桜花賞から半月ほど経ち、半マイルの距離延長に向けて負荷を上げたトレーニングメニューをこなしているところ。
オークスのトライアルレースであるフローラステークスの結果が出たということで、今年のトリプルティアラ路線のウマ娘を集め、合同の会見を組むという。当然、桜花賞ウマ娘であるオレも会見に出席する運びとなった。
トレーナーと勝負服で会場へ向かうと、そこにはテイクをはじめとした桜花賞組の他にも、会ったことのないウマ娘もチラホラいた。特に目を引いたのは、毛色で言えば青鹿毛だろうか。腰まである濡羽色の艶やかな髪、その額には縦一筋に伸びる流星。眼の色は吸い込まれるような深紅で、そして何より……ゴスロリドレスで見るような、瞳と同じ紅色を基調としてフリルが盛り込まれた鍔なし帽子*1が目立つ、ドレス風の勝負服を着用したウマ娘だった。高貴な風格ながらも、そのうちには抑えきれない情熱があり、オーラが違うと直感的に思った。
「さて、開始時刻になりましたのでトリプルティアラ路線合同記者会見を開始いたします」
オレが来てから十数分くらいして、人も揃ったところで会見が始まる。まずは桜花賞で活躍したウマ娘から……つまりオレだ。
「それでは、先日見事桜花賞のティアラを戴いたインデアゾンネさん。オークスに向けての意気込みをお願いします」
「はい、この勢いのままオークスでも結果を出して……出走するからにはもちろん勝利を目指し、ダブルティアラを勝ち取れれば、と思っています」
桜花賞は勝てたが、オークスもまた同じように勝てるとは限らない。何せ距離が1.5倍にもなるのだ、それにトレーナーの見立てでは、オレの適正距離で2400mはギリギリとのことだし。
「桜花賞からオークスは800mの距離延長となりますが、その対策は如何程でしょう?」
「そうですね、あまり詳しくは言えませんが……中距離向けにトレーニングの負荷も一層上げています。あとは位置取りなども考えて、とにかく万全を期して挑むつもりです」
そう自分の言葉を終えると、記者陣は互いに顔を見合わせて意見を交わしている様子だった。
「さすがはトリプルティアラで1番人気の桜の女王……冷静な受け答えね」
「位置取りか、いつもの先行策とは違う作戦の可能性もあるのか……?」
そうしてオレの次に取材を受けるのは、桜花賞で2着のウマ娘。つまりテイクである。
「さて、それではクルーシャルテイクさん。オークスに向けてはどういった感じでしょうか?」
「はい!桜花賞は惜しかったですが、今度こそゾンネちゃんに勝ちたいのです」
オレ以外もいるんだがな……そう思いつつも、でもオレが断トツで人気らしいし、徹底マークしていると見ればまあ納得はできるか。
「確かに、インデアゾンネさんはオークスでも本命と見られていますからね。他の競争相手についてはどのように?」
「えーと……トレーナーさん?」
「……はあ。当然他のウマ娘についても、同じレースに出る以上警戒すべきライバルだと考えています。その中で、特にクルーシャルテイクが意識しているのが彼女。インデアゾンネということになります」
そうして溜め息を吐きつつもテイクに助け船を出し、オレの名前を出すと同時に顔をこちらの方へと向けるハチサのトレーナー。この前テイクとコレオプシスカラーとのお出かけに際して言われたことといい、案外あのトレーナーは振り回される側なんだろうか。
「なるほど、そういうことでしたか。それでは次は──」
テイクの後、桜花賞に出ていたウマ娘たちが順に回答していく。それから各々の事情で桜花賞には出ていないものの、オークスには出走予定のウマ娘たちが話す番となる。そのトップバッターは、オレがここに来た時に注目していた、青鹿毛でボンネットを被っているウマ娘だった。
「では、フローラステークスを見事勝利しオークスへの道を切り開いたカルドロンディーニさん。意気込みをお聞かせください」
「ええ、分かりましたわ。ご存じの方も多いでしょうが、ワタクシの両親はイタリアはミラノ出身で、ワタクシは親がこちらへ越してから生まれましたの」
感じ取っていた雰囲気の通り、お嬢様らしい口調で堂々と話し始めるそのウマ娘──カルドロンディーニ。それにしても、イタリア出身か……元の世界のイタリア競馬って色々あってあまり景気が良くなかったみたいだが、ウマ娘世界ではどうなんだろう。
「そしてこれもまた、よく知られていることでしょう。イタリアのウマ娘界はかつて……競争生活においても、レースを退いた後の後進育成においても、素晴らしい結果を残した伝説的なウマ娘を多数輩出していましたが……」
そうして彼女が語ったところによると、今ではイタリアはGⅠ競争の開催すら危ういと言われるほど、その状況は芳しくないのだとか。
「──故に、人気が高く娯楽として不動の地位を築いている、日本のトゥインクルシリーズで走り……その秘訣を知りたいと。得た経験を元に、イタリアのウマ娘レースを今一度盛り上げていきたいと、そう思っておりますの」
「なるほど、壮大な計画ですね……オークスについてはどのように?」
「今、最も人気があるであろうトリプルティアラ路線のウマ娘……インデアゾンネ。彼女を真正面から打ち破らんとするウマ娘が出れば、当然盛り上がるでしょうね?」
そう言って、カルドロンディーニはオレの方へと向き直った。当たり前と言えば当たり前だが、多方面からマークされてるなオレ……。
「それはつまり、インデアゾンネさんに対する宣戦布告ということでしょうか?」
「好きに捉えていただいて結構ですわ」
まだ実績としてはGⅡのフローラSを勝ったくらいらしい彼女だが、纏うオーラは力強く。オークスで強力なライバルになるであろうことは予測できる。
「カルドロンディーニさん、ありがとうございました。続いては──」
その後の会見は粛々と進み、記者による質問のコーナーも済ませて、無事に終了となった。トレーナーと一緒に、会場から廊下へと出て歩き出す。
「ゾンネちゃん!」
「どうかした、テイク」
勝負服から着替えようと更衣室に向かうところでテイクに呼び止められて振り返る。
「あのカルドロンディーニって子に浮気しちゃダメなのですよ!ゾンネちゃんの1番のライバルはあたしなんですから!」
「いきなり何言ってるの……」
どうやらカルドロンディーニがオレに対して会見中に堂々と宣戦布告したことを、ライバルの座を奪おうとしていると思ったらしい。
「心配しなくても、テイクは特別だよ。同室だし、トレセン学園に来てから初めてまともに会話したウマ娘だし」
「そうだったのですか?えへへ……」
実際、オレの中でクルーシャルテイクというウマ娘は、自分が関わってきたウマ娘の中でも他とは違う位置にある気がする。大事な友人であるし、競い高め合うライバルでもあると思う。
◇ ◇ ◇
会見からしばらくして、オークスに向けてスタミナをつけるためトレセン学園の周辺をランニングし、正門前まで戻ってきたところ。数日ぶりに見る黒髪ロングのウマ娘が、うちのトレーナーと明るい茶髪で外国人っぽい顔立ちをした濃緑色スーツ姿の男の三人でいる様子だった。
「……カルドロンディーニ?」
「ええそうよ、インデアゾンネ。覚えていてもらえて何よりだわ」
会見の時よりもいくらか砕けた口調で、そのウマ娘は走り終えたばかりのオレに声を掛けてきた。こっちも、公的な場所と普段とで言葉遣いが変わるタイプなのか。
「ゾンネが戻ってくるのをここで待っていたら、カルドロンディーニとそのトレーナーから声を掛けられてな」
「うちのウマ娘とマッチレースして欲しいです」
そう言って、相手のトレーナーはペコリと頭を下げる。片言さは若干残っているが意外と喋りが流暢だなと思いつつも、断る理由もないし承諾してグラウンドに向かう。
「距離はどうするの?」
「あら、今このタイミングで2400m以外あるかしら?」
2400m……オークスの距離だ。なるほど、薄々気づいてはいたが……やはり接触してきた目的は本番に向けての敵情視察、といったところらしい。
「それもそうだね。じゃ、2400mのスタート地点は……」
そう言うことなら、まだ手の内はあまり明かさない方が良いだろう。オレは試している途上の差しではなく、いつも通りの先行策を取ることにして。
「……はぁっ!」
「ふっ……!」
まずまずのスタートを切って、前を行く。府中2400mを頭の中でイメージして、シュミレーションを始める。まずスタートから400mほどはスタンド前の平坦な直線。
(ちょっとペース落とそうかな……)
実際のレース場なら1,2コーナーにあたる部分で、カーブに合わせて減速し、向こう正面に入った後もスピードを戻さずやや遅めのペースを保つ。すると、当然というべきか、後ろから追走しているカルドロンディーニの大地を蹴り上げる音が近くなる。
(すごい、威圧感がある……けど)
こんなことで焦り、萎縮している場合じゃない。そのまま位置を維持して、3コーナーへ。本番なら、左には府中名物の大ケヤキが見えるだろう。尤も、じっくり見ている余裕はないだろうが。
(近付いてきたっ……!)
カルドロンディーニが早くも仕掛けようとしているのか、足音がさらに大きく聴こえるようになりこちらも少しペースを上げる。
「ここ、からぁっ……!」
コーナーを抜けて長い直線525m、すぐに高低差200cmの坂がある。それを踏まえて、力を入れて踏み込む。何とか抜かせないように耐えてはいるが、そろそろキツい、かも。
「ふっ……はぁっっ」
「くっ……!!」
やがて、隣をじわじわと黒髪のウマ娘が上がっていき、追い越される。やっぱり差し返すのは厳しいか、力を振り絞るが差を縮められず、1.5バ身ほど遅れてゴールした。
「はぁっ、ワタクシの、勝ちね……!」
「ふぅ……!そう、だね」
先行のままで彼女の追込に粘り抜くのは難しいだろう、ということはわかった。だが、後ろ目につけて体力を温存すれば。今回1.5バ身しか離れていないなら、本番での勝ち目はあると確信できた。
◇
併走の後もカルドロンディーニとしばらくトレーニングをして、あちら側がジムのトレーニングをしに行くということで見送る。
「さて……まずは併走やトレーニングに付き合ってもらえて感謝するわ、インデアゾンネ。本番のオークスで会えるのを楽しみにしているわ」
「それは、わたしだってもちろんだよ。今日は負けたけど、次は勝つから」
そうして、彼女は振り返ってわざとらしくウインクしながら「チャオ」*2とイタリアらしい別れの挨拶をして行った。
「……なんか、すごいウマ娘だな」
「変人具合じゃあんたも負けてないと思うけどね」
染々と呟いたトレーナーにそう返してみるが、相変わらずハハと笑って軽く受け流して、それから何事もなかったように続ける。
「で……どうだった、ゾンネ。勝ち筋は見えたか」
「うん、まあね。あんたを、そしてわたし自身を信じるよ」
きっと、トレーナーはいつものようにオークスでのオレの勝利を確信しているのだろう。オレもさすがに絶対に勝てるとまでは言い切れないけど、それでも勝ちは充分に狙えるはずだと信じることができた。それはきっと、トレーナーのお陰だと思う。
カルドロンディーニのプロフィールでも置いておきますか。
Caldo Rondini
カルドロンディーニ
CV:???
誕生日 6月4日
身長 157cm
体重 情熱的
スリーサイズ B89・W58・H85
イタリアにルーツを持つ、情熱ウマ娘。日本で得た経験を元にイタリアのウマ娘レース界を振興するという使命を抱いており、トゥインクルシリーズにも全力で取り組む。
「Felicitàをたくさんの人に届けるのよ、ワタクシのこの脚で!」