スターフォックスFree実況プレイ 帝国設立縛り 作:竹製手桶
コーネリア防衛軍科学科。かつて俺はそこに在籍していた。
尤も、俺は底辺中の底辺だった。片田舎では神童と呼ばれた俺だが、コーネリアという大都会ではごくごくありふれた凡人でしかなかった。それでも防衛軍の科学科に入れたのだから、当時の俺はとても運が良かったと思う。
世間は当時の俺が思っていたよりも厳しかった。
惑星コーネリアの人口の大多数は犬獣人である。お察しの通り、コーネリア防衛軍に所属するほとんどの兵士も犬獣人だ。当然ながら、軍部でもそれは例外ではなかった。
犬獣人以外は異端者とされ、迫害とまではいかないが、出世コースからは常に一歩外れていた。
馬獣人の俺はそんな環境に適応することができなかった。何故種族間で差別が起きるのかと、上層部に何度も掛け合ったが、そいつらは聞く耳を持とうとしなかった。
ああ、厳密には一人だけ俺の言葉を真摯に聞いてくれた方がいた。
アンドルフ。当時はコーネリア防衛軍科学主任だったんだ、あの御方は。
当時からアンドルフ様の冴え渡る頭脳は、俺がいた片田舎でさえも噂になっていた。戦闘機の常識を変えたGディフューザーシステムの基礎を作り上げ、現在国家間では当たり前のように使用されている生体認証システムや様々なテクノロジーを洗練し、軍に導入するまで磨き上げたのもアンドルフ様だった。
アンドルフ様は犬獣人至上主義に真っ向から異を唱えていた。アンドルフ様自身も猿獣人だったから色々と思うことはあったんだろう。
俺はそんなアンドルフ様の聡明さにすっかり心酔していた。だから俺は同志と一緒に、必死にアンドルフ様の下で研究に明け暮れた。
しかし、そんなある日、突如としてアンドルフ様はコーネリア防衛軍を追放された。俺はアンドルフ様の後を追って軍を退役し、辺境の惑星ベノムへと移り住んだ。狭い家は買っていたが、それ以外に失うものは無かったからな。
「……まさかまだ動くとはな」
俺がベノムにいる間、ピグマはこのあばら家を色々と利用していたらしい。後ろ暗い
どんな思惑があれ、彼はその対価として俺がかつて乗り回していたホバーバイクの手入れをしてくれていた。これで貸し借りゼロと言いたいんだろう。エンジンはちゃんと動くしサイドカーもある。
何はともあれ、使えるのなら有難く使わせてもらおう。文句を言われたら一杯奢ることで許してもらうとする。
「こちらメイ・イルード。ターゲットを確保した。マー、チキ、応答せよ……」
「こちらマー・サラブレッド。声からして手酷くやられたようだな、迅速に合流する」
「わりぃ! こっちは警備の連中に睨まれちまった! 囮になってやるからさっさと帰還しやがれ!」
隊長のメイですらかなり苦戦したようだ。死にそうな声で彼女は通信を入れてきた。チキも警備の連中に見つかってしまったらしい。俺が動くことでしか活路は開けなさそうだ。
しかし、何故警備の連中はここまで早く俺達に気づけた? メイは俺達全員にステルススーツを着せて、通信は最低限にするように指示していた。どうやって俺達の存在を察知したんだ?
考えられ得るのはただ一つ、俺達とは別の何かが動いているということ。
だが、その答えはすぐに現れた。頭上に輝く銀色はコーネリアの技術の結晶。かつて俺がベノムで叩き落とそうとして堕とせなかった、忌々しい過去の象徴。
超高性能全領域戦闘機 アーウィン
――メイ・イルードの顔が蒼白になる。そんな顔も出来たんだなと妙に冷静な自分がいた。何せ、彼女は嫌悪を露わにするほど他者に関心を寄せること自体少なかったのだから。
「やぁ、久しぶり。元気だったかな?」
片耳が少しだけ切れた、サングラスの狐。あの日置き去りにしたはずの亡霊が現れた。
「元気そうで何よりだ、コーネリアの英雄殿。お陰様でこっちは
生存本能が危険信号を鳴らす。目の前の男に逆らうなと叫ぶがそうはいかない。
ハンドルを切って進路を強引に変更。車の間を縫うように走らねばならないほど狭い道だが、ここなら奴も容易にレーザーを撃つことは出来まい。こっちには将軍様もいるからな。流れ弾で死んだら大問題だ。
「君達は……」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」
奴が言葉を発そうとした瞬間、俺の後ろに乗っていたメイは絶叫し銃の引き金を引いた。彼女の絶叫と銃声のコーラスが狭い道路に響き渡る。弾丸は空しくアーウィンの装甲に弾かれ、パラパラと地面へと落ちていく。
「熱烈な歓迎だね。そんなに私達のことを想ってくれていたのかい?」
「黙れッ! 黙れ黙れ黙れ黙れッ! あんた達のせいで全部メチャクチャだ! この宇宙のどこにも
メイは激昂していた。その怒りはジェームズ・マクラウドという男に対して、いや、彼が属するコーネリア防衛軍へ向けられていた。彼女は彼らに対する憎悪を隠そうともせず、ただがむしゃらに銃を撃つ。
「酷いことを言うね。君が生きる世界において、私は確かに邪魔かもしれない。だけど私達にだって生きる権利はある。君に大切な人がいるように、私には家族だっている。だから死ぬ訳にはいかなかった」
ジェームズはメイの射撃をまるでそよ風のように受け流し、怒り狂うメイを宥めようとしているのか逆に彼女を焚き付けているのかよくわからないことをほざいている。
「ふざけるな! あんた達はただ、自分達の都合が良い世界のためにあたし達を切り捨てた! 分からないというだけで! ただそれだけの、たったそれだけのことでッ!」
「チキ、聞こえるな? 俺達のリーダーは今大暴れ中だ。平たく言えば正気を失っている」
「おいおい、どうなってやがんだ! 愛しの君にフラれて自棄になっちまったのか!?」
「いいから早くしろ。相手は元防衛軍の英雄様だぞ」
「……そういうことかよ。わーったよ! どうにかしてそっち行ってやるさ!」
チキも事態を理解したらしい。自分が囮として機能していないことを察してくれたようで、彼はすぐにこちらへ合流すると言ってくれた。合流ポイントがレーダーマップに表示される。
「メイ! チキが合流する、それまで持ち堪えろ!」
聞いてるんだか聞いてないんだか、メイは返事もせずただジェームズに向かって射撃を続ける。
俺はバイクのアクセルを思い切り捻り、全速力で合流地点へと急ぐ。アーウィン相手に時間稼ぎがどれだけ持つのか。最悪の事態を想定しておかなければならないだろう。
最悪の事態。それは俺達の母艦ツングースカが敵であるコーネリア防衛軍に制圧されていることだ。あの艦は俺達の生命線だ。ワープ装置も積んでいるアレがコーネリア軍の手に落ちれば、俺達に逃げ場は無くなる。
合流地点はコンクリートジャングルの中にある高架下だ。戦闘機が入れる隙間は無い。ごく短時間ではあるが、あの悪夢から逃れることが出来る。
「……チキ・ブロウ。お前が持ってきた足は何だ?」
「その辺からかっぱらって来た、ただのトラックだよ」
「かっぱらって来た、か。持ち主は?」
「事情を話したら
チキの乗ってきたトラックの助手席には犬獣人の男がいた。彼の胸元には何発か撃たれた跡があり、シートにはべったりと赤い染みがついている。多分チキがやったんだろう。
軽口を叩いているものの、チキにもあまり余裕はなさそうだ。鶏冠の一部が欠けている。
「将軍の服をひん剥いて、助手席にいる奴に着せろ」
「……おい」
俺は覚悟を決める。死ぬ気でやれば案外どうにかなったりするもんだ。
「それを囮にする。小回りがきく俺が奴の注意を引く。その間に帰還しろ」
「っざけんなよテメェ。全員で帰るんだろ! クレーター作戦のときも、マクベスのときもそうだった! テメェは身勝手な自己犠牲を発揮して、いつも死のうとしやがる!」
「ジェームズ・マクラウド相手に全員で突っ込むのは愚策だ。将軍を奪還され、母艦が奪われるのが最悪のシナリオだ。それを回避する方法があるのなら、俺は喜んでその道を選ぶ」
分かってくれ。俺は思っていた以上にお前達のことが大切なだけなんだ。お前達と一緒にこの戦争を生き延びたいと、身の程知らずな願いを本気で抱いてしまっているんだ。
「メイ。これがリーダーとしての仕事だ。ここで全員仲良く地獄へ落ちるか、お前達だけでも生きて帰るか。お前の決断に全てが懸かっている」
「………………」
メイは俺達が言い合ってる間に将軍の服を引き剥がす作業に移っていた。無言で死体にそれを着せる彼女はようやく口を開いた。
「許さない」
「ああ」
「前も言ったよね? 自己犠牲をさせるつもりは毛頭ないって」
相変わらず冷たい声だ。だが、その中に確かに感じる熱がある。
それは彼女が幼馴染の青年に向けている熱と同じだ。もちろん、あれほどの強さではない。こちらに向けるのは彼へ向けるものの残滓といったところか。
お前は俺を仲間と言ってくれるのか。一度はお前を裏切ろうとした上に何度も死にかける愚かな俺を。
「死ぬなら
「……難しい注文だ」
「難しくてもやって、これも仕事」
メイはズバズバと言いたいことを言ってくる。本当に敵わない、彼女にだけは。
彼女の中で最も優先されるのは幼馴染である青年だ。だが、その次の次くらいには俺という存在も入っているらしい。
「約束しよう」
「マーの約束するは信用ならない。戻ったら誓約書を書いてもらう」
「分かった。誓約書でも血判状でも何でも書いてやるさ。立会人は誰にする?」
「
「おいおい、オレを巻き込むのはやめてくれ」
「今更逃げるは無しだよ」
「へいへい。ただし、オレには学がねぇから分かりやすい文面で頼むぜ?」
チキは肩をすくめて俺に背を向けた。これ以上話し込んでいる時間は無さそうだ。ジェームズの奴も俺達が逃げずにここで作戦会議をしていることに気づいているはずだからな。
「マーとあたしはジェームズを迎え撃つ。チキは将軍を載せて全速力で離脱して。……帰還出来たら教えて。何とかアイツを撒いて帰るから」
「了解。そしてグッドラック、幸運を祈るぜ」
サイドカーに囮となる死体を載せ、メイは俺の後ろに飛び乗った。
「ねぇ」
「何だ」
「今から無茶するけど、マーは死なないで」
「俺には死ぬなと言っておいて、どの口が言う?」
「死にそうになったら助けてあげるから」
「冗談きついな。お前の我儘に付き合える
「どっちでもないし、アイツ呼ばわりしないで」
耳打ちされた作戦は正気を疑うようなものだったが、実行するほかなかった。路地から顔を出した瞬間、黄緑色のレーザーが頬を掠めたからだ。腹を括った俺はアクセルを思い切り回し、バイクは一気に加速する。
「マー!」
「分かってる!」
都市の構造は理解している。本来はバイクが通るべき場所ではない道も利用して高架の上へと駆け上がる。暴走族でもこんな無茶な走り方はしないだろう。
「メイ!」
彼女は勢い良く身体を乗り出し、そのまま跳躍する。いつか砂漠で見たように彼女の義足は間近にある金属へ、つまりはアーウィンの主翼へと引かれ合うように飛びついた。
「逝かせて、あげる!」
彼女が構えたのはデビルランチャー。別名『悪魔の銃』。
一発の弾で戦車もブチ壊すが、爆風は生身の兵士を即死に追い込むためお蔵入りとなった曰く付きの銃。カトルがメイのためにひとつだけ入手して修理していたと聞いてはいたが、彼女はしっかりそれを受け取っていたらしい。
ホバーバイクに乗っている間にこれを使わなかったのは、この爆風が俺を巻き込む危険性があったのと、ロックオンしているとはいえ距離があるとジェームズはこれに対応してくると予想したかららしい。
「……ッ! 君は……!」
今頃あり得ない衝撃がジェームズを襲っているだろう。まさか生身の兵士が戦闘機の上に飛び乗り、あまつさえ自爆覚悟で魔銃をぶっ放すなどと誰が想像できるだろうか。伝説のパイロットと言えど、この前代未聞の奇襲には対応できないはずだ。
何とか市民がいない場所へ不時着しようも試みるジェームズだったが、メイがそれを許さない。コックピットに向かって執拗に
「メイ! 離脱しろ!」
俺はバイクを加速させるが、ジェームズはアーウィンを強引に
クレーター作戦のときのメイもそうだった。あのときは義足のバッテリー切れでウルフェンの羽から滑り落ちた。あのときは砂がクッションになっていたが、今回はそうもいかない。コーネリアの地面は舗装されている。落ちれば死ぬ。
「クソッ! 間に合えよ!」
俺はバイクを加速させ、落下地点へと急ぐ。
「メイッ! ……っ!?」
結果だけ言えば、彼女は無事だった。
「あ……」
俺が見たもの、それは口から血を吐き、今にも死にそうなメイの姿。ジェームズ・マクラウドは彼女の下敷きになっていた。
おそらくだが。彼女はジェームズと共にアーウィンから離脱したのだろう。そして地面に引き摺り下ろしたジェームズに麻酔弾を撃ち込み、意識を刈り取ったところで限界を迎えたのだ。
「マー……、ごめん……」
俺はメイを抱き抱える。彼女は相当無理をしたのだろう、顔色は真っ青だ。そして今にも消えそうな声で俺に謝ってくる。
「報告は、任せ……た……」
「ああ、任せろ」
メイは気を失った。俺は彼女の身体をなるべく優しくサイドカーに載せる。そうしないと後が怖いからな。
用が無くなったダミーの死体は置いていくことにした。最悪のツーリングに付き合わせた詫びに、彼の懐に幾分かの金を捩じ込んでやった。葬式代の足しになれば良いんだが。
ジェームズの隣に置いたのは別に腹いせでも何でもない。決して。
「こちらマー・サラブレッド。狐狩りが終わった。リーダーと共に帰還する」
帰ったらまずピグマに謝礼を渡しておこう。
リーダー……メイ・イルード
白兵戦適性が高い故に腕力の高さが顕著になってきた雌猿。最近やっとチームメイトの存在を認識し始めた。しかし一番大事なのは幼馴染で変わらない。一人称は『あたし』
サブリーダー……マー・サラブレッド
実はコーネリア防衛軍に所属していた。死亡フラグをよく立てては折られる男。コーネリア軍時代はホバーバイクに乗るのが趣味で休日はよく乗り回していた。一人称は『俺』
(元)パイロット……チキ・ブロウ
元トランペット奏者の雄鶏。監視役に見つかったり将軍を運ぶ役目を負ったりと今回一番貧乏くじを引いた。チーム内で殺人に対する忌避感が最も薄い。一人称は『オレ』
ガンスミス……カトル・ホルスター
今回留守番していた雄牛。メイへの感情がじっとりとしたものに変わりつつある。デビルランチャーの調達など隠れたMVP。一人称は『わたし』
パイロット……アルジー
今回留守番していた蝙蝠。幼い頃のアンドリューに似ているという理由でメイから一番甘やかされている。宇宙一ずる賢いところはこれから出てくる予定。一人称は『オレさま』