莉奈ちゃんはデスゲームでネナベ英雄ロールプレイをやっていたとバレたくない   作:ハナハナ

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2 『目覚めの剣』

 

 

デスゲーム開始から一年目。『アナザーワールド』の片隅の酒場で、僕は机に突っ伏していた。

 

「ほんと、まっずいねぇ……」

 

意味のない独り言を呟いて頭を抱える。ああ、今はそんなことを言いたくもなる程の状況なのだ。

 

「大陸中央での魔物の暴走による序盤の安全地帯の消滅、そしてそれに伴う低レベルプレイヤーの壊滅と中堅プレイヤーへの大打撃。それによる一部上位陣プレイヤーの離脱……」

 

ああまったく、考えるだけで頭が痛くなるような案件だらけ。

なによりも、この状況のせいでプレイヤーが纏まる可能性がなくなってしまったというのが特に痛い。

 

──この世界、『アナザーワールドオンライン』はゲームであるはずなのにまるで本物の異世界のようなリアルさのVRMMOである。

 

現実世界と変わらない広さに、現実世界と変わらないレベルの作り込み。NPCも人間と変わらずに文明を築いていて、大陸の中心から外に向けてモンスターが徐々に強くなっていくなど、ゲーム的な都合の設定にも全部理由が作られている。

 

そして、なまじこの世界がリアルすぎるが故に諦めてこの世界で生きることを選ぶ者や、自身の権力を高めることを考えて他のプレイヤーの足を引っ張るものなどゲーム攻略を諦めるものが多く、プレイヤー達が纏まれない。

 

そこで起こったのが大陸中央……始まりの街を中心とした魔物の暴走。これのせいで、他者のためにクリアを進めていた派閥が纏めて抜けてしまった。

これではプレイヤーが纏まることは不可能。ならばどうすれば……。そんなことを考えながら、グビリと酒を飲み干して……。

 

「──ならいっそ、纏めなくても良いんじゃないか?」

 

そして、天啓のごとく閃きが走る。

 

このゲームにはレベル上限というものがなく、文字通り一騎当千の英雄も存在しうる、現実よりも個の強さが大きい世界だ。

 

ならば最上位陣のみでパーティを組み、最高率で強くなり続けることで力で全ての無理を通せるぐらいになってしまえばいいのではないか。

 

「なにより、ソッチのほうが性に合う」

 

僕は剣士だ。現実でも、この世界でも、剣を極めるために生きていたいと願っている。

 

古流剣術道場の師範の子として生まれ、25にして父を超えて師範となった、剣が大好きな一人の男。

異世界で剣が振れると弟子に勧められて、大金をはたいてゲームを始めた剣を極めようとする時代錯誤の愚か者。

 

『剣』──それが僕のこの世界の名前なのだ。ならば名前の通り、剣の力でこの窮地をくぐり抜けてやろうではないか──!

 

 

 

 

 

「そういうわけで、少数精鋭の味方を集めたいんだよね。君なら合格、だからうちのパーティ、命名『目覚めの剣』に入ってゲームをクリアしないかい?──『黒騎士』くん?」

「……正気ですか師匠。そのような世迷い言、私に持ちかけないでいただきたいのですが」

 

そういうわけで、このゲームでの一番弟子の『黒騎士』くんに話を持ちかけてみたのはいいものの……めちゃくちゃ殺気を込めて睨まれてやんの。

 

しっかし、また随分と精神の均衡を崩しているようで。その精神の不安定さが見ていられなくて弟子にして落ち着かせるつもりだったんだけど……うん、無理だったわ。

 

なんというか、仮面を被っているというか、無理をしているというか……。一回感情を表に引き出せなきゃいけない気がするんだけど、それが師匠って上の立場からじゃあどうにもならなかったんだよね、これが。

 

でも、このまま放っておけば潰れるだろうしなぁ……よし!

 

「良いですか、私はこれでも数百人規模のギルドの副ギルドマスターをやっているんです。なので──」

「師匠命令」

「……は?」

「弟子にする際、なんでも言うことを聞くって約束をしたでしょ?──師匠命令、僕について来い。そしたらゲームをクリアさせてやるよ」

「…………………──っ──……仲間を、捨てていけと?」

「いいや。仲間のためにも、このゲームをクリアしにいくんだよ」

 

その言葉を聞いて、『黒騎士』は十秒ほど目を瞑る。そして、こちらに呆れた顔を向けて……。

 

「……はぁ、わかりました。約束通りついていきますよ。まったく、私をこんな泥舟に引き込んで。あなたはいつも……」

 

そして、僕の悪口をつぶやきながらも『黒騎士』は少しだけ笑みを見せる。……この馬鹿弟子め。

 

「うひっ……師匠!!」

「男がケツ叩かれたぐらいでごちゃごちゃ言ってんじゃあないよ。……ほら、いくぜ?」

「……まったく……」

 

 

 

 


 

 

『モフモフ大正義』と『フリーク』

 

 

私、『モフモフ大正義』と『フリーク』はこのゲームでも最高の後衛コンビである。

 

『フリーク』は聖女とも呼ばれるほどの回復上手で、彼女の回復を受ける前衛は即死しない限りは死ぬことはない。私、『モフモフ大正義』の魔法はプレイヤーの中で最も高い威力を叩き出す。

きっと、プレイヤーの中で私達以上の後衛は居ないだろう。

 

だがしかし、私達の本領を発揮するのなら、即死をせずに後衛を守り続け、魔法を使う時間を稼いでくれる前衛が必要なのだ。

 

だから、腕の利く前衛が居て後衛に不足していると聞いた『目覚めの剣』の活動拠点の場所まで行って売り込みに行く。

……その判断自体は、間違っていなかったが。

 

「……ごめんっ……!私、護衛選びを間違えた……!」

「気にしないでクダサい!あいつら、ケンシの風上にも置けない奴らデス。セップクをさせてからカイシャクしてやりますよ!」

 

しかし、結果的にはこう。私達は到着寸前で待ち構えたように襲われて、『目覚めの剣』に加入するまでのつなぎとして雇った護衛達は命を張らずに散り散りに逃走して。そうして私達は後衛二人で走って逃げる羽目になったのだ。

 

『フリーク』はいつも通りの日本かぶれ口調で私は悪くないと言ってくれるが……違う。私はいつも、こういう選択を致命的に間違えてばかりなのだ。

入社する会社を間違えてブラック企業で体を壊し、付き合う男を間違えてお金を持ち逃げされ、心を癒すために遊んだゲームがデスゲームだった。

 

私は致命的に馬鹿で、人を見る目がなくて、運が悪くて。そのせいで私は、友人を巻き込んでここで死……。

 

「……死んでたまるかぁっ!私はこのデスゲームが終わったらあのブラック企業を辞めてデスゲーム系配信者を始めるんだ……!ここで一発逆転じゃい!」

「……!おお。ふらぐ、ジャパニーズふらぐデスヨこれ!」

「うるさいっ!こんなフラグなんてへし折って……」

 

【──人間──殺す──魔王様に──捧げる】

 

「……くそうっ……」

 

そうして気合を入れたところで、後ろから私達を敗走させた原因の嫌~な声が聞こえた。

 

それは、ある一件を境に正体を現したこのゲームのラスボス……魔王の眷属、魔族。この世界のあちこちを飛び回り、プレイヤーを片っ端から殺して回っている死神。

後衛二人では、どうにもならない相手。

 

【お前たち──美味そう──魔王様──喜ぶっ!】

「……ごめん……『フリーク』」

「何度も言いますが、気にしなくていいんデスよ。『モフモフ』」

「……そっか……」

【さあ──死ね──】

 

……ああ、結局私の選択は全て間違えだった。こんな良い子と友達になれてしまったから、巻き込んで殺してしまう。

私は魔族が飛びかかって来るのを前に、『フリーク』の手を握り目を閉じて……。

 

「お前が死ね──」

【ぐああっっ!?】

 

魔族の悲鳴を聞いて、ハッと目を開ける。

そこには四肢の落ちた魔族と剣一本を携え着流しを着た剣士……『剣』が魔族の四肢を刈り取ったのだ。

救援、助けが来た。私達はあっけにとられ、剣士はふう、と息を整えて。

 

【人間──ごときが──!】

「っ──危ないっ!」

 

瞬時、四肢を再生された魔族が剣士を片腕を瞬時に再生させた魔族が剣士の命を奪おうと迫る──!

 

「させませんよ。師匠は私が護ります」

「いやぁ、助かるね」

【馬鹿な──】

 

瞬時の再生による魔族の渾身の一撃。それは、黒い甲冑と盾を持った騎士……『黒騎士』に阻まれる。

 

『剣』と『黒騎士』……『目覚めの剣』。

そうだ、ここは彼らの拠点近く。この魔族に奇襲を受けて逃げた護衛たちが彼らに魔族の襲来を告げてくれたのだろう。

 

……強い。『剣』に『黒騎士』二人とも、最強と呼ばれるのに相応しい力を持っている。

だが先ほどの魔族の再生力。恐らく再生力に特化した魔族。物理攻撃のみの二人では突破は難しい。

……それは……なんて……なんて幸運なんだろう!

 

「……あなたたちは『目覚めの剣』ですね!?救援感謝します!……ですが、恐らくあなたたちだけではあの魔族の再生力は押しきれませんよね!?」

「……ええ。腹立たしいですがそうですね!なので、師匠と私が留めている間に逃げて……」

「……お礼と言ってはなんですが、一分留めてくれるならば、あいつを消し飛ばしてみせます!」

「……!ソ、即死さえしなければ、全部ワタシが治してやりマスヨ!『フリーク』と『モフモフ大正義』の最強後衛コンビの力、見せてやりマス!」

 

そうだ、私達は彼ら『目覚めの剣』に入れてもらうためにここまで来たんだ!ならここでパーティとして良いところを見せまくってやる!

 

「『フリーク』と『モフモフ大正義』……それが本当なら……弟子!ここであの魔族を仕留めきる!」

「わかりましたよ……全て、護り切る!」

「最大火力の力!見せてやるわよ!」

「傷は全て一秒以内に完全治療デス!」

 

【ふざ──けるな──!】

 

そうして私達は並び、即席の、しかし最強のパーティとなる。魔族は強く、強大……だけど何故か欠片も負ける気がしなくて。

 

 

 

 

【バ──カナ──……  】

 

結論から言うと、魔族は何もできずに塵となって消えた。

『フリーク』の回復を受け続ける『黒騎士』を突破することができず、だからといって逃げようにも『剣』の斬撃によって動きを縫い止められて、準備の終わった私の魔法で塵に還った。……つまり、完全勝利である。

 

「完全勝利デスね!『モフモフ』、ワタシ達生き残れたんデスよ!……それに、この活躍なら加入間違いなしです!」

 

そう、そして、この活躍ならば『目覚めの剣』に入ることもできるだろう。まあ当然の結果である。これで私達を守る凄腕の前衛が加入、今までよりもずっと楽ができる。

 

……本当に、それで良いのか?私は選択を間違える。ここで加入を選択したら、今度こそ……。

いいや、今さら引き返せるはずがない。加入するしか……。

 

「ありがとう。あなたの選択のおかげで私達は助かった」

「……え?」

「あの魔族は私達『目覚めの剣』を狙っていた。付かず離れずの距離で隙を探していたのだ。あなた達がここに来てくださらなければ、きっと困ったことになっていたでしょう」

「……そ、……っか……」

 

……うん。また選択を間違えた、そう思っていたけれど結果的には正解だった、か。

うん、見る目がないのは変わらない。警戒は怠らず、だけどたまには正解もするんだからネガティブになりすぎないほうがいいよね!

 

 

「……というわけで、私達、最強後衛コンビを!『目覚めの剣』に入れてください!」

「イレテクダサイ!」

 

「……合格!ようこそ『目覚めの剣』に!『黒騎士』!魔族討伐兼、新メンバー加入記念パーティをしよう!」

「あなた達の協力、感謝します。……歓迎しますよ」

 

そうして私達の歓迎パーティーが始まった。

『剣』は……年齢は若いし、見た目だけを見れば好青年なのだが、親父臭い人だ。けれど、なんだかんだで慕われるタイプでもあるとも思う。『黒騎士』にダル絡みをして、塩対応をされつつも嫌われていない様子だしね。

 

『黒騎士』は常に敬語のキザったらしいやつだが、からかわれると案外子供っぽいところが見えて可愛いやつだ。『フリーク』と『剣』に連携して揶揄われて拗ねてしまうところなどはまさにって感じ。

 

そうして宴もたけなわ。その時に『剣』の発した言葉に私は凍りつく。

 

「……それじゃ、魔王討伐のために頑張っていこうか!」

「え?」

 

魔王討伐のために……?このパーティの目標って魔王討伐なの?

そういえば、凄腕の前衛がいて後衛不足って話だけを聞いて何も考えずに来ちゃってたから『目覚めの剣』の実態については知らなかったような……。

……いやこれブラック企業の時の再演じゃん!?私は馬鹿か!?馬鹿だった!!

 

「……あ、あの、魔王討伐って……」

「…………?『目覚めの剣』は少数精鋭での魔王討伐のために作られたパーティだよ。……まさかとは思うが、加入をしに来たのに知らなかったのかい……??」

「そそ、そんなわけ。知ってます、知ってますよ!」

「うん、そうだよね。……それじゃあ分かるよね?……レベルアップのために今日から徹夜で頑張って行こうじゃないか!」

「……師匠がスパルタすぎて後衛がすぐに抜けて困っていたんですよね。そして後衛が居ない分、私が酷使されて……本当、来てもらえて助かりました。歓迎しますよ、ええ」

「っ……は、はーい……」

 

……もしやこれ、加入を選んだのは早計だったのでは……でもここまで歓迎されて今更抜けるなんて言えない……!

 

「『モフモフ』……こんなんだからブラックで体壊すんだゾ……」

 

 

 

 

 

 


 

 

『スミス』

 

 

「ねえ『スミス』くん。生産ギルドが崩壊した今、行くとこないでしょ?……なら、うちのパーティに入らないかい?」

「……ま、良いぜ。あんた達『目覚めの剣』はお得意様だしな。……戦いも苦手じゃないが、なるべく鍛冶をやらせてくれよ?」

「もちろんさ!」

 

 

魔王の襲撃による生産ギルド連合の崩壊後。『剣』に勧誘されて、専属鍛冶師兼、アイテムによるサポーターとして『目覚めの剣』に入る選択をしたのは、今でも正しかったと思っている。

 

『目覚めの剣』は良いところだ。

しがらみなく自由に武器を作れて、たまに戦いについていって武器や爆弾、ポーションなどをボンボン投げれりゃ良いその役職は、俺には天職だ。

 

それに、メンバーもいいやつばかりだ……一人を除いては、だが。

 

『剣』のやつは剣の使い手として最高だ。上手く、大事に使い。武器の本質を理解しており。剣を愛し、その上で固執しない。

『フリーク』と『モフモフ大正義』は騒がしいがいい女だ。

 

だが、『黒騎士』。こいつは……。

 

「おまっ……なんだコレ!?なんだよこのぶっ壊れ方!お前防具を雑に扱い過ぎなんだよ!」

「……防具を身を守るために壊すことのなにが悪いというのですか?」

「お前の無理に防具を付き合わせんなって言ってんだ!無理に全部防ごうとするんじゃなくて仲間が自力で対処できそうな攻撃は通せよ!」

「私は『黒騎士』。全ての攻撃から味方を護る盾です。無理に防いで敗北に繋がるのなら対応を変えますが……そうではないというのに行動を強制されたくはないですね」

「……こんのっ!!」

 

こいつだけは気に食わねえ!俺が『黒騎士』に掴みかかろうとして、『黒騎士』もこちらに拳を構えた瞬間……。

 

「ストップストップ!ケンカは終了!両方とも矛を収めて!ムキになってケンカするのはどちらも子供っぽいぞ……!」

 

「……ちっ……『剣』か。お前が言うならここでは止めてやる。俺は子供じゃねえからな」

「……16は子供だろう」

「じゃあてめえは何歳なんだよ!?えぇ!?」

 

「終了っていってるでしょうが!」

 

『黒騎士』は、とにかく気に食わない奴だ。

敬語でキザったらしい口調。必要がない無理をして防具を使い捨てる戦闘スタイル。普段は大人ぶって上から目線なくせ、全然謝らずにすぐにムキになるガキっぽい性格!

 

……まあ、こちらに問題がないとは言わない。こちらが喧嘩っ早い性格だというのも問題の一つだろう。……だが、気に食わねえもんは気に食わねえ!

 

 

 

 

 

 

 

「今度は盾を壊しやがって……!表にでろ、殴り合いだ!」

「……いいですよ。鍛冶師風情が盾にかなうわけがないという事実を教えてやりましょうか?」

「喧嘩は駄目だってば!」

 

「ふふふっ……!見なさいこの素材を!苦労して手に入れた龍核鉱です!これで装備を作りたいでしょう?……私に頭を下げてお願いをするなら渡してやろう!」

「ぐ、ぐぐぐ!く、クソぉぉぉっ!覚えてろよ!お、お願いします!それを渡してくださいぃ!!」

「……なにやってんデスかね」

 

 

「龍核鉱で作り上げた漆黒の盾、必要だろう!……くくっ、そうだな……俺に言わせたように、頭を下げてお願いができれば渡してやろう!」

「っ…………う、ぐううっ……!覚えていなさい……!お、お願いします!それを渡してください!!」

「こうなるのは目に見えてたでしょ……まったく」

 

 

「いいか、協力するのは今回だけだからな『黒騎士』……!」

「それはこっちのセリフです『スミス』……師匠に予算の問題で却下された全タンク役待望の究極の滑り止めブーツ。それを作るための今回限りの共同戦線……。役に立たなかったら、置いていきますよ」

「私はなんで突きあわされてんのかしら……」

 

 

「……今回は助かったよ。あんたに庇われなきゃあお陀仏だった……ほれ、俺特製のポーションだ」

「気にするな……気にするなと言っているだろう!その妙なポーションを飲ませようとしてくるな!」

「はは。まあまあ、飲んであげてもいいんじゃないかな?」

 

 

 

「へっ……!競争しようぜ『黒騎士』ぃ!先に街に着いたほうが勝ちな!」

「『スミス』っ……!勝手に競争にするな!この、待て!」

「……なんだかんだで仲いいデスよね」

「いわゆる喧嘩友達ってやつ?」

「……『黒騎士』くんにはこういう相手が必要だと思ってたからね。本当、腕も人柄も、最高の鍛冶師を連れてきたと自画自賛したいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わりい、俺はもう無理だ。足が完全にイカれちまった。俺を置いて先にいけ……ってな。一回言ってみたかったんだぜ?これ」

 

深い深い森の中。軍勢の魔族、魔物を操る力を持っている、魔物の大暴走の原因との戦いの最中。

相手の策で俺達二人は分断されて、際限ない魔物の群れと戦い続け……一瞬集中力が途切れた瞬間、俺の片足はベキベキにへし折られちまった。

 

その瞬間に『黒騎士』が俺を背負って離脱して一命は取り留めたが……今も魔物の軍勢は隠れる俺達を包囲して、虱潰しに探し続けている。

このまま俺を庇いながら仲間の救援を待つのは無謀。俺を背負って包囲から逃げ切るのは不可能。……『黒騎士』一人で逃げるなら余裕。

だれでもわかる、選択肢は一つしかなくて……。

 

「……嫌だ」

「……ああ?なんでだよ。他に選択肢はない、オマエもわかってんだろうが、ええ!?

「それでも嫌だ……!わたしは……」

 

ブチッと堪忍袋の緒が切れるのを感じた。こうやってごちゃごちゃとわけのわからん理屈でくっちゃべって、こういうところがムカつくんだよ!

 

「私は『黒騎士』だから置いていけないってか!?ああ!?ずいぶん前に一度、無理に防いで敗北に繋がるのなら対応を変えるって言ってただろうが!『黒騎士』なら、仲間のために動……」

「違う!」

 

「……なに?」

「『黒騎士』なんて知らない!関係ないっ!わ、わたしは友達を見捨てるなんてこと、できない、だけで……!わたしは……っ……わたしは……」 

 

『黒騎士』は……その中の誰かはうずくまり、顔を伏せる。その言葉は、まるで始めて本音で話しているかのようで……。

 

「……ああ、わかったぜ。お前が気に入らなかった本当の理由がな。……お前は、演じているんだ」

「……へ?……な、にを」

「お前は『黒騎士』だからってのを理由に無理してんだ。自分よりも強いイメージを演じて、自分ではどうしようもない負担を受け入れた。……だがな、仮面を被ったところでそれそのものにはなれないんだよ」

「や、め……」

「……なら言ってやる。お前は『黒騎士』じゃねえ!それを演じてるだけのただのガキだ!」

「あ……」

 

『黒騎士』……いや、そうではない『誰か』は、何処か安堵したような表情で涙を流して崩れ落ちる。

戦いが苦手な『誰か』は、きっと今まで無理を積み重ねてきたのだろう。

これで、『黒騎士』は折れた。このまま逃げろと怒鳴りつければ、きっと心折れたまま、逃げ延びるだろう。

 

……それは、気に食わねえ。

 

「それじゃあお前、魔物から俺を守れ!」

 

「……なにを……」

「はっ、ただのガキじゃあ戦えねえってか!?とんだ臆病者め!……ただのガキとして戦ってみろよ!俺を守ってみろ!それができなきゃ笑ってやる!はははっ!臆病者の雑魚が!」

「……うるさい」

 

「何度でも言うぜ、俺を守れ。……友達なんだろ?守らなくちゃな」

「…………」

 

『黒騎士』は目をつぶり、無言で立ち上がる。弱々しかった気配は見る影もなく、そこには最硬の騎士の姿があった。

 

……ああ、やっぱり強い。そうだ、仮面を被ったところでそれそのものにはなれない、弱い奴が英雄の仮面を被ったところで、何も成せずに倒れるのが関の山さ。

……なら、仮面を被ることで英雄を演じられる者は、その中身も英雄になれるんだよ。

 

「……あなたの言う事など、聞く義理はありません。ただのガキとして戦ってみろ?……馬鹿馬鹿しい。私は気に食わない友人の命を守るために戦うだけの、ただの『黒騎士』です!」

「……へっ、そうできゃな。さあて!行くぞ……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………ぷはっ……夢か……っしょっと!」

 

目覚ましの音で意識を覚醒させ、飛び起きる。

『黒騎士』と一緒に魔物の包囲を真っ向からぶち破り、魔王の側近、軍勢の魔王を討伐した過去の夢……。

まったくいい夢を見た、などとご機嫌に朝食の用意をしていると。ふと、そういえば今日はオフ会だったなと思い出す。

 

「……『黒騎士』のやつ、どんな見た目してんのかねぇ……。あの様子じゃあきっとヒョロガリのモヤシだな!!はははっ!」

 

こっちは父に習って現実でも鍛冶をやってる筋金入りだ。差を見せつけてやるぜ!と笑って……。

 

 

 

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