転生したらスライムの敵だった件   作:一宮 千歳

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幕間(1.5章)
ダンジョンでの無双は転生者の憧れ


「テンペストのダンジョンおもれー!!!!!」

 

マリアベルは、和解の儀式(インゴットの作成)を待たずして先にシルトロッゾに帰った。

そしてソウゴは、インゴット作成の後にテンペストの迷宮に挑むことを決めた。

目的はドロップアイテムの剣。

失った鬼殺刃(オーガイーター)と同等のモノを求め、ソウゴの迷宮攻略が始まった。

 

進捗は、無双である。

『万能感知』による罠の察知。

解除できる罠は『思考加速』でゆっくりと操作すれば余裕で解除・回避可能。

マリアベルとの探索でトラップが仕込まれている可能性があり中身もマズいとわかった銅の宝箱は無視して、開封は銀の宝箱に絞る。

そして戦闘はなんにも問題がなく。

ローグライクの持ち込み可能ダンジョンでガチガチの探索用装備に身を包んだかの如く、ソウゴは迷宮低階層を蹂躙していった。

もともと数ヶ月間かけて西方諸国を旅していたソウゴである、ソロの迷宮攻略は前世でのダンジョンRPGモノのプレイ経験も相まってソウゴの体感では楽なものだった。

 

そして、マッピング(地図の余白潰し)はほどほどに留め下の層へ降りるのを優先すること十四日間。

ソウゴは五十階直前まで到達した。

なお、迷宮攻略は放送権を管理側に許可することで収入とできるのだが、ここまでの迷宮攻略の様子はもちろん放映されている。

ソウゴとしてはお金はもちろん、何かしらの形で有名になるのは今後の活動を考えればむしろ望むところなので、ヤマスの名と金髪もじゃ毛と真紅の眼、聖人化によりちょっと美形になった顔パーツを惜しげもなく晒した顔出し配信である。

 

また十四日間で五十階ボス前到達、という速度についても特筆すべきところががある。

踏破速度の記録としてだけみれば、以前帝国から迷宮探索に赴いて観客を沸かせたシンジ&マーク&シンの3人組よりは遅いのだが、「どちらがより優れているかであれば確実にヤマスである」と観客たちは結論づけていた。

 

なにしろソウゴ、いま武器を持っていない。

四十階層の守護者、嵐蛇(テンペストサーペント)をソロの素手で屠るなどという、冒険者の常識からはかけ離れた行為をやってしまっているためである。

まあ、「アイツは最初っからこのぐらいやる男だと思ってたぜ……」と言い出す後方理解者面冒険者も生み出していたが、それは余談。

 

 

「はいヤマスですこんにちは。それではね、今から五十階層の攻略を始めていきたいと思いま〜す」

 

ソウゴの脳裏に蘇るは動画アップロードサイトのアップロード者の定型挨拶。

前回のマリアベルとの迷宮攻略(の時に横目で見た配信)の際、どうやら階層守護者(ボス戦)はフロアに入った瞬間からフル尺で放映されると理解していた。

そのため、「配信者とかこういう挨拶するよね」のノリで観客向けのトークを展開していた。

この"余裕"も、観客がヤマスを優れた挑戦者であると認識する材料となっていた。

 

「ここのボスはお顔が馬の特徴を持つ方か牛の特徴を持つ方の二択ということらしく、しかもリムル陛下から名を授けられており、それぞれメズールさん、ゴズールさんと仰るんだとか。今回はどちらの方がでてきて下さるのでしょうか〜」

 

ソウゴは原作知識を思い出しながら階層守護者について語っていく。だいたいうろ覚えなのだが、ダンジョン周りはそれなりに覚えている。特にゴズールメズールについては覚えやすい部類だと認識していた。

 

「貴様が此度の挑戦者か!」

「おっと、馬の特徴をお持ちです。ということはメズールさんですね」

「然り、我が名はメズール! 挑戦者よ、名を名乗れ!」

 

これは配信者RPだと相手に良くないな、と判断したソウゴは、咳払いで声を整える。

声は低めで、朗々と。相手に誠意を持って。

目は相手から離さない。そして、武人として恥じるところがないように。

……魔物を屠って喜悦に浸る(ころせるとよろこぶ)という超級の悪癖はあったが、『ヤマス』という人間は、同じ人間の武人には敬意を払える人物であったが故に。

いいとこ取りを、する。

 

「……んん゛っ。

我が名はヤマス。故あって所属は名乗れぬが、ここ魔国連邦(テンペスト)の迷宮に力試しに参った身。一手御指南所望致す!」

「その意気や良し! 全力をもってかかってくるがいい!」

 

 

メズールはソウゴにとって間違いなく難敵だった。

剣を持って戦うのが本来の戦い方であり、さらに人型の相手とばかり訓練していたソウゴには、

三倍近い身長差のあるメズールは攻め方が全くわからない相手であったのだ。

 

一方でメズールも、ヤマスと名乗った相手の徒手格闘は、本来の戦闘スタイルでないことを最初から見抜いていた。

本来の得物を持ってすれば自分など相手にもならない、圧倒的な強者であることも。

 

なにしろメズールの攻撃は一度も当たらないのだ。

単に、相手が攻めてこない。

その一点だけでメズールは自分が生き延びていることを理解していた。

しかしメズールには意地がある。

自分の怯懦を打ち払うかのように、あえての挑発を行う。

 

「かかって来ぬかぁ! 先ほどの覇気はどうしたァ!」

「……あいにくと、ここまでの体格差の武芸者との、対戦経験がなくてねェ……!」

 

しかし相手は挑発に乗ってこない。

虎視眈々と、自らの隙を狙っている。

メズールはそう判断し、攻め手を休め相手の出方を伺う。

 

奇妙な形で、膠着状態が発生した。

 

そして五分が経ったか。十分が経ったか。

それともそれ以上か。

 

当事者には無限とも思える膠着の中で、ソウゴが動いた。

 

ソウゴがまっすぐに走り。

 

メズールが斧槍を振り下ろし。

 

ソウゴが速度を上げ、跳躍。

 

振り下ろされた斧槍を握るメズールの腕を足場にし、さらに跳躍。

 

驚愕するメズールの顔に、回し蹴りを叩き込んだ。

 

よろけるが、倒れないメズール。

強引な当て方だったせいで浅かったか、と着地しながら修正点を考えるソウゴ。

 

「なるほど、我では勝てぬようだ」

「倒れてないくせによく言う……!」

「負けると分かっていても戦わぬは戦士の名折れ!

我が屍を踏み越えて次の階層に進むが良い! 

だが、今すぐではないッ!!!!!」

 

この後二時間に及ぶ死闘の中、

ソウゴは体格差のある相手への戦闘法に十分熟達し、メズールは倒れた。

 

なお、ソウゴのお目当ての剣は出なかった。

ドロップテーブル上(斧と槍と防具しか入ってないので)、出るはずもなかった。

 

 

玄人好みする守護者戦にひとしきり歓声に沸いた後、

ソウゴが踏み入れた五十一階を見た観客には、一様に困惑があった。

 

あれ、ここから先は死霊の階じゃなかったっけ、と。

 

観客の予想を裏切り死霊の代わりに存在したのは土、岩、そしてまばらに鉄のゴーレム。

墓と沼地の代わりに荒地と岩場のフロアが広がっていた。

 

そう、五十一〜六十階と六十一〜七十階は、

アダルマンたちによるシンジ&マーク&シン撃破と研鑽の報酬として、フロア入れ替えが行われているのである。

知らぬは観客ばかりなり。

 

「ゴーレムはね〜……素手だとちょっと困るんでね〜……逃げます!」

 

素手でゴーレムを叩き潰すのが配信されるのは良くないな、と(今更)考えてしまったソウゴは、ゴーレムからの全逃げを選択した。

 

観客の冒険者はこれには唖然。

到達者がいないため五十一階を徘徊するゴーレムの性能が全くわからないこともあり、

「ついに諦めたか」「いやでも帰還の呼子笛使わねえぞ、奥の手があるんじゃ」「ちくわ大明神」「ねえよそんなもん」「いや俺はこのまま六〇階にたどり着く方に銀貨一枚賭けるね」「じゃあ俺は五十一階でリタイアに銀貨三だ!」「おいなんださっきの」など好き勝手言い始めた。

 

 

そしてヤマスは遭遇したゴーレムをすべて回避しきり、四日で六十階に到達。ここで事件が起こる。

 

「はいヤマスですこんにちは。それではね、今から六十階層の攻略を始めていきたいと思いま〜す。

ゴーレム相手するのはちょっと困ってたんですけど〜……

逆にゴーレムだからいいのか?(・・・・・・・・・・・・・・)と思いまして、一つ技を解禁します」

 

ここまで快進撃を続けてきたヤマスが、何か変なことを言い出した。観客は否応なしに注目する。

 

「ちょっと刺激的な映像が流れます、ご注意ください。良い子は真似しないでね」

 

観客は一同「?」である。

そもそも六十階到達は真似できないが、そこから何をするというのか、という気持ちで一体となる。

 

「こちら霊子崩壊(ディスインテグレーション)の光を手に纏わせまして〜」

 

神聖魔法でも最大威力の魔法をぽんと無詠唱で出し、あまつさえ手に纏わせるなどという行為を行った。

が、それが事実であることまでは一般観客(・・・・)には理解されず、「霊子崩壊(ディスインテグレーション)ってマジ?」「いや流石にアレ霊子聖砲(ホーリーカノン)だろ」「それでも霊子聖砲(ホーリーカノン)を手に纏うって何?」「神聖魔法扱えるって冒険者じゃなくて聖騎士かなにかなの!?」「私、聞いた事がある……"聖拳導師"という職業の名を……」「俺は今伝説の誕生を目の当たりにしているのか!?」などと波紋を呼び。

 

「高速で寄って、どーん」

 

人類史上実現した者のいない(考えても誰もやらなかった)絶技(バカの所業)により、

六十階層守護者、無人兵器の魔王の守護巨像(デモンコロッサス)はワンパンで沈んでしまい。

 

「というわけでこれを崩魔霊子拳(メルトブロウ)と……ん? 念話? 配信停止してる?」

 

それが運営側に見られていないわけがなく。

 

 

「えっと……鬼殺刃(オーガイーター)手放しちゃったから、別の特質級(ユニーク)の剣が欲しくて……けど五十階で剣が出なくて……」

「あのゴーレム新造したらいくらかかるか教えてやろうか……? オマエもう迷宮出禁だ出禁! 二度と入るな!」

「はい……反省してます……」

 

『管制室』で観戦していたリムルが直々に呼び出しを行い、

ヤマス(ソウゴ)への迷宮出禁宣言が出されてしまった。

なお、ダンジョンドロップも全没収である。

 

「これでよかったんだよな? シエル先生?」

《はい。最速ではありませんでしたが、これが最善かと》

 

この出禁判断、魔王の守護巨像(デモンコロッサス)をワンパンしてしまった、壊してしまったからという事だけが理由ではない。

魔王の守護巨像(デモンコロッサス)自体はラミリスの権能で直せる。新造する必要なんかないのだが、そこは秘匿事項。

それより、魔国連邦にとって味方である(・・・・・・・・・・・・・)、とは言い切れない(・・・・・・・・・)ソウゴがこれ以上迷宮攻略を進めるのはマズいというシエルの判断である。

 

人は強いものに惹かれる。

単独で迷宮を踏破するソウゴは、その条件を十分に満たしていた。

ソウゴはいずれシルトロッゾの王となる身、というのは今のところリムルとシエルしか知らない。

それが名を売る事で、今後魔国連邦(テンペスト)の敵となる相手が増える。シエルはそれを懸念したのである。

 

ソウゴがあのまま七十階以降に到達した場合、各階層守護者が防衛モード(本気)ではなく通常営業モードで相手をしないといけないのもマイナスである。

今後アダルマンやクマラが外に出て実力を発揮した場合、"それに勝ったソウゴ"にも自動的に箔がついてしまう。

配信設定によるデメリットを甘く見ていたリムルの落ち度である。

 

なお、三週間ほど迷宮に潜ってその間の話題を掻っ攫ったものの、六十層階層守護者戦中に放送がいきなり途中で停止、その後迷宮内に二度と現れなくなった伝説の金髪赤目の聖騎士(疑い)、『至高拳ヤマス』は有名になった。なってしまった。

シルトロッゾ王国に似た姿の人間がいるという噂も後に広まり、『至高拳』の影を求めた者がシルトロッゾ王国に集うことになり、何人かが頭を痛めることになるのだが、それはまた別の機会に。





ソウゴ、絶対迷宮行くし迷宮産武器欲しがるだろうなと思って迷宮探索回書いたら出禁になっちゃったし変な二つ名ついた。
おかしいな……キャラが勝手に動くってこういうことかな……。
『至高拳』はその場の勢いでついただけで、ソウゴの格闘技術は世界全体で見て至高でもなんでもありません。

2024/12/26 13:45 出禁措置の真の理由を追記しました。

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