3つの光跡、3つのティアラ   作:サンタクララ

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インデアゾンネ登場!

「──『ウマ娘』。その存在は、走るために生まれてきたと言っても過言ではないほど、走ることに特化している」

 

「時に数奇で、時に輝かしい歴史を持つ、別世界の名前と魂を受け継いだ神秘的な存在」

 

「この世界に生きる彼女たちの運命は、未来は──まだ、誰にも分からない」

 

 

「わたしも、ウマ娘として……そんな輝かしい存在になりたい」

 

 

 

 

 

 

 今日からインデアゾンネトゥインクル・シリーズに挑戦する日々が始まる。

 

「トレーナー」

 

「来たな、インデアゾンネ。時間は無駄にできない、すぐにでもトレーニングに取りかかろうか」

 

 インデアゾンネはこの世界ではない別世界で過ごした前世の記憶を持つという不思議なウマ娘だ。それ故か他のウマ娘と走ることに消極的だったが、ティアラ路線を駆け抜けるという目標を手にして共に駆けていくことになった。ただ……。

 

「……今さらできるトレーナー感出しても無駄だからね?」

 

 ファーストコンタクトがあまりよろしくなかったせいだろうか、こちらに対する態度は中々手厳しい。それについては自業自得なのでこれから信頼関係を築くことにして、まずは。

 

「こういうのは雰囲気が大事なんだ。さて、今日からのトレーニングメニューはこんな感じで行こうと思う。確認してくれるか」

 

 彼女の能力に合わせて細かく調整したメニューを記したレジュメを、挟んでいるクリップボードごと手渡す。

 インデアゾンネの適性は見る限りマイル~中距離のようだが、幸い目指しているティアラ路線とも合致している。というわけでトレーニングも相応の内容で組み、能力の高い彼女向けに負荷は少し強めにしてある。

 

「なるほどね。特に異論はないよ」

 

「それじゃあ、まずは走り込みからスタートだ」

 

 どこかシニカルなところのあるインデアゾンネだが、トレーニングに対する態度は真剣そのものだ。そしてちょうど本格化を迎えたばかりのその走りは、ジュニア級ながら既に女王の風格を予期させるほど気迫を纏っている。

 ツインテールと尻尾を午後の涼風に棚引かせて芝の上を駆けていく姿は、デビュー前にも関わらず重賞クラスのウマ娘にも劣らないだろうとさえ思える。

 

「はっ、はぁっ……!ふっ、はっ……!」

 

「お疲れ様ですー!」

 

 次で終わりというところで観客席からインデアゾンネを呼んでいるらしい声が聞こえて、見るとそこではお下げ髪で制服のウマ娘が手を振っていた。そして彼女は降りてきて、インデアゾンネの元に駆け寄る。

 

「トレーニングはどうですか?」

 

「あと1周走り込みしたら今日は終わりだよ」

 

 話している様子から、おそらく知り合いのようだ。気になったので二人の方へと歩いて話し掛ける。

 

「インデアゾンネの友達か?」

 

「はい、寮で同室のクルーシャルテイクなのです。あなたがゾンネちゃんのトレーナーさんですか?」

 

「ああ、よろしく」

 

 どうやら彼女は寮での同室らしい。インデアゾンネにもこんな風に話せる相手がいるのかと安心したところで、クルーシャルテイクがこちらをマジマジと見て、それから。

 

「変な人って聞いてましたけど、意外と普通な感じじゃないですか?」

 

「テイクは今会ったばかりだからそんなこと言えるんだよ。こいつ本当にデリカシーないんだから」

 

 そうなのですか?とキョトンとした視線を向けるクルーシャルテイクに、ただ苦笑いするしかなかった。今までにやってきたことでインデアゾンネからの印象がよろしくないだろうことは事実なわけで。

 

「……まあ、とにかく。ラスト1周だからわたし行ってくるね」

 

「はい、いってらっしゃいなのです」

 

 ラスト1周に向かい暗くなる空に姿を消した担当を見送って、クルーシャルテイクから問いかけられる。

 

「トレーナーさんから見て、ゾンネちゃんってどうですか?」

 

「ああ、きっと強くなれるよ」

 

 彼女ならGⅠレースでも活躍できるだろうことは、自信を持って言える。ただ、クルーシャルテイクが聞きたかったのはそういうことではないらしい。

 

「ふふ、あたしもゾンネちゃんは強いんだろうなって思ってるのです。それで、ゾンネちゃん個人のことはどう思いますか?」

 

「どう、か……色々と不思議な子だとは思う」

 

 前世の記憶があるらしい、ということは本人との約束なので言わないが……変わったウマ娘ではあるだろう。そう答えると、クルーシャルテイクは。

 

「じゃあこれからもっとゾンネちゃんのことを知ってあげて、不思議じゃなくしてください」

 

「……ああ、そうだな」

 

 インデアゾンネのことをもっと知る、か。知りたいと思っても彼女が話してくれるとは限らないが。ただその事は飲み込んで、今度はこちらからクルーシャルテイクに話し掛ける。

 

「ところで、今日はもう終わりだけど……機会があれば、インデアゾンネと併走に付き合ってもらってもいいか?」

 

 何となく、彼女との併走はインデアゾンネにとって刺激になるのではないかと思っての提案だが、クルーシャルテイクは快く受けた。

 

「はい、あたしもゾンネちゃんと一回本気の併走をしてみたいのですよ。今度よろしくお願いします」

 

 そこまで言ったところで、本人が1周を終えて戻ってきた。

 

「……トレーナー、テイクに変なこと吹き込んでないだろうね?」

 

「ハハ、まさか」

 

 併走のことはその時が来るまで内緒にしておくことにしよう。その方が面白いだろうから。

 

 ……ともあれ、こうしてインデアゾンネと共にトゥインクル・シリーズに挑戦する日々が始まったのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 インデアゾンネとトレーニングを本格的に初めてから半月ほどが経つ。後から知ったことだが、彼女の母親は現役時代に重賞2勝をあげた一線級のウマ娘で、インデアゾンネもまたそれに見劣りしない優れた素質を持っている。

 それに加えて、トレーニングに対する意欲もあり指示も真面目に聞いてくれるし、成績もトップクラスでこそないが赤点の心配がない程度には上手くやっているらしい。

 

 能力があってもトレーナーの指示を聞かなかったり、補習に追われてトレーニングに支障が出るようなウマ娘も少なくない*1が、その点インデアゾンネはとても優秀と言えるだろう。新人である自分には勿体ないかもしれないほどだ。

 

「トレーナー、次のメニューは?ダート?」

 

「ああ、それと……」

 

 そう言いかけると彼女は首を傾げ、それから早く言えよと言いたげにジトっとした目でこちらを見つめる。

 

「メイクデビューの日程が決まった。7月の……」

 

 そう言って右手に持っていたタブレットを見せた。そこには7月末、札幌レース場で行われるメイクデビューの出走予定が出ている。

 

「ふぅん……いよいよわたしのトゥインクル・シリーズが始まるわけね」

 

「そういうことだ。まずはメイクデビューに向けてトレーニングに力を入れていこうか」

 

「もちろん、そのつもりだよ」

 

 彼女は頷きながらそう言って、ダートコースへと駆けていった。それを見送ったら携帯電話を取り出し、ある人物へと連絡する。

 

 

 

 

「はっ、はぁっ、っと……!」

 

 ダートコースのランニングから戻ってきた担当ウマ娘にスポーツドリンクを渡し、それから木陰に待機させていたウマ娘を手招きする。自分のそんな様子を不思議そうに、あるいは疑わしそうに眺めるインデアゾンネだが。

 

「……?え、テイク……!?」

 

「はい、来ちゃったのです!」

 

 そこに現れたのはジャージ姿で走る準備は万端、といった状態のクルーシャルテイク。彼女は少し前からチームに所属しトレーナーの指導が始まっているとのことだが、今回は先方と取り合い、トレーニング初日に約束した通りに併走をするというわけだ。

 

「クルーシャルテイクもトゥインクル・シリーズに向けてトレーニングを重ねていて、デビューも近いだろう。デビューしたらライバルになるかもしれないし、インデアゾンネの併走相手として最適と判断したんだ」

 

「はあ、なるほどねえ……まあ別にいいけどさ」

 

 一瞬やりやがったなと言わんばかりの抗議の視線が飛んできたが、知らないふりをする。彼女はそれ以上は何も言わず併走の準備に取りかかった。

 

「せっかく併走するわけだし、レースを見据えたものにしようか。バ場は芝として……距離の希望はあるか?」

 

「わたしはマイルから中距離ならなんでもいいよ。テイクは?」

 

「じゃあ、2000mでお願いしてもいいですか?」

 

 芝2000m……インデアゾンネたちが目指すであろうトリプルティアラの最終戦・秋華賞や古くから権威のある皐月賞、それに天皇賞秋の行われる距離だ。併走の距離選択としては妥当だろう。

 

「……さて、2000mのスタートはここだな。では……スタート!」

 

「──ふっ……!」

 

 二人のウマ娘がスタートを切る。好スタートで前に出たインデアゾンネ、その後方に付けるクルーシャルテイク。インデアゾンネが先行型なのはこれまでのトレーニングで知っているが、クルーシャルテイクは差し~追込の後方タイプのようだ。果たしてどちらがゴール板を駆け抜けるのか、芝の上を気持ちよく駆ける二人を見守る。

 

「はあっ、あぁっ!!」

 

「くっ、はあぁぁっっ!!」

 

 同室同士でそれなりに仲の良いように見える*2二人だが、レースでは手を緩めることなく全力で争う。そして、先行でハナを譲らず粘るインデアゾンネに、必死に追いすがるクルーシャルテイク。ゴール板までその追い比べは続いたが、先にたどり着いたのはというと。

 

「ふぅっ、危なかった……!」

 

「はぁっ、はは……負けて、しまったのです……!」

 

 一度はクルーシャルテイクが先頭を奪ったものの、すぐにインデアゾンネが差し返して伸び、そのまま1バ身差ほどで勝利。

 

「やっぱり、ゾンネちゃんは強いのです……!」

 

「ああ、もし模擬レースに出てたら引っ張りだこで俺が契約できたかも分からないな」

 

「トレーナー、また適当なこと言ってんの……」

 

 決して適当ではなく、割と本気で思ったことなのだが……まあ言わぬが花だろう。その後もしばらくクルーシャルテイクにコース周回に付き合ってもらったりして、彼女がチームに戻ると共に、少し早めに今日のトレーニングを解散とした。

 

*1
トレーニング内容を一方的に制限されることもある。どのウマ娘のことかはあえて言わない

*2
少なくともこちらからは




初のトレーナー視点です。それにしてもこのトレーナー、育成開始の時点で既にインデアゾンネにかなり脳を焼かれている節がありますね……。
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