3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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咲き誇る季節を待ちわびて

 3月も後半に入った頃。もう阪神レース場では桜が咲き始めているらしく、雨が降ったら桜花賞本番には散ってしまうんじゃないかと話題になっているとか。

 

「ゾンネっちはろはろ~☆」

 

「今日はよろしくお願いします、ゾンネちゃん!」

 

「うん、よろしく。テイク、コレオプシスカラー先輩」

 

 そんな春らしく過ごしやすい気候になりつつある休日。オレはテイク、コレオプシスカラーと一緒にお出かけすることになった。きっかけはチューリップ賞の後のトレーニング中にテイクから声を掛けられたことで、断る理由もなかったので承諾したのだが……。

 

『えっと、ハチサのトレーナー……?』

 

『ええ、インデアゾンネ。今度うちのチームのウマ娘とオフに出掛けるそうね』

 

 その翌日、チームトレーナーとバッタリ会ってしまい、腰が引けつつも応答する。

 

『私が着いていっては息抜きにならないでしょうし、任せてはいるのだけれど……彼女たち2人は少し不安なの』

 

『あー、なるほど……』

 

 確かにあの2人だとスイーツとかを見境なく食べちゃいそうだしな。いや、仮にもアスリートなんだし自制はできるだろうし、できているとは思うが。

 

『大丈夫だとは思っているの、けど念のために気を配ってもらってもいいかしら?』

 

『そうですね……一応頭の片隅に入れておきます』

 

 そういうわけで、コレオプシスカラーは高松宮記念、テイクは当然桜花賞を控えているから羽目を外しすぎないように見張る役目を担うことになった。

 

「ゾンネっちはどっか行きたいトコとかある~?」

 

「いや、特にはないけど……」

 

 こういう年頃の女の子が行く場所って、オレも正直よく分かってるわけではないんだよな。

 

「んじゃ、まずコスメとかアクセ見に行くじゃんね☆この前ゾンネのトレっちと会った時は行きそびれちゃったしさ~♪」

 

「そうですね、あたしも可愛い耳飾りとか見てみたいのです!」

 

「ふうん、まあわたしもそれで大丈夫だよ」

 

 コスメ……化粧品か。化粧にはあまり興味がなく、母親に連れられて行ったことは何度かあるが自発的に来たことはない。同年代のウマ娘がどういう風に選ぶのか、少し気になるところだ。

 

 

 

 

 コレオプシスカラーの先導でやってきたのは、やや遠出した先にあるデパートのコスメコーナー。早速物色し始める先輩に、それを興味津々で眺めるテイクについて歩く。

 

「ほらコレ見るじゃんよ☆人気ギャルモのつつじんちゃんプロデュースのコスメブランド、〈U&U〉の最新作~♪」

 

 そう言って差し出されたのは、柔らかなオレンジの外箱が印象的な化粧品。テイクはどんな反応なのかと見ると、スマホで何か調べているようだ。

 

「ふむふむ、そのプロデュースしてる人は元トレセン生で重賞勝ってるウマ娘みたいなのです」

 

「そそ、あーしちゃんのギャル魂の師匠って感じ?もちもちしゅきピじゃんね~」

 

 会ったことはないけど、と締める彼女と化粧品を交互に眺めて、思ったことを口にする。

 

「確かに、先輩の明るいオレンジの髪と相性良さそうだもんね」

 

「あ、ゾンネっち分かっちゃう~?このブランド推すきっかけはオレンジ色に惹かれたからじゃんね☆」

 

 そうして並んでいるコスメ用品を手に取りながら眺め、オレたちに見せてくる先輩。どうやら化粧に興味を持ってもらいたいらしい。

 

「このリップとかホラ、キスしたくなるような唇に盛れちゃうじゃんね!ね~?」

 

「いや、なんでわたしの方見るの……?」

 

「ゾンネちゃんとトレーナーさん、仲が良さそうなのですよ」

 

 あいつとはそういうのではないんだが。ただのトレーナーと担当ウマ娘なんだが。オレたちって周りからそんな風に見えているんだろうか。

 

 ……しばらく見て回り大体巡回し終えたところで、先輩がオレとテイクの方に向き直る。一体次はどんな言葉が飛び出すのだろうかと思ったが。

 

「んじゃ、そろそろ二人にオススメのコスメ紹介してあげるじゃんね~♪」

 

 そう言って、まずはテイクに薄ピンクでガーリーな雰囲気の化粧セットを見せる。

 

「わぁ、可愛い感じなのです」

 

「テイクっちはやっぱりパケも可愛いのが似合うと思うじゃん?ちな化粧見せたい相手とかいる?」

 

 今は特にいない、と返すテイクにその化粧品について色々説明した後、次はオレの方へ顔を向ける。

 

「ゾンネっちはこういうのとかどう?」

 

 手渡されたのは水色が目を引く、爽やかな感じのコスメセットだった。

 

「まだ季節には早いかもだけど、使うとひんやりして気持ちいいじゃんね☆」

 

「へえ、なるほど……」

 

 冷感か、トレーニングをしてるとやっぱり体が熱くなってくるし、終わった後のお出かけで使うのはいいかもしれない。

 

「他にも色々見せたいのはあるけど、まずはこのくらいかな~♪次はネイル専門店見に行くじゃんよ!」

 

 化粧には興味がなかった……でも、コレオプシスカラーが熱中しているのを見て少し気になった。とりあえず紹介されたものを買ってみて、帰ったら調べながら試してみようかなと思ったところで次の場所へ連れていかれた。

 

 

 

 

 テイクと一緒に試しにネイルを付けて見たりしてそれなりに楽しんだ後、時間は昼過ぎになっていた。そろそろかということで昼食に移る。そう、ハチサのトレーナーに頼まれた任務の開始というわけだ。

 

「カフェ・ラ・デヴィナシオン、良さそうじゃんね☆」

 

「……オープンカフェ?」

 

 このデパートは構造上4階の一部がテラスになっており、その部分がオープンカフェであるこの店舗となっているのだ。

 

「はい、天空カフェテリアなのですよ!」

 

 カフェならまあ食べ過ぎることもないかな、と思って先輩に続いて入店し、テーブル席に座る。何を頼もうかな、とメニューを眺めてボロネーゼが美味しそうだなと思っているとコレオプシスカラーが目を輝かせながら話す。

 

「実はここ、有名な映えスイーツがあるんだよね~♪」

 

「そうなのですか?」

 

「うん、このギュスターヴパフェっての!エッフェル塔みたいに高いらしいじゃんね~♪これでウマトック用の動画撮りたいの☆」

 

 そう言われてオレも見てみると、四足のガラスの器にキウイやバナナ、パインにオレンジの輪切りとクリームが敷き詰められ、その真ん中には仕切りで仕切られてさらに長い円筒のガラスの器にイチゴとクリームが詰められ、一番上にはラングドシャロールが突き刺さった……まさにエッフェル塔のようなパフェの写真が映っていた。

 

「美味しそうなのです!」

 

「でしょ~?ゾンネっちも一緒に食べて完食しようよ~?」

 

「……しょうがないね、ちょっとだけだよ」

 

 これで満足してくれるなら大丈夫だろう、オレはボロネーゼを取り止めて軽めのサンドイッチを頼み、他の二人が食べ過ぎないよう協力することにした。

 

 

 

 

 注文してからしばらく経って、ついにギュスターヴパフェとやらが運ばれてきたが……。

 

「デカい……」

 

「頑張って食べきるのです……!」

 

 想像してたよりサイズが大きい。多分全体の高さはテイクの身長の半分くらいはあるのではなかろうか。

 

「待って待って!まずは動画撮るじゃんね!」

 

「は、はあ……」

 

 そういえばそんな話だったな。先輩の指示通り、笑顔を作ってスマホに向かって手を振る。

 

「はろはろ~☆今日はカフェ・ラ・デヴィナシオンに来て映えスイーツ食べに来たじゃんね~♪ほら、可愛い後輩ちゃんたちも一緒なんだよ!」

 

「こ、こんにちは……」

 

「こんにちはなのです」

 

 コレオプシスカラーはスマホカメラの向ける先を俺たちからパフェの方へと移し、言葉を続ける。

 

「んで、これが話題のスイーツ!ギュスターヴパフェじゃんよ☆ねー、おっきいよね~!頑張って三人で完食するから応援してほしいじゃんじゃん♪」

 

 そうして動画を撮り終え、さらに写真も撮っていよいよパフェの攻略にかかるというわけだ。

 

「まずは上から攻めていくよ~☆」

 

「はいなのです!」

 

 高く積み上げられたイチゴと生クリームを、専用のスプーンで掬いながら食べていく。途中でオレが頼んだサンドイッチが来たが、構わずパフェに一点集中し……。

 

「ふぅ……とりあえず、上は終わったね」

 

「二人もまだイケるよね?このまま完食まで一直線じゃん☆」

 

 お次は下層の南国フルーツが並んだエリアを崩していく。酸味もある果物が多いが、クリームの甘ったるさを中和しきれずちょっと重く感じる。それでもなんとか全部食べ終えて。

 

「な、なんだかこれだけでお腹いっぱいになっちゃったのです……」

 

「サンドイッチ……入るかな……」

 

 口の中がめちゃくちゃ甘いので、しょっぱさでバランスを取るためサンドイッチに塩コショウを振りかけ、ついに届いたもの全てを食べきった。

 

「よし、無事完食じゃんね☆二人ともありがと~♪」

 

 テイクと先輩だけだったら無理して食べてたかもしれないし、オレがいることでなんとか食べ過ぎは防げた……はず。

 

 

 

 

 先輩が奢るというので素直にゴチになってカフェでの会計を済ませ、次に来たのは……。

 

「見てください、ゾンネちゃん!このお揃いのアクセ、良くないですか?」

 

「うん……そうだね。こっちのピンクの方はテイクに似合うと思うよ」

 

 ウマ娘用のアクセサリショップだ。ウマ娘用のイヤリングやヘアピン類はもちろんのこと、耳カバー*1やカチューシャなども広く取り扱っている。

 

「じゃあ、もう片方の水色はゾンネちゃんですね!一緒に買いたいのです!」

 

「うん、いいよ。カゴに入れとくね」

 

 そういえば、自分が今左耳に付けている耳飾り……3つセットの小さな太陽を模したもの。幼少期、前世の記憶を思い出す前に親に連れられた時にビビっときてショップで買ったものを今でも付けているが、これが何か意味するところはあるんだろうか。

 同じく左耳の小さなウマ娘用のベレー帽はなんとなくお洒落だから被っているので、あまり意味とか考えてもしょうがないかもしれないが。

 

「先輩の方は……」

 

「呼んだ?ゾンネっち!」

 

 耳カバーのコーナーを眺めていたコレオプシスカラーの方を見ていると、彼女がすぐに近寄ってきた。その左耳の下にある黄色い花にリボンがついた耳飾りは、名前の通りコレオプシス*2の花をモチーフにしたものみたいだ。

 

「いや、なんでもない」

 

「そお?あ、あーしちゃんはゾンネっちにはこれとかどうかと思ったじゃんね~☆」

 

 そう言って、何かヘアピンらしきアクセサリーをオレの髪に付ける。身長差的に仕方ないが、目の前に大きな山が迫ってきて目のやり場に困る。

 

「えーと鏡、鏡……あった、見てよゾンネっち~」

 

「これは……ひまわり?」

 

 差し出された手鏡を見ると、付けられたのは中央が茶色で格子状の模様があり、周囲は無数の黄色い花びらが並ぶ、どう見てもひまわりがモチーフであろうアクセサリー。

 

「ひまわりって英語でサンフラワーって言うらしいじゃん?だからゾンネっちに似合うかな~って♪」

 

「ふうん……わたしはそんな、明るい感じでもないと思うけど」

 

「そうですか?あたしはゾンネちゃんと一緒だと楽しいのですよ?」

 

 そこでネックレスを見ていたテイクもやって来て、何とも反応に困る返し。

 

「そう、なのかな……わたしはもちろん、テイクとこうやってお出掛けするの楽しいけど」

 

「えへへ、そういってもらえて嬉しいのです」

 

「んもう、二人で仲良くしちゃって~!あーしちゃんも混ぜてよ☆」

 

 そんなこんなでアクセを見て回り、いくつか見繕ったものを購入。そこからは特に何か予定があるわけでもないので、3人でトレセン学園に戻って寮前で解散と相成った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 数日後、昼過ぎの中山レース場。2時間後にはGⅠである高松宮記念が開催されるその裏で行われたプレオープンの芝2000m、ミモザ賞。1時間ほど通り雨が降りしきりバ場は重めとなっている。

 

〈最後方からの追い込み、後続を寄せ付けない!残り100mを切って、譲りません!2バ身の差を付けて、今ゴールイン!〉

 

 しかしその美しい黒髪が泥に塗れても臆することなく、終いの脚を炸裂させて勝利を飾ったウマ娘。

 

〈デビューから無傷の2連勝を見事飾ってみせました、次はどこへと飛び立つのか──カルドロンディーニ!〉

 

 中山のスタンドから、勝者を称える歓声が響く。ともすれば、自分の声まで掻き消されてしまいそうなほどの大きさで、彼女の期待はさらに高まる。

 

「ここはまだプレオープン……オープン競争で、重賞で……GⅠで!そこでワタクシが勝てば、一体どれだけの声援がレース場に轟くのかしらね?」

 

 今はまだ、2勝しただけ。それでも彼女──カルドロンディーニは大志のためにただ前だけを見つめる。

 

 

 

 ──トリプルティアラの開幕は、すぐそこへ迫っていた。

 

*1
メンコともいう

*2
ハルシャギクとも




さあ、謎のウマ娘ことカルドロンディーニが名前を明かしていよいよ次回桜花賞というところで、今回の更新分は一旦終わりです。続きは数日~半月後を目処に。
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