3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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美浦寮生の1日

 11月に入ってしばらくしたある日。トレセン学園の関わる大きなイベントとしては駿大祭が丁度終わった頃で、秋のGⅠレースシーズンの真っ最中。

 

「ふあ……朝か……」

 

 いつも通りの起床、少々眠たさが残りつつも体を起こす。向かいのベッドを見ると、ぐぅぐぅと気持ち良さそうに眠る同室のウマ娘。

 

「むにゃ……ふへ……」

 

 今日はまだいいけど、明日もこんな熟睡だとちょっとまずいかもしれない。何せ明日はエリザベス女王杯、テイクが出走するレースなのだから。

 

「まあ、わたしがちゃんと起こせば大丈夫……かな」

 

 オレはジャパンカップへ行くので、当然今年はエリザベス女王杯には出ない。ただ、テイクの応援のために現地へは行くつもりだ。オレのトレーナーも同伴するようだが。

 

「さてと……どうしよう。まだ朝食までは時間あるし」

 

 寮の食堂が開くのは大体1時間くらい後で、この空き時間にやることとといえば。

 

「『Es besteht die Gefahr, dass ~』……何々の危険がある……」

 

 ドイツ語の勉強だ。さすがにまだ自由に話せるレベルとは言えないが……夏合宿前に知り合ったエイシンフラッシュたちの協力もあり、着実に学習を進めている。

 

「『Ich wiederum bin der Meinung, dass ~』……私の方としては、何々という意見だ……」

 

 いつぞやにロシア語の教本を間違って買った頃はまだ初級の本だったが、今はぼちぼちドイツ語中級の本を使い始めている。独和辞典も本格的なものを買ったし、片手間レベルの趣味ではなくなってきているかもしれない。

 

「ふわぁ……ゾンネちゃん……?」

 

「……あ、テイク」

 

 勉強しているうちに時間が経ち、40分ほどでぐっすり寝ていたルームメイトが起きてきた。ちょうどいい時間なので朝の準備を二人でしてから、部屋を出て寮の食堂へ向かう。先ほど開いたばかりのようだが既に幾人かのウマ娘がいて、その中には見知った顔もいた。

 

「コレオプシスさん、キヨミズさん、おはマイルー☆」

 

「あ、アレグっち!おはマイルじゃんね~☆」

 

 例えば部屋の真ん中辺りでグランアレグリアとハチサの年長組が集まっており、マイルGⅠを勝ったウマ娘同士だからだろうか、コレオプシスカラーとは波長が合う様子だ。ただキヨミズノマイはおはマイルという挨拶を聞いて、顎に手を当てて何か悩んでいる。

 

「……あれ、どうしたのキヨミっち?考え事?」

 

「挨拶……うちも『おはよど~』とか言うた方がええですか?」

 

 それを聞いてマイラー組はポカーンとした表情を浮かべ、それから二人して顔を綻ばせた。

 

「あはは、キヨミっちってば天然じゃんね☆」

 

「ふふ、『おはよど~』もありかも!淀はなんといったって、マイルチャンピオンシップが開催されるレース場だもんね!」

 

 そして3人はやり取りを眺めていたこちらに気付いたようで、「テイクっちとゾンネっちもおいでじゃんよ☆」と呼び寄せられて朝食を一緒に食べることになった。

 

 

 

 

 お腹を満たしたらチームのトレーニングに行くというテイクたちと分かれて、次は何をしようかとトレセン学園の構内を適当に歩く。ふと視界に入った並木はすっかり赤く色付いており、秋も深まってきたことを感じる。

 

「あの、インデアゾンネさんだよね!?」

 

「……?はい、そうですけど……?」

 

 やることも特に無いし、トレーナー室に行って自主練を見てもらおうか思ったところで声を掛けられた。相手は見覚えのないウマ娘2人で、自分のクラスメイトでも前世の記憶で知っているネームドウマ娘でもない。

 

「インデアゾンネさんはライブがすごいって聞いたから、コツとか無いのかなって思って」

 

「迷惑じゃなければ、教えてほしいの!」

 

 オレのライブってそんな好評なのか?確かにウイニングライブに一家言あるらしい、うちのトレーナーも褒めるくらいだからそれなりにうまくやれてるのだとは思うが。

 

「別に大丈夫ですけど……ライブは自然とやってるのであまりコツとかは、分からないです。うーん、強いていうなら、歌詞と同調して、自分のことのように唄う……とか?」

 

 トレーナーにすごく良かったと言われた『彩 Phantasia』も、三度目の本番である秋華賞のウイニングライブでようやくモノにできた感じだし……とにかく歌詞に共感する必要があるのかな、自分の場合は。

 

「なるほど、歌詞に同調……共感……」

 

「……それってつまり、インデアゾンネさんは『彩 Phantasia』の歌詞にもシンパシー感じてたってこと……!?」

 

 2人のうち片方がそう言うと、もう一人も譲りたくない相手って誰のこと!?っと食らい付いてきてしまった。

 

「もしかしてトレーナー……!?」

 

「えっ!?いや、あいつのことは……そういうのじゃ……なくもないかも……?じゃなくて、とにかく、今それは関係ないですから!」

 

 トレーナーだけじゃなくライバルやファンだってそうでしょ、と諭して……2人を何とか落ち着かせることができたところでトレーナーバッジを着けた大人が通りかかる。

 

「賑やかだね」

 

「あ、すみません……うるさかったですか?」

 

 そういえばここは普通に人の往来がある場所なので、あまり騒ぎすぎると迷惑だろう。そう思って謝ったが、彼は別に気にしていないらしい。

 

「いや、何を話してるのか気になって」

 

「そうですね、ライブのコツについて聞かれたんです。折角なので、トレーナーからも何かアドバイスしてもらえませんか?」

 

 これ以上の自分に対する追及を躱すため、やや強引だがこのトレーナーにも巻き込まれてもらうことにした。

 

「そうだな……最後まで歌い踊りきるスタミナとか」

 

「確かに、体力に余裕がないと歌うのにいっぱいいっぱいで自分の表現とか無理だもんね」

 

「まあ、そんな感じ……です。これで大丈夫?」

 

 聞いてきた2人にそう尋ねると、納得してもらえたようで歩き去っていった。オレはトレーナーの方へ向き直り、少し頭を下げる。

 

「あの……巻き込んですみません」

 

「ああ、大丈夫だよ。それじゃ」

 

 そしてそのトレーナーは「その時、ふと閃いた!このアイディアは──」と独り言を言いながらグラウンドの方へと向かっていった。いや、あのお馴染みのフレーズって普通に口に出してたのかよ。

 

 

 

 

 中途半端な時間だったので、適当に図書室で本を読みながら昼まで過ごし、それから昼食を済ませてトレーナー室まで来た。

 

「トレーナー、今時間大丈夫?」

 

「うん?いいけど、どうしたんだ」

 

 ちょうどトレーナーの方も昼飯を食べ終えたらしく、包装のゴミを片付けている最中だった。

 

「やっぱりちょっと自主トレしようかと思って、トレーナーも見てれば安心でしょ?」

 

「そうか、ちゃんとこちらに聞いてくれるのは助かる」

 

 そうしてトレーナーは机を片付けたらトレーニングに使うタブレットなどを準備するとのことだったので、オレも制服から着替えるため、寮部屋へ練習着を取りに行く。

 

 ジャージに着替えてからグラウンドに出てくると、うちのトレーナーとプルーヌスムーメを連れたハチサのトレーナーが話している様子だった。

 

「どうしたの?」

 

「あ、ゾンネちゃん!」

 

 聞いたところ、プルーヌスムーメ以外の3人はレース本番も近いし自由時間にして休んでもらっているが、次走が有馬記念のプルーヌスムーメは集中してトレーニングをしているらしい。

 

「そういうことやけん、アタシと併走してほしかっちゃけど、どげんかな?」

 

「うん、問題ないよ。ただ、軽くトレーニングしようと思っただけだから、あんまり長時間は付き合えないけど」

 

 そういうわけで、プルーヌスムーメとトレーニングを共にする。ダートコースで走り込みをして、交互にタイヤ引き。そして最後に芝コースを周回する。

 

「風、気持ちよか、ねっ……!」

 

「はあ、ふっ……!まあ、うんっ……!」

 

 残暑も大方落ち着いてきて、涼しい秋風を切りつつ芝の上を駆けるのは確かに心地よいと思う。体を動かすことによる疲労は確かに感じるけど、不快感はない。

 

「はぁっ、大体こんなところ、かな」

 

「そうだな、ゾンネはこれくらいにしておこうか」

 

 コースから戻ってきて、トレーナーに指示を仰ぐと、今日はもう上がるとのことだった。建物の方へ戻ろうとして、ハチサのトレーナーに声を掛けられる。

 

「協力感謝するわ、2人とも。こちらはまだ少し続けましょうか」

 

「うん、トレーナー!ゾンネちゃんも、またアタシと一緒にトレーニングしてねー!」

 

 手を振ってこちらを見送るプルーヌスムーメに手を振り返し、グラウンドを後にする。

 

 

 

 

 トレーナー室に戻ってしばらくトレーナーと会話した後、制服に着替え直してまた学園内をぶらつく。

 

「さてと、晩ご飯まで何しようかな……」

 

 夕食の時間まで大体1時間ほど。寮部屋に戻って適当に過ごそうかと考え、寮エリアの方へ向かうところで丸められたポスターを大量に抱えたウマ娘がいた。せっかくだし手伝おうかと歩み寄ると、その姿は前世の記憶で馴染み深い相手だった。

 

「グラスワンダー……先輩?」

 

「あら、どうされましたか?」

 

 そう、アメリカ生まれの帰国子女ながら大和撫子然とした風格のある少女──グラスワンダーだ。

 

「たくさんポスターを運んでるのを見て、手伝いたいと思ったんです」

 

「えっと、インデアゾンネちゃんでしたか?そうですね……では、お言葉に甘えてさせて頂いてもいいですか?」

 

 オレは彼女の言葉に頷き、ポスターを半分ほど受け取る。それにしてもこれ、結構な量があるが一体どういう内容なのだろうか。

 

「ちなみにこれって、何のポスターなんですか?」

 

有馬記念の宣伝用ですね、もうすぐ人気投票が始まりますから~」

 

 なるほど、確かにもうそんな時期か。そしてこのポスターはどこに貼るかの大体の位置が決まっているらしく、グラスワンダーは場所のリストが書かれたメモを取り出して……えいっ、と大胆に半分に破り分けて片方をオレに手渡す。

 

「それとこちらは、貼り付けるためのテープです。手分けして早めに終わらせてしまいましょう♪」

 

「そうですね、それでは……」

 

 自分の分が終わったら三女神像の前に集まる、ということで二手に分かれ、ポスター貼りの作業へ入っていく。

 

 

 

 

 こちらの分を全て貼り終えて、三女神像の前に行くとグラスワンダーの方も終わっていたらしく、手伝いはこれにて完了だ。

 

「……うーん野点、かぁ。お茶菓子も出されるだろうし、テイクも連れてってあげようかな?」

 

 別れ際、グラスワンダーに協力してくれたお礼として今度一緒に野点はどうかと誘われ、オレは断る理由もないし応じることにした。

 

「さて……部屋にいるかな、テイク」

 

 ちょうどそろそろ夕食の時間だし、美浦寮へ戻ってきて自室のドアを開けると、無言で机に突っ伏しているルームメイトがいた。

 

「……テイク、どうしたの?」

 

「ん……ゾンネちゃん……」

 

 彼女に話を聞くと、自由時間をもらったプルーヌスムーメ以外のハチサ三人は、キヨミズノマイの発案により昼からさっきまでずっと勉強していたらしい。

 

「あたしとコレオプシス先輩がレースに集中するために、勉強はやれる時にやっておくという気持ちは分かるのですが……分かるのですが……」

 

「はは、大変そうだね……」

 

 あの人は優しいんだけど、これと決めたら有無を言わさないところがあるからなぁ。特にあの糸目にじっと見つめられると、言うこと聞かないとまずいぞという気分になる。

 

「まあ、それはそれとして。晩ご飯行くよ」

 

「はいなのです。脳が消費した分の栄養を補給するのです……!」

 

 そうして夕食を済ませたら、風呂にも入って今日1日を終了……と言いたいところだが。

 明日はテイクのエリザベス女王杯なので、寝るのは夜のうちにやれる準備をしてからだ。オレも手伝えるところは手を貸し、準備を整えて今度こそおやすみの時間。

 テイクがレースで良い結果を出せると良いな、と思いながらオレは目蓋を閉じた。

 




途中にある別のトレーナーとの会話は、もしインデアゾンネのサポカがあったらどういうサポカイベントか、という感じのものです。割と雑に扱う自分のトレーナーとそれ以外との対応の差がすごいですね。
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