3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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クラシック級前半
新年の抱負


 インデアゾンネが無事に阪神JFを勝利した1週間後、観戦しに行った彼女から同室のクルーシャルテイクもひいらぎ賞を快勝したと聞き、いよいよレースでぶつかる時が近づいてきたのだと感じる。

 その対策のためにインデアゾンネとトレーナー室で会議をしているところで、緑色のスーツと帽子が特徴的な、理事長秘書の駿川たづなさんが来訪した。

 

「失礼いたします、トレーナーさん、インデアゾンネさん。ぜひお伝えしたいことがございまして!」

 

「伝えたいこと、ですか?」

 

 そう聞き返すと、彼女ははい!と勢いよく返事してから言葉を続ける。

 

「インデアゾンネさんのジュニア級での活躍が評価されまして、URA賞の『最優秀ジュニア級クイーンウマ娘』に選定するとの通達がありました!」

 

 URA賞の最優秀ウマ娘は、ジュニア級やクラシック級、あるいはダート路線など様々な部門でその一年活躍したウマ娘を表彰するというわけだが。

 

「阪神JFを勝ちましたからね、まあ当然でしょう」

 

 その中でも『最優秀ジュニア級クイーンウマ娘』は、現在のようなレース体制が整えられ、阪神JFがGⅠに指定されてからは伝統的にその勝ちウマ娘が選出されている。インデアゾンネが選ばれるのは必然だ。

 

「冷静ですね、トレーナーさん。とても名誉なことですし、もっとお喜びになってもよいかと思いますが……」

 

「もちろん嬉しいですが、ゾンネが努力した結果ですからね。それに俺は、彼女が最強だと信じていますし」

 

 そう、これはインデアゾンネ自身が勝ち取った栄誉だ。多少の手伝いはしているが、喜ぶべきは彼女だろう。

 

「……なるほど、そのような考えがあったのですね♪後日表彰式がありますので、当日はご出席の準備をお願いいたしますね!それでは」

 

 そうして退室したたづなさんを見送って、担当ウマ娘の方を見ると苦々しい表情をしていた。

 

「あんたさぁ……好き放題言いすぎでしょ」

 

「全部本心だぞ」

 

「別に見栄で言ってる訳じゃないんだろうってのは分かるけど、それでも!」

 

 そんな風に恥ずかしさでだろうか、顔を赤らめる彼女を宥めてからこれからのレースについての話に戻る。

 

「クラシック級はトリプルティアラ……桜花賞・オークス・秋華賞を目標にする。これは変更ないか?」

 

「うん、そのままで大丈夫。それで、桜花賞までは間隔が開くけど何か考えてるレースとかあるの?チューリップ賞とか……」

 

 桜花賞の前哨戦で阪神芝1600mの同じ舞台、チューリップ賞か。定番のレースではあるが、考えは別にある。

 

「ああ、そうだな。俺としては共同通信杯を考えてる」

 

「共同通信杯……?いいの、確かティアラ路線のレースじゃなかったと思うけど」

 

 そう、共同通信杯は三冠路線のウマ娘も参加するレース。トライアル競争としての指定はされていないものの、一般的には皐月賞の前哨戦として選ばれることが多い。

 

「ああ。ここを使おうと考えたのは、正直に言ってしまえば府中での感覚を掴むため。つまりオークスに向けてということだ」

 

 同じ東京レース場のクラシック級限定の重賞競争は、前日に行われるティアラ路線で芝1600mのクイーンカップもある。しかし、オークスはこの時期としてはかなり長丁場な2400mのレース。よって、少しでも距離が近い芝1800mの共同通信杯を選択するつもりというわけだ。

 

「阪神芝1600mの実績は、既に阪神JFであるのだから不安はない。だからこその挑戦というわけだ」

 

 加えて、インデアゾンネの身体は極端に虚弱というわけではないものの、頑丈といえる程でもない。ゆえに、念には念を入れて桜花賞とやや間隔の近いトライアル競争を避けている。

 

「ふうん、そういうことね。ま、わたしはトレーナーの指示に従うだけだよ」

 

「それじゃあ、春の目標は共同通信杯、そして桜花賞本番にオークスということで」

 

 

 

 

 そうして今後について決めたのが数日前のことで、年を越して迎えた新年。トレーナー室でテレビを見ていたところ、今年度クラシック級を迎えるウマ娘の特集が組まれていた。

 

『今年のトリプルティアラはどうなるのでしょうか、有力なウマ娘について見ていきましょう』

 

 そうして流されるのは、昨年の阪神JFでのレース映像。そこには当然、金色のツインテールと尻尾の3本を棚引かせてゴール前を駆け抜ける少女が映し出されていた。

 

『やはりこのウマ娘は外せないでしょう、昨年のジュベナイルフィリーズ覇者であるインデアゾンネ!』

 

『桜花賞の大本命ですね!ですが、阪神JFで惜しくも敗れたグアバサラダやプリュームクローレも引き続き桜花賞へ参戦すると表明しています。冬の雪辱を春の舞台で果たすかもしれません』

 

 阪神JFでゾンネと戦った彼女たちも桜花賞に出ることはリサーチ済みだし、警戒すべき対象であることはインプットしている。しかし、次いで興味深い情報が提示された。

 

『阪神JF組でない中で注目のウマ娘は、やはりクルーシャルテイクでしょうか?』

 

『はい、そうですね。まだ実績としてはメイクデビューとプレオープンひいらぎ賞での2勝だけですが、その直線での差し脚は目を見張るものがあります。出走を予定しているチューリップ賞での結果次第では、桜花賞の有力候補に躍り出るかもしれませんよ』

 

 インデアゾンネの同室であり同期のクルーシャルテイクが注目を浴びているらしい。しばしばゾンネとの併走に付き合ってもらう中で、確かに素質を感じていたし強力なライバルとなるだろう。

 そうして情報収集をしていると、トレーナー室のドアが開かれ、入ってきたのはというと。

 

「……あけましておめでとう、トレーナー」

 

 先ほどまでテレビの画面に映っていた、金髪ツインテールのウマ娘。担当であるインデアゾンネだ。

 

「ああ、あけましておめでとう。今日は何か用事でもあるのか?」

 

 さすがに年末年始だし、休息を取って英気を養った方がいいだろうと思い休みにしていたので、あちらから訪問してくるとは思っていなかった。

 

「いや、自分に誓う……みたいな感じで、改めて抱負の宣言でもしようかなと思って」

 

「そうか、せっかくだし俺も付き合うよ。それで、ゾンネの今年の抱負は?」

 

「それはもちろん、トリプルティアラのレースでいい結果を残すことだよ」

 

 今年の目標といえば、やはりそれしかないだろう。だが彼女ならもっと高く……トリプルティアラ全てを勝つことでも構わないと思うし、それに能う力も備えていると思うが。

 

「なら俺は、ゾンネにトリプルティアラを取らせることだな。そのために──」

 

 トリプルティアラを達成させるために必要なこと。それは何かと一瞬考えて、答えを出す。

 

「レース技術を磨くのみ、だな」

 

「具体的には何するの?」

 

 技術を向上させるためにやること……やはり、まずは学習するのが一番だろう。そういうわけで、トレーナー室を出て一緒に図書室へと出向く。そこでゾンネに役立ちそうな本を見繕って、図書室のテーブルに着席している彼女へと渡す。

 

「レースの教本だ。他に興味があることがあれば……」

 

「おっ、インデアゾンネはんと、トレーナーはん。お久しぶりです」

 

 レースの勉強に取りかかろうとしたところで、思わぬ相手から声を掛けられた。亜麻色のセミロングの髪を、ハーフアップにまとめたウマ娘。

 数ヵ月前、ゾンネのメイクデビューのしばらく後に会って以来の……クルーシャルテイクの所属しているチームハチサのメンバー、キヨミズノマイだ。

 

「どうも、先輩」

 

「新年から勉強ですか?えらい気合い入ってますね。やっぱりクラシック級やからです?」

 

 関西弁……その中でも特に京都のイントネーションが特徴的な彼女は、その印象通り京都レース場がかなり得意らしいウマ娘だ。これまで淀で4戦を走って不敗、その中にはクラシックの一冠である菊花賞も含まれており、今年の天皇賞春の有力株とされている。一年先輩かつクラシック路線なのでゾンネとかち合う可能性は高くないが、その強さは注目に値するだろう。

 

「そうだな、桜花賞に向けてどれだけ準備してもしすぎることはないだろうから」

 

「桜花賞いうたら、うちのテイクちゃんも出る予定やんな。ゾンネはんとぶつかるの、ほんま楽しみにしてるみたいやから、よろしゅうお願いしますね」

 

「……うん、もちろん全力でぶつかるだけだよ」

 

 そうしてゾンネもまた、トリプルティアラへ充分気合いが入っているようだった。ならば自分のやるべきは、彼女が3レース全てでセンターで歌えるように支えること。そう、気持ちを引き締め直した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 新しい年が始まって1週間ほどが経ち、表彰式典の当日。昨年活躍しURA賞に選ばれたウマ娘が並ぶ中、勝負服姿で他のウマ娘たちに劣らぬ風格で佇む、我が担当の姿もある。

 

「──続いて『最優秀ジュニア級クイーンウマ娘』に選出されたインデアゾンネさん、コメントをお願いいたします」

 

「はい。まずは、選出していただいたことに感謝します。わたしが選ばれたのは、やはり阪神JFでの勝利が大きいと思います。しかし、この結果に満足することなく……クラシック級を迎える今年は、更なる飛躍を成していきたいと考えています。以上です」

 

「インデアゾンネさん、ありがとうございました!それでは次に──」

 

 ハキハキとした、ジュニア女王に相応しい喋り。阪神JF前に受けた取材の時のように、始まる前は少しだけ心配に思っていたが……普段はそんな素振りは見せていないが、彼女は公な場では堂々と話すことができるようだ。式を終えて、舞台袖でゾンネに声を掛ける。

 

「コメント、良かったぞ。……こういう他人に向けての場だと、日頃の様子とは全然違うんだな?」

 

「うるさいな……ちゃんとした場所だから気合いを入れなきゃってだけだよ」

 

 彼女は耳を絞り、こちらをジト目で睨む。自分としては素直に感心していただけなのだが、どうやら余計な一言だったらしい。

 

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