはトリガーエクスプロージョンと同じだが、マグナムのギミックを2回変形させてヒートを意図的に暴走状態にする事で火力を桁違いに跳ね上げ、更にトリガーも重ねる事でツインマキシマムにすると言う正気の沙汰じゃ無いプロセスによって、ビナーの分厚い装甲板を一振で熔断する埒外の威力を発揮する。
元ネタは言わずもがな、アーマード・コア ヴァーディクト・デイに登場する地平の彼方までぶった斬るバケモンブレードなオーバードウェポン。

・破界ノ零式 黒蝗
オサレ詠唱な必殺技。
蝗害怪人が呪文の詠唱によって、自身に封じられた《蝗の大群》と言う本質を解放する儀式。但し、未だに自分だけでは完全詠唱の顕現は不可能。なのでミメシスによって補助を入れた。
元ネタは此方も言わずもがな、厨二病なら一度は聞いた事があるであろう《破道の九十・黒棺》の完全詠唱。
正直これを入れたいが為にこの小説を書き始めたまである。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。