3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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秋華賞の後に・Dritte Diadem

 とうとうやって来た秋華賞の当日。府中のトレセン学園から電車を乗り継いで京都レース場へ。道中では葉が赤く色づいた木もちらほらと見えたし、秋も本格化してきたなと感じる。

 

「そういえばさ、親は今日来るの?できれば、来ててほしいけど……」

 

 レース前の準備を済ませて、トレーナーにまず聞こうと思ったことは両親が観戦に来ているかどうか。一番勝利を見せたい相手がいると心強いし、気もより引き締まるというものだ。

 

「ああ、今回はご両親とも来ているそうだ。ただ、席取りで忙しくて会いに来られるのはレース後らしい」

 

「ふうん、なら良かった。今日は絶対負けられないから、二人がすぐ近くで応援してくれるのは嬉しいんだ。いい知らせを届けてあげないとね?」

 

 その後はレース前最後に相手や作戦をトレーナーと一緒に確認して、そしてパドックへ向かう時間になる。

 だけどいざ本番を前にして、オレはやっぱり少しだけ心細さを覚えて、トレーナーの方を振り返る。

 

「……どうかしたのか?」

 

 そう尋ねてくるトレーナーに対して恥ずかしさを覚えるけど、それでもオレは勇気づけてほしくて言葉を絞り出す。

 

「……手、握ってほしいな」

 

「手を……こう、か?」

 

 オレが右手をためらいがちに差し出すと、トレーナーは両手で暖かく包み込んでくれて、緊張がほどけていく感覚がした。

 

「ありがと。……行ってくるね、トレーナー」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

 きっと、大丈夫だ。今のオレなら、トリプルティアラ達成が懸かっているこのレースでだって、勝てる。そう、信じることができる。

 

 

 

 

 オレがパドックへ出てくるとやはりというか、観客席の熱気が勢いを増した。それだけトリプルティアラが待ち望まれているということでもある。

 

〈本日の1番人気を紹介しましょう、4番インデアゾンネ〉

 

〈素晴らしい仕上がりですね。トリプルティアラに向けて期待が持てますよ〉

 

 だけど、オレはそれを向かい風ではなく追い風として捉えることができた。ただしっかりと、やるぞという気持ちになった。

 

〈さあ続いて3番人気です、6番のクルーシャルテイク〉

 

〈直線での差し脚を持ち味としています、調子は良さそうですね〉

 

 そしてそこに、一番のライバルが現れる。彼女は何となく予想はついていたが、こちらへと駆け寄ってきて。

 

「ゾンネちゃん、今日もよろしくお願いします!」

 

「よろしく、テイク。……全力で行くよ」

 

「はいなのです。インタビューでも言いましたが、あたしも譲るつもりはないのですよ」

 

 全身全霊で挑んだ先にこそ、価値がある。勝とうが負けようが、そこは変わらない。

 

〈今日2番人気はこのウマ娘、10番カルドロンディーニ〉

 

〈下剋上を虎視眈々と狙っています、後ろからの追い込みに期待したいですね〉

 

 オレとテイクが話しているところにまた足音が近づいてくる。そちらの方を見るとやはり、漆黒の長髪を風に靡かせて深紅の双眸を向けるウマ娘がいた。

 

「ふふ、ワタクシがいることをお忘れかしら?」

 

「忘れるわけないよ、この前負けたばっかりだし」

 

 覚えていただけていて何よりよ、と余裕そうに手をひらひらと動かす。ふと思ったけど、彼女は勝ち負けよりもっと大局的な目的を最初から持ってるから、こんなにも綽々としているのだろうか。

 

「むぅ……今日こそは、ゾンネちゃんに勝つのです……!」

 

「ワタクシも易々とトリプルティアラを取らせるわけにはいかないわね」

 

「ははは……」

 

 他のウマ娘にもマークもされてるみたいだし、一瞬も油断できないレースになりそうだ。そう思いつつも、パドックでの紹介も終わったし、本バ場の方へと向かうことにした。

 

 

 

 

 生で聴くのは桜花賞以来の関西GⅠの中、ゲートイン。オレやテイクたちはすんなりと入ったのだが……。

 

「んぅ!むぅ……!」

 

「ま、マーシェリーチャンさん……」

 

 ゲートを嫌がるウマ娘がいてちょっと騒がしかったが、なんとか全員準備が整った様子でスタートの時を迎える。

 

〈さあマーシェリーチャンが入って全員がゲートに収まりました。トリプルティアラ最後の一冠、トリプルティアラ達成か、あるいは待ったが掛かるのか。秋華賞が今スタートです!〉

 

 扉が開くと共に飛び出し、自分の付くべき位置を探っていく。先に飛び出していったのは、黒の燕尾服風の勝負服に薄水色のポニーテールが目立つウマ娘だ。

 

〈早速先頭に躍り出ました、5番カンゼンヨンド。1バ身ほど開いて2番シャリュモーソング、そしてさらに半バ身後ろに4番インデアゾンネ、今日の1番人気です〉

 

 雲一つない青空の下、余すことなく地上に降り注ぐ太陽の光を上から、そして芝が反射して煌めいた分を下から存分に浴びる。自分の名前が太陽に纏わるから……というわけではないけど、元気付けられている気がした。

 

〈さあ、コーナーへと入って、ここから後団が固まっています。まず集団をリードしているのは6番クルーシャルテイク。続いて1番キラランランと17番マーシェリーチャンが並びます〉

 

 先頭の逃げウマが1コーナーから2コーナーへと移り、そこで違和感に気付く。オレはほとんどペースを変えていないのに前との差が明らかに開いているのだ。どうやら前方がぐいぐい先行しているらしい。

 

〈2番人気カルドロンディーニはここにいました、そして最後方からドロッピングマイン、追走。さあここでバックストレッチに入っていきますが、おっとズイホウフイが早くも追い上げていきます〉

 

 さらに後ろからウマ娘がオレの横を上がっていき、先頭へと向かっていった。まだ中盤に入ったくらいなのに、後方から一気に最前へ行くって一体何を考えているんだろうか。

 

〈ズイホウフイ、まさかまさかの作戦変更!ハナに立ちました!しかしカンゼンヨンド、カンゼンヨンドが負けじと加速して二人のつばぜり合いだ!〉

 

 予想していなかった展開になったが……彼女はかなり無理な位置取りをしたので、おそらくゴールまでは持たないだろう。惑わされるべきじゃない。

 

〈さあここから登り坂です、1000mの通過タイムはなんとなんと57秒3!間違いないハイペースです!先の読めないレース展開になってきました、現在先頭はズイホウフイ、並んでカンゼンヨンド。大きく差が開きましてシャリュモーソング〉

 

 とはいっても、無策でそのまま逃げさせるわけにはいかない。自分の体力の余裕を見つつ位置を上げていく。

 

〈インデアゾンネ、ここから勝負を仕掛けるか?先頭目掛けて徐々に加速し始めます。クルーシャルテイクはまだ動かない!追い上げるのはカルドロンディーニ!〉

 

 下り坂で勢いをつけて、ここから正真正銘の仕掛けどころだ。先行ウマ娘を追い越して、逃げる二人を捉える。スタンドが近づくにつれて大きくなる歓呼の声は、自分の周り全てを包んでいると感じるほどだ。

 

〈4コーナーを経て直線へ入っていきます。さあここでインデアゾンネが先頭に立ちました!トリプルティアラまで一直線、そのまま駆けて行ってしまうのか!〉

 

 残る体力に気を配りつつも、後はそのまま先頭でゴールするだけだ。差を広げにかかる……が、それを許してはくれない存在が。

 

〈しかしここでカルドロンディーニが迫ってきました!次いでクルーシャルテイク、ハナを奪いにかかります!〉

 

 

「ワタクシが、勝つっ!!」

 

「あたしが、たあぁぁぁっっっ!!」

 

「負けられない、んだからぁっっ!!」

 

 

〈残り300m、3人が並びます!そして一歩先に出たのはクルーシャルテイク!トリプルティアラを阻止するのはこのウマ娘なのか!!〉

 

 ここだけは、絶対に譲れない。オレ(わたし)が勝たなきゃいけない。だから、限界まで力を振り絞る。

 

 

「やああぁぁあぁぁっっっっ!!!!」

 

「くっ、あぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

 

〈残り200mを切って、最後の一冠は目の前だ!インデアゾンネ、差し返した!ダブルティアラの意地だ、そして抜け出します!もはや誰にも止められない!!〉

 

 

 ──不思議な気持ちだった。体はいっぱいいっぱいで、すごくキツいはずなのに。

 

(この勝負の瞬間が、永遠に続いてほしいとさえ思った)

 

 テイクと、カルドロンディーニと、互いの死力を尽くしてぶつかり合う一瞬。走ることの楽しさって。

 

(こういう、ことなのかな)

 

 

〈トリプルティアラだ!トリプルティアラウマ娘だ!!インデアゾンネ文句無しの1着!仁川、府中、そしてこの淀で晴れ空のもと輝く3つのティアラ!!〉

 

 ゴールを迎えて、何秒かしばらく放心して。そして意識が戻ってくると、これまでに聴いたことがないほどターフに鳴り響く大歓声に驚く。

 

 

「インデアゾンネーー!!」

 

「トリプルティアラおめでとーー!!」

 

 

 客席から聴こえる声はあまりにも多様で、それらが混じり合いうまく聞き分けられないが、それでもオレを讃えているらしいことは掴めた。

 

〈2着クルーシャルテイクとの差は2バ身、勝ち時計はなんと1:56.6!レコードです、レコード決着でトリプルティアラの誕生です!〉

 

「えっ、わたし、勝ったの……?」

 

 掲示板には自分の番号である4番が1着に表示されており、タイムには赤字でレコードと出ていた。間違いなく嬉しくて仕方ないはずなのだが、オレは自分でも意外なほど冷静だった。

 

「……全く、勝者がそんな呆然とした様子でどうするというのよ」

 

 そこに、紅色のボンネットが特徴的なウマ娘が歩み寄ってくる。

 

「あ、カルドロンディーニ……」

 

「……トリプルティアラ、おめでとう。今回は及ばなかったけれど……だからこそ、倒しがいが生まれるというものね」

 

 そうあっけらかんと言い放つが、よく見るとまだわずかに肩で息をしているようで、彼女もまた全力で追い上げていたことが窺えた。

 

「……あれ、テイク?」

 

 そしていつもなら真っ先に駆け寄ってくるであろう彼女がまだ来ないことを疑問に思って、辺りを見回す。するとこちらには目もくれずにうつ向いているテイクがいて、どうしたのだろうと思って近づく。

 

「うっ……ぐすっ……」

 

「テイク……?」

 

 目尻に涙を溜め泣きそうな表情で、心配に思って声を掛けようとして。

 

「ゾンネちゃんに、っぐ、並びたくて、勝ちたくて……でも、負けちゃって、ぅっ、あたし、うぅ」

 

 どう言葉を掛けるべきか迷う内に、彼女は堰を切ったように泣き始めた。

 

 

「うわあぁぁぁぁん、あたし、ゾンネ、ちゃんに、うえぇぇぇぇぇっっっ!!!」

 

 

 オレは、こういう時にハチサの、テイクの仲間たちならどうするかと考えて……彼女を落ち着かせるために取る行動を決めた。

 

「うあぁぁぁぁっっ、あたし、また、まけて、だめで………!!」

 

「……テイク」

 

 泣き続ける彼女を、ふんわりと抱きしめる。レース直後で汗とか気になるけど、今はそんなこと言ってられない。

 

「大丈夫だよ、テイクがいつも頑張ってることはわたしもちゃんと知ってるから……ね?」

 

「っぐ、ゾン、ネちゃん……?」

 

 そして嗚咽が落ち着くまで優しく背中を擦ってあげることしばらく、なんとか鎮まった様子だ。

 

「……テイク、もう大丈夫?」

 

「はい、なのです……ゾンネちゃん……」

 

 泣いていたせいか、レースの後だからか顔を赤らめるテイクを見てそろそろ平気そうだしいいかな、と思って離れる。すると、再びカルドロンディーニがオレの方にやって来た。

 

「……なに?」

 

「ワタクシにはハグしてくれないのかしら?」

 

 それを聞いてテイクは声にならない声で叫んで顔を手で覆い、オレはいきなり何を言い出すんだと呆れつつ答える。

 

「……してほしいの?」

 

「あはは、冗談よ」

 

 ……はあ。このウマ娘、前から思ってたが変な奴勝負ならうちのトレーナーにも引けを取らなそうだな。

 ……あ、トレーナーと言えば。

 

「ウイナーズ・サークルに行かないと」

 

 そう、あいつは記者たちと共にオレを待っているはずだ。そういうわけで、深呼吸をして息を整えてから向かった。

 

「あ、インデアゾンネさん!まずはトリプルティアラ達成、おめでとうございます!」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 トレーナーが隣に来るより先にインタビュアーに集まられ、やや腰が引けつつも受け答えをする。

 

「歴史に名を残す快挙ですね!しかもコースレコードとのことで、今のお気持ちを是非ともお聞かせください!」

 

「ええ、まず今回勝つことができたのは、わたしを応援してくださる皆さんの支えあってこそだと思いますので、感謝を伝えたいです」

 

 そして、テイクたち強力なライバルと全力で競り合った先での勝利はとても価値があるものだということ。今後はトリプルティアラの称号に恥じない姿を見せたいということを伝えて、今度はトレーナーに取材対象が移る。

 

「さあ、見事担当ウマ娘がトリプルティアラを達成しましたが、トレーナーさんはどのようなお気持ちでしょうか?」

 

「嬉しい気持ちはありますが、当然ゾンネが勝つと信じていましたから。彼女の努力が実っただけで、何か特別なことが起きたとは思っていません」

 

 本当にこいつは大仰なことを言ってばかりだなと思いつつ、そこまで言えるほどオレを信じているのかな、と照れ臭く感じる。

 

 

 

 

 トレーナーに対するインタビューも終わって控室に戻ってくると、そこには今日の勝利を一番伝えたい相手がいた。

 

「ゾンネ、おめでとう!!」

 

「ゾンネちゃん、すごいわ!!」

 

「父さん、母さん、ありがとう」

 

 オークスの時は母が来れなかったみたいだが、今日は二人とも来ていて嬉しく思う。

 

「いや、その……なんて言えばいいんだろうな。もはや思い付かないけど、とにかくゾンネはすごいな」

 

「そうね、なんと言ったってGⅠ4勝でトリプルティアラウマ娘なんだもの!ここまで強くなるなんてってビックリしてるくらいよ」

 

「二人が喜んでくれてるなら、わたしも嬉しいよ」

 

 トレセンに入って寮生活が始まってからは、顔を会わせる機会はこういうレースを見に来る時くらいしかないけど……大事な肉親であることは変わらない。

 

「ゾンネのトレーナーさん、えっと……娘をここまで導いてくださって、ありがとうございます。これからも側で見られない私たちの代わりに、ゾンネを支えてください」

 

「もちろんです。彼女は更なる高みを目指すことができると考えていますし、より良い報告ができると思いますよ」

 

 トレーナーがそう言うと、親たちはトリプルティアラよりもすごいことを、と驚く。いや、オレもトリプルティアラ以上の名誉なんてそうそう思い付かないが。トレーナーには一体何が見えてるんだか。

 

「……あ、そろそろライブの準備があるのかな?ゾンネ、ライブも楽しみにしてるぞ!」

 

「うん、父さん。頑張るね」

 

 親とトレーナーに見送られ、ステージへと向かう。

 

 

 

 

 テイクとカルドロンディーニ、オークスと同じメンバーでセンターに立ち、『彩 Phantasia』のライブが始まる。

 

「day by day 憧れて step by step 積み重ね 君と紡ぐ未来」

 

 これまで、この歌詞は何を想って歌えばいいのかと色々と考えてきた。勝利か、トレーナーのことか、あるいはそれ以外か。

 

(でも……)

 

 きっと歌詞の解釈に正解なんてないだろうけど、自分にとっては。

 

「ぎゅんときゅっと鼓動が こんなに苦しい ねえ」

 

 確かにトレーナーのことも、勝利のことも、離したくない、譲りたくない、逃がしたくない、渡したくないとは思えるけど。

 

「やっと会えたこの瞬間(とき) 素直にありがとう」

 

 特定の何かと言うよりは──自分と一緒にあってほしいもの全てなのかなと、そう感じた。自分のファンの人たちや、家族、レース、テイクをはじめとする高め合うライバルたち、そして──トレーナー。

 

「ぎゅんときゅっと衝動が こんなにいとしい ねえ」

 

 そう考えるとかなり欲張りかもしれないけど、でも……言うだけならタダだし。それにきっと、あいつなら付き合ってくれるでしょ?どこへだって。

 

「ずっとずっと待っていた わたしは 彩 phantasia」

 

 だから、伝えてあげる。『ありがとう』って。

 

 そして……これからも、よろしくね。

 

 

 

 

 無事にステージを終えて控室に戻ってくると、そこにはトレーナーだけがいた。

 

「あれ、両親は?帰っちゃったの?」

 

「いや、スタンドも混み合ってるようだしこっちに来れてないだけじゃないか?まだ帰るとは言われてないしな」

 

 確かにトリプルティアラ達成の後だし人も多くて移動も苦労しそうだしな。その達成者は他でもないオレだが。

 

「ああそうだ、ゾンネに伝えたいことが……さっきのライブだったが、すごく良かったぞ。歌とダンスに乗せて自分の感情をしっかり表現できてた」

 

「そ、そう?ありがと」

 

 そういえばこいつがトレーナーになったきっかけ、自分の担当ウマ娘がウイニングライブでセンターになってダンスするのを見たいからなんだっけ。

 

「あんた、阪神JFの後にトレーナー目指した理由話してたけどさ。あれからさらに3回もGⅠのウイニングライブでセンターになったけどどうよ?」

 

 オレがそう尋ねると、トレーナーはそうだな、と一呼吸置いてから続ける。

 

「あの時も言った気がするが……満足はしないな。次を望みたくなる。君の輝かしい姿を、もっと見たいとそう思う」

 

「ふふ、そう。じゃあ次の目標決めないとね」

 

 オレがそこまで言ったところで、ようやく観客席から戻ってこれたらしい両親が部屋に入って来たので言葉を交わし、それから学園へと戻った。

 

 

 

 

 トレーナー室へ入って席に座り、秋華賞後のレース等について詰める。

 

「次のレースは、ジャパンカップにしようと考えてる」

 

「ジャパンカップか……ついにシニア級のウマ娘との対戦になるね」

 

 テイクは既にクイーンSでシニア級との混合戦を経験しているが、オレはここまでの8戦は全て世代戦だ。

 

「ただ秋華賞から間隔が短めで、オークスで結果は出しているが2400mはゾンネの適正距離ギリギリだ。他にこれというレースも無いから選んだが、無理に出る必要もないとは思う」

 

「うーん……でもファンは新生トリプルティアラの走るところ見たいって思ってるよね」

 

 未だに確かな実感が得られてはいないけど、オレはもうトリプルティアラウマ娘なわけで。ファンも活躍を待ち望んでいるだろう。

 

「それは、そうだろうな。出走登録しておいた方がいいか?」

 

「うん、その方向でお願い」

 

 次走をジャパンカップに定めて、その次……恐らくトレーナーは有馬記念には出さないだろうし、来年になるだろうか。とにかく、ジャパンカップの次についても聞く。

 

「ジャパンカップの次か?そうだな、秋はもう3走になるし来年から始動になる。クラシック級に引き続きティアラ路線の大レースを目標にする形だな」

 

「となると、ヴィクトリアマイルとエリザベス女王杯?」

 

 トレーナーはオレの問いかけに頷く。詳しいことはジャパンカップの後に改めて決めるらしいが、来年はその二レースを中心にレーススケジュールを組む。

 

「さて、今日はこんなところかな……ああ、最後に改めて。インデアゾンネ、トリプルティアラ達成おめでとう。君のような素晴らしいウマ娘と出会えて誇らしく思う」

 

「どうしたのさ、急に……まあでも、ありがとう。でも、これで終わるつもりはないよ。もっとあんたに勝利を持ち帰りたいって思ってるから」

 

 そして、トレーナー室から寮の自室へ。レース直後があんな感じだったのでテイクは大丈夫だろうかと思ったが、部屋に入って見てみるとすっかり調子を取り戻した様子だった。

 

「お帰りなさいなのです、ゾンネちゃん!」

 

「う、うん……それは……」

 

 しかし、その手元には大量の緑の棒状のお菓子。恐らくはクリームを包んだ抹茶ロールクッキーがあった。テイクはそれをサクサクと次々と口に収めていく。

 

「キヨミズ先輩にもらったのです!ゾンネちゃんも食べますか?」

 

「うん、ちょっともらおうかな。でも、食べ過ぎないようにね」

 

 彼女の次走については特に聞いてないが、多分年内にまだ走るだろうし……レースに影響が出ないように諌めておく。

 

「はいなのです。明日からは頑張るので今日だけ……」

 

「……まったく、今日だけだよ」

 

 なんだかんだオレは、テイクに甘い気がする。でも、彼女がちゃんと頑張れる子なのは知っているから……その言葉を信じることにする。

 




トリプルティアラ達成、作品タイトル後半部分の『3つのティアラ』のタイトル回収ですね。

ちなみに前半部分の『3つの光跡』が何を指しているかというと、ゾンネのツインテールとウマ尻尾、金色の毛束3本を光の軌跡に見立てています。(オークスの時などにトレーナーがそんな表現をしています)
特にゾンネは晴天時に勝つことが多いので、その時は太陽の光を反射して本当に光っているように見えるかもしれませんね。
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