3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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福引きチャンス!

 年明けからしばらく経った頃。トレセン学園近くの商店街にて、春のレースに向けてのトレーニングで使用するシューズや蹄鉄、アンクルウェイト等を担当ウマ娘と一緒に調達する。

 

「えーと……ウェイトはどのくらいにした方がいいのかな?」

 

「そうだな、ゾンネのトレーニングの負荷を考えると10kgの重りをこのくらい……」

 

 ゾンネと共に確認した、ティアラ路線GⅠ全制覇という目標に向けての用意は、いくらしてもし過ぎることはないだろう。そういうわけで昼過ぎから時間を掛けて吟味し、充分に揃えて学園に戻ろうとしたところで。

 

「あのさ、トレーナー……わたし文房具とか新しいの買おうと思ってるんだけど、付き合ってもらっていいかな?」

 

「もちろん」

 

 続けてさっきのスポーツ用品店のレシートを貸してと言われ、一体何に使うのだろうと思いつつ手渡すと、彼女はそのまま文具店へと入っていった。

 

 

 

 

 消しゴムや鉛筆、ノートといったオーソドックスな筆記具に加えて、車の形をした金属製の置き物*1も購入したゾンネはキョロキョロしながら通りを歩いていく。

 

「この辺りで何かあるのか?」

 

「まあね。見れば分かるよ」

 

 そうして、商店街の中央辺りで何やら人だかりとその中から聞こえてくる威勢のいい声に遭遇して、担当はおそらくこれを目的としていたのだろうと察する。

 

「さあさ、新春・大福引祭り開催中だよ~!特賞はなんと『温泉旅行券』!」

 

「1等は『特上にんじんハンバーグ』、2等は『にんじん山盛り』、3等は『にんじん1本』!」

 

「さあさ、楽しい楽しい福引だよ!どなたでもどうぞ~!」

 

 福引きか。おみくじを引いたり初詣の願掛けをしたりと、クールな印象と違ってそういったものに興味のある彼女が好みそうなイベントだ。

 

「あれがしたいのか?」

 

「うん、まあ……特賞が当たったらすごいなと思って。これ、福引券だから……やって来てくれる?」

 

 そう言って担当は先ほど渡したスポーツ用品店でのレシートと一緒に1枚の福引券をこちらに差し出した。

 

「ゾンネがやらなくていいのか?」

 

 てっきり彼女があの抽選器を回したいから来たのだと思っていたので、こちらに振られて驚く。本当に自分がやっていいのかと言葉を返し、ゾンネはうつ向いて問いに答える。

 

「わたし、あんまり運が良い方じゃないし……」

 

「物は試しだと思うぞ。それに不安なら、俺が一緒に回そうか?」

 

「あ、あんたと……!?い、嫌じゃ……ないけど……」

 

 少し逡巡した後、彼女は決心したらしく「行くよ」とこちらに呟く。それを合図に二人で抽選器のハンドルを握り、回した!

 

 その結果は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとっ! おめでとうございまぁぁぁす!!特賞『温泉旅行券』、出ましたぁ~~~~!!」

 

 

 

 

 

温泉旅行券』を獲得した

 

 

 

 

 

「……すごい、本当に当たっちゃうなんて」

 

「そう、だな」

 

 まさか特賞が当たるとは思わず、二人して気の抜けた様子を見せていたが、実際の景品である温泉旅行券を受け取ったゾンネはおお、と感嘆の声を溢しながら眺めていた。

 

「貰ったはいいけど、どうしよう……これ、ペアチケットなんだよね?」

 

「クルーシャルテイクと行ったらどうだ?」

 

 ゾンネが一緒に旅行に行く相手としてすぐに思い付いたのは、彼女と仲の良いルームメイト。だが、ゾンネは意外にもその言葉に首肯しなかった。

 

「スイーツバイキングとかならすぐにテイクを誘ったと思うけど、温泉はね。それに、予定も合うかどうか分からないし」

 

 確かにクルーシャルテイクは別のチームで、日帰りのお出かけであればともかく、1泊以上する旅行の時間が取れるかどうかというと微妙なところだろうか。

 

「そういうことなら、俺が預かっておこうか?見る限り使用期限はかなり先のようだし、行きたい相手が決まるまでな」

 

「……分かった、じゃあそういうことでお願いね」

 

 そうしてしばらく『温泉旅行券』は自分が預かることになり、トレセン学園へと戻っていった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 新しい年になってからしばらくして、オレはトレーニング用品を補充するためにトレーナーと近くの商店街に来た。

 

「えーと……ウェイトはどのくらいにした方がいいのかな?」

 

「そうだな、ゾンネのトレーニングの負荷を考えると10kgの重りをこのくらい……」

 

 普段は何気なく使ってたけど、いざ改めて見ると中々ゴツいなこのウェイト。これを何個も付けて負荷トレーニングもこなせてしまうのだから、ウマ娘のパワーはすごいなと自分のことながら染々と思う。

 

「大福……祭……催……よ……!」

 

 そうしてトレーナーと備品を買うため店を巡っている間に、ふと遠くから聞こえた声が気になる。振り返ると自分達のかなり後方、商店街の中央付近に人が集まっていて、それを見てオレは鮮明に前世の記憶を思い出した。

 

(……そうか、温泉旅行券)

 

 温泉旅行が当たる*2新春の福引。もちろん旅行券は特賞で滅多に当たるものではなく、大体は3等の体力回復20だけだったりするが。

 

「……どうかしたのか?ゾンネ」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 トレーナーに声をかけられて、ハッとして向き直って返事をする。それにしても温泉旅行、か。正直に言うとちょっと興味はある。一緒に行く相手は、やっぱり……。

 

「そうか、そろそろ学園に戻ろうと思ってるんだが、ゾンネは他に買うものはあるか?」

 

 福引に行ってみたいなと思っていたところでそろそろ帰るかと言われてしまい、内心少し焦りながら言葉を返した。

 

「あのさ、トレーナー……わたし文房具とか新しいの買おうと思ってるんだけど、付き合ってもらっていいかな?」

 

「もちろん」

 

「あと、さっきのお店のレシート貸してくれる?後で返すから」

 

 オレがそう言うと、こんなものを一体何に使うのかと言いたげに首を傾げながらも、トレーナーはレシートを手渡した。

 商店街の各所にある福引祭りのポスターによると、複数店舗で一定金額の買い物をした客に福引券を配布しているらしいので、どうしてもレシートの証明がいるのだ。

 

 

 

 

 文具店で筆記具とアンティーク鉛筆削りを買って条件金額を満たし、店主に他店でのレシートも見せて無事に福引券を手に入れた。そうしていざ、福引をやっている商店街中央付近に歩いて向かう。

 

「この辺りで何かあるのか?」

 

「まあね。見れば分かるよ」

 

 集団のざわざわという雑踏と威勢のいい声、そして鐘の音で目的の場所に近づいていることを感じ取り、そして。

 

「さあさ、新春・大福引祭り開催中だよ~!特賞はなんと『温泉旅行券』!」

 

「1等は『特上にんじんハンバーグ』、2等は『にんじん山盛り』、3等は『にんじん1本』!」

 

「さあさ、楽しい楽しい福引だよ!どなたでもどうぞ~!」

 

 スーツのジャケットの代わりに法被を着て鉢巻をした、短髪のおじさんが座る席と机、抽選器のある簡易のステージ。そこに老若男女十何人かが集まっていて、これぞ商店街の福引会場という雰囲気だった。

 

「あれがしたいのか?」

 

「うん、まあ……特賞が当たったらすごいなと思って。これ、福引券だから……やって来てくれる?」

 

 ここまで来ておいてなんなのだが、実は言うとオレはあまり運が良い方ではない。こういう抽選とかは大体ギリギリ外れじゃない程度の当たりで終わりだったから、トレーナーに任せようとしたのだが。

 

「ゾンネがやらなくていいのか?」

 

「わたし、あんまり運が良い方じゃないし……」

 

「物は試しだと思うぞ。それに不安なら、俺が一緒に回そうか?」

 

 確かにそういう風にやるという例も無いわけではないのだろうけど、二人で一緒に回すとか……なんか仲良しアピールしてるみたいでかなり恥ずかしいのだが。それでも、嫌か嫌じゃないかで言えば。

 

「あ、あんたと……!?い、嫌じゃ……ないけど……」

 

 不思議と、そう思う。オレは抽選器のハンドルを握り、トレーナーも上の方を持ったのを確認して。

 

「行くよ……せー、のっ」

 

 しっかりと一回転させ、抽選玉を出す。その結果は、というと。

 

「なんとっ! おめでとうございまぁぁぁす!!特賞『温泉旅行券』、出ましたぁ~~~~!!」

 

 おじさんが声を張り上げながらハンドベルを鳴らし、周囲の人々も拍手しながら歓声を上げる。

 

「……すごい、本当に当たっちゃうなんて」

 

「そう、だな」

 

「さぁさ、豪運なお嬢ちゃんたち!これが景品の温泉旅行ペアチケットだよ!ぜひ楽しんできてくれ!!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 商店街の人から窓付き封筒に入った旅行券を手渡されて受け取り、本当に特賞を当てたんだとそれを感慨深げに眺める。

 

「貰ったはいいけど、どうしよう……これ、ペアチケットなんだよね?」

 

「クルーシャルテイクと行ったらどうだ?」

 

 テイクと、か……確かに彼女はオレとの温泉旅行も楽しんでくれそうだけど。

 

「スイーツバイキングとかならすぐにテイクを誘ったと思うけど、温泉はね。それに、予定も合うかどうか分からないし」

 

 スイーツとかならトレーナーもさほど興味もないだろうし、すぐにテイクと行くのに使ったと思うが……やっぱり、温泉に行くなら。

 

「そういうことなら、俺が預かっておこうか?見る限り使用期限はかなり先のようだし、行きたい相手が決まるまでな」

 

「……分かった、じゃあそういうことでお願いね」

 

(行きたい相手なんて、もう既に一人に決めてるのに)

 

 オレはその相手に聞こえない声で小さく呟いて、トレセン学園への帰途に就いた。

 

*1
背面が鉛筆削りになっている

*2
かもしれない

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