「そろそろ、か」
夜の帳の降りた
【STAG】【BEETLE】【BAT】【SPIDER】
「さぁて、お仕事開始だぜ」
ライブモードのメモリガジェット達を引き連れ、彼女は屋上から飛び降りる。
「
冷たい光を宿す複眼が、紅い残像の尾を引いた。
━━━
━━
━
「やめて!離して!」
「グズグズするな!」
悲痛な叫びを掻き消す怒号。冷たいコンクリートの牢獄に響くそれは、録でも無い営みの業。
叫びの主は、長い金髪と白い翼を持つ少女。彼女は銃と服、そして両手の自由を奪われ、高圧的な2体のオートマタによって無理矢理牢に放り込まれる。
「おい止めろ!このクズ野郎ども!」
「暴れるな!」
「無駄な足掻きを」
そんなオートマタ達に、翼の少女と同じ状態ながら食い付く先に牢に入っていた少女。頭には畳まれたコウモリの翼にも似た角が生え、腰からは爬虫類のそれに似た尻尾が伸びている。
「このっ!大人しくしやがれ!」
「ぐあっ!?」
「おい、余り傷を付けるなよ」
抵抗虚しく、頬を殴り抜かれ牢に逆戻りする角の少女。鉄扉は無情にも閉められ、虜囚の数は2人に増えた。
「イッテテ・・・クソ、アイツら・・・あ、君、大丈夫か?」
手錠で繋がれた手で頬を擦りながら、第一に新たな被害者を心配する角の少女。手を突いて立ち上がり、翼の少女に歩み寄る。
「っ・・・」
「・・・あぁ、まぁこの状況じゃ・・・」
「黙って!」
「うおっ!?」
翼の少女が吐き出した、明確な拒絶。彼女は顔を手で覆い、嘆く。
「いやっ、もういやっ・・・私が、私が何をしたと・・・拐われて、下着姿で牢に入れられて、挙げ句賎しいゲヘナの角付きなんかと・・・!」
「・・・あぁ~、良く見りゃ君トリニティの子か。確かアタシらゲヘナと仲悪いんだっけ」
カリカリと頬を掻く角の少女、もといゲヘナ生。
彼女の中には、トリニティに対する嫌悪や偏見はほぼ無い。と言うよりも無関心だ。しかし、トリニティの少女は違う。閉鎖的でプライドの高いトリニティの性質も相まって、ゲヘナへの侮蔑と嫌悪が反響増幅するエコーチェンバーとなっている。そんな環境に適応せざるを得なかった彼女には、他と同じ反ゲヘナ感情が強く埋め込まれているのだ。
「何で、何で私がこんな目に・・・」
「・・・君は、何処で拐われて来たんだ?」
この高ストレスな閉鎖空間で、諍いは避けるべきとゲヘナ生は判断した。故に、彼女はパニックに近いトリニティ生の精神状態を鎮静化する為、現状の情報整理を促す事にした。
「・・・ブラック、マーケット」
「あ、やっぱり君も?実はアタシもそうでさ。ちょっと深く潜り過ぎちゃって・・・何か、探し物にでも来たの?」
「・・・」
「・・・あぁ~、ゴメン。馴れ馴れしかった、かな?アハハ・・・」
苦笑いと共に手を小さく振り、少々距離を離すゲヘナ生。不安定な精神は爆弾と変わらず、その解除には細心の注意が要る。彼女は少なくとも、そう心得ている。
「・・・茶器、ですわ」
「チャキ?・・・あぁ、茶器か。ティーカップとか、そう言うの?」
「そう。名だたる名匠の手によって作られた、高級茶器。それがオークションに流れていると・・・」
「成る程なぁ・・・大体アタシと同じだな。アタシは珍しい銃のパーツがあるって聞いてさ」
タハハと笑いながら、トリニティ生の様子を観察するゲヘナ生。彼女には震え、強張りは幾らか収まり、視線も安定して来たように見えた。
「貴方は・・・」
「ん?」
「貴方は、怖くありませんの?」
「怖い、か・・・」
相手からの初めてのコミュニケーションの試み。少しは距離が縮まったとほんの少しの喜色を滲ませながら、答える。
「うん、怖いのは怖いかな」
「では何故、そんなにおちゃらけて・・・落ち着いていられるんです?」
「ん~、そうだな・・・今ここで焦っても、どうにもならないから、かな?」
「そう・・・強いですわね、貴方は」
「よせやい。風紀委員の友達に比べりゃ、アタシゃ何も出来やしねぇよ」
「・・・名前は?」
「アタシの?」
「他に誰が居ますの?」
「そりゃそうだ。アタシは
「リエ・・・
「そっか、リエか。綺麗で良い名前じゃん」
少し縮んだ、精神の距離。それを見極め、隣に座る。
「大丈夫、きっと助けが来る。実はさ、アタシが浚われる時、一緒に居た友達は逃げられたんだ。もう直に、助けに来てくれる」
「そう・・・羨ましいですわ、人望があって」
(・・・やっべ、地雷踏んだか?)
チクリと冷める空気に、若干の焦りを覚えるモア。しかし、そこまで致命的では無いと判断し、敢えて掘り下げない事にする。
「取り敢えず、さ・・・ちょっと、翼貸してくれない?肌寒くてさ」
「・・・仕方ありませんね。此方に寄りなさいな」
プイと眼を背けつつ、片翼を広げるエリ。態度の軟化に胸を撫で下ろし、モアはその翼の内側にペタリとくっついた。
(コウサイド)
「よし、ルート探索完了っと」
自前のスマホにバットショットから転送された反響定位データを確認し、通風口に潜り込む。目指すは狭い倉庫。そこからフロアに降りる計画だ。
今回は、以前ゲヘナで依頼をくれたお嬢さんからの緊急依頼。ブラックマーケットを探索中に、友人が誘拐されたとの事だ。
そこから周囲の流れを調べ、人攫い共が最近力を付けてきているマフィアの一派と判明。盗品オークションを資金源とし、この一帯の支配を盤石にしようとしているらしい。そして、今回の誘拐。妙に念入りに隠してあった。それこそスパイダーショックの空間成分センサーで被害者の持ち物の残滓を追わなければならなかった程だ。違法適法の区別が無いに等しいこのブラックマーケットで、身代金目当てならば態々此処まで秘匿はしない。何より、人質で身代金要求なんてケチな事をする程、奴らは金に困って無い筈だ。
となれば・・・録でも無い事だらけのこのブラックマーケットで、一等録でも無い事をやらかそうとしていると言う事になる。ならば、俺はそれを挫かねばならない。
「と、此処だな」
換気ダクトのカバーを右の抜き手でゾブリと貫き、左右に開くようにゆっくりと引き裂く。そうやって広げた穴から飛び下り、コンクリートの床に音を殺して着地した。そして扉を少し開け、エアロディテクターで廊下の状況を調べる。
「・・・巡回歩哨、数は2、オートマタ、体型は標準。よし」
扉を半開きにしたまま、蝶番側の壁に密着した棚の上に陣取る。続いて、スパイダーショックを倉庫の奥に投擲。コンクリートの壁に当たり、カシャンと音が鳴る。
「ん?おい」
「あぁ、聞こえたな」
歩哨2人が音に釣られ、部屋の前に。案開きの扉を確認し、ハンドガンをコッキングする音が聞こえた。
「誰だ!」「出てこい!」
ほう、突入前にキッチリ誰何してやがる。最低限、素人じゃないな。
「・・・一応な」
「おう」
気配がジリジリと扉前を動く。扉のフレームに合わせたカッティングパイ・クリアリング。悪くない動きだ。
「シッ」
次の瞬間、ハンドガン持ちが素早く突入し扉の右側を警戒。続いてもう1人が突入して左側にアサルトライフルを向ける。
最初の1人が意表を突き、2人目の強襲への意識指向を一瞬鈍らせる為のテクニック。しかもしっかり身体に染み付いてやがるな。場数を踏んでる、そう言う動きだ。
「・・・クリア」
「こっちもだ。気のせい━━━」
━ガツンッ━
「ガハッ!?」「うがっ!?」
2人の背後に飛び下り、後頭部に一撃ずつ入れて昏倒させる。対人訓練では、自分と同じ足場を使う相手を前提にする関係上、どうしても頭上はがら空きになる。ツーマンセルの動きでは、この奇襲は防ぎようがないだろう。
「別の所で、背中を預ける形で会いたかったな」
銃と無線を取り上げ、その場にあったズタ袋と三角コーンを被せてロープで縛り上げる。その際、肩のエンブレムが見えた。
「カイザーPMC・・・いや、上から打ち消し線を引いてあるな。民間軍事会社崩れの傭兵か。道理で動きが良い訳だ。いや・・・もしかしたら、
戻ってきたスパイダーショックを回収し、今度は廊下に放つ。天井を伝わせ、周囲の監視カメラ配置等を探索する為だ。
「・・・カメラは無し。死角を埋める為の巡回歩哨か、よし」
スパイダーショックのデータを確認し、次にスタッグフォンの電波発信源スキャナーで発射状態の無線機の位置を調べる。仮にオープンチャンネルがあれば、それは恐らく指令室だからだ。
「・・・上か。なら丁度良い。さっきの歩哨の進行ペースを考えると、猶予は・・・大方、8分って所か」
本部への道は、曲がり角の先。右折する先は未知。
「行ってこい」
今度はビートルフォンを放ち、左の壁の天井付近に張り付かせる。そしてジリジリと移動させ、ビートルフォンの角にあるカメラから廊下の向こうを偵察した。
「天井付近、監視カメラ3つ
ビートルフォンを撤収し、スパイダーショックを放つ。天井を歩かせ、カメラに接近。小さなボタン型の送受信機をくっ付けさせる。スタッグフォンとの連動によって映像を傍受。受信した映像データを4秒録画し、Enterキーに指を乗せた。
「じゃ、行こうか」
Enterキーを叩くと同時に廊下に飛び出し、一気に駆け抜ける。カメラには録画した映像を割り込ませて暴露対策済みだ。
突き当たりのT字路、左に昇り階段。躊躇無く駆け上がり、踊り場で止まる。エアロディテクターで索敵・・・指令室から3人出て来たな。こっちに来てる。此処まで食い込めば、強行突破出来るだろうな。
「よっしゃ、ブチ抜こう」
スタッグフォンで妨害電波を発射しつつ、
「ッシ!」
━ガンッ カンッ ゴッ━
「がおっ!?」「ぁえっ?」「おごっ」
出会い頭、蝗丸を振り抜き1人目の側頭部を一閃。継いで勢いのままに手首を返し、2人目の顎を打ち抜く。最後に鞘の先端の石突きで、3人目の喉を突いた。
呆気なく沈黙した3人組。コイツらはPMCじゃない、野良の傭兵だ。
持っていたのもアサルトライフル1挺ずつ。サブアームも無し。銃口を捻り潰して無力化しておく。
指令室の扉は・・・L字ドアノブの外開き左右扉。無力化した奴らの銃の
マップによると、此処から主催室までは一直線。地下の闇オークションアリーナを見下ろす最上座だ。
敵の気配は、扉前に2つ。ボス直近だ、面倒な熟練者の可能性が高い。ならば・・・
【HOPPER!MAXIMUM DLIVE!】
「ッ!」「何だ!」
「神食斬!」
「ぐおっ!?」「ごあっ!?」
居合一閃。横一文字の神食斬は、目標2人を瞬時に昏倒させる。そしてその奥の扉へと駆け抜け、飛び蹴りで破城槌のように打ち砕いた。
「な、何だ!何者だ!?」
慌てて椅子から立ち上がる、気取った中折れハットとコートを着込んだアンドロイド。恐らくここの元締めだろう。某星間戦争映画の雑魚ロボに酷似した顔面にも、恐怖と動揺が見て取れる。
室内左右にボディガード。アサルトライフルを向けて発砲して来た。しかし、俺の装甲とコートには豆鉄砲も同然。右のボディガードに突っ込み、鞘で銃口を弾いて肩口に虫刃身を突き立てた。
「ぐあぁぁぁ!?」
痛みで叫ぶソイツを貫いたまま、その背中をもう片方に向ける。そのまま盾代わりに突撃し、貫通した刀身でもう片方も縫い付ける。
「あがぁあぁ!?」
刃を捻って傷口を抉り、腹を蹴り着けて刃を引き抜く。鞘を床に突き立てて刀身を握り締め、付着した油を拭い取った。
「誰だ貴様は!誰に雇われた!目的は何だ!?金か!?それとも
「・・・あぁ、もう良い。もう大体分かったからよ・・・お前、もう喋るな」
「ひっ!?」
━ガキィンッ━
蝗丸と鞘を投擲。屑の両脇を掠め、正面の窓ガラスに突き刺さる。
「取り敢えず、いっぺん落っこちろ」
膝を抜き、体重を踵に叩き付けてロケット加速。その速度を全て右足に乗せ、飛び蹴りを叩き込んだ。
━バギャァンッ!━
「ぐぉわぁぁぁぁ!?」
屑は見事窓を突き破り、ガラスの破片ごとアリーナへと落ちて行く。俺は空中で蝗丸と鞘をキャッチし、屑を追って飛び下りた。
(NOサイド)
━ドゴンッ!━
威圧感を与えるように、大きな音を発てて着地するローザスト。周囲には、タキシードで着飾った成金共の群れ。蜂の巣をつついたようなパニック状態だ。
「動くなッッッ!!」
大気を破らんばかりに震わす、悍ましい咆哮。心臓に凍てついた鉄杭を打ち込まれたような激痛にも似た怖気を、会場のホスト、ゲスト、全員に叩き付ける。
ぐつぐつと煮え滾るマグマにも似た怒気を孕んだ叫びは、全員をその場に釘付けにした。
ギロリ、ステージの上を睨む。その視線の先にはオークションの司会者と、今日の目玉商品の
「ひ、ヒィィ!?」
「な、何だ、何なんだ貴様は!?目的は何だ!?」
床に叩き付けられ、腰を抜かしながら喚くオークションの主催者、マフィアのボス。その問いに、ローザストは静かに刀を納め、床に突き立てた。そして左腕を伸ばしてゆっくりと振るい、そして入れ換えるように右腕を伸ばす。
「大義・・・仮面ライダーローザスト」
ギラリと紅く輝く、複眼とOシグナル。その時、会場の脇戸が音を立てて開かれた。
「あがふっ!?」
「ぐえっ!?あーもうイッタ~イ!」
「ちょっと、何でSRTなんかが来るのよ!?こんなの割に合わな・・・ほぇ?」
転がり込んで来たのは、2人組。サイドテールに纏めた銀髪と赤いフリルスカートの少女と、セミロングの赤毛と後頭部から左右に生えた角が特徴の少女。
2人はその物々しい雰囲気に、一瞬唖然とする。そして更に、勢い良く突入してくる人物が2人。
「動くな!SRT特殊学園、及びヴァルキューレ警察学校だ!この場にいる全員を拘束・・・お前は!」
黒髪と桃髪、そして特徴的な三角の狐耳を持つ少女達は、ローザストを見て困惑する。
「ほぉ、SRTのお狐共じゃねぇか。連邦にマークされるたァ、随分と杜撰な仕事だな?」
「あらら、真っ黒イナゴさんも居たんですね。味方、と考えて良いですか?」
「愚問だな。俺がコイツらに付いてたら、侵入時点でお前らを迎撃してる」
「良かった、そうならずに済んで」
桃髪の狐と軽口を交わすローザスト。その状況と絵面に、赤毛の角少女は唖然とする。
SRT特殊学園。キヴォトスの統括行政組織として名を轟かす連邦生徒会、その直轄の特殊部隊養成学校。その構成員は並外れた訓練により、凄まじい作戦遂行能力を持つ事は周知の事実。その隊員と交流があり、更に作戦行動中の彼女らと対等以上の態度で接する。その時点で、ローザストの客観的な格は跳ね上がるのだ。
「おい、そこの小娘共」
「え、わ、私達?」
突然呼び掛けられ、赤毛の声が裏返る。
「お前ら、大方泡銭で雇われただけの素人だな?そう言うニオイだ。
知らされてないだろうから教えてやろう。コイツらは今、誘拐した学生を売り飛ばすオークションをしている」
「え?ま、待って頂戴、それって、人身売買って事?」
「そうだ。どうする?契約を履行して俺達に潰されるか、それとも蹴って大人しくしてるか」
「も、勿論蹴るわよこんな依頼!人身売買!?しかも誘拐した子を!?そんなの許される訳無いじゃない!」
「よし決まりだ。お狐1番、ソイツら放っといてヨシ。他のクズ共に集中しろ」
「別に異存は無いが、何故貴様が仕切る」
「異論無いなら良いだろがよ。さぁてと━━━」
「う、動くなッ!」
「━━━あ?」
壇上からの声。見れば、司会者が拘束された少女の首にナイフを突き付けていた。
「た、たすけて・・・!」
「良いか、動くんじゃねぇ!このガキの命が惜しければ大人しくしやがれ!」
捲し立てる司会者に、人質の少女は涙を浮かべる。ローザストは溜め息と共に額を叩いた。
「済まん、俺の話が長かったせいだな。落とし前は付ける」
「あーあ、あの人ツイてないなぁ・・・よりにもよってイナゴさんの前でそれやっちゃあ」
桃髪の狐が苦笑する。その様子に気が立った司会者が声を荒げようとした瞬間。
━ガキャッ━
「━━━え?」
納刀された蝗丸。それが、司会者の肩口に突き刺さった。
「ば、バカな━━━」
「汚ない手を離せ」
「うごはぁっ!?」
跳躍、蹴撃。コンマ5秒で襲来した衝撃が、司会者の頭を打ち抜いた。捕まれた蝗丸は傷口から抜け、司会者だけがステージ背面の壁に叩き付けられられる。
「済まないな、お嬢ちゃん。怖い思いをさせた」
「え、えと・・・」
袖を捲ってアームカッターで拘束具を破壊し、少女を解放。これにて、人質の脅威は消失した。
「ちょっと重いが、我慢してくれ。乙女の肌は、クズ共に晒されるべきじゃない」
着ていたロングコートを脱ぎ、少女の肩に掛けるローザスト。晒された生体装甲はゴツゴツと起伏があり、右腕の装甲の隙間には赤黒い血管が走っている。
「さぁてと。人質も奪還、電波妨害で増援も来ない。分かるか?貴様は詰みだ。とっとと諦めてくれると助かる。俺は戦闘以外の面倒は嫌いなんだ」
「き、貴様!私を誰だと思って・・・!」
「2つ、良い事を教えてやろう」
「ひっ」
ボスの襟首を掴み上げ、眼を覗き込むように合わせる。懐から取り出した拳銃で胸に16発撃ち込まれるが、その悉くが装甲に阻まれ弾かれた。
「1つ、貴様が何処の誰だろうが、俺の恐怖には足らん。下衆野郎なら尚更だ。そして2つ」
左手をゆっくりと上げ、ボスの被っていた帽子を奪い取る。そして裏表と眼を滑らせ、続けた。
「仕立ての良い、良く出来た帽子だ。まだ若くて味は薄いが、な・・・貴様の如き下衆者には、少々贅沢が過ぎる。
戦う目元の優しさと、冷たさを隠すのがコイツの仕事だ」
目元を隠すように、帽子を額に被せる。その鍔の縁から紅く光る眼が覗き、手が帽子から離れた。
「さぁ、お前の罪を数えろ」
━ガキンッ━
「あぐぁっ・・・」
スルリと下りた左手が蝗丸を掴み、無造作に振るわれた鞘の先端が顔面を打ち据える。意識は容易く刈り取られ、ドサリと地に崩れた。
ステージからの逆光の中で、3秒の後に残心を解くローザスト。その姿はある種英雄的で、人の記憶に焼き付くものだった。
(か、か、か、格好良いぃ~!!)
若干一名、その光景に感涙さえする少女もいる。
(あれが、あれこそがハードボイルド!己の道を往く、真のアウトローなのね!あぁ写真撮りたい!いやでも、勝手に撮っちゃ悪いかも・・・)
赤毛の角少女はスマホでその光景を撮影したい衝動と、相手のプライバシーを尊重するモラルの間で揺れ動く。そのブレーキを掛けられるだけ、彼女はその目標に反して善良であった。
「さて、貴様ら」
「ひょえっ!?」
ローザストから1番と呼ばれた黒狐の少女が、赤毛の少女に話し掛ける。その冷えた声に、2人仲良く肩をビクリと震わせた。
「貴様らもこの事件の重要参考人だ。少々事情聴取に同行して貰う」
「な、なななっ、何ですってぇ~!?」
「あっはは!まぁそうなるよねぇ・・・」
「まぁ、そんなに重く考えないで?取り敢えず、どんな契約だったかを聞いたりするだけだから」
間も無く、ゾロゾロと警察学校の機動部隊がアリーナに突入して来る。その場にいる社会正義に反する不届き者達を拘束し、芋づるにも似た連行作業へと移行した。
「あ、あの!せめて1つだけ!貴方の名前を教えて欲しいの!お願い!」
「ん?あぁ俺か」
舞台袖に入り込もうとして、呼び止めに応じるローザスト。そして触角に引っ掛けていた帽子を取り、胸に当てて回答した。
「仮面ライダーローザスト。何でも屋、万事蝗屋をやってる。ご期待に添えたか?」
「仮面ライダー・・・!ありがとう!私も貴方のような、立派なアウトローを目指すわ!」
「アウトロー?お、おう・・・頑張れ?だがポリ公の前で言う事じゃねぇぞ?」
「あっ・・・」
「くふふ♪アルちゃんったら舞い上がっちゃって~」
流石に聞き捨てならぬと連行された少女・・・陸八魔アル。彼女の取り調べが不本意に長引いた事は、言うまでも無いだろう。
(コウサイド)
「おい、どっちだ?」
「こ、こっちです・・・」
オークション司会者の首根っこをひっ掴み、バックヤードを進む。目的は、今回の依頼主の友人だ。特徴はコウモリの羽に似た角と、爬虫類的な尻尾との事。なので、さっきステージの上にいた子じゃ無い。
「こ、ここです」
「ほぉ、ご苦労」
━ドゴッ━
「ごはっ!?」
「じゃあこれ持ってってくれ」
「了解」
用済みになった司会者の腹をブン殴って気絶させ、ヴァルキューレに引き渡す。眼前には、重厚な鉄扉。暗証番号式のようだ。
「おい、番号は分かるのか?」
「分からんな」
「ハァ!?」
ガチャガチャとノブを捻るが、当然開かない。ヴァルキューレ生が呆れ返って声を上げるが、俺にとっては何の問題も無い。
「だからこうするのさ。押してダメなら破城槌」
━バゴンッ!━
蝶番のある方を狙って、思いっ切り蹴り飛ばす。扉を固定していたネジは引き千切れ、扉は容易く開いた。
「この手に限る」
「その手以外知ってるのかよ」
ハイハイ、聞こえない聞こえない。
扉を潜れば、打ちっぱなしのコンクリートの廊下。左右1対の鉄扉がある。それぞれが牢屋だろうな。部屋が少ねぇのは、そもそも獲物自体が大量入荷しねぇだからだろう。けったくそ悪い商売だ。
「な、何の音ですの!?」
「リエ、アタシの後ろに!」
「此方か」
【HOPPER!MAXIMUM DLIVE!】
メモリを叩き、右手の指を揃える。ギリギリと固めた手刀を軸にエネルギーを練り上げ、鉄扉の真ん中に突き立てた。
━ギャオンッ バギャンッ!━
貫通した手を上に振り抜き、アームカッターで扉を引き裂く。その穴に両手を突っ込み、メリメリと左右に抉じ開けた。
「「っ!」」
中に居たのは、依頼の対象と思わしき少女ともう1人。翼を見るに、恐らくトリニティか。随分怯えて・・・あっ。
「あぁ、まぁ怖いわな。こんな怪物が扉引き裂いて入って来たら」
推定トリニティの少女はガチガチと歯を鳴らしてしまっている。吹っ飛んだ扉がぶち当たっちゃいけないとこの場で引き裂いたのは完全に判断ミスだったな。
「大丈夫だ。俺は君達を助けに来た。ゲヘナの君、亜門モアだな。君の友人の依頼だ」
「え・・・」
ポカンと呆けるゲヘナ生。威圧しないように顔面の変身を解いて生身に戻し、牢の中に踏み入る。
「良く耐えた。良く守った。怪我は無いか?」
「う、うん、大丈夫・・・」
「そうか。それは結構。俺に出来るのはここまでだ。任務完了報告はしておくが、なるべく早くあの子に会ってやれ。
ヴァルキューレ、後は任せる」
「ハイハイ、お疲れさん。事情聴取には付き合って貰うからな」
「はいよ~」
この件は、まぁこれで落着だろ。さぁて、腹が減った。見取り図やら何やら要るだろうし、何か食って待つか。カツ丼ってここまで届けて貰えるかねぇ?
「・・・あの!」
「ん?何?」
「変な事かもしれません。貴方に頼むなんて・・・でも、1つお願いがあるんです」
「おぉ~・・・まぁ、言うだけ言ってみ?」
「私と、お、お友達に、なって頂けませんか?」
「何だ、そんな事・・・いや、そっちにとってはハードル高い事なのかな。まぁ兎も角!喜んで!此方こそ宜しくな!」
「っ!・・・はい!」
ヴァルキューレから渡されたジャージ姿の2人は、嬉しそうに微笑み合う。所属で無く、人のとしての在り方によって、彼女達は友人となった。
「あっ、でも遊びに行ける所とかあるかな。ゲヘナは結構荒っぽい所だし、かと言ってアタシがそっちに行くのも変なウワサが立ちそう」
「確かに、どうしましょう・・・」
「なら、良い場所がある」
その話に割り込むのは、ヴァルキューレ機動隊の1人。円盤形のライオットシールドを杖に、ニヤリと笑う。
「あの蝗屋の事務所、D.U地区にあるのさ。そこで合流して、後は近場で遊べば良い。何なら、アイツに土産でも持って行ってやると喜ぶぞ。得に食い物は文字通り食い付きが良い」
「でしたら、お菓子を包んで一緒にお礼をしに行きませんか?」
「そりゃ良いや!お巡りさん、ありがとな!」
「良いって事。じゃあ君ら、もうこんなとこ1人で歩くなよ~」
ピラピラと手を振り、撤収するヴァルキューレ生。その後2人は連絡先を交換し、予定を合わせて帰路に就くのだった。
To be continued・・・
~キャラクター紹介~
・叢雲コウ
個人事業主になった飛蝗少女。現時点で2年生相当。
荒事歓迎の何でも屋、
今回の依頼でメモリガジェットを使い熟していたが、原作からあった機能かもしくは少々発展させたモノだけであり、ガジェットの無法な性能を存分に発揮している。また、敵の戦術スキルから力量を測る観察力、それを前提に敵の裏を掻く戦法を展開する等、今回の潜入では特殊部隊1個小隊クラスの活躍を上げている。寧ろ本来ならば複数人でカバーしながらクリアリングする必要のある場所も気流感知で即座に判断し突っ切れるので、そんじょそこらの特殊部隊よりも速い。この辺りが、潜入ミッションでのローザストの強み。
今回の作戦では仮面ライダースカルこと鳴海荘吉の言動をオマージュしており、相変わらず様式美に拘っている。しかし自前の帽子は持ってはいない。
マキシマム発動時には、鉄板の扉を簡単に破り千切る怪力を誇る。
・亜門モア
オリジナル生徒。ゲヘナの心が強い奴。現時点で1年生。
特徴はゲヘナの一般生徒モブをベースに、コウモリの翼に似た後頭部の角と爬虫類のような太めの尻尾。肌色は血色が良く、少々日焼け気味程度。
友達とブラックマーケットを散策していた所、運悪く深部まで入り込んでしまった為人攫いの餌食に。同じ独房に放り込まれたエリのメンタルケアを行い、パニックを防いだ。
一緒に来ていた友人が蝗屋の顧客であり、コウに緊急で救助を依頼した事で救出される。何故最初から護衛を依頼しなかったかと言えば、学生のお小遣いでは少々厳しい値段が張る為。
全体的に、自分が誰かを守るものと言う根底意識が強い。が、風紀委員会には所属していない。
・科加部リエ
オリジナル生徒。トリニティのお嬢ちゃん。現時点で1年生。
特徴は金髪白セーラーモブをベースに、かなり大きめな白い翼。
名だたる名匠の手掛けた高級茶器がブラックマーケットで取引されると言う話を聞き、手に入れようと足を踏み入れた所で人攫いの餌食に。よりによってゲヘナ生と同じ牢に入れられたと嘆くが、モアのメンタルケアによって冷静になり、優しさに心を開く。
全体的に見通しが甘く世間知らずな所があり、ブラックマーケットが危険な場所、と言う認識すらフワッとしたものだった為、護衛を雇うと言う発想すら無かった。
元はエリと言う名前だったが、まさかの公式キャラと被ってしまった為に名前を変える事になった。
・マフィアオートマタ
今回の元凶。
最近ブラックマーケットで幅を利かせ、急速に勢力を拡大していたマフィアのトップ。今回は余りにも過剰な戦力を投入され続けたので非常に小物臭かったが、一応それなりに大物になる素質はあった・・・筈。
しかしその拡大スピード故に連邦生徒会にマークされており、今回のオークションで顧客共々お縄を頂戴する運びとなった。
一大多角企業カイザーコーポレーション傘下の民間軍事会社、カイザーPMCで訓練を受け、エンブレム付きにまで登り詰めた傭兵を抱え込んでいた。
・FOX1
連邦生徒会直属の特務執行機関、SRT特殊学園に所属する生徒。彼女率いるFOX小隊はSRT全体から見ても相当の手練れ揃いであり、活躍の多さ、派手さからメディア露出もそこそこ多い。
連邦生徒会からの勅命によりブラックマーケットのマフィアを一網打尽にしようと潜入したら、電波障害で通信出来ないわ戦闘の形跡は無いのに無力化された兵士が転がってるわで内心警戒MAXだったが、蓋を開けてみれば偶然ローザストも同じタイミングで潜入していたと言うオチ。
彼女達とローザストは浅からぬ関係であり、単一特記戦力を想定した戦闘訓練の仮想敵として何度かローザストとぶつかっていたりする。
作戦時は努めて冷徹に振る舞い、軍人としての決定、指揮を徹底している。
・FOX2
FOX小隊2番手。
ふわふわと物腰柔らかな雰囲気を醸し出してこそいるが、彼女もエリートたるFOXの前線戦力。策を弄する事に対して、特に一定の評価を獲ている。
・陸八魔アル
旗揚げ直後の若社長。
便利屋68を結成して間も無いこのタイミングで、妙に羽振りの良い会場護衛依頼を持ちかけられたので快諾。警護に当たっていたが、まさかのFOX小隊投入により防戦一方となってアリーナまで撤退戦する羽目に。とは言ってもプロの特殊部隊を相手に撤退戦が成立する時点で、かなりの力量があるのだが。
その後、自分達が警護していたのは違法中の違法であるヒューマンオークションである事を知り、依頼契約の解消を宣言。そしてローザストの振る舞いにモノの見事に脳髄を焼かれ、その背中を目標とする事となる。
尚、これ以来彼女は仕事の報酬を必ず全額後払いで依頼を請け負うようになる。
・浅黄ムツキ
便利屋68第一社員。
アルの現状唯一の部下にして幼馴染み。常に楽しむ事を第一としており、今回の騒動も半ば遊び感覚で消化している。
爆発物の設置や投擲を好むが、今回は依頼人のお膝元での仕事と言う事もあって余り派手な爆薬は使えなかった上、敵が端から引っ掛からないルートで潜入してくる奴と爆弾処理もお手の物な特殊部隊だったので相手が悪過ぎた。
~アイテム紹介~
・スタッグフォン
かなり重要な働きをしたガジェット。
無線通信の傍受及び電波妨害、更に他のメモリガジェットのカメラからの情報を受信し出力するメインインターフェイスとして活躍した。
尚、物語の裏ではこの強力なジャミングによってマフィアの護衛部隊を初め、FOX小隊及びヴァルキューレ機動隊も無線通信を封じられちょっとした混乱が発生していたりする。
・バットショット
先鋒調査で活躍したガジェット。
エコーロケーションによって建物をマッピングし、3Dデータに起こす事で侵入の手助けとなった。
・スパイダーショック
今回一番出番が多かったガジェット。
風都探偵で登場したネオスパイダーを元に解釈した空間成分解析によって誘拐犯の車を追跡し、目標の場所をかなり絞り混んだ。この追跡と裏取りに時間を取られたせいで、ローザストの潜入は少々遅い時間となった。
更に壁に投げつけられたり監視カメラの映像欺瞞に奔走させられたりと、かなり使い倒されている。因みに送受信機自体は原作から登場したものの、それを介したクラッキングはオリジナル機能である。
全体的にミッションでの貢献はPS4及び5のマーベル・スパイダーマンシリーズのスパイダーマンスーツ及びガジェットの機能を解釈し、再構成している。
・ビートルフォン
しれっと追加されていた新規メモリガジェット。
今回は通路偵察のみに使われて影が薄かったが、機能はしっかりと原作のそれを踏襲している。
・冷却コート
コウが変身前後訪わず着込む、黒いロングコート。モチーフはシン仮面ライダーで1号が着ていた物。
内部に冷却機構を備えており、防弾繊維と形状記憶機構によってそこそこの重量を持つ。
目隠れの被害者少女が保護された後、事情聴取時に返却された。持って来た生徒曰く「何で出来てんのさコレ」との事。