TOUGH ハンティング・ファイト   作:ポジョンボ

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12,全能力解放

 

 

「しゃあっ」

 

【オオッ】

 

 

短い雄叫びを上げて両雄が激突する、憙一が低速タックルの姿勢で間合いへと踏み込み、怪物もブレードを展開させて応戦、近接戦を開始する。

 

 

「間合いに入ってしまえばこっちのもんじゃいっ」

 

【舐めるな、下等種族ッ】

 

 

そして互いの攻撃を浴びせ合う攻防が始まる、それは恐ろしい光景だった。両者が向かい合って一歩も引かずに攻撃し続け合う、それなのに何方の攻撃もヒットしない。

 

互いに躱して捌いている、掠っただけで致命傷となる怪物の切れ味のブレード、そしてその破壊力が警戒に値すると認識させた憙一の拳、互いの武器で攻撃。

 

 

「ヒーヒー言わせたるわっ」

 

【!】

 

 

そして最初の被弾、先に攻撃を与えたのはリーチと殺傷能力で劣るはずの憙一の拳だった。フェイントも交えた斬撃を潜り抜けアーマーに守られていない怪物の腹部を打つ。

 

 

「刃物を振り回す危険な奴とは戦り合うたことがある、この山でなあ!」

 

「アイツらに比べたら…おどれの攻撃は殺気が丸出しでわかりやすいんじゃあっ」

 

【あの世でほざけーッ】

 

 

見下していた相手に上回られたという事実が怪物の怒りと闘志をヒートアップさせる、ブレードがその速度を増し、今までで最も速くかつ回避困難な角度で突き出された。

 

そしてそれは確かに憙一の首元を捉え貫いた。

 

 

「これが幽玄の躱し」

 

【なにっ】

 

 

しかしそれは実体のない幻影、目の周辺視野を利用した錯覚により幻影を生み出す幽玄真影流の回避、その名も朦朧拳。

 

どう見てもヒットした攻撃、しかしその感触はまるでない。視覚と感触、二つの器官が矛盾した情報を流し込む、それは否が応でも一瞬の混乱をもたらし、戦闘の場ではそれは致命的な隙になる。

 

そしてブレードが空を切ったその真下、残像ではなく実体の憙一は素早く低姿勢となり強く地を踏みしめる、その衝撃はまるで地面が水面の様に波打つ幻視さえ見る者に与える。

 

 

【貴様ッ】

 

 

そしてその踏み込みから拳を突き出した、禁断の幻突二度打ち、今度は至近距離からのガードさえ間に合わせない直撃。

 

 

【グォッ】

 

 

声にならない声と共に吹き飛ばされる、銃弾さえも安安とは通さない硬い表皮と筋骨の鎧の上からでも内臓にまで確かに響く究極の打撃。

 

この星に降り立って初めての地に背を付けたダウン。

 

仰向けの状態で沈黙、そして咳き込むのと同時に吐血するとゆっくりとその身を起こして立ち上がる。

 

 

【………】

 

「どや、ワシの拳は強烈やろ」

 

「人間狩りだか何だか知らんがこの星に来たのが間違いやったな、往生せいや宇宙人」

 

【ククク…】

 

 

立ち上がった怪物がマスクの下で浮かべた表情は怒りではなく、不敵な笑いだった。

 

 

【強い…確かに強いが、それだけだ】

 

【所詮俺を殺せるほどじゃない】

 

【俺には決して勝てない、その理由があるんだ】

 

「あん?」

 

 

立ち上がった怪物はすぐにでも戦闘続行すると思われたが違った、ブレードを仕舞い、鋼鉄のマスクを脱ぎとっていく。

 

 

「なにっ」

 

【俺に勝てないという理由を見せてやる】

 

 

そして顕になる顔、憙一も実際に見たあの恐ろしく醜悪な異形の素顔、しかしそこにあったのはまた別の異形だった。

 

 

【さぁ見るが良い】

 

「その顔は…?」

 

 

頭部から生えるコードの様な器官と4つの牙で開閉する口部は同じだがそれ以外に差異が見受けられた、全体的に暗く赤みがかった体色と深い眼窟の奥の目の瞳孔は縦に鋭く伸びている。

 

広い額に生えた突起は他の個体よりも一つ一つが大きく鋭い、もはや角と言ってもいい。

 

色も相まってより恐ろしく不吉な印象の顔だった。

 

 

【俺の肉体は他の連中の物とはまるで違う】

 

「か、顔の色が身体にまで…!」

 

 

その赤黒い体色が頭から下降して染み渡るようにその下の肉体にも移っていく、やがて全身が暗赤色に染まる。

 

 

【遺伝子の抑制機能を停止させた】

 

【それにより全能力を解放するッ】

 

 

そして変化は体色だけでは無い、怪物の肉体が音を立てて変形していく。メキメキと筋骨が激しく軋む音、体内で内臓が隆起する音、その身体が内側から押し広げられていくかのように巨大になっていく。

 

 

【オオオオッッ】

 

「嘘やろ、こ、こんな事が…こんな事があるのか」

 

「デカくなりおった…」

 

 

最終的には三メートルを超える巨躯へと変貌、その手足も胴も首も頭も、遥かに屈強かつ強靭なものへと変化する。

 

それは本来なら怪物という種族、生命体には備わっていない筈の変化だった。

 

 

【…さぁ、俺の全能力を見せてやろう】

 

【しゃあっ】

 

「!」

 

 

巨大化した怪物が動き出す、全身に力が一瞬で漲りその足が地を蹴る。憙一の目を持ってして見えたのはそこまでだった、赤黒い風が憙一に衝突する。

 

 

「あううっ」

 

 

正しく目にも留まらぬ高速移動、間合いをまるでないものとした怪物の疾走からのタックル、何の技術もないその攻撃が歴戦の武人である憙一を吹き飛ばす。

 

トラックにでも衝突されたかの様に吹き飛ばされ木々へと激突、ぶつかった箇所の木々は皮が剥げ落ち僅かに抉れている。

 

 

「な、なんちゅう身体能力や…」

 

【ククク】

 

 

咄嗟に衝撃を逃がしたが完全に無効化は出来ていない、その衝撃は身体の内奥まで響き渡り、体力気力を一気に奪い去る、激しい鈍痛がジワジワと毒のように広がっていく。

 

 

【これが一度地獄を見て手に入れた俺の力だ】

 

「舐めんなあっ」

 

 

もはや決着は付いたと言わんばかりに堂々とした歩みで近付く怪物、もはや何の警戒もないその姿に立ち上がった憙一が雄叫びと共に攻撃を加える。

 

 

「ええ気になるなあっ、ババタレがーっ」

 

「喰らえっ、灘神影流“塊貫拳”」

 

「しゃあっ“破心掌”」

 

「うおおおっこれはどうや、“爆丹拳”やっ」

 

 

灘神影流の妙技、それも肉体強度を無視した内部破壊の攻撃の応酬。それが全弾モロにヒット、怪物は避ける素振りさえない、最後に渾身の飛び回し蹴りが頭部に叩き込まれる。

 

 

【ボウッ】

 

 

怪物が吐血し、回し蹴りを受けた頭部も傾く、それでも平然とそこに立っていた。

 

 

【無駄だな】

 

「なにっ」

 

【複合遺伝子を解放した俺の肉体は内臓までもが強靭となり高い再生能力を発揮する】

 

【お前の攻撃は確かに効いている、しかしどう足掻いても俺を殺すまでには至らない】

 

 

怪物が乱雑にその腕を振るう、タイミングもフェイントも技術的な動きは一切ない。ただ肉体のスペックに物を言わせただけの攻撃、そしてそれだけの攻撃が憙一を持ってしても躱せない。

 

 

「はうっ」

 

 

パァンと空砲のような音が空気と憙一の肉体を揺らす、お返しと言わんばかりに憙一の顔面、横合いからその顎を打ち抜いた。

 

憙一の肉体がまた後ろに吹き飛ばされて宙を舞う、今度は受け身さえ取ることができずに仰向けもなって地に投げだされ横臥する。

 

 

【クーククク、悪いな、俺は“最強”なんだ】

 

 

見下ろす怪物は嗤う、その同族のものとは違う濁った目を歪める、正しく怪物を超えた怪物。

 

 

【や、やはりお前は…】

 

 

その背後から傷付き弱った怪物が現れる、喜一との戦いが始まるより前にトドメを刺されたと思われていたがまだ生きていた。

 

信じ難い物を見るような、それでいて深い嫌悪も抱きながら尚も立ち向かう、もはや同族とは呼べなくなった赤黒い怪物へと。

 

 

【お前も存外にタフだな】

 

【考えを改めよう、お前は確かに無様だが雑魚ではない、いや…お前達は、か】

 

【コイツなんだろう、お前を一度倒したのは、あの全身で受け流す回避の技はコイツから盗んだのか】

 

【そんな事どうでもいい…お前は本当に…】

 

【ククク】

 

 

変異した怪物は振り返って楽しげに答えた、自尊に満ちたその顔はそれを責める傷付いた怪物とは対照的。

 

 

【そうだ、俺は別種族のDNAを取り込んでいる】

 

 

変異した怪物は堂々とそう答えた、この怪物の種族にとっては信じ難い、あってはならないその言葉を。

 

時は憙一がこの場へと到着する前へと遡る。

 

 

 

 

【ほう、器用だな蛆虫】

 

 

禁断の怪物対決、地球へと訪れた異星人同士が互いのスタンスの違いから争い合う、しかし方や万全で方や手負い、その戦力差は歴然だった。

 

 

【全身そのものを使った受け流しとは面白い】

 

 

戦いはすぐに決着するはずだった、しかしその戦力差や余力の差を補う技術を、負傷した怪物は憙一との戦いを経て習得していた。

 

灘神影流、弾丸滑り、その模倣は今や迫りくる同族のブレードを無効化するまでに至っている。

 

 

【しかし弱り切った体で何処まで続けられる?】

 

 

それでも圧倒的優位は揺るがないと構わず連撃を繰り出すリーダー格の怪物、その全てを受け流すが次第にその身が切り裂かれていく。

 

 

【…今ッ】

 

【ほう】

 

 

弾丸滑りを習得した怪物にとってその攻撃は脅威以上の好機となる、振るわれた腕を受け流すのと同時に組み付きロック、そのまま関節の可動域の逆方向へと力を加えてへし折ろうとする、

 

 

【目敏いが甘いな】

 

 

一瞬の内に折られまいと相手の怪物も追従するかのように態勢を素早く変えて対応。

 

 

【まだだっ】

 

 

しかしそれで攻防は途切れない、防がれたとほぼ同時に次の攻勢が始まる、技をかけた怪物がロックした状態で高く飛び上がった。

 

上限反転、そしてまた負荷のかかる関節、奇しくもそれは灘神影流、飛翔・猛禽返しに似た動き。

 

 

【フンッ】

 

 

人間なら対処不可能な体勢からでも怪物の身体能力をもってすれば対応できる、飛び上がった相手に合わせて自分も空中を縦回転して飛び上がる。

 

またも技を防ぎ向かい合う形、まだ腕のロックは外れていない、3度目の技へと移行する。

 

 

【しゃあっ】

 

【なにっ】

 

 

両足も使用したヒール・ホールドを繰り出す、一連の攻防とその動作は僅か数秒の間に繰り広げられ、絡みつく手足の動きがしなる鞭の様な軌道を空に浮かび上がらせる。

 

そして3度目の技は予想外だった、一息で圧が加えられた相手の右腕が遂に限界を超えた。

 

バチンという靭帯の切れる音、ボキンという骨の砕ける音、その右腕が確かに破壊された。

 

 

【チィーッ、舐めるなあっ】

 

【ううっ】

 

 

予想外の痛手、それでも相手の怪物は怯むよりも反撃に出る。折れたその右腕を力任せに振りほどき、技を掛けた怪物を強引に引き離して投げ飛ばした。

 

 

【小癪なマネを】

 

【だ、だが右腕はこれで封じた】

 

【それはどうかな】

 

【靭帯を確実に断裂させた、関節も外したのではなく折っている、もう使えない】

 

 

怪物はジッと破壊された右腕を眺める、そして再び向き合ったその顔には不敵にして不吉な笑みを浮かばせた。

 

 

【ならよく見るんだな、この最強の肉体の力を】 

 

【なにっ】

 

 

怪物が折れた腕を掲げそこに力を込めていく、何やら怪物の表皮がジワジワと赤みがかっていく。そして破壊された右腕が不気味な隆起を始める。

 

右腕が赤黒く滲み染まると、何と撮影した映像を巻き戻すかのように右腕が再生していく、折れた骨が元の位置へ収まり癒着、切れた靭帯も同様に。

 

 

【な、なんだあっ】

 

【ばあーっ】

 

 

そしてほんの数秒で完全に元通りとなってしまう、何度か手を開閉させて健在なのを見せつける。

 

 

【そ、そんな事が、そんな事が可能なのか…】

 

【…!ま、まさかお前…】

 

【ククク、さぁお別れだ】

 

 

その赤黒く変色し、隆起した右腕が振り抜かれる。怪物の動体視力を持ってしても見えたのはやはりそこまで、吹き飛ばされ木々に打ち付けられ意識を失う。

 

 

 

 

そして憙一と会敵した際の戦闘音により目を覚ます、そして引き摺る様に追い掛けた先にはその発言を裏付ける様に、完全に変異した姿があった。

 

士族が違えば僅かな差異が見た目に現れる、しかしその赤黒い巨躯はその差異の範疇には収まらない、明らかな異常、しかもそれは禁断を超えた禁断の行い。

 

 

【つまりお前は全氏族における禁を犯したのか…!】

 

【解っているのか、他種族の遺伝子を自ら取り込むのは戦士としての血と誇りを穢す禁忌なのだぞ】

 

【お前達のくだらん掟の中では、だろう】

 

【かつて、まだ俺も誇りだの名誉だのとくだらん価値観に縛られていた頃…一度その烙印を押された、悪しき血の烙印を】

 

【士族から見放された名誉なき者、そうした者は一際過酷な星に身一つで追放され、数百年の時をその星で生き永らえてようやく戦士に戻ることを許される】

 

【地獄だった、過酷なその星での戦いがではない】 

 

【自分がハッキリと他より劣る無様な存在だと扱われる屈辱がだ、全身を内奥から焦がす様な怒り】

 

【だがその屈辱が力になったぜ、戦士として経験を積むだけではない、その星には高い再生能力を持つ生命体が存在した、そして別惑星の種族が持ち込んだ高度な文明機器もな】

 

【まさかそこで…?】

 

【クーククク、そうだ、俺は生まれ変わったのだ、あの冷たい辺境の星の夜にな】

 

 

変異した怪物が自らの最強と自負した肉体を見せつける、両手を広げて得意げに自尊の言葉を口にする。

 

それは怪物の種族全体の価値観に置いて酷く忌避されるもの、故に両者の感情は相反する、自尊と嫌悪。

 

 

【安易な選択の為に取り返しのつかない事をしたな、お前の士族が気付けばすぐに粛清の任を受けた者が見つけ出してやって来るだろう】

 

【恐らく“クリーナー”だ、誇りと引き換えに得たものは結局全て失うぞ】

 

【それはどうかな】

 

【今の俺は無敵だ、クリーナーとて敵ではない】

 

 

小さく唸る様な声を怪物は上げた、その不遜な言葉が思い上がりだともあながち思えなかった。

 

地球の言葉でクリーナーを意味するその呼び名の持ち主達は例外的に戦士としての矜持や誇りにまつわる全ての責任や流儀を無視しても許される。

 

証拠の隠滅、致命的と判断された事態の鎮圧と掃討、それらを請け負うクリーナーは士族において別格の戦士、その技量は単騎で危険な原生生物のコロニーさえも掃滅できる。

 

 

【もう“最強”なんだよ】

 

 

しかし他の遺伝子を取り込んだ者の戦闘力もまた一線を画する、その事を怪物は知っていた。最も忌まわしき存在と呼ばれたある生物は、その性質上稀に怪物の種族の遺伝子を取り込んだ個体が出現する事がある。

 

その個体の圧倒的なスペックは、それこそクリーナーでもなければ対処は不可能なほど。

 

他種族の遺伝子を取り込むということはそれ程までに劇的な変化をもたらす、故に禁忌たり得る。

 

 

【むしろクリーナーとの戦いを楽しみにさえしている、孤高の強者を気取っている奴の顔面を粉々に破壊する瞬間を想像するだけで嬉しくなる】

 

【そうだ、お前も俺のようになったらどうだ】

 

【…なに?】

 

 

その言葉は突然にして脈絡なく聞こえた、前後の繋がりのないその言葉の真意を理解しかねた。

 

 

【さっきも言ったがお前は無様を晒せど雑魚ではない、むしろ俺が見てきた同族の中でも鍛え抜かれた強者の部類に入る】

 

【俺のように複合遺伝子を得て生まれ変わるがいい、俺の狩りに同行する資格がある】

 

【なんだと…】

 

【蛆虫の若造二匹は論外だから教えてはいないが…本来であればもう一人、強靭な他種族を見つけてたら遺伝子融合の改造を施すつもりだった、が…先ほどソイツは死んだ】

 

【お前がソイツの代わりとなってもいい、一生命体として今まででは想像もつかない高みへと到れるぞ】

 

【そうすれば不利な相手の土俵とは言え、肉体的に劣る種族に敗北を喫することなど二度とないだろう】

 

【そうだ、丁度いい、アイツの遺伝子を使ったらどうだ?お前を一度倒したのはあの個体なんだろう】

 

 

名案を思い付いたとばかりに変異した怪物は言う、その声にはやはり種族として超えてはならぬ禁忌を踏み越えた事への忌避や恥と言った感情は微塵もない。

 

 

【断る】

 

 

怪物は迷わず、瞬時に、ハッキリと否と言い放つ。

 

 

【私は既に敗れた上で隠滅にも失敗し装備を奪われた、このまま生きて帰っても悪しき血の烙印を受け、粛清か流刑の罰を与えられるだろう】

 

【それでも自分からその一線を越えることは決してあり得ない、どれだけ無様を晒してもそれだけは絶対に受け入れることは無い】

 

【フン、くだらんな】

 

【お前達の矜持や信仰は全て退屈でつまらん】

 

【ならばお前も俺に顔面を砕かれて死ぬしかないな】

 

 

答えは分かっていたと興奮も冷めた様子で変異した怪物が動き出す、あの目にも留まらぬ身体スペックの暴風となって吹き荒れる為にその全身に力が漲る。

 

いよいよ最後か、傷付いた怪物が覆せない死を確信しながらも闘争を放棄しないと構える。

 

そして変異した怪物が飛び込もうとしたその時、辺りの空気を裂いて鋭い銃声が鳴った。

 

 

【!】

 

【…なんだ】

 

 

音速を超えて回転も加わったライフルの銃弾が変異した怪物の胸を貫いた、衝撃に波打つ表皮、吹き上がる血飛沫、そしてそこに大勢の人間が踏み入った。

 

 

「しゃあっ、クソエイリアンが、ざまみろっ」

 

「ブライアント捜査官、ターゲットが二体!」

 

「あの目立つデカい方からブッ殺せ!一斉射撃!」

 

「「はっ」」

 

 

麓へと一時退却し、体勢を整えたブライアントのチームが戻ってきたのだ。ブライアント自らが放ったライフルの弾丸の命中を口火とし、号令と共に隊員達がアサルト・ライフルによる一斉射撃を敢行。

 

軽自動車程度ならあっという間にスクラップにして分解する程の破壊エネルギーが変異した怪物を襲った。

 

 

【オオオッ】

 

【くっ…】

 

 

突然の強襲、対応が遅れた変異した怪物は体の前で腕を交差させ頭を下げて腰を落とす防御の姿勢へ、傷付いた怪物は素早く近くの草藪へと飛び込んで回避。

 

銃弾による横殴りの雨が変異した怪物の強靭極まるその体にに叩き付けられた。

 

 

【グオオオッッ】

 

 

怪物のその咆哮は苦悶のようにも怒りのようにも聞こえた、その声までもがより恐ろしげな響きへと変質している、流れ落ちる血の色は真緑から黒ずんだ深緑色へと変わっている。

 

 

「撃ち方止め!」

 

 

土煙が立ち昇る、アサルト・ライフルが弾切れを起こす寸前まで掃射は続いた。一斉に始まった射撃は一斉に止まり、リロードもまた同時に始まり同時に完了。

 

そして土煙が晴れ、バラバラになった怪物の肉片が見える、そういったブライアント達の予想は外れた。

 

 

【……まだこれ程生き残りがいたか…】

 

 

「な、なんだあっ、い、生きてる!」

 

「う、嘘だろ…いくら何でもそれはないだろ」

 

「おいっ、コイツ今までのよりデカいぞ!」

 

「いやよく見ろ、デカいだけじゃねぇ、全身の色も違うし角みたいなのが生えてる!超コエェ!」

 

「チィーッ、完全に不意をついたってのに、クソ頑丈なクソエイリアンが…」

 

 

変異した怪物の最強を自負するその肉体は何とアサルト・ライフルの一斉射撃にさえ耐え抜いた、地球上でそれを受けて生存可能な生命体は存在しない。

 

勿論相当なダメージだが回復能力さえも桁外れの肉体はすぐに失った血と削り取られた肉を目に見える速度で急速に再生させていく。

 

 

「だったらコレはどうだ、おいっ、とっておきだ」

 

「しゃあっ、“対戦車用”ロケット・ランチャー”!」

 

「ヒャハハ!粉々になっちまえ、クソが!」

 

 

ブライアントが命じて部下に取り出させたのは通常の歩兵同士の撃ち合いではまず使用されないような、対戦車や装甲車への攻撃を想定されたロケット・ランチャーだった。

 

鉛色の弾頭が変異した怪物に向けられる、それが直撃すれば変異した怪物の肉体と言えど決して耐えられないだろう。

 

 

【マヌケめ】

 

 

しかし興奮のあまりブライアント達は相手の方が優れた遠距離武器を保有していることを失念していた、隊員がロケット・ランチャーを向ける頃には既にプラズマ・キャノンの照準は定まっている。

 

 

「あ゙っ」

 

「「あ゙っ」」

 

 

【 死 ね 】

 

 

青白い光弾が放たれ、そして大爆発が巻き起こった。

 

 

【なにっ】

 

 

しかしそれはブライアント達からではない、プラズマ・キャノンを放とうとした怪物のすぐ手前、そこに飛来したもう一つのプラズマ・キャノンのエネルギー弾が爆発したのだ。

 

 

「ククク、エイリアンの装備は決まって人類の物よりも上等だが、コレは確かに強力だ」

 

「お前達が気に入るのも理解できる」

 

 

「テメェは… 鬼 龍 !」

 

 

 

ブライアント達とは別の方向、バチバチと虚空に小さな光を照らして光学迷彩を解除し現れたのは、押収したマスクのみならず死体から奪ったプラズマ・キャノンを装着した 鬼 龍 !

 

その鬼龍が怪物のプラズマ・キャノンが放たれるよりも前に阻止すべくエネルギー弾を放ったのだ。

 

 

【まだ居たのか】

 

「早まるな、鬼龍にブライアントもだ」

 

 

そして更に別方向から木々の上より尊鷹が重さを感じさせない軽々とした着地で登場、変異した怪物をブライアントが南、鬼龍が東、尊鷹が西の位置で包囲。

 

宇宙人VS人間、一対多の完全包囲戦の様相。

 

 

「この個体、明らかに様子がおかしい」

 

「油断せず全員で挑むべきだろう」

 

「チィーッ、クソ鬼龍にまた助けられるとは…まぁいい、手傷は十分に与えたが油断はもうしねぇ」

 

「いやちょっと待てよ、コイツ…傷が再生しているぞ」

 

「違うのは大きさと見た目だけではないという訳か」

 

 

【…フン、弱き種族が何人集まろうと全能力を解放した俺には決して勝てんぞ】

 

 

本領を現した怪物、次の挑戦者たる尊鷹らの登場、屍山での最後の戦い、その第二幕が幕を開ける。

 

その奥の草藪で、横臥する憙一の脱力した腕の人差し指がピクリと動いた、戦いが始まったのはそれと同時だった。

 

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