とあるアストル(厄災の黙示録)の女神創造 作:ネシエル
小屋の中
ゼルダはアストルの言葉に動揺を隠せなかった。
「そう……ぞう、しゅ?」
その言葉の意味を理解できず、ゼルダは戸惑いながら問い返す。
アストルは小さく息を吐き、肩をすくめた。
「ああ、すまない。言い間違えた。
厳密に言えば、“再現者”だ。」
「再現者……?」
ゼルダの眉がひそまる。
アストルは軽くお辞儀をしながら、丁寧な口調で続ける。
「君たちの記憶、記録、能力、人格、感情、精神――そのすべてを“切り取り”、霊核で再現した者。
アストルと申します。親愛なる女神よ。」
ゼルダは混乱の渦の中にいた。
「再現者……記憶……霊核……?
あなた、一体何を言っているの……?」
頭が追いつかない。
ここまで混乱したのは、かつて地上に降り立ったばかりの頃、奇妙な老人に出会った時以来だ。
アストルは彼女の困惑を見透かしたように微笑む。
「ふむ、どうやら理解できていないようだ。
これは説明するよりも、直接見せた方が早いな。」
そう言って、彼は掌をゆっくりと上げた。
そこに浮かび上がるのは、青く輝く球体。
それはまるで高度な情報体のように時折ノイズを発生させながら、淡い光を放っていた。
「これは何だと思いますか?」
ゼルダはじっとそれを見つめ、慎重に答える。
「これは……魔力の集合体?」
アストルは笑みを深める。
「半分正解です。
これは霊核――私が開発し、インストールした情報体を再現する核。
情報体――つまり設計図を与えられた瞬間、肉体や外郭を生み出し、能力すらも再現できる代物です。」
「例えば、このように――」
アストルは霊核に魔力を注ぎ込んだ。
霊核がノイズを発しながら形を変え、徐々に膨張する。
やがて、彼はそれを握り締めた。
すると――
一本の剣がそこに生まれた。
ゼルダの目が驚愕に見開かれる。
「これは……女神の剣……!」
「厳密に言えば、そのレプリカです。」
アストルは剣を軽く振りながら言う。
「本物のような特殊能力は再現していません。
ただ、他の剣よりも頑丈に作られています。
もし、もっと精度の高い霊核を使用すれば――完全再現も可能だったでしょう。」
そう言うと、アストルは剣を消し去った。
そして、ゼルダの前に向き直る。
「再現できるのは、剣だけではありません。」
「……!?」
ゼルダは息をのむ。
「生物すらも、再現できます。」
アストルは冷静に告げる。
「己の胸に手を当てなさい。
心臓といった重要な器官は霊核に深く繋がっています。」
ゼルダは恐る恐る、自らの胸に手を当てた。
そして――感じた。
自分の体を繋ぐ“線”。
その中心には、眩く光る霊核が存在していた。
「……私の体は、魔力でできている……?」
ゼルダの声が震える。
「厳密に言えば、私の魔力です。」
ゼルダは顔を上げた。
「あなたは……何者なの?」
アストルの瞳が冷たく光る。
「落ち着いて聞いてください。
ここは――あなたが知っているハイラルの遥か未来の世界。
そして――あなたの正体は……」
アストルは、ゼルダに関する事実を、一から十まで丁寧に説明した。
彼女の正体。
ゲームのこと。
そして、霊核の本質を。
ゼルダは沈黙したまま、その言葉を飲み込んでいく。
やがて、彼女はぽつりと呟いた。
「つまり、私は……あなたが持っていた“ゲーム”という絵本から召喚された存在、ということですか?」
アストルは微笑む。
「まあ、そう認識してもらえれば構いません。
補足するなら――私はゲームに保存されていたデータを利用して、あなたを“再現”したのです。
だから、正確には召喚ではなく、創造と言った方が適切でしょう。」
ゼルダは静かに、拳を握る。
「……私は、偽物だったのですね。」
アストルは黙った。
ゼルダの唇がわずかに震える。
「もしあなたの言う通りなら……物語には必ずモデルがあって、私の記憶も感情も、すべて最初から決まっていて……
あの冒険も、私がリンクに抱いていた気持ちも、全部“嘘”だったのでは?」
アストルは静かに首を振った。
「それは違う。」
「!!」
「嘘じゃない。」
アストルの言葉は、どこか静かで――確信に満ちていた。
「君が感じたものは確かに本物だった。
霊核は全てを再現できる。
その感情が再現されたのは――それが君自身のものだったからだ。」
「……」
ゼルダの目が揺れる。
「偽物が本物よりも劣る――そんなことはないでしょう?」
ゼルダは静かに問いかける。
「……あなたは、何故私を作ったのですか?」
アストルの瞳が、怪しく光る。
「簡単だ。」
「神を作るため。」
ゼルダは息をのんだ。
「神を……作る?」
「そのままの意味だ。
女神ハイリアを復活させ、その存在を見届けたい。
それが、私の目的だ。」
ゼルダの顔が驚愕に染まる。
「なぜ……そんなことを?」
「神の復活と聞いて、普通は喜ぶものじゃないか?」
アストルは肩をすくめる。
「まあ、俺は神を信じていないから、そこはよくわからないけど。」
そして、彼は不敵な笑みを浮かべた。
「しいて言うなら――
俺は有名人になりたいからだ。」
ゼルダの思考が止まる。
「……え?」
アストルは淡々と続けた。
「世界を滅ぼすでも、支配するでも、救うでもない。
じゃあ、俺に残された選択肢は――神を作るしかないじゃないか?」
ゼルダは言葉を失っていた。
「……」
今まで、神の復活を目指す者たちを幾度となく見てきた。
強大な力を求め、崇めるべき存在を呼び戻そうとする者たち。
だが、消去法で神の創造を選ぶなど――
そんな発想はこれまでのどんな狂信者よりも理解しがたいものだった。
ゼルダは、自らが女神ハイリアの転生であることを自覚している。
それでも、目の前の男の思考は常軌を逸しているとしか思えなかった。
アストルは静かに続ける。
「私は最強にはなれない。」
淡々とした声。
「だが――最強を作ることはできる。」
ゼルダは僅かに眉をひそめた。
アストルの瞳には、狂気にも似た確信が宿っていた。
「私が作る神は、ただの神ではない。」
「……」
「最強の神、完璧な神、永遠の神。
死の概念すら超え、この世界の頂点に立つ究極の一を作り上げる。」
ゼルダは息を呑む。
「それが――俺の目的だ。」
アストルの声には、一点の迷いもなかった。
だが――
ゼルダは静かに首を横に振った。
「そんなこと、できるわけがない。」
アストルは微笑む。
「いや――できる。」
彼の声には自信が満ちていた。
「俺には“リンク”がついている。それならば、できる。」
ゼルダの表情が硬直する。
「そのために――君を生み出したのだ。」
アストルは静かにゼルダを見つめる。
「そうだろう? ゼルダ。」
「……」
「女神の精神よ。」
ゼルダの胸の奥が、冷たい何かに締め付けられるような感覚に襲われた。
自分は、何のために生み出されたのか。
アストルの言葉が、残酷な真実を突きつける。
――彼女は、創られた存在。
アストルは神を作るためにゼルダを“創造”した。