防具屋の苦情対応   作:誠一

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【スキル:挑戦者】

「この店の防具作ってるやつはどいつだ!?」

 

防具屋を営んでいると様々なお客様がいらっしゃいます。

本日のお客様はこちら。背はそのあたりの村人より頭半分ほど高く、

がっしりとまでは行きませんが必要なところにしっかり筋肉がついている。

顔は悪くないのですが何故か左目付近に青痣があります。普通に歩かれている以上

大きな怪我は無いようですが…、またお怒り気味なのにやたら声が良く

どいつだ?と聞かれたら。と私が申し上げれば『答えてあげるが世の情け』と

返してくれそうな響きがあります。そんな内心はさておき、仕事を始めましょう。

 

「お客様、恐れ入ります。只今不在でございまして…

よろしければわたくしがお話を伺いますが」

 

ご要望のまま担当へ取り次いだとしても良い事は何一つございません。

お客様がお怒りの場合、初期対応がその後の全てを決めます。

まずは適切な情報収集が最優先です。

 

「この店で買った防具のせいで酷い目にあったからよ。どうしてくれんだ!」

 

「これは大変失礼致しました。当店の防具でご不便をお掛けし申し訳ございません。

恐れ入りますが一度防具を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか」

 

謝罪する時は「ご不便をお掛けし」や「ご不快な思いをお掛けし」と、

お気持ちを害した点に。単純な謝罪は当方の非を全て認めた事になってしまいます。

 

 

「おう。これだ」

 

「ありがとうございます、少々拝見させて頂きます…

ちなみにどのような事があったかお教え頂けないでしょうか」

 

「おう。これにはよ、スキルで挑戦者が発動するようになってんだろ?」

 

「仰る通りでございます」

 

「うちのカミさんがよ。怒るとそりゃあまぁ怖えのなんの。

アレに比べれば激昂ラージャンなんか近所の癇癪起こしたクソガキみてぇなモンよ」

 

 

 

何の話でしょうか?

 

 

 

「…左様でございますか…奥様がご気分を害された時…お客様は非常に…その…

苦労をされているとの事でございますね」

 

「おお!そんでよいつも負かされてばっかなのもアレだから、この防具よ!

挑戦者ってのは相手が怒ってる時にこっちが強くなるんだろ?だよなぁ!?」

 

挑戦者スキルは大型モンスターが怒り状態の時に装備者の攻撃力と会心率を

向上させるスキルです。こちらの方は自分の奥様が大型モンスターと認識されているのでしょうか。いや、ここで話を否定するのは二流の仕事でしょう。

 

「…ある意味では…仰る通りでございます」

 

「だろぉ!だからこっちもその防具を信じて強気に行ってみたけどよ、見ろこの顔!

いつも以上にケチョンケチョンにされちまったのよ!」

 

「……左様でございましたか…。ご期待にお応えできず大変失礼致しました」

 

「おう、つーワケでこんな防具いらねぇ、金と素材を返せって話だ。わかったか?」

 

 

 

正直、内心では「何寝ぼけた事ぬかしてんだこのクソボケ」とも思いましたが、

この場で逆上されたり、変な悪評を広げられ店に損害が出るのも面白くありません

苦情を商機に変えてこそ一流。ここは思考を切り替えて対応致しましょう

 

 

「…お客様…大変恐縮ではございますが、少々ご確認してもよろしいでしょうか」

 

「なんだ」

 

「お客様が奥様へ…どのようなお話かは存じませんが仮に反論されたとしましょう。

奥様は普段より更にお怒りになられたのではありませんか?」

 

「そうだよ!そりゃぁもう普段より何倍も何十倍もおっかねぇ顔でよ!」

 

「そこです」

 

 

「…は?」

 

 

「挑戦者スキルは相手が怒り状態の時にお客様を単純強化するのではございません。

攻撃力と会心率を強化するのです。すなわち!お客様が奥様へ反論された言葉の

威力が上がり、更にクリティカルな言葉となった為、奥様がより激昂されたのです」

 

「!!!!!!」

 

「お客様の夫婦関係を悪化させてしまった事、心苦しい限りでございます。

しかしながら防具の効果が無かったワケではない事は何卒ご理解下さい」

 

 

相手の認識を否定せずに同調し、現状の被害『だけ』を、

謝罪はせずに共感。その上でこちらの商品に問題がなかった事を滑り込ませます

 

 

「防具のスキルどうこうじゃねぇのはわかった…わかったけどよ…

じゃぁ…じゃぁ俺はどうすればいいんだよ」

 

 

人は自分に度々共感してくれる相手には怒りを持続させる事が出来ません。

傾聴、共感で相手の激情を何とか鎮めたとしても今度は感情で振り上げてしまった

拳が下ろしどころを求めて彷徨います。ここ!この感情の揺らぎの隙こそ攻め時!

 

「僭越ながら、わたくしより一つご提案がございます」

 

「なんだ?」

 

「私の経験則で恐縮ではございますが、怒れる女性に正面切って戦うのは

得策ではございません。ハンター家業も装備や道具を整え、相手の機を見て攻撃、

回避を選択し、時には環境や罠を駆使して戦うかと思いますがいかがでしょう」

 

「まぁ…そうだな。新人や、弱いヤツならまだしも古龍とか相手に真正面から挑むのは命知らずかよっぽどの馬鹿だ」

 

「そこで、こちらのナルガX防具。こちらは回避性能、回避距離、一旦お怒りな方の

地雷を踏みぬかないよう、危機を回避する事に特化しております。

怒り状態が解けた時にこのセクシーな胸元を見せて

『さっきはごめんな。怒ってる顔が可愛くて心にもない事言っちまった』

と優しくお伝えください。」

 

「そ、そんな事…」

 

「最初は反発されるかと思いますが、すでにお怒りである以上、これより悪化はございません。万が一の時には回避性能と回避距離の出番。万事上手くいった場合、そのまま夜の乱入クエストに発展したとしても体術も付いておりますので安心です。不安でしたらスタミナ急速回復の装飾品を私のサービスでお付けしますが…」

 

 

 

 

          ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「店長ぉー。お疲れ様でしたー。大丈夫でしたかー?」

 

カウンター奥の事務所から少女が顔を出してきました。

 

「あぁ、裏にいたんですね。ええ、ちゃんと『ご納得』頂きましたよ」

 

返事の代わりに元気ドリンコの瓶が放り投げられる。態度こそ褒められたものではないものの、氷結晶と保管していたのか程よく冷えています。感謝を伝え

封を開け一気に飲み干すと、乾いた喉が潤い酷使された脳が癒されるのを感じます

 

 

「詐欺じゃないんですか?あれ?挑戦者どうこうの話…」

 

「私は挑戦者スキルの説明の後に、あのお客様がたまたま攻撃力の高いクリティカルな言葉を言ったであろう事をお話しただけで『スキルのせいで』とは一言も言ってません。『夫婦喧嘩』に場面を限定したワケでもないので「防具に効果が無かったワケじゃない」も嘘じゃないですよね?」

 

「げぇ…。結局ナルガ防具の受注は取りましたけど…

また文句言われても知りませんからね…」

 

「いいんですよ。夫婦関係は気持ちの問題。うまくいけばよし。駄目だった時は」

 

「駄目だった時は?」

 

 

 

「今度は幸運スキル付き防具が一つ売れるかもしれませんね」

 

 

~【スキル:挑戦者】 対応完了~




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