TOUGH ハンティング・ファイト   作:ポジョンボ

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1,プレデターズ・ファイト

 

 

静寂の夜空に巨大な何かが飛来し、滞空する。

 

下の地面に大きな影を落とし、機械特有の起動音が大きくはないながらも滞空する何かから鳴っている。

 

しかし誰もそれの存在には気が付かない、見える筈の巨大な何かは、しかし誰の目にも見えなかった。

 

確かにそこに存在する、しかしその姿形は空と一体化するかの様に、透き通って誰の目にも映らない。

 

 

ただ近くにいた山の鳥獣達は視覚ではない別の感覚から、自分たちの世界に何かが到来したのを察知した。

 

ある獣はざわめき、ある獣は逃げ出し、ある獣は沈黙し、そして気が付いた全ての獣が慄いていた。

 

 

 

「…………」

 

 

ざりっ、という音と共に少し肌寒い外気が漂う山中の林にソレが降り立った、下の地面も冷たく、伸びた雑草は露で濡れ、周りには薄い霧が立ち込める。

 

時刻は誰もが寝静まる深夜、天候は山に立ち込める霧とは裏腹に雲一つなく満月が照らす、澄んだ空気が場に満ちる。

 

 

「………」

 

「莠コ髢薙&繧」

 

 

ソレが発した抑制の無い音は、鳴き声ではなく言葉だった。そして片腕に取り付けられた装置を、もう片方の腕で操作して起動させる。

 

青い光が一瞬だけ林の中を照らし、ソレの身体を伝う様に包んだ、そしてソレの姿も遥か頭上で滞空する巨大な何かと同じ様に、実体を持ったまま空間と同化して透明になった。

 

 

巨大な何かが、滞空をやめて何処かへ飛び去った。

 

 

そしてソレも、“青一色に染まった視界”に存在するその山のシルエットの中に、“生命を現す赤色”を探して一歩を音もなく踏み出す。

 

恐ろしく残酷な狩りがこの山で始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

早朝、朧山。人里離れた険しく過酷な自然に囲まれた山中、古くより霊峰として数多の修練者や武芸者の稽古の地ともなってきたその山。

 

その山奥に灘・真・神影流の道場は存在した。

 

 

「館長、よろしくお願いしますっ」

 

「「よろしくお願いしますっ」」

 

 

古めかしい趣を見せつつも、真新しく建設された道場の中に数人の張りのある声が響く、そこには白い道着に身を包んだ門下生が数人。

 

 

「おう、寝坊しとる奴はおらんようやな」

 

 

そして道場の主にして門下生に指導を行う館長の男、全身のどこをとっても極限まで鍛え抜かれている。上半身のシャツははち切れんばかりの胸筋で張り、下半身もズボンの下からでも分かるほど強靭、それでいて柔軟だ。

 

何よりもその身に宿るは身体能力以上に優れた武、天賦の才に加え血の滲む積年の努力と鍛錬により積み上げられた武術の技をこの男の肉体が内包している。

 

 

「そんじゃあ始めようか」

 

 

短く刈り揃えた金髪の男、名を宮沢憙一。古流武術、灘神影流の15代目当主にして今は新たに興した灘・真・神影流の当主でもある。

 

この山奥の道場に集った門下生は皆、この憙一の凄絶なる武の噂を聞き付け弟子入りを志願したのだ。

 

 

「まぁと言ってもやる事は何時もと変わらん」

 

「ウォームアップからの山一周走り込みによる体力付け、腕立て、腹筋、スクワットと言った筋トレその他もろもろ、それが終われば地道な型稽古や」

 

「あのう、しかし館長…ここに来てから3ヶ月になりますがもう基礎の身体トレーニングに型稽古しかしていません」

 

「そ、そうです、灘・真・神影流の技はまだ何も…」

 

 

しかしその束ねていた筈の門下生から不満の声が上がる、与えられた修行への疑問が見て取れた。憙一はそれに少し目を細めると淡々と答えた。

 

 

「ほう、館長のやり方に意見とは度胸あるやんケ」

 

「い、いやっ、それは…」

 

「お前らも技なんてもん一朝一夕で身につくもんやないことぐらい分かるやろ?何年もアホほどキツい鍛錬を重ねなあかん」

 

「は、はいーっ、でもだったら尚の事速く…」

 

「よちよち歩きの赤ん坊に立つより速く走り方を教えてどないするんやって話や」

 

「えっ」

 

「なら聞くが技は何年も掛けなきゃならん事は分かってて、それの土台になる肉体や型はたった3ヶ月で完成するっちゅうんかい」

 

「!!」

 

「ちと意地の悪い言い方になったのお、けど実際お前らはまだまだ技うんぬん以前の段階や、肉体もメンタルもまだまだ全然鍛えたりんわっ」

 

「全ての土台となる肉体に基礎、それらは技を習得するのと同じくらい長い時間かけて作るしかないんや」

 

「近道なんて無い、ありふれた言い回しやが積み重ねが大事なんや、それが全てと言える」

 

「か、館長…」

 

「まっ、ワシの場合は天才やったからのお!技はもっぱら秘伝書を盗み見てモノにしとったでェ、アハハハ」 

 

「館長…申し訳ございませんでしたあっ、生意気言ってすいませんでしたあっ」

 

「おう、分かったら走り込みにその他トレーニングと型稽古、さっさと始めてもらおうかのお」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

考えを改めさせられたと言わんばかりに深い謝罪と尊敬を顔に浮かばせる門下生は道場から出て山中へと走り去り言われた修練に向かっていく、憙一もそれ以上は何も言わず見送った。

 

憙一は一人残った道場の中で虚空に向けて呟く。

 

 

「ほんまヒヨッコのクセして生意気やでェ」

 

「しゃあけど…」

 

「ワシも似たようなモンやったんやろなぁ…オトン」

 

 

見上げた虚空に父にして今も尚武人として、一人の人間として目指すべき人物の姿を思い浮かべる。

 

その父の目から見たかつての自分もまた、呆れるほど未熟な上に生意気で、さぞ可愛げの無い子であっただろうと人に教える立場となった今そう思った。

 

しかし憙一とその父、静虎の間には親子として、師弟として、確かな愛情が存在した、その静虎から受け継いだ教えは憙一の肉体と精神の両方を形作っている。

 

 

「人として師として、ワシもまだまだ未熟やな」

 

「弟子にやらせて館長がサボっとる訳にもいかん、そろそろワシも……ん?」

 

 

憙一も自らの鍛錬に打ち込もうとしていたその時、道場の引き戸がノックされる、門下生ではないだろう、まだ飛び出して5分と経っていない。

 

 

「道場破り…なわけ無いわな、こんな山奥に」

 

 

思い当たる人物が居らず、疑問に首を傾げながらも憙一は入り口の引き戸に近付いてそれを開けた。

 

 

「どちらさんや…って、えっ」

 

 

「道場破り希望です……なんてね!」

 

「よっ、キー坊!」

 

 

そこに立っていたのは予想外の人物だった、厚手のジャケットを着たショートボブヘアーの若い女性、憙一を親しげに馴染みのあだ名で呼び微笑むその女性の事は勿論憙一も知っている。

 

 

「和香ちゃん!?」

 

「久しぶり!」

 

 

その女性の名は宮下和香、憙一が二つの流派を統合し灘・真・神影流を立ち上げるよりも以前、死闘の末に廃人同然と化した静虎を治療すべく身を投じた戦いの過程で知り合った。

 

年若い女性の身の上でありながら武術家として確かな実力を持ち、父の跡を継ぎ石心流空手道場の館長を務めている。

 

 

「灘・真・神影流を立ち上げて道場も新築したって聞いたからね、ちょっと様子を見に来たんだ」

 

「そりゃあ嬉しいのお、しゃあけどこんな山奥まで来るの大変だったんとちゃう?」

 

「もう、キー坊愚弄するつもり?私だって武術家だよ」

 

「アハハ、こりゃ大変失礼しました、さっ、積もる話もあるし中に入ってくれや、お茶くらい出すで」

 

 

和香を道場の中へ案内し、来客用に一応用意だけしていた湯呑みに茶を入れて丸テーブルの上に置く、対面して座る両者は数カ月ぶりの再会を祝する。

 

 

「にしても久しぶりやのお」

 

「もう2年近くになるかな、キー坊がハイパー・バトルで優勝した後、暫く一緒にいたけど私も道場の経営がちょっと忙しくなってね」

 

「キー坊の方もまた何かに巻き込まれたり首を突っ込んだりして戦っているだろうなって、何となく思ってたけど正解だったみたいだね」

 

「不知火御殿での戦い、私も見たよ」

 

 

不知火御殿での戦い、それは今ある灘・真・神影流立ち上げに大きく関わる転機。灘神影流と幽玄真影流、歴史の裏で受け継がれし二つの流派で起こった争いの終点にして顛末。

 

それは灘神影流の当主である憙一と、幽玄の当主である男による死闘。その果てに憙一は打ち勝ち、二つの流派は新たなる歩みを刻み始める。

 

そしてその戦いは、憙一達の因縁の決着というだけでなく、人智を超えた世紀のエキシビションマッチとして世界中に放送されていた。

 

 

「アレか、まぁ腕っぷしを見せびらかすつもりはないけどな、あの戦いが配信されたおかげで門下生になりたがる奴がやって来たのも事実や」

 

「そうだろうね、ここに来るときに見た山を走り込んでいたのがその門下生?」

 

「そうや、センスは兎も角としてやる気はまぁ持っとる連中や、モノになるかはアイツら次第やろうが、師匠気取るからにはワシもできうる限りのことはさせてもらうつもりや」

 

 

そう語る憙一の顔に今までとは別種類の、単純な戦闘能力とは別の新たな境地に辿り着いた風格を和香は垣間見た。

 

 

「……ふぅん」

 

「なんや?」

 

「いや、なんか思っていたより貫禄あるじゃん、ってさ、キー坊って器用じゃないから」

 

「どうしていいか分からず困っているようだったら道場を預かる先輩としてアドバイスでもと思ってたけど必要ないみたい、しっかり館長してるんじゃん」

 

「フッ、そりゃあどうも、和香ちゃんにそう言ってもらえるんならちっとは自信が付くわ」

 

「…それはそうとキー坊、実は私が今日来たのは道場の様子を見に来たって理由だけじゃないんだよね」

 

 

互いに微笑みながら談笑していた最中、和香が湯呑みの中のお茶を一口煽った後に真剣な顔つきになってそう言った、憙一の方もその気配を感じ取る。

 

 

「どうしたんや、他にも理由が?」

 

「うん、実はね…力丸さんが教えてくれたんだ」

 

「力ちゃんが?」

 

 

二人の共通の知人、力丸。その男は憙一が父を治療する為に身を投じた闇試合の仲介役、指定暴力団の構成員でありながら再起不能となった父親という共通点を持つ憙一をサポートしていた男。

 

 

「直接は会ってないんだけど、人づてにその事を、キー坊に伝えてくれって」

 

「なんじゃあ、回りくどいのお?直接ワシに言ってくれればええやんケ」

 

「力丸さんはほら、立場が立場だからね」

 

「キー坊はもう光の差す世界に戻れたんだから、俺みたいな奴とは大っぴらに関わらないほうが良いって、でもよろしく言っといてくれって言ってたみたいだよ」

 

「力ちゃん…水臭いわっ、ゴタゴタしてる間に見なくなったと思ってたらそんな事考えてたんかい」

 

「…で、その伝言の内容は?」

 

「うん、キー坊は“金貸し道元”って覚えてる?」

 

 

出て来たその名前にキー坊は頭を捻る、確かに記憶の片隅、何処かにはその名前を聞いた感覚がある。しかしいつどこでだったか、何者だったか、暫く唸って答えは判明した。

 

 

「う~む……あっ、思い出したわっ」

 

「確かハイパー・バトルの予選ときに会ったケチくさそうな金持ちのオッサンや、チームDとか言うてオトンをヘッドハンティングしてたあの!」

 

「そう、その金貸し道元なんだけど、どうやらまたハイパー・バトルの様な格闘技イベントで一儲けしようとしてるみたいなの」

 

「アホほど金持っててやる事がまだ金儲けかい、あのオッサンも飽きんやっちゃのお」

 

「それでね、その道元が主催するイベントの為に、どうやらキー坊に声をかけようとしているみたいなの」

 

「なに?ワシに?」

 

「うん、力丸さんはハイパー・バトルの予選で道元と賭けをしたらしくて、そこで大損させてから目をつけられてるらしい、またキー坊を引き釣りだしてこれないか言われていたようなんだけど…」

 

「さっきも言ったように力丸さんはもうキー坊が闇の世界に関わるのが嫌みたいで断ったんだ、けどそれだけであの道元が諦めるわけがない、きっとキー坊に何か仕向けてくるだろうって私に忠告を」

 

「ふぅん、そういう事か」

 

「金貰って選手になれってことかい」

 

「たぶん、そういう事だろうね」

 

「アホらし、キョーミ無いわ」

 

「まぁそう言うと思ったよ、でも道元が力丸さんの言う様な男ならすぐに接触して来るはずだよ」

 

「そんならそんでキッパリと……ん?」

 

 

聞き慣れない音が朧山に響き、憙一と和香のいる道場の中まで聞こえてきた。起動音に紛れて風が巻き立つ音、それの正体に気付いた憙一が立ち上がる。

 

 

「噂をすれば影がさす、ってわけかい」

 

「ま、まさかもう…?」

 

 

二人が道場が道場から外に飛び出すと、そこには上空から降下するヘリコプターのプロペラからくる突風が地面の草花を押し退ける様に揺らしていた。

 

そして着地するヘリ、そこからスーツ姿の付き人と共に出て来たのは、まさに今二人が話題にしていた人物そのものだった。

 

 

「ヴヘヘ、どうもキー坊、お久しぶりです」

 

「道元…わざわざヘリでご登場か」

 

「登山の趣味はないからね、こんな山奥に道場なんて建ててくれちゃって、おや、ガールフレンドまで連れ込んで意外と不自由してなさそうだね」

 

 

現れたのは怪しげな雰囲気の中年男、小太りの体型に毛髪のまるでない頭、鋭い目つきを丸眼鏡で隠し、ニィーという笑みを浮かべる。

 

金貸し道元、金こそを己が心血にして魂と豪語し、金稼ぎそのものに執念を燃やす究極の守銭奴。

 

 

「ちょっ、ガ、ガールフレンドって…」

 

「おうコラ、ハゲた頭しくさってフザケたこと抜かすと札束の数も数えられんようにしたんど」

 

「それは困るなぁ、今から目一杯稼ごうってのに」

 

「悪かったよキー坊、冗談だよ冗談、そちらのお嬢さんもちゃんと覚えてるよ、宮下和香だろう?ハイパー・バトルの予選に出てたよね」

 

「今日はね、キー坊に相談があってきてんだよね」

 

「あぁ、こっちもその話をしていたところや」

 

「おや?もしかしてもう知っているのかな」

 

「さては誰かの告げ口があったね、当ててあげようか、力丸だろう?宮下さんはいわば伝言かな」

 

「まぁな、立ち話もなんや」

 

「入れや、中で話したる」

 

「いけ好かない守銭奴だろうと客人は客人、門前払いはせぇへん、けどな、最初に言っとくが大金積んでホイホイ釣られると思っとるなら間違いや」

 

「ふぅん、交渉のテーブル自体にはつけるわけね、それなら嫌でもその気にさせてやりますよ、ククク」

 

「ふん、勝手にせぇや」

 

 

そうして道元を加えて三人は道場の中に、新築された道場の中を道元は興味深げに見渡した後、憙一に急かされるよう促されて話を始めた。

 

 

「ほう、意外としっかりした作りだ、趣もある」

 

「もしかして業者に頼まず手作りしたのか?そこかしこに見える粗雑さや素材同士の僅かなズレがかえって山奥の道場という厳かな雰囲気に一役買っている」

 

「無駄口叩いてないで言うこと言ったらどうや、ワシが叩き出したくなる前にのお」

 

「おおっと、私としたことが」

 

「それでは…と言ってもどうやら大体の本筋は知っているみたいだから詳細を言おう」

 

「君と宮下さんがかつて参加したハイパー・バトルの予選会場となった霊峰、屍山…あの場所で再びサバイバル・トーナメントを開きたい」

 

「サバイバル・トーナメント…?」

 

「あの生命のリングを奪い合った?」

 

「そうだ」

 

 

憙一と和香にかつての記憶が蘇る、憙一はさらなる闘争へと導かれ、和香は因縁の相手へ復讐を果たす為、数多の武人が集う霊峰屍山の戦いに身を投じた。

 

それは丸一日かけた過酷な生存競争そのものだった、本戦出場資格とするために参加者は互いの持つ生命のリングを求めて一日中争い合った。

 

待ち伏せ、奇襲、結託、騙し討ち、罠。何でもありの極限状態の中で参加者は互いの血を求めて彷徨う理性なき獣と化した。

 

その中を憙一は勝ち残り、崩れ落ちる宿敵とその在り方、生き方の何たるかを見た和香は自ら憙一に生命のリングを渡す形で身を引いた。

 

 

「今だから言うけどね、本戦も勿論盛り上がったけどあの予選の賭けもそれはそれは白熱したの」

 

「特にキー坊、君の活躍が大いに沸かせたよ」

 

「人刺し指のゲン、暴殺拳の彪、ジョーカーの薔薇丸と小競り合い、その後は佐渡に有働征二、新堂万治に帯刀右近、由来不明の獣人と最後は風のミノル相手に粘り切った」

 

「並み居る達人、怪人を次々に撃破して本戦出場を果たしたキー坊はあの時点で大人気のブラック・ホースだったわけなの」

 

「薄汚い賭け事の対象としていくら人気になっても嬉しくもなんともないわっ、そんで?あの予選が今のワシに何の関係があるんや」

 

「もう一度、キー坊がしたあんな戦いが見たいという声が続出してるの、生死を掛けた真剣勝負がね」

 

「キー坊の予選での戦いが高評価を得たのには理由があるの、単純な殴り合いの攻防以外にね」

 

「理由?」

 

「キー坊と戦った相手には共通点がある、それはキー坊も分かっているはず」

 

「彼らは真っ当な格闘試合には決して出場する事のなかった連中だと言うことよ」

 

「え…どういう意味…?」

 

「…成る程なぁ」

 

「武器術を真髄とする薔薇丸に帯刀らを始め、他流試合を固く禁じている新堂、闇の武術家であるゲンに彪、佐渡や有働に至っては格闘家ですらない」

 

「そんな連中が文明から遠く離れた山奥でそれぞれの技術と武器を用いた本物の闘争を繰り広げる、その圧倒的な非日常こそがただの格闘試合では見られない、観客が真に求めていたものだった訳なの」

 

 

思い返してキー坊は納得する、ハイパー・バトルの予選は武器の持ち込みこそ禁止されていたが、逆を言えば山に入山してから調達した武器や罠の一切は使用を許されていた。

 

自然石のナイフに硬い木々の杖、木のスパイクトラップに己の爪を鋭利な刃物と化すことで実質的な凶器の持ち込みを可能としていた者までいた。

 

つまり道元の言う新たなサバイバル・トーナメントとは、その様な各々の武器の調達、生成、そして使用に秀でた者達による闘争なのだった。

 

 

「碌でもないことを考えおって、危ない連中にルール無用で戦わせようってかい、大勢死人が出るで」

 

「安心してよキー坊、そのへんはちゃんと配慮しているから、いくらなんでもスナッフビデオを作ろうってんじゃないんだ」

 

「前回の予選でも何やかんや本当に死んだ奴は全然いなかったでしょ?常に最新鋭の医療設備とスタッフを常駐させますよ」

 

「どうだかな、そんで、ワシにそのサバイバル・トーナメントに出場せぇって言いたいんやな」

 

「薔薇丸にそうした様に、リング一個に大金かけて盛り上げ役のジョーカーになれっちゃうんやろ」

 

 

ハイパー・バトル予選にてその様な選手が存在した、九条薔薇丸、円月流剣術の使い手でありしなる枝木で人体を切り裂くという凄絶なる技術を持つ。

 

そして薔薇丸はただの選手ではなかった、事前に契約を交わし大会を盛り上げるためのジョーカーの役割を果たしていた。生命のリングを幾つ集めても本戦出場ができない代わりにリング一つにつき数十万の金を受け取っていた。

 

 

「いいや違うキー坊、今回キー坊にやって欲しいのはただの選手でも、ましてやジョーカーでもない」

 

「あん?」

 

 

道元はニィーという胡散臭い笑みを深めて言う。

 

 

「今回のトーナメントに置いてキー坊にはチャレンジャーを迎え撃つチャンピオンになってもらいたいの」

 

「キー坊が…チャンピオン?」

 

「それはどういう意味や」

 

「極限究極のサバイバル、観客を沸かせるにはそれでいいが腕の立つ選手も大勢集めなきゃならないでしょ」

 

「勿論勝ち残った者には賞金を用意するけどね!+αで特別な権利を付ければ最高に盛り上がる」

 

「つまり、ハイパー・バトル優勝者にして伝説の不知火御殿の戦いの勝者、今や最強の武術家と名高い宮沢憙一への挑戦権という権利をね」

 

「“ワシ”への“挑戦権”!?」

 

「ククク、賞金と最強へ挑む権利、強き者なら喉から手が出るほど欲しいはずよ、必ず盛り上がる、今回のサバイバル・トーナメント、その名も…」

 

「プレデターズ・ファイトはねえっ」

 

 

道元は宣言する様に言う、ハイパー・バトル予選会場であった霊峰屍山でもう一度、獣と化した人間達による血で血を洗うサバイバルが繰り広げられようとしていた。

 

かつてそこで戦った憙一、その名に引き寄せられてくる強者達、裏でそれらを望む者、それらの思惑と存在が絡み合い、新たな闘争が始まろうとしていた。

 

 

その燻り始めた戦いの熱が、何処までも冷たい暗黒の彼方から恐ろしい何かを呼び寄せる事になると、その時はまだ誰も知らなかった。

 




◇この作品の目的は…?
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