とあるアストル(厄災の黙示録)の女神創造 作:ネシエル
病院の一室。
全身を包帯で巻かれた少年が、
ベッドに横たわりながら窓の外を見つめていた。
冷たい秋風が遠くで揺れる木々をそっと撫でる。
少年の目には、そこに広がる空の青さが遠く感じられる。
「俺……死ぬのか?」
弱々しい声が部屋に響く。少年は身じろぎもせず、
ただ天井を見上げた。
周囲を見渡してみる。
そこには誰もいない。ただ無機質な白い壁と、
生命を繋ぐための医療機器が低い音を立てているだけだ。
「どうして……母さんと父さんが来ないんだ……」
少年の声はかすかに震えていた。
天井をじっと見つめる少年は、
ゆっくりと手を持ち上げる。
細く青白いその指がかすかな光を掴むように伸びる。
「嫌だ……死にたくない……
だって、まだ……何も……」
言葉は途切れ、少年の手は力なく落ちた。
▲▲▲
木でできた小屋の中。
青年が床に横たわっていた。
やがてゆっくりと体を起こし、手足を動かしてみる。
「体が治っている……。手も足もちゃんと動く」
青年はそう呟きながら腕を振り、軽くジャンプした。
だが、自分の声がどこかおかしいことに気づく。
「でも……なんか声がおかしいな。薬の副作用か?」
辺りを見渡すと、木で作られた壁に古びた本が並び、
まるで童話に登場する魔女の部屋のようだった。
青年は再び独り言を漏らした。
「ここはどこだ……。病院じゃないよな、どう見ても」
青年は小屋を探索し始めた。
やがて自分の着ている服が目に留まる。
「あれ?俺、こんな服持ってたっけ。
でも、どこかで見たような……」
彼は服をじっくりと見つめ、
その後、部屋の中に飾られている鏡へと目を向けた。
そして、鏡の前に立つ。
「……!?」
鏡に映る姿を見た瞬間、青年は手を思わず突き出し、
鏡を割ってしまう。
「バカな……そんなことは……」
後ずさりながら、割れた鏡を呆然と見つめる。
その中に映っていたのは、青年自身ではなく、
彼がよく知る「アストル」という名の男の姿だった。
「アストル……俺はアストルになっている?」
驚きと混乱の中で、彼は鏡に映る自分の顔を手で触れ、
耳や髪を撫でながら確認する。
「間違いない……アストルだ。
厄災の黙示録の……あの、小物感の塊、三流悪役の教科書に……くそっ!」
怒りを爆発させるように、近くの椅子を蹴り飛ばす。
「ふざけやがって!なんでこんな奴に……!」
▲▲▲
アストル。
厄災ガノンの信奉者。占い師。
『ゼルダ無双 厄災の黙示録』における黒幕である。
だか、その実態はガノンの腰巾着。
自分の野望を語るわりに行動力は皆無で、
モンスターを操る以外の手段がなく、
計画は全て中途半端に終わる小物悪役。
威圧感やカリスマ性とは無縁で、登場するたびに失敗が約束されたような存在感を放つ。
最終的にはガノンに使い捨てられる運命で、
「三流悪役」としてプレイヤーに笑われるおろか、記憶にすらとどまらない、
反応集も作られず、薄っぺらい
テンプレみたいな、典型的なやられキャラ。
▲▲▲
小屋の隅に座り込み、
体育座りをして顔を隠すアストル。
「こんな奴に転生するくらいなら……
いっそのことリンクになればよかったのに……。
なんでこんなかませ犬に……」
しばらくして、彼は再び立ち上がり、小屋の中を探索し始める。
ふと床に落ちている古びた本に気づき、それを拾い上げた。
「これは……日記か?」
本を開いてみると、
そこに記された文字はなぜか読めた。
「……読める……これ、アストルの記憶なのか?」
日記を読み進めていくうちに、アストルの信仰心や占星術についての
記録が目に飛び込んでくる。その異様さに思わず顔をしかめる。
「うわっ、気持ち悪……本当にガノンを崇拝してるんだな、こいつ……でも……なんだ?」
アストルは日記に記された「星」の記述に目を留めた。
「星を見れば未来が見える……か。これは……占星術のことか?」
日記を閉じ、部屋の中を見渡すと、
窓際に古い望遠鏡が置いてあるのに気づく。
「星占いか……。
昔、俺も少しだけやったことがあったな……忘れたけど」
彼は望遠鏡を窓際に設置し、
レンズを覗き込んだ。
「……意外と見えるもんだな、これ。
古臭いけど……うん?」
そのとき、彼の目の前に青く輝く星が現れる。
その不思議な輝きに思わず見惚れる。
「なんだ、あの星……やたらと輝いて……不思議な感覚だ。
これが日記に書いてあった星か……」
だが次の瞬間、アストルの体に異変が起きた。
「……く、苦しい!」
叫び声とともに、彼はその場に崩れ落ちた。
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赤い瘴気に包まれた不思議な空間。
そこには二人のアストルがいた。一人は逃げ、一人は追う。
「はあ、はあ……どうしてこうなった……!」
前を走るアストルが必死に走りながら息を切らしている。
一方、後ろから追いかけるもう一人のアストルが声を張り上げた。
「待て!私の体を返せ、この賊め!」
前のアストルは転び、ついに後ろのアストルに追いつかれてしまう。
「……はあ、はあ……
いやだ、死にたくない……!」
「それは私のセリフだ!この偉大なるガノン様に選ばれた私が、
貴様のような小物に乗っ取られるなど!」
「小物だって……?」
その言葉に、前のアストルは自分が思わず口ごもる。
『小物……誰のことだ?いったいここはどこだ?
どうしてこうなった?』
倒れたら突然レースが始まり、訳の分からない状況に巻き込まれたままだ。
後ろのアストルは拳を振り上げると、倒れたアストルの胸元へと打ち下ろした。
「くっ……死ぬ……!」
その瞬間、アストルは心が悟ったかのように直感する。
このままでは終わると。
『嘘だ……また、何もできないまま、死ぬのか?』
その時、アストルの脳裏に思い出が蘇る。
『ねえ、お母さんたち、いつ来るの……?』
『きっともうすぐ来るよ』
あの頃の自分の姿。病院のベッドで、ただ親の訪問を待っていた少年の記憶。
『俺、いつか絶対に有名人になるんだ。
病気が治ったら……いつか……』
『お母さん……どうして来てくれないの……噓つき』
誕生日に訪れなかった家族。自分が願った未来。
「……いやだ……!」
アストルは振り下ろされる拳に向かって立ち上がる。
その手をかざし、防御の体勢を取る。
「俺は絶対に有名人になるのだ。大物になるのだ。
誰か貴様のような小物になるんだ。」
拳と手がぶつかる瞬間、
暗闇の空に裂け目が現れた。
「……!? な、なんだ……!」
二人のアストルは動きを止め、その裂け目から現れた景色を凝視する。
そこには青い地球の姿があった。
「……地球?」
宇宙空間に浮かぶ美しい生命の星。
その壮大な姿に、アストルの心は吸い込まれるようだった。
「なんだ、あれは……!」
追いかけていたアストルも驚愕し、一歩後ずさる。
すると、その場に響き渡る声が彼らの耳を突き刺した。
「消えよ」
「いやあああああああ!」
追いかけていたアストルは光に包まれる。
「嫌だ。死にたくない。
いやだ……私はまだ……やり遂げていない…
まだ、何もやっていない。
お助けを、ガノン様あああああああ」
その場から消え去った。
その姿は跡形もなく、灰すら残らない。アストルは呆然とその光景を見つめる。
「アストルが……一撃で……」
そのとき、声の主が姿を現した。それは地球の意志とも言うべき存在だった。
「我が子よ」
アストルはその声に驚きつつも、畏怖の念を抱き、問いかけた。
「あなた様は……一体……?」
「私は母だ」
青い輝きを放つその存在は、自らを「母」と名乗った。
「母……?」
「地球の意思、あるいはガイア論。呼び名はどうでもよい、好きなように呼びなさい」
アストルは平伏し、震える声で感謝の意を述べる。
「偉大なる母よ……なぜ、私を助けてくださったのですか……?」
母は優しく微笑みながら答えた。
「母が子を守るのに理由が必要だろうか?」
その言葉にアストルは息を呑む。母は続けた。
「生命誕生の瞬間から今に至るまで、私は私の上に住むすべての生命を見守り続けてきた。
人類だけではない。魚も植物も、神々も精霊も……私は皆を愛している」
「すべて……?」
「そうだ。負の部分も含めてな。殺し合いも、捕食も、弱肉強食もすべて了承している。
しかし、私が生み出した命が、それ以外の存在に脅かされるのは見過ごせない。
そして、私の子供の魂を誘拐し、殺そうとした不届き者も許すことはできない。
だから罰したまでだ」
アストルは再び深く頭を下げる。
「ありがとうございます……!」
母はその姿を温かく見つめ、言葉を続けた。
「さあ、我が子よ。戻ってきなさい。
輪廻の中で魂を洗い、新しい人生を始めるのだ」
アストルは立ち上がり、一瞬迷いながらも頷く。
「……地球に戻れる……新しい人生が始まる……」
だが、次の瞬間、彼の心に何かがよぎる。
『……いやだ。また、何もできないまま、何も残せないまま死ぬのは……』
アストルは震えながら頭を下げ、母に言葉を紡ぐ。
「……すみません、偉大なる母よ。
俺は、いや、私はまだ、何も成し遂げていません。」
言葉を噛みしめるように告げた後、深い沈黙が流れる。
母は言葉を発しなかった。
ただ静かに彼を見つめている。
アストルは拳を握り締め、さらに言葉を紡いだ。
「俺の夢は有名人になることでした。
自分が死んだあと、誰かに覚えていてほしかったんです。
何もせずに、意味もなく死ぬのが怖かった……。逃げ続けるなんて、嫌だ。
もし、新しい人生を始めても、
今の俺の無念を晴らせるわけじゃない。
だから、お願いです。俺をこの世界にいさせてください。」
彼の声は震えていたが、決意の炎は確かに宿っていた。
「誰も成し遂げたことのない奇跡を、
誰も達成できない偉業を、成し遂げたいんです。
前世の俺はただの凡人で、
何ひとつ歴史に刻むこともできませんでした。
だから、今世こそ――
俺は、俺にしかできないことをやり遂げたい。
悪には悪の美学がある。
歴代ゼルダのどんな悪役にもやったことがないことを
誰にもなしえない奇跡を、
誰も達成できない大偉業を。
今度こそは何を刻みたい。
凡人である自分しか知りえない。
自分にしかできない。」
その言葉を聞いて、母は目を細めた。そして短くうなずくと、静かに答えた。
「わかりました。」
アストルの瞳が見開かれる。
「……え?」
「あなたの願いを聞き入れましょう。」
その言葉に、アストルの胸に安堵が広がる。
彼は心からの感謝を告げた。
「ありがとうございます……!」
だが母は続けた。
「ですが、今のあなたのままでは、その世界でできることに限界があります。
星が悲鳴を上げているのが見えます。
神が星を作るとは、なんで恐ろしい愚行。
別次元とはいえ、ここで偉業を成すのには力が必要です。
私からささやかな贈り物を渡しましょう。」
そう言うと、母は手をかざし、アストルを包む光が広がる。
次の瞬間、アストルの身体は宙へと浮かび、彼の意識は星の彼方へと向かっていった。
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大気圏突入
「うわあああああ!」
アストルは目もくらむような光の中を落ちていく。
やがて、彼の身体は淡い青い輝きに包まれた。
「恐れることはありません。今のあなたは霊体――つまり魂そのものです。」
母の声が耳元で響く。
「す、すみません……。」
恐怖をこらえながら彼が答えると、母は優しく微笑んだように感じる。
「では参りましょう。」
そう言われた直後、アストルは大気圏を突破し、青い海へと突入した。
彼の霊体は水を切り、深海の底へと進む。さらに地面をすり抜け、
一時間も落ち続けた末に、彼の視界に青く輝く核が現れた。
「母……ですか?」
アストルが問うと、核の中から答えが返る。
「そうです。我が子よ。」
その核は青い線を無数に伸ばし、アストルの身体へと繋がった。
「あなたの道に祝福を。星の力。
これはあなたの役に立つでしょう。」
線はアストルの中に吸収され、アストルの体の表面には銀河が写り込んでいる。
▲▲▲
「あなたの名前はどうしますか?」
母が問うと、アストルは一瞬考えた。
そして静かに答える。
「……アストル、です。」
「その名前を選ぶのですか?」
彼は力強くうなずいた。
「そうです。あいつも本当は死にたくなかった。
形はどうあれ、俺は彼の身体を奪ってしまったんです。
彼の断末魔に思わず、同調してしまった。
だからこそ、俺が彼の名を背負い、
凡人ではなく大物になる。
世界にその名を指し示す存在へと名声ではなく偉業へ、名前を忘れても
偉業は消えませんから。」
母は微笑み、さらに問う。
「そうですか。
それなら苗字はどうしますか?」
アストルは一瞬考え、答えた。
「……アニムスフィア。アストル・アニムスフィア。
某スマホゲームの中で一番大好きなキャラクターの苗字をいただきます。
ガイア論も出ていますし、
天体観測のようで、よく似合うと思いませんか?」
「ふふ……いい名前ですね。」
母の声はどこか誇らしげだった。
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アストルの設定、原作の
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