莉奈ちゃんはデスゲームでネナベ英雄ロールプレイをやっていたとバレたくない 作:ハナハナ
「め、『目覚めの剣』でオフ会ぃい!?」
学校帰り、家に帰ってまずスマホを開いた私の目に入ってきたメールに、私は素っ頓狂な声を上げる。
それは『目覚めの剣』そのオフ会の開催の連絡。突如決定したそれは、私にとって寝耳に水の出来事であった。
私達『目覚めの剣』は全員がラスボスとの戦いの直前に現実での連絡先を交換し合っている。
それは絶対に現実に生きて帰るという決意の表明であり、現実でも友でいようという約束でもあった。
そのため、私達はよく通話やメールをよく交わし合っていて、私もメール限定ではあるがみんなとよく連絡を交わしている。
……だがしかし、私達は今だに現実では顔を合わせたことすら無かったのだ。
厳密に言えば、リーダーである『剣』と、配信者を始めた『モフモフ大正義』の二人についてはプレイヤーの代表としてメディアの対応を一身に受けているために顔や現実での素性は知っている。
しかし、それ以外のメンバーについては顔を見たことすら無い。それは、会うのにいい機会がなかったからであり、それぞれが現実に慣れるのに精一杯だったから。
私はそれを都合よく思っていて、けれど他のメンバーは現実でも会いたいと思ってくれていたのだろう。……私も事情を抜きにすればもの凄く会いたいし。
だから、私が学校に行っている短時間の間にオフ会の開催が決定されるようなことになったのだろう。
「……みんなでオフ会、絶対に楽しいよね。それに、他のみんなは参加するのに私だけ参加しないのもなんかもやもやする……。くっ……行きたい、行きたいけど……」
しかし、ここで問題になってくるのが私が黒騎士だとバレてはいけないということだ。なにせオフ会、行けば確実に私のネナベロールプレイがバレる。
なら、行かないことにする?……いや、さすがにそれは無い。みんなの顔を一度は拝みたいし、久しぶりにみんなのあの騒がしさを体験したい。
変装でごまかして行く?……色々と無理があるし声はどうしようもない。仮面にボイチェン、厚着でならどうにかなるが……確実に誰かに引き剥がされて終わりだ。
いっそこれがいい機会だとバラす?…………いやでもそれは……。
「……そうだっ!」
───────────
「く、『黒騎士』の妹の莉奈です、よろしくお願いします。『目覚めの剣』には関係ないのに混じってて申し訳ないです……(バレないでバレないでバレないでバレないでバレないでバレないで)」
必殺、一旦参加すると言っておいて、直前で突然用事ができたので代わりに妹を出席させます作戦!閃いた時は天才かと思ったけど、思ってた数倍は緊張する……!
私はバレないかと心臓をバクバク鳴らし、緊張しながら返答を待つ。果たして……。
「……ちっ、あいつめ。突然ドタキャンしたかと思ったらこんな可愛い妹をパシって緊張させやがってよぉ……。俺は『スミス』だ。宜しくな」
「まったく、クロキシは後で説教デスね!ワタシは『フリーク』、クロキシから聞いてますか?」
「私は『モフモフ大正義』。私達の都合で休日にこんな苦労させてごめんなさいね?」
「……なるほど。……僕は『剣』、宜しく頼むよ」
「……ありがとうございます!」
よっし!受け入れられた!!
ふへ、ふへへへ。途中、いっそはじめから明かしてたほうがよかったんじゃないかって何度か思ったぐらいには緊張したけど、受け入れられたのならこっちのもの。一方的な正体秘匿の状態を思う存分に楽しませてもらおう。
そんなことを考えてホッと一息つきながら、それぞれの見た目を観察する。
『剣』は現実もVRとまったく同じ柔らかい雰囲気の見た目詐欺優男だし、『フリーク』は金髪合法ロリ。『モフモフ大正義』はくたびれたOLのお姉さんって感じで……。『スミス』は……うわぁ、凄いムキムキな日本男子って感じだなぁ……さすがはリアル鍛冶師見習いだ……。
そんなふうにじーっと観察していると、緊張で話しかけられないと思われたのか、『モフモフ大正義』がこちらに寄ってくる。
「莉奈さん。よければ私達とお話しませんか?……あなたの兄がどんな人かとか、教えてくれると嬉しいんだけど……」
「えっと、兄は自分についてはあんまり話すなって言ってまして……代わりに兄がみんなについて話していたかとかなら言えますよ?例えば『モフモフ大正義』さんは、ポンコツだけどなんだかんだで色々と頼りになる姉みたいな相手って言ってました!」
「そ、そっか。ポンコツってのは気に入らないけどまあ悪くない評価ね……」
そうして話している間に、みんなもぞろぞろと私の周りに集まってきて。
「へぇ……?面白い話してんじゃねえか。んじゃ、『黒騎士』のやつの俺への評価も教えてくれよ。……まさか悪口を言ってたりはしねえよな?」
「……ふふ……。えっと、『スミス』さんなら最初は気に食わなかったけど、今では何気ないことで喧嘩をするのが楽しい親友って言ってましたよ」
「親友……へっ!……そうかよ!」
「ワタシはワタシは!?」
「『フリーク』さんは元気な人って言ってましたよ」
「なんか雑じゃないデスかね!?」
「それを見ていると元気になるとも言ってました!」
「……それじゃあ僕は?」
「『剣』さんは恩人で師匠で友人で……不思議な相手。けれどあなたがいなければ今の私はなかった……って言ってました!……逆に皆さんは『黒騎士』の事をどう思ってるんですが?」
「じゃあ俺から……
そうして私達はワイワイと楽しく会話をする。
……このタイミングに真っ向からだと恥ずかしくて素直に言えなかった感情なんかを言ってみよう、なんて考えだったけど。結果的に話が盛り上がったようでよかった。
もしも今突然バレたら恥ずか死んじゃうけど。
「……しかし、『黒騎士』の妹とは思えないぐらいに人当たりいいなぁ」
「そ、そうですか?兄も割と人当たりいいと思ってるんですが」
「ああん?……いやまて、そういや俺以外には割と人当たり良かったなアイツ」
「……ところで我が弟子、続けろと言っておいた盾の訓練は続けているかい?」
「……すみません師匠。家族から隠れてやるタイミングがあまりなくて、ほとんどできてま、せ……ん……って伝えといてってお兄ちゃんが言って……」
やばい完全に失言した!師匠はなんでカマかけてきたんですか!?咄嗟にカバーしたけどみんな私のことガン見してきてるんだけど!
……ええい、ここからでもどうにか言いくるめきって……。
「せいっ!」
「危っ!?なにをっ!?」
瞬間、師匠が私に手刀を繰り出してくる。何事かと思いながらも反射的に弾いて臨戦態勢に……。
……しまった!これ一般人の動きじゃない!!
「…………えっと……私、実は空手を習ってて……」
「その体術を教えたのは僕なんだけどね?その言い訳は墓穴だよ……。……もう観念したほうが良いんじゃないかな──『黒騎士』くん?」
「……はい……」
完全にバレた……。羞恥と焦りと後悔がオーバーフローして、私はスンッとなって正座をする。みんなは私をどう見て……。
「『黒騎士』……?『黒騎士』……コイツが『黒騎士』……?このちっこい女の子が……?確かにさっきの動きは『黒騎士』だったよな……『黒騎士』?コイツが『黒騎士』……?」
「『スミス』!『スミス』!正気に戻るのデス!ワタシも凄くビックリしましたケド!これ以上変になるとなんか怖いデスよ!」
「『黒騎士』……あの子が?えっ可愛い……ちっこい……お肌すべすべ……あの子が『黒騎士』……?あの問題児でキザな……えっ『黒騎士』可愛い……。『黒騎士』……?えっあの子が『黒騎士』……」
「『モフモフ』まで!?もう辞めてクダサイ!ワタシだって、ワタシだって『黒騎士』が莉奈って知って混乱してるんデスヨ!?これ以上混乱するとワタシまでオカシク……」
………………ぇ?なにこれ恥ずかしい。……なにこれめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!可愛いとかちっこいとか……。と言うか反応し過ぎじゃないかな!?
これ、やばい、ちょっとまって、バレた時点でそもそも限界なのに……。
「……!うぅっ!師匠!ししょぉ!」
「はいはい、二人を気付けして来るからそこで待っててね……」
羞恥が爆発して師匠に泣きつくと、師匠は場を収めるべく動き出す。
『スミス』と『モフモフ大正義』が混乱してブツブツとつぶやき続け、それを『剣』と『フリーク』が覚まそうとする。そしてそれを尻目に真っ赤な顔で正座する私。
そんな混沌の光景はおよそ数分間ほど続いて……。
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「まあ、なんだ?今まで必要以上に突っかかって悪かったな……えっと、莉奈?『黒騎士』?」
「……『黒騎士』でいいよ……。それに、別に必要以上に突っかかってたとは思わないし……」
……あの『黒騎士』が実は十二の少女であった。知った時は不覚にも混乱に沈んだが そのこと自体は、なるほど確かにと思う部分が多い。
アイツは強い。だというのに時々見せる強さに見合わない弱さが純粋な年齢の不足を理由とするのなら、心底納得がいくからだ。
……だが、しかし、しかしである。例え相手の印象が変わらなかったとしても、目の前の可愛らしいしょぼくれた少女を見ると対応の仕方がわからなくなって、優しく接したほうが良いのではと……。
いや、違げえな。
「……しかし、何気ないことで喧嘩をするのが楽しい親友、だったか?……ずいぶんと恥ずかしい事を言ってくれるじゃねえか、なあ?」
「……っ……。ふふ、まんざらでもなさそうだったのに、よく言うな」
そうして莉奈はこちらを睨み……そして、ふっと笑う。
こうして煽りを仕掛け合う、これが正解だ。喧嘩をするのが楽しい、仮面を被っていない本音で、アイツは確かにそう言っていたってのにな。忘れるとこだったぜ。
しかし、また面倒くさい親友だ。今までは仮面で上手く隠していたが、コイツはまたかなりの恥ずかしがりだな。
なにせ、デスゲーム終盤になってもなお自身の正体を俺たちに言えなかったのはひとえに恥ずかしかったからだからってだけだろうし。
「ま。なんだ、女だからって対応を変えるほど、俺たちは浅い付き合いじゃあ無いってことで……」
「ふひひひひっ、可愛いねえ、全身すべすべでお姉さん羨ましくなっちゃう」
「オラオラっ!歳の割にそこそこのムネを持ちやがっテ!ワタシにも少しよこせ!」
「うひゃぁあっ!助けてぇぇ!」
「おい馬鹿共が、一応男がいるんだそ!?ほらこっち来い!」
可哀想に莉奈のやつ、怯えて俺の後ろでぷるぷると震えてやがる。
……なんというか、接し方は変えるつもりはねえが中身は割と好みの普通の可愛い女の子だな、複雑な気分だ……。
「ほれ、逃げろ逃げろ、『剣』と話でもしてこいよ。あの二人に捕まっちまったら生気を根こそぎ吸われちまうぜ!」
「借りは返すっ……!」
律儀にそう言い残すとアイツは走り出して……。
――――――
「師匠!覚悟っ!」
「うわぁっ!危ないなぁ!?」
『剣』に対してバラされた恨みを込めて背後から奇襲を仕掛ける……が、しかし紙一重、髪の毛を掠るだけで届かない。くそう、身体能力が足りないか……!
「ねえちょっと君殺意高くない??背後から頭はもうそれ殺しにいってるよね?」
「騙したこちらが悪いのはそうですが、それはそれとしてバラされた恨みはありますので……それに、この程度でどうにかなる人ではありませんよね?」
「……一応師匠なんだから、優しくしてほしいんだけどねえ……。まあ、そんな怒り心頭の莉奈ちゃんに、一つお詫びがあるよ」
「お詫び……ですか?」
そう言うと、師匠は何かVRのソフトを取り出して私に手渡してくる。
「はいこれ、新発売のVRMMO『ダンジョンリベリオン』……この中にみんなで集まれる場所を作ろうって計画が進んでて……」
「……私、お母さんに何があっても当分は使わせないってVRヘッドギアを没収されてるんだけど……」
「……そっか」
「……みんなとVR空間で定期的に会えるのって凄く魅力的なんだけど……」
「……そうだね……」
「…………デスゲームじゃないゲームで一緒に共闘とか、めちゃくちゃ楽しそうなんだけど……」
「…………」
「でも、できない……」
「って感じで、デスゲーム仲間と一緒にゲームがしたいんだけど……お姉ちゃんはどうにかならない?」
「……一つある。条件付きだけどね……。莉奈、あたしと一緒に『ダンジョンリベリオン』を遊んで、あたしの動画に出るのよ」
「……へ?」