守るべきものを守れなかったタドリはある日、猛き炎へこう言った。
「不能薬と勃起薬がほぼ出来ました」
「何してんだお前」
混沌に呻く誰かの息子(意味深)に光はあるのか?
「いやはや、先日は大変失礼致しました」
低く落ち着いた声、柔和な笑顔。よかった、いつものタドリさんだ。
先日は覆面イカサマ福引業者もといカゲロウさんの暴走に巻き込まれ、
少年の性の喜びを「なかった事」にしてしまう薬を6徹して作成していたとは思えない。
いやあれは、悪い夢だったんだ、忘れよう。そうしようそれが一番だ。
「僕は気にしていませんよ。タドリさんもお体大丈夫なんですか?」
万一まだアレだった時に備えて元気になる為のツボやらなんやらを教官に聞いてきた。
心配されまくった上に非常に面倒ウザイ事になったのだが、その話はまぁ置いておこう。
「元々、放浪していた時はゆっくり落ち着いて休めない事なども珍しくないですし、
薬師が身体を壊しては信用問題ですから。しっかりした寝床で数日休めば十分ですよ」
そういって微笑む顔からは隈はキレイに消えている。本当に大丈夫みたいだ。
「ところでコウヅキ殿。実はちょっとしたご報告がありまして」
「なんでしょうか」
「先日の薬を調合した結果ですね」
先程した「大丈夫」との判断が一瞬にしてグラついてきた。嫌な予感がする
「効果が数日間の不能薬と副産物として勃起薬がほぼ完成しました」
「は?」
「不能薬と勃起薬です」
「なんて?」
「効果が、数日間の、不能薬と勃起薬が、ほぼ出来ました」
「何してんだお前」
心の声が理性を置き去りにして口から零れ出てしまった
しっかりした寝床で数日休んでたんじゃないのか。普通に寝てろよ
「いや薬師の性分と申しますか、不完全な状態で放置しているのが落ち着かず…
あ、ちゃんと休息を取りながらでしたので、以前のような無理はしていませんよ
ご安心ください」
違う。ご安心したかった点はそこじゃない。
「不能薬はちょっと用途が限られますが勃起薬にはかなり需要がありまして」
「はぁ」
「と言いますのも依頼された方によれば王国貴族の方は跡継ぎ問題で求める声が元々
ありまして…またご年配の方、夜の強い奥方をお持ちのご主人など…薬の完成を期待する声は決して少なくないようです。」
「成程…。」
言われてみれば確かにそうかもしれない。『不能になると困る』という事は、
既に『機能不全によって困っている人がいる』という事なのだ。
「しかし問題がありまして」
「はい」
「適切な期間のみ有効になるよう調整が難しく…私やバハリで実験はしましたが
同じ分量でも人族では同じような結果にはならないでしょう」
「何してんだよお前ら」
こちらが命懸けの戦いに挑む直前や、瀕死になりつつも帰還した時、
こいつ等は股間が全開イブシマラヒコしてたりナラヌ勃タヌヒメだったりしてたんか
怨嗟響くというのはどういう状態なのか。今、完全完璧に理解した。
「と言う事で、やや若さのピークを少々過ぎ、尚且つ万一に備えて毒や薬にある程度
耐性がありそうな成人男性を探しておりまして」
何が『と言う事で』なんだ。そんな若すぎず薬や毒の耐性があってそんな面倒な目に
合わせてもいいウザイ奴なんて都合のいい事……待てよ。
「…話はわかりました。ちょっと心当たりを当たって見ましょう」
※ ※ ※ ※
「不能薬、勃起薬共に完成したと言ってもいいでしょう。本当にありがとうございます」
タドリさんの研究スペースに足を運ぶのも何度目だろうか
穏やかな顔をしているが僕の内心は正直穏やかではない。
今回お察しの通り人間を超越しているであろうカムラの狂感というか叫喚というか、
まぁウツシ教官を百竜夜行の撃退施設あたりに呼び出してですね。
「何も言わずこの薬飲んでください」と言って飲んでもらったのはいいんだけども
案の定大変であった。遠吠えし始めたかと思ったらウツシ参上モードになって、
こちらを鉄蟲糸技で拘束してきたりと本当に大変であった。
万一に備えてあちこちの人にエンエンクで大型モンスターを引っ張ってきてもらい、
教官ならぬ狂漢にぶつけたり、バリスタやら大砲で足止めをしなければ、
あの鬼人化【獣】どころではない状態のアレを留める事は出来なかっただろう。
あいつぜったいおかしいよ
「今回の作成に当たりコウヅキ殿には本当に世話になりました。感謝致します」
「いや…その礼を言われる事ではありませんので」
冷静になってしまえばそもそも手伝うべきではなかった。教官が面倒ウザかったからとは言え意趣返しにしたことが返って自分の首を絞める結果となったのだ。
本当に礼を言われる事ではない。いやマジで
「おっと…いけない。完成したらすぐ届けて欲しいと言われておりまして…」
「そうでしたか。お忙しい所すみませんでした。じゃあ僕はこの辺で…」
そう言って僕は部屋を後にした。帰りたい。もう何もかも忘れて温泉にでも入りたい。
※ ※ ※ ※
里に戻ろうと船着場に向かうとタドリさんアルロー教官が談笑している姿が見えた。
近くには腕を振り上げた激昂ラージャンそして疲労状態の泥爺竜の絵が貼り付けられた箱がある。傍から見たら剥ぎ取った素材のようだが中身はきっと例のアレだろう。
「本当にありがとうよタドリ!これでこれからの俺…じゃなく王国中が救われるぜ!まったく、夜が待ち遠しいってもんよ!ハハハハハ!!」
「いえ、当然の事をしたまでです。依頼通り作成した分は全てお持ちしましたが」
「あぁ、あちこち届けるのも難儀だろ。俺が全部届けるから後は任せてくれりゃあいい」
「はぁ、ただ服用される方には健康上問題ないか検診をしておきたいのですが…」
「んー、ならとりあえず俺だけやってくれるか?使うヤツには後で俺からタドリんとこ行くよう言っておくさ。さ、どこですればいい?夜までには終わるよな?」
タドリさんと肩を組みながら意気揚々と天幕の方へ向かうオルロー教官。
その後ろ姿で全てを察した。察してしまった
俺とタドリさん(とウツシ教官や里守の皆様)は、あの汚い野獣が老いたガンランスを
フルバレットファイアする為に踊らされたのだ。許しちゃァいけない
遠ざかる二人を無言で見送りつつ…僕は箱に貼られた絵をそっと入れ替えたのであった
お読み頂きありがとうございます。
前回のクレイジーツダドリさん引き続き続投です。
オルロー教官ってよく娼館とかいったりジェイくんを、
悪い遊びに引っ張っていきそうですよね。
ガレアス教官とおっさんずラブな世界線も嫌いではないですが、
教官、今夜は疲労状態のオドミドロとなって、
「勃て!勃つんだ!ジョー!!」してもらいたいと思います。
ここまでお読み頂きありがとうございました。