3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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目指す姿

 契約を決めた初日は提出する書類だけ用意して解散とし、寮に戻って報告するとクルーシャルテイクは安心して喜んでいた。そして迎えた翌日。

 

「……トレーナー、来たよ」

 

 今日からは校舎裏のベンチではなく、このトレーナー室がオレの来る場所というわけで、早速向かった。

 

「ああ、インデアゾンネ。早速だけど、君はどんなウマ娘になりたいかって決まってるか?」

 

「どんなウマ娘に……決まって、ない」

 

 つい昨日までレースに出ようとする気すらなかったのに、そんな理想像なんて描けているわけもなく。そう答えると、トレーナーはならこんな感じならどうかと質問を変えた。

 

「ウマ娘は、どんな存在だと思う」

 

「わたしにとって、ウマ娘は……輝かしい存在かな。できるなら、わたしもそこに並ぶに恥じない存在になりたいよ」

 

 そう、心の内で思っていることを言葉に出すとトレーナーはしばし考え込んで、タブレット端末を取り出して起動した。何をするのだろうかと思って覗き込んでいると、動画サイトを開いてこちらに向けた。

 

「今から、ウマ娘のレース映像を見せる。クラシック三冠ウマ娘やトリプルティアラウマ娘の、時代を代表する走りだ」

 

 オレはトレーナーの言葉に頷いて、じっと画面を見つめる。思えば、この世界に転生してからウマ娘のレース映像をあまりじっくりと見たことはなかったような気がする。

 

 これまでのクラシック三冠・トリプルティアラが達成されたレースを見続けて、最後の秋華賞まで見終わって。

 

「……トレーナー」

 

「ああ、どう感じた?」

 

「わたしは……ティアラ路線に進みたい」

 

 居ても立ってもいられず、椅子から立ち上がってオレはそう告げた。クラシック路線のレースとティアラ路線のレースを見比べて、どうしてもオレはティアラ路線の方が心惹かれた。

 

 

 何者も寄せ付けない、嫉妬すら追いつかないその走りに。

 

 強者に食らい付こうとする、狂気さえ垣間見える執念の走りに。

 

 自らに絶対の自信を持つ、ただ最強の座を追い求めるその走りに。

 

 揺るぎない意志を宿した瞳で、一途に勝利を見据えるその走りに。

 

 どんな困難が立ちはだかろうとも、諦めることのないひたむきな走りに。

 

 

 かつて根強かった、ティアラ路線のウマ娘はクラシック路線のウマ娘に敵わないという風潮が嘘のように思えるほど、彼女たちの走りはずっと前からこんなにも輝かしい。

 

「わたしも、彼女たちみたいに光輝きたい」

 

 気づけば自然と口が動いていた。オレの言葉を聞いて、満足げに頷きトレーナーは言葉を紡ぐ。

 

「インデアゾンネなら、磨けば過去のトリプルティアラウマ娘に劣らないほど輝ける。少なくとも俺はそう思うよ」

 

「それは、つまり……」

 

「ああ、ティアラ路線に進むことに異論はないよ。今日はもう休むことにするけど、明日から輝くためにトレーニングを始めていこう」

 

 こうしてオレは、ティアラ路線へと進み輝きたいという目標を持ち帰った。

 

 

 

 

 寮部屋に戻ってくると、今日はおかきをボリボリ食べている同室がいて、オレが帰ってきたのを見て手を止めた。

 

「あ、インデアゾンネちゃん。トレーナーとの初日はどうだったのですか?」

 

「うん、トレーニングは明日からだけど……トゥインクル・シリーズの展望とか決めたよ」

 

 そこまで言って、オレは一旦深呼吸する。そして、クルーシャルテイクに向き直って、改めて自分に対する宣言の意味も含めて告げる。

 

「わたしは、ティアラ路線に行くつもりなんだ。そしてトリプルティアラを走り抜いて、過去のティアラウマ娘たちのように輝いて、恥じないウマ娘になりたい」

 

「おお……」

 

 彼女はオレの言葉を聞いて、ただ目を閉じて頷いて、それから口を開いた。

 

「……寮生活の初日に言った通り、あたしもティアラ路線にある煌びやかな中の情熱に憧れて、ティアラ路線を目指してます」

 

 確かに彼女はそんなことを言っていた気がする。意識していたわけではないけど、奇しくもクルーシャルテイクとオレの目指す先は似ているようだ。

 

「もしかしたら……」

 

「はい、トゥインクル・シリーズに参加したら、同期になって……ライバルになるかもしれません」

 

 レースの勝者は、一人だけ*1。オレとクルーシャルテイクが同じレースに出れば、確実にどちらかは敗者になるわけである。

 

「うん、それでも……手加減はしないし、できない」

 

「もちろんなのです。レースは相手が誰でも、その時出せる全力をぶつけなきゃ……」

 

 その先は言わずとも、分かるだろう。二人で頷いて、意思が通じていることを確認して、それからクルーシャルテイクが続ける。

 

「あ、そういえば……名前呼ぶとき長いですし、あたしのことはテイクでいいので、ゾンネちゃんって呼んでいいですか?」

 

「え?いきなりだね……別にいいけど。じゃ、改めてよろしく、テイク」

 

「はいなのです」

 

 決意を新たにして、オレは……いや、オレたちは明日を迎えることにした。

 

 

 

 

「トレーナー」

 

「来たな、インデアゾンネ。時間は無駄にできない、すぐにでもトレーニングに取りかかろうか」

 

 トレーナーと担当ウマ娘として本格的に活動を始める初日、ジャージに着替えてグラウンドに向かった。するとそこには、タブレット端末とクリップボードを抱えていかにもトレーナーという風格を醸し出す男がいた。

 

「……今さらできるトレーナー感出しても無駄だからね?」

 

「こういうのは雰囲気が大事なんだ。さて、今日からのトレーニングメニューはこんな感じで行こうと思う。確認してくれるか」

 

 手渡されたメニューを見るが、トレーニング教官が全体的にやるトレーニングと比べて、マイル~中距離に特化した内容となっている。もちろん運動量自体も増えており、トレーナーとの契約によって本格的なトレーニングが始まったと言えるだろう。

 

「なるほどね。特に異論はないよ」

 

「それじゃあ、まずは走り込みからスタートだ」

 

 そうしてメニュー通りにトレーニングをこなして、ほとんど終わる頃には日は傾いて空は茜色に染まりつつあった。

 

「はっ……ふぅ……ラスト1周、かな」

 

「お疲れ様ですー!」

 

 今日はこれで終わりだし、と気合いを入れ直して走ろうとしたところで観客席から聞き覚えのある声がした。振り返ると制服姿のクルーシャルテイクがこちらに手を振って、オレの姿を確認したら観客席からグラウンドに降りてきた。

 

「トレーニングはどうですか?」

 

「あと1周走り込みしたら今日は終わりだよ」

 

 彼女に応対していると、トレーナーがこちらに近づいてきて話しかけてきた。

 

「インデアゾンネの友達か?」

 

「はい、寮で同室のクルーシャルテイクなのです。あなたがゾンネちゃんのトレーナーさんですか?」

 

「ああ、よろしく」

 

 テイクはトレーナーをじっと見て、それからオレに向き直って言う。

 

「変な人って聞いてましたけど、意外と普通な感じじゃないですか?」

 

「テイクは今会ったばかりだからそんなこと言えるんだよ。こいつ本当にデリカシーないんだから」

 

 そうなのですか?とキョトンとした目を向けた彼女にトレーナーは苦笑いしながら視線を逸らす。それはなんかやましいことがある時の対応だぞ。

 

「……まあ、とにかく。ラスト1周だからわたし行ってくるね」

 

「はい、いってらっしゃいなのです」

 

 暗くなる空に合わせてより濃い色に染まっていくダートコースの上を、土煙を上げながら駆ける。夏も近づいてきているが、さすがに夕方だけあって受ける風は涼しい。

 

「はっ……はっ……ふぅっ……」

 

 3,4コーナーに入ってギアを上げていき、そしてトレーナーたちのいる観客席前まで。

 

「はあっ……!よしっ……」

 

 1周を終えて戻ってきたはいいのだが、トレーナーとテイクが談笑しているのを見て、何を話しているのやらと思う。

 

「……トレーナー、テイクに変なこと吹き込んでないだろうね?」

 

「ハハ、まさか」

 

 そのおちゃらけた返事に相変わらずな胡散臭さを感じつつも、オレがジャージから制服に着替えるのを待っていてくれたテイクと一緒に寮へと戻った。

 

*1
同着があり得ないわけではないが、極めて稀




ちなみにトレーナーと出会う下りから今話まではキャラスト1~4話の内容を踏襲しており、次回からアプリの育成ストーリーにあたる部分が始まります。
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