転生したらスライムの敵だった件   作:一宮 千歳

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おじいちゃん、暴れる

時は一度、魔国連邦(テンペスト)の帝国からの防衛戦が始まる前ごろに遡る。

 

現勇者クロエ=オベール、

素質はあるものの一旦「勇者の卵」を失ったヒナタ=サカグチ、

元勇者グランベル=ロッゾ。

 

この三人が訓練を共にしていた時のこと。

 

究極能力(アルティメットスキル)希望之王(サリエル)』をクロエに。

『勇者の資格』である光の精霊の加護、そしてワシの愛剣、『真意の長剣(トルゥース)』はヒナタに譲ろうと思う」

「……そんなことができるんですか?」

「願ってもないことですが……何故?」

 

クロエとヒナタの疑問。

グランベルが突然言い出したことの、理由に予想がつかないからだ。

 

「何、荒事は本格的に引退しようかと思ってな」

「それこそ何故、です。あなたはまだまだ私より技量に優れています」

 

ヒナタがその必要はないと否定するが、グランベルの意思は硬い。

 

「お主らが強くなっているからだ。

年寄りが長々と強者として居座るのにも限界がある」

 

呵呵(かか)、とグランベルが笑う。

 

「引退したらワシは政治をやる事になる。

剣を振る方が性に合っている、そう思うこともある。

だがな、人には誰しも天に与えられた役割というものがあると思っている。

西方が人のみの力ではないが安定しつつあり、若い力が育っている今、ワシの果たすべき役割はもう荒事ではないと感じた。

そしてお主らにはおそらく、まだ戦うものとしての役割が残っている。

ならば、戦う力を譲るべきだろう?」

「役割、ですか……」

 

ヒナタが複雑そうな表情を見せる。

 

「無論、与えられた役割をよしとしない者もいる。

わかりやすいところで言えば、血筋に逆らって出奔するものがそうだな。

しかし考えようによってはそれも『役割に反発するという役割』を果たしているとも言える。

……結局のところ、ワシはそれが役割だと"信じた"だけだ。

天の定めなどふつう(・・・)知る由もないのだから、お主らはお主らの信じた道を往くが良い」

「グランベル翁……」

「お師匠……」

 

心の底からのグランべルの言葉に、ヒナタとクロエが感じ入る。

 

「と、いっても。ヒナタとクロエには今一度死んでもらう。ワシもだが」

「えっ」

「そこに控えているルミナスが蘇生させてくれる。その際にワシの『希望之王(サリエル)』を引き剥がして、クロエの魂に混ぜ込む手筈だ。

では、ヒナタは我が奥義、体で覚えるが良い。安心せよ、魂は切らぬ――真意霊覇斬(トゥルースラッシュ)

「ちょっ、まっ……」

 

不意を打たれたヒナタと、時間を止めたが維持できず防御手段を失ったクロエは死んだ。

そしてグランベルは弟子に対して横暴が過ぎるとルミナスに粛清された。

 

「お主ら、妾をまんが(・・・)とやらで出てくる便利な蘇生アイテムか何かと勘違いしておらんか……? 

まあこれしか方法がないと言われればやむを得んし、蘇生はする、するのじゃが……」

 

ルミナスの愚痴は、物言わぬ死体の前では意味がなかった。

愚痴をぶつくさと続けながら、ルミナスは三人の蘇生を始めた。

 

《ルミナス、グランが迷惑をかけてごめんなさい……》

 

「ッ!?」

 

死体しかおらず、喋るものがいるはずもないのに聞こえた声にルミナスは驚愕し辺りを見回したが、やはり誰もおらず。

気のせいだと思いながら、蘇生を再開した。

 

 

「お爺様! 私マリアベル=ロッゾは元ファルムス王国騎士現無職のヤマス、あるいは転生者ソウゴ=ツチダとの婚約を宣言いたしますわ!」

 

なんか茶番が始まった。

実際、婚約破棄ものじゃなくて契約結婚といえばそうだな。

 

「同意しかねる」

 

終わった。え、終わっていいの?

 

「どうして!?」

 

マリアベルの叫びが響くここはグランベル=ロッゾの居室。

マリアベルに連れられてやってきて、改めての挨拶を終えてからの茶番開始である。

婚約するって言われたのはいいけどどうすんだって思ってたらこれかあ。

お爺様の説得もよろしくね(二十一話のこと)」って、本当にお爺様に根回ししてなかったんだな……

 

「ソウゴ、まだワシに2割も勝てんだろう」

「ああー」

 

マリアベルが納得顔。え、納得するの?

 

「条件が脳筋のそれぇ……」

「それにマリアベルが自分で言っただろう、無職だと」

「ああー……そうですね……」

 

痛いところをつかれた。そう、我無職。実は冒険者ですらない。

元ファルムス騎士は暴風竜ヴェルドラの復活時に全滅した事になってるからね。なんなら死人なのだ。

西方諸国放浪時代に冒険者登録しとけばよかったんだが、その時はユウキのせいで登録するのを躊躇ってからそのままなのである。

 

「無職でも養ってあげるのよ!」

「やめなさい」

 

シエルさんじゃなくマリアベルがだめんずメーカーだっただと……!? 

ああでも強欲って気に入った男ヒモにしてそうではある。偏見である。

そしてグランベルから強めの叱咤が入る。そらそうよ。

 

「ソウゴがマリアベルと比較して劣るとは思わん。

むしろマリアベルに並び立つ男としてはこのぐらいでないと困る。

しかし、無職も困る。わかるか」

「アッハイ……」

 

まさか異世界転生してからも無職じゃダメだよと言われるとは思わなかったぜ。心が痛い。痛いがまあ、理屈はわかりすぎるほどわかる。

無職にロッゾの姫が入れ込んでるとかマジでヤバい。

 

「わかっているなら話は早い。ロッゾの名にふさわしい男であることを世間に証明するため、せめて商業で成功を収めてもらう」

 

急にNAISEIチート展開くるじゃん……!

 

「資金援助はしよう。販路もくれてやる。

生産拠点も融通する。宣伝も任せたまえ。

売れる商品のアイデア、これだけを求める」

 

そんなんその時点でほぼ勝ちじゃん。

出来レースいただきました。

……無職に入れ込むのがおじいちゃんになっただけ感あるが。

 

「マリアベル、前から言ってたやつ、やるぞ」

「ええ、アレね」

 

転スラ世界にTCG(トレーディングカードゲーム)を広めてやる。

しかしまずは漫画で販促を行う。

メディアミックスから爆発させるのが一番強いと俺は知っている……!

 

安価で安全な化粧品(プチプラコスメ)事業、やってやるのよ」

「あれっ」

 

まあそっちでもいいけどさ。

高級化粧品やそれの代用品というのは既に少数ある。なんならロッゾの取り扱いだ。

しかし俺(たち)はそこから安価さを追求し、今存在しない低価格帯の購買層を根こそぎにする……!

 

まあその上でグランベルおじいちゃんを倒せるようにならんといかんかもしれんのだが。はーどるたかいよおじいちゃん。




おじいちゃん回です。
そして年内最後の更新です。良いお年を。

プチプラの作成過程はカットでいいですよね。
数多のなろうで化粧品作ってるし……。
高級化粧品は原作でもろくに描写ないけどお偉いさんのやるパーティでのおめかし問題はあるだろうし女性転生者のマリアベルがやってないわけないだろ! ということで庶民向けのプチプラになりました。

リムル・ミョルマイルも少し考えれば手を出してそうなジャンルですが、そういう研究開発に繋がりそうなポーション周りは現地人任せ、しかも男所帯にしてるので、多分ないだろう判断。


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