TOUGH ハンティング・ファイト   作:ポジョンボ

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11,最後の一体

 

 

「クソッ、押収した装備もないじゃねぇかあっ」

 

 

麓への撤退を完了させたブライアントの怒号が響く、そばには泥と汗に塗れながらも何とか生き延びて下山したチームの隊員達、大会主催者のキャンプの近くに止めていた輸送車両からは怪物の装備も忽然と消失。

 

気を失った見張りの隊員を見た時から嫌な予感はあった、その見張りの二人からは予想通りの報告。

 

 

「そ、それが…あの鬼龍という男が…」

 

「近寄ってきと思ったら一瞬で…は、速かった、まるで目で追えなかった、装備はその男が持ち去ったと思われます」

 

「クソ鬼龍がーッ」

 

 

持っていた銃を傍にあった机へと叩きつける様に投げ捨てる、ただでさえ嫌っていた鬼龍の蛮行、それに対する怒りは大きい。

 

 

「これは明確な任務へのクソ妨害だっ、態勢を整えてクソエイリアンと纏めてクソ鬼龍も始末してやる!」

 

 

「いやちょっと待ってほしい」

 

 

ヌーッと怒るブライアントの背後から影が差す、落ち着いた、それでいて何処か底しれない響きを持つ声が聞こえる、音も気配もなくいつの間にかその男は背後にいた。

 

古風な武道着を着た鷹のように鋭い目をした男。

 

 

「なにっ」

 

「な、なんだあっ」

 

「あっ、貴方は…!」

 

「誰だ、テメェは」

 

 

「我が名は尊鷹」

 

 

堂々とその名を名乗った尊鷹、ブライアントにとっては突然現れた謎の人物だが、一切の気配無く背後を取った男の言いしれぬ雰囲気に只者ではないと確信する、何よりその名をブライアントは知っていた。

 

 

「尊鷹…そうか、テメェが宮沢尊鷹か」

 

「知っているのですか、ブライアント捜査官?」

 

「あぁ、昔あのクソ鬼龍と手を組んだ時に奴の素性を調べ上げた…灘神影流には本来当主となるはずだった長男がおり、遥か昔にクソ鬼龍の奴に殺されたと思われていたが…」

 

「つい最近、バトル・キングとその名を変えて生きていた事が判明した、てなあ」

 

「つまりこのクソ野郎はあのクソ鬼龍の兄貴だ」

 

「なにっ」

 

「装備を奪ったあの男の!?」

 

「ブライアント捜査官、お前達が別車両に用意した救急設備を使用させて欲しい」

 

「なに?」

 

 

ブライアントはその言葉の意図を考える、尊鷹に負傷らしい負傷は見えない、そしてその理由を察した。

 

 

「そうか、クソ鬼龍か」

 

「クソ鬼龍の奴がクソエイリアンと戦って死にかけでもしたか、兄貴に助けられるとはクソ情けない奴だ」

 

「誰がクソ鬼龍の治療なんかするか、クソエイリアンにそのまま殺されていればよかったんだ」

 

「鬼龍がお前達に狼藉を働いたのは事実、奴自身が邪悪な精神の持ち主だと言うことも否定しない」

 

「だがそれでも灘神影流の一人であり身内だ、見捨てる様な真似は出来ない、治療設備を貸して欲しい」

 

「身内ねぇ…教えてやるがあのクソ鬼龍の奴は正しくその身内である自分の息子が盾になって死んだ時も平然としてやがった冷酷クソ野郎だぜ」

 

「身内だからってそんな奴の為に骨を折る気か?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「フン、それはご立派だが…」

 

「ブライアント捜査官、ちょっといいですか」

 

 

尊鷹のみならず、部下である何名かの隊員達からも尊鷹の頼みに賛同するかのような発言が起こる。

 

 

「自分達はこの尊鷹さんに命を救われました、この人がいなければ生きて此処までは来られなかった」

 

「それに彼はターゲット相手に終始優勢に立ち回り、両腕を破壊するダメージを負わせて撃退しました、今回の任務にとって大きな貢献を果たしています」

 

「貢献だと、そもそもコイツは部外者だろうが」

 

「い、いえ…それは…その、我々にも信じ難かったのですがその人は…その…」

 

「あん?何だ?」

 

「私はお前達チームの一員だった、数十分前までな」

 

 

そう言うと尊鷹はゴッゴッゴッと自分の顔を殴打し始める、それと同時にその身体をバキバキと音を鳴らして変形していく。

 

体格、骨格、姿勢に仕草、ついには顔までも別人に変形。その光景を既に見た隊員は改めて恐怖し、ブライアントを含めたその他の者は恐怖した。

 

 

「これが証拠です、ブライアント捜査官」

 

 

その顔と姿勢、声は確かに先程までブライアントが率いていたチームの中に存在した人物の物だった。

 

 

「な、なんだあっ」

 

「さ、さっき話してたお前が…?」

 

「あーっ!?どういう事だよっ」

 

「変装の作法を少しかじっていてな、米軍特殊部隊のスキルに興味があり別人として潜り込んでいたのだ、そうしたら今回の任務に選ばれた」

 

「でえーっ!鬼龍と言いお前と言いなんつう真似しやがるんだ、このクソ野郎共!」

 

「言い方を変えよう、ブライアント捜査官」

 

「任務に選ばれたチームの一人としての提案だ、鬼龍は既にエイリアンの一体を仕留めた、その死体と装備はそのまま放置されていて回収も可能」

 

「鬼龍はこの件の参考人となる、このまま死なせるような事は避けるべきだ、勿論、鬼龍が勝手に持ち出したエイリアンの装備は全て私が回収した」

 

 

苛立ちを隠さないブライアントに対して尊鷹は何処までも冷静に言う、ブライアントも不快そうに顔は歪めたままだが段々と落ち着きを取り戻す。

 

 

「……確かに、クソほども認めたくねぇ事だがクソ鬼龍が来なければ俺は間違いなく死に、クソエイリアンが野放しのままだったかもしれねぇ」

 

「クソ鬼龍がクソエイリアンの一匹を殺し、お前がもう一匹を追い詰めたんならソイツと先に逃がした一匹を確保して三体のエイリアンのデータを採取できる」

 

「フン…良いだろう、クソ野郎一人に慈悲をかけてやっても良いくらいの成果と言える」

 

「感謝する、ブライアント捜査官」

 

「ただし、ここまで関わったからにはテメェらはもうタダでは帰れねぇぞ、クソエイリアンを全員確保するまで協力してもらう」

 

「あぁ、もとよりそのつもりだった」

 

「よぉし、それならお前ら灘神影流は今から俺の指揮下だ、まず手始めに…」

 

 

「無駄話は終わった様だな」

 

 

纏まりかけたブライアントと尊鷹の会話を遮る低い声、傲岸にして不遜な物言いと共にヌーッとその影が現れる。

 

 

「なっ、テメェ」

 

「鬼龍!」

 

「ククク、誰が誰の指揮下に入るって?」

 

 

尊鷹にここまで運び込まれ、満身創痍で(尊鷹の不意打ちにより)意識を失っていた筈の鬼龍がその足で立って現れた。

 

その身体には治療の形跡があった、包帯により傷口は止血が施され、折れた手足にはギプスで固定されている、血を失い青みがかった顔色は輸血によりだいぶ本来の色を取り戻した。

 

それを加味してもこうもすぐに動けるのは鬼龍の人間離れした耐久力のなせる技、しかしブライアントはその治療の形成の意味を理解する。

 

 

「クソ鬼龍…テメェまさか…」

 

「あぁ、ちょうど向こうの車両に医療品があったので使わせてもらったぞ」

 

 

ニヤニヤと明らかに嘲り笑う顔で言い放つ鬼龍にもう一度ブライアントのこめかみにビキリと音を立てて血管が浮かび上がる。

 

 

「何処までもクソなクソ鬼龍が…今テメェのクソ兄貴とその治療についての話をしてたんだよ」

 

「そうか、悪かったな、もう必要ない」

 

「鬼龍よ、応急処置だけで動ける様な傷ではないぞ」

 

「左腕の骨折と裂傷、肋骨骨折、右足の肉離れ、内臓損傷にその他切り傷に打撲、フン…こんなもの掠り傷の内にも入らん」

 

 

己の肉体に刻まれた深刻なダメージの全てを把握し理解しながらも堂々なまでにそう言い放つ、ただの強がりも鬼龍の恐ろしい程の自尊心が込められれば気迫を帯びる。

 

 

「もう止めておけ、残ったエイリアンは憙一が追跡している、私も合流し確実に仕留める」

 

「そういう事だ、クソ足手まといなクソ野郎は家に帰ってクソでも垂れ流してろ」

 

「それに話を聞いた限りじゃもうクソエイリアン共の生き残りは手負いしかいねぇ、宮沢憙一がとっくに仕留めてるかもな」

 

「確かに憙一は強いが果たしてそう上手く行くかな」

 

「…俺は不穏な気配を察知するのが得意な方でな」

 

 

鬼龍が意味深な言葉と表情を浮かべて屍山の方向を、憙一が向かった森の奥を見る。ざわめく木々や押し黙る虫や鳥、何処か冷ややかに吹く風が鬼龍に不吉を予感させていた。

 

 

 

 

時を同じくし、逃げた怪物を追跡する憙一。

 

 

「さて…探すと言うても如何せん森の中」

 

「透明になれんくなったからといって何もせず待ち惚けしとるような連中じゃない筈」

 

「姿を隠せる様な場所は幾らでもある、いつ何処から奇襲を仕掛けられてもおかしくない」

 

「なんや場所も相まってハイパー・バトルの予選を思い出すのォ、あん時も怪物並に危険な奴らがウヨウヨしとったわ」

 

 

しかしそう言う憙一の顔は緊張よりも何処かこの状況を楽しむ様な不敵さが浮かんでいた、それでも感覚を研ぎ澄まし辺りの木々や草むらに注意を払っていく。

 

 

「あん?」

 

「アレは…」

 

 

憙一の視界に入ったのは山中に広がる草藪の中の一部、草木の自然な緑の中に蛍光塗料の様な不自然な緑が混じって草花に付着しているのを見逃さなかった。

 

 

「あのエイリアンの血か…?」

 

 

すぐには近付かず、辺りを見渡しゆっくりと確かめる。確認したそれは確かに怪物の血液、それが草藪の葉に付着し、さらに確認してみれば草木で隠された地面に足跡もあった。

 

 

「傷を負って撤退した時のものか」

 

「ワシと戦ったアイツか、尊鷹が倒したという奴か、何方かかは分からんが…」

 

「まだ残気が残されとるわ」

 

 

憙一が集中して感覚を研ぎ澄ませればその場の空間に透明な残像が浮かび上がって見えてくる、武術における気の概念に精通した灘神影流では、その場に残された人間の気を探る事でそこにいた者の行動を知る術がある。

 

 

「………」

 

 

憙一の視界に浮かんだのは両腕を脱力させ血を流しながら草藪を移動する怪物の姿、素早いながらも音を立てず、痕跡を消そうとはしているが両腕が使えず流れる血を止めることは出来ていない。

 

何よりもその様子には強い焦燥が見て取れた。

 

 

「違う、ワシと戦り合ったアイツやない」

 

 

憙一が交戦した怪物の負傷箇所は胸部、浮かんだ残気の主は両腕こそ負傷していたが胸に傷はなかった。

 

 

「なら尊鷹が追い払ったという奴か、この先に逃げたようやな、えらく焦っていたが」

 

「まっ、罠という事も考えられるわな」

 

 

憙一が麓のキャンプで聞いた話だけでも人間狩りを目的とする危険な存在、手負いとは言えそれを逆に利用して敵を誘き寄せるくらいの発想は十分にあり得ると思われた。

 

 

「しゃあけど足踏みしてても始まらんわっ」

 

 

憙一は迷わずその残気を辿って怪物の元へ行く、長年に渡り培った戦闘経験と感覚がこの先に間違いなく闘争が待っていることを告げている。

 

 

「今度こそ思いっきしワシがいてもうたるわ、その後のアレコレはブライアントの仕事や」

 

 

警戒を引き上げ、しかし同時に新たなる闘争への期待も滲ませ、進むこと数分、新たな痕跡を発見する。

 

 

「…ん? おっ」

 

 

怪物の流血と足跡がその先へと続いていた、木々や草むらを飛び回らずに直接地を踏み締めた形跡、そしてまだ新しい。

 

 

「いよいよかい…」

 

 

先にあるのは木々同士が離れた少し開けた場所、憙一は近くの草藪に身を隠しながらゆっくりと音を立てないで近寄り、草藪の向こうからその先の様子を見た。

 

そしてそこに広がる予想外のその光景を認識した。

 

 

「な、なにっ」

 

「なんじゃあっ、コレは!?」

 

 

その先の場所一帯を真緑の血が染め上げていた。

 

一つは木々に寄りかかるようにして倒れ、二つは地に伏せる。真緑の血を流して絶命した怪物の亡骸が三つ、その空間に打ち捨てられている。

 

 

「全員死んでるんか…?」

 

 

三体の内の一つは確実に絶命している、首から上と下が泣き別れとなり転がっている。一つは胸から大量の出血、これもまた起き上がることはないだろう。

 

 

「! アイツは…」

 

 

そして一体、木々に寄りかかり倒れている一体は他二体の様に装備を身に着けていない、憙一と戦い、ブライアントの元から逃げ出した個体だった。

 

 

「一体何があったんや?」

 

 

半ば唖然としてその光景を見る憙一、その場で起きたであろう状況を整理し考察する。

 

 

「まずアイツがワシと戦ってた奴で…あの首の無い死体は両腕にも傷がある、恐らく尊鷹が戦り合った奴…残る一体はなんや?」

 

「仲間割れでもしたんか?これで鬼龍が倒したのを含め四体…いや、ちょっと待てよ」

 

「結局何体いるのか分からんがともかく仲間割れと仮定するとコイツらを殺した奴がまだいる…?」

 

 

三体の死体の様子を確かめていく、地に伏せた二体はやはり絶命しており、その傷は鋭利な刃物によるもの、怪物の使用するブレードだと当たりを付ける。

 

 

「争った形跡がある、まさか相打ちか?」

 

 

木々に寄りかかる死体を見る、しかし肝心の凶器となる装備をその個体は所持していない、麓のブライアント達の車両に装備がまだ確保されていたのを山中に戻る前に確認している。

 

 

「いいや、アイツには無理や」

 

「見たところ全員鋭い刃物で斬り殺されている、恐らくあのブレード、アイツはブライアントに装備を取り上げられとるし」

 

「他の奴の装備を奪ったわけでも無いみたいやしなァ、どれ、もうちょっと近くで見てみるか」

 

 

より詳しく死体を確かめる為にその惨劇の場に近付こうとする憙一、近くの草藪から出でゆっくりと一歩を踏み出そうとしたその時、ピタリと動きを止めた。

 

 

「……」

 

「なんや怪しいのォ」

 

 

木々の間隔や草藪の場所、それらを睨む憙一の顔は険しく目は細められている、憙一の足を止めたのは直感もあるがかつてこの場所で経験した記憶もあった。

 

 

「ハイパー・バトルの予選でも罠を張って待ち構え取った奴がいたな、丁度こんなふうに倒れた奴を餌にしていた」

 

「助けようとした奴やビビって慌てた奴が不用意に動いてしまうと掛かる仕掛け」

 

 

静寂が支配し三体の亡骸を飲み込んでいる様な辺り一帯、そこに漂う何者かの敵意によってヒリつきながらも冷ややかな危険な空気の様なものを憙一は感じ取った。

 

 

「ワシは罠なんてもん使ったこと無いからよくは分からんが…ここはひとまず尊鷹を待って…」

 

 

その時、憙一の視界の中で動くものの姿があった。

 

 

「!」

 

 

【ボウッ】

 

 

それは木々に寄りかかり絶命したと思われていた一体、憙一と交戦したあの個体の身体が確かに動いた。

 

全身から血を流し微動だにしなかった状態から咳き込むように血を吐き出した、そして一瞬だが深い眼窟の奥の目に光が灯ったのを喜一は見た。

 

 

「アイツまだ生きとるん…」

 

「!」

 

 

そしてその刹那、憙一が感じ取ったのは後頭部から脊椎を電流の様に迸る、激痛にも似た強烈な危機感、本能から来る警告だった。

 

振り向く動作すらせず、地を転がり泥に汚れるのも構わず、全速力でその身を投げ出して飛び引いた。

 

そして強い閃光を放つ爆発が屍山をまた揺さぶる。

 

 

「どわあっ」

 

 

その爆風は回避に成功した憙一をも軽々と吹き飛ばす、宙を舞う憙一、三体の怪物の亡骸がある場所まで落下してしまう。

 

数メートルからの落下、だが憙一からすればダメージを受けない完璧な受け身は容易。

 

 

「この爆発はま、まさか…」

 

「あ゙っ」

 

 

しかし受け身を取る際に首の無い怪物の死体の元まで到達し死体に触れてしまう、その死体には隠された森の植物の蔦が絡まっている、それはなにやら近くの木々の上まで繋がっている。

 

憙一はこの人為的な工作に身を覚えがあった、蔦をワイヤー代わりにした罠、かつてハイパー・バトル予選においてこの山で似た様な罠で憙一に襲い掛かった者がいた。

 

 

「ど、どわーっ、やっぱり罠やん!」

 

 

触れたことでその蔦が千切れる、そして何処かで何かが連動する音、それは憙一の頭上の木々の太枝の上から聞こえる。

 

 

「しゃあっ」

 

 

間を置かず憙一の上から無数の影が落ちる、同時に重たい何かが転がり落ちる音、正体を考えるまでもなく憙一は飛び引き、次の瞬間には人の胴体ほどもある無数の岩が落下した。

 

高さを相まって当たれば絶命、良くて再起不能は免れない、しかし警戒もあって回避に成功した憙一。

 

 

「なにっ」

 

 

飛び込み前転の回避から立ち上がる、しかし憙一の胸元に浮かび上がったソレが動きを止めた。憙一の白いシャツの上に、三つの小さな赤い点の三角形が浮び上がる、そして憙一の目の前の空間が歪んでいく。

 

 

「…アレをやったんはお前か」

 

 

青白い電気が虚空を走り、光学迷彩を解除してマスクに傷のある怪物がその姿を現す、肩のプラズマ・キャノンは既にその照準を憙一に当て何時でも発射する事ができる状態。

 

 

【蛆虫の分際で思ったよりもタフな奴だ】

 

【おかげで獲物に気付かれた、しかしそれを差し引いても中々の警戒心と直感だな】

 

【しかし取るに足らない弱き者に変わりはない】

 

 

マスクによるサーモ・グラフィーによる青と赤の視界越しに怪物が憙一を見る、戦闘に優れた個体だと認識はしていてもやはり脅威だとは考えていない。

 

 

「おいコラ、今ワシのこと舐め腐っとるやろ」

 

「言葉が分からんくてもそんな気配は分かるんじゃ」

 

 

憙一がニッと不敵に笑う、そのこめかみからは汗が滴り落ち、決して恐怖を感じていないわけではない。

 

しかしだからこそ打倒する気概を込めて挑発する。

 

 

「ホンマに雑魚やと思うなら確かめてみろ」

 

「撃ってみいや、そのご自慢のなんたらキャノンを」

 

【………】

 

 

憙一のその挑発するニュアンスも怪物にしっかりと届いて伝わっている、知的生命体であり戦いに身を置く者同士、言葉が通じずとも闘志を帯びた感情は理解できる。

 

 

【愚かだな】

 

 

そしてプラズマ・キャノンが発射された、砲口が青白く光るのも一瞬、触れれば致死の爆撃が迸った。

 

そしてそれよりも速く憙一は動いている、発射の前に高まる殺気、それを読んで回避する。

 

 

「チィッ」

 

 

光弾そのものを躱せても着弾時の爆発は躱せない、また宙を舞いながら落下していく。

 

そしてそこに向けられるプラズマ・キャノンの照準、最も無防備となる着地時や回避不可能の空中を狙うプラズマ・キャノンの追撃。

 

 

「おおっ、やってみろ、武術家の意地見せたる!」

 

 

二度目の閃光と共にプラズマ・キャノンが放たれる、空中で身動き取れない憙一に迫るが、殺気を読み狙う軌道を読んだ憙一が身を捻るように動かせばその光弾は既の所で憙一には当たらず通過、背後の木々を吹き飛ばす。

 

そしてその一撃目を躱せば今度は着地を狙って照準が向けられる、さらに三撃目が発射。

 

 

「今こそ灘・真・神影流の本領じゃあっ」

 

「しゃあっ、“象塊”!」

 

 

憙一の着地に合わせて迫る三撃目を軽やかに躱す、着地の衝撃を受け流す受け身さえ存在しない。地にその身が触れたと思えば跳躍する、エネルギーの流れを完全に操作する妙技。

 

着地時の隙など皆無、スーパーボールさながらの着地と同時に跳躍で回避不可能の攻撃を回避していく。

 

それは幽玄真影流に伝わる秘儀、物や相手に伝わる自身の体重を完全に操作する、時に羽毛の様に軽く、時に鉄塊の如く重く、その体重操作からなる動きはまさに変幻自在。

 

 

「こんなもん気合と根性じゃあっ」

 

【……!】

 

 

尚も滞空時や着地時を狙って次々と放たれるプラズマ・キャノン、憙一はそれを文字通り超人的な動きで悉く回避していく、爆風に乗って羽根のように跳ぶ、それには流石に冷笑的な侮蔑を浮かべていた怪物も驚愕する。

 

連続で飛来する光弾と起こる爆発、しかしそのどれも憙一の肉体を砕くことが出来ない。

 

 

【はーっ、下等な弱小種族がッ】

 

 

これでは殺せない、そう理解した怪物が次の一手を打つ。爆風で飛んだ憙一目掛けてプラズマ・キャノンでは無くレイザー・ディスクによる斬撃を放った。

 

弧を描き相手を追尾するその刃は光弾の様に直線的なだけの軌道ではない、それが宙を舞う憙一の身体に触れた、怪物は勝利を確信する。

 

 

「灘神影流 “弾丸滑り”」

 

【なにっ】

 

 

しかしそれすらも躱される、当たっているのに躱している。全身を使ったスリッピング・アウェー、怪物もそれには見覚えがあった。

 

 

【それは奴の…いやまさか】

 

 

先程同族が見せた脱力からの全身を使った回避、この星の戦士達から学んだとそう言っていたのを思い出す、しかし掠っただけで両断してみせるレイザー・ディスクさえ無効化するその技量は比べ物にならない。

 

 

「お返しやっ」

 

【!】

 

 

レイザー・ディスクを受け流すそのエネルギーで回転した憙一が回転の勢いのまま拳を振るった、怪物の方向目掛けてアッパーの様な軌道、当然届くはずがない。

 

しかし怪物は感じ取った、己に迫る強力な拳の圧とエネルギーを。それは風圧でも、気でも、ましてや幻覚や錯覚の類でもない。

 

実在する殴打のエネルギーがその身体のリーチを超えて敵を打つ、入神の技、幻突だ。

 

 

【……ッッ!】

 

 

咄嗟に上げた両腕のガード、屈強な肉体と鋼鉄のガントレットの上から響く衝撃は人間よりも遥かに力強く重い怪物の身体を大きく後退させた。

 

ガントレットの機器から一瞬だが放電が迸った。

 

 

「聞いてた話と違うのォ、宇宙人」

 

「ブライアントが言うには夜も眠れんくなるくらい恐ろしい化物って話だったが…全然大したことないわ」

 

【……】

 

「まっ、せいぜいワシが胸を貸してやりますよ、遠慮なくかかってきなさいっ」

 

【蛆虫が】

 

 

またも憙一の挑発、そしてそれを理解する怪物、相手を見下し侮蔑する感情は猛烈な殺意に変換される。

 

冷笑的な嘲りと打って変わって、冷たいマスクのしたで燃え盛る炎の如き獰猛な笑みを浮かべる、本気で獲物を惨殺すると決める。

 

遂に最後の一体である怪物が本気で動き出す。

 

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