この前話していた写真集に使う画像の撮影日時が決まり、いよいよ今日がその当日。待ち合わせの場所に撮影側からの指示通り、半袖制服で待機する。事前にハチサのウマ娘と共に撮影を行うことを希望として出していたが、果たしてどうなったのかというと。
「はろはろ~☆ゾンネっち、今日もよろじゃんよ♪」
「うちらも一緒に撮影しますから、よろしゅうお願いしますね」
そう、ハチサのお姉さん組2人……コレオプシスカラーとキヨミズノマイがオレと共同で撮影する。テイクとプルーヌスムーメは別の用事があるらしい。
「うちも前から写真集の依頼来てたんですけど、ここんとこせつろしゅう*1てな。丁度ええしゾンネはんの撮影にまぜて*2もらいましょ思うたんです」
「あーしちゃんは前にレースとあんま関係ありよりのなし系で出してたけど、どちゃくそ人気らしいじゃん?そんで第二弾行っちゃおウェーイ☆って言われちったじゃんね♪」
「な、なるほど……?」
この2人、もちろんいい人なのは知ってるが若干会話しづらい。方言やギャル語の解釈にテイクたちより思考リソースを割く必要があるのだ。
◇
ちなみに撮影が行われるのは、基本的にはトレセン学園の構内だ。何でも、撮影スタッフもよるとオレたちの自然な表情を撮りたいらしく、撮影用スタジオとかではなく休日で普段に比べると人が疎らなトレセン学園を選んだらしい。
「それではまず、シチュエーション撮影を行いますので準備をお願いします!」
「はい、分かりました。……トレーナー、こっち」
近くに控えていたトレーナーを手招きする。ちなみにこいつはさっき来たばかりだが、今回はゆっくりでいいと事前に伝えていたので遅刻ではない。
「ああ。俺は何をすればいい?」
「わたしが壁に寄りかかって待ち合わせしてる感じで、トレーナーはそこに『ごめん、待った?』って風に駆け寄ってきて」
「分かった」
先ほど撮影スタッフに撮りたいシチュエーションを説明され、それを自分なりに噛み砕いて伝える。そして言った通りに壁際に立ち、手を後ろで組む。
「……」
そしてそこにトレーナーが樹木の後ろから手を大きく振りながら出てきて。
「すまない、待ったか?」
(別にそういう風に、ってだけで実際に口に出す必要はないんだけどな……)
そう言いたい気持ちを押さえつつ、しょうがないなとゆったり体を起こしてトレーナーを迎える。横からは連写するカメラの音が鳴り、撮影ディレクターが一歩前に出てくる。
「おうしっ!いい感じだよインデアゾンネさん!ちょっとチェキチェックさせてもらうよ……おお、バッチシだ!んー、OK!次行こ!」
(きゃ、キャラが濃い……)
さすがにおもしれー女揃いのウマ娘たち程ではないが、中々に個性の強い御仁である。悪い人ではなさそうなんだが……。
「次はあーしちゃんかな?いい写メ撮れるようバイブスアゲてくじゃんよ☆」
そう言ってコレオプシスカラーはグッと両拳を胸の前で握りしめ、頑張るぞい!って感じのポーズを取る。そしてスタッフの指示に従ってベンチに座り、振り返ってピースしながらウインク。さすがギャルというか、写真には慣れているようだ。
◇
そして制服からジャージに着替えて、今度はグラウンドへ出る。休日に自主練しているウマ娘もいるが、そこまで人影は多くない。
「それでは、インデアゾンネさんからお願いします!」
「はい、行きますね」
どんな写真を撮るのかというと、トレーニングで使う例の巨大タイヤと一緒にポーズを決めるというもの。『タイヤを活かしたポージングをお願いします』と言われたが……どうしようか。
「それじゃ……こんな感じで、どうですか?」
オレはタイヤを背にして地べたに座り、少し姿勢を傾けて、微笑んでみる。すかさずカメラのシャッターが切られ、ディレクターが確認。
「いいねいいねぇ!グッジョブだよインデアゾンネさん!お次はキヨミズノマイさん行くよ!」
「はい、うちですね。スタッフはん、お願いします」
キヨミズノマイはタイヤに立った状態で寄りかかり、手のひらを腰前で合わせてお淑やかな感じのポーズ。そしていつもの糸目でにこっとした表情を浮かべる。
「いい表情決まってんねぇ!こりゃいいチェキ撮れるよ!」
「うんうん、いい感じだよ──」
「……え?」
ディレクターの後に聞き慣れないほわっとした声が聞こえたのでそちらを向くと、なんかゴツい古っぽいカメラ*3を構え、オレたちと同じジャージ姿、ウェーブのかかった金髪ボブにジトッとした紫色の瞳が特徴的なウマ娘がいた。
あとジャージの胸元の膨らみを見る限り、ハチサの二人ほどではないが大きいようだ。何がとは言わないが。
(……誰?)
当然前世の記憶でもこんなウマ娘がいた記憶はなく、不審に思っていると撮影から戻ってきたキヨミズノマイが。
「あら、ゾンネはんの同期の子やないですか?」
「え、そうなの?」
全く記憶にない……耳飾りはもこもこの白い綿付きの赤いリボンを右に着けており、これまで基本的にティアラ路線で走ってきたオレとは面識がないのも仕方ないかもしれないが。
「フラッフィトップちゃんだっけ?ムーメっちと何回か走ってて皐月賞勝ってるじゃんね?」
フラッフィトップか……言われてみれば今年のクラシック特集とかで、名前だけは聞いたことあるかもしれない。
「トレーナーは知ってた?」
「ああ。ただ、同期ではあるがゾンネと走る機会はなくて特に伝えてはなかったな」
ちなみにフラッフィトップ本人の方はというと、オレたちが彼女について話している間もカメラを構えたままジーッと様子を眺めるだけだった。
「ふふ──ぼくのことは気にしないでね──」
「そ、そう……」
そうして撮影に戻ろうとすると、ディレクターが何か思い付いたらしくパイプ椅子から立ち上がる。
「フラッフィトップさんも一緒にチェキ撮ろうよ!いいスパイスになりそうだと思うんだよねぇ!」
(いきなりすぎる……)
キヨミズノマイもコレオプシスカラーも、ついでにうちのトレーナーも面食らった様子だったが、ディレクターはさらに続ける。
「インデアゾンネさんはどうよ?」
「わたしですか?ええと……わたしは撮影に支障が出ないなら何でも構いませんが……」
元々はオレの写真集のために設定した撮影日だからか意見を聞かれて、そう答える。確かにフラッフィトップはオレやハチサの2人とは違うタイプのウマ娘だし、アクセントになるかも知れない。
「コレオプシスカラーさんとキヨミズノマイさんもいいかな?」
「うんうん、かわいい後輩ちゃん追加じゃんね☆」
「そうですね、うちもええですよ」
……というわけで、急遽撮影にフラッフィトップが加わることになった。
◇
グラウンドの次は体育館に入り、シチュエーション撮影に移る。
「フラッフィトップさんのは……おっ、いいよいいよ!んじゃ次、インデアゾンネさん!」
「はい」
フラッフィトップの写真は雑巾掛け*4をしている様子で、オレは柔軟体操しているところを撮るのだとか。
「とりあえず、こう……っと」
床に座り込み、足を開いて片方の爪先に両手と一緒に身体を伸ばす運動。ラクな体勢ではないが、身体は柔らかい方なのでめちゃくちゃキツいというほどでもない。
「おお~、ゾンネっち体柔らかいじゃんね☆」
「ふふ──すごいね──」
他のウマ娘たちに褒められて少し気恥ずかしさを感じつつも、写真を撮り終える。オレの次はコレオプシスカラーの番だが……。
「こーゆー感じ?」
「うんうん、いいね!アガってるよ!」
床にうつぶせになり上半身を起こし、ぶりっ子ポーズをしている彼女を至近距離から撮っていく。いわゆるガチ恋距離というやつである。
「おし、じゃあ次はキヨミズノマイさん!行くよ!」
3人終わって残った一人に移ろうと言うとき、体育館の外が少しザワザワしているのに気付く。振り返ると、制服姿のウマ娘の集団がこちらを覗いているようすだった。
「あの4人顔面アドヤバない?」
「ビジュアルつよつよすぎる……」
「しかも全員GⅠ勝ちじゃん」
ハチサの2人とオレはテイクの縁でよく一緒にいるけど、そこにフラッフィトップまで混ざっているのは新鮮に映ったらしく、どうやら注目を集めているようだ。
「ふふ、うちら人気みたいやんなぁ」
「だね~♪」
ただ、あまり人に集まられると撮影しにくくなるので、キヨミズノマイの分も終わったら足早に次の撮影場所であるプールに向かった。
◇
プールで水着の写真を撮り終えたら、勝負服に着替えて東京レース場に移動する。今回の撮影は写真集向けがメインだが、実はURAからトゥインクル・シリーズを宣伝するためのポスターに使う写真も依頼されていた。ちょうど良いからついでにそれ用の撮影も済ませることにして、コースの使用許可を取ったわけだ。
「それじゃ、直線のはじめからゴールまで走ってるところお願いしちゃうよ!」
「はい、分かりました」
折角コースを走るのだからということで、ゲートも確認を取った上で持ち出し、スタンド前直線525m分のレースという形で撮影することに。
「撮影だけどさ、レースやるんならあーしちゃんガチっちゃうじゃんよ☆」
「うん──走るからには、もちろん本気──」
別に勝たないといけない理由もないが……負けてやる理由もない。そういうわけで、路線や世代の違いでまず実際のレースで揃うことはないだろう4人のガチ勝負が始まる。
「位置について、よーい……」
トレーナーが号令を掛けて、ドンのタイミングでゲートが開く。本番さながらの緊張感の中だったが、上々のスタート。開始直後は起伏がないコースだが、すぐに高低差200cmの坂がある。
(いつもと変わらず、逃げの後ろに付けて……)
先頭に立ったコレオプシスカラーから1バ身ほど開けた位置に陣取り、後ろからはキヨミズノマイとフラッフィトップが追走する。
(もう半分か、なら仕掛け始めないと)
坂を上って残り300mを切る。差を広げようとスパートをかけるオレンジの長髪に向けて静かに迫り、追い抜く。
「はああああああっっっっ!!」
「追いつけ、へんっ……!?」
「くっ──!」
残り100m、追い上げてくる二人を寄せ付けず差を保ち……そして。
「インデアゾンネさん、ゴォォル!!」
「はあっ、ふうっ……勝った……?」
オレに続いて3人がそれぞれゴール線を超える。そう、このミニレースで勝利したのはオレということだ。
「いやぁ、ホントに良い画が撮れてるよ!実際のレースさながらの気迫!最高だね!!」
「そう、ですか?それなら、良かったです」
ディレクターに称賛の言葉をもらい、照れくさく思っているとトレーナーとウマ娘たちも近くにやってくる。
「ゾンネっちマヂで強いじゃんね☆」
「ああ、当然だ。俺のゾンネだからな」
「あんたってば、またそんなこと言ってんの……」
本当にこいつは、こんな時でも調子がいいんだから。そう少し呆れはしたが、オレを誇らしく思っているらしいトレーナーに嬉しさを感じる。それから、ディレクターの指示によりライブ用の衣装に着替えてステージへ。踊り、歌っているところはもちろんのこと、ステージ裏での姿も撮りたいらしい。
「……んじゃ、行くね」
「行ってこい、ゾンネ」
オレはステージ上に出る前にトレーナーに見送られるシーンを撮影するということで、レース後のウイニングライブと変わらない姿を見せる。それから既にステージに上がっている3人の元へ駆けていき、『Make debut!』を披露した。
◇
「これで撮影は全部無事に終わったねぇ!皆ホントもー素晴らしい写真を撮らせてくれて、大感謝してるよ!お疲れ様!」
「ええ、今日はおおきにな。はばかりさん*5でした」
「はい、皆さんありがとうございました。写真が出来上がるの、楽しみにしてますね」
ライブ写真が終わったら今日の撮影は終わり。昼食を食べてすぐからの撮影だったが空は赤くなりはじめており、もうこんな時間なのかと驚く。
「それじゃ、ぼくはこれで──」
「じゃあねフラフィっち☆またいつか会おうじゃんよ♪」
そうして、撮影スタッフたちも後片付けをして撤収していき、オレたち被写体も各自解散となった。
◇ ◇ ◇
撮影から数週間後。写真集の方は出来上がって店頭に並ぶまでまだまだ何ヵ月か掛かるとのことだが、トゥインクル・シリーズ宣伝用のポスターは早くも街中に貼られ始めていた。
「へー、こんな感じなんだ」
オレが勝負服で府中を走っている写真に、『女王への道』というキャッチコピーが付けられ、左下にはインデアゾンネと名前が出ている。そんな風に遠巻きに自分のポスターを眺めていたところ。
「おぉ、なんと素晴らしいポスターなのでしょう!インデアゾンネさんの気高さと麗しさと強さをたった一枚の画像でここまで表現するとは……!ぜひ記録に残さねば!!」
……なんか前世で見たことのあるウマ娘がいたが、そっとしておこう。うん。
さて、とにかく前回よりは空き期間を短縮できてひとまず安心しています(それでもひと月以上空いてしまっていますが)。
今回の更新ではクラシック級10月前半~12月後半までです。