3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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ファンとの交流

 3月に入り、オレはファン交流会に参加するために阪神レース場に来ていた。阪神で走るのは去年の桜花賞以来なので、大阪杯に備えて参加しておこうというトレーナーの提案に乗った形だ。

 

 

〈さあゴール前最後の攻防!オートクラートが突っ込んでくる!しかしインデアゾンネ、譲りません!今ゴールしました、インデアゾンネが半バ身抜けて勝利!!〉

 

 

 交流会最初のプログラムは、阪神レース場でGⅠ勝利の経験がある現役ウマ娘によるエキシビションレース。芝1800mで行われ、オレはいつも通りの先行策で年上のウマ娘たちの猛追を凌いで勝ち上がった。

 

「インデアゾンネー!君が勝つと思ってたぞー!」

 

「さすがトリプルティアラ!」

 

 そうファンたちがオレを称える声が聞こえてきて、気恥ずかしさを覚えるが、勝者として皆に応えないといけない。

 

「インデアゾンネ、おめでとう!」

 

「大阪杯も期待してるよ!」

 

「はい、皆さんありがとうございます」

 

 フェンスを潜って観客席の側まで行き、サインを求めるファンに応対する。ひっきりなしに差し出される色紙とマジックペンに驚きつつも、笑顔でのサービスを心掛ける。大体落ち着いたところで、観客席沿いをゆったりと手を振りながら地下バ道に戻った。

 

「改めて見ると、すごい人気だな」

 

「そうだね、こんなに応援してもらえるのは素直に嬉しいよ」

 

 これがトリプルティアラウマ娘だからなのか、それともオレがファンサービスに真面目に取り組んできたからなのかは分からないが……とにかく、努力が評価されているようなら何よりだ。

 

「さて、次はミニライブだな」

 

「まず『彩 Phantasia』からだよね」

 

 エキシビションレースで1着になったトリプルティアラウマ娘の『彩 Phantasia』、ともなれば観客も期待するだろう。もちろんそれ以外の曲も手を抜くことはないけど、しっかり想いを込めて歌わないと。

 

 

 

 

 無事にミニライブも終了し、少し休憩時間を挟んでから後半のプログラムへと移る。

 

「毎レース見てます!インデアゾンネさんの走りはとっても綺麗で、気付けば自然と推したくなってました!」

 

「はい、いつも応援していただいてありがとうございます」

 

 特設ブースで、先ほどエキシビションレースに参加したウマ娘たちと共にサイン会を行う。ファンたちはどういう対応をしてもらうのが嬉しいだろうか、と考えて……やっぱりにこやかに丁寧に、がいいはずだ。

 

「あ、あの……インデアゾンネ、さん……サイン、お願いします」

 

「えーと……もしかして、伊藤くん……ですか?」

 

 サイン会に来たファンの一人に、小学校の時の同級生がいることに気づいた。オレよりだいぶ身長も伸びて、すっかり雰囲気が変わっていたが。

 

「……!ああ、インデアゾンネがトゥインクル・シリーズで走ってるらしいって聞いて、それでレースを見て、走りに夢中になったんだ……んです」

 

「ふふ、ありがとうございます。これからも応援してくれると嬉しいです」

 

 そうして色紙にサインを書き終え、名残惜しそうに去っていく彼の背中に手を振って見送る。

 

「……ゾンネ、知り合いか?」

 

「うん、小学校の同級生。もう何年も経つけど覚えてるもんだね」

 

 途中の小休憩、トレーナーにそう聞かれたので答える。ただもう、ドッジボールで一緒になったとか断片的なことしか覚えてないが。

 

「……?」

 

「どうかしたのか」

 

「いや、ちょっと視線を感じたんだけど……気のせいかな」

 

 いやまあ、サイン会用のブースにいるのは変わらないので周囲には人もいるけど……その中でも特にオレたちに注目していたような。まあ、考えすぎだとは思うが。

 

「さてと、交流会もあとちょっとだし頑張らないとね」

 

 そしてサイン会の続き、オレは改めて気を引き締めて臨んだ。後日に聞いたところによると、交流会は好評だったようで、ファンの期待に適うことができたらしいと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 阪神でのファン交流会からしばらく経った頃。トレーナー室でいつも通り打ち合わせをしていたら、トレーナーがデスクの近くに置いてあった段ボール箱をオレの前まで持ってきた。

 

「何の箱?」

 

「ゾンネ宛に郵送されたファンレターだ。一応、何か変なものが入ってないか確認は済ませてある」

 

 そんな大袈裟な……と思ったけど、古典的な話だがカミソリレターなんてものもあるしな。オレはそんなのを送られるほど恨みは買ってない、と信じたいが。

 

「読んでも大丈夫?」

 

「ああ」

 

 早速、左手前の隅にあるピンク地にリボンの意匠が施してある可愛らしい封筒を開けてみる。どうやら、オレより少し年下の女の子かららしい。

 

『インデアゾンネさんの走っている姿はとてもきれいで、かがやいてるみたいで、そして力強くて……阪神ジュベナイルフィリーズで見た時から、ずっととりこです!もっと活躍するところを期待してます!』

 

「……ふふ、褒められるとなんだか照れ臭いね」

 

「俺からの言葉もか?」

 

 トレーナーが叩いた軽口にあんたは褒め言葉を安売りしすぎ、と返して次は何だか高級そうな便箋の手紙を手に取る。

 

『インデアゾンネ様、トリプルティアラのレースにおける素晴らしきお姿を拝見いたしまして……是非とも、エリザベス女王杯にて優勝なさるところを目に焼き付けたいと思いました。貴女こそ、その麗しい杯に相応しきお方です』

 

「すごい期待されてる……」

 

「重圧か?」

 

 確かに、プレッシャーを一切感じないと言えば嘘になる。ただ、それでもオレは。

 

「その想いに応えたいって思うし、応援されていることはわたしの力になってくれてるよ」

 

「そうか……やっぱり、ゾンネは強いな」

 

 何せ、オレはトリプルティアラウマ娘なのだから。それだけの称号を手にしたら、さすがに自信を付けざるを得ないというか、いつまでもウジウジなんてしていられない。

 

 ファンの期待を背に、改めてトレーニングとかを頑張ろうと気を引き締める。もちろん、無理はしない範囲で。*1

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 3月も中旬になり、すぐそこまで迫る大阪杯の本番を意識する。オレはもう何度目になるか分からないハチサの面々との合同トレーニングに励んでいた。

 

「あれ……あそこになんか集団が」

 

 コースを走っていたら、制服姿なのでトレーニングしに来たわけでもなさそうな、数人のウマ娘たちが固まって誰か応援をしているらしい様子が見えた。

 

「トレーナー、あの子たちどうしたの?」

 

「あれか?ゾンネとチームハチサのファンらしい」

 

 そう言われて目を凝らすと、彼女たちが振っている推し活うちわにはオレやテイクの名前が入っているようだった。

 

「ハチサはまあ箱推し?みたいなファンがいるのは分かるけど、なんでわたしまで?」

 

「ゾンネちゃん、アタシたちと結構一緒におるけんやろうね。それにテイクちゃんとのコンビ推しで、その流れでハチサもって人いっぱいおるみたいよ」

 

 ダートコースのランニングから戻ってきたプルーヌスムーメの説明。まあ、ハチサの人たちとは仲良くさせてもらってるし、ファンがそれでいいなら別に気にしないが。

 

「ゾンネちゃんもハチサだったらもっと一緒にトレーニングできたのに、って時々思うのですよ」

 

「今の状態でも結構併走とかしてると思うけど、それ以上にわたしと走りたいって思ってるの?」

 

 坂路トレーニングを終えて小休憩中のテイクが言った言葉にオレがそう返すと、彼女は頷きながら返事して続ける。

 

「もちろん、ルームメイトや友達、ライバルという立場もありますが……あたしは、ゾンネちゃんのファンの一人ですから!レースでも、ライブでも、ゾンネちゃんのパフォーマンスは凄くて憧れなのですよ」

 

「そうだったんだ……」

 

 テイクだって充分すごいと思うが……そう言おうとしたところで、ハチサのトレーナーがやって来た。

 

「憧れを持つことが悪いことだとは思わないけれど、それよりもっと先、追い越すくらいの気持ちでいなくては駄目よ」

 

「むぅ、トレーナーさん……それはもちろん分かってるのですよ。でも、ゾンネちゃんは追い付いたと思ったらまた先に行っちゃうのです」

 

「それは、わたしも最初とは違って背負うものが増えてきたからね。皆の期待に恥じない姿を見せたいから、そのために努力しないと」

 

 そう、オレはもう一人だけで走っているわけじゃない。ファンの皆や、チームハチサをはじめとした周囲の人々、家族も応援してくれているし、それに何より。

 

「トレーナーが、わたしの輝く姿をもっと見たいって言うから……」

 

「俺がどうかしたのか?」

 

「な、何でもない!」

 

 小さく呟いた一言だったのに、こいつと来たら聞いてやがった。それでも全部を聞いたわけではなかったのか聞き返してきたが、うるさい知らないと突っぱねておく。

 

「やっぱりずっと前から思ってましたけど、ゾンネちゃんとトレーナーさんはお似合いなのです」

 

「ねー、アタシもそう思っとうっちゃん」

 

「もう、いいから次のトレーニングやるよ!」

 

 そうしてテイクたちを引き連れて体育館に向かおうとして、後ろから微かに聞こえてきた、トレーナーの言葉。

 

「……俺も、ずっと昔から君のファンだ」

 

 風に掻き消されて内容は掴めなかったが、一体なんと言っていたんだろうか。

 

*1
やる気が上がった

スキルPtが30上がった




伊藤くんは最初の話で出てきたあの伊藤くんです。そんなの覚えてない?まあ、覚えてなくても別に問題はないですが。
ちなみに伊藤くん、自分にはあくまでファンに向けての丁寧な対応だったゾンネが、トレーナーとは親しげに話す様子を見て見事に脳破壊されました。そして必ず将来はトレセンのトレーナーになってやると志したとかなんとか。
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