桜花賞を控えたある日、桜花賞に出走する有力ウマ娘たちの共同記者会見が開かれるということだったので、担当ウマ娘に確認を取って共に出席する。そこには勝負服姿のウマ娘たちと、そのトレーナーが数名並んでいた。
「さて、インデアゾンネさん。事前予想では1番人気となっていますが、自信のほどは?」
「出走するからには、全力を尽くして優勝に向けて駆け抜ける。ただそれだけです」
インデアゾンネはしっかりと受け答えできており、特に心配する場面もない。つくづく、優秀なウマ娘だと思う。
「前走共同通信杯では3着という結果でしたが、それについてはどのように?」
「あの時わたしに出せる力の全て、その結果が3着であったのなら受け止めるのみです」
会見に参加しているウマ娘は、ゾンネの他にはテンダートゥチーフ、プリュームクローレ、そして……クルーシャルテイク。
いずれも勝利の可能性は充分にある、油断のできない相手だ。尤も、インデアゾンネが全力を遺憾なく発揮できれば勝ちは譲らないだろう、が。
「インデアゾンネさんの時間はここまでとなります。続いて、テンダートゥチーフさんへの質疑応答です」
記者たちは時間一杯までインデアゾンネへの質問を続け、次のウマ娘へと移る。
「テンダートゥチーフさんといえば阪神JF、チューリップ賞での大逃げですが、同じ阪神芝1600m……ずばり、桜花賞本番でも大逃げをするのでしょうか?」
「それは言えんけどね、桜花賞は面白いもん見せてやるよ」
「ほお、それは楽しみですね!」
そうして、テンダートゥチーフへの質問が終わると次はプリュームクローレだ。デイリー杯ジュニアS以来勝ちきれない惜しいレースが続いているが、毅然とした態度で取材に臨んでいた。
「それではプリュームクローレさん、最後に一言お願いします!」
「ええ、今度こそ勝利の報告をファンの皆さんに届けたいわね~。ここにいるテンダートゥチーフさんにも、インデアゾンネさんにも、クルーシャルテイクさんにも……もちろん、桜花賞に出走する他の皆さんにも負けるつもりはないわ」
プリュームクローレの番が終わって、最後はクルーシャルテイク。インデアゾンネの同室であり、ずっと対戦の機会を待ちわびていたらしい彼女は果たしてどのような言葉を紡ぐのだろうか。
「えー、クルーシャルテイクさん。インデアゾンネさんとは寮で同室とのことですが、普段どのような生活なのでしょうか?」
「えーと……ゾンネちゃん、話しても大丈夫なのです?」
「あんまり恥ずかしいことは話さないでね」
GⅠ直前らしく張りつめていた先程までよりも、明らかに空気が緩んでいた。クルーシャルテイクは後輩感というか、妹感というか……とにかく可愛がられる気質で、場の雰囲気にまで影響を与えてしまうようだ。
「んー、でもゾンネちゃんは真面目ですし普通なのですよ?トレーニングじゃない時は授業の勉強したりが多いのです、あたしも教えてもらったりしてます」
「なるほど、そんなインデアゾンネさんとついにレースで相対することになるわけですが、今の心境は?」
クルーシャルテイクはその問い掛けを聞いて、ただ目を瞑って頷き、ゾンネの方へ向き直る。
「あたしは……トレーニングとかを一緒にやる中で、側でずっとゾンネちゃんの強さを見てきたのです。いつかレースで走りたいと、長い間待ち望んでいたのです」
彼女は視線の先の相手を見つめて、一つずつ言葉を繋いでいく。
「あたしのデビューが遅めで、随分とかかってしまいましたが……ようやく、同じ舞台に立てる時が来たのです。だから、レースに出る以上は勝つことを目指しますが……まずは、ゾンネちゃんと走るのが楽しみで仕方ないのです」
捉えようによってはインデアゾンネ以外眼中にないという風にも言えるが、クルーシャルテイクはただ純粋にゾンネと競い合いたいというだけだろう。だが他のウマ娘たちはそれを知った上で、あえて盛り上げるために食い付いていった。
「ふふふ……インデアゾンネさんにお熱みたいだけど、レース相手は彼女だけじゃないわよ~?」
「そうだよ、あたいたちもいるって本番で教えてやろうじゃんか」
「あわわ……」
そうしてゾンネがクルーシャルテイクに頑張れ、と言いたげに肩に手をポンと置いたところで会見は終了となり、本番へと熱気は続く。
◇ ◇ ◇
記者会見の数日後、桜花賞の当日。なんとか雨にも散らずに残った桜が見守る中で阪神レース場入りする。
「ついに、来たね……桜花賞」
「ああ、そうだな」
控室に入り、ゾンネが制服から勝負服へと着替える。レース本番で着るのは阪神JF以来だが、彼女にぴったりのその衣装は、変わらない輝きを放っているように見える。
「……そろそろかな」
「……?発走はまだじゃないの」
事前にある連絡を受けて、密かに来客があることを知っていたのでその相手を待つ。そうして、控室の扉がノックされて姿を現した人物たち。
「ゾンネ、来たぞ!」
「父さん、母さん。今日も来てくれたんだ」
……インデアゾンネの両親。娘の晴れ姿はやはり直接見たいということらしく、阪神JFに続いて今日も阪神レース場まで観戦しに来たというわけだ。
「それはもちろんよ!だって桜花賞はクラシック級の今しか出られない、一生に一度の舞台……そしてトリプルティアラの初戦だもの」
「12月の時みたいに、頑張ってくれ……!」
「……うん、良いところ見せられるように頑張るね」
そうしてご両親が観客席へ向かうのを見送ったら、レース前恒例の作戦確認をしながら発走時刻が近づくのを待つ。
「まず一番のライバルになるのは、クルーシャルテイクだ。特にその差し脚については、君もよく知っているだろう」
「うん、でその次が……」
──プリュームクローレ。GⅠにも届く実力がありながら、惜敗が続いている。その悔しさをバネに今度こそはと全力で挑んでくるはずだ。
「あとは、テンダートゥチーフって子……面白いもの見せてやるって言ってたけど何をするつもりなんだろう」
「そうだな……彼女は逃げウマ娘だし、先頭に立っていたらペースに気を配った方がいいだろうな。ゾンネなら具体的な数字は分からなくても、遅めか早めかくらいは感じ取れるだろ?」
逃げは文字通り先頭に立ってレース展開を引っ張っていく存在だ。その後ろで控えて仕掛けどころで好位置から上がっていくのが、インデアゾンネが得意とする先行。逃げの動向には注意を払う必要がある。
「うん、まあね。あ、そういえばチューリップ賞以外のトライアル組はどうなの?」
「そうだな……フィリーズレビューで1着のドロッピングマイン、アネモネステークスを勝ったマーシェリーチャンも参戦しているな」
ただ、率直に言ってしまえば恐れるような相手ではないだろう。そう告げると、彼女は相変わらずすごい自信だね、といつものように苦笑しつつも言葉を返す。
「……レース相手には関してはそんなところだ。さてと、そろそろ発走時刻も近づいてきたようだし行こうか」
「うん、わかった……トレーナー」
「どうした?」
呼び止められて聞き返すと、彼女は少し顔を赤らめてもじもじしている。なんとなくだが、掛けてもらいたい言葉があるのだろうかと察して、自分なりに予測をして口に出す。
「……ゾンネなら、大丈夫。必ず勝てる」
「……うん、ありがとう」
どうやら彼女の反応を見るに、正解を引き当てたようだった。もちろん、その言葉は自分の本心ではあるが。
〈2番テンダートゥチーフ、5番人気です〉
担当を送り出してからパドックへ向かうと、そこには勝負服姿のウマ娘たちがただ静かに出走の時を待っていた。
〈3番人気は4番プリュームクローレ〉
〈1番人気にも見劣りしない上々の仕上がりです〉
やがて姿を見せたインデアゾンネは、しっかりとした歩みで不安など微塵も感じさせない様子で。
〈さあ、本日の1番人気が堂々登場です。9番インデアゾンネ〉
〈ジュニア女王が仁川へと帰還しました、堅実な先行策で再び勝利を飾りたいところです〉
続いてクルーシャルテイクが登場し、歓声も大きくなる。ゾンネとそう離れていない2番人気に推されており、彼女との2強対決と見られている。
〈2番人気を紹介しましょう、12番クルーシャルテイク〉
〈前哨戦の勝ちウマです、逆転も狙える素晴らしい仕上がりですよ〉
インデアゾンネがクルーシャルテイクと何か会話しているのが見えて、何を話しているのだろうかと少し気になったものの……18人のパドック解説が終わって、そのまま本バ場入場へと移る。
〈仁川の桜は今年も咲き誇って、新たな女王の誕生を見守っています。クラシック級のウマ娘のみが挑める晴れ舞台、まずは1戦目です。阪神芝1600m、GⅠ・桜花賞。18人のウマ娘たちが今本バ場へと入場していきます〉
〈──4戦2勝、「面白いもん見せてやるよ」と不敵な笑みを浮かべて今日のレースに臨んでいます。大逃げには絶好の枠番です、2番テンダートゥチーフ〉
ゾンネはターフの上に出るとストレッチをして身体を暖めており、問題はなさそうだ。
〈5戦3勝、直近2戦は双方3着と惜しいレースが続いてきましたが、今度こそは翼を広げて勝利へ向かって飛び立ちたい。4番プリュームクローレです〉
〈ここまで5戦3勝、アネモネSで見せた差し脚をこの阪神でも見せてくれるでしょうか、5番マーシェリーチャン〉
そうして出走ウマ娘の解説が粛々と進んでいき、いよいよインデアゾンネの番になる。
〈4戦3勝、昨年の阪神JFで勝利したジュニア女王が1番人気を背負い、満を持しての登場です。前走共同通信杯では3着でしたが、今日こそはその走りを証明したいところ。9番インデアゾンネ〉
〈4戦4勝、うち重賞2勝という圧倒的な成績を引っ提げて参戦しています。今日も爆発的な末脚は炸裂するか、10番ドロッピングマイン〉
そして今日、おそらくインデアゾンネの1番のライバルになるであろうウマ娘が紹介される。
〈ここまで3戦3勝、チューリップ賞を制したウマ娘が無傷で桜花賞へと挑みます。2番人気ながらも虎視眈々と逆襲を狙って、12番クルーシャルテイク〉
全員の本バ場入場が完了し、関西GⅠのファンファーレが高やかに奏でられ、続々とウマ娘たちがゲートへと入っていく。少し抵抗していた最後の一人、マーシェリーチャンがなんとか収まってから、一呼吸置いて。
〈今年もクラシック戦線が始まります。まずはここから、阪神芝1マイルの桜花賞が……今スタートしました!〉
ゲートが開き、インデアゾンネも含めたウマ娘たちが一斉にスタートを切る。阪神JFの時のように、担当が勝利を持ち帰ってくることを信じて、レースを見守る。
少し予定よりも遅くなってしまいましたね、申し訳ないです。今回の更新では桜花賞からオークス、そして夏合宿前までを予定しています。
それと活動報告でオリウマ娘の一部のイメージ図を載せていますので、興味があればどうぞ。