呼び出しを食らった。誰にって? ガゼル・ドワルゴにだよ。
シルトロッゾ内でベルペイ発行してたんだけど、そこを呼び出された。
ドワルゴンの隠密、意外と仕事してたね。
「申し開きはあるか」
で、呼び出されたから素直に向かったら、ガゼル王激おこでやんの。
まあそうだよね、現状のベルペイは金貨の価値を著しく毀損するからね。
「ドワルゴン金貨は素晴らしいものですが、
「悪か。自覚はあるのだな? 金貨による、実体を持った経済。これまではそれで回っていたのだ。……それにな、すでに心配いらんとは言うが、今以上に発展した社会は天使に徹底的に破壊されていたのだ。わかるか、この意味が。」
「わかりますとも。これ以上の発展は必要ないと言いたいのですよね? ですが、それは旧時代の理屈です。天使の脅威は、天魔大戦を乗り越え、リムル=テンペストが大魔王となった時点でもはやありません」
「急激な成長は民心の荒廃を招くと言っておるのだ!」
「不便は目に見えない鎖です。それを取り払うことがいけないと言うのですか、技術で身を立てている国家、ドワルゴンの王であるあなたが!」
うーん、ガゼル王一々もっともなんだよな。ただ、『これまでの常識』が今後の発展に蓋をする、と言う点に納得してもらわないと……いや、違うな、これ、説得されたがってるのか?
「実体を持たないベルペイと手数料ビジネスは確かに額に汗して稼ぐ金とは全く趣が異なります。悪にも見えるでしょう。しかしですね、ガゼル王。あなたが懸念されている『民心の荒廃』とは、空虚な数字に踊らされることではなく、『努力の成果が正当に、かつ迅速に循環しない停滞』によっても引き起こされるのではありませんか?」
「……続けろ」
よし、間違ってなさそうだ!
「ガゼル王、ドワルゴン金貨はあまりに『完成されすぎた現物』です。ですが、その希少性と物理的な重さが、今の爆発的な物流速度に対して『留め具』になってしまっている。
例えば、テンペストで生まれた新しい魔導具を、サリオンの魔導師が今すぐ欲しいと思った時。自国に置いていた金貨をテンペストまで馬車で運び、重さを量り、鑑定する……その数日間の停滞が、どれだけの『未来の損失』を生んでいるか。
ベルペイは、その『時間の溝』を埋めるための潤滑剤に過ぎません。
あなたが仰る『額に汗して稼ぐ金』の価値を、私は否定しません。むしろ、それをより輝かせるためのベルペイです。
小さな工房の職人が、素晴らしい新作を作った。これまでは口コミと近隣の商いだけだった。しかし、ベルペイとテレビがあれば、遠く離れた国の民がその場で『信用』を送り、職人は即座に次の材料を買える。
『努力が即座に報われる速度』を上げること。 これは荒廃を防ぐ手段ではないでしょうか?
ガゼル王、あなたは天使の襲撃を恐れ、文明の進歩を『管理』し続けてきた。それは王としての深い慈悲だったのでしょう。
ですが、大魔王リムルがその脅威を塗り替えた今、蓋をされ続けてきた民のエネルギーは行き場を求めています。ベルペイという『出口』を用意しなければ、それこそ内側から爆発し、修復不能な荒廃を招く……そうは思いませんか?」
沈黙が長い。うおおお俺はプレッシャーに弱いぞ!
実際には数秒のはずが、体感的には何時間にも感じられた沈黙の後、ガゼル王が口を開いた。
「良いだろう、ソウゴよ。貴殿の言う『時間の溝』を埋めるという理屈、一理あると認めよう。……だが、条件がある。
ベルペイの『帳簿』。その全容を、ドワルゴンと共有せよ。貴殿らが勝手に数字を捏造し、市場を虚像で塗り固めることは断じて許さん。そして、ベルペイの発行残高に対し、常に一定割合の『実物金貨』をドワルゴンの地下大金庫に預託せよ。数字が消えても、民の努力の結晶である金貨だけは、我らドワルゴンが物理的に守り抜く。それが、我ら技術の民が貴殿ら『虚業』に課す最低限の信義だ」
あ、勝ったわこれ。
「それが民のためになるなら、喜んで」
「言いよるわ、邪悪な手数料ビジネスを始める男が」
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同時刻、
《報告します。ガゼル=ドワルゴによるソウゴ=ツチダの呼び出しは円満に終わったようです》
「ん、ああ、シエルさん、そんなこと気にしてたのか。決裂しなくてよかったなと思うけど?」
《いいえ、決裂してもおかしくない、あるいは決裂すべき話し合いでした。これは
「えー? 要はICカード決済だろ? いいとおもうけどな」
《マスター、呑気ぶっこいてる余裕はあまりありません。今後開催が確実視されるキャッシュバックやポイント増額キャンペーンによって、
「通貨発行権があると、
《致命的です。『通貨発行権』とは、その国家における『価値の定義』を支配する権利です。これまではドワーフの鋳造する貨幣という実物資産がその中心にありましたが、ソウゴ氏は今、『ベルペイポイント』という独自の通貨を、許可なく勝手に刷り続けることが可能になりました。》
「……なるほど?」
《預託する金貨さえあれば、彼女らが明日、気まぐれに『ポイント50%還元!』と叫ぶことで、市場には裏付けのない購買力が溢れ、物価に制御不能なインフレを起こせます。逆にポイント利用を停止すれば、ベルペイを利用する経済圏は大規模な麻痺状態になります》
「でも、うちは導入してないし、関係……」
《あります。ペルペイの強みはその圧倒的な利便性です。利便性を認識した市民が『ベルペイで払えないなら、いらない』そう申し出る確率は低くありません》
「……どうすればいい?」
《現状、手遅れです。
「……シエルさん、そんなにヤバいの? 『平伏する』って、あのシエルさんがそんなこと言うなんて……」
《不本意ですが、論理的帰結です。マスター、想像してください。テンペストの商店街で、すべての店が『ベルペイなら5%キャッシュバック、かつ魔導具をかざすだけ』ですが、片や現金払いは『重い、小銭が足りない、割引なし』となった世界を。》
「……そりゃ、みんなベルペイ使うよな。俺だって使う」
《その瞬間、テンペストの通貨流通の心臓部は、我が国の国庫ではなく、ソウゴ氏のサーバーに移行します。もし彼らが『テンペストに所属する商店の決済手数料を明日から10%にする』と言えば、我が国の全事業者の利益が10%消失します。これに抗うには、『利便性を上回る強制力(武力)』で行使停止を命じるしかありませんが……》
「あいつら、一度俺を殺せることは証明してるんだよな……」
《まあそれもこちらからはまともに手出しせず、わざとやらせた結果ではありますが、"弑することができた"と言う事実が消えないため、こちらからの武力行使も不確実ですし、推奨できません。
……わざと負ける、と提案したことはミスでした。申し訳ありません。
そしてマスター、ご理解ください。ソウゴ氏は私たちに勝つため、『物理法則』ではなく『社会のルール』の上書きを達成しました。核撃魔法で人知れず銀行の建物を壊して止めることは可能でも、民衆の頭の中にある『ベルペイは便利だ』という常識はもはや壊せなくなります》
「……」
《負けましたね、マスター》
「そうだな。……でもまあ、便利にはなるよな」
《マスター?》
「負けて便利になるなら負けてもいいんじゃないかって、俺思うよ」
《……前向きですね、マスターは》
まだつづくよ。いちゃつきながら世界を破壊するだけですが。
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