3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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Geist erneuern

 京都芝2200m、エリザベス女王杯。GⅠでは初めてのシニア級の皆さんとのレースを前に、あたしが思っていたことはただひとつでした。

 

(ゾンネちゃんに、早く追い付きたい……!)

 

 ここを勝って、GⅠウィナーの称号を得て……同室のあの娘に並びたい。それだけを一心に思い、挑みましたが……。

 

 

〈猛追するクルーシャルテイク!しかし、ユアアステリティ譲らない!そして今ゴールイン!!クビ差凌ぎきって待望のGⅠ勝利を掴み取ったのはユアアステリティ!!〉

 

 

 結果は2世代上の先輩に及ばず、2着でした。それでも、落ち込んでなんていられません。秋華賞で恥ずかしいところを見せてしまったのに、応援に来ているゾンネちゃんやハチサのみんなを、また心配させるわけにはいかないから。弱気な気持ちを押さえ込んで、前を向きます。

 

「次はきっと……もし次が駄目だったとしても、勝てるまで諦めるわけにはいかないのです」

 

 そう気持ちを新たにして、翌週。今度はあたしが応援する番です。そしてその相手は、というと。

 

 

〈コレオプシスカラー、まだリードをキープしています!だがここで伸びてきた、京都巧者キヨミズノマイ!残り300m、さあ二人の鍔迫り合いだ!安田記念の勝者が意地を見せるか!?〉

 

 

 そう、コレオプシス先輩とキヨミズ先輩の二人です。マイルのGⅠと京都のGⅠ、それぞれの得意条件で2勝している二人がぶつかるということで注目を浴びていたマイルチャンピオンシップ。

 

 

「キヨミズ先輩ーーー!!コレオプシス先輩ーーー!!」

 

「先輩たち、頑張ってーーー!!」

 

 

 同じチームの二人ですが、当然全力でのぶつかり合いです。世間での評判は菊花賞、天皇賞春と勝ってきたステイヤーのキヨミズ先輩がマイルのスピードについていくのは難しい……ということでコレオプシス先輩が優勢でした。

 

 

〈かわしてキヨミズノマイ!コレオプシスカラーも差し返そうとするが、しかし僅かに及ばない!1着でゴール板を駆け抜けたのはなんとキヨミズノマイ!!淀であれば1マイルも2マイルも関係ないというのか!?今年の春の天皇賞ウマ娘がマイルでもチャンピオンに!!〉

 

 

 それでもあたしたちは、キヨミズ先輩たちのトレーニングやトレーナーさんと話している様子を見て、どちらが勝ってもおかしくないと思っていました。そうして実際に勝ったのは、キヨミズ先輩。

 

「キヨミズ先輩、やっぱすごかね!」

 

「コレオプシス先輩も、すっごく強かったのです!」

 

 ムーメちゃんと一緒にレース後の先輩たちに観客席から手を振ると、ここからでも気付いてくれたみたいで、手を振り返してくれました。

 

(一番の憧れはゾンネちゃんですが……素敵な先輩たちや、ダービーウマ娘になったムーメちゃんも)

 

 同じくらい尊敬する相手で、早く皆と同じくGⅠで勝ちたいという想いが強まります。

 

「帰ったら、もっとしっかりトレーニングに打ち込まないとなのです」

 

 レースで勝つためには、やっぱり努力あるのみです。もちろんトレーナーさんの指示を逸脱しない範囲で、ですが……そう気持ちを新たにしました。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ジャパンカップ当日。天気はゾンネが得意としている晴天ではなく曇り空で、バ場状態も1時間ほどまでポツポツと降っていた雨により稍重。

 

「今日は親観戦に来てる?」

 

「お母様は体調が優れないそうで、お父様だけだと聞いてるな」

 

「そっか」

 

 レース前、控室でウマ娘と会話していたところ、そろそろ出走時間ということで彼女を送り出す。

 

「トレーナー、あのさ……」

 

「どうした?」

 

「……いや、やっぱりなんでもない」

 

 地下バ道にて、ゾンネが何かを言いかけたものの続きはなく。励ましてほしいのかと思い、いつものように声を掛ける。

 

「俺はゾンネなら大丈夫だって信じてる」

 

「う、うん……じゃあ、行ってくるね」

 

 しかし彼女の反応には手応えがなく、一体どうしたのかと思いつつ、パドックへ向かうゾンネを見送って席に向かう。

 

〈本日の1番人気を紹介しましょう、3番インデアゾンネ〉

 

〈トリプルティアラのウマ娘です、人気に応えて勝利するところを見せてほしいですね〉

 

 パドックに出てきた彼女は、一見いつも通り冷静に佇んでいるように見えた。しかしよく観察すると、落ち着いているというよりは、元気がないからじっとしているらしく感じた。

 

〈さあそして2番人気の登場です、8番カルドロンディーニ〉

 

〈調子は上々です、逆転の可能性も十分にありますよ〉

 

 カルドロンディーニはこれまでもゾンネと幾度かやり合ってきて、1度は土を付けてみせた侮れないウマ娘だ。実際、普通に考えればこのレースで最も脅威となり得るのは彼女……だが。

 

〈9番フラッフィトップ、皐月賞ウマ娘。3番人気です〉

 

〈かなりいい仕上がりですよ、勝利に向けて期待が持てます〉

 

 この前のアルバム撮影で出会った、ゾンネと同期のフラッフィトップも出走しており、あの時とはまた違った雰囲気でレースに臨んでいた。

 

「それに、あのウマ娘も気になるな」

 

〈遅れて登場してきました、1番ホーボーケン〉

 

 ホーボーケン。人気は低くくすんだ芦毛で目立たない様子のウマ娘だが、トレーナーの勘が彼女には何かがあると告げていた。

 

 やがてパドックでの紹介が終わり、本バ場入場に移る。

 

〈秋真っ盛りの府中レース場、世界のウマ娘たちが日本に挑みます。曇り空の下での開催となりました、東京芝2400m・ジャパンカップGⅠの本バ場入場です〉

 

〈ここまで20戦5勝、1枠1番に入ったのはホーボーケン。久々の勝利をこの大舞台で勝ち取りたいところです〉

 

〈さあドイツから参戦してきたのは2番カオザリテート、ディアナ賞ドイチェスオークスの勝者です。インデアゾンネとはオークスウマ娘対決となります、8戦4勝です〉

 

〈そして8戦6勝、先月秋華賞を勝ちトリプルティアラを戴いたばかりの3番インデアゾンネ、断然の1番人気です。ティアラ路線の女王が勢いのままに世界の舞台でも頂点に立つのでしょうか〉

 

 ターフに出てきたゾンネは、パドックの時よりはいくらか気力を取り戻したように見えるが、秋華賞の時より充実した様子には見えない。

 

〈23戦6勝、5番ティンリジーズブラック、アメリカのウマ娘。前走アメリカ重賞オーキッドステークスを見事勝利しており、次は異国の地で悲願のGⅠ制覇を狙います〉

 

〈ここまで19戦8勝、6番ミスエコリンスキー。一昨年のダービーウマ娘です、2400mの得意舞台で再びの勝利を飾りたいところ〉

 

〈6戦4勝、オークス2着の雪辱をシニア級も交えた大舞台で果たしたいところでしょう。その情熱の翼で勝利へ向かって飛び立つか、7番カルドロンディーニ〉

 

 ライバルであるカルドロンディーニも本バ場へ入ってきており、変わらず堂々とした立ち振舞いだった。

 

〈さあ6戦3勝、今年の皐月賞ウマ娘が11番フラッフィトップ。プルーヌスムーメらが不在の中クラシックウマ娘の代表として挑みます〉

 

〈7戦2勝、秋の天皇賞で2着からの400m延長です、勝手知ったる府中でそろそろ勝ちを挙げたい、12番コロニアルメモリー〉

 

〈8戦4勝、パリ大賞典1着、凱旋門賞2着の戦績を引っ提げフランスから遠征してきたのは13番サンシャモン〉

 

 そうしてジャパンカップに参戦する15人のウマ娘がコース上に揃い、ゲート入りへ移る中関東GⅠのファンファーレが吹奏される。最後の一人が収まって、スタートの時を待ち構える。

 

〈さあ全員がゲートに収まりまして、今スタートが切られました!最初のホームストレッチ、飛び出していったのはアメリカからの挑戦者です、5番ティンリジーズブラック。次いで日本のダービーウマ娘、6番ミスエコリンスキー〉

 

 タキシード風の勝負服を着た赤髪のウマ娘がハナを奪い、インデアゾンネは後方に付けて差しの位置から様子を見ている。

 

〈1バ身ほど開きまして11番フラッフィトップ、横に並んでドイツウマ娘2番カオザリテート。さあそして本日の1番人気、3番インデアゾンネは後方集団を引っ張っています〉

 

 ウマ娘たちは1コーナーへと入っていき、ゆっくりと坂を下っていく。

 

〈最初のコーナーへと入っていきます、1番ホーボーケンがその後ろ。さらに後方に7番カルドロンディーニ、2番人気です。並んで12番、コロニアルメモリー。そして最後方にいましたのはフランスからの刺客13番サンシャモン〉

 

 先頭のウマ娘は1コーナーから2コーナー、そして向こう正面に入っていくが、隊列に大きな変化はなく。

 

〈集団がバックストレッチへと入り、1000mを通過しました。通過タイムは1分1秒3、ややスローペースですね。さあ先頭からシンガリまで12バ身ほどでしょうか、順位を振り返っていきましょう。依然としてアメリカのティンリジーズブラックが先頭をキープしています、そのすぐ後ろにミスエコリンスキー〉

 

 向こう正面の坂を乗り越え、レースも後半戦になる。コーナーに向かって下っていくウマ娘たちだが、担当の走る姿はわずかながら勢いがないように見えた。

 

〈1番人気インデアゾンネはここにいました、後方集団の中ほどです、その外からホーボーケン。内を突いて早くも仕掛けてきました、サンシャモンが並びます〉

 

 大ケヤキに差し掛かり、勝負どころが近づいてくる。カルドロンディーニも徐々に進出を開始しており、合わせてゾンネも前に出ようとする。

 

〈大ケヤキを越えて4コーナーへ、さあカルドロンディーニがここから仕掛けてきました!インデアゾンネも集団の間を縫って前方へと向かいます!そして最終直線、外からホーボーケン!〉

 

 スタンド前、2mの坂を登っていよいよゴール前最後の攻防。ゾンネは思うように伸びていないようで、先頭に中々たどり着けない。

 

〈ティンリジーズブラック、ここまでか!代わって先頭はフラッフィトップ!さらにホーボーケンが並んできたぞ!カルドロンディーニ、インデアゾンネも追い上げます、残り150mです!〉

 

 担当は付いていくのに必死で、差し切れないだろうと直感で悟った。それでも当然、勝利を諦めたわけではなかったものの。

 

 

〈ホーボーケン、譲らないか!そして今ゴールしました!1着で駆け抜けたのはホーボーケン!次いでフラッフィトップ、そして3着争いにカルドロンディーニとインデアゾンネ!なんとなんと8番人気から大逆転はホーボーケン!!シニア級2年目でついにGⅠでの勝利を飾りました!〉

 

 

 結果は4着。デビューから9戦目でついに複勝圏内を外し、シニア級での勝負の難しさを改めて実感した。

 

 

 

 

 レースの後、地下バ道でゾンネを出迎える。府中での敗戦、となると共同通信杯の後の動揺していた様子を思い出して、どう慰めようかと考えていた。

 

「トレーナー」

 

「お疲れ、ゾンネ」

 

 だが、彼女の様子はいつも通りとまでは行かないものの……心配していたほど落ち込んではおらず、自分の杞憂だったということを確認した。

 

「今日は負けちゃったけど、次は勝つところを見せたいな」

 

「……そうか、ゾンネならきっとやれるさ」

 

 秋華賞でのレコード勝利による反動、曇天で稍重のバ場、そもそも適正距離ギリギリの2400m……小さな要因が積み重なった結果今日勝利できなかったのだろうと分析するが、それを今ゾンネに伝えるのは野暮だろう。

 

「それじゃ一旦、控室に戻ろうか。お父様が待ってるはずだ」

 

「そうだね……勝利を報告できないのが残念だなぁ」

 

 そう悔しそうにするゾンネだったが、彼女の父は「GⅠに出るだけでもすごいことだ、無事に帰ってきてくれたならそれで良い」と親の愛情で迎え入れた。

 

「さて、そろそろライブの準備があるかな」

 

「『Special Record!』だよね、今日わたしはバックダンサーだけど」

 

 レースで4着以下のウマ娘は、ライブではバックダンサーを担当する。着用するのも自分の勝負服ではなくライブ用の衣装で、1~3着とは大きな扱いの差があるというわけだ。

 

「関係ないさ、可愛い娘のダンスだからな!」

 

「ふふ、ありがとね父さん。そっちの振り付けも練習はちゃんとしてるから、最後まで頑張ってくるよ」

 

 ライブ衣装へ着替えたゾンネを見送り、自分もライブステージへと向かう。たとえバックダンサーでも、真面目な彼女は言葉通りに動きを乱すことなく踊りきった。

 

 

 

 

 レース場からトレセン学園のトレーナー室まで戻ってくる。外はすっかり暗くなっている中で、次への展望を担当ウマ娘と話す。

 

「次のレースはシニア級になるんだよね?」

 

「ああ。前も言った通り春はヴィクトリアマイル、秋はエリザベス女王杯を大目標とする。そしてそこで勝って……前人未到の記録を打ち立てよう」

 

 ゾンネは記録?と首をかしげたので、さらに話を続ける。

 

「阪神ジュベナイルフィリーズ、桜花賞、オークス、秋華賞、ヴィクトリアマイル、エリザベス女王杯……現在URAでティアラ路線と見なされている芝GⅠレースは6つあるが、これら全てを制覇したウマ娘は未だに存在しない」

 

 かつてエリザベス女王杯以外の5レースで勝利を収めたトリプルティアラウマ娘は存在するが……6つ全てで勝つという快挙の達成者はいない。そもそもGⅠを6勝すること自体が、歴史に残るウマ娘として異存はないほど困難なのだから、無理はないだろうが。

 

「そしてインデアゾンネ、君にはその偉業へ挑戦する権利がある」

 

「大げさだな……でも確かに、世代戦の阪神JFとトリプルティアラを勝って、後はシニア級で現役を続ける限り何度でも挑戦できる2レースだけか」

 

 もちろん、ウマ娘の全盛期というのはそう長いものではない。それでも、ゾンネなら。彼女なら達成できるはずだという信頼が自分の中に存在している。

 

「今のままでももちろん、トリプルティアラウマ娘として記録には残るだろう。でも、ゾンネはそれだけでは収まらないウマ娘だと俺は思っている」

 

 ヴィクトリアマイルとエリザベス女王杯で勝利すれば、誰もがゾンネを過去のウマ娘たちに劣らぬ輝かしい存在だと認めるはずだ。自分がそう告げると、ゾンネは少しだけ思案するように目を閉じて、それから言葉を続ける。

 

「そう、だね。ティアラ路線GⅠ全制覇、絶対成し遂げたい」

 

 元々このプランに反対する気はなかっただろうけど、彼女は噛み締めるように、あるいは自分に宣言するように改めてそう呟いた。

 

「さて、そのためのレーススケジュールだが……」

 

 メモ用紙とペンを手繰り寄せて、予定するレースを書き出し、ゾンネにその内容を見せる。

 

「大阪杯、ヴィクトリアマイル、宝塚記念、オールカマー、エリザベス女王杯。ふうん……」

 

「まず、春は大阪杯から始動する。ここはヴィクトリアマイルでぶっつけ本番を避けるための叩きだ」

 

 そして、第一目標のヴィクトリアマイル。続いて宝塚記念とオールカマーで2200mの感覚を完璧に掴んだら、エリザベス女王杯本番だ。

 

「まあ、ヴィクトリアマイルとエリザベス女王杯、あと宝塚記念以外は必要に応じて変えても構わないが……」

 

「いや、折角の提案だしこれでいいよ。来年もまた頑張らないとね」

 

 そうしてシニア級での目標を改めて確認し、その日は解散とした。

 




ちなみに現在公式で登場していない他のトリプルティアラのウマ娘も、この小説では直接出てくることはないですが存在はしているという設定です。そもそも執筆開始時点ではアーモンドアイがウマ娘として実装されてませんでしたからね。
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