3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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ジュニア級まで
目覚めの時、そしてトレセン学園へ


 ──ただ水の中で浮かんでいる。

 

 沈んでいる状態なのに不思議と息苦しさはなく、下を見ると吸い込まれるほど真っ暗で、上を見ると白い光が無限に降り注いでいる。

 

 何となく水中にいたままなのが不安に思えて、一つ二つ、ごぽっと泡を吐いて、それから光の方へ泳いでいく。だんだんと水面が近づいてきて、そして顔を出したところで。

 

 

 

 

 

 

 

「──はあっ……!?はっ……ふぅ……ゆ、め……?」

 

 長い夢……いや、記憶だった。何十年か分の、ある男の人生の記憶。今までこの体で6年間ほどを生きている間は忘れていたが、それは確かにオレの前世でのものだと思える。

 

「……冗談だろ?」

 

 前世では確かに冴えない男だったはずなのだが、今世ではなぜか女の子に生まれ変わっていた。しかも、それはただの女の子ではない。

 

「まさかな……」

 

 ベッドの側のナイトテーブルに無造作に置かれた手鏡を手にとって確認していく。そこにはこの体の記憶通り、肩程の長さのセミロングの金髪に緑眼の幼気な美少女が映っている。そしてその頭頂には時折ピコピコと動く馬のような耳、額には髪の毛が白色の模様になっている場所がある。背中の方を見ると髪と同じ色の長い尻尾が揺れている。

 

「オレ、ウマ娘に……?」

 

 そう、前世で親しんでいた競走馬の擬人化コンテンツ……『ウマ娘 プリティーダービー』に登場する、名馬の名と魂を受け継いだ存在である『ウマ娘』へと転生しているらしい。

 

「でも、オレは……記憶にない」

 

 そう、このウマ娘として転生して、今日まで6年間生きてきたオレの名前である『インデアゾンネ』は前世で全く聞いたことがない。

 輝かしい成績を残してきた競走馬の擬人化である、いわゆるネームドウマ娘はもちろんのこと。偽名ウマ娘*1やモブウマ娘*2にもそんな名前はいなかった気がする。

 

「オレは、わたしで……わたしは……オレ?」

 

 ウマ娘世界に転生する上で新しく作られたウマ娘なのだろうか?だから、オレとインデアゾンネ(わたし)の魂は同じもので、別物じゃない……?

 

「分からなく、なってきた……」

 

 複雑な思考はまだ小学生にもなっていない頭には負荷が強すぎたのか、頭が熱で浮くような感覚に冒され、そのままベッドに倒れ込んで意識を手放した。

 

 

 

 

 次に目覚めた時には、明らかに二度寝する前より何時間と経過している感覚があって、事実、ずっと起きてこないから心配したらしい母が側で見守っていた。

 

「あ、やっと起きた……心配したわ、ゾンネちゃん」

 

「う、うん……大丈夫……」

 

 今世での記憶によれば、母はかつてトレセン学園に所属していたようだ。

 

 ……そして、もう一度眠ったことで記憶の整理も済ませ、頭を落ち着けたオレが思うことは。

 

「トレセン学園に行きたい……トゥインクル・シリーズに挑戦したい……!」

 

 前世で液晶越しにしか見ることのできなかった、魅力的なウマ娘たちを実在の存在として見てみたい──そう思った。

 

「え?い、いきなりね……本当に大丈夫、ゾンネちゃん?」

 

 当然といえば当然か、突然の発言に面食らった様子の母だが……オレがただ力強く頷くと、彼女も何かを決めたようで。

 

「そっか。ゾンネちゃんもウマ娘だし、走りたいのね。私はただ、ゾンネちゃんがそうしたいなら……後押しするだけよ」

 

 その返事にオレはもう一度頷くと、母は少しおどけた表情で言う。

 

「でも、トゥインクル・シリーズはそんなに甘くないわよ?これでも重賞2勝のウマ娘だったもの、まずは私に勝てるどうかってところからね!」

 

「うん、トレセン学園に入ったら母さんよりも強くなって見せるよ。GⅠを勝つようなウマ娘になる」

 

「言ったわね?数年後が楽しみだわ」

 

 オレは母と同時に小指を差し出そうとして、少し笑い合う。それから改めて小指を結び、指切りげんまんをして未来への約束を交わした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 前世の記憶を思い出してからしばらくして、小学校へ入学した。これから6年間はトレセン学園の入学に向けて努力することになるわけ、だが……。

 

「伊藤くん、ボールこっち回して?」

 

「わ、わかったインデアゾンネ!」

 

 さすがに低学年のうちは勉強やトレーニング詰めではなく子供らしく遊んだりする。前世では男だったせいか、男子と一緒に遊んでいる方が性に合っていたりする。今も男子たちに混じってドッジボールをしているのだが……。

 

「おいイトウ!おまえばっかインデアゾンネとくむなよ!」

 

「うっせえなヨシナガ!」

 

 ウマ娘の身体能力を活かして味方が減ってきても内野に留まり続けていたところ、同じく躱し続けていた伊藤と外野から戻ってきた吉永がちょっとした口喧嘩をし出した。

 

「まあまあ、今はチームなんだから喧嘩しちゃ駄目だよ。ね?」

 

「お、おう……」

 

「しょうがないな……」

 

 でもオレがこうやって仲裁しながら微笑むと、二人はあっという間に落ち着いて配置に戻る。中々自分でも魔性というか悪女じみたムーヴだとは思うが、小学生相手とはいえ男共を手玉に取るなんて、前世ではできなかったことが易々とできてつい調子に乗ってしまう。

 

 

 

 

 男子の遊びに混じるだけでなく、授業中などでも。

 

「もしかして教科書忘れた?」

 

「あ、ああ……」

 

「じゃあわたしが見せてあげようか」

 

 隣の石毛が生活の教科書を忘れたようなので机を寄せて一緒に見たり。

 

「消しゴム落ちたよ?」

 

「ご、ごめん、ありがとう……!」

 

 席替えして隣になった大久保が物を落とした時に即座に拾って手渡したり、などをし続けた結果。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「インデアゾンネ……さん。付き合ってくれ、ください……!」

 

「えっと、ごめん。わたし、そういうのよく分かんなくて……」

 

 当たり前と言えば当たり前だが、3年に上がる頃には勘違い男子を量産してしまっており。1ヶ月に1回くらいの頻度で告白されては断る羽目になって、さすがに大人しくしておこうと悪女ムーヴは程々に抑えることにした。

 

 さて、そんなことはどうでも……いいわけではないが、オレにとって大事なのは小学校を卒業した後のこと。つまり、トレセン学園入学へ向けての準備なわけで。

 幸い、学費や道具費など家計的な面は既に貯金を始めてなんとか生活水準を落とさずやっていけそうだと言うことで、後はオレの努力次第だ。

 

「URAで史上初のトリプルティアラのウマ娘になったのは、メジロラモーヌ……」

 

 まずは筆記試験だが、前世知識のお陰で大体は問題ないだろう。これでも一応高等教育まで受けた身分だし、ウマについてもウマ娘が切っ掛けでそれなりに調べたつもりだ。

 

「こうして見てると、私がトレセンに入る前を思い出すわね。ほら、私が試験を受けた時は三冠ウマ娘の数ってここに載ってるより少なかったのよ」

 

「そうなんだ」

 

「私の時よりもずっと、ゾンネちゃんは吸収が早いから安心するわ」

 

 そう言う母の表情はどこか誇らしげだった。

 

 

 

 

 座学は心配要らない、となれば次は実技……つまりは走りだ。そちらはどうなのか、というと。

 

「はああっっ!!」

 

「ふぅっっ……!!」

 

 地域のクラブで野良レースに参加したりはもちろんのこと、現役時代から既に長い時間が経っているとは言え、重賞ウマ娘である母親との併走も度々行っている。

 

「ゾンネちゃん、やっぱり、速い、わね……!」

 

「母さんも、なんかちょっとずつタイム縮んできてない……?」

 

 実績ウマ娘の矜持だろうか、併走はじめは結構なタイム差があったものの、コンマ秒単位ではあるが縮まっているのである。

 

「いや、さすがに、これが限界よ……息も、ゾンネちゃんに比べて、上がっちゃってるし……」

 

 ちなみにクラブの先生によるオレの評価は……今は明確に強いと言えるほどではないが将来は化けるだろう、とのこと。筆記試験よりは安泰というわけではないが、まあなんとかなるだろう。そういうことにしておこう。

 

 

 

 

 さて、トレセン学園の入学試験は筆記と実技だけではない。中学相当への試験としては珍しく、面接があるのだ。

 これについては実際に面接を経験し、通った実績を持つ人物……つまり母に聞くのが確かだと思って聞いてみるが。

 

「そうね……よっぽど変なこと言わない限り大丈夫だと思うわよ?」

 

「そ、そんなアバウトな……」

 

 母曰く、筆記は必死に勉強して合格ラインにちょっと余裕がある程度、実技は平均よりは速く走れるくらい、面接は普通に質問されたことに答えただけだったものの無事合格したらしい。

 

「ちなみに、質問内容とかは?」

 

「志望理由とか、趣味とか、憧れているウマ娘とか、トレセンに入ってどんなウマ娘になりたいかとか……まあそんな感じだったはずよ」

 

 普通に面接って感じなんだな。これなら身構えず落ち着いて答えられれば問題はないと思う。だが、母はそこで何か思い出したようで付け加えた。

 

「そういえば、最後にフリータイムで自己アピールってあったわね。あれ私は即興で何とかしたから、自分の言ったことイマイチ思い出せないんだけどね」

 

「ええ……」

 

 自己アピールとか中々難しい話だな……?どうしようか、母を参考にしてみたかったが無理そうだし。

 

「まあ、さっきも言ったけれどよっぽど意味の分からないこと言わない限り大丈夫なはずよ、気にしないで」

 

「そういうものかな……」

 

 そうして学校の勉強と平行してトレセン受験対策を進め、6年生の冬。ついにトレセン学園中等部の試験を受け、後は結果を待つのみ。自分の感覚では確かに手応えはあったが……。

 

「……合格!合格だよ、母さん!!」

 

「ふふ、私より優秀なゾンネちゃんが受からないはずないと思ってたけれど、ごめんやっぱりすごい嬉しいわ」

 

 返ってきた結果は合格。この春からオレはトレセン学園の生徒となるわけだ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 制服や鞄、指定教科書などの学生としての物や蹄鉄やシューズといった競争ウマ娘としての備品など様々な準備を済ませ、両親としばしの別れを告げて荷物を抱えて電車でやって来た府中。

 

「ここから、か……」

 

 アニメやアプリで度々出てきた、煉瓦積みに『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』の文字が特徴的なトレセン学園の校門。奥に見えるお馴染みの本校舎と併せて染々と眺めた後、他の新入生のウマ娘に続いて桜の花びらが舞う敷地へと足を踏み入れた。

 

*1
種々の事情で、その時点では出せなかった競走馬から名前を変えて似たような役割を持たせたウマ娘。アニメで多く登場するほか、アプリではシュガーニンフェやブリュスクマン、ハープアルファなどがいる

*2
レースや背景に登場する、ネームドや偽名ではないウマ娘。中にはエキサイトスタッフやバイトアルヒクマ、ブリッジコンプなどコアな人気を集めるウマ娘もいる




というわけでTS転生牝堕ち小説第二弾、はーじまーるよー!

ちなみにインデアゾンネの同級生たちの名字について。元ネタはありますが、別に伏線とか深い意味はなく名前を借りただけです。



そしてここから先はあんまり本編に関係ない作者の雑談なので飛ばしてもかまいません。

ウマ娘アプリは一目惚れしたメジロアルダン(通常衣装。シナリオで言うとアオハル杯の終盤)実装から始めて今もプレイし続けてます。ブルアカよりプレイ歴としては長いわけですね。
というのも、実はブルアカについてはあるきっかけで知って面白そうだな、二次創作をやってみたいなと思ったのですが、エアプで書くのは作品理解が不足してしまうだろうと危惧していました。
そういうわけで実際にプレイを始めてから二次創作を書き始めたという経緯だったりします。なので田舎令嬢の初期は本当に初心者でした。もちろん、今じゃだいぶ時間も経ちましたしコンスタントにログインを続けてるのでとっくの昔にLv90まで行ってますけどね!

要約しますと、どちらも楽しくプレイさせていただいていますので、そこについてはご理解ください。
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