スターフォックスFree実況プレイ 帝国設立縛り   作:竹製手桶

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大変お待たせしました。
今回は前後に分けています。
そろそろ何故重たい感情を向けているかハッキリさせたいですが、もっとこう、何かあっただろ……(ろくろを回すポーズ)



side A.O『家族』

「コレは商談の練習やで、坊っちゃん?」

 

合成肉のレーションを食べながらピグマは言う。栄養は取れて安いが不味いと評判のそれを、彼はよく口にしていた。

 

「最近、坊っちゃんが必死こいてお勉強してはるの見とる親分が適当な仕事を回してやれって煩くてなぁ。ま、これくらい坊っちゃんのコネをフルに使ったら出来る商売やさかい、タネは坊っちゃんの方で用意しいや」

 

言わば交渉のチュートリアル。私はそう理解した。

 

「分かった。それで今回の最終目標は?」

「ペパー将軍の引き渡しと、メテオライトの指揮権。というよりはメイはんを自由に動かせる権利や。あの女はジョーカーや。最小のコストでとんでもあらへん結果を叩き出しよる。せやからどうにかして首輪を嵌めときたいんや」

「なるほど」

 

その彼女は以前喜んで自分に尻尾を振り、首輪を自分から嵌めました、という事実は呑み込んでおく。メイと私はプライベートではなかなか濃密な仲だが、ビジネスの場においてそれは関係が無い。

 

「だが、メイが素直に従うか?」

 

私が懸念するのはそこである。メイは、こと戦闘においては人並み外れたセンスを持っている。しかしそれはあくまで『戦闘』においてだ。政治や経済といった『戦争』の分野には疎い。

現にメテオライトの金回りはメイが大まかな方針を決め、部下達が細部を整える形に納まっていたし、元は捨て駒扱いの部隊だったことを生かして派閥争いからは一歩引いた立ち位置をキープしている。苦手分野を理解した上での立ち回り。実に合理的な判断だ。

 

「坊っちゃんが本気で()()()したら、幼馴染のよしみで多少は聞いてもらえるんとちゃう?」

「少しはぐらかした言い方だな。言っておくが、メイに色仕掛けの類は効かんぞ」

 

ピグマは肩をすくめて笑う。そして私に顔を近づけて言った。

 

「そないなこと言わんで、坊っちゃんがメイはんにしっかり首輪を嵌めるんやで? そのくらいしてもらわな、ワテも安心して任せられんわ」

 

それに、と彼は言葉を続ける。

 

「メテオライトはワテらに忠誠を誓っとるさかい、多少のお痛があっても目ぇ瞑ってくれるわ。ワテはワテでやらなアカンことがある。こーんな簡単で旨味のあらへん仕事は新人にやらすに限るわ」

「……遠回しに面倒だと言っていないか」

 

ピグマが私のことをどう思っているか。正直に言うと分かりかねている。ビジネスライクにしては親身で、かと言って大事にされてるかと言ったら微妙なところだ。大事ならもっとこう、安全なところにいさせるはずじゃないか。

ピグマもまた、アンドルフおじさんやその発明品達との繋がりを欲して自分に近づいているのだろう、と私は結論づけている。

 

「面倒に決まっとるわ。大して得るモンもあらへんのに手間を増やさなアカンなんてな。そないなもん、時間の無駄やろ」

「随分言ってくれるな」

「せやけど坊っちゃんは別や。坊っちゃんはワテの商売に欠かせへん存在やさかいな。それに、メイはんが坊っちゃんと仲良うするんも、ワテらには得があるんやで?」

 

欲望を隠さずピグマは笑う。その笑顔はおべっかなのか、揶揄っているのか私にはまだ判断がつかない。

 

「商売。貴様は戦争に勝とうが負けようが関係ないとでも?」

「関係あるで? ワテらには金が必要やさかいな」

 

メテオライトの資金源は大半が鹵獲物の売却によるものだ。特に戦闘機はよく売れるらしい。ピグマは稀にその仲介を頼まれると言っていたのを思い出した。

 

「金はいくらあっても困らんわ。戦争はええで。戦争は金になる。ビジネスに綺麗も汚いも無いやろ?」

「……流さなくても良い血を流し、金のために人を殺すのがビジネスか」

「坊っちゃんはお上品やなぁ」

 

レーションを食した私の口の中に広がる、安物の合成肉特有の苦味とえぐ味。飲み込まないといけないと分かってはいるが、脳はこの物質の摂取を拒否している。水で流し込むことで何とかそれを誤魔化した。

 

「そないに気にせんでええ。戦争なんてもん、所詮は『商売』なんやから」

「……そうか。では、そのビジネスとやらを学ばせてもらおうか」

 

交渉という技術の基礎中の基礎を教わり、私はメイの病室へと向かった。しかし、ビジネスのためではなく、彼女の身を案じる幼馴染として。

 

 

――だって彼女は、先日誕生日を迎えて17歳になったばかりなのだぞ? その祝いの言葉も言えてないんだ、少しだけならいいだろう?

 

 




私がメイの病室を訪れたとき、彼女は静かに眠っていた。彼女の褐色の肌は既に表面上の傷を無くしていたし、運ばれてきた当初は弱々しかった呼吸も今は安定している。メイ・イルードの回復が早いのは誰の目にも明らかだ。

聞けば、義肢接続用のインプラント取付を皮切りに彼女はサイボーグ化を進めているのだと。
現在、彼女の体には常人よりも回復を早くするナノマシンを導入しているらしい。無論、発案者はアンドルフおじさんである。バイオウェポンにも効くのだ、我々の身体にも馴染めるように調整はしてあるとのことだ。

――これら全て、私は聞いてなかったんだが? 義肢と肉体を強固に繋ぐアタッチメントの導入手術は激痛を伴うのに麻酔を使えないから地獄だと聞いているが?

義肢を外したメイの体は普段見る姿よりも更に華奢に思えた。左手以外の四肢を失った彼女の痛ましい姿は、過去の罪として私の心に重く圧し掛かる。
過去は変えられない。失ったものは戻らない。だがそれでも、メイに寄り添える者は自分以外にいない。

彼女の両親は娘すらアンドルフおじさんに近づく手段としか考えていない。メイが軍に入ってから、特に父親は一層彼女に無関心になった。私にすら分かるほど露骨なのだ。メイはもっと強く感じているだろう。

だからメイにとって家族とは私だけだ。血の一滴も繋がっていない相手に縋らざるを得ない彼女の境遇はあまりにも救いが無い。

私は眠るメイの髪を撫で、寝癖を直してやる。かさついて痛んだ髪はあまり手入れがされていない。見てわかる。艶も何もあったものじゃない。
幼い頃からメイは着飾ることに無頓着だった。彼女自身の気質もあるだろうが、彼女の両親が褒め言葉一つ掛けなかったからだろうとも私は予想している。

――私が彼女の家族だったなら、メイはもっと笑ってくれていただろうか?

銃の持ち方や他人を殺める方法より、彼女はもっと別のことを教わるべきだった。より可愛らしく着飾る方法とか、もっと他人との付き合い方を学んで、他愛のない話が出来る友人を作るとか、そういう当たり前を。

――それを私が作るのだ。メイが安心して過ごせる世界を、アンドルフおじさんと一緒に。

あまり長居しては、他の患者や看護師に迷惑だ。名残惜しさを覚えつつも立ち上がる。
次は彼女がちゃんと起きているときに来よう。そう思い、病室を出ようとした時のことだ。

「失礼。おや、スターウルフの……」
「マー・サラブレッド殿ですか。私はアンドリュー・オイッコニー。幼馴染が世話になっています」
「世話になっているのはこちらの方だ。メイ・イルードが居なければ俺……、失礼。私はとっくにくたばっていた」

マー・サラブレッドは私に丁寧な一礼をする。もちろん、私もそれに倣い礼で返した。所属チームを示す徽章を身に着ける我々は団体の代表として行動しているも同義である。故にこの対応は当然であった。

「私も少し見舞いに来たのだが、邪魔してしまったか?」
「いや。寝ている彼女を起こすのは忍びないと思って、もう出ようかと思っていたところです」
「そうか。……メイは良き隣人を持ったな」

マーの口調にはどこか嬉しさが滲んでいた。彼はメイに『家族』と呼べる間柄の者がいることに少しの驚きと喜びを感じているのだろうか。

「その、一つ訊いてもいいでしょうか」

私がそう切り出すと、マーは不思議に思いながらも首を縦に振る。

「メイは、メテオライトのチームメンバーと上手くやっているのでしょうか」
「上手く、とは?」

マーは問い返す。私はメイがメテオライトのチームメンバーと衝突してないか心配していた。あの生意気に服を着せたような奴が団体生活など荷が重いのではなかろうか。

しかしそれは杞憂であった。思えば、メイ・イルードは脳筋の気があるものの、彼女なりにきちんと考えを言葉にして伝えることが出来ている。

「メイはメテオライトの皆と上手くやっていると思う。例えばマクベスにおいては敵拠点の制圧という難しい役割を自ら買って出ていたし、他の作戦でも自分の苦手分野をきちんと理解した上で、チームメンバーに役割を分担して貰っていた」

というようにマーが具体例を出しながら答えると、私は安堵した。少なくとも、チーム内の不和で叩きだされることはないだろう。

「それは良かった」
「ただ、少し気になることが」
「何でしょうか?」

マーはそこで言葉を一度区切った。言うべきか言わざるべきかを迷っているのだろう。しかし意を決したように口を開いた。

「前に我々が奴隷船だの呼ばれていた母艦を使っていたときの話だが。そこは個室の壁が薄くてな、大きな声を上げると隣の部屋にも響いていたんだ。そこで彼女は時々魘されながら、君の名前を叫んでは引き留めようとしていた。行かないで、とかそっちはダメ、とか。……あまり過去を詮索する気はないが、メイにも何か事情があるのだろう。その辺りは幼馴染であるアンドリュー殿の方がよく知っているのでは?」

胸が締め付けられるような感覚がした。メイにとって私は必要不可欠な存在だと言外に告げられ、心が満たされるような喜びを覚える。
しかしそれは束の間だ。それはすぐに私に暗い影を落とす。

「私は一体彼女の何を見ていたんだ……!」

メイが過去に囚われているのは知っているつもりだった。だが、彼女はそれを表に出すことなく、ただひたむきに前を向いていた。その強さに自分は甘えていたのではないか。そんな自責の念に駆られる。

「気に病むことではない。メイはアンドリュー殿の活躍を耳にするたびに我が事のように喜び、君の無事を祈っていた。それはメイの本心だ。……ただ、彼女は自分の傷に疎いところがある」
「それは、どういう……?」

マーは私に向き直り、私の目を見て言った。

「君の前でメイが弱音を吐かないのは、君に心配を掛けさせたくないからだろう。慣れない環境に馴染むことで手一杯な君に少しでも負担を掛けまいとしている。……彼女は、君の前では強い自分でいたいのさ。それこそ、コーネリアの英雄を撃墜したようにな」

私はその言葉を受け、自分の不甲斐なさを恥じた。そして同時に、メイへの愛おしさを改めて認識する。

「ありがとうございます、マー殿」
「気にするな。これはたまたま生き残った老兵の戯言だ、これを真に受けるより話せるときに話しておいた方が良い。話したくなったとき、相手が生きているとは限らないからな」
「そうですね。では、メテオライト内に早速話したい相手がいるのですが」
「我々の部隊に? 皇帝直属部隊の御方が?」
「幼馴染が世話になっているので、その礼を言いたい……というのが大半です」

今だと手応えがあった。私は笑顔を絶やさずに、マーへある人物の名前を告げた。
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