3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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Winterwunderland

 12月も半ばになり、トレセン学園のウマ娘としてはやはり有馬記念を意識する時期。もちろんオレはトレーナーの立てたスケジュールの通り、有馬記念には出ないが……よく関わりのあるウマ娘だとカルドロンディーニやプルーヌスムーメが出走するという。

 

「ヒシアマゾン先輩、この電飾はどこに付ければ良いんですか?」

 

「おう、その赤いやつはそこの柱と柱の間に渡してくれ!緑のは天井の真ん中からあっちの梁に頼むよ」

 

「分かりました。えーと、テープは……」

 

 ちなみにオレが今何をやっているのかというと、美浦寮のパーティー準備だ。年末年始はレース関係でドタバタするので、クリスマスパーティーはこの時期に繰り上げているんだとか。

 

「ゾンネちゃん、手伝いましょうか?」

 

「あ、テイク。そうだね……脚立どこにあるか分かる?」

 

「確かあっちの方にあったのです、持ってきますね!」

 

「うん、ありがと」

 

 思えばトゥインクル・シリーズで走り始める前は、テイクたち以外の……前世で知っていたネームドウマ娘たちとコミュニケーションを取ることなんて考えもしなかった。だが色々な交流を経て、先ほどの寮長との会話のように、それなりに自然に話せるようにはなってきた。

 

「……?テイク、戻ってこないな……どうしたんだろ」

 

 脚立を取りに行ってくれたはずのテイクを探しに行くと、キッチンの方から聞き慣れた声がしたので覗く。するとそこには、エプロンと鍋つかみを着けてクッキーを焼いていたらしいコレオプシスカラーにキヨミズノマイと、脚立を片手にクッキーを頬張るテイクがいた。

 

「あっ!ゾンネちゃん……」

 

「……間食減量令出てなかったっけ?」

 

「パーティーで出すお菓子の試作してん、それで試食してもろてたんです」

 

 キヨミズノマイに続けてコレオプシスカラーも「ほんのちょびっとだけだから許してあげてじゃんね?」と手を合わせてウインク、ぶりっ子風な謝罪をする。

 まああくまで減量であって禁止ではないはずなので、ちゃんと量を調節してるならオレから言うことは無いのだが。

 

「別にそれはいいんだけど……電飾を付けるための脚立取りに来ようと思ってて」

 

「あう、すぐ行くのです……!」

 

 急いでるわけじゃないしゆっくりでいいよ、と諭しつつ設置場所まで戻ってきた。

 

「それにしても、先輩たちって料理できたんだね」

 

 いつも彼女たちが持ってくるのはお店のお菓子だったので、料理はしないタイプなのかと何となく思ってた。

 

「コレオプシス先輩はそれなりみたいですけど、キヨミズ先輩はすごく料理上手なのですよ?たまにチームで一緒にご飯作って食べたりするのですが、その時はキヨミズ先輩が音頭を取ってるのです」

 

「そうなんだ、知らなかった」

 

 夏合宿の時は特にそんなことなかったしな……まああの時も基本食事は学園側で用意されてたか。

 

「今度ゾンネちゃんも参加しますか?結構楽しいのですよ」

 

「……わたしはあんま料理とかしないから、足手まといになりそうだしいいよ」

 

 電球が付いた赤いケーブルをヒシアマゾンの指示通り柱と柱の間にテープで固定しながら、受け答えをする。

 

「あたしも最初は全然できませんでしたけど、今は教えてもらってちょっとは作れるようになったのです!ゾンネちゃんもきっとすぐ上手くなりますよ」

 

「そうかな……?というか、ハチサの集まりにわたしが入って大丈夫なの?」

 

「はい、ゾンネちゃんは半分ハチサのメンバーみたいなものなので問題ないのです!」

 

 オレの問いかけに対して、テイクは胸を張ってそう言う。いやまあ、確かに彼女たちと一緒にいる機会は結構多いがそれでいいのか?

 

「それにしても……うーん、料理か……やっぱりできた方がいいのかな……」

 

 そうしてオレは、トレーナー室にてそこら辺の売店で適当に買った昼食をデスクに広げるズボラな男を思い浮かべ……ちょっと待て、なんであいつが出てくるんだ。

 

「違う違う、そう言うのじゃないし……!」

 

「ゾンネちゃん、どうしたのです……?」

 

「な、何でもないから!」

 

 脳内をリセットしようと急に首を横にブンブンと振ったら案の定テイクに心配され、強引に誤魔化して飾りつけの作業に戻った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 美浦寮のパーティーも無事に成功し、数日後。オレはチームハチサの面々と一緒に出かけることになった。目的地はとある遊園地で、到着するなりプルーヌスムーメは飛び跳ねながら走っていき、こちらにくるっと振り向いて言う。

 

「ゾンネちゃんとお出かけできるの、楽しみにしとったとよ!テイクちゃん、コレオプシス先輩とは何回か出かけとったって聞いとうけど、アタシも同世代やし一緒に遊びたかったっちゃんね!」

 

「そうなんだ……わたしといて楽しいかは分からないけど……」

 

「少なくとも、あたしはゾンネちゃんとお出かけするの楽しいのですよ?」

 

 あまり口数が多い方ではないし、そこまでユーモア溢れるタイプでもないので、オレと話していて面白いかは不安だったが……テイクにそう言ってもらえるのは嬉しいな。

 

「うちももっと話する機会とかあれへんかな思うてましたから、遠慮せんと誘ってくれてもええんですよ?」

 

「あーしちゃんからもよろよろじゃんね☆」

 

 ところで今日の主な目的は、コレオプシスカラーの香港遠征のお疲れ様会*1有馬記念に出るプルーヌスムーメの壮行会なんだとか。そういうのはあまり気にしなくていい、とにかく一緒に楽しもうと誘われてはいるが。

 

「ほな、どっから行きましょか?希望とかあります?」

 

 キヨミズノマイがそう皆に尋ねると、入口で配布されていたパンフレットを片手に持ってプルーヌスムーメが手を挙げて続ける。

 

「アタシ、ティーカップ行ってみたかけどそれでよか?」

 

「はい、いいですよ!ゾンネちゃんはどうなのです?」

 

「わたしもそれで大丈夫だよ」

 

 そういうわけで最初に向かったのは、入場口に比較的近い場所にある、遊園地では定番の回転ティーカップ。屋根と柵に囲まれたアトラクションの前で、どんな感じで乗るのかという話になり。

 

「ゾンネちゃんゾンネちゃん!せっかくやしアタシと乗ってくれん?」

 

「……いいの、わたしで?」

 

「うん、もちろんよ!」

 

 断る理由もないし、プルーヌスムーメと同じカップに入ることにした。フリーパスになっているリストバンドを係員に見せて中へ入り、水色のラインが入ったカップに二人で乗る。

 

「これ3人行けます?あ、行けそうやんな」

 

「準備はよろしいでしょうか?それでは、カップが回転しますのでハンドルにしっかり掴まってください~」

 

 その係員の声から数秒後、カップが動き出した。ベースとカップが二重で回転している様子は、よくよく考えるとちょっと不思議だなと思ったりもする。

 

「わ~!回ってるじゃんね~☆」

 

「なんだかふわふわするのですー!」

 

 なんかすごい楽しんでるな、あっちのカップ。黄色い声が聞こえてチラッと横目で見て、正面に視線を戻す。そこにはにこやかな表情で左右に体を揺らしながら回転を感じている様子のプルーヌスムーメがいて。

 

「えへへ……懐かしい感じばするとよね、ティーカップって」

 

「そうなの?」

 

「うん、地元の遊園地に昔あって1回だけ乗ったことあるっちゃけど、その後別のアトラクションになっとったけん」

 

 老朽化によるリニューアルとかもあるだろうし、ずっと同じ施設があるとは限らないとは思う。でも、役目を終えるものにも少なくない思い出があるわけで。

 

「わたしも、こういうアトラクションはなんかノスタルジーを感じるな」

 

 具体的なエピソードとかは思い付かないのだが。もしかしたら、前世での記憶から懐旧の念を感じているのかもしれない。だとしても、転生する前の数年間ですら朧気になり始めているのだから、恐らくは幼少期に遊園地に行った記憶なんて思い出せるわけもないだろうけど。

 

「回転が止まります、皆さんご搭乗ありがとうございました~」

 

 カップから降りて、テイクや先輩たちと合流する。そしてアトラクションを出たら、次はどこにしようかと皆で話す。

 

「観覧車はやっぱり最後なのです?」

 

「そだね~☆夕日背景に自撮りしたらアガりそーじゃんよ♪」

 

 そんな感じでワイワイしながら、バイキングに行ってみようという意見が出たところで、別の来場客に話しかけられた。

 

「あ……あの、コレオプシスカラーさんですよね?」

 

「そうじゃんよ☆あーしちゃんこそ今年最強マイラーのコレオプシスカラーじゃんね♪」

 

「私、ファンなんですよ!握手してもらってもいいですか!?」

 

 その黒髪セミロングで普通の成人女性といった感じのファンは、言葉通り握手を求めてコレオプシスカラーの方に右手を差し出してきた。

 

「しょうがないなー、プライベートで遊んでる時に☆」

 

「ありがとうございます!」

 

 そして彼女はガシッと握手したかと思ったら、素早くファンを左腕に寄せてピースにウインクを決め、いつの間にか取り出していたデジカメで鮮やかにツーショット自撮りまで済ませた。

 

「なにっ!?」

 

「あーしちゃん流トリックじゃんね☆カルワザとギャル合わせてギャルワザ?的な♪」

 

 あまりの展開に呆気に取られる彼女のファンだが、コレオプシスカラーがカメラの画像を確認するために解放されても、まだ自分の身に起きたことを理解しきれていない様子だった。

 

「え、えっと、握手して、抱き寄せられて……ツーショット?私が?」

 

「写真送るのは……うーん、さすがにダメかな?んじゃ、ごめんけど二人だけの秘密ってことでおけまる?」

 

「あと、うちらが今ここで遊んでんのも内緒にしてもろてもええですか?」

 

「は、はい、もちろんです!ありがとうございました!」

 

 そう言い残して、コレオプシスカラーのファンはぴゅーっとどこかへ走り去っていった。

 

「こんなとこでファンに会うとか思わんかったね」

 

「そうですね、レース場だとたくさんウマ娘のレースのファンの人たちがいますが……ここは普通の遊園地ですし」

 

 トゥインクル・シリーズはアイドル興業とスポーツが複合したような感じで、前世での競馬よりは広く知られているだろうけど……当然レースだけが娯楽の全てってわけじゃないから、レースに関する場所から離れると意外とオレたちのファンと出会う回数は多くないんだよな。

 

「さ、とりまバイキング行こうじゃんね☆」

 

「そういえばそんな話だったね、行ってみよっか」

 

 まあそれは置いておくとして、遊園地のアトラクション巡りに戻ることとした。

 

 

 

 

 そうして1日中遊園地を巡り、ラストに行こうと話していた観覧車も乗り終えて帰ろうかというところ。少しずつ暗くなる茜空の下、夕風が吹いてくる。

 

「うぅ、さむっ!やっぱり12月ともなると冷え込むじゃんね!」

 

「せやなぁ、確かにちょいすこすこ*2します」

 

 オレも他の皆と同じく冬の寒さを感じて、足早に敷地を出ようとしたところで何か頭に冷たいものを感じる。

 

「わっ、つめた……なに……?」

 

「んぅ……?あ、これ雪じゃないですか!?」

 

「本当やね!こっちに来て結構経つけど、地元やとあんま雪見らんかったけん、未だにちょっとドキドキするとよね」

 

 去年はあんまり降らなかったし、その分今年は早く降り始めてるのかなと思ったりする。

 

「積もりそー?さすがに無理かな?」

 

「それは分からないですけど、積もるくらい降ったら雪玉作って遊びたいのです!」

 

 そう言ってキャッキャとはしゃぐテイクたちを見て、オレも誘われたら行ってみようかなと微笑ましく思う。そして皆に合わせて、少しゆっくりとした足取りでトレセン学園まで帰ることにした。

 

*1
香港マイルに招待され、2着の成績を残す

*2
肌寒いの意




さて、今回の更新はここまでです。次回もなるべく早く出したいとは思いますが……どうなるでしょうね。感想・好評価やここすきを頂けると励みになりますので、積極的にしていただけるとありがたいです。
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