猛き炎がこんなにしんどいはずがない   作:誠一

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エルガドが誇る稀代の司令官。
王国騎士の総督であるガレアスはある日、猛き炎へこう言った。




「エルガドチケットについて…どう思うだろうか」



「…なんて?????」



エルガドチケットに希望はあるのか?


チケット・エチケット

人生は選択の連続だ。いつだって望んだ選択肢があるわけじゃない。

時には選択肢そのものがない時もある。それでも俺は何かを選び取らなければならない。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

「コウヅキ殿…少々よろしいだろうか」

 

 

エルガドの船着場から少し歩いた先。

崩れた城郭に天幕を張り作戦会議を行うテーブルの近くにて。

ガレアス提督から声をかけられたのは春の陽気に包まれた穏やかな日中の事であった。

 

「どうされました提督。何か御用でしょうか?」

 

「実は…其方にしか相談できない事があってだな…」

 

 

真剣な面持ちで言葉を選ぶように視線を虚空に迷わせている。

一体何事だろうか。ガイアデルムをも退け、傀異化についても直近では大きな話は無い。

新たな飛竜種の発見、いや…キュリアに侵されてないメル・ゼナを発見したなどの噂も先日小耳に挟んでいる。そのレベルになると騎士団での対応は難しい…その件だろうか

 

 

「コウヅキ殿…其方は…」

 

 

何処に向かう事になるのだろう。状況によってはすぐにでも発たねば手遅れになる。

頭の中が高速で冴えていき、下準備の為に思考を加速させる。

体調は…悪くない。体で痛むところも無し。念の為、回復薬を多めに調合して…

 

 

「其方は…エルガドチケットについて…どう思うだろうか」

 

 

突如現れた巨大な【何か】と加速した思考が全力で正面衝突し、そして爆砕した

 

 

 

「…なんて?」

 

 

 

「エルガドチケットだ」

 

わけがわからぬ。もう本当に毎度毎度のわけがわからぬ定期である。

 

「すいません…ちょっと…あの…何の話ですか?」

 

「私が用意しているエルガドチケットについてだ。忌憚のない意見が聞きたい」

 

 

意見てなんだ。忌憚のない意見を言わせてもらえれば二文字で済む。「ゴミ」だ

 

しかし、しかしだ。もし忌憚のないこの二文字を遠慮なくぶっ放したとしよう。

するとこの二文字は二連装撃龍槍と化しこちらの無能チケおじの腹を容赦なくブチ抜く。

それと同時に流れ始める静かな打楽器と管楽器のイントロ。チケおじがゆっくりと

大地に倒れた瞬間に流れる盛大な管楽器の合奏!

 

 

パパパパー、パーパーパパパー♪

 

 

そう、みんな大好き『英雄の証』である。

 

 

…いや駄目だろ。盛り上げてる場合じゃない。かなり重ためな外交問題になる。

ゆっくりと倒れ行く提督にBGMを重ねるのは脳内再生余裕なワケだがそれを、

『実際にやってみた!』するのはマジでダメなやつだ。『英雄』の意味が変わってくる

 

とにもかくにも政治犯となる事を回避すべく…俺は提督から詳しく話を聞くことにした

 

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

「つまり原因不明だがエルガドチケットの評判が悪いのでなんとかしたい…と」

 

「そうだ。現在渡しているのが一応女王陛下の承認を得たシンプルなデザインでは

あるのだが…、現在流行しつつあるカムラ風の絵図を入れたものにしたり、チッチェ姫が図案をいくつか起こしてくれている為、デザイン自体を一新しようかと考えている」

 

 

 

違 う 、 そ う じ ゃ な い 

 

 

 

言いたい、本当に言いたい。エルガドチケットは今のままだと本当にゴミなんだと。

そもそも使い道がスゲー限定的な上、『見事な活躍』だとか言ってこのチケおじが過剰供給するせいでゴミ・オブ・ゴミになってるんだと。

 

 

しかし真実とは時に胸を貫く矛となる。鋭い指摘は相手の心臓を穿ち、

受けた傷に耐え切れず…膝が折れ、大地に倒れ行く瞬間…

流れ始める静かな打楽器と管楽器のイントロ。そう…『英雄の証』だ。

 

いや待て。だからそれはダメなんだって。

ここまでこのガレアス提督がチケットに拘るのには何か意味があるんだ。

きっといろいろ活躍している人に王国側としては叙勲とか領地とかバンバン出すわけにはいかない。しかし騎士団として恩に報いずにはいられない。矜持が許さない。どうにかして感謝の気持ちを伝え、想いを返したい…。きっとそういう優しい願いから生まれたのがこのエルガドチケットなんだろう。そうだ。そうに違いない

 

 

 

「どうだろう。何かエルガドチケットについて妙案がないだろうか」

 

 

 

「ガレアス提督…あの…ですね…」

 

 

言わねば…言わねばならぬ。相手が良かれと思ってくれている事を否定したり、お断りする事には勇気がいる。自分が傷付く事は許容できるが、善意の人が傷つく事は…そう…辛いのだ。傷付けないように…軽い話から何とか話をもって行ってちょっとずつ…

よし…よし…言おう!握った拳に力を込め、いざ話そうとした瞬間…

 

 

 

 

 

『お昼の時間です!お昼になりましたー!ネタばらしですよー!おしまいでーす!』

 

 

 

広場の方からチッチェ姫の声が聞こえる。昼?だからなんだ?何の話??

 

すると目の前にいたガレアス提督の肩が小刻みに震え…そして堰を切ったように、

笑い出した。なにこれ??ついていけないんですけど

 

「いやはや、すまないな猛き炎殿。カムラの里では馴染みが無いかと思うが

今日はエイプリルフールと言ってな…コウヅキ殿はご存じだろうか?」

 

「そういえば先日、なんかキチガ…ミノトさんが何か言ってた記憶があります」

 

わりと思い出したくない記憶に分類されていた上、状況がアレだったので

すっかり忘れていた。できれば忘れたままでいたかったまである。

 

「まぁ地域によって多少の差異があるが…午前中に限って人を傷つけない嘘をつき、

そして午後にはそのネタばらしをして笑い合う…という日なのだよ。」

 

「はぁ…そうなんですか」

 

「個人的に思う所が無くもないのだが…私の場合は職務上、皆を鼓舞したり、

非常時の士気を維持する為、ある程度の演技や腹芸をする能力が求められるのでな…

参加を命じられているとは言え…騙すような真似をした事、どうか許して欲しい」

 

なんだか気が抜けた。一人であれこれ気を回して異常に疲れた。

でもそれでいい。俺が一人で疲れただけだ。命の危険も無いし誰かが傷付く事もない。

 

「とは言ったもののデザイン変更は嘘であったが忌憚のない意見を聞きたかったのは

事実だ。よければ今後の参考までに聞かせてもらえないだろうか?」

 

提督は穏やかな表情で…しかしその瞳には僅かな不安の色を宿し静かに揺れていた

 

 

人生は選択の連続だ。いつだって望んだ選択肢があるわけじゃない。

時には選択肢そのものがない時もある。それでも俺は何かを選び取らなければならない。

 

 

「提督。俺…思うんですけどね」

 

 

正午を過ぎてから選ばれた言葉。それは嘘だったのか…それとも真実だったのか。

その答えは手渡されたチケットと共に、彼の胸の内にそっと仕舞い込まれたのであった。




お読み頂きありがとうございました。
こちらはエイプリルフールネタで書き上げた作品となっております。
完全完璧にギャグ全開のつもりだったのに書いていたらあら不思議、
なんだかちょっとチケおじにやさしくしてあげたくなる結果になってしまいました。

これがエルガドの提督パワーなのでしょう。恐るべしイケオジパワー
ここまでお読み頂きありがとうございました
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