防具屋の苦情対応   作:誠一

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【スキル:広域化】

「失礼する」

 

 

防具屋を営んでいると様々なお客様がいらっしゃいます。

本日のお客様はこちら。ややがっしりとした肉体。上半身の威圧感が、

凄いものの足回りもしっかりしている。体幹が異常に安定している事から、

メインの武器は腰を据えてじっくり戦うランスかガンランスかと思われます。

鍛え抜かれた肉体から放たれた声は低音だけれども独特の色香を放っており、

私が「カボチャは何科でしょうか?」と訊ねたら「WRYYYYYYYYYYーーッ!」と

返してくれそうな響きがあります。そんな事はさておき仕事を始めましょう

 

 

「いらっしゃいませ、お客様。本日はどのようなご用件でしょうか」

 

「先日来た者だが、一緒に頼んだ彼女…いや、連れの防具の件で相談があってな」

 

 

直近で男女二人組での来店、注文書の控えを確認すれば間違いはないものの、

脳内の記憶を瞬時に掘り起こし、その場で対応致します

 

 

「かしこまりました。確か先日のお話ですと女性用の早食い、広域化のスキルに

特化させた防具をご注文だったかと記憶しておりますが」

 

「流石だな。その通りだ」

 

 

人は自分の事を覚えていてくれる相手には好意的になる傾向がございます。

何度か通っただけの飲食店がこちらの好みを把握していると嬉しくなるように、

お客様の事を記憶し対応する。一人のお客様をいかにして常連となるファンに変えるか。

これが商売人の醍醐味と言えるでしょう。

 

 

「既にご依頼済み防具の相談と仰いますと…具体的にはどのようなお話でしょうか?」

 

「実はだな…装備の広域化スキルのレベルを、その…少し下げてもらえないだろうか?」

 

「…ご依頼時は広域化は上限までのご希望で承っておりますが…何かご事情がおありなのでしょうか」

 

 

基本的にダウングレードのご希望の際は物理的に出来なくはないものの

予算の削減や別の優先したいスキルの兼ね合いなどがほとんど…。

防具の性能は生存率に直結する以上、安易な考えであればお客様といえども、

お断りすべきお話ではありますが…

 

 

「実は…いざ話すと…彼女は婚約者でな。雪深い所に住んでいた俺の村に移民として

やってきたのが彼女の一家だった。彼女と出会ったのはまだ歳が十を数えないくらいだったか…」

 

これは話が長くなりそうです。しかしお客様が個人的なお話をして下さる時は、

こちらに心を開きつつある状況でもあります。ここはじっと堪え話を吟味し、

内容と商機を見極めるべきでしょう。

 

 

「彼女の一族は砂漠の生まれでな。肌が黒く、俺の地方では悪目立ちしていた。

幼い子供は純粋だが時に残酷だ。肌の色で彼女をからかっていたんだ。

それを見て俺は我慢が出来なかった。『いじめはよくない。俺が彼女と代わろう』と。

そこで彼女を助けたのがキッカケで」

 

 

「あの」

 

 

「ん?」

 

 

「お客様、大変申し訳ございません。今のところ今一度お話頂けないでしょうか」

 

「すまない。聞き取れなかったか?」

 

「いえ、あの、私が聞き違えた可能性がございます為…大切なお話なのに申し訳ございません」

 

「彼女を助けたのがキッカケで」

 

「その前からお願いできますか」

 

「わかった。肌の色でからかわれていた彼女がいて」

 

「はい」

 

「そこで俺がこう言ったんだ。」

 

「はい」

 

「『いじめはよくない』」

 

「はい」

 

「『俺が彼女と代わる』」

 

「どうして」

 

 

 

聞き間違いではなかった。むしろ聞き間違いであって欲しかった。

いじめはよくない。ここはいい。正しい。正常だ。

何故「彼女と代わる」のか。いじめを否定しておきながら対象が変わったとしても

いじめは無くなっていない、矛盾している。いや彼の中ではいじめと表現してはいけない

もっと別のナニカに変化しているのではなかろうか。ならば矛盾しない

いやまだだ。まだあわてるような時間じゃない。

私の勘違いである可能性がまだ残っています。希望を捨ててはいけません

 

 

「どうして…か。当時は『そうしてほしかった』という感情以外なかったが今思うと、

あれが俺の目覚めだったのだろう。実を言えば…俺は痛みに快感を覚える性分なんだ」

 

 

 

僅かに残っていた希望は儚く砕け散りました。

 

 

「だからこう…いろいろな武器を扱ってきたがどうやらランスが性に合っているようでな。

痛みと快感を感じつつ味方を守れたり、全身で痛みを味わいたいのを堪えて…攻撃もアレコレも我慢していると、

なんかこうな、こみ上げてくるものがあるんだ」

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「まぁその先もいろいろあったんだが今回彼女が俺を助けようと、

広域化で回復をしてくれるのはありがたい。

ありがたいんだが…その…痛みがいい感じになってきた所でそれがスゥーっと、

無くなっていってしまうと…ほら…わかるだろう?」

 

つらい。なんと言うか…そう。つらい。私が何をしたのでしょうか。

ここまでの仕打ちをされる悪行を重ねていたというのでしょうか

 

いやしかしここは私もプロです。

 

 

「お客様、出過ぎた事やもしれませんがこの度のご依頼、承るワケには参りません」

 

「何故だ?費用ならもちろん出そう。追加で必要ならその分を出してもいい」

 

「恐れ入りますお客様…お金の話ではないのです」

 

「何だと?」

 

「いくらランスのガードが固くとも不慮の一撃で大きなダメージを受ける場合もあるでしょう」

 

「まぁそれは…時折ガード自体ができない場合もあるしな」

 

「体力が減ったら回復薬を飲んだり、キャンプに一時帰還しますよね」

 

「そうだな」

 

「お客様…その時間。正直もったいないと思いませんか?」

 

 

相手に同調し、あるあるとなってからの一太刀。

ここが転機

 

「…と言うと?」

 

食いついた!

 

「狩猟場に滞在できる時間は限られている。すなわちモンスターと相対し、刺激を受けられる時間は有限なのです。

回復を行う、キャンプに帰る。生存の為には結構…しかしその行為はお客様がモンスターからの刺激を受ける時間を削る、

毒!害!機会の損失そのものなのです!」

 

「…!!!!!!」

 

「お客様がすべきなのは広域化に手を加える事では御座いません。幸いにも婚約者様が全ての意味で支えて下さっているのです。その振る舞い、支援を無駄にせず時間いっぱい有意義にイキ抜く事。…違いますか?」

 

頑強そうなお客様が瞳を潤ませ…そして膝を付きました。

 

 

「すまない店主よ。私はなんと愚かなことを」

 

「お客様、とんでもない事でございます。まだ誤っておりません。ちょっとした仕様相談です」

 

「しかし、それでは気が済まぬ。店主よ。私を罵ってくれ!」

 

「申し訳ございませんお客様。ご対応致しかねます」

 

「いやそれでは気が済まぬ。さぁ!罵倒して、尊厳を踏み躙ってくれ!さぁ!」

 

「お客様、当方は防具屋ですのでそのようなご希望にはお応え致しかねます。ご理解ください」

 

「す…すまない…少し冷静にならねばな」

 

「ご希望に沿えず申し訳ございません。しかしながらお客様」

 

「…?」

 

「実はお客様のご希望にある意味、お応えできる防具がございまして…」

 

 

自分の領分を超えた商売はするべからず。しかし

 

「こちらのモスを模した頭防具…被れば豚…いやモスの気持ちになれるでしょう。

お客様のご希望に沿えるかと思いますが如何でしょうか?」

 

自分の領分に引き込めたのなら顧客を満足させるよう努めるべし

そうして私は豚を見下すような目付きでにっこり微笑みを浮かべました

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

「店長、終わりました????」

いつもの従業員がちゃっかり奥から顔を出してきました

 

「ええ、もうお帰りになられましたよ。」

 

 

「あの人、ちょっと怖いんで来たら引っ込んでいいですか?」

たしかにややツリ目でもあり、なんだか女性の血液を吸ってそうな、

雰囲気がありますがそれ以上のあの性癖があまりにもアレです。

避けておいた方が無難でしょう

 

「まぁ従業員の身を守るのも店主の務め…。仕方ないですね」

 

 

「もし…」

 

「はい?」

 

「店長が婚約者さんの防具見繕うとしたら、何かこういうのとかあるんですか?」

 

急な質問に驚いたものの、彼女の瞳はからかうのがためらわれる程の真剣みを帯びていました。ここで変に逃げるのも不義理でしょう。

 

「そうですね…最高級かつ見た目も整えたい所ではありますが…強いて言えば」

 

「強いて言えば?」

 

 

「スキルに頼らず『満足感』くらいは何とかしたいですね」

 

 

 

~【スキル:広域化】対応完了~




ここまでお読み頂きありがとうございます。
世の中にはいろんなことを仰ってくるお客様がいらっしゃいますので、
本当に客商売って大変だなぁ…とひしひし感じております。
論破するんじゃなくてお互いの着地点をいい感じに見出すのが、
大切だと思っています。まぁダメな人には何言ってもダメですが(白目)

ここまでお読み頂きありがとうございました
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