3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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あなたの愛、レースへの愛

 12月に入って、寒さも顔を覗かせ始めた頃。オレは勝負服を着てトレーナーと一緒にあるテレビスタジオの楽屋にいた。

 

「うう……下手したらレース前より緊張してるかも……」

 

「いつも通りのゾンネを出せれば問題はないと思うが。ああ、俺に対しての“いつも”じゃなくてファンやマスコミ対応での“いつも”だ」

 

 こいつ……遠回しにオレが猫被ってるとか内弁慶だとか言いたいのか?

 いつもならその余計な一言に一発蹴りを入れていただろうが、そんな余裕もないくらいに息が詰まっていた。なんせ、今回のテレビ収録は──。

 

 

「さあ、始まりました!『新トリプルティアラウマ娘誕生記念!トリプルティアラトークショー!』皆さんよろしくお願いします!!」

 

 

 ──過去のトリプルティアラウマ娘たちを交えたトーク番組なのである。彼女らのレースでの勇姿を見てオレはティアラ路線に進むことに決めたのだから、実際に相対するとなるとやはり緊張する。

 さすがに片手で数えるより多い達成者たち全てを集めることは厳しかったらしいものの、それでも5人は都合が付いてこのスタジオに呼んだという。秋華賞はもう1か月以上前のことだが、なるべく多くのウマ娘と予定を合わせるためにこれだけ時間が掛かったとか。

 

「まずは今年新たに誕生したメインヒロイン、新トリプルティアラのインデアゾンネさん!」

 

「はい、偉大な大先輩の皆さんとの共演ということで恐縮しています……」

 

 既に何名かからレースで競いたいという熱をヒリヒリと感じており、隣にいるトレーナーの袖をぎゅっと握って何とか飛びそうな意識を保っている。

 

「さあ、そしてお越しいただいた歴代トリプルティアラの皆さんを紹介しましょう!栄えある初代トリプルティアラにしてメジロの至宝、メジロラモーヌさん!」

 

「ええ、今日は愉しませて頂戴ね」

 

 熱源その1。言わずと知れた魔性の青鹿毛で、他のウマ娘と同じく今でもトゥインクル・シリーズに籍を置いているそうだが、トレセン学園では滅多に見かけることがないとかなんとか。

 

「さらに二代目のスティルインラブさんに、貴婦人ことジェンティルドンナさん!」

 

「はい、お願いいたします……っ、ダメ……全国放送でそんな……堪えないと……!」

 

「かわいらしい新人さんですわね。どこまで私を本気にさせてくれるのか、興味深いですこと」

 

 熱源その2とその3。なんかもう収録中に勝手にレースしに出ていきそうなんだけど、大丈夫なんだろうか。

 

「そしてGⅠ9勝女王のアーモンドアイさんに、史上初の無敗でトリプルティアラを達成したデアリングタクトさん!」

 

「わたしも、今日のことを楽しみにしていました!こんなに先輩や後輩のトリプルティアラウマ娘と集まって話す時間なんて、そうそうないでしょうから」

 

「私もアイ先輩と同じで、貴重な機会を得られて嬉しく思います」

 

 他のウマ娘たちに比べると比較的オレと世代も近い二人。受け答えも今すぐにでも競い合いたいという感じはしないが、多分レースってなったら嬉々として参加するんだろうなぁ。アーモンドアイはかなり負けず嫌いらしいと聞くし。

 

「以上、豪華6名のトリプルティアラウマ娘たちでお送りします!それでは、まずは最初の話題は──」

 

 そうして紹介が終わり……一応オレはメインゲストなのだが、何事もなく終わってくれますように、と祈りながらトークショーが始まることになった。

 

 

 

 

 ただ、他のトリプルティアラウマ娘はオレが危惧していたより冷静だったようで、特に問題も起きず談話は進んでいき、オレの身の回りについての話になった。

 

「そちらのずっと袖を掴まれているのが、貴女のトレーナーで良かったかしら?」

 

「えっ?あ、はい、すみません……!」

 

 ジェンティルドンナについに袖を引いていたことを指摘され、ばっと離した。

 

「無意識に頼るなんて、すごく信頼されているんですね」

 

「いや、その……わたしはそういうつもりじゃ……!」

 

 他のウマ娘たちから微笑ましげな視線を向けられ、どぎまぎと不明瞭な言い訳の言葉を続けるが。

 

「未だ知らぬ愛の萌芽……自覚する時が楽しみね」

 

「あ、愛……!?」

 

 トレーナーとはそういうのじゃないはずだし。確かに『彩 Phantasia』を歌う時に真っ先に思い浮かべるのはトレーナーの顔だろうけど!愛とか恋とかじゃない……はず!

 

「あぁぁぁ……!っ、司会者さん、次の話題に行きましょう!何ですか、好きな食べ物とかですか!?」

 

「インデアゾンネさん、好きな食べ物については20分前にもうやってます」

 

 というか自分のことなのに無言で座ってないで何とか言えよ。そう思ってトレーナーを肘で小突いて出た言葉はというと。

 

「そうですね、ゾンネはまだまだ高みを目指せる存在だと信じていますし、俺はその歩みを側で支え続けたいと思います」

 

 駄目だこりゃ、使い物にならん。それを見た司会者の人はそろそろ助けるかとフリップを取り出し、ようやく次の話題へと移った。

 

 

 

 

「……さて、大変名残惜しいですがぼちぼちお時間でしょうかね。本日は皆さんにお集まりいただき誠にありがとうございました!」

 

 収録開始から何時間か経って、話題もさすがに尽きてきたところで司会者がお開きにしようとしたところ、メジロラモーヌが待ったをかけた。

 

「あら、大事なことをお忘れでなくて?」

 

「そうですわね。これだけウマ娘が集まれば、やることは一つしか無いでしょう」

 

「ふふふふ……お誂え向きに勝負服まで着ているもの。これで終わりだなんてイヤよ、アナタたちの魂──啜らせて?」

 

 ああ、はい……ですよね。やっぱこうなるよね。

 

「レースね?先輩だろうと後輩だろうと、わたしは負けないわ!」

 

「皆さんとのレースですか?是非参加させてください!」

 

「……というわけで急遽!歴代トリプルティアラウマ娘たちによるレースが決まりました!」

 

 恐らくは番組のプロデューサーが司会者により呼び出されて、電話を繋げる。話してる内容からして多分相手はURAだろうな。

 

「府中のレース場使用許可、取れました!」

 

 いや、いくらなんでも許可下りるの早くない?もしかしてこうなることを見越して、予め先方と話をつけておいたんだろうか。

 

「よし、カメラ班行ける?」

 

「トリプルティアラウマ娘6人が人知れず戦っていいワケないっスよね!?」

 

 知らん間に人数に含まれてる……ウソでしょ……。まあ、他5人がやるって言ってるのにオレだけ不参加なんて無理か。しょうがないし腹括ろう、もうどうにでもなれ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 いやはや、先日の収録は酷い目にあった。のっけからとんでもないプレッシャーに襲われるわ、トレーナーとの関係をからかわれるわ、トークショーの後に何回もレースに付き合わされるわ……。

 

「あの、ゾンネちゃん?顔が青いですが……」

 

「あ、すみません……グラスワンダー先輩。ちょっと前の出来事を思い出して」

 

 今日はこの前ポスター貼りを手伝ったお礼の野点の日……だがさすがにそろそろ寒くなってきたので、お茶菓子を持ち寄って野外ではなく食堂ですることになった。

 

「ゾンネちゃん、目の前のお菓子のことだけを考えましょう!難しいことは今は忘れちゃっていいのです」

 

「……テイク、あくまでお茶が主役だからね?」

 

 グラスワンダーには事前に伝えて、テイクも連れてきている。もちろん、自分の分のお菓子は自分で持ってきてもらっているが。

 

「そうですね、キヨミズ先輩がくれたお菓子はお茶の苦味と合わせるとちょうどいい感じの甘さなのです」

 

 ちなみに、テイクが持ち寄ったおやつの過半数はキヨミズノマイをはじめとしたハチサの面々にもらったものらしい。

 

「……あら、それは京都の有名なお店の?」

 

「はいなのです!あたしがお菓子好きなのを知って、チームのみんなが分けてくれるのです」

 

 まあ時々、レースが心配になるくらい食べてる時もあるが。オレがそう言うと、テイクはバツが悪そうににへへとはにかみ、グラスワンダーも気持ちは分かります、と苦笑する。

 

「そうして応援してくれるみんな……もちろんファンの皆さんにも、レースで応えたいのでなるべく我慢はしてるのです」

 

「そうだね、テイクはよく頑張ってると思うよ」

 

 彼女は本当に努力家だと思う。なんだかんだ、諦めることはないし。ルームメイトだからこそ、オレはその様子を間近で見て知っている。

 

「だって、ゾンネちゃんに勝ちたいですから!今までレース本番では一度も勝ててないですが……それでも、いつか隣に並んで、追い越したいのです」

 

「わたしも、負けるわけには行かないね。テイクのことは同室で、友達で、時々トレーニングを共にする仲間だけど……油断したらすぐ自分が追い抜かれそうな、強力なライバルだと思ってるよ」

 

「ライバル、ですか……」

 

 そう呟く声を聞いて、元々はグラスワンダーが組んでくれたお茶会なのについテイクと話し込んでしまったことに気付き、彼女の方へ向き直る。

 

「ああすみません、わたしたちばっかり話しちゃってましたね。先輩のお話も聞かせてもらってもいいですか?」

 

「はい~、私も同世代でルームメイトの好敵手がいますから、二人の話には共感を覚えていますよ。やっぱり、レースに出るからにはどなたにも負けるつもりはありませんが……特別に意識することはありますね」

 

 自分の目指す道を見失った時彼女に一喝入れられたこともあります、と感慨深そうに言うグラスワンダー。そういえば前世のゲームでそういうシーンがあったなと思い返す。

 

「高め合えるライバルというのは、得ようと思って得られるものではないので、その関係を大切にしてほしいと思います」

 

「そう、ですね。テイクの他にも、レースのライバルと呼べるような人はいます」

 

「あの娘なのですか?カルドロンディーニちゃん」

 

 そう、カルドロンディーニ。オークス、秋華賞では勝てたけど、紫苑ステークスやジャパンカップでは先着されたんだよなぁ。

 

「私もエル以外にも、スペちゃんやキングちゃん、セイちゃんにツルちゃん……多くのライバルと切磋琢磨しながら走ってきましたね~」

 

 いわゆる黄金世代と言われているウマ娘たちだ。彼女たちが積極的にトゥインクル・シリーズのレースに出ていたのはかなり前のことだが、それでも未だに根強い人気を誇っている。

 

「なるほど、ライバルと常に競い合ってきたから皆さんは強いのですか?」

 

「そう言われると、面映ゆいですが……私たちが評価されているのは嬉しいですね」

 

 そうして3人のお茶会は始終和やかに進み、そして昼もだいぶ過ぎてきた頃。

 

「さて、今日はこのくらいでお暇としましょうか」

 

「そうですね。グラスワンダー先輩、今日はありがとうございました。色々とお話が聞けて楽しかったです」

 

「お茶とお菓子、ご馳走さまなのです」

 

 全く、テイクは初めて会った時からずっと思ってたけどマイペースだな。

 

「いえいえ、元は手伝っていただいたお礼ですので~。また今度も、ご一緒できたらと思います」

 

「はい、先輩がよければ」

 

 そういうわけで、無事に野点はお開きとなったわけなのだが……後日。

 

 

 

「どうしたの、テイク……そんな、周りがセピア色に見えるみたいな顔して」

 

「また間食減量令が出たのです……」

 

 絶望的な表情をしていたので何かと思えば案の定、トレーナーからおやつを減らすよう言われたらしい。

 

「お茶会で調子に乗って食べ過ぎたからだよ」

 

「お話が楽しくてつい……うう、猛省します……」

 

 しょうがない、しばらくはオレもテイクの見えるところで甘味とか食べるのは控えておくか。

 




原作のウマ娘とレースで競う機会があっても、勝敗はボカすことにしています。誰が勝ったかは皆さんのご想像にお任せしますということで。
あと、グラスワンダーとゾンネ、テイクが絡んだ理由については、元となった競走馬(もちろん架空馬)がグラスワンダーの子孫にあたるという設定だからですね。あんまりその辺を厳密に設定しているわけではないのですが。
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